ダイ・アト・ナイト南北アメリカ

種類 ショート
担当 想夢公司
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/22〜10/28

●本文

『ダイ・アト・ナイト(仮題) 企画書』
 中央にそう印字された紙の束が置いてありました。
 しかし、企画書として提出されたにしてはあまりにぺらぺらなそれは、手に取ってみると細々とした注意点を含めても、まだたった3枚しか重ねられていないような代物です。
 ページを捲るとまず目に付くのがコンセプト、そして欲しい要素、そして、赤いラインが引かれている、続編を視野に入れた低予算映画、と注意書きが。
 そして、所々空いている場所に手書きで※印が入り、その後に殴り書きで何やら書き込みがしてあります。

コンセプト:コメディタッチのシリアス刑事アクション
 ※コンセプトぐらい絞ってくれ‥‥。

留意すべき要素:
『主演』
 近頃流行の二枚目系ではなく、ユーモアセンスに溢れた、ちょっとやそっとじゃめげないタフな奴。
 締めるときにはびしっと締めるので、上司は頭を悩ませながらも信頼していざというときに大事なところが任される刑事。
 ※こんな都合の良い主人公‥‥しかも二枚目以外?

『ヒロイン』
 恋愛要素は必須。
 この際花屋の娘でもオフィスレディでも、とにかく主演にあった娘を。
 ※とにかく娘さんならなんでも良いのか?

『悪役』
 美学に徹して書いてくれ。
 ※‥‥‥‥俺もう家に帰りたくなって来た‥‥

 どうやら企画書を提出できる形にするために、『あらすじ』を書くことになっている脚本家が、あまりに大雑把な指示でイメージを上手く絞れない様子。
 その企画書原案に乗っかっていたであろうメモにはこう書き殴ってありました。
『大至急、あらすじに盛り込む為のネタ持ち込みを!』
 ‥‥‥‥どうにもそのよれた文字からは、脚本家の非常に切迫した様子が窺い知ることが出来るのでした。

●今回の参加者

 fa0202 高邑光希(9歳・♂・狼)
 fa0262 姉川小紅(24歳・♀・パンダ)
 fa0527 相楽・満月(24歳・♀・鷹)
 fa0780 敷島オルトロス(37歳・♂・獅子)
 fa1069 真鳥・華月(18歳・♂・鷹)
 fa1323 弥栄三十朗(45歳・♂・トカゲ)
 fa1571 SAKUYA(18歳・♀・兎)
 fa1715 小塚さえ(16歳・♀・小鳥)

●リプレイ本文

●迫る締め切り
「『主演』は、ちょっとお腹や白髪が気になるかな、くらいの方! 主人公の設定は、女房に逃げられた中年男性‥‥はどう?」
「いきなりちょっぴりマニアックねぇ」
 姉川小紅(fa0262)が言う案に、ノートPCに挙げられるネタを打ち込みながら相楽・満月(fa0527)がくすりと笑いました。
 ここは脚本家が缶詰になっているホテルの、寝室とソファーと備え付けのバーが有る部屋とがそれぞれ独立してある広々としたとてもお高そうな一室。
 俗に言うスゥイートとか呼ばれるお部屋で――とは言えこの上にももっともっとお高い部屋はあるのですが――それぞれがソファーやらバーカウンターやらに着いて思い思い意見を言い合っている姿が画面には映し出されます。
「ねーねー主演の刑事さんは寒いギャグが好きな人で、いっつもそれで現場を凍り付かせるってのはどうかな?」
 元気いっぱいちびっ子の魅力全開でそう言う高邑光希(fa0202)に、その可愛さから満月が何となく撫で撫でとしつつ目を細め、
「寒いかどうかは置いておきまして‥‥主人公はひたすら天然で、その場にギャグの嵐を吹き込む台風の目‥‥的なキャラにしてみるとか‥‥」
「うん、そうするとほら、凄惨な現場のシーンでも視聴者さんが『っぷ』って吹き出せるかも知れないでしょ?」
 何やら真鳥・華月(fa1069)と光希でそんな風に盛り上がって話している様で、その横で話を聞きながら先程からSAKUYA(fa1571)がコピー用紙に軽くラフで画面構成を確認しているよう。
「三枚目で猿顔の、日頃は婦警や関係者にコナを掛けまくる軟派なタイプなんてどうです?」
 弥栄三十朗(fa1323)がそう言ってからコーヒーを啜ると、小塚さえ(fa1715)は考えるようにして紅茶の入ったカップを置いて辛から口を開きます。
「主演は良いとして‥‥ヒロインは主人公と幼馴染の好奇心いっぱいの女の子なんてどうでしょう? 悪役は『美術品・芸術品』を狙う怪盗で正体はヒロインの働くアンティークショップのオーナーさんで‥‥」
 打ち込みながらも、満月はそれぞれがあまりに違う内容に、一瞬纏まるのだろうかと微苦笑しますが、すぐに自分のイメージを打ち込んでいくのでした。
 正直時間もないことだし、とばかりにネタを纏めつつ話す各人の側にあるカレンダーには、赤いペンでしっかりと迫る締め切りに印が刻まれているのでした。

●逃走の為の闘争
「限られた予算で、色々と頭をひねらなきゃいけない辛さは俺も身に染みて分かっている」
 そう言いながら濃いコーヒーを脚本家へと渡すのは敷島オルトロス(fa0780)。
 寝室に軟禁状態である脚本家はじっとりとした視線をオルトロスに向けますが、やがて溜息をついてコーヒーを受け取って啜るとがっくりと肩を落としました。
「まぁ、さっきのように逃走を図ろうと瞬間的に思ったのは忘れ、愚痴があるなら聞こうじゃないか」
「いえ、だいじょーぶ‥‥」
 微妙に逃走失敗のショックを引き摺ったような表情で言う脚本家は、女性陣が買いだしから戻ったときの、戸の隙間に突進仕掛け、満月に延髄切りで落とされた後です。
「根を詰めすぎては書けるものも余計にかけなくなりますよ」
「ホテルに缶詰って事は運動してないってことだよね? それじゃ煮詰まっても仕方ないよ、ちょっとだけ僕と運動しない?」
 にっこりと天使の微笑みを浮かべる華月に、光希が脚本家の膝に掴まるようにして言うのに、頷いて簡単なストレッチングをしてみます。
「さて、それじゃあ仕事の話をしようか‥‥低予算と言うからには、あまり派手な事は出来ないな?」
「そうですねぇ、出来るとしたら爆発シーンを規模が大きくしすぎなければ1つ、あとは車が数台ぐらいは最低確保できてますけれど‥‥」
「ならば、会話型サスペンスはどうだろうか? そうすれば‥‥」
 幾つかの利点と使用例を考えて説明するオルトロスに、なるほど、と光希の頭を撫でつつ幾つか心当たりのある映画を上げて確認してイメージを組み上げていく脚本家に、満足そうに頷くオルトロス。
 少なくとも、華月の作るパンプキンパイを咀嚼しつつではあまり説得力はないのですが。
「よしっ、できた!」
 そう言ってイメージボードを幾つか、荒い描き方ながら作り上げて顔を覗かせたサクは、先程脚本家へと渡したネタのストックと合わせて脚本家へと軽口を交えて話しますと、光希は悪役について楽しそうに幼稚園バスジャックの話をして溜息をつかせたりと展開されて行く寝室。
「なるほど、ここに逃走劇を‥‥」
 やがて言われた事柄とネタを確認しつつPCに向かって作業を再開する脚本家は、黙々と作業を進め始め、一同は彼を一人きりにしてやるのでした。

●最後の追い込み
「はい、あーん」
「あ、あぁ‥‥」
 口元にスプーンを出されて何となく反射的に口へと含む脚本家を見て、彼を殺そうとする場合は締め切り前が最適と周りに思わせるような状態を連想させる状況を作り出しているのは小紅です。
 時折同じスプーンで食事を突いていることに、脚本家はまだ気が付いていません。
「ん、おいし」
 クラムチャウダーをぱくりと一口食べながらそう言うと、小紅は何となく脚本家の様子をじっと眺めたりしていますと、彼は何やらプリントアウトを始めます。
「さて、とりあえずは話の流れを纏めたので、概要を確認して貰おう」
 人数分打ち出した紙を手にソファーの部屋へと立ち上がって向かう脚本家に、小紅派なんだか面倒そうに立ち上がると、脚本家の後から部屋を移っていくのでした。
「最初のシーンは幼稚園バスのバスジャックから始まる‥‥どうも日本のお約束としてふまえなければならない物のようなので入れてみたんだが‥‥」
 そう言って配る紙には企画書としての大まかな流れと説明、登場人物案が打ち出されています。
『主人公:
 白人と黒人のコンビで、白人は20代後半から30代前半のベテランへと足を踏み入れかけた刑事、黒人は配属されてからこの1年、白人主人公とコンビを組んで息がぴったりと合った2人。
 テロ対策を主体とした事件の担当を行っている。
 詳細は各人の詳細データ確認のこと。

ヒロイン:
 アジア系のクールビューティーで殺人課刑事。
 白人側主人公と衝突しながらも何かと互いを気にする関係。
 妹がおり、その妹が元恋人の経営する店で働いていたり、黒人側主人公と時折良い雰囲気を醸し出すのが気にかかっている様子。

悪役:
 元‥‥』
 肝心な部分が画面にモザイクがかけられて視聴者には映し出されないものの、主人公とヒロインはどうやらほぼそれで決まりのようで、大まかなシナリオ展開も次の用紙へと移ると書き出されています。
「さて、そこで裏に犯人が居るのを察知という‥‥まぁ、当然、犯人自らがハイジャックをしに来るはずもないし、そこのところで‥‥」
 そう言って用紙のシナリオ展開に移る脚本家。
『幼稚園バスジャック→主人公名指しの電話交渉→犯人●●●→連絡を受け飛び出し格闘の末捕まる白人側主人公→●●から脱出→得た手がかりを手に最終決着』
「それにしても、この白人主人公の性格は、狙ったように映画ヒーローの約束事のようなものを踏襲していますね」
 三十朗の言葉に、それぞれの配置がそう言う形で収まりましたからね、と脚本家。
「そっか、悪役はヒロインの元‥‥」
「ええ、なので妹がここで絡んできて‥‥」
 1つ1つ、確認をすれば細部まで説明をする脚本家に、上へと出す企画書の形式として書いた物を見せて貰って見比べる満月は良い経験になるかも知れません。
「‥‥それにしても、このおにぎり、美味しいですね」
 一通り説明してそれぞれが思い思いに提出する第一稿の脚本草案を読んでいるのを眺めながら、脚本家はさえからおにぎりを受け取って食べると、中の具についてや日本食について興味があるような質問を続けているのでした。

●結果オーライ・打ち上げの席
「何はともあれ‥‥」
『お疲れ様でした〜!』
 一同いろんな料理を取り寄せたり作ったりしながら、一同はそれぞれジュースからお酒まで幅広く手に持って乾杯を行います。
「はぁ、やっぱりホテル食じゃなく一般的な料理が美味しいなぁ‥‥」
 よっぽど辛かったのかしみじみと漏らす脚本家に、オルトロスが近付いてきてシナリオについて色々と予算も含めて会話を交わす2人。
「ええ、部屋を2つ押さえて、そこからの指示で進めていく捜査形式で‥‥」
 仕事の話が尽きない様子の2人とは打って変わり、こちらは既に仕事の話はすっぱり飛んでいるようで‥‥。
「ミッキーちゃんが大吟醸! 三十朗さんがワイン! をご馳走してくれるんだ♪」
 幸せそうにお酒を飲み干す小紅に、さもう一杯とばかりにお代わりを注ぐ三十朗。
「ね、お兄ちゃん、この映画っていつ頃できるの?」
「まずこの企画書を提出して調整を数回行って通した後‥‥、実際に撮影に入れるのはまだちょっと先だね」
「そうなんだぁ」
 そんな他愛のない会話をしている情景からスタッフロールが流れ始め、制作者サイドに迫る番組は幕を閉じたのでした。