ヒャクジュウオー!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 外村賊
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/28〜03/04

●本文

 防衛組はやっとの思いでクラスメートの記憶を破壊獣から取り戻した。みんなに囲まれてゆっくりと目覚めた少女は、別れた時と変わらない表情で静かに微笑む。抱き合ったり騒いだり、みんなは全身で喜びを分かち合った。
 やっと聖獣防衛組が全員揃ったのだ。
「ありがとう、リオのお陰だよ」
 みんなは破壊獣のことを教えてくれた冥王星の子供にお礼を言った。リオは嬉しそうに顔をほころばせる。しかし彼の口から滑り出た声音は、今までのやんちゃそうな子供の声ではなかった。
「礼を言うのは私の方だ。よくここまでヒャクジュウオーと共に戦ってくれた」
 びっくりするみんなの前で、銀の髪の少年の身体を、緑の光が包む。溶ける様に消えたリオの姿は声音にふさわしい、凛々しい青年の姿に変わった。
「私の名はレオン。君たちにブレスと聖獣を預けた者だ。‥‥そしてアーク・ゴーンをこの手で復活させた者」
 レオンは悔やむように眉を寄せ、深く頭を下げた。
「私の為に君達のような無関係な者を戦いに巻き込んで、本当にすまないことをした。私はどうしても動く事が出来なかったのだ。理由は、見てもらった方が早い」
 レオンに誘われ、クラウドキャッスルが居座っていた場所へと向かう。広い荒野の中にあって、その場所は一段低くなっており、覗き込むと紫水晶のような色をした岩が突き立っていた。目の前まで進むめば、その中に男が一人、閉じ込められているのに気付く。宝石で氷漬けにされたかのように眠るその姿は、ここまでみんなを連れてきたレオンとそっくりだった。
「これが私だ。こうして話している私は、私の思念」
 宝石の中の自身を、レオンは厳しい表情で見上げた。
「私は聖獣の戦士だった。私には息子が一人あって、彼は身体の強い子ではなかった。ある時邪神はほころびかけた封印を解けば息子を助けようと誘惑してきた。今となっては全く愚かだった‥‥心の弱みに付け込まれ、邪神に操られたのだ。気付いたときには、邪神は私の手によって封印から開放された。
 だが幸いにも、封印していたアイテムは、私の手の中に残った。私は再び邪神を封印するべく、多くの仲間と共に戦った。魔獣界の戦士とも共闘し、戦いは熾烈を極めたが、私はようやくアーク・ゴーンを追い詰めた。再封印を施そうとしたその時、邪神は最後の力で私を巻き込んだ。‥‥封印を完遂せぬまま私はこの水晶に閉じ込められ、宇宙の偏狭たるこの場所へ捨てられたのだ。アーク・ゴーンに洗脳された、ハザードという魔獣界の戦士によって」
「ハザード!?」
 みんなは今や魔獣界を牛耳るその戦士の名に、嫌な寒気を覚えた。
「ハザードはずっと強さを追い求めていた男だ。あの時封印を解いた私と同じ、利用されているのかもしれない」
 レオンは静かに呟く。その姿が急に電波の悪くなったテレビみたいにざらついた。それはすぐに直ったが、レオンは表情を険しくし、みんなに向き直った。
「私を呪縛する力が強くなっている‥‥アーク・ゴーンの復活は近いんだな」
 みんなが頷くと、レオンは自分が眠る水晶の中に手を差し入れた。邪神の力が影響しているのか、レオンの思念は再び姿が乱れる。本体が胸元に提げたペンダントを握ると、一気に引きちぎった。みんなの前に差し出したそれは、滑らかな表面を持った鏡のようだった。
 乱れた像のままのレオンの手から、みんなはそれを受け取った。レオンの思念はいよいよ姿を保つ事が出来ず、声も途切れ始める。レオンは真っ直ぐみんなを見つめ、言った。
「百獣心、と言う。これを使い、邪神を‥‥封じてくれ。‥‥使い方は、ヒャクジュウオーと、君たちの勇気が‥‥教えてくれるはずだ。黄金の力を引き出せた‥‥君たちなら、必ず――」
 そしてその姿は完全に消え果てた。



 ハザードは力が満ち溢れているのを感じていた。限りなく純エネルギーを取り込んだその身体に、邪神が呼び寄せる声が聞こえる。もうすぐこの力が手に入るのだ。
 熱に浮かされたように、廊下を進む。水盤の間は儀式の準備が整っているはずだ。
 今頃もしかすればレオンが封印の鍵を、地球の子供に託しているかもしれない。しかし、そんなことはどうでも良いのだ。自らが神と一つとなった暁には、あのような子供の聖獣など、いくらあがいた所で敵うはずもない。
「最強の存在となるのだ‥‥世界のどの戦士でもない、この俺が‥‥!」
 溢れる力は自然に声となる。小さな笑いは徐々に哄笑へと変じていく。
 ハザードはやがて、邪悪の渦巻く水盤の間に飛び込んだ。

★☆★☆★
『獣王武神(じゅうおうむじん) ヒャクジュウオー』第十五話・概要

ヒャクジュウオーとは‥‥地球征服をたくらむ魔獣界と、聖獣界の戦士から地球の防衛を託された武野小学校五年一組の戦いを描く、小学生をターゲットにしたロボットアニメーション。戦いを通して正しき心を成長させる子供達にスポットを当てる。

 参加希望者は詳細をよく読み、希望届けに記入の上、締め切りまでに届けを出すこと。

☆演技指針☆
聖獣防衛組:アーク城へ向かい、ハザードと戦う
魔獣界:アーク・ゴーンを復活させる/阻む

★新設定
百獣心:小さな鏡。ヒャクジュウオーと一体となったとき、勇気を力に大いなる力を発揮する。かつてはこのアイテムで邪神を封印していた。

☆専門用語☆
・聖獣:聖獣ブレスに封じられた聖獣界の戦士。正義の心によって具現化し、動物をかたどったロボットになる。心の力が弱ければ弱体化、悪ければ召喚さえ出来ない。子供達はブレスで指示を出し、遠隔操作する。大ダメージを受けた時は、数日の修復期間を要する。
・司令室:教室が変形。瞬間移動装置など、さまざまな機能がある。
・聖獣合神:司令室にある宝石を核として、それぞれの聖獣を合体させる。各部分の制御が必要なため、生徒達がコクピットに乗り込む。
それぞれの聖獣が合体後どの身体の部位になるかは、操縦者の意思による。
頭部になった聖獣の操縦者がメインパイロット。その聖獣の能力に準じた強力な必殺技を、一度だけ使える。

・魔獣:聖獣と同じ獣型。この状態ではブレスによる遠隔操作。
・破壊獣:コワ・エネルギーから作られたモンスター。人々を怖がらせてコワ・エネルギーを吸収、徐々に巨大化していく。
・破壊魔獣:魔獣が破壊獣を取り込むことによって人型に変形した姿。聖獣よりも一回り大きく、強力になり、魔獣の必殺に加え、破壊獣の特殊能力が使える。エネルギー制御が必要なため、魔獣界人が実際に搭乗して動かす。

☆希望届け☆
1、希望役(いずれか)
・武野小・五年一組の生徒(前回出演者は同じ役柄が望ましい)
・魔獣界の戦士(同上)
・その他、前回担当脇役など

2、やりたい役柄
・名前
・性別
・外見(簡潔に)
・長所(一言で)
・短所(一言で)
・聖(魔)獣(獣人種族をモデルにしているので、その範囲で決定する事)
・必殺技(一つ)

●今回の参加者

 fa0377 ASAGI(8歳・♀・蝙蝠)
 fa0379 星野 宇海(26歳・♀・竜)
 fa0588 ディノ・ストラーダ(21歳・♂・狼)
 fa0868 槇島色(17歳・♀・猫)
 fa0921 笹木 詠子(29歳・♀・パンダ)
 fa0932 RASEN(16歳・♀・猫)
 fa3354 藤拓人(11歳・♂・兎)
 fa5471 加波保利美(21歳・♀・蝙蝠)

●リプレイ本文

昴・A・栞(委員長 猫聖獣ワイルドキャット) 槇島色(fa0868)
飯田 公恵(物静か 大熊猫聖獣アイニー) 笹木 詠子(fa0921)
三雲 姫香(噂好き 蝙蝠聖獣ルナティック・バット) ASAGI(fa0377)
大高屋 亮(ガリ勉 ユニコーン聖獣モノケロス) 藤拓人(fa3354)
羽田 涼子(活発 鷹聖獣バーニング・ホーク) RASEN(fa0932)
鍬辺子 護(気は優しくて力持ち 牛聖獣ブルパワード) 加波保利美(fa5471)

カレンスキー・薔薇騎士(ナルシスト 狼魔獣ケルベロス) ディノ・ストラーダ(fa0588)
セシューム(妖艶 竜魔獣ドラグーン) 星野 宇海(fa0379)



 冥王星の天空に浮かぶヒャクジュウオーは、いつもとちょっと雰囲気が違った。
 まるでロングスカートをはいた女性のような、たおやかな姿。公恵の聖獣アイニーが頭部のヒャクジュウオーだった。
 大きく手を広げると、機体から眩い光が同心円状に広がった。光は雨のように降り注ぎ、割れたものは寄り添い、焼けたものは洗い流されていく。
 およそ目に付く全てが本来の姿を取り戻したとき、公恵は静かに瞳を開けた。
 そこにはじっと見守るクラスメイトの姿がある。懐かしく、暖かい、自分の仲間。
 洗脳を受けていたとはいえ、やった事は許される事ではない。罪滅ぼしのつもりではないが、せめて目の前の傷ついたものは癒していきたい。アイーダの記憶を持った公恵の真なる思いだった。それにみんなは賛成してくれた。
「‥‥ありがとう」
 小さく呟いて、公恵は表情を改める。
「じゃあ、魔獣界へ急ぎましょう。もしアーク・ゴーンが完全復活すれば、ヒャクジュウオーといえど勝ち目はないわ‥‥」
「公恵が場所を知っているんだったな。まずは司令室に戻って設定を‥‥」
『お待ちください!』
 突然に通信が入り、モニターに見慣れない姿が映った。人間‥‥ではなく、どっちかというとタコっぽい。たくさんある触手の二本を手を組むようにこすり合わせ、タコは突き出た口で器用に笑った。
『我々を助けていただいて感謝いたします。星に癒しまで与えてくださるとは‥‥流石はレオン様の見込まれた聖獣の戦士!』
 オカルト好きの涼子の瞳が輝いた。他方、常識外な現状を目の当たりにした亮が戸惑った。二人は二様の言い方で、モニタを指してユニゾンする。
「ま、まさか冥王星人‥‥!?」
『はい! レオン様の命で、あなた方が来られたときのため、魔獣界へのワープシステムを常に起動できるよう準備しておりました。こちらならすぐにでも出発できます!』
 言葉が終わるか終わらないかのうちに、癒されたばかりの地面が揺れる。地面が割れ、土煙を伴って中から競りあがってきたのは、大仰な機械。
 みんなは突然の事に顔を見合わせた。しかし、今から最終決戦に向かうこのときに、他人の優しさに触れられたのが、何となく嬉しかった。誰とはなしにみんなは微笑んだ。



 水盤の間――
「もう一度言ってみろ」
 ハザードが明らかに怒りを宿している。だが身体の中から打ち付けてくるような、邪神の言葉には逆らえない。割れんばかりの勢いで響く邪神の叫びに苦悶を浮かべながら、セシュームは答えた。
「まだ、足りないのよ。あと一つ、最後の生贄が‥‥」
「もう十分力は集めた!」
 今にも斬りかからん勢いでハザードが迫る。
「今、ヒャクジュウオーが魔獣界へ飛んだわ‥‥あの子の‥‥妹の作ったマジュウオーで、倒してきて」
「破壊獣にでもやらせればいい」
「駄目! ‥‥あなたでなければ。その‥‥神をおろす御体の‥‥力慣らしをするのよ」
 怒りに鋭く光るハザードの眼がセシュームを貫く。負けじと見返すうちに、ハザードは忌々しげに背を向けた。
「いいだろう。あのガキどもの最高の恐怖を、アーク・ゴーンへの最上最後の贄にしてやる」


 冥王星から魔獣界近くの宇宙空間にワープした司令室の前に、一体の黒い機体が現れた。ヒャクジュウオーとよく似た容姿だが、放たれる邪悪な気配はこれまで戦った魔獣界のものの比ではない。
『出て来いヒャクジュウオー。俺は気が立ってるんだ』
「ハザード‥‥!」
「よくも!!」
 涼子が咄嗟に聖獣召喚を叫ぼうとする。気がついたのは護で、慌ててブレスのある左手を押さえた。
「だ、駄目だよ一人でなんか!」
「バーニングカッター喰らわせないと気がすまないのよ! 公恵ちゃんをあんな目に合わせて!」
 護を振りほどこうとする涼子だが、その目の前に猫を模したブレスが差し出された。
「怒っているのはお前だけではない」
 栞だ。腰の位置近くまでその手を下ろすと、他のみんなも左手を差し出し、栞の手の上に重ねた。最後に涼子がどこか緊張をはらませた顔で続くと、みんなは一緒に叫んだ。
『獣王合神!!!!』
 緑の光を放つ宝石の中から召喚された聖獣たちが、様々に変形し組み合されていく。ワイルドキャットを頭部に据え、ヒャクジュウオーは完成した。
『ハザード。お前は公恵を貶めた。そしてあの廃ビルで‥‥私に初めて恐怖を与えた!』
 星浮かぶ宙に手をかざす。異空間を割って、その足元から一振りの巨大な剣がゆっくりと降りてくる。
『落とし前は、ここできっちりつけさせてもらう!』
 戴天剣を掴み、ヒャクジュウオーは切っ先を突きつけた。対するマジュウオーは微動だにしない。恐るべき気を漂わせ、静かに立ち尽くすのみ。ややあってハザードは、さして興味もない口調で言葉を投げた。
『なら、とっとと掛かって来い』
『‥‥貴様!』
 戴天剣を斜に構え、ヒャクジュウオーは真っ直ぐ突き込んだ。動かぬマジュウオーに一足飛びで距離を詰め、怒りの勢いのまま栞は剣を振るった。
 剣の銀光が宇宙空間に弧を描く。
 マジュウオーは一瞬早く、その場を離れたのだ。
『遅ぇ』
 声はすぐ横で聞こえた。はっとして振り向きかけたその先、マジュウオーが鋭い回し蹴りを放つ。不意をつかれたヒャクジュウオーはまともに喰らって吹き飛んだ。
『マジュウオー‥‥ポンコツとばかり思っていたが、今の俺についてこられるとは、それなりの能力はあるみてぇだな。なら、こいつはどうだ』
 今度は背に負った巨大な剣の柄を握る。その刀身から闇の色をした炎が噴き出した。軽々と片手で持ちまわして振るうと、闇の炎は切っ先から別たれ、衝撃波となって襲い掛かる。
 咄嗟に反らせた肩口のすぐ脇を、炎の波はすり抜けた。それだけで、厚い装甲をじりりと焼き焦がす。
「強い‥‥」
 素直な感想がこぼれる。亮の頬を冷や汗が伝っていく。その横でミクロが、情報処理モニタの前で忙しげにキーボードを弾いている。
「もうちょっと持ちこたえて! マジュウオー? っていうの? あの機体データさえ解析できれば、何とかなるんだから!」
「組長、また来た!」
 護が叫ぶ。衝撃波が複数、目前に迫っていた。咄嗟に最初のいくつかを避け、続くいくつかを戴天剣で切り裂く。澱みない斬撃は炎を中央から真二つ断ち割る。ずるりと上下に別れていく切断面。
 そのすぐ後ろにマジュウオーの残忍に輝く赤い瞳があった。
『そら』
 からかうような掛け声で、巨剣を振り下ろす。間一髪、ヒャクジュウオーは避ける。
『さて、いつまでそうしていられる?』
 ハザードは攻撃の手を緩めない。執拗にヒャクジュウオーに打ち込んでくる。目の前をかすめ、翻弄するような動き。恐怖感をいや増すような、ギリギリのところを狙っているようだ。栞は避け続ける。その度に炎の残照が、ヒャクジュウオーに焼き痕をつけていく。
 しかし、それもただ避け続けているばかりではなかった。一撃ごとにハザードの軌道や癖が、見えるようになってくる。操縦する栞も、出力調整をするみんなにも、自らの動きの無駄が減っていくのを実感し始めた。
「分かったわ!」
 その時ミクロが嬉々と叫んだ。中央モニタに映るマジュウオーに、解析結果が重ねあわされる。胸の中央、緑の宝石がクローズアップされた。
「あの胸の宝石がエネルギーを制御してるの! あれを壊せば動かなくなるわ!」
「よし‥‥!」
 打ち下ろされる巨剣に向かい、ヒャクジュウオーは戴天剣を振るった。避け続けるだろうと油断をしていたのか、ハザードは剣を弾かれ、胸元に隙を見せた。
『ここまでだ、ハザード!』
 ヒャクジュウオーは深く屈みこむ。マジュウオーの真下から宝石をめがけ、天に昇る竜の如く戴天剣で斬り上げる!
『百獣戴天剣・昇 天 斬!!!』

『遅ぇ』

 背筋に張り付くような、低く、くぐもった声が聞こえた瞬間。

 コクピット中を衝撃が駆け回った。
 栞は見た。マジュウオーの胸に輝く宝石。マジュウオーの剣から溢れる業火と、柄から先がなくなった、戴天剣。
 切っ先は回転して、宇宙の彼方に勢い良く飛び去っていく。
 かつて廃ビルでハザードと対面した時、彼にエアガンが弾き飛ばされた瞬間が脳裏で重なった。
 しかし驚愕に身を竦めている暇など、みんなには与えられていなかった。立ち尽くすヒャクジュウオーの背後に回り込んで、マジュウオーは蹴りを打ち込む。喰らった衝撃のまま吹き飛ぶヒャクジュウオーを追い、その後頭部を引っ掴むと、マジュウオーは自らの動力を付加してさらに勢いを上げた。
 二体のロボットが突き進む先、黒い霧が立ち込める、巨大な球体があった。公恵が緊迫した声で告げる。
「‥‥魔獣界‥‥!」
 あっという間に二体はその大気圏に突入する。燃えんばかりの熱気がみんなを襲い――やがて、激震。
 ヒャクジュウオーは荒涼とした地表に叩きつけられていた。激突のダメージによるエラー警告が、コクピット内を満たす中、くつくつとハザードの笑い声が響いた。
『どうだ、これが恐怖の『力』だ』
 横たわったヒャクジュウオーの背を、マジュウオーは踏みにじる。
『誰にも逆らう事は出来ねぇ。絶対の強さ‥‥絶対の力』
『ハザード‥‥』
 公恵は呻くように言った。恨みや憎しみのそれではなく、悲しげな響きを持った、声。
『どうしてそんなに、恐怖を求めるの‥‥? 私には、あなたが哀れに見える‥‥』
 ハザードから返事はない。代わりに巨剣の炎が激しく燃え上がる。
『この期に及んで減らず口か‥‥恐怖が足りねぇらしいな』
 マジュウオーはヒャクジュウオーの横腹を蹴り、仰向けの体勢にさせた。胸の宝石に炎の先端を定める。コクピットのモニター全面に禍々しい炎が広がる。
『終わりだ』
 その時、彼方から閃光が降った。それはマジュウオーを狙い定め、やむなく彼は引かざるを得なかった。光はそのまま、ヒャクジュウオーのすぐ右脇に突き刺さる――一振りの刀。
『若き聖獣の戦士よ、それを使え! 魔斬刀‥‥我が愛剣の兄弟剣だ!』
 通信から一人の男の声。真上に赤いロボが滞空している。その背後にそびえるアーク城から、たくさんの魔獣や戦艦が宇宙へ向かって飛び出していく。捕らえていた魔獣界人だという事に、ハザードはすぐ気付いた。
『貴様‥‥』
『我が名は薔薇騎士、自由を愛する宇宙海賊! 魔獣界の罪なき人々は我が団が頂戴した!』
 クロスボーンカイザーは、獣斬剣を手にみんなを見下ろす。
『ヒャクジュウオー! この男は自らの心と力だけで勝てる相手ではないぞ! 地球の祈りと優しさがお前達を支えている事を思い出せ!』
『地球‥‥』
 渇ききった喉に入り込んだ一滴の水のように、その言葉はみんなの心に染み渡った。小学校、武野町、家族、楽しい事、辛い事。色々な思い出が頭をめぐる。
「そうだ‥‥みんなが待ってるんだ‥‥」
「宇宙人もね」
 改めて気付いたように呟く護。涼子の顔に、不敵な笑みが戻る。
『こんな所で、負けてる場合じゃない!』
 ヒャクジュウオーから黄金の光が立ち上った。戴天剣を握った指先が動き、ゆっくりと魔斬刀に近づく。
『ふん、いくら逃がした所で、神が目覚めれば無駄な事‥‥こいつらを殺して、すぐに貴様らも恐怖の奥底に沈めてやる!』
 ハザードの剣が再び燃え上がる。今度の狙いは宝石ではなく、刀ににじり寄る右手だ。
『希望など、消えうせろ!』
「させない! モノケロス、ゴールドコーン!!」
 亮の叫びが、ヒャクジュウオーの左手のドリルと化していたモノケロスを呼び覚ます。黄金の閃光を放った一角獣の角は、自立したかのように迫る巨剣の先端を弾いた。
 同時に、ヒャクジュウオーは魔斬刀の柄に手をかける!
 掴んだ手から、凄まじい勢いで黄金の光が放たれる。マジュウオーは思わず数歩、あとずさった。
 確かに、ヒャクジュウオーは動くことすらかなわない状態だったのだ。しかし今や黄金の気迫をまとい、輝く刀を握り締め、雄々しい姿で目の前に立っている。
『決着だ、ハザード!』
 ヒャクジュウオーは天高く飛んだ。高く天に掲げた剣は戴天剣の柄から魔斬刀が伸び、それを取り巻く黄金の光が剣を、天を貫くほど巨大な刀身を作り出す。
『な‥‥! あ‥‥』
 ありえない、という言葉をハザードは飲み込んだ。それを発すれば、その時点で認める事になる。
『これが私たちの、勇気の力! 真・百獣戴天剣! 悪鬼覆滅――』
 輝く剣が、地上でただ見上げているのみのハザードに向かって、落ちて来る。
 ハザードの全身を雷が駆け巡ったようだった。


『轟   沈   斬   !!!』


 一挙だにできず凍りついたハザードの中に、現れたイメージ。


――負ける――


「今よ!」
 黒く埋め尽くされた水盤の間。セシュームが叫んだ。そして、自らの胸に思い切り指を突きたてる。

 影さえも溶ける闇に、セシュームの血が花火のように舞った。