六金羅威武!!!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
外村賊
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
0.3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/03〜12/09
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●本文
毎週深夜のこの時間。派手なドラム音がスピーカーから鳴り響く。そろそろ襲いかけていた眠気を吹き飛ばすエレキの爆音と共にタイトルテロップが画面いっぱいに広がる。
well come to‥‥
六 金 羅 威 武 !!
Rock’n Live!!
エレキが大きな歓声と入れ替わると共に、映像はどこかのライブハウスに切り替わる。まだ薄明るい会場照明が灯る客席で、若者達がカメラに向かってノリノリで自己アピールする。
ジャンプ。手を振る。ピース。近づいて頭だけ覗かせる。
奇妙なまでに興奮しているのは、カメラが入ったせいか。はたまた巨大なスピーカーから流れる、爆音のBGMのせいか。
混迷の会場をもろともせず――彼らにまぎれて、にやりと不適に笑う男一人。同じく客席の中のカメラを向けられた彼は、マイクに向かってシャウトした!
「深夜まで起きてる不健康なロッキン小僧達に捧ぐ、六金羅ァ威武ッ! 今日も、夢見るロッカーエッグの天使・加藤コースケが、夢を届けに参上だッ!」
彼は、網シャツに破れたTシャツ、鋲打ちのロングコートという、弾けたスタイルを着こなす。
ばっ!!!
拳を振り上げると、観客達はひときわ歓声を高くする。いつものようにもみくちゃにされだすと、テレビは解説に切り替わる。
ライブ風景を描いたアメコミ調イラストに、DJ風の解説の声が流れる。
「六金羅威武とは、日本津々浦々のライブハウスをどさまわり、ある決められたお題に沿ってロッカー達に曲を披露してもらう番組だ。会場に集まった一般客をノリにノセ、最終のアンケートで最も好評を博したロッカーに六金を――」
と、五円玉と一円玉、ご祝儀袋の写真が映る。
「差し上げると言う、なんともロッキンな番組である!」
力強く言われても、六金しかもらえないのだが。しかし、まだ日の目を見ない若者達は、タダで有名ライブハウスのライブができ、あまつさえ自分達の姿が電波に乗って全国に届けられると言う事だけでもすばらしい報酬なのである。
「さぁ、今日はどこに来ているのかなコースケ? Where are you needed?」
「今日は東京は新宿の『火星☆SINJUKU』を占拠してるぜ。ここのホールの特徴は、なんと言っても客席!」
絡みつく観客を振り切り、コースケが大きく腕を振って上を指し示す。背後には、客でひしめく客席と、三色のライトが入り乱れるステージが見える。
普通のありふれたライブ会場だが――しかし。
結構遠くから映しているのに、ステージの上の照明機材が映らない。
カメラマンはコースケの指を追って、カメラを上に向けた。
天井はひどく高く、ステージの向かいの壁が、ぐるりと削られ、そこからも観客が手を振っているではないか。
「このステージは地下二階。地下一階とは吹き抜けになっている。B1客席からはロッキンエッグたちの頭が丸見えだ! パフォーマンスに気を遣え! 前ばっかり向かって歌ってると、二階のお客さんは丸萎えだ!」
コースケは演技過剰気味に、カメラに挑戦的な指を突きつける。
「この恐ろしいステージで、ロッカーエッグ達は若きエナジーを爆発させることが出来るのか!? 彼らの挑むテーマはこちら!」
情 熱 !
と筆字で書かれたテロップが現れる。
「情熱! お前らのロック魂から迸る情熱を、この聴衆にぶち込んでやれ!」
カメラを振られて、周囲は熱狂的な叫びに包まれる。
十分に観客は暖まった。会心の笑みでコースケは笑う。
「では行こう!」
それはいつもの決め台詞。がらりと声音を変えて、コースケは訴える。
「ロックとは、世の中の常識をぶち破るための爆弾である。こんなテレビ的なテーマに沿ってどうすると言うのか。ルールに決められるな! てめぇらのルールを見せつけろ! We are Rock’n――」
羅――威武ッ!!!
コースケが人差し指を、一層高く、激しく突き上げると、観客が一斉に唱和する。渦巻く熱狂の声の中、提供が流れて、六金羅威武は今夜も幕を開ける。
●ステージ情報
ステージの広さ:10m×10m
音響:良い
照明:普通
客席:B2、オールスタンディング(立ち見) B1、テーブル席(ドリンクカウンター付随)
客層:ライブに来なれた、10代後半〜20代男女
持ち時間:2時間×参加グループ数
●リプレイ本文
ホールのライトが、ふっと落とされる瞬間。息を呑む、期待の瞬間。
ステージに赤い光が降り注ぐ。浮き上がる影、四つ。
力強くドラムが鳴り響く。バスドラムの低音が観客の腹の奥へ叩き込まれた!
つんざくシンバルと共にベースが入り、リズミカルなメロディラインが浮き上がってくる。何かの始動を期待させる、低音のイントロ。
ギターが中央に陣取る。マイクはその人物の前。白い髪を揺らし、彼は正面を見据える。
紡がれるのは、遊びのような言葉の羅列。ベースとドラムにリズムを任せ、ラップの言葉がホールを満たす。身体が自然、刻むビート。リズムにつられて動き出す。
「Welcome 2 ZA Redhell!!」
絞るようなボーカルのシャウトに、メンバーが唱和する。
「Come on!」
テンポ良く連呼されるサビ。メンバーが煽れば煽るだけ、観客も応じて歌いだす。
曲が終わると休む間もなく、ドラムは次のリズムを刻む。ベビードレスの少女が中央へ進み出る。その背に大きな白と黒の翼。ギターもドラムも、前のノリを引き継ぐような、リズミカルなテンポを紡ぐ。
少女の口から声が流れ出た時、観客達があっけに取られる。細い喉からどうしてここまでと言うほど。
それは半獣化の賜物だと知るはずもなく、観客は歌唱力に引き込まれる。
「こんばんは、ギター兼ボーカルの紅 勇花(fa0034)と言います!」
曲を終えた時、二人への拍手への中、勇花がMCを始める。ライトが明るくなって初めて勇花が女性である事に気付いた者も多いようだ。
「こっちはキーボード・ボーカルの空野 澄音(fa0789)さん」
「はいっ!」
澄音は出席の点呼のように元気良く手を上げて答える。微笑ましい笑いが起こる。
「そしてドラムは旺天(fa0336)さん!」
「こんなノリのいいお客さんの前でで叩けるなんて、サイコーに気分いいさー!」
挨拶代わりに切れのいいスネアドラムを、スパン!と軽くはじけさせる。
「僕達はいつもは別々に活動してるんだけど、今日この日の為にユニットを組みました」
「そうなのです、みんな上手で凄いのです!」
澄音が興奮気味に同意すると、背中の羽がぱさっと開いた。あ、と思わず声を出した勇花だが、澄音は用意していた理由付けがあった。
「これ、ギミック式で動くのですよ〜。凄いでしょう?」
とわざと角ばった動きで羽を動かす。それに合わせて手は、何か紐でも引くように動かしている。観客達はその偽物とは思えない質感の翼に、ただただ驚いたり、たまに出てくるリアルすぎる動物コスに制作費かけてて賞金が出ないんだろうと思ったりした。
(「でも動かさないままいるのって、結構疲れるのです〜‥‥」)
終わったら、楽屋でしこたま羽を動かそうとこっそり心に誓う澄音であった。
そんな会話の合間合間を区切るように軽くドラミングしていた旺天が、やおら口を開いた。
「しっかし、賞金が六円て。せめて金貨六枚とかのほうが面白いのにさー」
「ほほーう」
背後で声が聞こえた。ぴくりと震える旺天の向こう、じと目をした加藤コースケが立っていた。何気にサポートベースとしてステージに上がっていたのだ。
「その話題を口にした者は沢山いた‥‥しかしその希望はことごとく消され、六円の賞金は存続された‥‥なぜか!」
ジャジャン! と、効果音が入りそうな(実際OAでは入るだろう)振りで、コースケはカメラに指を突きつける。そしてその格好のまま振り向いて、旺天を指差した。
「それは、お前が六金を勝ち取ったら教えてやろう!」
「そこまで振って引くんですか!」
「全てを遂げた時、なしてきた事の意味が分かるのだ。人生とは、そういうものだ‥‥」
「や、その台詞の意味が分からないです‥‥」
そうしてMCが明ける。さっと顔を上げ、にこやかに澄音は宣言する。
「澄音は皆の歌う小鳥なのです! 聴いて下さい!」
クールダウンを目指した静かな曲。その美声に観客は聴き入る。静かな空間で、澄音と勇花はタッチしてボーカルを代わる。
「情熱――それは無限に――」
澄音のキーボードがシンセサイザーの音色を響かせる。短調で、時々わざと音程を外す。
『囁(ささやき)』。狂った愛の歌。流れる真っ暗な血の中に、ぬらりと光るもの‥‥それは愛しい人への情熱。
『絶対零度』。今を愛するがゆえに今のままを全て、凍りに包まんとする者の情熱。
勇花は歌詞にテーマを込めた。様々な情熱を、自分なりの感性で表現しきることを。
そして再び、澄音に歌が戻る。
「還ろう 風にとけて――」
彼女の歌詞は暗鬱な雰囲気がある。しかし合わされた曲は明るく楽しげな、ポップ調の音だ。事あるごとに澄音はステージを動き回り、どの客席にも満遍なく視界をめぐらせて、目が合えば楽しそうにウインクを送る。勇花はギターを演じる時は、背をいつもより反らせるようにして二階観客にアピールする。旺天はひたすらノリにノッて、思うままにドラムを叩き続ける。澄音と旺天にとっては歌い、叩く事こそ情熱であった。
「ありがとう!」
全ての曲が終わり、勇花と澄音は心の底から感謝を叫んだ。
「イヤホーッ!」
旺天は勢いのままスティックを一階と二階の客席へ向けて投げ入れた。三人は、狂的な歓声に包まれた。
スポットライトが降ってくる。立っていたのは二人の男性。それぞれに、深い色合いのコートを纏っている。白いライトの中、二人は影のように映し出される。
無音の中、長髪を後ろでまとめた男性は、颯爽と楽器を構えた――ヴァイオリンを。
すべかなメロディーが流れ出す。誰もがどこかで聴いたことのある、クラシック曲。
「With the dawnI go Until you and this dakness goes out‥‥」
ヴォーカルから紡がれた声は、細やかな砂糖細工のような、甘く繊細な声。
彼らはおもむろに二階席を見上げる。
「星耀く高き天を見上げ貴女を想う もうすぐ貴女の佇む窓辺に辿りつくから‥‥」
その視線の先へ、手を伸ばす。
「どうかその扉を開けて迎え入れて欲しい‥‥」
二階席から、溜息の様な歓声の様なえもいわれぬ声が上がった。
ヴァイオリンが鳴り止むと共に、ステージが暗転する。再度ライトアップされた時には、コートを脱ぎ去った二人と、ドラムやギターと共に佇む二人の男性が居た。
「先程の曲は、私Carno(fa0681)と赤川・雷音(fa0701)のユニット『sagenite』の、『Salut damour−宇宙(そら)の煌きを−』でした。ここからは『Larimar with 雷音』で曲をお届けします。メンバーは‥‥ギター、Kanade(fa2084)」
Kanadeはにこやかに微笑み、会場に向けて指二本を挙げて挨拶する。
「ドラム、海鳶(fa1249)」
チャイナ服を着た海鳶は、Kanadeとは打って変わって無言。代わりにドラムを一通り叩いて、二階客に向けて拳を振り上げる。
二階席を良く見る為に、鏡張りの床を希望した海鳶であったが、ライトが反射して演奏に妨げがあると言う理由で採用されなかった。
ならこのドラムで酔わすまでだ‥‥
拳の向こうを見据えながら、そう思う。
「サポートギターに雷音」
縛っていた髪を下ろし、その名の通り獅子の鬣にも似た髪をかき上げ、雷音は拳を握ってアピールする。終始たおやかな笑みのCarnoは最後に自分の胸に手を当てる。
「ヴォーカルはCarnoです」
全員の紹介を待ちきれなかったように、雷音はギターをかき鳴らした。『D/P』、美しき女性に憧れ、奪い去りたい欲望の歌。ギターとベースだけで綴られる、淡々と、どこか狂気的な。
それが終わると、静かにシンバルが鳴り響いた。一定の速度で鳴らされるそれは、しんしんと――
「――降り始めた雪に君ははしゃいで空に手をのばす」
雪のイメージ。雪に遊ぶ彼女に見惚れて、思い逸る心を曲のスピードに乗せる。Carnoが締め付けられるように声を出せば、雷音は髪を振り乱し、身体に響く音をまさぐる。二人の音は響きあうように、互いに絡み、メロディを作る。
(「のってるな‥‥騒ぎ足りないみたいだ」)
Kanadeはドラムのテンポに合わせるようにギターを弾きつつ、二人を観察する。少し後ろに視線を流すと、海鳶もKanadeを窺っていた。しかし速いテンポにあわせる為に、すぐドラムへ視線を戻す。
その時だ。雷音がアドリブを入れ始めたのは。
会場はのって来ていた。少々羽目を外すくらいで、丁度いい。
今までベースやドラムに沿っていたKanadeが、にわかに目立つフレーズを入れる。それは合図で、倣うように海鳶が巧妙なリズムを刻む。するとすぐに二人も調子を合わせてきた。
調和を乱さず、羽目を外して。
その匙加減はKanadeにゆだねられている。
「これが最後の曲です――」
MCが入り、その落ち着いた曲が流れる頃には、観客は気持ち良さそうに身体を揺らしていた。Larimarと雷音の中にも溢れる。一つにまとまる心地よさ。
「瞳を閉じて君を思い描くのは‥‥最後のkiss 」
それから暫く、場内が明るくなる。前もって配られていたアンケート用紙に、観客達はわいわいと思ったことを書き綴り。
「えーでは。非常にテレビ的な、結果はっぴょー」
コースケは疲れたか何となくテンションダウンしているようだが、周囲は勝手に盛り上がっている。拍手や指笛が鳴り止まない。ステージに並んだ出演者達に対してだ。なにやら紙を取り出して、コースケはよみあげる。
「栄えある六金獲得者は‥‥」
一瞬の間。
「sageniteのお二人っ!」
Carnoと雷音は顔を見合わせた。
「二階席女性からの圧倒的な支持だ。加えて、一階席女性からも『あんな演出なら二階で見ればよかった』との意見続出。色男だね〜?」
「気に入っていただけたなら、嬉しいです」
コースケに肘でつつかれ、謙虚に言Carnoをよそに、雷音は派手に周囲に投げキッスを飛ばしまくっている。あちこちで黄色い歓声が上がった。
「ちなみに次点は男性の得票の多かった澄音ちゃん。つづいて勇花ちゃん。番外で旺天君には『最後のバチが当たって痛かった』と言う意見が一件来ていることを追記しよう!」
「マジすか!」
ドッキリする旺天の前を通って、コースケは至極軽いご祝儀袋を二人に手渡す。二人は嬉しそうに、カメラに向かってアピールする。
今夜の六金羅威武、これにて終了!