ヒャクジュウオ−!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
外村賊
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/13〜09/17
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●本文
武野町の外れにひっそりと建つ、廃ビル。
外れかけたドアを潜れば、そこは闇の世界に繋がっている。
この宇宙を恐怖の力で支配する魔獣界――その悪しき戦士たちが集う、アーク城だ。
それは地響きに聞こえた。低く、低く、足元から湧き上がってくるような。微弱だが、聞く者に緊張と恐怖とを、確実に植えつける。
「見よ‥‥」
戦士の一人が、水盤の前で両手を広げた。全宇宙から搾り取った恐怖が、黒い液体となって集まる場所。唯一、この広間に存在する物だ。
上に浮かぶ三角錐から恐怖の雫が滴り落ちるたびに、巨大な水面にさざなみが立つ。
『おお‥‥おおおお‥‥‥‥』
そして、あの恐ろしい音が響く。水底から聞こえてくるのだ。間近にその音を聞き、満面の笑みを浮かべていた戦士も顔をこわばらせる。
水面の奥底に、二つの、赤い光が宿っていた。
「見よ、これこそがアーク・ゴーン様だ‥‥我々の捧げた恐怖の力で、深い眠りにつかれていた意識を取り戻されたのだ‥‥」
赤い光はアーク・ゴーンの目。地響きのような音はその呼吸。水盤の底で、邪神が目覚めたのだ。
「しかしアーク・ゴーン様にはまだ顕現されるお力はない。完全なる復活には更なるコワ・エネルギーを‥‥」
「遅いな」
鋭い刃のような突き刺さるような声音が、割って入った。
その場にいる誰もが驚き、声の主を見やる。
水盤の間の隅に、一人の男が立っていた。がっしりとした体躯に漆黒の鎧をまとい、赤い瞳はぎらぎらと剣呑な光を湛えている。嫌味に口元をゆがめて笑う。
「オレが一人で冥王星を星屑に変える間に、ずいぶん悠長にやっていたモンだな」
「ハザード‥‥」
誰かが押し殺した声で、呟いた。
ハザード、この男の名である。魔獣界の戦士の中でも、もっとも強く――そして、非道だといわれる男だ。魔獣界で知らぬ者はない。
「聞いたぜ、地球の侵略者どもは、両手で足りる数の聖獣に散々苦労しているらしいじゃねぇか」
水盤の周りに集う戦士たちに向かい、ハザードはゆっくりと歩き出した。静まり返った空間に、甲高い足音が響く。彼が近づくと、自然と誰もが道を譲る。彼の周りに漂うただならぬ気迫に、近づこうにも近づけないのだ。ハザードの視線は、ずっと水盤へ向けられており、周囲の戦士たちなどまるで眼中にないようだった。
やがて水滴の滴る水盤に辿り着く。それを待っていたかのように、アーク・ゴーンが呻いた。
『おお‥‥おお‥‥恐怖を‥‥恐怖を‥‥』
ハザードは向き直った。炎に似た瞳は、真っ直ぐ君を見据えていた。
「お前だったか‥‥魔獣界の面汚しは‥‥?」
君が地球侵略の任を担っていると知っていて、蔑んだ笑みを浮かべる。
「地球は荷が重過ぎると言うんなら、オレが行ってやってもいいんだぜ‥‥?」
斬り捨てるにも値しない無能者と言われたも同然だ。自らの力を誇る魔獣界の価値観の中で、もっとも激しい侮辱だ。
次に失敗すれば、本当に取って代わられるかもしれない‥‥下手をすれば、ハザードに殺されるかもしれない。
何も言わない君に向かい、ハザードが哄笑する。
水盤の間に、いつまでも響いていた。
☆★☆★☆★
『獣王武神(じゅうおうむじん) ヒャクジュウオー』第九話・概要
ヒャクジュウオーとは‥‥地球征服をたくらむ魔獣界と、聖獣界の戦士から地球の防衛を託された武野小学校五年一組の戦いを描く、小学生をターゲットにしたロボットアニメーション。戦いを通して正しき心を成長させる子供達にスポットを当てる。
参加希望者は詳細をよく読み、希望届けに記入の上、締め切りまでに届けを出すこと。
☆演技指針☆
聖獣防衛組:‥‥?
魔獣界:地球侵略の新たな展望を画策せよ!
★新設定
NPC・ハザード:冥王星侵略を一人で果たした魔獣界の戦士。漆黒の鎧をまとった男性。残虐非道。
☆専門用語☆
・聖獣:聖獣ブレスに封じられた聖獣界の戦士。正義の心によって具現化し、動物をかたどったロボットになる。心の力が弱ければ弱体化、悪ければ召喚さえ出来ない。子供達はブレスで指示を出し、遠隔操作する。
・司令室:教室が変形。瞬間移動装置など、さまざまな機能があるが、全貌は明らかになっていない。
・聖獣合神:司令室にある宝石を核として、それぞれの聖獣を合体させる。各部分の制御が必要なため、生徒達がコクピットに乗り込む。
それぞれの聖獣が合体後どの身体の部位になるかは、操縦者の意思による。
頭部になった聖獣の操縦者がメインパイロット。その聖獣の能力に準じた強力な必殺技を、一度だけ使える。
・魔獣:聖獣と同じ獣型。この状態ではブレスによる遠隔操作。
・破壊獣:コワ・エネルギーから作られたモンスター。人々を怖がらせてコワ・エネルギーを吸収、徐々に巨大化していく。
・破壊魔獣:魔獣が破壊獣を取り込むことによって人型に変形した姿。聖獣よりも一回り大きく、強力になり、魔獣の必殺に加え、破壊獣の特殊能力が使える。エネルギー制御が必要なため、魔獣界人が実際に搭乗して動かす。
☆希望届け☆
1、希望役(いずれか)
・武野小・五年一組の生徒(前回出演者は同じ役柄が望ましい)
・魔獣界の戦士(同上)
・その他、前回担当脇役など
2、やりたい役柄
・名前
・性別
・外見(簡潔に)
・長所(一言で)
・短所(一言で)
・聖(魔)獣(獣人種族をモデルにしているので、その範囲で決定する事)
・必殺技(一つ)
3、破壊獣
今回登場なし
●リプレイ本文
―声の出演―
カレンスキー(ナルシスト 狼魔獣ケルベロス)‥‥ディノ・ストラーダ(fa0588)
セシューム(妖艶 竜魔獣ドラグーン)‥‥星野 宇海(fa0379)
ペギリーフ(自称天才策略家 小鳥魔獣オキノタユウ)‥‥各務 英流(fa3345)
リオウネ(沈着冷静 蛇魔獣ブラックバイパー)‥‥RURI(fa3654)
昴・A・栞(組長)(委員長 猫聖獣ワイルドキャット)‥‥槇島色(fa0868)
大高屋 亮(ガリ勉 ユニコーン聖獣モノケロス)‥‥藤拓人(fa3354)
春野 ウララ(天然ボケ 犬聖獣サイレント・ドッグ)‥‥☆島☆キララ(fa4137)
飯田 公恵(物静か 大熊猫聖獣アイニー)‥‥笹木 詠子(fa0921)
★
「お兄ちゃん!」
まだあどけなく、幼い少年が、自分を振り返って笑う。彼もまた、少年に微笑み返す。
広い広い、バラに囲まれた庭園。
いつまでも平穏が続くと信じていた頃。
突如、空が掻き曇った。
美しく咲き乱れていたバラが、周囲が暗黒に染まるとともにみるみる枯れていく。
「お兄ちゃん‥‥!」
少年の顔が恐怖に引きつる。空から降ってきた暗黒が、少年を飲み込もうとしている。
このまま見失えば永遠に別たれる不安に駆られ、彼は弟へと腕を伸ばした。
「キレイスキー!」
しかしその指先はむなしく宙を掻く。
暗黒は彼の元にも伸びてきた。深い絶望のうちに視界が闇に染まっていく――
「――!」
殺気が頭上から降りかかってきている。察知して、カレンスキーは夢から覚めた。
胸元のバラを引き抜くと、身を起こしざま、殺気に向かって投げつけた。
目の前を巨大な刃が通り抜ける。バラは音もなく真っ二つに切り裂かれ、床へ舞い落ちた。
「不意打ちか。相変わらず、お前は美しくないな」
「相変わらず酔狂な奴だ。ヘドが出るぜ」
刃を床に突きたてると、ハザードは唾を吐いた。その声にどこか焦燥が宿っている。
「本気で仕留められると思っていたのか‥‥水盤の間では我々を蔑んでいた様だが、これではお前も程度が知れるというもの」
「ほざけ」
再び刃が動いた。剣圧がカレンスキーの髪を揺らめかせる。眉間に切っ先が光った。
「今日は挨拶だ。貴様がそうしてキレイな面していられんのも、今のうちだぜ」
「私は逃げも隠れもしない、いつでもかかってきたまえ」
鼻を鳴らして、ハザードは身を翻す。カレンスキーはその背に言葉を投げると、床に落ちたバラを拾い上げた。
かつてのハザードならばこの攻撃を見抜けなかっただろう。
「奴なりに腕を上げたと言う事か」
隙のない影が消えたドアの向こうに、ハザードの残忍な笑みを思い起こした。
★
組長こと防衛組学級委員長・栞はエアガンを手に町外れの廃ビルへ来ていた。ここは彼女の祖父の所有地で、栞は趣味のエアガンの訓練場と決めていた。
適当に拾ってきた空き缶や瓶を並べ、栞は打ち捨てられた事務机の裏に隠れる。
「遮蔽物に隠れながら隙を狙って撃つ練習だ」
机の向こうに敵の姿を思い描き、飛び出す。空き缶を認めて引き金を引く。発砲の衝撃があり、空き缶が跳ね飛ばされる。
二度、三度と繰り返し、いよいよ最後の空き瓶だけが残された。机の影から、そっと様子を窺う真似をした、その時。
置かれた瓶の真後ろのドアが、ぐっと五センチばかり開いた。そこから、人の足が出てくる。人の通れる隙間ではないのに、明らかに、彼はドアの奥からすり抜けて出てきた。
(「なっ‥‥!?」)
人間の男、に見えた。しかし、身にまとう黒い鎧や赤すぎる瞳に、全く現実味がない。
不思議な感情が栞の中に吹き荒れる。男が発するただならぬ殺気への恐怖。そして、その背後にあるドアから垣間見える、真っ黒な闇へ近づきたいと言う衝動。それは迷子がやっと家族を探し当てた時の思いに似ていて、栞は混乱した。
「‥‥あぁ? 地球のガキか」
男が栞の方を向いた。見据えられると恐怖が勝り、闇への懐かしさは吹き飛んだ。
一歩ずつ、男が近づいてくる。恐怖で動けないなどと言うのは、栞にとって初めての経験だった。
「なんでこんな所にいやがるか知らんが‥‥俺に見られたのが不運だったなぁ‥‥ちょうどむしゃくしゃしていた所だ‥‥」
「あ‥‥うわぁっ!」
咄嗟に向けようとしたエアガンは、その瞬間弾き飛ばされて、ドアの近くへ転がった。遅れて弾かれた手の甲の痛みが襲ってきた。
「誇れよ。記念すべきハザード様の犠牲者一番目だ」
漆黒の手甲に包まれた手が、栞の首に向かって伸びる。死が迫る恐怖に栞は金切り声を上げかけたが、突然心地よい子守唄が脳内に響き、そのまま意識が遠のいていった。
「恐怖を絞るのは良いとして‥‥殺してしまうのは感心しないわね」
妖艶な声がドアの奥から響き、黒いドレスに身を包んだ女性が現れた。ハザードは忌々しげにそちらを見やる。
「耳障りな歌声がすると思ったら‥‥貴様かセシューム」
「覚えていてくれたの? 光栄だわ」
セシュームは口に手を当てて微笑み、
「けれど、貴方には地球へ手出しして頂きたくないわ。考えがあって、生かしてあげているのよ‥‥私達は頭脳で侵略する流儀なの、貴方と違ってね」
「まどろっこしいこった。こんな屑みたいな星一つに!」
「焦る事はないわ。力での支配は後でもいい‥‥そう‥‥」
ハザードは訝しげに眉を寄せた。話す内にセシュームの気配がどんどん変わっていく。水盤の間の、身も凍るようなアーク・ゴーンの気配が思い出されて、ハザードは震えた。
「そう‥‥それは『核』を取り戻してからだ‥‥それまで、貴様の出番はない‥‥」
「『核』‥‥だと?」
耳慣れない言葉を聞き返すハザードだが、セシュームは答えず、何かに操られるかのように虚空を見上げた。
その脳裏に、先程覗いた、カレンスキーの夢が蘇っていた。
兄にあどけなく笑い、闇に恐怖で引きつる、幼い少年。
核はそこにある。心の中の闇が、セシュームに囁いた。
★
武野小、保健室。
「さ、これで大丈夫。お母さんにご連絡したから、迎えにこらるまで休んでて」
つんと消毒薬の臭いが鼻をつく部屋で、ベッドに横たわった亮は小さく頷いた。氷枕と氷嚢を頭にあてがう彼の目は、熱で潤んでいる。
「よかったー。もう安心だねー」
満面の笑みを浮かべるウララに対し、公恵は静かに頷いた。
「でも、風邪は予防する事の方が大事よ。夜更かしは身体に悪いし、眠気覚ましもコーヒーよりはミントティーの方が」
「うん‥‥みんな、ありがとう」
教室から付き添ってくれた級友に、亮は呟くように言う。
「みんな仲良しなのね。やっぱり、戦いが育む友情っていうやつかしら?」
保健の先生がにっこりと微笑んだ。産休の先生の代わりに最近やってきた、代わりの先生だ。前の先生よりずっと若いし、何より可愛いので、急に怪我したり病気になったりする男子生徒(とか先生)が増えたとか何とか。
しかしその実体は魔獣界は暗黒三姉妹の末妹、リオウネである。洗脳能力で校長を魅了し、聖獣達の基地だと言う情報のある武野小へ潜り込んだのだ。内部を探って情報を集めるためだ。
そして確かにここに、聖獣を操る子供たちはいた。
「先生、ニュースとかで聖獣の活躍を見てて、憎‥‥じゃなかった、カッコイイと思ってたのよ。だからずっと防衛組のみんなとお話したかったの。ねぇ、ちょっと基地の事とか、教えてくれないかな?」
リオウネ先生は人好きのする笑顔を浮かべる。男の子だけでなく、女の子からでも可愛く思える。みんなは問われるまま、それぞれに防衛組のことを教えた。ヒャクジュウオーとの出会いから、教室が司令室に変形する事、合体の事――。
「私はねぇ、最近までドイツに住んでたんだよぉ。でも、お父さんやお母さんが死んじゃって、それで、武野町の叔父さんの所に来たんだぁ」
自分達の話になった時、ウララはおっとりと笑いながらそう口にした。胸元の蛇のペンダントをもてあそびながら、気楽な調子だ。
公恵はその時、リオウネの表情が急に険しくなったのに気がついた。
悲惨な話にショックを受けているのだと思った。
「‥‥大変だったのね」
「うーん、あんまりその時の事覚えてなくって」
曖昧にウララは笑う。ウララもリオウネの変化に気がついた。視線がペンダントに釘付けになっている。
「あ、先生、どうしたの?」
「それ‥‥」
「これはお母さんの形見なんだぁ。へへ、カワイイでしょ」
リオウネはじっとペンダントを見たまま、何の反応もない。その時、スピーカーからチャイムが鳴り響いた。
「あ、私日直だったよぉ。黒板消してこなきゃ!」
まだ二時間目が終わったばかりだ。ウララも公恵も、授業を抜けて亮に付き添ってきたのだった。
リオウネははっとして、いつもの笑顔を取り戻した。
「そ‥‥そうね。はやく行きなさい。公恵ちゃんはもう少しいてくれる?」
「はい‥‥」
少し変に思いながら、公恵は頷いた。
またしばらく取り留めのない会話が続く。するとどこからか、子守唄のような女性の歌声が聞こえてきた。不思議に思う前に、急に眠気が襲ってきて、公恵は亮のベッドにうつ伏せになって眠ってしまった。亮もいつの間にか寝息を立てている。
「ふっふっふ‥‥この天才ペギリーフの超絶科学技術。すばらしい効果である!」
「セシューム姉さんの歌声をパクッただけでしょ」
「何を言うであるか! 姉上の能力をそのままコピーできるのは、我輩を置いてほかにないぞっ!」
二人が眠るベッドの下からモグラのような見た目のペギリーフが現れた。
「も少し早くやってくれてれば、あのペンダントも取り返せたのにっ」
リオウネはすねた表情をする。ウララが身に着けていたペンダント、あれはまさしく自分の物だ。ずいぶん前になくしていたのだ。
「基地の話を全部聞きだすまで待てと言ったのはリオウネではないか!」
きいきいとペギリーフはまくし立て、
「取り返したいのならもう少しそのままいる事であるな。今は奴らの弱みを握るのが第一」
と、もう一つの機械を取り出す。それを眠る二人に向けると、手元のレバーでスイッチを入れる。
機械は低く唸りを上げると、モニターに二つの映像を映し出す。
「我輩が発明したこの『コワ・ミツケルー』に掛かれば、心の奥底に隠された恐怖が一目瞭然なのである!」
亮が大人と子供の間で迷っている。大人のように強くはないが、子供のように無邪気でもない。その狭間にいる自分の立ち位置が大きな不安を抱いているらしい。
そして、公恵。
しゃがみ込み、うずくまっている。周囲にはさざめく笑い声と、暴力。悪意に満ちた――
「なるほど‥‥。この二つ、使えるであるな」
「亮チャマッ!!」
乱暴に扉が開いて、PTA会長である亮の母が飛び込んできた。そしてペギリーフを見て硬直する。
「ああ‥‥ようこそお母様。ごゆっくり‥‥」
リオウネは冷たい微笑みを浮かべると、会長の瞳を覗き込んだ。校長と同じ、洗脳の術だ。会長からゆっくりと力が抜けていく。
★
はっとして、栞は目を覚ました。夕暮れが迫ってきている。肌寒い。
廃ビルには何の気配もなかった。
「そうだ、あのドア‥‥!」
ドアは開け放たれていた。しかしその向こうには普通に埃っぽいオフィスが続くばかりだ。
「夢‥‥いや、しかし――」
男の冷酷な目がまざまざと蘇る。外気にあてられたのとは違う寒気に、栞は身を竦めた。
★
魔獣界――
ドック内で戦闘機カイザーウイングが修復されていく。夢を見たせいか、それともこのウイングが思い出させるのか、溶接の青白い光を見つめながら、カレンスキーは過去を思っていた。
かつては、魔獣界はこのように堕ちた世界ではなかった。アーク・ゴーンの脅威に際し、盟友たる聖獣界とともに戦い、宇宙の平和を守ってきたのだ。
しかし、戦いは完全なる勝利にはならなかった。
もう少しで邪神を封印する、その時。魔獣界だけが封印し損ねた邪悪に呑まれた。
そして、力と邪悪のみが正しい、ゆがんだ世界へ、魔獣界は変貌した。
「あの男が、裏切りさえしていなければ――」
胸に暗い思いが宿る。
握り締めた手は、力の強さのあまりに震えていた。