ヒャクジュウオー!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
外村賊
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
02/06〜02/10
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●本文
運動場のトラックを六周分すれば、てっぺんから真下までを駆け抜けることができてしまう。冥王星はそれぐらい小さな星だ。
ハザードによって魔獣界の戦士にされてしまったクラスメイト、公恵。彼女を元に戻すには、ここにいる破壊獣が鍵となっている。
強制的なワープによって司令室と聖獣は、丸ごと冥王星の地表へ降り立った。
破壊獣に反応するアラームの音が定期的に鳴り響く。
「いてて‥‥」
転移中の激しい振動で身体をあちこちぶつけたようだ。じんじんと響く痛みをこらえ、窓の外へと視線を向ける。
周囲は荒涼としていた。見渡す限り岩と土ばかり。殺風景なその場所の中で、唯一異彩を放つ存在が、目に飛び込んできた。
ファンタジーにあるようなお城――それも外壁も尖塔も、雲のようなものでできている。小さな星の地平線の向こうから、空を付きぬくかと思われるほど、大きくそそり立っているのだ。スクリーンに映し出された地図には、城のある場所に赤いが点滅している。つまり、あの場所に破壊獣が――
「あっ!」
一人が素っ頓狂な声を上げて、窓の外を指差した。城のに続く道に、誰かが倒れている。慌ててみんなはコンソールをはじき、スクリーンに周辺の拡大映像を呼び出す。
苦しげに顔をゆがめているのは、みんなと変わらない年恰好の男の子だった。
★
しばらく眠り続けた後、男の子は司令室の中で目を開けた。保健室は付いてきてないので、床にみんなの上着や給食エプロンを敷いて簡易の布団代わりにする。
「気付いた?」
一人が声を掛けると、男の子は驚いて飛び起きる。後ろで小さくまとめている銀の髪がぴょこり、と揺れた。
「ここは!?」
「なんていったらいいのか‥‥ええと、宇宙船‥‥みたいなものだ。お前が倒れていたから助けた」
「じゃあ、『クラウドキャッスル』の中じゃないのか‥‥」
安心したような、悔しそうな、不思議な様子で、男の子は教室を見渡す。ちょうど雲の城が見えた窓の方で目を止めた。
「クラウドキャッスルって言うのは、あの城の事?」
「そうだ。ハザードの奴が冥王星においてった破壊獣! 俺、あそこからみんなを助けるためにシェルターをぬけてきたんだ‥‥」
男の子の声に覇気はない。ただ悔しげに、かみ締めるように言葉をつむぎ、俯く。その動きは彼が失敗した事実を、言葉よりも雄弁に語っていた。
防衛組は緊張した。男の子がやろうとしていたこと、それはみんなのやろうとしていることだ。
「詳しい話を聞かせてくれないか。私たちの友達も‥‥あの中に捕まっているんだ」
冥王星の人間である男の子は、名前をリオと名乗って、みんなに状況を説明する。
魔獣界が太陽系に侵略の手を伸ばしてきたとき、冥王星をにやってきたのがハザードだった。クラウドキャッスルは彼が冥王星を制圧して母星に帰還した後、ハザードの代わりに恐怖を搾取している破壊獣だ。人が一番大切だって思っている物や記憶奪う能力を持っているらしい。
「それでリオは、それを取り返すために破壊獣を倒しに来たんだ?」
訊ねると、意外にも否定の返事が返ってきた。
「違う。あいつを倒すと、中に閉じ込められた物も一緒に壊れる仕組みになってる。それが怖くて、みんな倒すに倒せないでいるんだ‥‥」
この星のみんなもほとんどが被害に遭い、これ以上破壊獣に記憶を取られないように避難したのだという。リオも一度は逃げたが、じっと隠れてるのが我慢できなくて飛び出してきた。考えもなく飛び出してきただけで、実際破壊獣を目にしてどうしようもなく、気がついたらここにいた、というのがいきさつらしい。
「それでも、何とかするしかない‥‥か」
みんなは再びクラウドキャッスルへと目をやった。まさしく城の風格を備える巨大さである。コワ・エネルギーを溜め込むごとに巨大化する破壊獣の性質からすると、そうとうの恐怖を集めたらしい。その分強力にもなっているだろう。しかしその中には、公恵の記憶が閉じ込められているのだ。
みんなと一緒に戦った、公恵の記憶が。
★
暗闇の中、恐怖の力が確実に育っていく。
水盤の間に、厳かに供物が運ばれていく。
やがて来る復活を控え、儀式の準備が始まった。
☆★☆★☆★
『獣王武神(じゅうおうむじん) ヒャクジュウオー』第十四話・概要
ヒャクジュウオーとは‥‥地球征服をたくらむ魔獣界と、聖獣界の戦士から地球の防衛を託された武野小学校五年一組の戦いを描く、小学生をターゲットにしたロボットアニメーション。戦いを通して正しき心を成長させる子供達にスポットを当てる。
参加希望者は詳細をよく読み、希望届けに記入の上、締め切りまでに届けを出すこと。
☆演技指針☆
聖獣防衛組:破壊獣を何とかする
魔獣界:それぞれの目的を果たす
★新設定
司令室(宇宙形態):司令室と時計台だけが学校から切り離されて、変形した宇宙船。突然飛び出した教室に、みんなは食糧難、先生は授業が出来ずに困っているとか。
NPCリオ:冥王星で出会った男の子。冥王星のみんなを助けるために、作戦もなく敵地に飛び込む、向こう見ずな性格。
☆専門用語☆
・聖獣:聖獣ブレスに封じられた聖獣界の戦士。正義の心によって具現化し、動物をかたどったロボットになる。心の力が弱ければ弱体化、悪ければ召喚さえ出来ない。子供達はブレスで指示を出し、遠隔操作する。大ダメージを受けた時は、数日の修復期間を要する。
・司令室:教室が変形。瞬間移動装置など、さまざまな機能がある。
・聖獣合神:司令室にある宝石を核として、それぞれの聖獣を合体させる。各部分の制御が必要なため、生徒達がコクピットに乗り込む。
それぞれの聖獣が合体後どの身体の部位になるかは、操縦者の意思による。
頭部になった聖獣の操縦者がメインパイロット。その聖獣の能力に準じた強力な必殺技を、一度だけ使える。
・魔獣:聖獣と同じ獣型。この状態ではブレスによる遠隔操作。
・破壊獣:コワ・エネルギーから作られたモンスター。人々を怖がらせてコワ・エネルギーを吸収、徐々に巨大化していく。
・破壊魔獣:魔獣が破壊獣を取り込むことによって人型に変形した姿。聖獣よりも一回り大きく、強力になり、魔獣の必殺に加え、破壊獣の特殊能力が使える。エネルギー制御が必要なため、魔獣界人が実際に搭乗して動かす。
☆希望届け☆
1、希望役(いずれか)
・武野小・五年一組の生徒(前回出演者は同じ役柄が望ましい)
・魔獣界の戦士(同上)
・その他、前回担当脇役など
2、やりたい役柄
・名前
・性別
・外見(簡潔に)
・長所(一言で)
・短所(一言で)
・聖(魔)獣(獣人種族をモデルにしているので、その範囲で決定する事)
・必殺技(一つ)
3、破壊獣
・名前 クラウドキャッスル
・外見 雲でできた城
・特殊能力 人の一番大切なものを奪う、倒すと一緒に奪ったものも破壊される
・弱点 動けない
●リプレイ本文
大高屋 亮(ガリ勉 ユニコーン聖獣モノケロス) 藤拓人(fa3354)
春野 ウララ(天然ボケ 犬聖獣サイレント・ドッグ) ☆島☆キララ(fa4137)
羽田 涼子(活発 鷹聖獣バーニング・ホーク) RASEN(fa0932)
昴・A・栞(委員長 猫聖獣ワイルドキャット) 槇島色(fa0868)
姫野木 静夜(泣き虫 ハムスター聖獣シャンガリア) カナン 澪野(fa3319)
カレンスキー(ナルシスト 狼魔獣ケルベロス) ディノ・ストラーダ(fa0588)
ペギリーフ(自称天才策略家 小鳥魔獣オキノタユウ) 各務 英流(fa3345)
アイーダ(物静か 大熊猫聖獣アイニー) 笹木 詠子(fa0921)
★
グレートヒャクジュウオーは荒野を突き進んでいた。行く手はもちろん、破壊獣クラウドキャッスルだ。距離を詰めるたび、異様な城は地平線の向こうからゆっくりとせり上がる。やがて正面に、壁の大部分を占める黒く大きな扉が見え始めた。
「あそこだ!」
門を指差しリオが叫んだ。操縦席にはみんなの分しか座席はないが、リオは計器の隙間に足をもぐりこませ、器用に立っている。
「あの門から、黒い腕が生えて、みんなの大切なモノを持ってっちゃうんだ!」
「じゃあ中に入って、捕まったもの全部助ければいいのよね! 簡単じゃない!」
涼子は意気揚々としている。「倒せないならどーすんのよぉ」とぶーたれていた数分前が嘘のようだ。しかしすぐそばの脚部座席に座る静夜は不安な表情をしている。出撃前に司令室で聞いた、リオが知りうる限りの破壊獣の情報が頭によぎったからだ。
「でも助け出す前に、逆に僕らが大切な物を取られちゃうかもしれないんだよね?」
「だが、それ以外に方法はない。やるしかないだろう」
緊張の面持ちで栞が答える。彼女は立案者であるが、必ず成功する、という確信はもてなかった。あるのは、成功させなければならないという責任感だ。
『ククク! 来タネ、ヒャクジュウオー!』
突然回線を通して、チューニングされていないラジオのような、キンキンと耳障りな声が笑った。リオが血相を変える。
「クラウドキャッスルだ!」
『ハザード様カラ聞イテルヨ! オ前ラナンカニ キミエチャンハ 返シテヤーラナイ!』
破壊獣が嘲り笑ううちにも、ヒャクジュウオーは城門の前へ辿り着いた。この小さな星の半分ほどを覆ってしまっている破壊獣は、ヒャクジュウオーをしても見上げなければならないほどの巨大さだ。
「よし、やろう」
メインコクピットに座った亮が指揮をとる。ヒャクジュウオーはその意志に答えて、扉の隙間に指を差し込むと、全力をかけて引き開けはじめた。操縦桿を手が痛くなるほど引っ張る亮だが、ぴくりとも扉の開く気配は感じられない。
「黄金の聖獣よ‥‥」
ウララが手を組み合わせて祈る。全身を取り巻くパーツとなった王家の聖獣は、王女の願いの力でヒャクジュウオーに力をみなぎらせる。腕に、足に、黄金の輝きは倍以上の力を発揮させているはずだ。
それでも扉は動かない。
再び嫌な笑い声がコクピットに響く。
『オ前ラノ チカラジャ 開ケラレッコナイネー!』
「いっっっちいちムカつく城ねー」
「‥‥中に公恵ちゃんがいるのに、負けられっこないよ‥‥」
涼子が忌々しげに眉をしかめ、静夜が今にも鳴きそうな声で言った。この中に公恵の心が閉じ込められているかと思うと、それだけで涙が溢れてくる。
「どんなに遠くにいたって、アイーダじゃなくて、静かで優しい、公恵ちゃんでいて欲しいもん‥‥」
「そうだよ。公恵さんを、みんなを助けなきゃ」
「公恵、今助ける!」
「待ってて、公恵ちゃん‥‥」
破壊獣の嘲りなど耳も貸さず、みんなは扉に全神経を集中させる。
その時、ぎっ‥‥と重苦しい軋みを立てて、わずかに扉が動いた。
『ナ!?』
「みんな、頑張れ!」
リオが拳を握り締める。遅々と、しかし確実に、隙間が広がっていく。ヒャクジュウオーが負荷超過で小刻みに震え始めた。
扉の隙間からは黒い気体が漏れはじめる。中に溜め込まれたコワ・エネルギーだ。隙間が大きくなるごとに、その勢いは強くなっていき、次第にヒャクジュウオーを押し始める。足元がじりじりと滑る。あまり長い間こうしていては逆に吹き飛ばされてしまいそうだ。
「脚部、もう少し頑張って‥‥!」
「分かった!」
「こっちも馬力上げるわ!」
脚部のシャンガリアはもともと機動性重視の機体だ。静夜も何とか出力を上げようとするが、すでに限界過ぎている。涼子は胴体部のバーニング・ホークの翼の出力を調整し、合間から強いジェット気流を噴出させて脚部を支える。ウララはひたすら、みんなのために祈り続ける。
「ここで、仕損じて溜まるか‥‥ッ!」
「公恵さんを、取り戻すんだ!」
栞と亮がほぼ同時に叫んだ。不意に身体の中に力がみなぎるのを感じる。開いていく扉を前に懸命で、不思議に思う暇もなかった。その現象と同時にヒャクジュウオーの両腕が黄金に輝き一気に巨大化した。
『うおおおおおおおっ!』
黄金の腕は残りの門を一気に引き開けた。瞬間、大量のコワ・エネルギーの波がヒャクジュウオーを襲う。ともすれば扉から吹き飛ばされそうになるのを、咄嗟に扉を握り締め、何とか耐える。
コワ・エネルギーの中には、同時に身に瞬く星粒のような光がいくつも混ざっている。ヒャクジュウオーのセンサーに、コワ・エネルギーとは別の物としてとして認知されるするそれは、捕らえられていたもの達なのだろう。亮は必死に目を凝らしその中に公恵を見出そうとする。
『公恵さん!』
――‥‥お‥‥たかや‥‥くん‥‥――
呼び掛けに答えたその声は、小さな、しかし聞き間違える事のない公恵のもの。耳を頼りに視線を投げる。激しく流れ来るエネルギーの向こう、クラウドキャッスルの奥から聞こえるようだ。
『クククッ、助ケタカッタラ中ニ入ル事ダナ!』
「だめだ、入ったらみんなまで記憶を取られちゃうよ!」
「馬鹿者!」
リオがみんなを止めるのを、栞は一喝する。
「お前は何のためにここまで来たんだ! 助けるためだろう!? ここまで来てぐずぐず言うんじゃない!」
リオはその勢いに圧倒されていたようだが、やがて覚悟を決めて頷いた。
「よし。じゃあ行こう‥‥涼子さん!」
「オッケー!」
翼の羽ばたきは逆流に立ち向かう推進力となり、ゆっくりと、ヒャクジュウオーは扉の向こうへ入っていく。
吹き荒れる闇色の嵐の中に、一つの明滅が取り残されている。ともすれば黒に紛れて塗りつぶされそうな光を見失わないよう、何度も名を呼びながら、一歩ずつ近づいていく。
『あんなつまらぬ感情のために、命まで賭けるか‥‥愚かな』
一方外では、クラウドキャッスルの真上に黒い光が射し、大熊猫の魔獣が現れる。アイーダはその上に立ち、不吉なエネルギーを撒き散らす様を見下ろしていた。
『このまま私が破壊獣を滅すれば、どういうことになるか気付いていないのか‥‥?』
右手の魔獣ブレスを持ち上げると魔獣の腕の中に一振りの青龍刀が現れる。魔獣は静かな挙動で真下に切っ先を向けた。
『ア、アイーダ様っ! ソレッテ オイラ 死ンジャウ!』
クラウドキャッスルの慌てた声が、場内にも響き渡る。
「アイーダ‥‥破壊獣ごとヒャクジュウオーを壊そうとしてる‥‥!?」
恐ろしい予測に思い至って、静夜が震える。
「わたしが行く‥‥サイレント・ドッグが離れても合体には支障がないし。ヒャクジュウオーはパワーダウンするけど」
ウララの提案にみんなも同意する。それを確認して、ウララは合体を解除した。操縦席から彼女の姿が掻き消え、黄金の聖獣の姿のままのサイレント・ドッグは転がるようにしてクラウドキャッスルから飛び出た。見上げると、シャオニーは大きく両腕を差し上げ、今にも得物を振り下ろそうとしている。
『駄目‥‥っ!』
止めようとした瞬間、シャオニーの背後から一体のロボットが突っ込んできた。一瞬早く気配に気付いて、シャオニーは避ける。赤い機体はそのまま、黄金の聖獣のすぐそばに着地した。どこか見覚えのある、胸にドクロをきらめかせた――
『カイザービースト!』
『クロスボーンカイザーです、王女。輝く聖獣は王家の機体と覚えております。宇宙の危機の為、助力いたしましょう』
『感謝します‥‥皇子』
『宇宙海賊・薔薇騎士です、王女』
『‥‥ふん、自らの美学などの為に愚かしい真似を晒すのだな。素性を偽り、故国までを敵に回すとは。そこまでして過去の思い出に浸りたいか?』
シャオニーの背後に配下の姿が現れる。アイーダは魔獣から離れると彼らに破壊獣の破壊を命じ、シャオニーには青龍刀を構え直させた。
『ならば、そのような幻想もろとも私が消し去ってやろう。ハザード様の栄光の陰に消えるがいい!』
大熊猫魔獣が地上の二人めがけ、一気に跳躍する。
外からの衝撃に、クラウドキャッスルが振動する。城への攻撃なのか、それとも外の戦いの余波なのか、みんなには予想だにできない。今は目の前の公恵を助け出す事だ。ウララが抜けてスピードは落ちたが、じりじりとヒャクジュウオーは前進する。
『オ前ラノセイデ ピンチジャナイカー! 早ク出テケ!』
クラウドキャッスルが恐々と叫ぶ。風のように荒れ狂っていたコワ・エネルギーの一部が集まり、明確な形を取る。巨大な腕のように変化したエネルギーは、指を大きく開いて、コクピットに掴みかかってきた。リオが言っていた、記憶を奪い去る手だ。コワ・エネルギーの集合体。それはハザードの醸す気配にも似て、心の奥が凍りつくような恐怖にとらわれる。
――みんな――
公恵の声が聞こえる。静かだが、強い、勇気付ける声。
「勇気を!」
公恵の言葉に同調するように、リオが叫ぶ。
「みんな、勇気を! みんなの勇気が一つになったとき、ヒャクジュウオーは全力を発揮できる!」
その言葉は、夜の闇を払拭する朝日の光にも似て。怖気づきそうだった心に、強い灯がともる。
力がみなぎるのをみんなは感じていた。扉を開くときと同じ不思議な力。それが今、さらに強い衝動として、みんなの中に巡っている。
『わああああああ!』
溢れる力を叫びに変えると、ヒャクジュウオーから激しい黄金の光が迸った。闇の腕を切り裂き、渦巻く黒い霧を消し去って、最奥に押し込められた光をあらわにする。光は公恵の姿をしていた。
『公恵さん!』
ヒャクジュウオーが手を伸ばす。公恵の心はふわりと浮遊し、その掌の中に納まる。
『イヤー! コノ光 嫌イ!!』
クラウドキャッスルが苦悶する。城は歪みながら、物凄い勢いで収縮し始めていた。ヒャクジュウオーの力でコワ・エネルギーが払われ、急激に力を失っているのだ。亮は硬質な指に寄りかかって座る公恵を見下ろした。
『脱出するから、しっかり捕まって』
公恵はしっかりと頷いた。押し寄せてくる天井を見上げ、ヒャクジュウオーは床を蹴った。勇気の力は黄金の光となってヒャクジュウオーを包み、光が触れる先から、雲の城は炎に巻かれた綿のように崩れ、消滅していく。
『僕らの勇気は絶対無限!』
やがて輝く機体は、完全に城を突き破った。外の世界がモニターに映る。目の前にサイレント・ドッグとクロスボーンカイザー、そしてシャオニーと配下の魔獣が激しく刃を交えている様が見えた。
『公恵さん! あなたの記憶だ!』
公恵の記憶はヒャクジュウオーの掌から飛び出した。城から噴き出したみんなの記憶と同じように、燐光を放つ流星のように、アイーダに向かって突っ込んでいく。アイーダはまるで命を奪われようとでもするように、戦慄した。
「い、嫌だ‥‥! お前を受け入れたら、私は!」
――平気よ。‥‥勇気を持って――
アイーダの言葉は最後まで続かなかった。その胸の奥深く、公恵の記憶が沈み込む。右手にあった魔獣ブレスが粉々に砕け、アイーダの身体はゆっくりと小さくなっていった。
ヒャクジュウオーの背後で、激しい爆発が起こる。クラウドキャッスルは公恵の帰還と共に、跡形もなく消え去ったのだった。
★
魔獣界、アーク城――
昏い色の眼を開き、ハザードは意識を取り戻した。装置を全て取り外し、再び外気に触れたその身体に、以前と変化は見られない。ただ彼の纏う、諸刃の刃を喉元に突きつけてくるような気配はいや増し、寄る者に本当に痛みを与えるかのようであった。ペギリーフはハザードが研究室をゆっくりとした足取りで出て行くまでの一連を、部屋の隅の廃材の陰に隠れて見守っていた。彼が眠っていた間に様々に手を凝らして秘密兵器をこしらえていたのだが、グレードアップなハザードの気配を前に、まったくもって説明する糸口が見つけられなかった。
「う、なんか我輩、とんでもない事をやらかしたよーな気がしてきた。やはりコレを作るのは正解であるな」
流れる冷や汗は留まる事を知らない。青くなったまま、ペギリーフは自分の足元を見下ろした。廃材置き場とは世を忍ぶ仮の姿。本当はこの足元の脱出ハッチをカモフラージュしているのだ。
「あとは早いこと脱出ポッドを作って、いよいよまずくなったら逃げるである。この宇宙の財産である我輩の頭脳がこんなところで失われてしまってはシャレにならんであるからな!」
いそいそと材料を漁りを始めたペギリーフの頭に、アーク城内のどこかにいるであろう、姉の姿がよぎった。夢の中で、闇に飲まれて消えてしまった姿を。
「‥‥部品はたんまりあることであるし、二つぐらい作っておくか‥‥」
手元には、二つ分の部品が握られていた。