どこかの第三企画室アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
外村賊
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
0.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/21〜05/25
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●本文
『parallel=tune』。
深夜月一で放送する、三十分一話完結型のドラマ番組のタイトルだ。
毎回新人から熟練まで、様々なシナリオ作家や裏方の意見を極限まで取り入れ、その粋を凝らして各話を作り上げるという企画である。
この番組の打ち合わせが毎回行われるのが、ここ、第三企画室である。
決まったメンバーはいない。いつも打ち合わせ会議のこの時間に、この企画室に足を踏み入れた者が、今回の企画のメンバーである。
ここで人気が出れば、夢の月9枠を任せてもらえるかもしれない――そんな野心に燃える若手。
企業の思惑やタイアップの規制にとらわれない、自由な作品作りがしたい――そんな悩みを抱えた熟練。
ただただ、自分の目指す『表現』を追い求める――そんな芸術家肌の裏方。
その他もろもろ、何かしら求めるものがあって、この企画室の扉は開かれる。
――『parallel=tune』企画会議――
今日も第三企画室に、簡素な張り紙が張り出される。
「や、おはよう」
扉を開けると、コーヒーの香りが鼻孔をくすぐる。Oの字に組まれた長机の奥に座った、ふくよかな体格の男。おっとりと笑って、コーヒーの湯気で曇った眼鏡を押し上げる。
『parallel=tune』のメインプロデューサー、中村段多(なかむら だんた)だ。
「もう、自由にやっちゃっていいから。今日もイキのいいネタ、期待してるよー」
なんかすごい投げやりに聞こえなくもない、そんなプロデューサーのお言葉だ。しかし最終的に企画にOKを出すのはこの人である。あまり無碍にも出来ない。
「あ、でも、予算の範囲内でね。あんまり貰えてないから、うち」
どう答えようか考えているうちに、そう言って中村Pは、またコーヒーをすするのだった。
●リプレイ本文
そんなこんなで、第三企画室には八人のメンバーが集まった。皆に適度に冷えたココアを配りながら、如鳳(fa2722)がニコニコと提案する。マイペースな如鳳の独特のペースが和やかに会議をスタートさせる。
「中村さん、まずは統一した形式で発表してもらってはどうかね?」
「そうですねぇ。まあ、役職ごとにアプローチも違うだろうから、みんな自分の企画の『売り』を一言言ってから、説明してもらおうかな」
のほほんと中村が見渡す。メンバーの発言を、すでに促しているようだ。
「ぜひ最初に私の案を聞いて下さい!」
結城ハニー(fa2573)が元気良く手を挙げる。
「アイドルで探偵な私がやってみたいのは、ズバリ『アドリブ裁判劇』です!」
元気いっぱいのハニーに、中村は変わらず穏やかな調子で訊ねる。
「ほうほう。どういうものです?」
「役者は全員裁判員という役割で、裁判の成り行きを見守って有罪か無罪か、票を入れるんです。ポイントは、事件の真相は、プロデューサーの方しか知らないという事です。裁判の進むさまを見て、即興で演じるんです」
「売りは即興性、といったところかな?」
「それは役者の実力が問われるわね。上昇志向の強そうな子とかが乗ってきそうだわ」
芸能事務所の社長である小野田有馬(fa1242)が自分の見解を述べる。
「アドリブってモチーフはウケるかも知れないね。視聴者にそこを上手く説明できれば、いけなくもない、かな?」
「では次は私が行こう!」
颯爽と立ち上がったのは、大槻 大志(fa3399)だ。自信をうかがわせる笑みを浮かべて、長い前髪をさっとかき上げる。
「私の企画の売りは、『萌えー!』で『キター!』だ!」
ばむっ、と手で長机を勢い良く叩く。
情熱に燃える大志だが、ほとんどが年上というこの状況。誰もがその意味を捉えられず、目をぱちくりとさせた。
「モチーフとしては、冴えない男主人公が二次元的な女性に囲まれてまさにハーレム! という状況だ。『私のご主人様』『巫女さんパニック』とか言うのも考えたが‥‥今回の私の力作はこれだ!」
それぞれの手元に回された企画書には、浪人した主人公が勉強に集中するために引っ越したアパートで、コミカルな住人達の騒動に巻き込まれていく、と言うストーリーが書かれていた。
「ああ‥‥最近流行の青年マンガみたいなノリですか」
そこまで読んで、やっと大志の意を解した面々である。
有馬は面白そうに頷きながら、企画書を眺める。
「やっぱり深夜枠だから、こういう分かりやすい、良い意味でのチープさというのは売りになると思うのよね。私もそういう所を売りにして、『買い物の合計金額を目分量だけでいかに予算ピッタリにするか、に情熱を捧げている主婦』『学校帰りに小石を家まで蹴って帰る事に全身全霊を賭けている小学生』みたいな一つのキャラクター性を掘り下げるような、短いコミカルドラマを考えてたんだけど」
「ホームコメディは、いいね。私の思っていたのに合う」
織石 フルア(fa2683)が自分の企画書を取り出し、皆に配りだす。
「私は音響だから、音を物語に重なり合わせたい。ドラマタイトル‥‥『parallel=tune』‥‥直訳して『平行な旋律』と解釈したが、それを意識して‥‥」
説明を思索するようにフルアは言葉を切る。
「一つの楽曲の個々のパートを、シーンや、登場人物に見立てるんだ。シーンや人物が出たとき、そのパートだけを流す。それだけでは不気味に聞こえるかもしれないが、物語が進んでいくとだんだん旋律になって、最後に、完成した一つの曲になる、というものだ」
「なるほどねぇ。パートが人物やシーンを象徴すれば、テーマ性も上がるかも知れないね」
「ヒロインごとのテーマ曲はやはり大事だからな」
中村の相槌に、少しずれて賛同する大志。
「他に音楽からのアプローチはないのかな? なら、出来るだけ他の意見とすり合わせて入れていきたいね」
「私もそれを希望する」
フルアは表情を少し緩ませ、そう言った。
「じゃあ、君はどうかな?」
中村の視線を受け、武田信希(fa3571)がぱっと立ち上がった。まだ小学生ほどに見える少年だ。
「うちは、子供でも楽しめそうな、退魔ものの話を考えてきたんだ」
信希の案は、夜の日光東照宮で魔物が起こした殺人事件を解決する――といった内容だ。
「日光東照宮というのは?」
「うん。有名な観光名所をぜんぜん感じの違う舞台にしたら、面白いかなと思って」
「退魔物! 巫女さん! ハァハァ!」
違う意味で大きく反応する約一名は置いておいて。
「子供もターゲット?」
中村に訊かれて、信希はうん、と頷いた。
「犯人探しとか、観る人も一緒に考えられる風に作れば、子供も面白いって思うかなって」
「うーん‥‥」
信希はしまった、と思った。中村は困った風な笑顔だ。
「子供がうちの時間枠まで起きてると、おじさんとしてはちょっと悲しいかなぁ」
『parallel=tune』は深夜枠番組なのだ。低年齢層は一番早く視聴者の中からはずされてしまう。
有馬は考え込むメンバーに笑顔で呼びかける。
「でも、発想はいいわよね。最近大人もファンタジックな物よく観るし」
「そうだね。ファンタジックなのか、サイコ系か、もしくは謎解きを中心にしてミステリ風に仕上げるのか。もう少し練りこんで、焦点をはっきりさせればもっと良くなるんじゃないかな」
「中村さんや社長がああ言ってるんじゃ。もうちょっとがんばってみい。な?」
如鳳が信希におかわりのココアをさし出すと、今にも泣き出しそうな顔をしていた信希も、小さく笑って席についた。
「うーむ」
そんなやり取りの中、羽織の袖の中で腕組みをして唸るのは、今まで静観を通してきた鬼王丸・征國(fa0750)だ。
「わしとしては、そう視聴層を限定せずに、もっと幅広く興味を持ってもらえるような作品をやってみたいのじゃ」
「僕と鬼王丸さんでここに来る前に少し話し合って、年配の方にも観て貰えるような、落ち着いた雰囲気のものを持って来たんです」
スモーキー巻(fa3211)がさりげなく書類を配っていく。
構成は、中核となる一組の男女が仲違いし、それを周囲の人の協力によって解決する、といったものだ。
例として、浅草や京都の下町風な場所の、呉服屋や甘物屋、神社といった和風で懐かしい雰囲気を持った舞台での騒動が添えられている。
「ストーリーラインは、征國さんと話して、僕が書きました」
「三十分番組じゃから、あまり話が立て込むとややこしくなると思っての。筋はなるべく平易に、かといって薄すぎもしないようにした。雰囲気を和風にしたのは、先にも言ったとおり、裾野の拡大を狙っておるからじゃ」
「周囲の人々との絆が深いという点さえクリアしていれば、他の雰囲気を持ってきても大丈夫かとは思いますが」
「なるほど‥‥」
番組として明確な筋が立っている征國と巻の説明に、若いスタッフ達は盲点を突かれたと言ったふうに納得する。
「そりゃなかなかいいな。実を言うと、最近の番組にはとんと付いて行けんでな」
と如鳳がからから笑う。
「周囲の絆を焦点に持ってくれば、役者さんを若い人に限定しなくてもいいって事か。さすが、鬼プロデューサーの鬼征さんだ」
これで大体の意見は出揃ったようだ。中村は笑って、残り少ないココアに口をつける。
「今の所ではホームドラマ風な話が多く出てるね。今回は鬼政さんと巻さんの案を軸にして、それぞれの良かった意見を取り入れさせてもらおうと思うんだけど、どうかな?」
こうして第三企画室の会議は、終わりの運びとなった。来月には、配役募集の上収録が始まるだろう。