ヒャクジュウオー!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
外村賊
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/09〜04/13
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●本文
――歌いなさい――
闇に打ち勝つ歌を、歌っている。たくさんの声が。
この声に従えば、自分も闇を脱することができるだろうか。
わずかに開きかけた唇を、彼は再び強く閉じる。
(「あなたは」)
歌声の中から、少女が一人、彼の意識を察知して呼びかけてきた。
(「‥‥ねえ。負ける事は、弱い事じゃないよ」)
今の彼には、彼女の言葉は不可解で、意味の通らないものだった。
自分を常に誰かの上に置くことで、ずっと己の存在を確かめ続けてきたのだ。
闇に飲まれ、根底から支えを失い、ハザードの意識はただ虚無感で溢れていた。
敗北を受け止める術も分からないほど、自身の勝利を疑っていなかったのだ。
(「それでも俺は‥‥負けた」)
ハザードの意識は、虚ろなまま、深い闇の中へ落ちていく。引き止めることもできないまま、少女は小さくなる意識へ言葉を贈った。
(「少し休んで。心がくじけない限り、立ち上がれるわ」)
そしてその時、みんなの歌声の中から、一点の光が生まれた。
★
邪神の巫女が歌と共に送り出した、一つの像。かつて邪神が封印された時の記憶。
共感意識の中でみんなが見たのは、闇の無なる波に飲まれる世界で、黄金に輝くヒャクジュウオーの姿だった。
グレートヒャクジュウオーの輝きよりも、さらにまばゆく、燦然と。神々しくさえある白金の光線が、闇の中で燃え立っている。
『百獣王よ! 闇を封ずる力を!!』
この声は、冥王星で封じられていたレオンだ。叫びが轟いた瞬間、ヒャクジュウオーから光が同心円状に広がった。邪神アーク・ゴーンの無たる闇の波を次から次へと、光の波が飲み込んでいく。
そして全てが、白い光に包まれた。
それは、傍観している人間にとって、ただ呆気に取られるばかりの光景だった。光と闇がめまぐるしく入れ替わり、劇的な変化に目がくらむだけ。輝くヒャクジュウオーの中で何が巻き起こったのか、推し量ることはできない。
★
だが、そこで何が行われていたのか、みんなはすぐ知る事になる。
巫女の記憶の中でかつて闇を飲み込み、封じた光が、みんなに向かって語りかけてきたからだ。
『獣の力を宿しし戦士たちよ――私の声が聞こえるか』
「誰‥‥?」
思わず滑り出た声が、しっかりと自分の耳に返ってきた。無の闇の中ではどんなに叫んでも聞こえなかった声。一日と経っていないはずなのに、酷く懐かしく思えた。
その時、光が、みんなの目の前に広がった。
目の前の闇が吹き攫われた途端、自分のすぐ近くに、みんなの姿があることを知った。
防衛組の仲間達、そして、共に歌ってくれた魔獣界の戦士たち。
防衛組のみんなにとって、白い光の中に放り出されたその感覚は、以前であったものだった。
そう、初めてヒャクジュウオーと出会ったときだ。
『私は百獣王』
光が言った。
『私は全ての聖獣と魔獣の魂。君たちが闇の中で歌い、作りあげた一つの強い意志の光が、心を映す鏡である百獣心を輝かせ、私を呼び寄せたのだ』
聞くだけで心のそこから勇気がわきあがるような、頼もしい声だ。
『戦士よ。自らの心に宿る獣を喚(よ)び出すのだ! 私は君たちと一つとなり、闇を払う力を与えよう!』
まばゆい輝きを感じて、みんなはそれぞれに、自分の左手を見た。獣の形を模したブレスが、黄金の光を放っている。
共に戦ってきた聖獣が、魔獣が、強く鳴動している。
それはグレートヒャクジュウオーの神聖なる聖獣王家の光であり、クラウドキャッスルでみんなの窮地を救ったヒャクジュウオーの輝きと同じもの。そして今、みんなを照らす百獣王と同じ力。
『いかなる闇にも立ち向かう、君たちの勇気こそ刃! さあ、出陣だ!』
百獣王に導かれるように、みんなはブレスを構える。
――そして、力強く叫んだ。
★☆★☆★
『獣王武神(じゅうおうむじん) ヒャクジュウオー』第十七話・概要
ヒャクジュウオーとは‥‥地球征服をたくらむ魔獣界と、聖獣界の戦士から地球の防衛を託された武野小学校五年一組の戦いを描く、小学生をターゲットにしたロボットアニメーション。戦いを通して正しき心を成長させる子供達にスポットを当てる。
参加希望者は詳細をよく読み、希望届けに記入の上、締め切りまでに届けを出すこと。
☆演技指針☆
アーク・ゴーンとの決着をつける
〜そして、その後のエピソード
★新設定
百獣心:小さな鏡。大いなる勇気の力で輝き、百獣王の意志を呼び覚ます。
百獣王:全ての聖獣・魔獣に宿る魂。一つの強い意志を持った戦士達の力を借りて巨大な力を顕現させる。その力や容姿は戦士たちの意志の強さに左右され、少しでも乱れれば力は弱まり、消滅する事もある。
☆専門用語☆
・聖獣:聖獣ブレスに封じられた聖獣界の戦士。正義の心によって具現化し、動物をかたどったロボットになる。心の力が弱ければ弱体化、悪ければ召喚さえ出来ない。子供達はブレスで指示を出し、遠隔操作する。大ダメージを受けた時は、数日の修復期間を要する。
・司令室:教室が変形。瞬間移動装置など、さまざまな機能がある。
・聖獣合神:司令室にある宝石を核として、それぞれの聖獣を合体させる。各部分の制御が必要なため、生徒達がコクピットに乗り込む。
それぞれの聖獣が合体後どの身体の部位になるかは、操縦者の意思による。
頭部になった聖獣の操縦者がメインパイロット。その聖獣の能力に準じた強力な必殺技を、一度だけ使える。
・魔獣:聖獣と同じ獣型。この状態ではブレスによる遠隔操作。
・破壊獣:コワ・エネルギーから作られたモンスター。人々を怖がらせてコワ・エネルギーを吸収、徐々に巨大化していく。
・破壊魔獣:魔獣が破壊獣を取り込むことによって人型に変形した姿。聖獣よりも一回り大きく、強力になり、魔獣の必殺に加え、破壊獣の特殊能力が使える。エネルギー制御が必要なため、魔獣界人が実際に搭乗して動かす。
☆希望届け☆
1、希望役(いずれか)
・武野小・五年一組の生徒(前回出演者は同じ役柄が望ましい)
・魔獣界の戦士(同上)
・その他、前回担当脇役など
2、やりたい役柄
・名前
・性別
・外見(簡潔に)
・長所(一言で)
・短所(一言で)
・聖(魔)獣(獣人種族をモデルにしているので、その範囲で決定する事)
・必殺技(一つ)
●リプレイ本文
昴・A・栞(委員長 猫聖獣ワイルドキャット) 槇島色(fa0868)
飯田 公恵(物静か 大熊猫聖獣アイニー) 笹木 詠子(fa0921)
林藤 桔梗(電波系 兎聖獣シンキングラビット) 美森翡翠(fa1521)
大高屋 亮(ガリ勉 ユニコーン聖獣モノケロス) 藤拓人(fa3354)
羽田 涼子(活発 鷹聖獣バーニング・ホーク) RASEN(fa0932)
春野 ウララ(天然ボケ 犬聖獣サイレント・ドッグ) ☆島☆キララ(fa4137)
姫野木 静夜(泣き虫 ハムスター聖獣シャンガリア) カナン 澪野(fa3319)
カレンスキー・薔薇騎士(ナルシスト 狼魔獣ケルベロス) ディノ・ストラーダ(fa0588)
★
闇の中に生まれた一点の光。
二、三度瞬き、次の瞬間、爆発的に闇を裂いた。
その光こそ、全ての聖獣、全ての魔獣の化身、百獣王。
ヒャクジュウオーを囲んで凝縮した光は、凄まじい存在感を放つ光の巨人となった。
みんなは百獣王のすぐ足元で、それぞれのブレスを構え、その勇姿を見上げていた。百獣王の力を宿したブレスの輝きが、無の闇の中でみんなの姿を浮かび上がらせる。
百獣王を前に、みんなが思った事。それは
『誰ひとり欠けることなく――みんなで帰る!』
桔梗は瞳を閉じて念じる。みんなとは、今ここにいるみんなだけではない。一緒に闇に呑まれ、アーク・ゴーンの闇の中に落ちようとしている人達も、共に連れ出すのだ。
共感能力が闇の奥の意識を探す。ややあって、いくつかの意識を捕らえた。
ハザード。巫女とそのそばにいる魔獣界の人間。共に飲まれた幾多の魔獣界の人々。そしてどこかから、微弱なレオンの意識が流れ込んでくる。
レオンはハザードを同じ『親』として案じていた。アーク・ゴーンは自らの子を守るために強さを求めハザードを洗脳し、強さへの欲望だけを取り出して利用したのだ。
「ハザード。あなたを助けたいの。巫女さんも。その側のあなたも」
公恵がブレスに呟く。百獣王の力は公恵の聖獣の癒しの力を具現化する。闇の中に溶け込んでいた人々身体が、光に照らされ、みんなの前に集まってきた。同時にそれは魔獣界の人々に施された強い洗脳を、ゆっくりと、溶かしていく。
「‥‥俺は」
闇を脱したハザードは、邪神に身体を奪われた、半透明の魂だけの姿をしていた。
「このまま、闇と共に消してくれ‥‥」
全てを思い出し、強い罪悪感にさいなまれていた。栞は跪くハザードの前に仁王立ちになる。
「ハザード、逃げるな。それは、お前の嫌った弱い事だ」
ハザードを見下ろし、栞は凍りついた。黒い鎧の隙から見えたのは、栞の胸元にもある、星型の痣。祖父から聞いた唯一の、手がかり。
「お‥‥父、様?」
ハザードははっとして、まじまじと栞を見、信じられぬと言った風にかすれ声で呟く。
「シオリ」
その時、闇が大きく振動した。恐怖の神の、咆哮。
『足掻くな、喪失の恐怖が増えるだけだ』
周りの闇が密度を増し、闇よりも暗い色の剣の姿を取って百獣王を襲った。迫り来る凶刃を、百獣王は退って避ける。高鳴る動悸を抑え、栞は首を振った。
「闇を打ち破り、あなたの身体を取り戻してください」
「長い戦いだったが、貴様ともここで終わりだ。百獣王、私の――魔獣界第一王子カレンの力、受け取れ!」
薔薇騎士が高らかに喚び出した狼は途中でカイザーウイングと合体し、カイザービーストの状態をさらに変形させ、百獣王の手の中へ飛び込んだ。
巨大な銃の姿、獣帝変形・カイザーキャノン。百獣王はそれさえも、光の中に包み込む。
『皆の心を、闇にぶつけるのだ!』
百獣王の鼓舞が響く。
銃口に光が渦巻き集う。みんなで帰る。その思いが、光を燦然と輝かせる。
「アーク・ゴーンの本体‥‥ハザードの身体は、どこにあるか‥‥分かる。そこを、狙って」
桔梗が正確に捉えた方角へ、百獣王はカイザーキャノンの銃口を上げた!
「「「「「「「「百獣心よ、真の力を解放せよ! ファイナル・バ――――ストォォォォ!!!!」」」」」」」」
みんなの声が、一つになる。
方角も、音も、距離も、
何も存在しない、闇に
太陽のごとき銃口から、
莫大な質量を備えた光の
帯が放たれた。
わずかに遅れ
随分久しぶりに聞いた、凄まじい爆音。
ゴオオオオオオオオオッ!!!!
光の帯は途中で幾多の小さな光に分かれた。その一つ一つは、一人一人の聖獣であり、魔獣だ。
「私は、私の力の全てを、あなたたちに託します」
ウララはただ一心に、祈った。戦いの度に戦士を信じ、祈り、捧げてきた王家の力。これが最後であって欲しい、だから、全てを託す。
光の中心にあった黄金の聖獣の力が、光を倍ほどにもさせた。眩むばかりの光は、深い闇中のハザードの肉体――アーク・ゴーンを浮き上がらせ、そこへと獣の散弾が降り注ぐ!
「愛の心にて闇なる存在を断つ‥‥やぁぁぁってやるわ!!!」
涼子のバーニング・ホークが先陣を切る。炎を纏った鷹は、アーク・ゴーンにその身体を激突させる。
みんながいるから発揮できる力。涼子はひしと感じるその思いを、聖獣に乗せた。
「百獣王。力を、貸して」
シンキングラビットの幻影は、みんなの意志の力を具現化し、アーク・ゴーンに確かに傷をつける。
「もう、同じことは繰り返しちゃいけない‥‥繰り返させないんだ!」
静夜としてみんなと過ごしてきたからこそ、そう思えるのだと思う。シャンガリアのシードバレットは、邪神を強く縛り上げた。
栞のワイルドキャットから突き出た刀の上には、一つの影があった。ハザードだ。
猫聖獣がアーク・ゴーンに肉薄する間に、刀と一つになり、炎となって燃え上がる。
「これで、終わりだ!!」
緋牡丹大輪斬りが、邪神の身体を両断する。斬撃と共に、ハザードは自らの身体に入り込んだ。
「てめぇの『強さ』は、もういらねぇ」
『な――!』
初めて、アーク・ゴーンは驚愕した。神の意識を、魂一つが身体から追い出したのだ。
無防備になった神の魂に、更に『思い』が降り注ぐ。
「恐怖の力‥‥あなたの源は、ここで尽きる!」
公恵のアイニーの癒しが、皆の勇気を掻き立てる。
そして、モノケロスのスパイラルホーンが、ついに邪神の中央に、巨大な穴をぶち開けた。
『‥‥何が‥‥』
風穴の開いたまま、アーク・ゴーンは声を上げた。
『恐怖の闇‥‥完全なはず‥‥何が、私を、殺す‥‥?』
「希望だ」
亮は眼鏡を押し上げた。
「‥‥ぼく達の希望は無限、絶対無敵の力だ!」
『そうか』
最後の声は、なぜか安堵したようにも聞こえ――
邪神は、霧のように、消えた。
覆っていた闇はまるでガラスが割れるように、上からひび割れ、バラバラと崩れていく。
星空が覗いた。
山が、木々が、アーク城が。
輝ける百獣王は、いつしか魔獣界の大地に立っているのだった。
★
――三月。
冬の気配も揺らいで、小春日和となった、今日。
『この学校で、特に、一年前の平和を守る戦いを通して築きあげた思い出、経験は数え切れません』
溌剌とした声がマイクを通して体育館に響き渡る。講台に立つ少女は、誇らしげに答辞を読み上げる。
『本日、武野小学校を卒業する事を誇りに思います。生徒代表兼生徒会長6年1組、昴・A・栞!』
カメラのフラッシュが一斉に瞬く。保護者や学校関係者に混じり、報道関係の人間も目立つ。『聖獣防衛組・卒業式』、ニュースや新聞を賑わす事だろう。
卒業生退場と共に開け放たれた入り口から、歌が聞こえてくる。曲目は、闇の中でみんなが歌った、あの歌だ。来年には音楽の教科書に掲載されるとか。
「懐かしいね」
学校の裏手の武野山、学校を見渡せる高台で、静夜が微笑んだ。久々に地球の服に袖を通した彼の横顔は、一年前より少し凛々しく見える。ウララは、静夜――キレイスキーが、魔獣界の新しい王として着実に成長しているのを感じた。
「みんな、どうなってるかなぁ?」
「うーん」
静夜は、少し首を傾げて考え、
「僕達よりは変わってないんじゃないかな‥‥多分」
静夜もウララ――ビューティス王女に、同じような思いを抱いていたようだ。二人は顔を見合わせて笑う。その時が来るのが嬉しくもあり、少し怖くもあった。
そして三人目、黒いスーツを着た男が、山道を見下ろして告げた。
「来たようだぜ」
「姫!」「ウララ!」
ブレスを通さずに聞く、地球での名前。五年一組のみんなが息せき切って登ってくるのが見えた。
「みんな!」
懐かしい顔が二人の周りを取り囲む。やっぱりちょっとずつ、みんな去年とは違っていた。中でも一番目を引いたのが、桔梗だ。
「前髪、切ったの?」
「‥‥そう」
いつも長い前髪で目を隠していたのが、短く揃えてある。フランス人形のような顔立ちがあらわになって、まるで別人だ。
「可愛い〜。似合ってるよぉ」
慣れていないのか、桔梗は顔を赤らめた。前より表情が豊かになった気がする。
公恵と亮は、中学校の制服を着ていた。
「武野中の制服。みんな、ここに通うのよ」
微笑んでくるりと回ってみせる。セーラー服の赤いスカーフと、プリーツスカートが、春の風にそよぐ。何だか大人びて見えるのは、公恵だからだろうか。
「僕のは、武野中のじゃないけどね」
亮が意味深に眼鏡を押し上げる。そういえば女子がセーラーで男子がブレザーとは変な組み合わせである。
「制服がないんだ、KO中には。これは式典用の服」
「じゃあ、受かったんだ!」
亮は晴れやかな笑みを浮かべた。発表の日に母と大泣きしたことは秘密にしておこう。二人におめでとうを言われながら、亮はそっと思う。
「組長は、何か相変わらずだね」
「どういう意味だ?」
と怒りかけて、栞は自分を見下ろす視線に気付いた。この場に唯一の大人、ハザードは、目が合った瞬間顔を逸らす。どう接して良いのかわからないらしい。栞は小さく笑って、話しかけた。
「来てくれたんですね」
「‥‥任務だ」
「たまには、遊びに来てください」
会話にもならない、言葉の交わしあい。でも、それでいいと思う。死んだと聞かされ、寂しくても我慢し続けた、あの時よりは。
「あれ、そういえば涼子ちゃんは?」
ウララが周囲を見渡す。こんな時一番賑やかな姿が見当たらない。するとタイミングよく、当の本人が到着した。
「任務完了!」
駆け上がった勢いで最後に大きくジャンプして、涼子はみんなに合流する。
「防衛組の卒業式を取材しようって野暮な輩がわんさかいてさ。スポーツ万能で防衛組一可愛いあたしが、一挙に引き受けてみんなを先に行かせたってわけ!」
これがきっかけで涼子は、地球を救ったオカルト好き英雄アイドルとしてデビューする事になるのだが、それはまた別の話。すでに息切れも治まった涼子がにっこりと笑った。
「じゃ、全員揃った事だし、メインイベントやりましょ!」
亮が静夜の前に、公恵がウララの前に。それぞれ厚手の大きな紙を持って並ぶ。その間に栞が立ち、こほんと一つ咳払い。
「気を付け!」
久々の組長の号令である。静夜とウララは自然に身体が動いて、瞬時に背筋を伸ばした。
「卒業証書――姫之木静夜。春野ウララ。右は武野小学校の全課程を終了し、ここに卒業することを認める」
「おめでとう」
二人に差し出されたのは、卒業証書だった。考えてもみなかった――思わず、静夜の瞳が潤む。
「王様がこんな事で泣いてどうする?」
「だ、だって、だってぇ‥‥」
「じゃあ、今度はこっちの番」
ウララがほんわか笑って、カメラを取り出した。
「レオンから預かったんです。どうしても行けないから、せめて写真をって」
彼もアーク・ゴーン消滅と共に開放され、今は聖獣界に戻っていた。罪滅ぼしの意識があるのか、聖魔獣界の間を忙しく飛び回っているらしい。
ウララに頼まれ、ハザードが撮影役を承る。学校が見える配置で全員が整列した。
桔梗がブレスを前にかざした。
「『みんな』で、写りたいから」
決戦の後聖獣たちは使命を終え、ウララとに聖獣界に戻っていた。ブレスは通信機能だけが生きるのみだったが、それは紛れもなく一緒に戦った仲間の一部だ。だからみんなも真似をした。
「じゃあ、ちょっと待って‥‥」
ウララがいたずらめいた微笑を浮かべて、目を閉じる。聖獣王家の、金色の輝きがウララから広がり、周囲を満たし――
★
通信音が艦橋に響く。ブレスを操作すると大きな立体映像が飛び出してきた。
懐かしい、地球の建物を背景に、見覚えのある少年少女が写っている。上空にうっすらと彼らの駆る聖獣の姿が浮かんでいるのは、王家の力か、それとも彼らの願いの為なのか。
その中央、柔らかな長い髪の少年が目を真っ赤にしながら微笑んでいた。幸せそうだ。
「ふ、親馬鹿だな」
言葉では写真の送信者への皮肉を言って見せ、カレンスキーはワインの満ちたグラスを口につけた。口元は小さく笑みを浮かべている。
良い友人に囲まれ、成長した弟だからこそ、次代の魔獣界を担うことができる。そう判断して、カレンスキーは魔獣界を去った。
「目標の巨大輸送船、発見!」
「よし――全速前進! 華やかに、美しく、頂戴するぞ」
宇宙海賊船ローゼンメイデンは、キャプテンの号令に応え、宇宙に消える。
★
地球、日本、武野町。
今日、司令室を離れていく彼らの腕に光るブレスに、全ては刻まれている。
縦横無尽に駆け抜けた、数多の聖獣と、巨大なロボ。
魔獣界の苦しみと、散っていった破壊獣。
世界を包む恐怖と、闇を照らす勇気。
あの聖獣を頭部に据えた、巨大なロボが、爆風を背負って高らかに叫ぶ!
『獣・王・武・神! ヒャク ジュウ オー!!』