吸血鬼対生き人形アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
塩田多弾砲
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
1.5万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
02/24〜03/03
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●本文
「ブ男が欲しいんだが‥‥」
監督からの言葉に、エージェントは椅子からずり落ちかけた。
「なあ、監督ちゃん。俺の耳がどうかしてないんなら、『ブ男』って聞こえたんだが?」
「そうだよ、ブ男。不細工で醜いが、演技は抜群な奴がちょいと欲しいんだよ」
『ダーク・ラビリンス』その打ち合わせ兼飲み会にて、監督は奇妙な要請をしていた。
「おいおいおいおいおいおい、『ダーク〜』はイケメンが出て、ソレ目当てのOLや腐女子にキャーキャー言って見てもらうような作品だよ? 言うなればホストクラブみたいなもんじゃない。それをさあ、戦う相手としてかもしれないけど、ブ男使うってのは無いだろ〜?」
「無いだろ〜じゃあなくてな、ブ男じゃあないと今度の話は成り立たないんだよ。ああ、もちろんイケメンも欲しいがな。体格も身長もほとんど同じで、顔だけ違う奴。で、片方が超美形で、もう片方が不細工なブ男‥‥だったら理想なんだがな」
「やーれやれ、難しい注文だわねえ。でも、ブ男って‥‥ほんとに必要なわけ?」
「必要なわけ。今回は美男と醜男の二人がいないと始まらない脚本だからな」
言いつつ、監督はビールのジョッキをあおった。
『ダーク・ラビリンス 吸血探偵ファイル セカンドシーズン』
どうにかこうにかといった具合で、番組は続いていた。
吸血鬼探偵・吾妻和弘。彼はその能力を用い、人として、超自然的な事件と戦う探偵である。しかし、起こる事件はそのどれもが、人の情念・怨念・狂気の残り火が感じられ、『最も恐ろしい存在は人間』と思い知らされつつ、吾妻はいつも苦い勝利を得る。
「復讐の大ガラス」の後、数本が製作・オンエアされ、それなりに好評を得ていた。内容もまた、アイデアやストーリーで魅せ、直接的な特撮を用いずに、様々な怪異や超自然の存在を表現したり、といった事も行われていた。
で、今回。監督はストーリー構成の脚本家から、一本の脚本を出された。自分の弟子が書き上げたもの、だという。
「ダーク・ラビリンス セカンドシーズン 第×話『死の生人形』」
『‥‥美形の腹話術士、カズヤ・倉嶋。彼は自分と同じ体格、同じ背丈、しかしその顔はひどく醜い腹話術人形・タロスケを用いての、腹話術ショーで有名だった。とくにカズヤは、その美しさでも人気を得ていた。
カズヤはマスコミにもほとんど出ず、彼自身もマネージャー以外ほとんど人付き合いをしていなかった。『そこがミステリアスで良い』と言う者もいたが。
しかし、カズヤが公演する先々では、どういうわけか人が一人行方不明、もしくは失血死するという事件が起きていた。そして、今回も。
事件捜査の依頼を受けた吾妻は、調べていくうちに事実を突き止める。本当はカズヤが人形で、タロスケこと太郎助の方が人間であったのだ。優れた腹話術を身に付けているが、その顔があまりに醜いためにコンプレックスを抱いていた太郎助は、オカルトにはまり、ある店で一体の美しい人形を入手。
その人形は、人の血肉を糧とする。そうする事で、まるで生きているかのような美しさを与える、との事だった。
内部のからくりを動かすことで、生きているように歩かせたりも出来る。太郎助はこの人形を用い、『術者が人形で、人形が術者』に見えるように演技をした。それが受け、彼は有名に。
しかし、カズヤを維持するためには定期的に一人の人間の血が必要。その腹部に納められた宝石に、人間一人分の血を吸わせなければならないのだ。
カズヤを連れて、マネージャーとともに逃げる太郎助。しかし夜中の廃墟に追い詰めるも、逆にニンニクを突きつけられ、吾妻は屋上に縛り付けられる。
吾妻の押しかけ助手である女子高生、紅山明美の助けで助かった吾妻。あと一時間で夜明けだ。
彼は劇場に太郎助、そしてマネージャーとを追い詰め、戦い、カズヤを愛用のステッキで貫く。宝石を砕かれ、顔が醜く崩れ落ちるカズヤ。
しかし、太郎助もまたカズヤを追い、自らの命を絶つのだった‥‥』
「んで、このクライマックスシーンを撮りたいわけだな。ちょうど時間も予算も提供されて、どんなものかとテストショットを撮ってみてくれ、って言われてな。なんでも、オリジナルビデオ化の企画もあるみたいだから、ちょいとそのプレゼンっていうか、そういうのも兼ねているらしい」
「そりゃまた、随分と贅沢な事で。スポンサーも奮発したねえ」
「ま、ここ最近特撮もの番組が見直されてるからな。ただ、やっぱり予算はたっぷり出せるわけじゃあないっぽいぜ。スポンサーや所属事務所からしたら、出演者たちのプロモーションっつーか、そういう方向で売り出したいらしいんだ」
監督は、更に言葉を続けた。プロデューサーからの話は、スポンサーサイドは美形のイケメンが出ていればそれで良く、あまり特撮には金をかけたくないのが本音のようなのだ。
「だが、手を抜くわけにはいくまい? ともかく、『ダーク・ラビリンス』は特撮ドラマだ。俺にとってはな。だから、テストショットでイカしたクライマックスシーンを撮って、特撮ものっぽい雰囲気を消したがってるスポンサーの奴らをギャフンと言わせたいわけだよ。俺としては」
「あー、それわかるわ。つか、あのスポンサーの担当者知ってるけど、日本特撮を未だにチャチだのバカらしいだの言うような、理解ない奴だったしなー」
「ま、そんなわけでだ。とりあえずはクライマックスのシーンを予行演習的に作って、スポンサーに『どうよこれ、なかなか良いだろ』みたいな感じで見せたいわけだな。必要なのは、吾妻、カズヤと太郎助、それにマネージャー役だな」
「それから、特撮担当の人間も必要だろう。以前と違い、今回はCG使っても良いのか?」
「良い良い。時間もそれなりにある事だし、吊りなどアナログの技術とCGとを両方使い、スポンサーに見せ付けるような画を撮れる奴を希望してるぜ。あと、生き人形カズヤだが、役者のみならず、マペットみたいなのも用いて、無機質な人形として撮る‥‥っつうのも考えてる。そのあたりの演出できる奴も居ると良いな」
エージェントは、監督のその言葉をメモしていた。
「オーケー、整理すると『実際撮るシーンはクライマックスのところのみ』『特撮はCGとアナログ両方用いる』『出演者は吾妻、カズヤと太郎助、マネージャーの四人だけ』『演出や音声などを工夫して面白い画作りを』ってなとこだな」
「そういうこった。で、『カズヤ役とタロスケ役は、背格好がほとんど同じで、演技力はあることが好ましい』『カズヤ役は美形、タロスケはブサイク』だな。ま、特殊メイクか獣化でブサイクな面に‥‥って事になるかもしれんが」
「だねー。最近は、どいつもこいつもかっこいいのが増えてるし、ブサイクなのは希望に添えないっぽいよ?」
「ま、そういうわけで求人の方頼むぜ」
●リプレイ本文
撮影所、会議室。
「監督はん。特撮は目的じゃのうて、手段でええ。『特撮もの』にこだわるから、一般ウケせんのよ?」
造形師、音丸吉花(fa1805)の言葉が、監督の胸にちくりと突き刺さった。
「ぎく。な、何を言うかね。そもそもこういうジャンルでは、特撮こそがドラマの主役。そこを勘違いしては‥‥」
「せやから、そこ勘違いしてるで。嘘と同じで、特撮を受け入れさせるには、シーンにも、カットにも、最大限のリアリティが必要なんよ。フィクションは最小で。映像だけやない、脚本や音響も、できるだけ嘘をつかんようにせんと」
「そ、そりゃあそうだが‥‥」
「で、その世界のリアルを描き出し。それに誠実なもんを作りゃあ、説得力が生まれる。ま、今回はラストのみやから、力押しで行かせてもらいます。けど、プロの監督ならその辺キチっとすべきやありまへんか? でなきゃ、ただの特撮オタクの自己満やで」
チクリと刺さった言葉が、今度はぐっさりと突き刺さったのを実感し、監督はいじいじと壁にのの字を描き始めた。
「その点は監督ちゃんも前向きに善処するとして、みんな、自己紹介お願いできるかな?」
プロデューサーの言葉に、皆が自己紹介を始めた。
「音丸吉花。造形をさせていただきます。よろしゅう」
「鬼道 幻妖斎(fa2903)。美術を担当します」
「あたしは、天深・菜月(fa0369)。雑務と裏方一般を担当します。よろしく!」
「ヴォルフェ(fa0612)です。俺は吾妻和弘役をやらせてもらいます」
「どうも。私はルーファス=アレクセイ(fa1511)。カズヤ・倉嶋役です」
「俺は緋桜冬弥(fa1162)、タロスケ役をやらせてもらう事になった。よろしく」
「マネージャー役のリドル・リドル(fa1472)よ。よろしくね。特撮も役者も初体験だけど、気合だけは十分あるつもりよ!」
「蒼月 真央(fa0611)。マネージャー役のスタントと、裏方のサポートなどを担当します!」
挨拶が終わっても、監督はいじいじしていた。
「うんうん、みんな頼もしいねー‥‥って監督ちゃん、いつまでイジけてんの。」
プロデューサーはそんな事を言いつつ、紅茶の用意をしていた。
「とりあえず、打ち合わせを兼ねてみんなで紅茶飲みましょ。お茶受けはモンブランでいい?」
その単語を聞いた音丸は、耳をピクリとさせた。
「‥‥プロデューサーはん、全身全霊かけて仕事させてもらいまっせ!」
「シーン06・テイク03。アクション!」
『大正時代から残っていたという、和と洋が奇妙に融合した装飾の劇場。天井部分には、天窓が。
その舞台の上で、カズヤとタロスケが腹話術でマネージャーと言葉を交わしている。カズヤがタロスケを抱えて椅子に座っており、傍目にはカズヤが人間で、タロスケが人形のようにしか見えない。
マネージャーは、レースのドレスに人形のアクセをした少女。しかし、どこか大人びた表情と雰囲気。
舞台の上では、大道具として重厚な階段や神殿の柱のようなものがいくつも立っている。また、小道具がごちゃごちゃと置かれている。
カズヤ(二人同時に)「やれやれだ、あんな探偵に尻尾をつかまれるとはな。けど、これでもう安心だ。だろ?」
タロスケ(二人同時に)「ソウダネ、にんにくト日光デ、アイツハモウスグばーべきゅーミタイニ黒こげサ!」
マネージャー「ともかくあなた達、気をつけて? 首を突っ込んでくるでしゃばりは、あの探偵以外にもたくさん居るわ。次は絶対に、ばれないようにしないと‥‥」
声「いいや、次は無いぜ」
カズヤ、マネージャー、タロスケ。全員が扉へと注目。
扉が開き、そこには吾妻が。
吾妻「お前らに次は無い。罪の無い人間を、これ以上犠牲にする‥‥ってわけにゃいかねえんだよ」
三人を見据えつつ、近付いてくる吾妻』
「‥‥カット! よし、次のシーン撮影まで、10分休憩!」
「‥‥ふう」
四人は、一息ついた。三人はほぼそのままの顔だが、緋桜の顔は特殊メイクで、不細工なそれになっている。
「タロスケのメイク、もうちょっと色味が濃い方がよさげだと思うんだが、どうかな?」
「せやな、ちょいと調整するか」
監督とともにカメラ越しの映像を見て、音丸は座らせた緋桜の顔に、色を付け始めた。
彼の端整な顔は、音丸の手によりラテックス製のパーツを張り付けられ、醜く変えられていた。乱杭歯の入れ歯が、醜さを更に増している。
音丸は緋桜の顔を、頬綿に頬紅、ラテックス製の団子鼻、つけまつ毛で、人形っぽいハッキリした顔立ちを確立させた後、更なるラテックス製の顔パーツで顔のバランスを崩していた。そうする事で、醜さを表現しようと目論んだのだ。
「正直、現場メイクは苦手なんやけどな‥‥よっしゃ、こんなもんでどうやろ?」
更に、ルーファスは、ボイスチェンジャーと音声加工によって声を緋桜と重ねて発声する‥‥という事を行っていた。これで、緋桜の声と被せ、あたかもカズヤとタロスケは腹話術で喋っている‥‥と感じさせる寸法だ。
鬼道が整えた、劇場内の様子。以前に別の作品で使用したセットを見つけ、それらも流用し、用意した小道具などと組み合わせたのだった。セットとは思えぬ、なかなか重厚な劇場がそこには広がっている。
「買出し、行ってきました!」
「よし。喉渇いた奴いたら、飲んでもいいぞ。だが、口を湿らせる程度にしといてくれ」
蒼月と天深が買出しから戻り、小さなペットボトルのミネラルウォーターが配られる。埃っぽいスタジオの中、いがらっぽくなった口の中を、皆は彼女達が購入してきた水ですすぎ、乾いた喉に水分を補給した。
「シーン08 テイク09 アクション!」
『カズヤたちに迫る、吾妻。
吾妻「全く、驚いたぜ。まさか醜い人形が人間で、ハンサムイケメンな腹話術師の方が人形だったとはな。だから魔物にしか効かない護符が、そっちの奴に効かなかったわけだ」
タロスケ(太郎助のみ)「‥‥ああ、そうさ。僕は醜いよ。だが、お前に僕の気持ちがわかるのか? わかってたまるか!」
マネージャー「そうよ。あなたも、誰も彼も、タロスケとカズヤの何が分かるというの! みんな死んでしまえばいいんだわ!」
吾妻「お前らに、どういう辛い過去があったかは知らん。だが、それは女の子を殺していい理由にはならねえよ。人形に血を採られた女の子は、お前のファンの子だろうが!」
タロスケ、カズヤを動かす。
カズヤ(二人同時に)「ああ、確かに彼女は私のファンだった。なのに、相棒のタロスケが本体で、私が人形だと知ったら、とたんに嫌悪を丸出しにした顔になったのさ。私の相棒を貶す者は、誰であろうと許せない。だから飲んでやったんだよ。あの無礼者の血をね」
タロスケ(二人同時に)「(人形を装い)イイ気分ダッタヨナ。アイツ、『たろすけモカワイイ〜』トカ言ッテタクセニ、本当ハソンナ気持チナンカ全ク無カッタンダヨ。僕ヲ見下ス物トシテシカ見テナカッタノサ」
マネージャー、ナイフを取り出す。
マネージャー「あんな女、死んで当然だわ。誰であろうと、私のタロスケとカズヤを傷つける奴は生かしておかない!」
舞台の奥へと逃げる三人。そのまま、階段を登る。
吾妻「待てっ!」
吾妻、それを追って舞台に上る。しかし、柱が倒れてくる。
間一髪で、それをかわす吾妻‥‥』
「カット!」
吾妻=ヴォルフェの居た辺りに、柱が倒れている。そのすぐ横に、ヴォルフェは倒れていた。
「大丈夫か!?」
「‥‥ああ、問題ないよ」
何事も無いように立ち上がった彼は、埃をはたいた。
柱はハリボテとはいえ、かなりの重量がある。それがいくつも倒れてきたのだ。いくらスタントが専門とはいえ、監督や皆はやはり心配していた。
「‥‥タフだな、彼は。きっと将来は、もっとすごい作品に出て、ひとかどの人物になるだろうよ」
ヴォルフェを、狼獣人のスタントマンを見つつ、監督は密かに彼を称賛した。
「シーン20 テイク03 アクション!」
『劇場の屋根裏まで、階段で登る三人。カズヤは、タロスケに支えられている。
吾妻、その様子を倒れた柱から見る。
吾妻「待てっ!‥‥くそっ、もうじき夜明けか。急がないと!」
吾妻、背中から蝙蝠の翼を伸ばす。そのまま羽ばたき、先刻の階段へと飛翔する。
その様子を見て、驚愕する三人』
天深は、吾妻の衣装を着て半獣化していた。このシーンは、蝙蝠獣人である彼女が獣化し、自前の翼を用いて飛翔することになっていた。「ダーク・ラビリンス」の放送やビデオなどを見て、彼女は彼女なりに演じようと努力していた。
それが実を結び、スタント女優としても羽ばたけるように、彼女は背の翼を羽ばたかせた。
『吾妻、屋根裏へとつづく通路に降り立つ。そのすぐ横を、マネージャーが投げた手裏剣が突き刺さる。
マネージャー「来るな!」
だが、今までタロスケに支えてもらっていたカズヤ。自分が生きているかのように立ち上がる。
タロスケ(タロスケのみ)「カズヤ?」
カズヤ(カズヤのみ)「タロスケ、マネージャー。後は私に任せてくれ。私は君たちに守られてきた。次は私が君たちを守る番だ」
人間のように、しっかりとした足取りで自立し、歩んでいる。
マネージャーと入れ替わりになり、吾妻の前に立つカズヤ。その口調は、腹話術でタロスケによって喋っているのとは異なり、まるで地獄から響くかのような声になっている。
カズヤ(カズヤのみ)「‥‥覚悟ハイイナ、吸血鬼! スグ地獄ニ送ッテヤル!」
吾妻、手にしたステッキをしっかりと握り締め、それを見据える‥‥!』
「カット!」
屋根裏に続く場所にて。造形物のカズヤがスタンバっていた。音丸が製作した、カズヤのマペットである。さすがに本物そっくりというわけではないが、この時間と予算では最高のものを作ってくれた‥‥と、監督は確信していた。
ラストシーンに使うものだが、その効果を発揮するのは、ここからの一連の場面にかかっている。
「シーン35 テイク15 アクション!」
『カズヤが迫る。その顔は美しいままだが、人間ではない怪異の雰囲気をかもし出している。両腕を伸ばし、つかみかかる。
それをステッキで受け止め、弾く吾妻。
左手で、護符を取り出す吾妻。しかし、カズヤの腕がスライドして長く伸び、抜き手を放つ。
それをかわした吾妻だが、カズヤ、右腕を同様に伸ばし、護符を叩き落す。そのまま、舞台の下へと落ちていく護符。
吾妻「しまった!」
カズヤ、服を引き裂き胴体部を露に。そこには、タロスケもかくやの醜い巨大な顔の彫刻が。
その口部分には、怪しい宝石が。
吾妻「それがお前の、本当の顔ってわけかよ」
タロスケ(タロスケ)「いいぞカズヤ、そのまま殺して、血を取ってやれ!」
マネージャー「探偵、この秘密を知ったからには、お前も死ね!」
そのまま組み付いて、両手で吾妻の首を締め付けるカズヤ。吾妻、苦しそうにあえぐ。
カズヤ(カズヤのみ)「大事ナたろすけト私タチノ秘密ヲ暴ク奴ハ、殺シテヤル!」
吾妻、苦しげにうめく。勝利を確信する三人。カズヤのすぐ後ろに、タロスケとマネージャーも近付き、吾妻の苦しむ顔を覗き込む。哄笑する三人。
吾妻、ステッキの仕掛けを動かし、先端を鋭い杭とする。そのままカズヤの胴体の宝石に、杭を突き刺す。
カズヤ、悲鳴を上げる。驚愕するタロスケとマネージャー。
宝石が砕け、カズヤ、腕を振り回してマネージャーをつかむ。足を踏み外し、そのまま舞台へと落下する二人。
マネージャー「カズヤ! タロスケ、助けて! いやぁぁぁっ!」
舞台に落ち、ばらばらになるカズヤ。マネージャーも、手を伸ばして助けを求めつつ、舞台にたたきつけられる。
マネージャー「そ、そんな‥‥カズヤ、タロ‥‥スケ‥‥」
血だまりの中、事切れるマネージャー。
カズヤ「私が‥‥死ぬ‥‥‥違ウ‥‥私は‥‥壊レ‥ル‥‥助け‥‥て‥タロ‥す‥‥」
動かなくなるカズヤ。
息を整える吾妻。
タロスケ「‥‥お前の、所為だ‥‥お前みたいな奴がいるから、僕はこんな顔に!‥‥カズヤは、カズヤはどこ?」
錯乱した口調になり、舞台下のカズヤを見つけ、飛び降りるタロスケ。
吾妻「ま、まてっ!」
しかし時既に遅く、顔から先に落下するタロスケ。
顔が潰れた状態で、タロスケ、カズヤの脇に。血だまりの中、二人の死体と壊れた人形を見つめる吾妻。
吾妻「‥‥誰が悪いんだ? 人形か、マネージャーか、あいつ自身か? それとも、あいつを笑いものにした、周囲の奴ら? 何があいつを、あんなふうにしたっていうんだ?‥‥」
苦々しい表情の吾妻。
天窓から、うっすらと朝日が入り、スポットライトのようにカズヤたちを照らし出す‥‥』
「カット!」
撮影終了の声がかかり、パチパチと拍手が沸きあがった。
「お疲れ! マオちゃん、スタント良かったよ。体格違うからどうかと思ったけど、中々いいぜ!」
血だまりに倒れているマネージャー‥‥蒼月を、監督は賞賛した。飛び降りるシーンでは、リドルでなく蒼月が吹替えたのだ。一瞬の落ちっぷりだが、それでも監督はヴォルフェ同様に、彼女の中に光るものを見出した。
「はい! 監督、お疲れ様でした!」
蒼月の言葉に、皆は充実した疲労と手ごたえを感じていた。
かくして、テストショットは完成し、先方へと提出された。
事務所や局の担当者は感心し、特撮の予算は増えたが‥‥。
「なあ、俺の作品ってオタの自己満じゃあないよな?よな?」
酒の席で監督の泣き言が増えた事は、また別の話だったりする。