ヒャクジュウオー!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
外村賊
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/16〜04/20
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●本文
ここは武野(ぶの)小学校、五年一組の教室。
四時間目の授業、算数の真っ最中だ。
まじめに授業を受ける子もいれば。
昼寝の真っ最中の子がいて。
友達に回す手紙を書いている子がいて。
いち早く給食のことを考えている子もいたりする。
そして、何気なくぼんやり窓の外を見てる子――
「何だ、あれ‥‥」
春らしく晴れ渡った空。何処までも青く広がるそこに一点、赤く光る星のようなものが。
それは瞬きながら、だんだんと大きくなっているみたいだ。
気のせいかと二、三度まばたきをする間に、ぐんぐんと大きくなっていく。
いや、違う――
猛スピードで接近してきている!
「大変だっ!」
「こら、授業中だぞ。寝ぼけるなんて‥‥」
あわてて立ち上がったその子に、先生も最初は怖い顔。でも、お小言を始める前に気が付いた。
星に見えたものは今ははっきりと形が分かるぐらいに近づいていた。
ロボットだ。
ライオンの頭に鳥の翼。トカゲの尻尾に牛の角。いろんな動物を混ぜ合わせたような、人型のロボットが一体。赤々と燃える炎に包まれて、隕石のように落ちてきている。
それも、そう。
真っ直ぐ、武野小学校の――五年一組の教室に向かってきている!
ごうごうと風を切る音が、窓ガラスをビリリと揺らし始めた。たちまち皆はパニックだ。
「い、いいか! こー言うときはままままず机の下にだな‥‥!」
「それじゃ死んじゃうよ先生!」
「逃げなきゃ!」
「だめだ、間に合わない!」
ロボットの頭が校門を越えた。炎の赤がクラスのみんなを照らす。
「きゃあああっ!」
女の子の悲鳴。
教室が真っ白な光に包まれる。
しかし、いつまでたってもみんなが想像したような衝撃は訪れなかった。
――地球の子供達よ‥‥――
代わりに聞こえてきたのは、凛と、落ち着いた、しかし、苦しげな声。
目を開けると、教室も、校庭も空もは跡形もなくなって、そこはがらんとした真っ白な空間になっていた。みんなの目の前に、降ってきていたはずのロボットが悠然と立っている。あちこち焦げ、大きくえぐられたような部分も見える。
「すげぇ、学校よりデカいぜ‥‥」
「でも、ボロボロだよ‥‥」
――私は百獣王‥‥。聖獣界の戦士だ――
さっきの声で、ロボットが名乗った。
――地球に危機が迫っている‥‥悪しき心を持つ神アーク・ゴーンを復活させる為に、魔獣界の者達が地球侵略に乗り出したのだ‥‥このままでは、地球が悪しき心に満たされてしまう!――
「あなたは‥‥地球を守るために?」
――そうだ。‥‥しかし、地球までの戦いで聖獣界の戦士たちは皆倒れてしまった‥‥残る私も、ほとんど力が残されていない‥‥。地球の子供達よ、私の使命を受け継いでくれ――
「くれ‥‥って、地球を守れって事!?」
「無理よ、そんな‥‥」
白い空間にどおぉぉん、と、底からせりあがってくるような地響きが起こる。百獣王は軋みながら音のするほうへ首を向けた。
――次元バリアもこれ以上もたない‥‥時間がない‥‥危機はもうすぐそこに迫っているのだ――
百獣王の声は途中途中にノイズが入り始め、その姿は徐々に透け始める。そしてまた、地響き。さっきより大きくなっている。
百獣王は両手をみんなの前に、ゆっくり掲げた。
――私の‥‥残った力を、君たちとこの教室に分けよう‥‥――
すると、百獣王の身体からまばゆい光があふれ出した。まばゆさに目をすがめるみんなの前で、百獣王の身体がばらばらに弾けた。それは一つずつ、光る動物の姿になって、みんなに飛び込んできた。
狼 狐 狸、猫 虎 獅子、兎 リス ハムスター、鷹 小鳥 鴉。
熊 パンダ アライグマ、一角獣 牛 豚、竜 蛇 トカゲ、蝙蝠 亀 猿。
驚いているうちに光はみんなの左手首に集まり、ゆっくりと消える。その後には動物の顔がデザインされた腕時計のような物が忽然と姿を現した。
――聖獣ブレスだ。正しき心をもって『聖獣召還』と叫べば、心に住まう守護聖獣が現れる。ブレスに声を掛ければ、聖獣は君たちの心のままに戦うだろう――
その声はブレスから、かすかにもれ出ていた。
――私は君たちの中に眠る正しき心に導かれ、ここにたどり着いた。その心があればきっとこの守護聖獣たちを召喚することが出来る‥‥必ず‥‥――
声が小さく消えていくのと共に、真っ白の空間も上からゆっくりと、霧が晴れるように消えていった。
算数の授業中の黒板、教科書、ノート。給食室から漂ってくる、かすかな給食の匂い。
いつもの教室――でも。
「みんな、見て!」
窓の外の景色が、一変していた。
いつもどおりの町並みに、大きていかつい、黒いロボットが立っている。百獣王と同じく、何かの動物をかたどっているが、その威圧的な物々しさは、はっきり百獣王とは違っている。
『百獣王、隠れても無駄だ! お前を倒し、われらはこの地球を手に入れる!!!』
ロボットから、スピーカーを通した怒鳴り声が響く。
武野小、五年一組のメンバーはお互いの顔を見合わせ、そして、自分の左手首に目をやった。
そこには間違いなく、白い空間の中で授けられた、聖獣ブレスがあるのだった。
☆★☆★☆★
『無敵聖獣 ヒャクジュウオー』ヴォイスアクター募集!
4月よりの新ロボットアニメの声優を募集します。希望者は詳細をよく読み、希望届けに記入の上、締め切りまでに届けを出すこと。
また演出家・絵コンテなど裏方も若干名募集。当番組で挑戦したい事など、届けに書いて提出のこと。
☆詳細☆
地球征服をたくらむ魔獣界と、聖獣界の戦士から地球の防衛を託された武野小学校五年一組の戦いを描く、小学生をターゲットにしたロボットアニメーション。戦いを通して正しき心を成長させる子供達にスポットを当てる。
・守護聖獣:ブレスに封じられた聖獣界の戦士。正義の心によって具現化し、動物をかたどったロボットになる。心の力が弱ければ弱体化、悪ければ召喚さえ出来ない。子供達はブレスで指示を出し、遠隔操作する。
・魔獣界:人々の恐怖心からコワ・エネルギーを集め、その力で悪しき心を持つ神アーク・ゴーンを復活させるべく、地球に攻め入ってきた。
・破壊魔獣:基本は守護聖獣と同じだが、コワ・エネルギーを取り込むことによって聖獣よりも一回り大きく、強力になっている。しかし魔獣界人は協調性がないため、戦力的には子供達の複数の聖獣とは毎回同程度の強さである。エネルギー制御が必要なため、魔獣界人が実際に搭乗して動かす。
☆希望届け☆
1、希望役(どちらか)
・武野小・五年一組の生徒
・魔獣界の戦士
2、やりたい役柄
・名前
・性別
・外見(簡潔に)
・長所(一言で)
・短所(一言で)
・守護聖(破壊魔)獣(獣人種族をモデルにしている為、アクターの種族と同じくすると、役がつかみやすいだろう)
・必殺技(一つ。バトルを盛り上げるもの)
●リプレイ本文
―声の出演―
獅堂 吼(熱血 獅子聖獣ブラスト・リオン)‥‥谷津・薫(fa0924)
昴・A・栞(委員長 猫聖獣ワイルドキャット)‥‥槇島色(fa0868)
三雲 姫香(噂好き 蝙蝠聖獣ルナティック・バット)‥‥ASAGI(fa0377)
大高屋 亮(ガリ勉 ユニコーン聖獣モノケロス)‥‥藤拓人(fa3354)
鍬辺子 護(気は優しくて力持ち 牛聖獣)‥‥美角あすか(fa0155)
綾小路 円(物静か 亀聖獣センキオー)‥‥日下部・彩(fa0117)
カレンスキー(ナルシスト 狼魔獣フェンリル)‥‥ディノ・ストラーダ(fa0588)
リリス(天然天才科学者 狐魔獣リトルフォックス)‥‥choco(fa1587)
★
武野町の商店街に現れた、二体のロボット。
「地球‥‥宇宙の辺境とあって、全く野蛮な景観だ」
狼の頭部を持つ人型のロボ、フェンリル。
「未開だからこそ純粋な『恐怖』を多く得られるというもの。封じられし神、アーク・ゴーン様を復活させる力、コワ・エネルギーの源を‥‥」
そして同じく、狐頭のリトルフォックス。
魔獣界の戦士が操る、破壊魔獣。
突如現れたロボットに逃げ惑う人々の中、フェンリルは周囲を見渡す。
「しかし、百獣王はどこへ隠れた?」
二体は百獣王を追って武野町へ降り立った。ここまでに散々傷を負わせていて、遠くへ逃げる力など残っていないはずだが、百獣王の巨体はどこにも見当たらない。
「ならばここで一暴れすればいい」
リトルフォックスは手にした巨大な銃器をガチャリと鳴らした。
「破壊や恐怖の邪魔立てをするのが、百獣王の趣味だからな」
「フン‥‥君の提案というのは気に食わないけれど。この殺風景を恐怖で美しく彩るというなら、やぶさかではない」
「クク、地球の大気圏内での性能テストも兼ねて、派手にやるとしよう‥‥」
☆
「漫画やアニメじゃあるまいし、あり得ないよ、こんなこと!」
ロボットを出して地球を救う? 現実的な亮には、受け入れがたい現象だ。
「じゃああれも全部嘘だって言うのかよ!」
吼がいきり立って窓の外を指差す。学校のそばの商店街をロボットが攻撃している。緊急要請を得てやってきた防衛隊が戦車や戦闘機で威嚇するが、まったく止まる気配がない。
爆発音。黒い煙がぼっと立ち上がった。
「昨日遅くまで勉強してたから、不覚にも授業中に眠っているんだ、僕は」
亮は聖獣ブレスを取り外そうと試みるが、いくら引っ張っても緩みもしない。乱暴にする分、手首が痛いだけだ。
亮だけではない。いきなり地球を託されて、戸惑う生徒がほとんどだ。
「うろたえるな、痴れ者が!」
「げ、組長‥‥」
学級委員・栞の、小学生とは思えぬドスのきいた喝。みんなはびっくりして静かになる。
「現にシマを荒らす不届き者がいて、我々はそれと戦う力を得た。夢でもなんでも、あれを倒し、武野町を、地球を守るのが通す筋だろう! 違うか!?」
「戦うとか倒すとか、乱暴だよ。何か理由があるのかもしれないし、まず話し合ってさ」
静けさを破って、おずおずと護が言った。クラスで一番背が高いのに、とても控えめな言い方だ。活発な栞にはそれが我慢できない。
「あ‥‥」
栞が軟弱者!と怒る前に、円のかすれるような声が割り込んだ。
窓の外。明らかに被害が拡大している。
狼頭のロボが、剣になった手足をひらめかせる。切り刻まれたビルは、何だか分からない、変な形になってしまった。そのビルだけではない、狼ロボは意図的に、変な形に刻んでいるのだ。
狐ロボのほうはまだ分かりやすく、手にした火炎放射器でここかしこに炎を放っている。
「このままじゃあいつら、地球征服しちゃうんだぞ! それでもいいのかよ!」
いてもたってもいられずに叫んだのは吼だ。栞が賛同した以外は、みんな口をつぐんでいる。
「俺は一人だって、戦うぜっ!」
吼は――吼だけは、百獣王に出会ってからずっとうずうずしていたのだ。
俺もテレビのヒーローみたく、ロボットを呼んで戦えるんだ!
そんな風に。
高くブレスを掲げ、目の前に持ってくる。
ブレスに変じた光の獣は、ライオンに似ていた。あれがロボットになるのだとしたら、さぞやカッコいいことだろう。わくわくと心躍らせながら、息を吸い、合言葉を叫ぶ!
「聖獣召喚!!」
声に応じて、聖獣ブレスの蓋が開いた。真っ白の光がブレスから溢れる。光はみんなが見ている間に獣の形になって、教室の後ろ――ランドセルを置くためのロッカーの一つへ飛び込んだ。見覚えのないシャッターがそのロッカーを閉ざす。
シャッターにはブレスと同じデザインの動物の顔と『出撃』という文字が書かれていた。
ブレスの中身は四角い宝石が埋まっていて、そこから溢れる光が長方形のモニターを空に描き出している。発信準備中と表示され、脇に添えられた数字が徐々に減っていく。
――3、2、1――
学校の時計がくるりと裏返り、ブレスと同じ宝石が現れる。
モニターが、発信準備完了を告げる。
同時に宝石が光の柱を空へと放った。
それは真っ直ぐ商店街へ、破壊魔獣のほうへ伸びていき、その頭上で再び獣の形へと変わっていく。
手足が大きな皮膜の翼になった、三角の耳を持つ聖獣は、高い声でキイィィィッ、と鳴いた。
それはどう見てもコウモリ。
「キャーッ、凄い凄いホントに出たぁ☆」
吼に代わって騒いでいるのは、クラスで一番小柄な女の子、ミクロ。ミクロも一緒にコマンドを叫んでいたのだ。吼のブレスは相変わらず、光の一筋すら漏れていない。
「な、何で俺のは出ないんだ〜!!」
「また幼稚なことでも考えてたんでしょー」
「何をう!? チビミクロのくせにっ」
「怒るってことは図星だね? まったくもう、子供なんだから」
入学以来腐れ縁の二人、会話と言えばいつもこんな調子だ。
ミクロのモニターには、コウモリの名前らしき単語が映し出されている。ルナティック・バットというらしい。
なんだか親近感がもてるのは、自分のランドセルと同じ色をしているからかもしれない。
『聖獣だと? まだ生き残りがいたとは』
フェンリルのコクピットで、カレンスキーは流麗な表情を曇らせた。
『これ以上、あなた達の好きにはさせないんだから!』
いざ目の前にすると一回り大きい破壊魔獣。胸に沸いた恐怖の心をおして、ミクロは啖呵をきった。
鋭い視線を投げかけるフェンリルに、くつくつと、どこか狂気めいた笑いを響かせリトルフォックスが並ぶ。銃口をルナティック・バットの頭部へ向ける。
『『バット』出てきたバットに攻撃してみようではないか‥‥クックック』
『‥‥美しくない』
『負け惜しみか? 他星の言葉でユーモアを追求するなど、おバカなお前ではできん芸当だからな』
『芸術的センスがないと、言っているのだ』
あまりに寒いギャグにしばらく凍っていたミクロだが、魔獣界人よりも早く、今が戦闘中であることを思い出した。
モニターから必殺技の合言葉を読み出す。
『ルナちゃん、今よ! ハウリング・エコーっ!』
ルナティック・バットの口が開き、超音波が放出される。高速の音の波が口喧嘩中の破壊魔獣を襲い、爆発する。
「やった!」
思わず飛び上がるミクロだが、それもつかの間。
煙の中からフェンリルの剣が飛び出してきた。不意をつかれ、ルナティック・バットはまともにくらう。
ルナティック・バットが墜落するのと同時に、教室でミクロは尻餅をついた。
「どうしたんだミクロ!」
「分かんない‥‥なんかドンって、押されたみたいで‥‥」
『このような不意打ちは、醜い戦い方だ』
墜落したルナティック・バットにフェンリルが迫る。機体の異常と相手の出力がモニターに現れ、ミクロは顔を青くした。
「そんな、ルナちゃんの十倍の攻撃力‥‥!」
聖獣の衝撃が召喚した者にも伝わる。その事実を知り、五年一組は冷たい空気に包まれる。
本当に戦っているのだ。
『最期はこの手で美しく散らせてやろう!』
フェンリルが両手の剣を振り下ろす。
「きゃあああっ!」
仲間が、やられる!
ミクロの悲鳴を間近に聞いたとき、クラスメイトの何人かに、純粋な感情が浮かび上がった。
助けなきゃ!!
切っ先が迫る。恐怖でミクロは動けない。
――もうだめ――!
ぎゅっと目を瞑ったその時、激しい衝突音が耳を裂いた。
しかし、自分に衝撃は全く来ない。
恐る恐る目を開くと、獅子型の聖獣が鋭い爪を剥き出し、フェンリルの首を引き裂いた、まさにその光景が目に入った。獅子聖獣はフェンリルの上に乗って動きを止め、ルナティック・バットのほうを振り向いた。
『ミクロのくせに、一人で突っ走るからだよ』
『吼クン?』
『危ない、離れて!』
護が叫ぶ。フェンリルが体中からスパークを発している。
『爆発する!?』
吼のブラスト・リオンは慌てて飛びのいた。その代わりに、フェンリルには赤いサーチライトが照射される。
カレンスキーは異常を示す計器の復帰を試みるが、見込みは少ない。
「く‥‥今回の破壊合体は首の付け根に装甲の甘さが見られたが――わずか一瞬で、それを見破るとは――」
しかしその言葉とは裏腹に、カレンスキーの顔には笑みが覗く。
強い相手に美しく勝利することこそ、カレンスキーの望む戦い。
唯一起動している正面モニターに、突っ込んでくる牛型の聖獣が見えた。
『目標、ロック・オン! スタッグ‥‥』
護の牛聖獣の大きな角が、フェンリルを挟み込む。
『ブルホーン!』
モオオオオッ! 鼻から蒸気を吐き出し、物凄い力でに上空へと放り上げる。
「‥‥また会おう、美しき獲物達!」
閃光がほとばしり、フェンリルはそのまま爆発する。そこから、聖獣に良く似た狼のロボットが離脱する。
「あ‥‥だめ、町が、燃えちゃう‥‥」
フェンリルの破片が炎の玉となって町に降り注ごうとしている。円の亀聖獣センキオーは戦場に降り立ったものの、足が遅く、とてもではないがブラスト・リオンのようにはできない。
「お願い‥‥センキオー。町だけは、守りたいの‥‥」
円は祈るように、両手を組み合わせる。するとその甲羅から甲板が数枚飛び出した。それは周囲に光をまとった盾と化し、火の玉を全て防ぎきった。
リトルフォックスのパイロット・リリスも焦りを感じ始めていた。
『これほどの聖獣がすでに地球に降り立っていたなど! 理論上ありえないっ!』
『ありえないのは、今日の出来事全部だっ!』
思わず聖獣召喚してしまったものの――亮は地球の科学技術を越えたメカ達を、まだ信じきってはいなかった。胸の奥にあるわだかまりは、仲間の危機を放ってはおけない衝動か、理解不能なものに対する苛立ちか、自分でも分からない。
とにかく、この状況を切り抜ける。
ユニコーン聖獣モノケロスはリトルフォックスに突進する。角が高速回転し、鋭利なドリルと化す。
『単機突貫とはタンキな馬めっ!』
『そうはさせん!』
モノケロスに火炎放射器を向けたリトルフォックスの背後から、鋭い声が掛かる。栞の猫聖獣ワイルドキャットが、全身に装備した砲門を全てリトルフォックスに向けている。
『このくされ外道がぁ‥‥鉛玉喰らって往生せいやぁああァァッ!!!』
ワイルドキャットの必殺・鉛時雨。その名の通り弾丸の雨が、リトルフォックスに降り注ぐ。
リリスはその威力の前に恐怖で――
『な、何だあの猫聖獣のスラングは! この頭脳では理解不能! ああ、何を言ったんだ、気になる!』
いや、未知なる文化の壁に立ち尽くし、その攻撃を一身に浴びた。
『EVOCATION!』
真っ黒に焼けたリトルフォックスの腹部に、モノケロスのドリルが、深々と突き刺さる。再起不能の大ダメージだ。
『ぐぬぬ〜、私に理解できないものはない! 出来ないものは滅ぶべき! 死なばもろとも世は情け〜!』
混乱して意味不明な言葉を放ち、リリスはコクピットの、ドクロマークが付いたボタンを押した。
リトルフォックスの口に、光が集まる。言葉の片鱗から何事かを予測した亮が、角を引き抜いて後退する。
『まさか、自爆する気か?』
『クックッ、当たらずしも遠からず。行け!』
超高周波で周囲の敵を、自らも巻き込んで破壊する技、ギガノボイス。予想以上のスピードで迫る衝撃に、逃げかけていたモノケロスとワイルドキャットは追いつかれる。自らにもトドメを刺したリトルフォックスは、爆発の衝撃を利用して、内部の狐型魔獣だけを離脱させる。
『覚えておれー、聖獣どもぉぉぉっ』
リトルフォックスに咥えられたリリスの捨て台詞が、その姿と共に、次第に小さくなって消えた。
一方、亮と栞は自分達に衝撃が伝わらないことを不思議に思った。
爆煙が晴れると、そこにはセンキオーの盾があって、二体の聖獣を守っているのだった。
『円、お前か。助かった』
『‥‥ありがとう』
『‥‥そんな』
二人に礼を言われ、慣れない円は恥ずかしくなってうつむいた。
でも、悪い気分じゃない。
彼らは、力をあわせて破壊魔獣を倒したのだ。戦い終えた聖獣たちは、どこか誇らしげに見える。
『な、やっぱ、こういう時って、決め台詞言った方がいいよな?』
吼が、うずうずと話を切り出した。
『決まっている。獣王武神(ジュウオウムジン)・ヒャクジュウオー! だ』
『ええっ、無敵聖獣! じゃないのかよ〜』
さらりと言った栞に、吼が口を尖らせる。張り詰めていた空気が一気に溶け、自然と五年一組のメンバーに笑いが戻る。
『なんにせよ、我ら『聖獣防衛組』の華々しき初戦大勝利だ』
『チーム名も決めてるし!』
防衛組の笑い声を、春の心地よい風が、青空へと舞い上げていった。