ヒャクジュウオー!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
外村賊
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/11〜07/15
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●本文
『コワ・ミツケラー』。コワ・エネルギーの素となる恐怖の情報を集める魔獣界の兵器。
黒い四角錐のその物体は、誰かの悲鳴に即座に反応した。
どこかの家の玄関。鎖につながれた飼い犬が、警戒して大きな声で吠え立てている。吼えられた人が、慌てて犬から逃げていく。
チキュウジン ノ コワイモノ ‥‥ イヌ ‥‥
★
武野中央公園に、移動型ドッグセラピーセンター『ワンだふるらんど』がやってきた。
敷地の中で飼いわれている犬と、遊んだり散歩したり出来る、最近流行の施設だ。かわいい小型犬から、かっこいい大型犬まで、いろいろな種類の犬が飼われているらしい。新聞の折り込みチラシや街角のポスターで知らない人は誰もいない。小学校の前では特別割引券が配られて、防衛組の何人かも思い思いに犬たちと楽しいひと時を過ごしてきた子もいる。
だけど数日後。『ワンだふるらんど』は絶命のピンチを迎える。
よく飼いならされていたはずの犬たちが突然暴れだし、お客さんを襲いだしたのだ。
『ワンだふるらんど』だけではない。武野町にいる飼い犬や野良犬たちまでも、急に凶暴化してしまった。
町はたちまちパニックになり、学校も登下校が危険なために臨時休校になってしまった。
いまは警察や保健所が犬たちを捕獲しようと動いているが、彼らに捕まえられた犬たちは、恐らく――殺されてしまうだろう。
しかし、急に凶暴化するなんて話、どう考えてもおかしい。防衛組のみんなは、それぞれブレスの通信で破壊獣が悪さをしているのではないかと話し合うが、探しに行こうにも、外は凶暴な犬で満ち溢れている。せめて教室を司令室に出来れば、破壊獣の居場所が特定できるのだけど‥‥。
どうしたら罪のない犬たちを助ける事が出来るか、防衛組メンバーはそれぞれに頭を悩ませるのだった。
☆★☆★☆★
『獣王武神(じゅうおうむじん) ヒャクジュウオー』第六話・概要
ヒャクジュウオーとは‥‥地球征服をたくらむ魔獣界と、聖獣界の戦士から地球の防衛を託された武野小学校五年一組の戦いを描く、小学生をターゲットにしたロボットアニメーション。戦いを通して正しき心を成長させる子供達にスポットを当てる。
参加希望者は詳細をよく読み、希望届けに記入の上、締め切りまでに届けを出すこと。
☆演技指針☆
聖獣防衛組:犬たちを助けよう
魔獣界:さらなるコワ・エネルギーの採取
★新設定
とくになし
☆専門用語☆
・聖獣:聖獣ブレスに封じられた聖獣界の戦士。正義の心によって具現化し、動物をかたどったロボットになる。心の力が弱ければ弱体化、悪ければ召喚さえ出来ない。子供達はブレスで指示を出し、遠隔操作する。
・司令室:教室が変形。瞬間移動装置など、さまざまな機能があるが、全貌は明らかになっていない。
・聖獣合神:司令室にある宝石を核として、それぞれの聖獣を合体させる。各部分の制御が必要なため、生徒達がコクピットに乗り込む。
それぞれの聖獣が合体後どの身体の部位になるかは、操縦者の意思による。
頭部になった聖獣の操縦者がメインパイロット。その聖獣の能力に準じた強力な必殺技を、一度だけ使える。
・魔獣:聖獣と同じ獣型。この状態ではブレスによる遠隔操作。
・破壊獣:コワ・エネルギーから作られたモンスター。人々を怖がらせてコワ・エネルギーを吸収、徐々に巨大化していく。
・破壊魔獣:魔獣が破壊獣を取り込むことによって人型に変形した姿。聖獣よりも一回り大きく、強力になり、魔獣の必殺に加え、破壊獣の特殊能力が使える。エネルギー制御が必要なため、魔獣界人が実際に搭乗して動かす。
☆希望届け☆
1、希望役(いずれか)
・武野小・五年一組の生徒(前回出演者は同じ役柄が望ましい)
・魔獣界の戦士(同上)
・その他、前回担当脇役など
2、やりたい役柄
・名前
・性別
・外見(簡潔に)
・長所(一言で)
・短所(一言で)
・聖(魔)獣(獣人種族をモデルにしているので、その範囲で決定する事)
・必殺技(一つ)
3、破壊獣
・名前:?
・外見:犬に由来
・特殊能力:犬を操り、凶暴化させる
・弱点:(能力にまつわるもの)
●リプレイ本文
―声の出演―
昴・A・栞(組長)(委員長 猫聖獣ワイルドキャット)‥‥槇島色(fa0868)
大高屋 亮(ガリ勉 ユニコーン聖獣モノケロス)‥‥藤拓人(fa3354)
飯田 公恵(物静か 大熊猫聖獣アイニー)‥‥笹木 詠子(fa0921)
羽田 涼子(活発 鷹聖獣バーニング・ホーク)‥‥RASEN(fa0932)
獅堂 吼(熱血 獅子聖獣ブラスト・リオン)‥‥谷津・薫(fa0924)
姫野木 静夜(姫)(泣き虫 ハムスター聖獣シャンガリア)‥‥カナン 澪野(fa3319)
三雲 姫香(ミクロ)(噂好き 蝙蝠聖獣ルナティック・バット)‥‥ASAGI(fa0377)
ペギリーフ(自称天才策略家 小鳥魔獣オキノダユウ)‥‥各務 英流(fa3345)
★
栞が司令室へ飛び込むと、中央スクリーンのコンソールの前に公恵と涼子、亮がいた。開口一番、栞は叫ぶ。
「あの馬鹿は!?」
「吼君は‥‥いま二丁目の辺り。姫君と合流したみたいだから、ミクロちゃんに迎えに行ってもらってるの」
レーダーを眺めながら、公恵が答える。吼と姫の居場所を知らせる緑の光を、栞は苦々しげに眺めた。
「全く、こういう時の単独行動は危険だと言う事が分からんのか」
「大丈夫なの、組長は?」
亮が心配しているのは、栞が飼っている子犬が犬の暴走事件とともに姿を消してしまった事だった。皆で最初に連絡を取り合ったとき、栞がそれを告げると、吼は教室に集合しようと言うみんなの意見を無視して栞の犬、カエサルを探しに行ってしまったのだ。
みんなでワンだふるランドに行った帰りに拾った犬で、飼い出してからも栞がとてもかわいがっていた事を、みんなが知っている。
心配でないはずはない。しかし毅然と栞は言い切った。
「無論だ。心配ない」
「そうよ! ぱぱっと破壊獣を倒したら戻ってくるものね!」
ポニーテールを揺らし、涼子がガッツポーズをする。確かにその通りだが、今回ばかりはそれが問題だった。
破壊獣を示す赤い光――それが町全体に幾つも点滅している。少なく見てもざっと五十ぐらいはある。
「それぞれから、何か超音波みたいな物が出ているみたいなんだけど‥‥ミクロちゃんや涼子ちゃんの飛行型聖獣で見てもらったんだけど、破壊獣らしいものは見つからないの」
『公恵ちゃん、こちら姫香でーす! 吼クンたち見つけたから迎えに行くねー!』
コンソールのモニターに、髪をなびかせるミクロの顔が映る。ルナティック・バットに乗って飛んで移動しているのだ。レーダーを確認する公恵の表情が少しだけ曇った。
「わかった‥‥ん、待って‥‥吼君達のすぐそばに、破壊獣の反応があるわ」
『じゃ、ついでに怪しいのがいないか探してみるよ。そっちにもルナちゃんの映像送るね!』
モニターがミクロのブレスからルナティック・バットのカメラに切り替わる。吼と姫が犬たちに囲まれているのが見える。吼が木の棒を振り回し、姫がなにかのスプレーを犬に吹きかける。今にも飛びかかろうとしていた犬たちが、悲鳴を上げて飛びのいた。
その隙に、ルナティック・バットは高度を下げ、二人に近づく。
『吼クン、姫! 迎えに来たよ! 早く司令室に‥‥』
「カエサルがいるんだ!」
ミクロの言葉を遮って、吼は叫んだ。ミクロも吼が指を指す先へとカメラを操作し、犬の群れの中に一匹の子犬を見つける。
「カエサル!」
思わず栞はモニターに駆け寄った。画面の中のカエサルは、大きな犬の中で脅える事も鳴く、まっすぐこちらを見上げている。
「‥‥あれ、これって‥‥」
モニターとレーダーを見合わせていた亮が何かを言いかけ、しかし、口をつぐんだ。
その時カエサルが、ひときわ高い声で、鳴いた。
その声は大きいと言うわけでもないのに、周囲に良く響き渡る。
呼応するかのようにあちこちで同じような遠吠えが聞こえてきて、周囲は遠吠えの渦に包まれる。
破壊獣が出す超音波を計っていたグラフが、その声とともに一気に高くなった。
「レーダーの破壊獣反応がカエサルの所に集まってくる‥‥」
「そんな‥‥!」
「うろたえるな!」
栞は騒然となったみんなを一喝した。
「獣王転移だ」
「何‥‥なんなの‥‥?」
姫はカエサルのただならぬ雰囲気に押され、たじろいだ。吼も何が起きたのか分からないでいる。そこに、司令室のメンバーがワープしてきた。
「気をつけろ‥‥カエサルは、破壊獣だ」
「何だって!?」
栞の言葉に、吼は耳を疑った。
「破壊獣の反応を‥‥ミクロちゃんのカメラで確認したわ」
静かに公恵が告げる。
「そんな‥‥嘘だよ‥‥!」
姫が今にも泣きそうな顔で栞にすがりついた。栞は強く唇をかんでいた。
しかしみんなのそんな思いをあざ笑うかのように、カエサルの周囲を黒い光が包む。魔獣界の力が現れる時に出る光だ。道と言う道から同じような光を宿した子犬たちが次々に現れて、カエサルの所へと集まり、積み重なって融合していく。
『ウォーオオン!!』
声を上げた子犬の破壊獣たちは、一つの巨大な狛犬の姿になっていた。
嘘には、ならないのだ。
「‥‥戦うぞ」
栞は呟くように言い、ブレスを構える。みんなもそれぞれの聖獣を召喚しようとする。
しかし。
ぎらぎらと目を光らせた犬達が、みんなの周りを取り囲んでいた。最初のときの軽く三倍は、いつの間にか増えている。聖獣を呼んだら、この犬達の何匹かは確実に下敷きになってしまうだろう。
「そだ‥‥ルナちゃんの超音波で打ち消せないかな‥‥」
ミクロは犬にダメージを与えないために出力を調整して、ルナティック・バットはハウリング・エコーを放つ。しかし、犬達が正気に戻る気配はない。
『ふっふっふ、恐怖を十分に吸い、強くなったワンダフルキングに、そんなへなちょこ音波が通じるものか!』
バーニング・ホークやルナティック・バットよりも高い位置から、甲高い笑い声が降ってきた。小鳥魔獣オキノダユウの上に乗った、魔獣界の策略家ペギリーフだ。
『牙を向けられてなお、日ごろオトモダチなどと嘯くモノをかばって動けぬとは、なんとマヌケ! よし、今の内にギッタンギッタンにしてやるのである!!』
ペギリーフは勢い良く手を挙げ、破壊獣に命令を下す。ワンダフルキングはゆっくりと前足を上げた。このままみんなを踏み潰すつもりだ。近くにいる犬達も当然、巻き込まれてしまう。
「‥‥カエサル‥‥」
栞は、ワンダフルキングの動きを睨みつけたまま、じっと立ち尽くしていた。
――私の躾は厳しいが、それでもいいか?――
カエサルは賢かった。朝五時起床の昴家の家風にもすぐ馴染み、日課の座禅はお座りでこなし、ジョギングには鎖をしなくともちゃんと付いてきた。お手、待て、伏せなどの基本的なことは何度か繰り返せばちゃんと覚えた。
先月死んでしまった前の犬の事を思い出して少し落ち込んでいた時、指を懸命になめて慰めてくれた。
――カエサル、お前は立派な犬になるぞ――
遊びに来たみんなの前でちゃんと芸が出来た時、そういって抱きしめた事を思い出した。
そうやってほめてやると、いつも自慢げにつんと胸を張るような仕草をする癖があった。
ワンダフルキングの足は、あと数メートルのところまで迫ってきていた。取り巻く犬達は動かない。みんなは逃げることも出来ないのだ。
「‥‥できるものか‥‥」
栞は視界いっぱいに広がる足を見上げたまま、声を震わせた。
「‥‥お前にそんなことが出来るものか、カエサルっ!!」
こらえられない感情が叫びとなってほとばしる。すると、ビクリ、と震えて、ワンダフルキングの動きが止まった。
その姿勢のまま、何かをこらえるように低くうめき始める。公恵が不安げにその様子を見やる。
「苦しんで‥‥るの?」
『ワンダフルキング! どうしたのであるか! とっととチビガキどもをツブすのである!!』
ペギリーフの叱咤も、破壊獣には効果がないようだ。黒い光が額の辺りでスパークをはじめ、とうとうワンダフルキングはその場にうずくまった。スパークは次第に激しくなり、ぱん、と大きな音を立てて破裂した。そこから、何かが飛び出たのが見えた。
「カエサルだ!」
「組長の声が届いたのよ!」
カエサルはワンダフルキングから離れ、地上にまっ逆さまに落ちていく。ワンダフルキングの方は無理な分離の衝撃からか苦しげに鳴いて頭を気にしている。
「ミクロちゃん、今なら超音波も打ち消せるかもしれない!」
「わかった、やってみる!」
亮の声に、再びルナティック・バットはハウリング・エコーを放つ。と、今にも噛みつかんばかりの勢いで迫っていた犬達は、途端に騒然となって、ほとんどは巨大な破壊獣に恐れをなし、蜘蛛の子を散らすように逃げ去ってしまった。
「やったぁ、大成功〜♪」
涼子はすぐさまバーニング・ホークを動かした。急降下して地面すれすれを飛び、地面に激突しそうになっていたカエサルを抜群の運動神経でキャッチする。そのまま着地したバーニング・ホークに、栞はすぐさま駆け寄った。
「カエサル‥‥!」
涼子は静かにカエサルを差し出した。無理に離脱したダメージはカエサルにも届いているらしい。力なく、ぐったりとしているが栞を見るや、嬉しそうに尻尾を振った。
「ああ、お前は良くやったよ‥‥」
栞は優しくカエサルの頭をなぜ、そして、毅然と顔を上げた。そこには、苦しむ破壊獣の姿があった。
「弱いものを盾にして戦うなど‥‥てめぇのやり口には頭にきた。落とし前つけてもらおうか!」
みんながその場に集まった。円陣を組み、ブレスのはまった手を重ね合わせる。
「聖獣合神!!」
みんなのブレスから放たれた光が、司令室に浮かぶ宝石を呼び出す。宝石の光に包まれ、聖獣たちが変形し、一つの姿に組み合わされていく。
ワイルドキャットを頭部に据えたロボは、胸の空洞に宝石が組み込まれ、命を得たように、瞳を輝かせた。
「行くぞ、ヒャクジュウオー!」
カエサルを胸に抱いたまま、栞は腕を前に突き出す。全く同じ動きでヒャクジュウオーが腕を出すと、地響きとともに地面が割れ、中からヒャクジュウオーの身長よりも長い、大剣がぬっと姿を現した。ヒャクジュウオーは両手で力強くそれを握り締め、腰溜めに構えたまま走り出す。
『必殺――』
破壊獣を目前にして、ヒャクジュウオーは深く屈みこむ。破壊獣の真下から、真っ二つ、天に昇れと斬り上げる!
『百獣戴天剣・昇 天 斬!!!』
二つに切り裂かれた破壊獣は、そのまま爆発し、消滅した。爆発に巻き込まれ、ペギリーフも撤退を余儀なくされる。
「おのれガキどもっ、次こそは〜っ!!」
『獣王武神 ヒャクジュウオー!!!』
天にも轟けとばかりに、ヒャクジュウオーは高らかに名乗りを上げた。
★
騒がしかった犬の声がなくなり、武野町はまたいつもの落ち着きを取り戻した。聖獣たちが光となって還った後、防衛組は道の真ん中で立ち尽くしていた。
「カエサル、今病院に‥‥」
「組長」
亮が肩に手をやって栞を留める。ぐったりとしたカエサルは、足元からゆっくり透け始めていた。恐らく、子犬状態単体だけでは生き残れないのだろう。
カエサルは、抱いてくれている栞を見つめ、ゆっくりと尻尾を振った。栞は出来るだけ優しく、カエサルの頭をなぜてやった。
「お前は、私の思ったとおりの犬だった。さすが、私のカエサルだ‥‥」
カエサルは顔を上げ、胸を張るような仕草をした。そしてそのまま、穏やかな武野町の夕暮れの空気に溶けて、消えた。
「ううっ‥‥」
姫が鼻をすすり上げた。
「泣くなよ‥‥」
吼も口ではそう言うが、目に涙を浮かべている。他のみんなも、涙は見せないながらもやりきれない気持ちに顔が沈んでいる。涼子がぱっと明るい声で笑った。
「出会いにはいつか別れがつきものじゃない! 要はその間にどれだけの思い出を作れるかって事じゃないか、てあたしは思うよ」
「そうさ、カエサルだって、きっと天国で出迎えてくれるよ‥‥」
穏やかに亮が言う。栞は顔を沈めたまま、ただ黙ってみんなの言葉を聞いていた。何か言えば、一緒に涙が溢れてしまいそうだった。
カエサルの温かみが消えていく掌を、ぎゅっと、栞は握り締める。
そこには、黒い、小さな三角錐が残されていた。
防衛組はまだ知らない存在だが――それは、魔獣界の、コワ・ミツケラーであった。