悠久の祈り南北アメリカ
種類 |
ショート
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担当 |
想夢公司
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
4.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/17〜01/23
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●本文
その日、エリオット・マクシアは、数組の企画書と脚本原案を前に、秘書のクラレッタ嬢と打ち合わせをしていました。
「うちでもまだ短編ではあるが作品を作れるような状態になったわけでもあるし、もう少し作るペースを上げて、経験を積んで、色々と手を広げて行きたいと思っているんだが‥‥」
「そうですね、脚本の結果連絡を待って拘束されて仕事にならなかったり、詐欺まがいの契約で作品を取り上げられるより、はるかに建設的な意見と思います」
手帳に色々と書き込みながらクラレッタ嬢が頷くと苦笑するエル。
「でだ、クラレッタは次に、どの話に行けばいいと思う?」
「この間の世界観などはいいと思いますけれど‥‥そうですね、前の設定をきちんと詰めて行くのだと、もう少し時間がかかりますし、ここは一つ、現代に幻想的な要素を付け足した、悠久なんてどうでしょう」
「悠久か‥‥」
そう言って一冊の企画書を取り出すエル。
「レイクサイドの別荘地に建つ、湖に面した洋館での数日間、だな」
「遥か昔にその湖に沈んだと言われる、少女、もしくは女性の姿を見てしまう、都会に疲れ切って逃げるように別荘へと来た主人公‥‥」
クラレッタが冒頭を読み上げると、その情景を思い浮かべるように目を瞑り、胸ポケットから葉巻を取り出しかけて、はたととまるエル。
「‥‥って、クラレッタ、まさかとは思うけど‥‥」
「ロケ地に最適じゃないですか、ボスの別荘。掃除の手配は済んでいますし、ボスの別荘は湖に面していて広くてセンスの良い家具も備え付けです」
「‥‥始めからそのつもりだったな‥‥」
「当然です、あの別荘をモデルに書いたのです。モデルの建物で撮るのは最適だと思いますが?」
「‥‥と、とりあえずスタッフの手配を頼む‥‥」
がっくりと机に肘をつき、顔を覆うようにして呻く様にエルはクラレッタに言うのでした。
●リプレイ本文
●邂逅
微かに聞こえてくる透き通った歌声、うっすらと浮かび上がって来る湖の姿。
ぼんやり光る清楚で手の込んだ刺繍の白いドレスの女性ライラ・フォード(fa2162)がゆっくりと顔を上げると、目を見開くよれたパジャマにナイトガウンを羽織った壬 タクト(fa2121)が映り、画面は上へ、月を写してタイトル。
『悠久の祈り』
夜の闇に包まれた時刻、豪奢な家具に囲まれた居間のソファーで、タクト演じるルイが不機嫌そうに座り、辺りには散らばった本。
大宗院・慧莉(fa2668)が歩み寄ると、一冊の本を拾いあげて軽く首を傾げます。
「あなた? 大丈夫ですか?」
「うるさいっ!」
差し出された本を振り払い立ち上がって出て行くタクトを見送ると、目を伏せるエリーと、歩み寄り散乱した本を集めて片づけを始める佐々峰 菜月(fa2370)演じるメイドのナタリア。
「旦那様は‥‥」
「今はそっとしておいてあげて」
サレナ=ブリュンヒルド(fa2706)演じるメイドのサレナが尋ねると、エリーは首を振るのでした。
「さて、どうしたものか‥‥」
夜の闇の中、浮かび上がる姿はセシル(fa2563)。
視線の先にはずっと水見を眺めているライラの姿があります。
「想いが強ければ強い程‥‥」
言いかけるセシルは聞こえてくる足音と声にすっと湖の畔にある林の木々に紛れて姿を消します。
「っ‥‥畜生‥‥っ」
荒い足音はタクトで、憤りと後悔が混じった表情で来ると、聞こえてきた何かに顔を上げ湖へと目を向けます。
あるのはライラの姿。
ライラが口を開くと美しい旋律が流れ出ますが、怪訝そうに見て足を踏み入れるタクトに気が付いたライラはタクトへと微笑みかけます。
「‥‥もしかしたら、何かが変わるかも知れない‥‥」
セシルが木の陰から見守りつつ呟くと、画面は暗転。
●感興
「ルイ? 早いのね」
早朝、白い息を吐いて道を歩いているとタクトに声をかけるシヅル・ナタス(fa2459)演じる女性。
「‥‥おはよう、管理人さん」
言って通り過ぎようとしたタクト、その足下がぴたりと止まると向きを変えるタクトの足。
「聞きたいことがある」
タクトの言葉に小さく首を傾げながらも、シヅルはタクトを部屋へと迎え入れます。
ぐるりと映し出された部屋、そこには永瀬真理(fa0854)が用意した沢山の写真立てがのった棚に、歴史を感じさせる絵、その中の一つに少女の描かれた小さな肖像画で画面は止まると、ゆっくり引いて画面は再びタクトへ。
「あの湖で歌っている女を見たんだ、ちょっと古めかしいドレスの‥‥気がしたんだが、夢だったのかも‥‥」
「この辺りは古い土地柄だし、可笑しくはない話だと思うけど‥‥」
「‥‥そうか」
タクトは怪訝そうに首を傾げつつ、奥から珈琲の入ったマグカップを持ってきて差し出すシヅルにもごもごと口の中だけで礼を言って受け取り珈琲を啜るのでした。
「こんな時間に何を? ‥‥それにドレスって‥‥どこのお嬢様だか知らないけど、おかしな女‥‥」
呟きながらも何度も湖へと足を運ぶタクトの姿を幾つも短く重ねて流していき、画面は湖近くの小屋へと切り替わります。
「‥‥差し出がましいとは思いますが、あまり入れ込みすぎるのはいけません‥‥」
薄暗い室内、窓の側に立つ2つのシルエット、真理演ずるタニア――人の姿で本来はエタニティだが――が口を開けば、セシルが頷きます。
「分かっている‥‥」
だが、と続けて僅かに目を細めて湖を見るセシルの視線を追い、画面はちょうど木々を抜けてやって来たタクトがライラへと歩み寄る姿、そのまま画面は二人の元へと移行します。
『待っているの。大切な人を。もうずっと長いこと‥‥』
タクトはどこか不思議な響を持つその言葉が投げかけられたのに気が付きライラの後ろ姿を見つめました。
「‥‥長い事って、どれぐらい‥‥」
『もう忘れてしまったわ‥‥』
微笑んで振り返るライラに言葉もなく見つめ返すタクト。
と、そこへ足音が近付いてくると、タクトが振り返った先にはなつが僅かに息を弾ませて立っています。
「ルイ様、この様な夜更けに‥‥」
歩み寄って怪訝そうな表情で湖を見渡すなつ。
「一体湖に何の用なのですか?」
「何の用って‥‥だってそこに女性が‥‥」
なつの言葉に慌ててライラの方をタクトが見れば、変わらずライラはそこで微笑んでいます。
「ルイ様はお疲れになって幻覚でも見ているのでしょう‥‥さ、お休みになりましょう?」
「ちょ、ちょっと待てよ‥‥」
呆然とした表情でなつに引っ張られて別荘へと向かって歩いていくタクトを、ライラは微笑を浮かべたまま見送っているのでした。
「近頃ルイ様、夜に抜け出しているみたいなのですが」
数日後と表示され、場面は昼、エリーへと告げるなつに、エリーは頬に手を当て。
「きっと、外の空気を吸いにいっているのですよ」
穏やかな笑顔でそう言うと、好きにさせて上げてと返すエリーは、出かけていくタクトのきちんと整えられた服装、そしてどこか明るい表情を窓越しに眺め、微笑を浮かべるのでした。
「世の中には不思議な事が沢山ありますから、旦那様に見えてもおかしなことじゃないですよぉ」
ほわっと笑顔を浮かべて言うサレナに口元に笑みを浮かべて頷くタクト。
タクトが軽く手を振って出かけていくのを、サレナはぺこっと頭を下げて見送るのでした。
●悠久の祈り
湖の畔、日の光が差し込むも肌寒い中、タクトは腰を降ろして眺めています。
「‥‥魂がね、無事に留まれる時間は限られているんだよ。想いの強さは、時として楔となる」
かけられる声に振り返ればゆったりとした黒のコートを身につけたセシルが立っているのが映り、どこか警戒する様子で見るタクト。
「無事に留まれる時間って‥‥」
タクトの言葉にただにと笑って黙っているセシル。
セシルはタクトの隣に並ぶようにして立ち、再び湖へと目を向けるタクト。
「彼女は狭間の人。縛られた存在。解放できるのは‥‥」
「狭間の‥‥縛られた存在? それって」
慌てたように顔を上げるとそこには既に誰もいなく、画面は引いて1人ぽつんと佇むタクトを映し出します。
夜、部屋の前で見張っているなつに溜息をつくタクトは、窓の方から聞こえた物音に歩み寄ると、立てかけられた梯子と、そして去っていくサレナの後ろ姿が。
梯子を伝い湖へと急ぐと、そこには変わらずライラがいました。
「ずっと1人で待つのは、辛くないのかい?」
ライラのアップと、その後ろに見えるタクトの姿、ピントがタクトへと移り、ライラの口元はぼやけつつも閉じられたまま。
『待つのは平気よ。いつか、必ず、その人に会えるはずだから。待ち続けることは、辛くない』
ライラの答えに佇むタクト。
「僕は全てに裏切られた気がしていたけど‥‥本当は‥‥先に裏切っていたのは僕だったのかも知れない‥‥」
タクトへと切り替わる画面、声を震わせて続けるタクト。
「信じて貰えないって、裏切られたって‥‥嘆いていたけど‥‥まず僕が誰も信じてなんかいなかったんだ」
頬を伝う涙に初めて自身から近付くライラ。
決して触れられない指先でタクトの涙を拭って微笑むライラに、タクトは声もなく泣き続けるのでした。
「すっかり冷え切っているじゃない」
シヅルが言うと毛布と温かい珈琲を勧められ受け取るタクト。
「こんな時間に来るから驚いてしまったわ」
責める様子もないシヅルはタクトの話を聞いてから立ち上がると、ピアノへと歩み寄り指を走らせます。
「この曲‥‥彼女が歌ってた‥‥」
「昔恋人を待って湖に沈んだという女性が居たらしいわ‥‥もっとも、私もあまり詳しくはないの。湖の側にある小屋に住む人ならもしかしたら‥‥」
「おかしいよな。‥‥もう誰も信じられないと思っていたのに‥‥彼女の想いは報われるって信じたい自分がいて‥‥」
「可笑しくなんか無いわ」
「ん‥‥今は、ただ彼女の為に何かしたいって思うんだ」
そう言うとタクトは暫くの間考え込む様子を見せるのでした。
●再び
夜、小屋からゆっくりと出て来るタクトは、ライラの元へと歩み寄ります。
「君の名を聞いたよ『エメライン』‥‥彼はもうここには来られない」
ライラの瞳に悲しげな色が浮かぶのに、首を振るタクト。
「違う、君がここにいる限り彼は逢いに来られないんだ‥‥上を見て。きっと、その先で逢えるから‥‥」
タクトの言葉に恐る恐る見上げるライラ、黒い翼がはためき、黒いゆったりとしたローブを羽織ったセシルが迎え入れるかのように道を示します。
『‥‥行こうか』
穏やかな響く声、翼を広げそっとライラの手を取り道へと促す真理に、ライラは振り返ると『ありがとう』と残しその光の道を昇っていくのでした。
「最初にここに来たときに比べれば顔が見違えましたわね。これなら大丈夫そうですね」
笑いながら言うシヅルとサレナ、そしてむくれるなつに見送られ、車の前に立つのはタクトとエリー。
「彼女が救われてよかったですけど、浮気はダメですよ」
くすっと笑って言うエリーに、知っていたのか、と慌てるタクトですが、車の窓から湖を見ると小さく口を開きます。
「また来るよ。‥‥でも、今度は逃げ場所としてじゃない」
決意を込めた言葉と共に、走り出す車、画面はそのまま上へと昇っていき、明るい日の光と澄み渡る青空を映しだすのでした。