地下に蠢く影アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 塩田多弾砲
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/25〜03/01

●本文

 それは、当初は単なる噂でしかなかった。
「地下に住む、謎の生物。その正体は何か!?」
 それはあくまで噂であり、誰もそれを本気にする者など居なかった。
 少なくとも、表向きは。

 とある数人のホームレスたち。彼らは廃線となった地下鉄の構内をねぐらとして、ささやかな生活を営んでいた。
 が、ある日。彼らの飼っている一匹の犬が、突然うなり、吼え始めたのだ。捨てられていたセントバーナードのそれは、穏やかな性格で、誰かに噛み付いたことすらない犬だった。
 が、その時は明らかに様子が変だった。怒っているのかと思い、飼い主はなだめようとした。
 犬は落ち着くどころか、ますますほえ続ける。まるでそれは、怒っているのでなく、何かに警戒するかのように。犬の視線は、構内の奥の方へと続いていた。電灯が付いていない、暗闇に包まれた地下鉄。レールが敷かれているが、既に電気は通っておらず、少し進めば行き止まりになる。
 なんでも、拡張工事をする予定だったのだが、掘り進んだところで洞窟にぶちあたってしまったのだ。
 そのため、工事は一時中断。学者が調べたところ、はっきりした事は分からずじまいだった。というか、詳しく調べる前に地震が起きて落盤が発生。何人もの死傷者を出し、洞窟も埋まってしまった。
 そして、その地下鉄の駅もまた、区画整理で無くなってしまった。もとから利用者の数も少なく、地上を走る電車の駅も近い事から、多くがそちらを利用していた。
 ゆえに、その地下鉄駅は閉鎖され、現在に至っていた。

 犬が吼えていたのは、その洞窟がある方向からだった。落盤が起きて埋まったものの、今から数日前に起きた地震でそのあたりが崩れた‥‥という事は知っていた。もっとも、興味も湧かないために放置していたのだが。
 犬は、そちらに向かって吼え続けていた。あたかも、そこに何かがあるかのように。犬がそちらへ走っていき、ホームレスたちもまた愛犬を追ってそちらへと向かっていった。一人を残し。
 そして、彼らはそのまま戻ってこなかった。ただ、悲鳴が聞こえたため、残った一人は驚き目を見開いた。明らかに、犬と仲間は何かに襲われたのだ。
 続けて聞こえるのは、何かの動物のような声。犬ではない、何かの獣のうなり声のようなそれ。
 耐え難い恐怖を感じたホームレスは、そのまま逃走した。地上に出て警察に事情を話すも、彼らは笑って相手にしなかった。が、ホームレスは二度と地下に潜ることはなかった。
 しかし、ホームレスはこの話を地上で事あるごとに口にしていた。そこから、やがてインターネットの都市伝説サイトなどで、新たな噂が流れることに。
 すなわち、「地下に住む謎の生物」。

 さて、それから数年。
 朝のローカルニュース番組に、「都会の秘密、さがし隊」という十分程度のコーナーがある。要は、都市にもまだまだ知られていない場所や物がある。その様な場所を、探検家よろしくレポーターが取材する‥‥といったものだ。
 探検家のコスチュームに身を包んだ女性レポーターは、毎回いろんな場所に‥‥マニア向けの濃い店、放置されている廃墟、巨大建造物の工事現場など、普通の人間は行く機会が無い場所に赴き、レポートしていった。
 そして今回、このコーナーは「廃線の地下鉄構内」をレポートする事となった。
 地下鉄南北線、斬恵駅。レポーターとカメラマンを含む数名のスタッフは、当局より許可をもらい、封じられていた地下鉄構内へと入っていった。

 中は、確かに薄気味が悪かったが、やがて彼女達は期待を裏切られることとなった。斬恵駅の構内はまったく何も無かったのだ。
 電気は止まっており、夜間撮影用の照明機材で明かりを確保した。光に照らし出されたのは、何の変哲も無いただの地下鉄構内。1時間もすれば全て調べ終わってしまった。
「もう少し、奥のほう行こうか?」
 その提案をうけ、彼女は線路に降り立ち、奥へと進んでいった。
 ライトを線路の奥の方へと当てる。照明は、突き当たりの行き止まりの部分も露にした。
 そこには、穴が開いていた。大きな穴が穿たれており、さらに闇が中に広がっている。照明をもう少し近づけて、内部を詳しく見ようとしたその時。
 ライトが、消えた。
「おい、どうした!」
「スイマセン、バッテリーあがっちまいました!」
 非常用の懐中電灯で照らしつつ、あらたなバッテリーを取り出そうとしたが。
「?」
 そこにいる全員が、気配を感じた。
 嫌な気配だった。レポーター含め、その場に居るスタッフ全員が獣化していないに関わらず、全員がその気配を感じていた。それは実に嫌な気配、命に関わるような危険を感じさせた。。
「‥‥何? あそこにいるのって何よ!?」
 その問いには答えられないが、はっきりしているのは一つ。それは、このままここにいると全員が死ぬ。あそこにいる何かの手によって。
 
 後になって考えたら、その時に予感に従い逃げ出したのは正解だったのだろう。
 地上に出て扉を閉めた、しんがりにいたスタッフ。彼は自分の後ろのほうから、確かに何かが迫ってきたと言っていた。

 そして、局でそのVTRをチェックしていた時。
 ちょうど、あの穿たれた穴のあったあたりの映像。そこに、編集スタッフは奇妙な物を見つけた。
 一見すると、ただの闇。しかし、静止画像にしてよくよく見ると、うすぼんやりした、何かの影があった。暗すぎて、細かい点は判然としない。が、ただ一つ確実に言えるのは、その「影」の主は人でも、獣でも、獣人でも無い事。
 その影は明らかに、腕らしき物を四本、それも昆虫めいた腕を生やしていた。

「‥‥WEAに連絡すべきだな、こりゃ」
 編集スタッフは、レポーターと参加したスタッフにその旨を連絡した。番組の方は別コーナーと差し替えることとなり、この件は別の者たちが担当する運びになった。

「‥‥以上が、今回の事件だ」
 WEA担当員が、言い終わった。
「その、噂の元を言いふらした原因と思われるホームレスだが、突き止めたと思ったら既に死亡していた。地下鉄の駅の管理者も、『斬恵駅は封鎖しており、少なくとも正規の職員は近付くことは無い』との事だ。つまりあそこには、誰も居ないし近付かない。まともな奴だったらな」
 では、地上から誰かが入り込んだのでは?
「それも考えたが、ホームレスが入り込んだってとこから、後になって頑丈な扉とバリケードをつけるようになってな。少なくともここ3〜4年は、中には入った者は居ないはずだ。件の番組のレポーターとスタッフ以外にはな。
 ともかく、これでわかったはずだ。お前さんたちにやってほしいのは、斬恵駅構内に入り込んで、中に何が居るのかを確認する事。そして、そいつが‥‥ほぼ間違いないだろうが、そいつが『N・W』だったら、仕留めることだ」
 わざとイニシャルで答えた担当官は、忌々しそうにかぶりをふった。

●今回の参加者

 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa0441 篠田裕貴(29歳・♂・竜)
 fa0443 鳥羽京一郎(27歳・♂・狼)
 fa0523 匂宮 霙(21歳・♀・蛇)
 fa1718 緑川メグミ(24歳・♀・小鳥)
 fa1886 ディンゴ・ドラッヘン(40歳・♂・竜)
 fa2429 ザジ・ザ・レティクル(13歳・♀・鴉)
 fa2953 坂本清治(35歳・♂・虎)

●リプレイ本文

 地下鉄南北線、斬恵駅。
 固く施錠された扉を、今まさに開ける者たちがいた。
 WEAから派遣された、獣人たち。彼らのその眼は、獲物を狙う獣のそれになっていた。
「‥‥臭うね」
「ほんと、かび臭いわね。ナイトウォーカー以前に、この臭いだけはどうにかならないかしら」
 MAKOTO(fa0295)と緑川メグミ(fa1718)は、内部から漂ってくる重苦しい臭気にむせ返った。一度開けてスタッフが中に入ったというのに、内部に潜む『におい』は全く消える事なく存在している。
「確かに臭いますね。血に飢えた者の気配が匂ってきます」
 ディンゴ・ドラッヘン(fa1886)が、拳を握り締めた。彼が向けた視線の先には、ねっとりした闇が広がっている。何が潜んでいてもおかしくはない、黒く重苦しい闇だ。
 懐中電灯を照らしつつ、篠田裕貴(fa0441)と鳥羽京一郎(fa0443)が闇へと踏み込む。
 MAKOTO、メグミ、ディンゴと続き、匂宮 霙(fa0523)、ザジ・ザ・レティクル(fa2429)、坂本清治(fa2953)が、廃線と化した地下鉄構内へ入り込んでいった。さながら、魔王が潜む地下迷宮に入り込む、ファンタジー世界の冒険者達のように。
 その様子を見つつ、坂本は数時間前の出来事を思い出していた。

「つまるところ、お前さんたちも『気配』を感じただけで、気配の元は何なのかを確認しちゃあいなかったんだな?」
 坂本の質問に、レポーターたちはうなずいた。彼は事前に、『影』と遭遇したスタッフより情報収集していたのだ。
 もっとも、収集するほどの情報は得られなかったのだが。
「ええ、何かの気配を感じましたが‥‥それはもう、敵意というか、悪意も同じように感じたんです」
「俺は、肌の感覚で誰かの気配を知る特技を持ってます。獣化しなくても、暗闇の中に迷い込んだ猫を見つけたりしました。けど、今回感じた気配は猫なんかじゃあなかった。もっと邪悪な、何か近付いちゃいけないような、そんな感じでしたよ」
 レポーターとスタッフの一人の口調は、真剣そのものだ。
「なあ、お前さんの勘違い‥‥って事はねえのか? ひょっとしたら、邪悪なって感じただけで、実際は迷い込んだ野良の犬か猫‥‥って事は」
「いや、それは無いッスよ。もしも犬だったら、あんな足音はしません」
「足音?」
 カメラマンは、自分の言葉を証明するかのように、その時の映像を見せた。そのテープの音声には、微かだが響いていた。
 ガツッという、固い爪を床に食い込ませるような音が。
 そして、映像を一時停止したところ、ぼんやりとして淡く、薄く、言われなければ分からないほど小さくはあったが、そこには確かに映っていた。暗闇よりもなお暗い、邪悪そのものをシルエットにしたような影が。

「‥‥よし、見取り図通りだね。打ち合わせどおり、ホールで迎え撃とう」
 ザジは周囲を用心深く見回し、手近の柱の影に隠れた。地上への退路に一番近い場所だ。廊下を挟み、緑川は倒れたロッカーの影に隠れた。
 地上へと続く階段からは、廊下が長く通っている。その先にエレベーターホールがあり、そして改札口がある。
 改札から入ると、更に広場となり、中央部分に下り階段があり、そこを下ると列車が来るホームにたどり着く。
 件のホームレスたちは、その最下層にて生活していたのだ。線路は、今も使われている本線に続く方は地震や落盤で埋もれ、行き来は出来ない。そして、もう片方は数メートルで行き止まりになり、その先に件の穴がある。

 彼女に続き、匂宮は倒れている大きなロッカーの影に、鳥羽はホール脇の小さな売店跡へと隠れる。
 待ち伏せて迎撃する四人、鳥羽、坂本、勾宮、ディンゴの四名は、周囲の物陰にその身を潜めた。
 最後に残った二人。MAKOTOと篠田は、ホームまで降りて、『影』を誘き出す役割。
「じゃ、裕貴。頼むぜ? 俺のもとに、化けモンを誘き出してくれ」
 少々いたずらっぽい口調で彼は篠田に言い、篠田もまたそれにうなずいた。

 全員が、完全に獣化して事にあたっている。唯一、蛇獣人の匂宮のみが、半獣化の状態で事にあたっていた。
 幸いにして、場所は地下。邪魔者は居ない。そのおかげで虎と化した自分の姿を見られる心配はないと、MAKOTOは思っていた。その手には、トカレフが握られている。
 彼女の隣で、竜の姿と化した獣人の篠田も同様の考えにふけっていた。彼の手に持つのは、クリスナイフ。
「どうかしら?」
 小声で、駅のホームへと降り立ったMAKOTO。彼女の声に、篠田は無言で指さした。
 その先には、穴があった。件の洞窟。何かが潜むと思われる、あの洞窟。
 二人とも、今のところは灯りを点してはおらず、獣人としての能力で闇の中を歩いていた。が、二人のその感覚に、反応する何かがあった。
「にしても‥‥なんて臭いだ」
 篠田がうめいた。死臭が、そこには漂っていたのだ。腐りかけた肉の臭い、下水道にも漂うような、腐臭と悪臭が混じった恐るべきにおい、不愉快な死そのものの臭いが、二人の鼻腔を蹂躙した。
「マコト、感じたか?」
「‥‥うん、感じた!」
 篠田が言ったように、そこに、それはいた。それはガッと床を削り、確かにそこに存在した。
 それの息遣い、それのシルエット、それの放つ気配。そいつは恐ろしい不快感とおぞましい違和感、殺意と危険とをブレンドした敵意を周囲に放っている。
 腐臭漂う遺体が放置された墓場ですら、ここより居心地が良い事だろう。
「‥‥!」
 MAKOTOの手にあるトカレフが、そいつに向けられるのも時間の問題だった。

「!」
 銃声。
 そして、心に響く篠田の声。
『京一郎、ビンゴだ! 奴が来るぞ!』
 知友心話の篠田の声は、まさに切羽詰ったそれ。銃声はなおも響き、足音が聞こえてくる。
 篠田とMAKOTO、竜と虎の獣人が出てくると、鳥羽、坂本、勾宮、ディンゴ‥‥それぞれ狼、虎、蛇、竜の獣人は、二人に誘き出された存在が、階段を駆け上ってくるのを待ち構えた。坂本は日本刀を携えていたが、他の三人は丸腰だった。が、それぞれが格闘技をおさめ、必殺の一撃を放つのは容易な事。ましてや獣化した獣人、爪と牙は並みの武器以上の威力を秘めているのは言うまでもない。
「来るぞ‥‥‥来るぞ‥‥来たーッ!」
 爪を立てて出てきたそれは、巨大な甲殻類めいた脚と、殺戮に役立つこと間違いなしの牙と爪を持つ、残酷にして凶悪な外観。
 頭部の常軌を逸した怪しい輝きが、暗闇の中に絶望をもたらさんと煌くのをその場にいる全ての者が見た。
 昆虫めいたおぞましい声が、そいつから響く。
 ナイトウォーカー、夜歩くもの。
 そいつは再び吼えた。吼えながら、そいつは空間そのものを蹂躙し陵辱するかのように、せわしく脚を動かし、死の一歩を踏み出した。

 この時点で、ナイトウォーカーはミスを犯していた。
 自分が誘い出された存在を、単なる餌と思ったのか。簡単に誘い出されて、獣人たちが待ち構えたホールへとその身を晒したこと。
 そしてその獣人たちは、十分に武装を整え、ナイトウォーカーに対し準備していたこと。
 ナイトウォーカーは周囲を囲まれ、身動きが取れない状態におちいっていたこと。
 セント・バーナード犬ほどの体躯を持つナイトウォーカーは、自らの身体機能と戦闘能力を過信していたのか。威嚇するかのように脚を広げ、自分を囲んだ獣人の一体に襲い掛かった。
 が、今回の相手は無力な人間でなく、餌として供される獲物ではない。自らと同じか、それ以上の戦闘能力を持つ戦うための生命体である。
 虎獣人の外見と力を現した坂本は、気合一閃、日本刀を煌かせた。
「!」
 無外流居合術により、ナイトウォーカーの脚は一本切断された。痛みに吼える怪物。
 が、勝利を確信したところで、獣人たちもまたミスを犯していた。
「なにぃっ!」
 二刀目の攻撃を放ったが、それは空振りに終わった。怪物は跳躍し、天井に爪を食い込ませたのだ。脚一本を失ってはいるが、それでもあと七本は残っている。その身体を天井から吊り下げ、ぶら下がった状態になるのに困らない。
 爪を食い込ませたまま、ナイトウォーカーは「天井をそのまま走っていった」。
 周囲を囲んでいた獣人たちは、呆気にとられた。そして自分たちがひいた布陣を、突破された事に瞬時に気づいた。
「何て奴! あんな味な真似をするなんて!」
 匂宮の呻きをよそに、天井に爪を食い込ませつつ走るそいつは、明らかに地上、獲物が多くいると分かっている地上へと向かっていた。
 しかし再び、ナイトウォーカーはミスを犯していた。
 今度のミスは、更なる痛恨の極み。地上へと続く道には、更に二人の獣人が待機し、彼女達は火器で武装していた事を知らなかった事。
 ザジとメグミの手にあるそれぞれの火器、ガバメントとM92は、ナイトウォーカーに容赦なく弾丸を浴びせたのだ。
「燃やして、焼き尽くしてやる‥‥ノゾミ・カナエ・タマエ!!」
 ザジがつぶやいた祈りの言葉が効いたのか、怪物の爪、ないしは天井からの保持力は弱まり、床へと落ちた。
 ぶざまなゴキブリのように脚を動かし、ナイトウォーカーは元来た場所へ、地下の暗闇のほうへと向かう。が、そちらには怪物を誘き出した獣人たちと、怪物を討たんと待ち構えた獣人たちがいた。
 白銀の鱗を持つ竜獣人、ディンゴ・ドラッヘン。拳法を極めた彼の拳は岩を砕き、彼の蹴りは大地を割る。怪物に相対しても、その気迫は些かも衰えなかった。
「翻子拳は連打の拳‥‥壮健の密なること雨の如し、脆快なること一掛鞭の如し!」
 鞭のようにしなる両腕の連打が、ナイトウォーカーの牙を砕き、頸を撃つ。もしも怪物に苦悶の声を出せたとしたら、今はまさに苦しんでいたことだろう。
「八極拳は無形・一打・半歩の拳‥‥形無く、一撃で敵を屠り、常に前に出る!」
 踏み込み、震脚と同時に中段に拳を、更に一歩踏み込み、掴んで引き寄せ右手で肘打ちを、さらに両手の掌打を相手の中段に叩き込み、後方へと叩き出す。
 その鮮やかな動きと、怪物を叩きのめしたその情景。もしもこの場で、誰かがディンゴの動きを撮影していたとしたら、アクション映画の監督は撮影テープをひと財産つぎ込んで欲しがった事だろう。実際、それだけの事を行っても惜しくないほどの、華麗で鮮やかな動きだったのだ。
「いかがですかな? 翻子拳と八極拳の威力の程は」
 苦悶めいた吼え声をもって、怪物はそれに答えた。
 が、すでに後ろから、怪物の死刑執行人は近付いていたのだ。
 やけになったように、ナイトウォーカーはディンゴに噛み付こうとするも、それが最後だった。
「あばよ、くそったれ」
 竜獣人の拳でダメージ負ったナイトウォーカーは、虎獣人の剣で致命傷を負ったのだ。
 坂本が振るった日本刀の刺突が、怪物の身体に深く食い込んだ。
「終わりです‥‥」
 ナイトウォーカーのコアに、手刀の突きを見舞ったディンゴは、そのままそれを抉り出した。

「どうやら、何とかなったな」
 怪物を屠った後、獣人たちは灯りを付けつつ、構内を可能な限り徹底的に捜索した。無論、ナイトウォーカーが潜んでいた穴も重点的に。
 が、そこには過去の犠牲者と思われる白骨化した人間の遺体が数人分、そして野良犬や猫のそれが数十体分ある以外、特筆すべきものはなかった。
 唯一、ボロボロになった石版を除いては。
 なぜそこにあるのか、何が描かれているかは分からないが、おそらくナイトウォーカーはそれに潜んでいたのだろう。
「ま、後始末はWEAに頼もうぜ。ああっ、一仕事終えたあとは気分が充実するよなあ」
 大げさに身体を伸ばした鳥羽は、篠田の肩を抱いた。
「お前は俺の友人であり、俺の一番大事なヤツ‥‥だからな。よく労ってやらないとな」
「お、おい。よせよ。皆見てるだろ」
「見せてやろうぜ。俺たちの仲の良さをよ」
 男二人がいちゃいちゃする様子を、女性三人は苦笑いしつつ眺めていた。
「ま、まあ。メグも疲れました。鳥羽さんの言われる通り、WEAを呼んで報告し、一休みしましょう」
 メグミの言葉に、皆が賛同し、うなずいた。

 その後、遺体の処理や、内部の閉鎖なども含め、全てが処理され、事件は解決した。
 斬恵駅。その闇の中に、今は蠢く影はいない。