ヒャクジュウオー!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
外村賊
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
0.3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
1人
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期間 |
06/25〜06/29
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●本文
ここ最近、ずっと嫌な感じだ。
ユーウツ、と言うのは、今まさにこんな感じかもしれない。
といっても、梅雨でジメジメしているのとは無関係である。
――歯が痛いのだ。
いちばん奥の歯が、きりきり痛む。最初は物をかんだ時だけだったけど、日がたつにつれて、ずっと小さな痛みが続くようになった。
たぶん、虫歯だろうな、とは思う。
でも確かめる勇気はない。
虫歯だと判明したら最後、お母さんは歯医者に連れて行くだろう。自分は身動きできない椅子に寝かされて、マスクをした歯医者さんが、嫌な音を立てながら回転する小さいドリルを、ゆっくり近づけてくる。想像して、背筋がひやっとした。
「歯医者さんて、何であんなに怖くするんだろ‥‥あの音と痛いのがなかったらいいのに」
呟いたら、また頭の中に怖い歯医者さんのイメージがよぎった。大きく頭を振って、外へと追い出す。そしてランドセルを背負いなおすと、目の前に見えてきた武野小学校へ再び歩き出した。
――その背後で。
黒い三角錐が、触手を出してじっと遠ざかる背中を観察していた。
チキュウジン ノ コワイモノ ‥‥ ハイシャ ‥‥
魔獣界の兵器『コワ・ミツケラー』。コワ・エネルギーの素となる恐怖の情報をさらに集めるべく、梅雨時の曇った空へと飛び去っていった。
☆★☆★☆★
『獣王武神(じゅうおうむじん) ヒャクジュウオー』第四話・概要
ヒャクジュウオーとは‥‥地球征服をたくらむ魔獣界と、聖獣界の戦士から地球の防衛を託された武野小学校五年一組の戦いを描く、小学生をターゲットにしたロボットアニメーション。戦いを通して正しき心を成長させる子供達にスポットを当てる。
参加希望者は詳細をよく読み、希望届けに記入の上、締め切りまでに届けを出すこと。
☆演技指針☆
聖獣防衛組:虫歯(歯医者)の恐怖を克服しよう
魔獣界:さらなるコワ・エネルギーの採取
★新設定
とくになし
☆専門用語☆
・聖獣:聖獣ブレスに封じられた聖獣界の戦士。正義の心によって具現化し、動物をかたどったロボットになる。心の力が弱ければ弱体化、悪ければ召喚さえ出来ない。子供達はブレスで指示を出し、遠隔操作する。
・司令室:教室が変形。瞬間移動装置など、さまざまな機能があるが、全貌は明らかになっていない。
・聖獣の合体:司令室にある宝石を核として、それぞれの聖獣を合体させる。各部分の制御が必要なため、生徒達がコクピットに乗り込む。
それぞれの聖獣が合体後どの身体の部位になるかは、操縦者の意思による。
頭部になった聖獣の操縦者がメインパイロット。その聖獣の能力に準じた強力な必殺技を、一度だけ使える。
・魔獣:聖獣と同じ獣型。この状態ではブレスによる遠隔操作。
・破壊獣:コワ・エネルギーから作られたモンスター。人々を怖がらせてコワ・エネルギーを吸収、徐々に巨大化していく。
・破壊魔獣:魔獣が破壊獣を取り込むことによって人型に変形した姿。聖獣よりも一回り大きく、強力になり、魔獣の必殺に加え、破壊獣の特殊能力が使える。エネルギー制御が必要なため、魔獣界人が実際に搭乗して動かす。
☆希望届け☆
1、希望役(いずれか)
・武野小・五年一組の生徒(前回出演者は同じ役柄が望ましい)
・魔獣界の戦士(同上)
・その他、前回担当脇役など
2、やりたい役柄
・名前
・性別
・外見(簡潔に)
・長所(一言で)
・短所(一言で)
・聖(魔)獣(獣人種族をモデルにしているので、その範囲で決定する事)
・必殺技(一つ)
3、破壊獣
・名前:ムシバキング
・外見:白衣を着た歯科用治療器具
・特殊能力:(虫歯・歯医者から連想する物、詳細は企画会議で決定)
・弱点:(能力にまつわるもの)
●リプレイ本文
―声の出演―
大高屋 亮(ガリ勉 ユニコーン聖獣モノケロス)‥‥藤拓人(fa3354)
飯田 公恵(物静か 大熊猫聖獣アイニー)‥‥笹木 詠子(fa0921)
羽田 涼子(活発 鷹聖獣バーニング・ホーク)‥‥RASEN(fa0932)
昴・A・栞(組長)(委員長 猫聖獣ワイルドキャット)‥‥槇島色(fa0868)
獅堂 吼(熱血 獅子聖獣ブラスト・リオン)‥‥谷津・薫(fa0924)
姫野木 静夜(姫)(泣き虫 ハムスター聖獣シャンガリア)‥‥カナン 澪野(fa3319)
ペギリーフ(自称天才策略家 小鳥魔獣オキノタユウ)‥‥各務 英流(fa3345)
カレンスキー(ナルシスト 狼魔獣ケルベロス)‥‥ディノ・ストラーダ(fa0588)
大隈 六郎(熱血教師)‥‥風見・雅人
★
「大好きな揚げパンを吼クンにあげるなんて、おかしいと思ったんだぁ」
からかうような口調で、涼子。
「五年生にもなって、情けない‥‥」
これ見よがしにペロペロキャンディーを噛み砕きながら、栞。
「治療よりも予防。基本よね。例えば、歯磨きの後は甘い物を食べないとか‥‥」
近くの観賞用植物を眺めながら、公恵。
「ううっ‥‥」
見た目にも少し腫れている右頬を押さえ、亮は呻いた。受験勉強で夜更かしする時、眠気覚ましのコーヒーに砂糖をいつも四個入れていたのを思い出したのだ。
歯医者が嫌で虫歯を放っていた亮に付き添って、みんなは栞行きつけの歯医者の待合室にいた。
「心配するな亮! すぐ終わるさ!」
大隈先生が肩を叩いて励ますけれど、あまり効果はないみたいだ。
「大体どうしてドリルを怖がるかなぁ。あんなにカッコイイのに。モノケロスだって、ドリル持ってるじゃない‥‥ほら、キュイーンって!」
「こら、涼子!」
からかう涼子を先生が叱ったその時。タイミングよく、甲高いドリルの音が待合室に響き渡った!
「うわああっ」
さらに真っ青になる亮。しかし他のみんなはその音が変な感じだと思った。
「この音‥‥外から聞こえてこない?」
「もしかして‥‥」
歯医者から見える家々の間から、巨大な椅子――歯科用診察台が白衣を着たような破壊獣が見える。その手足が例のドリルになっていて、身も凍るような回転音を撒き散らしている。教室から獣王転移で飛んできたのか、吼のブラスト・リオンと姫のシャンガリアが破壊獣に向き合っていた。
破壊獣は両手のドリルを聖獣に向かって振り回す。ブラスト・リオンが後ろに飛びのくと、そばにあったビルの外壁を恐ろしい音とともに削って、大きな穴が開いた。
ブラスト・リオンの近くに三筋の光が降り、栞、公恵、涼子の聖獣が召喚される。
『あれ、亮は?』
『破壊獣のドリルの音が怖くて‥‥心の力が弱ってるの』
吼の疑問に、公恵が静かに答える。栞は苛立ちまぎれに鼻を鳴らし、ワイルドキャットを構えさせる。
『あんな軟弱者などいなくとも、我々だけで十分だ!』
「ふふふん、我輩の完璧な予測どおりである。最強の破壊獣によって聖獣をおびき出してコテンパンにし、ついでに周辺の人間どもを恐怖のズンドコに叩き落して恐怖を摂取すれば、世界征服もアーク・ゴーン様の復活もできてしまうと言う、まさに一石二鳥、いや一石三鳥な計画ッ!」
長い計画内容を見事一息で言ってみせ、魔獣界の天才策略家(自称)ペギリーフはブレスを構える。
「魔獣召喚! オキノダユウとムシバキングの前では、聖獣が二体だろーが六体だろーが、敵ではないのである!」
魔獣界につながる空間から黒い光が飛び、魔獣オキノダユウが現れる。小鳥型の魔獣は聖獣たちの頭上を飛び越え、あっという間に背後に回りこんだ。
『挟み撃ちである!』
前からはムシバキングのドリルが、後ろからはオキノダユウの衝撃波が。それぞれに嫌な音をたてて迫ってくる。
『避けるぞ!』
一所に集まっていた聖獣たちはそれぞれに飛び散る。しかしアイニーは避難させようとしていた住民をかばって留まった。
衝撃波を喰らい、道路に横滑りしながら倒れた。そこへすかさずムシバキングが近づく。白衣の中から巨大な抜歯用のペンチが付いた腕が飛び出し、アイニーの胴を掴んで持ち上げると、無理やりムシバキングの治療台になっている身体へと座らせた。
『ムシバキング! そのパンダに地獄を見せてやるのだ!』
アイニーは何とか振りほどこうともがくが、ペンチの力はすさまじく、少しも緩む気配がない。そこにムシバキングは、容赦なくドリルを突き立てる。
『ううっ!』
操縦者にもダメージが届き、公恵が苦しげに呻く。
『ついでに我輩のスペシャル衝撃波もお見舞いしてやるである!』
『させないわ!』
再び羽ばたくオキノダユウに、バーニング・ホークのバルカン砲が降り注ぎ、相乗攻撃だけは食い止める。
ドリル攻撃は続いている。ブーストをかけたブラスト・リオンが、ムシバキングに飛び掛るも、直線的なその動きは正確に捉えられ、ドリルで跳ね返されてしまう。
『吼君待って。僕があのドリルの動きを止めるから‥‥シードV!』
静夜が命じると、シャンガリアは頬を膨らませ、ムシバキングに種を発射する。着弾した種から蔦が伸び、ムシバキングの両手足に絡みついた。
『今だ!』
動きを止められ、もがくムシバキングに、再びブラスト・リオンは突撃をかける。
「みんな‥‥」
ただ見守るしか出来ないでいた亮に、あのドリルの音がいっそう高く聞こえたのはその時だった。もがくうちに静夜の蔦を断ち切った腕が、亮たちのほうへ落ちてきたのだ。
恐ろしい音を立て、視界一杯にドリルが迫ってくる。
「‥‥!」
すくんで動く事も出来ない亮の前に、ブラスト・リオンが飛び出した。ドリルはその脇腹へ落ち、装甲を深くえぐる。
『逃げろ!』
痛みをこらえる吼の、苦しげな声が通信を通して響く。今更のように、他の聖獣たちの深い傷が目に飛び込んできた。
それが、亮の恐怖を振り払った。
「先生‥‥逃げて。助けに行かなきゃ」
「亮!」
その雰囲気がいつもの調子に戻ったことに気付き、大隈先生は表情を明るくした。
「俺のことは気にするな! 早くあいつらを助けてやれ!」
「はい‥‥! 聖獣召喚!」
ブレスが力強い光を放つ。呼応して、学校の時計の裏側に隠された宝石が現れ、戦闘現場へと一筋の光を放つ。光はそのまま、ムシバキングに突っ込んでいく。
「ドリルだったら、破壊獣なんかに負けるもんか!」
光の中から一本の角が生えた。それは高速で回転し、アイニーを縛る腕の付け根を一突きした。光が聖獣モノケロスの姿を取るまでのわずかな間に、腕はあっさりと削り取られてしまった。
開放され、のめりこむように倒れるアイニーを、飛び込んできたワイルドキャットが背で受け取り、ムシバキングから離れる。
『遅れてごめん!』
『全くだ!』
組長らしい厳しい言葉で栞が返す。しかし声音には亮が恐怖に打ち勝った事への喜びと安心が見えた。
『キュイー‥‥っ』
一方ムシバキングは腕をもがれ、オキノダユウに泣きついていた。ドリルの回転も、心なしか不安定な音を立てている。
『えい、泣くな! こうなったら最後の手段である!――破壊合体!』
黒い光がムシバキングとオキノダユウを包み、一つの姿へ融合する。
光が晴れた後には、人型の魔獣――破壊魔獣DXムシバキングの姿があった。
その間に、みんなも一つの場所に輪になり、ブレスのはまった手を中央で合わせる。
「聖獣合神!!」
みんなのブレスから放たれた光が、司令室に浮かぶ宝石を呼び出す。宝石の光に包まれ、聖獣たちが変形し、一つの姿に組み合わされていく。
モノケロスを頭部に据えたロボは、胸の空洞に宝石が組み込まれ、命を得たように、瞳を輝かせた。
その姿に、コクピット内部のペギリーフが困惑した声を上げる。
『何ぃ、前の合体ロボと細部が違うではないかっ!』
『助力しようか?』
DXムシバキングの通信に割りいるように、微笑する美しい青年がスクリーンに映る。
『カレンスキー! 貴様、隠れて観戦とはいい趣味であるなっ!』
『私には私のやり方と言う物があるのだよ』
『ふんっ、折角出てきたのならば捨て駒ぐらいにはしてやるのである!』
『さて、それはどちらかな‥‥』
意味深な笑みを浮かべ、カレンスキーは通信を切る。ブレスを構え、自らの魔獣を呼び出した。ケルベロス――コワ・エネルギーを使って強化した魔獣だ。
『行くぞ‥‥』
「四時の方向、魔獣確認! すごいスピードよ!」
涼子がセンサーを睨みつけて叫ぶ。メインパイロットの亮はすぐにそれを確認する。
「避ける! 姫、涼子ちゃん!」
「うん!」
脚部の静夜と翼部の涼子が制御し、ヒャクジュウオーは右背後から迫った魔狼疾風撃を間一髪避けた。銀の竜巻のごときであったケルベロスは、ビルに衝突する前に勢いを殺してDXムシバキングの横に着地する。
出力・ダメージの計器を見る公恵の顔は優れない。
「出力が大きいわ‥‥あの狼の突撃をまともに喰らったら、いくらヒャクジュウオーでも厳しい‥‥破壊合体でムシバキングもパワーアップしてる」
「公恵、ヒャクジュウオーが出力全開で動ける時間は?」
「そうね‥‥三分って所かしら。どうして、栞?」
「ムシバキングのドリル‥‥段々、音がおかしくなっているんだ。多分、このまま使い続ければオーバーヒートする。そうすれば、少なくとも一体は攻撃手段を失う」
「確かに、ドリル部分は熱量が高くなってるわ。オーバーヒートも時間の問題かも」
「亮、涼子、静夜。出来るだけ多く攻撃させて、避け続ける‥‥出来るか?」
「全然OKよ!」「ボクも、大丈夫」
涼子と静夜は請合うが、亮はしばらく迷った。避け続けるということは、それだけドリルの音を聞き続けなければならない。
「‥‥やろう」
亮は毅然と、顔を上げた。
瞬間、DXムシバキングが動き出す。
『喰らえDXドリルゥ!』
あの音を立てて、ドリルがヒャクジュウオーに迫る。
「もう一体もくるわ!」
ケルベロスは助走を付け、ヒャクジュウオーに飛び掛る体勢だ。視界を共有するように並ぶパネルに接近する魔獣たちが映る。反射神経はいい方ではない。懸命にに亮は身体を動かした。それを、静夜と涼子手助けし、ヒャクジュウオーは繰り出される攻撃を次々と避けていく。
しかし。
『鎧袖一触とはこの事だな‥‥』
ケルベロスが、ゆっくりと身をかがめた。魔狼疾風撃を放つ姿勢だ。
ヒャクジュウオーは背後に逃げ場のない場所へ、いつの間にか追い詰められていたのだ。
「飛んだらもうエネルギーがなくなっちゃう!」
「どうしたら‥‥」
『覚悟‥‥!』
踏み切ろうとしたその足がもつれ合って、ケルベロスは前のめりになった。
「何‥‥?」
突然のことに、敵味方ともに驚き、動きが止まる。カレンスキーのブレスに一滴、赤い血が滴り落ちた。
いつの間にか、喀血を起こしていたのだ。
「く‥‥これは‥‥強化の代償‥‥なのか‥‥」
カレンスキーの意識は次第に薄れ、暗転する。共に、ケルベロスは黒い光となって、ブレスに戻ってしまった。
しかし連帯感のない魔獣界。ペギリーフは心配するどころか高らかに笑って見せた。呆然とするヒャクジュウオーに向かい、ドリルを差し向ける。
『ふん、何だか分からんが手柄を独占するチャンスである! DXドリ‥‥』
その時、突如としてドリルが煙を上げ始めた。
「今だ、亮!」
武器管制の吼が呼びかけ、亮は今まさに作戦が功を奏したことを悟った。
「よし‥‥行くぞ、ヒャクジュウオー!」
ヒャクジュウオーは額に生えた角を抜き、腕に装着する。最後の力を振り絞り、ヒャクジュウオーは空へ飛翔する。
そして力強く回転するドリルを前に突き出し、うろたえるDXムシバキングに向けて急降下する。
『必殺! トルネードギャロップ!!』
ドリルは上から下まで、DXムシバキングを真っ二つに裂き割った。
『今日の所は戦略的転進! 覚えておれガキども〜!』
巻き起こる爆発の中、オキノダユウに捕まりながら、ペギリーフは空の彼方へと逃げ去った。
『獣王武神 ヒャクジュウオー!!!』
天にも轟けとばかりに、ヒャクジュウオーは高らかに名乗りを上げた。
★
歯医者恐怖症を克服した亮は、無事に虫歯治療を終え、おいしく給食を食べていた。今月はもう揚げパンの日はないらしく、来学期まで口に出来ないのは残念だが、もう歯医者が怖くてチャンスを逃すことはない。それだけでもよかったと、前向きに考えることにした。
「あれ、どうしたの。全然食べてないじゃない」
亮が視線をやったのはお箸でおかずをもてあそんでいる吼だ。声を掛けられるとびくりと肩をすくめて亮を見るや、明らかな空元気で笑ってみせる。
「な、なんでもないって!」
その様子に、何となーく、デジャヴュを感じる。
「もしかして揚げパンで‥‥?」
亮の後ろからひょっこり涼子が顔を出す。いじめっ子の笑みが浮かんでいる。
「今度は吼が虫歯!?」
「わ、馬鹿、大きな声で‥‥」
「ほほう‥‥アレだけの騒ぎの後でいい度胸だな。一週間位、うちにホームステイしてみるか? 早朝5時の座禅に始まりジョギングにラジオ体操‥‥学校から帰ったら勉強、歯磨きもみっちりやるぞ〜」
「ひ、ひええっ、勘弁してくれぇ〜!」
さらにその後ろから、怖い笑顔の組長が顔を出す。たまらず、吼は教室から逃げ出し、手洗い場で歯を磨く公恵の横を駆け抜けていった。吹きすぎた一陣の風を不思議に思って公恵は振り向くが、もう吼の姿はく、かわりに教室から吼を追う一団が、飛び出してくる所が見えた。
「こら、廊下は走るなー!」
先生の怒鳴り声が、廊下の向こうまで響き渡った。