ヒャクジュウオー!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 外村賊
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/14〜05/18

●本文

 PTA会長との対決に何とか勝利を収めた防衛組。
 今日は待ちに待った遠足の日だ。
 五年生の行き先は『武野動物園』。リュックにお弁当やおやつを詰め込んで、みんな楽しそうだ。

「こら、お前ら。あんまり羽目をはずすんじゃないぞ! 五年生にもなって迷子になんかなったりしたら、恥ずかしいぞ!」
 大隈先生が脅しをかけるも、ちゃんと聞いている子はほとんどいない。やんちゃな生徒の多い五年一組、先が思いやられると先生は頭を抱えてしまった。



 武野町の外れ。不景気で倒産した会社が、そのまま廃ビルになっている。うろつくのは野良化した犬猫。そして――
 廃ビルの中は、荒れ果てたがらんどうのオフィスではなかった。闇の色で統一された、天地も分からぬような空間。魔獣界の科学技術を使い、魔獣界の一部をビルの中にシンクロさせてあるのだ。
 空間の中で際立って目立っているのは、中央に安置された巨大な銀の水盤。水盤の上には、それもまた巨大な黒い四角錐が、頂点を下に向けた状態で浮いている。
 頂点からどろりとした闇色の液体が、ぽつり、ぽつりと染み出ては、水盤に波紋を作っている。
 魔獣界のエネルギー源、コワ・エネルギーである。

 そこに、人影が一つ、現れる。
 手には恐怖探査機『コワ・ミツケラー』が握られている。
 人影は水盤の前に立つと、ミツケラーをその中へと落とした。

「偉大なるコワ・エネルギーよ。地球の恐怖を取り込み、新たなる破壊獣となれ!」

 ゴゴゴゴゴゴ!
 恐怖を原料とするエネルギー体の中に、ミツケラーの察知した恐怖が混ざりこむ。

――コワ・ミツケラーが察知したビジョン――

 先日過ぎたゴールデンウィーク。行楽地でにぎわう人々の中、泣き叫ぶ子供達。
 無事に見つかった子供に、親達は揃ってこう言う。
「よしよし、怖かったねぇ‥‥」

――――

 かくして、水盤から数十センチの破壊獣が生み出される。
『イナイイナイ‥‥』
 ピエロのような風体の破壊獣は、ぴょんぴょんはねながら、次元の挟間へと姿を消した。
 地球に、迷子の恐怖を撒き散らすために。

☆★☆★☆★
『獣王武神(じゅうおうむじん) ヒャクジュウオー』第三話・概要

ヒャクジュウオーとは‥‥地球征服をたくらむ魔獣界と、聖獣界の戦士から地球の防衛を託された武野小学校五年一組の戦いを描く、小学生をターゲットにしたロボットアニメーション。戦いを通して正しき心を成長させる子供達にスポットを当てる。

 参加希望者は詳細をよく読み、希望届けに記入の上、締め切りまでに届けを出すこと。

☆演技指針☆
聖獣防衛組:迷子破壊獣によってばらばらにされるが、最後は協力して破壊獣を倒す。
魔獣界:破壊獣を使い、より大量のコワ・エネルギーを獲得する。

☆専門用語☆
・聖獣:聖獣ブレスに封じられた聖獣界の戦士。正義の心によって具現化し、動物をかたどったロボットになる。心の力が弱ければ弱体化、悪ければ召喚さえ出来ない。子供達はブレスで指示を出し、遠隔操作する。
・司令室:教室が変形。瞬間移動装置など、さまざまな機能があるが、全貌は明らかになっていない。

・魔獣:聖獣と同じ獣型。この状態ではブレスによる遠隔操作。
・破壊獣:コワ・エネルギーから作られたモンスター。人々を怖がらせてコワ・エネルギーを吸収、徐々に巨大化していく。
・破壊魔獣:魔獣が破壊獣を取り込むことによって人型に変形した姿。聖獣よりも一回り大きく、強力になり、魔獣の必殺に加え、破壊獣の特殊能力が使える。エネルギー制御が必要なため、魔獣界人が実際に搭乗して動かす。

☆希望届け☆
1、希望役(いずれか)
・武野小・五年一組の生徒(前回出演者は同じ役柄が望ましい)
・魔獣界の戦士(同上)
・その他、前回担当脇役など

2、やりたい役柄
・名前
・性別
・外見(簡潔に)
・長所(一言で)
・短所(一言で)
・聖(魔)獣(獣人種族をモデルにしているので、その範囲で決定する事)
・必殺技(一つ)

3、破壊獣
・名前:破壊獣イナイゾー
・外見:ピエロ
・特殊能力:(人を迷子にさせる、詳細は企画会議で決定)
・弱点:(能力にまつわるもの)

●今回の参加者

 fa0588 ディノ・ストラーダ(21歳・♂・狼)
 fa0868 槇島色(17歳・♀・猫)
 fa0921 笹木 詠子(29歳・♀・パンダ)
 fa0924 谷津・薫(9歳・♂・猫)
 fa0932 RASEN(16歳・♀・猫)
 fa3319 カナン 澪野(12歳・♂・ハムスター)
 fa3345 各務 英流(20歳・♀・小鳥)
 fa3354 藤拓人(11歳・♂・兎)

●リプレイ本文

―声の出演―
飯田 公恵(物静か 大熊猫聖獣アイニー)‥‥笹木 詠子(fa0921)
羽田 涼子(活発 鷹聖獣バーニング・ホーク)‥‥RASEN(fa0932)
獅堂 吼(熱血 獅子聖獣ブラスト・リオン)‥‥谷津・薫(fa0924)
昴・A・栞(組長)(委員長 猫聖獣ワイルドキャット)‥‥槇島色(fa0868)
大高屋 亮(ガリ勉 ユニコーン聖獣モノケロス)‥‥藤拓人(fa3354)
姫野木 静夜(姫)(泣き虫 ハムスター聖獣シャンガリア)‥‥カナン 澪野(fa3319)

カレンスキー(ナルシスト 狼魔獣フェンリル)‥‥ディノ・ストラーダ(fa0588)

高野 真澄(新任教師)‥‥各務 英流(fa3345)



「せっかくの遠足なのに、ミクロちゃん来れなくて残念だね‥‥涼子ちゃんや公恵ちゃんも気分悪くなっちゃうし、先生もお休みだし‥‥」
「んなの病気になる奴が悪いんだよ! 帰ったらいっぱい自慢してやる〜!」
 先生の退屈な注意が終わって、やっと班ごとの自由行動。少しさびしそうな姫に比べ、吼は俄然元気だ。ケンカ相手が病欠とあってか、普段よりもはつらつとしているように見えなくもない。
「姫、ライオン見に行こうぜ、ライオン!」
「こら吼! うちの班はまずキリンからだろ!」
 班長の栞が姫を掴んで走ろうとする吼を後ろから注意する。しかし今日はどうもいつもの勢いがない。ときどきふっと、空を見上げたりする。
「組長?」
 並んで歩いていた亮が、気になって空を見上げる。
 動物園の奥のほうから、白いもやのようなものが掛かってきている。たしか、今日の天気は晴れだと予報で言っていたはずだ。
「降水確率は0%だったし、気にする事ないよ」
「うん‥‥だが、どうも気になるんだ‥‥」
「きゃああっ!?」
 不安な表情が消えない組長の予感を増長させるような悲鳴。はっと目を向けると、姫が真っ青な顔で尻餅をついていた。
「吼、お前また何かしでかし‥‥!」
 その目の前に、ぴょこんと、小さなピエロが飛び出した。
「破壊獣だ!」
 指を指されて、破壊獣イナイゾーはケタケタと不気味に笑う。すると今度はここかしこから、トゲのついたバラが生え始めた。ベンチや木、動物の檻にまで蔓が絡み、巨大な壁と化す。動物達が怖がって、それぞれに鳴き始める。
 その恐怖を吸って、イナイゾーは少し大きくなる。
「動物園を迷路にする気かっ」
 吼が捕まえようと飛びかかる。イナイゾーはぴょんと跳ねてよけ、口から、ぼっと、真っ白な霧が吐き出した!
「うわあっ!」
 それはたちまち周囲を覆い尽くし、真っ白の空間にしてしまった。
「くそ、破壊獣、どこだ!」
 見渡す限りの白、白、白。破壊獣どころか、まったく距離感がつかめない。
「み、みんなぁぁ。どこぉ〜? うっうっ」
「ここにいる! お前男だろ、泣くな!」
 心細くなった姫を、組長の勇ましい声が一括する。
「だ、だってぇ〜‥‥ヒック」
「ほらー。組長が怒るからますます泣いちゃったじゃないかー」
 見えないのをいい事に、どこかから吼がなじった。
「だいたい、そんな怒ってばっかだとしわが取れなくなっちゃうぞ。年取ったらしわしわのオニババに‥‥」
「だ・れ・が・だ?」
 すぐ背後で怒りに震える声が聞こえ、吼は固まった。
「なっ、何でここに!」
「それだけべらべら喋ってたら、どこにいるかぐらい分かるわ痴れ者が!」
「みんな落ち着いて」
 亮の声だけは、唯一冷静だ。
「外なら、切り株と太陽さえあれば、方位磁石がなくても方向が分かるんだ。まず切り株を探して‥‥」
 ‥‥。霧の中で、一瞬の静寂。
「‥‥って、その太陽が見えんじゃないかぁぁっ!」
「――――はっ!」
 腹立ち紛れに組長は思いっきり突っ込んだ。口では冷静でも、亮も相当あせっていたようである。
「‥‥とにかく。全員で声を掛け合って一所にまとまらないと。このままはぐれてしまったらもっと大変になる」
 やっと普段の落ち着きを取り戻した栞が、まともな意見を出す。
「とりあえず、私と吼のいるここに来られるか。亮、姫‥‥」
「うん、分かった。ね、姫?」
 どこかにいるであろう姫に亮は声を掛けるが、返事は返ってこない。
「‥‥あれ、姫は‥‥?」
 不安げな問いは、ただ霧の中に静かに溶け込むばかりだ。
 ぴぴ‥‥ぴぴ‥‥
 静寂を押して、組長の聖獣ブレスがアラームを発した。誰かからの通信だ。
 ボタンを押して小型のスクリーンを呼び出す。映ったのは、おかっぱ頭の少女だった。



 動物園の外の駐車場。気分の悪くなった一組の生徒に付き添っていた副担任の高野先生は、後ろのほうで話し声が聞こえるのに気付いた。
「具合、よくなったのかしら‥‥?」
 声のする方に近づいて、座席を覗き込む。二人の生徒のうち、まだ涼子はぐったりとしている。まだ元気そうなのは公恵だが。
「独り言‥‥?」
 首を傾げる先生に、公恵は立ち上がって言った。
「動物園、行っていいですか?」
「え? え、ええ‥‥じゃあ先生と一緒に‥‥」
「先生はだめです。破壊獣がいるみたいだから‥‥」
「は、はかいじゅう?」
 淡々とした物言いの公恵に、一瞬その通りの意味にとっていいのか、先生は首を傾げた。公恵は動物園へ目を向ける。先生も振り返って動物園を見た。
 動物園だけを包み隠す、明らかに不自然、不気味な霧がその目に飛び込んできた。
「ど‥‥動物園がぁ‥‥はう」
 そのまま、先生はその場に倒れこんでしまった。
「公恵、破壊獣ってホント?」
 入れ替わりに涼子が、ばねの様に立ち上がった。
「涼子ちゃん‥‥平気なの?」
「仲間がピンチなのに、グロッキーになんてしてられないわよ!」
 ポニーテールをくるんと揺らし、ブレスを構えた涼子はいつもの活発な涼子だ。公恵も静かにブレスを構える。
「聖獣‥‥召喚!!」
 学校で、涼子と公恵のランドセルロッカーにシャッターが降り、出撃準備のカウントが表示される。校舎の時計が裏返り、出現した緑の宝石から、光が放たれる。
 動物園上空にまとまった光は鷹型の聖獣バーニング・ホーク、地上に落ちた光は大熊猫聖獣アイニーへと姿を変える。
「組長が言うには、変なバラが迷路を作っているうえに破壊獣が霧を出して、みんなを迷わせているみたい」
「まずは、霧を吹き飛ばしましょ!」
 涼子はバーニングホークに指示を出し、霧のすぐ近くまで近づかせる。
 そこでバーニング・ホークが思い切り羽ばたくと、風が巻き起こって霧を消し飛ばしていく。
 動物園の中はすこしずつ見えてくる。びっしりと育った蔓が、入り組んだ路地になっている。
「ホーク、このまま近づいてみんなを探すのよ!」
 しかし、そうする間に再び霧が出てきて、また動物園を覆ってしまう。
「もう! こんなんじゃ見つけらんないじゃない〜!」
 地団太を踏む涼子の隣で、公恵はじっと何かを考え込んでいた。
「バラの迷路‥‥そうだ、ちょっと待って」
 公恵はリュックをあけ、小さな本を一冊取り出す。植物好きの公恵は、いつもポケット植物図鑑を持ち歩いていた。
 ぺらぺらと慣れた手つきでページをめくり、バラの項を探り当てる。
「あったわ‥‥バラの弱点は、根っこだわ」
「じゃあ、根っこに攻撃すれば‥‥迷路はつぶれる?」
 訊ねた涼子に、公恵は頷いた。
「動物園の真ん中に、おっきなバラが咲いてるところがあったわ。たぶん、あれが本体よ!」
「行こう」
 バーニング・ホークは一旦引き返すと、足でアイニーを掴んで飛び上がった。

 姫は一人が怖くて、みんなの声のする方に向かったが、どうも少し方向がずれていたようだ。行けども行けども、みんなの姿はない。その代わり、優しい、弦を爪弾くような音が聞こえてきた。
「ひっく、誰か、いるんですか‥‥」
「‥‥泣いているのかい?」
 愁いを帯びたような、男の声だ。返事が返ってくるとは思わなくて、姫はびっくりして立ち止まった。
 その時、背後から強烈な突風が吹いた。姫の柔らかい髪をなびかせ、霧を吹き払う。
「‥‥あ」
 そこには、絵本から抜け出てきたような男の人がいた。貴族のような服に胸元に一輪のバラ。先ほどまで奏でていたものか、竪琴を手にして、驚いたように姫を見ていた。
『あ、姫!』
 空から聞き覚えのある声が降ってくる。見上げると、鷹とパンダの聖獣がゆっくり降下して来るところだ。
「公恵ちゃん、涼子ちゃん!」
『このバラの根を攻撃して、迷路を崩すの。手伝って』
 再び霧が周囲を覆い始める。姫は慌てて男の人の方に向き直ったが、もうそこにはその人の姿はない。
『姫、どうしたの?』
「ううん、なんでもない」
 ぐい、と涙をぬぐい、姫はシャンガリアを召喚する。
 ポケット辞典を片手に指示する公恵に従い、アイニーとシャンガリアが地面を掘り返す。徐々に白い根が見えてくる。そこをバーニング・ホークのバルカン砲で直接攻撃する。
 ぎえええ‥‥!
 バラの中からおぞましい叫び声が聞こえ、葉や花の先から枯れ始める。バーニング・ホークが羽ばたくと、霧とともに、ざらりと崩れてしまった。
 こうして、動物園はやっと本来の姿を取り戻す――その崩れたバラの向こう、恐怖を吸って大きくなったイナイゾーが隠れる場所を失っておろおろする姿が見えた。
 その時、破壊獣の前に白銀の狼が躍り出た。
『今日こそは貴様らの最後だ、聖獣共よ!』
 凛とした声が発せられる。
『破壊合体!』
 カッ――
 黒い雷が迸り、破壊獣と狼を包み込む。
 次の瞬間現れたのは、狼の頭部を持った人型のロボット。
『あれ、最初に襲ってきた奴だ‥‥!』
『破壊魔獣フェンリルの恐ろしさ、思い知るがいい!』
 フェンリルは口を開くと、ぼっと霧を吐き出した。聖獣達の視界を塞がれ、防衛組は混乱する。
『これ、あの破壊獣の技‥‥?』
『魔狼旋風剣!』
 どこかから響いた声とともに、剣戟が飛ぶ。ブレスに接敵のアラームが響き、姫は身を竦めた。
『ブラストスラーッシュ!!』
 衝撃は、訪れなかった。
 霧の中に光る、獅子聖獣のブースターの炎。それが、フェンリルに飛び掛って攻撃を防いだのだ。
『吼君!』
『遅くなった、すまない』
 栞や亮の聖獣も、レーダーの範囲内に入ってくる。涼子たちの顔に一気に笑顔が戻る。
『みんながそろえば百人力! 反撃よ!』
 バーニング・ホークは霧の中から抜け出すと、羽ばたきで霧を吹き飛ばす。
『霧の弱点はもう分かってるんだから!』
 霧を消されたフェンリルは、聖獣に囲まれる構図だ。いったん距離をとろうと、飛びすさる。
『逃がさない‥‥シードバレット・V!』
 シャンガリアのほほが膨らみ、種が吐き出される。フェンリルに着弾したバレットは、蔓を伸ばし、その身体を縛り上げた。なすすべもなく、フェンリルは地面に落下する。
『くっ‥‥!』
『よし、行くぞ!』
 組長の掛け声と共に、それぞれの必殺技が次々に撃ち込まれる。コクピットで、カレンスキーは冷静な眼で次々と点滅する警告を見ていた。
 聖獣のデータが、手元の水晶玉に、刻々と記録されていく――
『これでトドメよ!』
 バーニング・ホークの体が、その名のごとく赤い炎で包まれる。バーニング・ホークは高く飛び上がり、急角度でフェンリルに突撃した。
『必殺! バーニング・カッター!!』
 炎の軌跡が、フェンリルの胸元を深くえぐる。
『限界か‥‥良く耐えたぞ、フェンリル‥‥脱出だ!』
 黒い光を発して、フェンリルは破壊獣と分離する。ダメージを蓄えた破壊獣は、断末魔をあげて爆発する。その隙に、フェンリルとカレンスキーは戦場を脱出した。
「戦闘データは十分に取らせてもらった‥‥次こそは、お前達の最後だ‥‥」
 重傷のフェンリルは、動物園の敷地の外に主人を運んで、力尽きたように消え去った。
 一人佇むカレンスキーの脳裏に、動物園で出会った一人の少年の顔が浮かぶ。
 その口元に、かすかな笑みが浮かんだ。

「きっと夢よ、夢だったんだわ‥‥そうよ、こんな小さい子に、そう毎日毎日怪獣が襲い掛かってきてたまるもんですか‥‥」
 帰りのバスの中、高野先生は必死に自分へ言い聞かせていた。道路ですれ違うのは動物園に向かうパトカーとか救急車だったりするが、それも必死に見ない振りである。ひたすら。
 新任の副担任には、防衛組の任務を受け入れるのが、ちょっとどころでなく重荷のようである。
 そんな先生の苦悩は露知らず、吼は通路の真ん中でびしっと人差し指を突き立てる。
「破壊獣なんて、オレたちの敵じゃないぜ!」
「あ、こら、吼君、立っちゃいけません‥‥! あと、破壊獣とかむやみに言うのもだめです!」
「え、どうして?」
 それは現実を認めたくないためだったが、そんな事言えない先生である。
「とにかくいけません〜! ああ大隈先生、何でお休みなの‥‥!」
 騒がしいバスの中、一人姫だけは、窓の外を眺めながら動物園で出会った男の人のことを思い出していた。
 あの人の声‥‥あの狼の声と似ていたけど‥‥まさか、そんな事ないよね‥‥
 とっても綺麗な人だった。また、会えるといいな。