ストームナイト南北アメリカ
種類 |
ショート
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担当 |
想夢公司
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
4万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/25〜03/31
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●本文
その日、28歳の白人脚本家、エリオット・マクシアは一冊の草案を前になにやら難しい顔をしてにらめっこしていました。
「どうしたんです? ボス」
「む‥‥むむ‥‥なぁ、クラレッタはアクションドラマを作ったとして、ちゃんと出来ると思うかい?」
「何いきなり弱気なんですか、ボス」
「むぅ‥‥いや、ほら、ベトナム戦争物を出したら、なんか現場に鬼教官が出てきたり、どうにもこうにも上手く噛み合わないからなぁと思って」
眉を寄せて言うエルに頬に手を当てる秘書のクラレッタ嬢。
「今更ですね、ボス」
「‥‥言われると思った」
「アクションと言うことはダイアト?」
「いや、それとは別に‥‥『ストームナイト』って言う‥‥」
「あぁ、あの、嵐の夜に地下研究施設に閉じこめられた研究員が、その嵐が来るのを待ってその研究成果を奪いに来た者達を返り討ちにするって言う?」
クラレッタ嬢が企画書を手に言えば、溜息混じりに頷くエル。
「だってなぁ‥‥考えてみれば、戦える研究員なんて、普通いないしなぁ。そこで無理矢理に人体強化の研究をしていたって言う設定にしたらコミックかと怒られたし‥‥」
「侵入者達はスターライトスコープやゴーグルで、本人は強化されているから問題ない、画面がほとんど闇の中での僅かな光か非常灯って言う設定なのでぱっと明るい画面が少ない、でしたよね、設定では」
「撮影では緑と赤のフィルターを画面にかけるかたちで合成してそれらしくするから‥‥でも、画面が全体的に薄暗くなるかな」
そこまで話して思わず目を見合わせるエルとクラレッタ。
「‥‥とりあえず没になった脚本を使うって言うの、ちょっとやめません?」
「でも、要所の闇の中での攻防戦で、暗い中での姿を上手くできれば、それ以外は画面が薄暗いんだな、と思わせるような演出だけで良いわけで」
「研究施設はどうするんですか?」
「‥‥大丈夫、伝手があるからそう言う壊して良い物沢山持っている人については‥‥」
どこか遠い目をしながら言うエルに、何となく頷くクラレッタ。
「それにしても、題名はもう少し何とかならなかったんですか?」
「‥‥あぁ、新しく考え直すのがめんど‥‥ごほごほ、まぁ、良いじゃないか」
慌てたように企画と草案を手に、エルは立ち上がるのでした。
●リプレイ本文
●番組表変更のお知らせとお詫び
黒い画面に浮かび上がる白い文字『番組表変更のお知らせとお詫び』、続いて表示されるのはその理由。
『本日7:00より公開予定でした『ストームナイト』は、制作者側と放送局側との協議により放映中止となりました。
ここに番組表変更のお知らせとお詫びをお伝えいたします。
以降の時間は『ドキドキ★サマーライフ』を再放送にてお届けいたします』
切り替わる画面、軽快な音楽と共に少女達が笑いながら水着で浜辺を駆けていく映像が映るのでした。
●お蔵入りのVTR
一本のVTRが完成したとき、エリオット・マクシアも放映会社の方も渋い顔をしたそうです。
「早朝に血の表現に内部抗争い、それに能力者大終結‥‥どういう事かね。放映時間を考えたものにして貰えると思っていたのだが」
「申し訳ありません、そのように手配したのですが‥‥」
「これは使えない」
「‥‥」
「当分君の所の企画書は慎重に考える必要が出来たわけだな」
言葉もなく引き下がるエルが出て行くと、モニターに再び最初から流れ始める映像。
●襲撃
そこは地下研究室、白が基調のその部屋のいたるところに張り巡らされたパイプとメーターの沢山付いた機械類。
モニターに映し出される外は既に暗く、激しく降り続く雨を風が煽りモニターへと叩きつけられる様に緩く息を吐くのは辰巳 空(fa3090)演じる『レガード・フリーマン』。
ソラは眉を寄せてモニターを見つめながら小さく呟きます。
「今夜は荒れそうです‥‥」
暗い嵐の夜が映し出され、浮かび上がる白い文字『ストームナイト』。
画面は再びソラへ、じっと画面の向こう側を凝視するソラは手元のボタンを押してマイクへと顔を近づけます。
「侵入者発生、総員直ちに各自避難を開始せよ」
言葉と共に落とされるライト、相麻 了(fa0352)の『リョウ・シバ』が顔を上げ小さく息を吐くと、棺を思わせる傍らのコールドスリープ装置を見れば、横たわるのはエリア・スチール(fa0494)。
ケースの中を見つめ小さく何事かを呟いて歩き出すと、ジョーカーは通路へと消えていきます。
『ここの設備を舐めるなよ。おまえらの墓場にしてやる』
ソラが手近のモニターを切り替えれば、ずらりとモニターが並ぶ前に座り天城 静真(fa2807)がそう言いながらキーボードコードを次々と打ち込む姿が映り、画面シズマの方へ。
「しかしきりがないな」
シズマの下に『シズマ・アマギ』と表示され、悪態を吐きシステムを動かせば、複数の画面の先でばたばた倒れていく兵士の姿が。
切り替わる画面、ぴったり壁に貼りつきスコープで辺りを窺い、見えるカメラ、偽装されたカメラらしき複数の装飾品に息を吐くのは小野田有馬(fa1242)で、すぐ下に『ケビン・ササキ』と表示され。
「泣かせるね‥‥」
迎撃を受け横たわるエキストラな部下達へ目を向け、眉を寄せると通路をよろよろとやってくるジョーカーに気がつき、直ぐに身体を引っ込め様子を伺うと、かくんと膝をつくジョーカー。
「どうなってるんだ‥‥俺のカラダ」
夥しい血に頭を押さえながらも徐々に顔を下ろしていくジョーカーに、息を呑み窺っている社長。
「う‥‥ぅぁ‥‥」
呻くと直ぐ側の男の頭を押さえ、首筋に顔を埋めるのを見て音を立てないように気をつけながら一時撤退を敢行する社長。
「何だあいつは‥‥血を‥‥」
僅かに顔を歪め言うと、ロビーを制圧していた部下に突入班が全滅であることを告げ無線を手に取り幾つか報告を入れた後で舌打ちをするのでした。
●作戦コード『ストーム・ナイト』
画面はモニターの向こう、微かに見える橙の明かりに照らされ、岸村 源治(fa3283)演じる『ヅアイ』は、白のスーツに白のネクタイ、厳ついサングラスで目元を隠したまま車の後部座席にゆったりと身体を沈めていました。
「突入隊が失敗した‥‥そうだ。状況が大きく変わっている」
低く何事かを報告すれば朧気に聞こえる音声に了承の意味をこめた声を漏らすゲン。
「了解だ。作戦Cに切り替える」
立ち上がればいつの間にか車の周りに複数のカーキ色のトラックが止まり、荷台から装備を持つ男達がわらわらと降りてきます。
「作戦変更だ。素材を確保する必要はない」
伝えロビーへと踏み込むゲンに、付き従いにやりと笑うジェイリー・ニューマン(fa3157)。
「裏切り者には血の報復を。空を見ろ。血も硝煙も、全て雨風が洗い流してくれる。行こうか」
ジェイルに気がつき顔を上げる社長。
「――作戦コード『ストーム・ナイト』」
耳に入る言葉に装備を手早く変更する社長に、スコープを付けにと口の端を歪めるジェイル。
「どうした? ろくに嬲りもせずに逃げてきたか?」
「‥‥ったく、お前は昔っからそうだよ。セキュリティシステムに血を啜る研究員。三流ホラーだよ、中は」
肩を竦め言う社長。
ゲンの指揮の元、再び突入する一行、バタバタと兵士が倒れていく中で、的確にモニターを潰して進んでいく姿に、モニター越しにシステムを制御しているシズマに焦りの色が浮かびます。
「第3隔壁が突破された!」
『研究員及び被験者の避難はまだ完了していません。何とか持ちこたえてください』
ソラの指示に小さく呻きながらもキーボードへと手を走らせるシズマの目に、とある一室への通線を遮断するゲンたちの姿が映り、暗転。
●研究所内
「ったく、しつこいなー」
マリアーノ・ファリアス(fa2539)が銀色の冷却スーツを身に付け壁をとととと駆け抜ければ、一斉に後を追うように撃ち込まれていく銃弾の数々。
そこに『被験者・エンリケ』と書かれ。
「はっ!」
「ぎゃぁあっ!」
手を差し出せば、薬瓶が吹き飛ばされ兵士達に降り注ぎます。
「くっ‥‥こいつは任せる、俺は別の奴を狩りに行く」
「っ!?」
ジェイルが身を隠すのにマリスの攻撃をかわし、牽制のため吊り下がった照明を打ち落とせば、マリスのスーツに火花が散り一部をどろりと溶かし。
「っ‥‥」
一瞬動きが鈍るのを確認し通路を逃げれば、追ってくるマリス、徐々に温度が上がっていくのと同時に、マリスの動きが段々鈍くなるのに気が付いた社長は手近な部屋へと逃げ込み息を潜めます。
『!? 所長! エンリケがやばいぜ。至急A4ブロックに向ってくれ!』
その音声と共に無線を掴み部屋を飛び出すソラ。
「っ!!」
駆け込んだ先には冷却スーツが溶けて張り付き、しゅーしゅーと音を立てているエンリケだったものが。
「‥‥変わってない‥‥あんた、一体何をしてるんだ」
暗がりから、エンリケが放つ黄金色の光の前へと出てきて険しい目でソラを睨む社長。
「‥‥死に瀕した者達をここで救い、治療していた‥‥皆私にとって子供のようなもの‥‥」
「‥‥聞いておいて何だが、身の上話をしてる暇はない」
ちゃと自動小銃を構え睨み付ける社長に、弾かれるように引き金を絞る前に寄って懐へと入り込むと素早く引き出されたナイフを突き立て。
「くっ‥‥!」
社長が振り払い様に絞る引き金がソラの腕を抉り、飛び散る血。
2人は弾かれる様に離れ睨み合うと、同時に動き、短い破裂音の連続と共に暗転。
「‥‥ここは‥‥どこ、なの‥‥?」
電気の落とされた部屋、患者服を身に付け補助電源に切り替わりロックが外れたカプセルを押し開いてのろのろと起き出すエリア。
「私、は‥‥? 何も思い出せない‥‥」
額に手を当てエリアが廊下に出れば銃器を持った男達が駆け寄ってくるのにびくっと身体を震わせ。
「‥‥いや、来ないで!」
言うと同時にほのかに光るエリア、ぐん、という鈍い音と共にエリアの周りが円上に陥没し、めきめきという嫌な音を立てて血に伏す男達と、苦しげにその中心で膝をつきエリアは喘ぎます。
「っ‥‥と‥‥動けねぇのか」
そこへ通りがかったジェイルは言って銃を向け引き金を絞るのですが、弾道が地面へと歪められ舌打ちを漏らすジェイル。
「何だよ、こいつも化け物か」
化け物という言葉にぴくりと反応するエリア、耳の中に残るような音が引いていき、空気が元に戻ったことに気が付いたジェイルが銃を突きつけにやりと笑います。
パンッ
乾いた音が一つ、胸元から血を流し唇からも一筋零れる血。
「エリア――っ!」
上がる叫びに逃げるジェイル、駆けつけるジョーカー。
『ああ、思い出した‥‥心臓じゃあ私の治癒能力じゃ直せない、な‥‥』
小さく流れる言葉、力なくだらりと垂れ下がる手に強く抱きしめるジョーカーはその首筋へと口を寄せます。
「俺の中で生きろ! エリアッ!」
言葉と共に牙を立てるとジョーカーは血を啜っているのでした。
●崩壊〜エンディング〜
目を見開き横たわる社長に燃え尽きたマリス、這って壁に寄りかかるソラ。
防護システム制御室にも兵士が雪崩れ込み、手を伸ばし押されるボタン、鉛弾を無数に撃ち込まれるシズマ。
血の気のない眠るような顔で横たわるエリアに、そこを立ち去ってゆくジョーカー。
繰り返される警告音、エレベーターに閉じこめられるジェイルと、外・車の側でチップを手に立つゲン。
ゲンが車に乗り込むのを、そこへとはって出て来るジョーカーの後ろ姿と共に、轟音。
空を焦がす炎が上がり、施設が崩れ去ると車の走り去った方向へと足を踏み出すジョーカーを画面は見送り、映像は終わるのでした。