バレンタインドラマSPアジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
外村賊
|
芸能 |
1Lv以上
|
獣人 |
1Lv以上
|
難度 |
普通
|
報酬 |
1.3万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
02/15〜02/21
|
●本文
〜キューピットの掟〜
一つ、世界中を翼でめぐり、人間の恋の手助けをすること
一つ、何があっても人間に正体を明かしてはならない。翼と恋の弓矢は隠しておくこと
一つ、正体を知られた時は、キューピットは空気に溶けて消え去るだろう
‥‥‥‥中略‥‥‥‥
一つ、キューピットが人間に恋をした場合、運命の神による過酷な試練が課されるだろう
一つ、試練が終わる時、それはキューピット自身が作った物を当該人間に手渡し、告白する時である
一つ、受け入れられた時には幸福が訪れるだろう、拒まれた時には空気に溶けて消え去るだろう
一つ、己が消える覚悟の無い者、人間に恋をすることなかれ
☆
女の子が好きな、たくさんある他愛ない噂のひとつ。
「公園の雑木林の中にある、一番大きな樫の木の下で、好きな人に手作りの物をあげると、その恋は実るんだって話、知ってる?」
「知ってる知ってる。キューピットの樹でしょ」
「キューピットと人間が結ばれた場所‥‥なんて、古クサ。誰がそんなおとぎ話作ったんだか」
「でも、二組の柴村、あの樹でサッカー部の部長ゲットしたらしいよ」
「えー? マジでぇ?」
そう。こんな噂が、意外にも本当だったりする。
キューピットと人間が結ばれた場所には、人に恋する気分にさせる魔法が掛かるから。
あの日の二月十四日。ほんのり甘くて、ちょっと切ない。あなたと、わたしのおとぎばなし。
ほら、見て。
空の上から。
樫の樹に、天使の羽が舞う――
●◎●◎バレンタインドラマスペシャル『キューピットの恋』出演者募集●◎●◎
あらすじ:仕事に訪れたキューピットが、人間に恋をした。掟に記された試練を乗り越えながら、キューピットは人間と想いを深め、公園の樫の木の下で告白し、結ばれる。現代ファンタジー。
役名・役柄、詳細なストーリーは配役決定後打ち合わせにて決めていきます。募集締め切り後、ミーティングルームに集合の事。
配役
・キューピット:鳥系獣人優遇。性別不問。
・キューピットの相手役:性別不問、ただしキューピット役と同じ性別は不可。
・運命の神々:若干名、獣化可。
・その他:キューピットの同僚、相手役の友人、恋のライバルなど
スタッフ
若干名募集。希望者は配役募集締め切りと同日までに、希望を提出する事。
打ち合わせによって、意見を取り入れます。
●リプレイ本文
山田詩音・シオン / 椿(fa2495)
山代舞 / 悠奈(fa2726)
山代美胡 / 森野美月(fa0632)
ストルートス / HIKAGE(fa1340)
レイン / 海斗(fa1773)
シィックザール / 月岡優斗(fa0984)
ラケシス / ノイエ・リーテ(fa2817)
先生 / ラルス(fa2627)
☆
人間の少女・山代舞との恋に落ちたキューピット・シオン。山田詩音として人間に成りすました彼は、運命の神々の与える試練を意識的・まれに無意識的に次々にこなし、舞との親交を深めていく。
その日、ついにシオンはデートの約束を取り付けた。
☆
「お待たせっ!」
人間で込み合う入場ゲート前。緊張して待つシオンの背後から、元気のいい声が掛けられた。
聞き間違えるはずも無い。早まった鼓動と共にシオンは振り向く。
「舞ちゃ‥‥」
そこには、スポーティーないでたちの舞――と、その腕にしっかり組み付いた妹の美胡、そしてなぜか舞の家庭教師。
「山田さんの就職お祝いに、遊園地に行くという話を耳に挟みまして。僕も日頃から親しくさせていただいているので、是非お祝いをしたいと」
「バイトから正社員になって初月給貰ったからって、図に乗らないでよねっ! CD屋の一店員なんかにおねーちゃんは渡さないんだから!」
相変わらず、先生は天然なのか含みがあるのか分からない微笑を向け、美胡はシオンの気持ちに気付いて明らかに敵意をむき出しにする。これも試練の一つなんだろうな‥‥いつもの展開にシオンは苦笑する。
メリーゴーランド、遊覧トロッコ、ブランコ、観覧車。
そしてやはりいつもの如く、常に舞の隣は美胡で、シオンの隣は先生である。
姉妹はとても幸せそうで、シオンはそれだけで何だか穏やかな気分になった。
二人きりにはなれないけれど、舞達が幸せならばそれも悪くない。
「もうすぐハイパーの予約時間だ」
時計を確認して、舞が華やいだ声を上げる。
この遊園地の目玉アトラクション・ハイパー。急勾配と地上八十メートルの巨大ループが売りのジェットコースターだ。絶叫系好きの舞が乗りたいと言い、さっき全員で予約券を取ったのだが。
「やっぱり、嫌‥‥」
美胡が強く舞の腕を掴んだ。
どこからか、コースターがレールを走り抜ける音と絶叫が聞こえてくる。
「無理しなくていいよ。こういうの苦手でしょ?」
「うん‥‥」
舞に優しく言われ、美胡は小さく頷く。しかしそれでは山田と舞の間に誰が割り込むと言うのだ。
「や、山田っ!」
行きかけていた三人は、美胡の声に振り返る。
「喉が渇いたっ、ジュース買って来て!」
「やっほー、シオン♪」
自販機の裏から飛び出したのは愛らしい容姿の少年。
「レイン‥‥」
「いつもお使い大変だねー? 健気な姿が板についてきたって感じ☆ そろそろ婿入り宣言しちゃうのかな〜?」
無邪気な顔でブラックな突っ込みをする同僚のキューピットだ。シオンと同じように翼をしまい、人間に化けている。
「運命の試練は、こんな生易しいものではない」
そして自販機裏から、もう一つ声。
「いずれ彼女が危険に晒される。お前の身勝手な思いで」
翼を隠す事ができないキューピット。
「またぁ、ストルートスはすぐ小難しい、運命の神みたいな事ゆーんだから」
「ごめん‥‥心配かけて」
声のした方――彼が身を潜めている自販機に向かって、シオンは素直に頭を下げる。
「身勝手なのは、分かってる。でも俺、馬鹿だから‥‥この気持ちに嘘はつけないんだ‥‥。その代わり、舞ちゃんは守り通す。何があっても」
ストルートスから答えは無い。自分の事で、彼もまた深く悩ませているとしたら、苦しい事だった。
「ストルートス‥‥」
きゃああっ!!
それは、つんざく様な多くの悲鳴。
シオンがやってきた方角からだ。
振り向く。
遊園地のどこからでも見渡せる巨大ループ。
その頂点で、コースターが逆さ吊りになったまま停止していた。
「‥‥舞ちゃんの恐怖が見える‥‥先頭に乗ってる!」
キューピットの読心能力を使ったレインが、呆然と言う。シオンは聞くや否や、同僚達に背を向けて走り出した。
木立の中、ストルートスはおぞましい物に直面したかのように、顔を歪ませる。
「シオン。これが最後の――」
「最後の試練です‥‥」
ループの頂点に、人には見えぬ二つの影。
怜悧な雰囲気の漂う外人の青年。そしてリスの尾を生やした少年。高所に吹き付ける風に揺るぐ事無く、真っ直ぐ立つ彼らの下には、恐慌に陥る人々の声。
「同胞よ、貴方の答えを見せてください‥‥」
シオンがハイパーの元にたどり着くと、野次馬と係員で人だかりが出来ていた。シオンの姿を見つけるなり、美胡がかけてくる。
「山田ぁ! おねーちゃんが‥‥」
「舞ちゃんは助ける!」
美胡の傍を通る時、さっと頭をなでて、そのままシオンは人だかりの中に駆け込んでいく。人々を押しのけ、ループの真下へと急ぐ。
――助ける? どうやって?――
突如として聞き覚えのある声が、頭の中から響いてきた。
「先生!?」
心に囁く力は、人を誘惑し、堕落させる者の力。
――そう、僕は悪魔です‥‥あの頭のお堅い神々に頼まれましてね――
くつくつと、彼は心の中で笑う。
「一分経過ぁ」
運命の神の少年がぱちりと指を鳴らす。
舞の耳元で、ぎり、と軋む音。見れば、安全バーを固定しているネジが、少しずつ緩んできている。
――おや、安全具が脆くなっているようですよ。そんな遅い足で走っては、間に合いませんね?――
「うるさいっ!」
シオンは見渡した中にレール直通の非常階段を見つける。係員の制止も聞かず、シオンは柵を飛び越え、階段を駆け上リ始めた。
ゆっくりと、ネジが軋む。なす術も無く舞は、恐怖に堅く目を閉じ、顔を真っ青にして、震えた。
――山田さん‥‥!――
なぜか、その名が頭をよぎる。
ネジが軋む。舞の背後で、悪魔はレールに上がってくるシオンの姿を認める。
「さあ、お手並み拝見と行こうじゃないか‥‥」
楽しげに、口元を歪ませる。
野次馬達はレールに現われた人影に、悲鳴と驚きを発する。
頭上にはコースター。舞が乗っている先頭車両の真下へは、少し歩かねばならない。
足下は不安定だが、仕事柄高所には慣れているのが救いだ。
慎重に足を進める。
「おねーちゃん! 山田ぁ!」
ざわめきの中で、美胡の悲痛な声が聞こえた気がした。
人魚姫もさ‥‥ちゃんと気持ちを伝えられていたら、変わったのかな‥‥
美胡がボランティアでやっている、図書館の読み聞かせを二人で見に行った時の事。
帰り道、ぽつりと舞が言った言葉が思い浮かんだ。
一人では無理でも、二人ならもっと幸せな道が選べたんじゃないかな‥‥
ガキン!
その音で正気づく。舞の安全装置が、完全に外れた。
「舞ちゃん!」
慌てて駆け出そうとした瞬間、足がレールの隙間に取られた。
「うっ‥‥!」
身体が傾ぐ。舞がコースターから投げ出される。このまま倒れても、舞を受け止められる距離ではない。
翼を出して助けるのは、とても簡単だ。
そしてシオンは空気に溶けて消える。
その後、舞はどう思うだろう?
「一人では無理でも‥‥」
シオンは傾く体で、もう一方の足を前へ出した。その足に全ての体重をかけ、自身を前へ押し出し、倒れた。
空を見上げる。舞の身体は風に流されているのか、シオンの居る場所から徐々に離れていく。
「舞ちゃん!」
舞は全身で風を切って落ちるのを感じていた。
――死ぬの‥‥かな‥‥
ぼんやりそう思う。
その時。
「目を開けて! 手を伸ばして!」
はっきりと声が聞こえた。
目を開けると、レールに横たわったシオンが、身を乗り出して手を差し伸べている。
「山田さん!」
無我夢中で、舞は手を伸ばす。
一人では駄目でも、二人なら‥‥
二人は手をとった。
その瞬間、すさまじい重みがシオンの腕に掛かる。舞に掛かった重力は予想以上で、あっけなくシオンは舞に引きずられた。
レールから身体が離れる。
「グズ。ドジ。バカ。マヌケ。フツー想像つくだろ」
何かに足をつかまれ、シオンはレールに逆さ吊りになったまま止まった。舞はシオンの手をとったまま気を失っている。彼女も何かに支えられているかのようで、シオンに重みが伝わった来ない。
「見せてもらいましたよ、貴方の答え‥‥」
もう一つの声。人間には、決して見えざる存在の声。
リス尻尾の少年がシオンの足を支え、翼をはためかせた青年が舞を抱きとめている。
落ちたはずの二人は、いつの間にか彼の身体はレールの上で横たわり、舞はシオンに抱きとめられていた。
☆
それから、数日。
姉の姿が無い。美胡は家を飛び出した。
舞を探して入った彼女の部屋の中で、一枚のメモを見つけたのだ。
急がなければ、舞が――
「山代 美胡!」
角を曲が曲がる直前、きつい口調で呼び止められた。声のした方へ向くと、そこにはやわらかい笑顔を浮べた少年が立っていた。
「‥‥読み聞かせのボランティアをしてる山代先輩だよね?」
彼の声は、呼び止めた声とは違う。不安げに周囲に目をやる美胡に、少年はゆっくりと近付く。
「僕、同じ中学の新聞部のレイ、って言うんだけど、キミの事、取材させてもらってもいい?」
たじろぐ美胡をよそに、レイ――レインは壁の向こうに生えた木にウインクを送る。そこには、美胡を呼び止めたストルートスの姿があった。
――このぐらいの援助なら、今の神々ならお許しになるだろう‥‥それとも、これも神の意思か?――
かつて運命の試練をしくじった自分に、友の幸せの手伝いをさせることは。
美胡のメモに記された言葉‥‥
『最初に出逢った場所で待ってる 山田詩音』
☆
思えば、この樫の樹で出会った時以来かもしれない。
こうして二人きりになったのは。
「聴いてて」
シオンは緊張を咳払いでごまかし、軽く息を吸い、歌い始める。
恋するキューピット 人の心が読めなくなる
代わりにキミと出会い 世界は輝いた
どこからか、ギターの伴奏がついてくる。構わずシオンは歌い続ける。
出会いは、舞の飼い犬に驚いて木から落ちると言う情けないものだったけど。
「あなた、名前は?」
「シオン‥‥山田、詩音‥‥」
美胡ちゃんや先生や、たくさんの人と関わって。
「人魚姫‥‥って?」
「知らないの!? ちゃんと小学校出てるの!?」
「こら、みうちゃん。‥‥だったら山田さんも一緒に観に行く?」
「音楽は、好きだな。色んな人の心に、色んな幸せを届けられる」
「そうだね‥‥ふふっ」
「ん?」
「何だかさ、あなたといるとほっとする〜」
「そんなこと無いよ、頑張ってるよ! 一生懸命。頑張れるよ‥‥」
「目を開けて、手を伸ばして!」
「山田さん‥‥!」
色々あった。辛かったけど、楽しかった。
だから。
「君を思って、作った歌だ。初めて作ったから、上手くなかったかもしれないけど‥‥」
シオンは笑って、手書きの楽譜を差し出した。
「君が、好きです」
舞はその言葉に大きく目を見開く。やがて、彼女はくすくす笑い始めた。
「バレンタインデーなのに‥‥私が告白されちゃった」
「そういえば‥‥」
はたと気付いた瞬間、シオンの胸に舞は飛び込んできた。
「ありがと‥‥私も、あなたと一緒に居たい‥‥」
心臓の高鳴りと共に、シオンの背に翼が広がった。白い、天使の翼。
それは吹き込んだ風に晒されて、一枚一枚の羽になって、シオンから離れていく。舞は何が起こったのかわからないまま、その翼を眺めていた。
「シオン――」
「ラケシス様‥‥に、ちっこい神様」
「ちっこい言うな!」
舞の背後に、いつの間にか神々が立っていた。
「貴方は試練に打ち勝った。これよりは人となり、見えざる運命に立ち向かう存在にならねばならない‥‥」
その強さがあるか。神々の試練は、それを試すものであった。シオンは二人に頷いて返す。
「忘れないで下さい。同胞よ。試練は始まりに過ぎません。これからを築くのは、全て、貴方達次第‥‥」
「まーなんだ。お前みたいなバカなら、悩み無く過ごせるだろーぜ」
二人の姿が、掻き消えていく。いよいよキューピットの力を失い、運命すらも見えなくなるのだ。
「ふん‥‥良い曲じゃないか」
樫の木の上で、悪魔はギターを下ろした。
「損な役回りだな、我々は」
美胡が駆けつけたとき、二人は、舞い散る白い羽の中で抱き合っていた。
「う‥‥」
怖かった。シオンといると、舞が急に遠くへ行ってしまいそうで。
そして今、見たくもなかった光景がそこにある。
次から次から涙が溢れてきて、止まらない。いても立ってもいられず、美胡はきびすを返した。
途端、誰かに思い切りぶつかってしまった。
「ごめんなさ‥‥」
「‥‥あれ、泣いてるの?」
レインは優しく微笑んだ。女の子の幸せは大好きだ。苦い思いをして、ちょっと大人になった彼女にだって、幸せになってもらいたい。
相手は――
「あの、翼‥‥」
恐る恐る、舞はシオンを見上げた。シオンは安堵と幸福で、穏やかに笑っていた。
「君のお陰で、人魚姫にならずにすんだ」
強く抱きしめる。舞のぬくもりが、一層強く伝わってくるようだった。
「何者でも構わないよ‥‥私は貴方の心を好きになったんだから!」