元脚本家の憂鬱南北アメリカ

種類 ショート
担当 想夢公司
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 1.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/24〜04/28

●本文

 その日、すっかり困った様子でクラレッタ嬢がジェイク・オーエンの部屋を訪れたのは朝早く、ジェイクはまだソファーでテーブルに草案や企画書が散乱させつつ転寝をし、ジャイル・マイル監督が幸せそうに夢の中にいたときのことでした。
「ジェイク監督、どうしましょう、うちのボス‥‥」
「あー‥‥こってり絞られたんだって? 局やらスポンサーやらに」
 真面目だからなぁ、と笑いかけてぎっと鋭い視線に縮こまるジェイク。
「ふわぁ‥‥あ、クラレッタちゃん、よほー」
 半分寝ている目で珈琲を入れたカップを手に歩み寄るジャイルに気がつき会釈をすると、クラレッタは続けます。
「掠め取られているのに勇気を持って独立を決断して、少し軌道に乗りかけたと思った矢先でしたので、うちのボス、すっかり‥‥」
「まぁ、干されさえしなければ、何とかなる‥‥と思ったんだけど、こりゃ、相当凹んでるだろうな、エルは」
「ん? エルなんかあったの?」
 クラレッタ嬢が尋ねてきたのは他でもなく、彼女のボスで、元脚本家、現在小さな製作事務所を構えている、エリオット・マクシアのこと。
 朝の時間帯に大量の流血沙汰や、直接の撃たれるシーンなどが色々と問題となりお蔵入りしてしまったVTRに絞られ、脚本家としてやってきていた信用問題にまで発展したと、事務所を現在休業してちょっととある海辺の観光都市に引き篭もってしまっているそう。
「‥‥あー‥‥まぁ、大丈夫だ、ああ見えて打たれ強いから、あいつ」
「でも、ボスがあれでは、いくら弱小事務所とはいえ色々と困ってしまっていて。それに事務所を畳もうかなんて逃亡する際に言っていたそうで」
「あぁ、だいじょーぶ、エルはそう言って意外と辞めな‥‥」
「あ、あぁ、じゃああれだ、エルの気分とりあえず引きたてるなり、慰めるなり発破かけるなりの人を適当に当たって送り込むから、まぁ、クラレッタも落ち着け落ち着け」
 少しカリカリした様子のクラレッタ嬢を刺激してはいけないと判断したか、ジェイクがジャイルを遮って宥めると部屋から返し、溜息をつきます。
「どうするの?」
「どうするって‥‥まぁ、気晴らしにエル引き回して遊ぶ人間を送り込むべきじゃないのか? あいつ、打たれ強いから、意外と」
「打ったの僕」
「‥‥俺は仕事があるからいけないし‥‥仕方ないなぁ‥‥お前、小遣いとか経費として出してやるからちょっと人集めてマイアミ行って、少し遊んで来い、案内ついでに」
「らじゃ♪」
 いそいそと準備をしに自分の部屋へと戻っていくジャイルを見送ると、ジェイクは深く溜息をつくのでした。

●今回の参加者

 fa0413 フェリシア・蕗紗(22歳・♀・狐)
 fa1077 桐沢カナ(18歳・♀・狐)
 fa2029 ウィン・フレシェット(11歳・♂・一角獣)
 fa2153 真紅(19歳・♀・獅子)
 fa2443 ステラ・ディスティニー(24歳・♀・パンダ)
 fa2529 常盤 躑躅(37歳・♂・パンダ)
 fa3299 沫依 時雨(22歳・♀・猫)
 fa3464 金田まゆら(24歳・♀・兎)

●リプレイ本文

●空港ロビー
「ハロー? お久し振りですジェイク監督」
『やぁ、君か』
 空港ロビーで出発までの時間、携帯で遣り取りをしているのは真紅(fa2153)。
 電話の相手は依頼主であるジェイク・オーエン監督で、ルージュは何やら熱心に携帯でジェイク監督と打ち合わせをしているよう。
「では、そのような方向で‥‥そうそう。一番聞きたかった事を忘れてた」
 最後の方で小さく呟くように言うルージュは、クスリと小さく笑ってこう尋ねるのでした。
「お土産、何がいいですか?」
 そんなこんなで一同は一路マイアミへ。
「さてと、レンタカーでも借りて‥‥凄いわね、流石マイアミ」
 思わず空港のレンタカー会社カウンターのその数に嘆息のフェリシア・蕗紗(fa0413)は、幾つかのレンタカー会社を見て対応が親切そうな会社を一つ選んだよう。
「ふふふ、経費で遊んで良いとは随分と太っ腹だね」
 沫依 時雨(fa3299)が言えば、むと考えるように首を傾げるのはウィン・フレシェット(fa2029)

「これはきっと、メンタルコンディションの調整という形で領収書きれるんだろう」
「その序にエリオットくんとやらを連れ戻せば良いと。‥‥いやいや、逆だね。連れ戻す序に遊ぶ、だ」
 いい仕事だと頷く時雨、ステラ・ディスティニー(fa2443)は少し心配そうに眉を寄せます。
「あまり手荒な真似はしたくないですので‥‥平和的に解決したいですね」
「まぁ、煩く言わなければ大丈夫だろう」
 ステラはそれもそうですね、と頷くと、桐沢カナ(fa1077)は小さく溜息。
「凹んで逃げたくなる気持ちは分かるな‥‥カナもそういう時あるもん。でも、ずっとこのままって訳にはいかないよね」
「そうそ、だからみんなで迎えに行きましょう♪」
「うん、そうだね。元気出して、戻ってきてもらうようにしなきゃ。みんなで遊べば、きっとすっきりすると思うよ♪」
 漸く警備員室から出てこられた金田まゆら(fa3464)が白のウサギの気ぐるみのままぐっと手を上げれば、カナもにっこり笑って頷き。
「じゃあ、僕らはエルを捕獲しに行こっか♪ ビーチで準備組は、荷物とホテルにお願いね〜」
「じゃあ後で、ホテルのプライベートビーチで」
 レンタカーを二台、二手に分かれて一同は行動を開始するのでした。

●美女達の誘い
「まったく、いつまでもウジウジしやがって‥‥」
 橋からぼけーっと魂が抜けたかのようによっかかっていたエルを見かけて言うのはその覆面も怪しい常盤 躑躅(fa2529)。
「どれ一つ俺が元気の出るまじないでもかけてやる!!」
「へ‥‥? っ!?」
 ガッツ率か見に行こうとしたのと、声にエルが振り返るのはほぼ同時。
 だっぽーん、と水音と共に海に落ちるエル、常盤はなんとなく手の行き場に困って端から下を覗くと、わたわたと岸へと泳ぐエルの姿が。
 10分後。
「失敗なんざ誰にだってある。大事なのは同じ過ちを繰り返さないように努力して前に進む事だろ!!」
「そりゃまぁそうなんだが、最近は自分だけじゃなく先輩とかもああだから――」
 常盤の言葉に答えかけたエル、既にこの陽気で生乾きですが復活しつつあるエルと常盤の前に、少々危なっかしい運転のオープンカーが着けられ、助手席では真っ白な兎の着ぐるみがやぁ、とばかりに手を上げ、後ろの座席から身を乗り出すように声をかけるフェリシア。
「はぁい」
「‥‥君たちは‥‥」
「さぁ、エルさん? この美女が貴方を招待してくれるそうですよ、その手をとってパラダイスへ行きましょう☆」
「‥‥へ?」
 まゆが後ろの座席へ乗るように促しながら明るい声で言えば、ばんっと思い切りエルの背を叩いて後押しをする常盤。
「折角の休暇なんだ。おもいっきり遊ばねぇと損だぞ」
「な‥‥なんだか知らないがありがとう」
 勢いに押されてか乗り込むエル、オープンカーの運転席でにかっと笑うジャイルにエルが気がつくと同時に、アクセルを一杯踏み込んで走り去るオープンカー。
「‥‥あ?」
 道の途中にぽつんとどこか寂しげに立つ怪しいマスクを、観光客や現地住民が怪訝な様子で遠巻きに見ているのでした。

●海辺
「そうそう、学生時代の知り合いなんだ〜♪」
 後輩後輩、と楽しげに言うジャイルに、ビキニタイプや一見タンクトップに短パンと見えるカジュアルな水着とを見比べながらなるほど、と頷くフェリシア。
「体力作りに‥‥水分はしっかり取るようにな」
 あくまで着ぐるみのまゆに常夏のこの陽気に、と眉を寄せるエル。
「エルさんはどちらがいいと思うかしら?」
「‥‥むむ‥‥マイアミの海とで考えるとスタンダードにビキニか‥‥いや、意外性を演出できるこちらの方も‥‥」
「フェリシアさんの髪と瞳から見て、映えるのは赤ですよね」
 なんだかんだと長時間、赤の水着やら赤のドレス、明るい緑のイブニングドレスなど、山ほどの買い物袋を提げてフェリシアの後を着いて続くエル。
「荷物はフロントに預けて、早速海へごー」
 部屋で着替えて戻ったフェリシアと共に、4人がビーチへ向かえば、既に用意された鉄板、サマーベッドに横たわり、パラソルの陰で甘ーいフルーツが盛り付けられたジュースを傍らのテーブルに載せて眺めている時雨、シートを引いてパラソルの陰、しっかりと日焼け止めを塗って立ち上がるのはウィン。
 薄手のパーカーの前を開け、水着にサンダルとすっかり遊ぶ体制が出来ているウィンがエルたちに気がつき声をかければ、鉄板の側で野菜を切り、肉を鉄の串に刺していたステラが顔を上げ、麦わらの帽子を押さえながら、明るい青地に赤・黄・ピンクに、緑と華やかな背パレードの水着にパレオのルージュが手を振ります。
 そして、なんだかもじもじとしながら椅子の背もたれの向こう側から見ているのはカナ。
「大丈夫よ、十分可愛いんだから恥ずかしがらなくっても」
 笑ってルージュが引っ張れば、水色の明るい色合いが目に眩しい、初々しい様子のカナが顔を真っ赤にしてエルを見ます。
「わーカナちゃんにルージュさん、可愛い可愛い」
「フェリシアさんもルージュさんも、スタイル良くて羨ましいな‥‥」
 盛り上がる女の子の会話の最中、暑さに耐えかねたか着ぐるみ、もといまゆがばったり倒れじたじたするのに慌てて駆け寄ったウィンが背中のファスナーを下げれば、ぷはーと息を吐いて顔を出すまゆ。
「暑いー、もー限界ー」
「あー‥‥いや、むしろこの時期のそれは自殺行為かも‥‥」
 言いつつも気ぐるみを脱げはそこには白いビキニにカットアウトジーンズ。
「わー目の保養♪ ジェイクも来れば良かったのにー」
 誰の所為で来られないのかという突っ込みは置いておき、一通り騒いだ後は海に入って水を掛け合い泳いでと、始めは腰が引けていたエルも気がつけば泳ぎの勝負などと結構楽しそう。
 『ビーチバレーをやろう!』その一言で急遽くじを作り分かれれば、ステラはなにやら自家製のたれの作成に余念が無いようで、ルージュは電話がかかってきていそいそと出ると、暫くして少々機嫌が良さそうにしています。
 バレーはフェリシアと時雨・まゆとカナ・ウィルとエル、審判がジャイルという組み合わせに。
「これは勝ちに行かせて貰うよ」
 にやりと笑う時雨にやる気満々でサーブのフェリシア。
「わわ、カナごめんー」
「私の方こそ、大丈夫ですか? まゆらさん」
 対するはほのぼのコンビ。
 次の試合はわたわたと走り回るエル、コートの端から端へ駆けずり回りぜーはー息を吐くウィル。
「圧勝だなぁ。少年若いんだから頑張らないと」
「子供だから疲れないだろうって? 子供に永久機関がついているのは3才までだよ」
 汗を拭いつついうウィルに、確かにと笑って返すエル。
「そーいう社長も、女の子相手だからって打ち込めなかったじゃん」
「そりゃー‥‥そう言うもんだろ、男として」
「バーベキューの準備できましたよ」
 同じ格好で息を吐いていた男二人の会話を中断する声。
 見れば既に火がくべられ金網の上に載せられた串に刺された野菜や肉の数々、ホテルに準備してもらったのかクーラーボックスにはお酒やジュースが氷水と共に詰め込まれ、鉄板側には分厚い肉と一口サイズのパンケーキなどが並んでいます。
「最下位は車の運転ね♪」
「むむ、酒はホテルで飲むことにしよう」
 眉を寄せつつも日の沈みかける藤色から茜色へと移り変わる瞬間、ぼんやり灯された明かりの下、ホテルのほかの客の冷やかしや乱入を受けながらも笑い声の絶えない時間。
 評判の良いバーベキューの様子に、ステラはどこかやり遂げたような満足げな様子をうかがわせているのでした。

●静かな夜
 海に面したホテルのベランダ、椅子に腰を下ろして話すのは時雨とエル。
「今までずっと前を向いて走って来たんだろう? こんな風に立ち止まって周りをゆっくり見回す機会というのも悪くないんじゃないかな?」
 波の音を聞きながらじっと日の沈んだ海を見つめるエルに言う時雨、そこからどうするかは‥‥というのに頷くと、エルはゆっくり立ち上がります。
 エルがホテルのバーに入ってきたとき、それに気がついて軽く手を上げるまゆ。
「取って置きの清酒を持ってきたんですよ。後で飲みません?」
 まゆに言われ笑って頷くと三色の層に分かれたカクテルを受け取り腰を下ろすエル。
「‥‥」
 愚痴でもと思ったまゆですが、随分とすっきりした表情のエルにバカルディを飲みながらのんびり。
 そんな様子で夜は更けていくのでした。

●サプライズ
 それからの一同は最終日までハイウェイを飛ばしてみたり、有名な作家の家を見に行ったり、泳ぎ業界の人間のみにパーティーに御呼ばれしたり、遊んで遊んで遊んで‥‥。
 そして、空港へと帰り着いたそこで出迎えに来たのはジェイク。
「お帰り、みんな、それにエル」
 笑って言うジェイクに耳打ちされて驚いた表情を浮かべるエル、どうやら夜間マイナーな放送局ではありますが、例のお蔵入りのVTRを契約できれば流したいという意向を伝えてきたことを告げられたよう。
「うまく行きましたわね?」
 悪戯っぽくお土産の入った袋をジェイクに渡し、エルを見るルージュに、ジェイクもまた笑いながら礼を言い受け取りながら頷くのでした。