いつか黄昏に届く‥‥南北アメリカ

種類 ショート
担当 想夢公司
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 4.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/21〜12/27

●本文

 いつだったか、その人は言った。
 『黄昏へと届けば、願い事が叶うよ』

 脚本の出だしに主人公のナレーションが書きつけられており、ページを戻せばそこにはタイトル:『いつか黄昏に届く』と記されています。
「この企画は? 」
「いつだったか、お蔵入りになった脚本だよ。あの時も今回と同じで低予算だ何だと厳しい条件の上に審査とかで長引いて挙句に立ち消えになったからね」
「で? どうするつもりです? ボス」
「決まってるよ、こいつをメンバーを集めて一本撮るのさ」
 先ほどからそのオフィスで会話をしているのは、オフィスの持ち主である28歳の白人脚本家、エリオット・マクシアとその秘書クラレッタ嬢。
「ここ2・3回、苦労して脚本書いても、今回は予算の都合でとか言って報酬もなく保留にされ、挙句にそのシナリオをほとぼりが冷めた頃に勝手に叩き台にして使われていますしねぇ」
「しかも相手は巧妙だし高い弁護士雇っているしな‥‥だから、自分ところでスタッフを集めて作ろうかと思ってな」
「‥‥‥‥思い切るまでに時間がかかりましたねぇ‥‥」
「落ち込むから、頼むからそれは言わないでくれ‥‥」
 さっくりと言うクラレッタにがっくりと肩を落として言うエル。
「さて、ではこの脚本を確認して必要な人員を募集しませんとね。ジャンルは何でしたっけ?」
「ふむ、ほらあれだ、前に言っていた、近未来の設定で、いくつかショートをぱしぱしつくっていくって案を出した例の‥‥」
「あぁ、サイバーパンクですね?」
「いや、そこまでいってない。ちょっぴり技術が進歩していて機械がごてごてはしているものの町並みは普通の‥‥最悪私の家をセットにしても問題無いような町並みだ」
「でも、それじゃあさっぱり‥‥」
「それはあくまで初期の脚本だ‥‥ふっふっふ、財布は今回私の懐だ!」
「あぁ、もっと派手にサイバーパンクにして良いんですね」
「あ、今の時代を古き良き時代として多少残して欲しいが、美学として」
「‥‥微妙に弱気ですね」
 そう言うと、こほんと咳払いを一つして再び口を開くエル。
「さて‥‥ちなみに、空は常に暗い鼠色で夜は黒。主人公が生まれてこの方、黄昏の空が見られないという世界で、昔誰かが残した言葉を胸に生きている少年ないし青年が主役だ」
「その世界で、黄昏の空を見に行くと」
「まぁ、見つかるか見つからないか、ばりばりのサイバーパンクかも現代にちょっぴりテイストかは、予算が増えたんだ、その辺はいろいろと変動するって事で」
「‥‥」
 優柔不断なボスに、クラレッタはじと目を投げかけるのでした。

●今回の参加者

 fa0095 エルヴィア(22歳・♀・一角獣)
 fa0379 星野 宇海(26歳・♀・竜)
 fa0613 (20歳・♂・狐)
 fa0794 村上 繁昭(32歳・♂・蝙蝠)
 fa1257 田中 雪舟(40歳・♂・猫)
 fa1613 雪白 紗綾(15歳・♀・小鳥)
 fa2435 アリーセ・フォクター(22歳・♀・兎)
 fa2480 Z・Z(47歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

●始まりの出会い
 星野 宇海(fa0379)と雪白 紗綾(fa1613)の歌声が響く中、灰色の雲に覆われた空に浮かび上がる題字。
『いつか黄昏に届く‥‥』
 文字が風で吹き消されていく中、画面は下へ、『特権層居住区』と表示されたそのエリアに忌々しげな視線を向けた青年:ヒューを演じる縁(fa0613)の姿。
 エンは肩を竦め辺りを見るとそこは廃棄場へ。
 何かを掘り返しては傍らにあるホバー式カートに載、別の山へと放っていたエンは、ふと見えてきた白い指先に眉を顰め、周りの物を掻き分け。
 やがて現れるのは腕の一部に破損があり機械を露出させているさーや演じるロボット『Solla』。
「へぇ珍しい型だなコイツ‥‥さてどうする、か」
 ホバー式カートに場所を空けてさーやを載せると、カートをエアバイクに繋いで自室――区切られごみごみとした一角のアバートメントへ行き、室内の作業台へと載せて破損部分を確認するエン。
「まず起動、するか‥‥」
 言ってさーやを自室の機器へと繋ぐと、物憂げな瞳が開き緩やかに開かれる唇。
『たそがれにとどいたなら‥‥かなうから
たそがれのむこう‥‥かがやく‥‥せ‥‥かい』
 途切れ途切れに発せられる歌、さーやの瞳に光はなくうつろに流れる歌声。
『do ‥‥not give up
ひかりさす‥‥みらい‥‥を』
 そこまでで動きを止めるさーやを確認して溜息をつくエン。
「私の貴重な時間を浪費しているってことを自覚してほしいわね」
 画面はさーやの具合を確認しているエルヴィア(fa0095)演じるベアトリスが皮肉げに言うシーンへと。
「そういわないでくれよ、ベティ」
「ベアトリス! それにしても何でまた‥‥まぁ、珍しい型みたいだけど、身に着けてるものも‥‥」
「コイツ、歌ったんだよ、一瞬だけ起動したんだけど‥‥たそがれがどうのって」
「‥‥たそがれ?」
 目を鋭く細めると、エルヴィは溜息をついて頷きます。
「オーケイ、何とかしてみるわ」
 エンを別室へと追い出した後、エルヴィは難しい顔でさーやへと向き直り『黄昏‥‥まさか』と呟くのでした。
「はじめましてますたー」
 夢見がちな瞳で微笑みかけるさーやの挨拶に、エンはエルヴィを見ると彼女は考え込む様子でエンとさーやを追い返します。
「ちょっとやることが出来たの、またね、ヒュー」
 質問を許さない様子でエンへと背を向けるエルヴィに、さーやの手を引いて帰っていくエン。
 エルヴィの眼前に広がるホログラフには、分厚い雲と複雑な数式の羅列が映し出されているのでした。

●夢見る人形
「お前なんていうんだ?」
「Sollaです」
「Sollaって?」
「SollaはSollaです」
 エルヴィと別れ自室で機器を修理しながら問いかけるエンに、微笑を浮かべたまま答えるさーや。
「ますたー、Sollaはなにができるのですか?」
「何って言われても、珍しいキモノを着ている以外はSollaの機能とか知らないから‥‥そういえば、歌ってたけど?」
「ごめんなさいますたー、でーたがよみこめないです」
「‥‥メモリの故障か」
 苦笑しながら機械へと向き直ったエンですが、直ぐにエルヴィからの通信にモニターへと顔を向けると浮かび上がるエルヴィ。
「あの、ヒュー、実は‥‥」
 何度も言いかけ言葉を濁す様子に怪訝な表情を浮かべるヒューですが、エルヴィの背後で激しい破裂音が上がりジャケットを掴むと、エンを見て立ち上がるさーや。
「Sollaは‥‥」
「ますたーがいかれるのならばSollaはついていきます」
「‥‥わかった」
 2人でエルヴィの元へと向かうと、そのボロ屋敷は倒壊し焼け焦げまだ消え切れていない炎がちろちろと壁を舐めています。
「っ、ベアトリス!」
 駆け寄ると口元から血を零したエルヴィは焦点の合わない目を向けて手を伸ばし。
「空を覆う‥‥蛇を‥‥」
「覆う? ベアトリス、何を‥‥」
「掃っ‥‥て‥‥黄昏を‥‥取り戻し‥‥て‥‥」
 言葉が途切れると共に力なく落ちる手。
「隊長、誰かが‥‥」
 不気味な感覚を覚え立ち上がるとさーやの手を引いて駆け出すエンに、それに気が付いた男達の声。
「この女から情報が漏れた可能性がある、なんとしてでも逃がすな」
 黒を基調とした隊服の特殊部隊隊長:藤堂 戟を演じる村上 繁昭(fa0794)の視界に駆けて行く二人の姿が。
「黄昏を取り戻す、か‥‥」
 眉を寄せて言うシゲは、溜息交じりに首を振ると先に向かった部下を追いゆっくりとその場を去るのでした。
『数日後』
 レジスタンスの隠れ家、機械のケーブルがはい回る室内のくたびれたソファーへ身を沈めているエンへ、田中 雪舟(fa1257)演じるベンが歪に凹んだカップを持ってきて差し出します。
「何でまた彼奴等に追われていたんだ?」
「分からない‥‥けど、奴らに殺された友人が『黄昏を取りもどして』って‥‥」
「黄昏‥‥か」
 頷くとセッシュウは暫く考え込むように黙り沈黙が落ち。
「‥‥昔、<伝える者>のというのを聞いたことがある」
「<伝える者>‥‥?」
「あぁ、中央へと行かなければならないが‥‥」
 セッシュウの言葉と共に部屋の中央へホログラフの都市地図が表示されると、それは『中央』と隣接する『特権層居住区』の地点をクローズアップして止まります。
「ガイアの元に、<伝える者>は現れるという‥‥侵入は難しいが、そこへ行けば何か分かるかも知れないぞ」
 ルートを表示しながら言うセッシュウに眉を寄せるエン。
「けど、あんな場所、どうやって入り込めば‥‥」
 その言葉にセッシュウはにやりと笑い言うのでした
「まぁ、任せろ」

●黄昏の真実
 一帯に響き渡る警報、エンはさーやを連れて建築時の作業用通路を走っていました。
 息を切らせ立ち止まり、遠くから聞こえる激しい銃撃戦の様子にエンはサーやを振り返ると、サーやは変わらぬ夢見がちな笑顔を向けます。
「くまなく捜せっ」
 シゲの声に通風口から覗けば、部下に指示を出している姿が見え、エンはさーやに口元へと指を当てて慎重に奥へと進みます。
 やがて現れた分厚い扉の前へと来ると、何かに反応し、ロックの外れる音が響きます。
「ほぅ? 鼠が‥‥貴方のいるべき場所へ帰るか、死ぬか、選ばせて差し上げましょう」
 そこに待ち構えていたのはZ・Z(fa2480)扮するJ・スミス。
 青を基調とした部屋、中央の映写台が青白い光を放ち揺れています。
「ますたー、Sollaはここをしっています」
「知っている‥‥?」
「ここは気に入っているんです。汚い血でけがさないでください、愚民」
 酷薄な笑みを浮かべて言うジズが低い声で言って微笑すると、ぎゅっとさーやの手を握るエンを見咎めて口元を弛ませます。
「そうそう、そいつは置いていって貰いますよ‥‥」
 ボタンを押しすぐに現れるシゲにエンを取り押さえさせ、目を細めるジズ。
「そうそう、ここに入り込んだ時点で、万死に値するのですよ、愚民。‥‥どうせ死に行くのです、真実を、教えて差し上げましょうか」
 中央へと浮かび上がる気象科学兵器ウロボロス、そして起こる事故、雲に覆われる世界――次々と目まぐるしく移り変わる歴史の姿、ドームへと知らぬうちに隔離されていく人々‥‥。
 そして、スーパーコンピュータ・ガイアの誕生。
「Air‥‥」
 そこまで映し出して、さーやの呟きと共に突如揺れ動く室内、まるで妨害するかのようにいとも容易くジズとシゲを絡め取る半透明の青い壁。
「ますたーあそこです」
 導かれるかのように壁の中にぽっかりと現れた入口を潜ると、入口はすぐに閉じ、中央の最上部、ドーム内が見渡せる小部屋へ。
 波打つ黒髪に深紅の瞳・白くたなびくドレスからは藤色の翼と、竜と融合した姿の☆海演じる<伝える者>即ち『Air』が浮かび上がっていました。
「気象を自在に操る事の出来るウロボロス‥‥全ては私達人間の傲りから始った。英雄は世界を救ったのではなく、壊したのよ」
 悲しげに目を伏せる星海。
「ここは一握りの人間に支配される箱庭なの。‥‥そして、お帰りなさいSolla」
 微笑を浮かべてさーやへと手を伸ばす星海と、さーやは歩み寄るのでした。

●そして‥‥エンドクレジット
 緩やかに流れ出る星海の歌声に、さーやは目を閉じて星海の声に柔らかい澄んだ声を重ね。
『曇り空を見上げては『有り得ない』と笑っていたの
私の手のひらは小さすぎて』
 先程とは別の入口が開き、そこから見ればドームの外、雲に覆われた本物の空が広がっています。
『夢も希望も涙さえも繋ぎ止めてはおけなくて』
 一瞬だけ、ドーム内の全ての空に映し出される鮮やかな黄昏時の空。
 一つの戸が開き、セッシュウが辿り着くとさーやの手を取ったエンを背中を押すよう笑い、自分は仲間の元に留まることを告げ。
『黄昏に届いたならば きっと願いが叶うから
黄昏の向う側には 光輝く世界があるから
Please do not forget.』
「必ず、見つけ出してみせるさ」
『光差す明るい世界を
Please do not give up.』
 さーやに微笑を浮かべ頷くエン。
「sollaはどこまでもますたーといきます」
「行こう! Solla」
『何時の日か訪れる未来を』
 戸を潜り二人が踏み出していくと、画面もドームの外へ。
 そしてどこまでも広がる世界を映し出すと、画面は暗転しスタッフロールが流れるのでした。