小さな男の壮大なる計画南北アメリカ

種類 ショート
担当 想夢公司
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.2万円
参加人数 6人
サポート 0人
期間 05/31〜06/04

●本文

 一冊の企画書を手になにやら考え込んでいる人物がいます。
「さて、マイアミへの逃避行はさぞかし楽しかったでしょうねぇ、ボス?」
「うう、だからその分をこう、次の仕事を考えているんじゃないか」
「なんですか? あぁ、そんな企画もありましたね」
 男はエリオット・マクシア。
 秘書のクラレッタ嬢にちくりちくりと突かれて苦笑を浮かべるエリオット、どうやら先程から幾つか見比べていたようで、デスクの上には数冊の企画書が散乱しています。
「でも、平気なんですか? ブランクがある状態で、そんな‥‥」
 そう言ってなんとも言えない表情を浮かべるクラレッタ嬢。
 肩を竦めてデスクの他の企画書の上にぽんと放り投げられるそれには『小さな男の壮大なる計画』と銘打たれた台本が。
「これって、世界征服を企む凡人のお話、ですよね?」
「‥‥具体的に言えば、親が離婚して母方にいる子供と、世界征服を企みながら雇われ警備員しているパパの哀愁物語だ」
「‥‥」
「‥‥」
 なんともいえない微妙な沈黙。
「‥‥ボス」
「なんだ?」
「何でこんな物書いたんですか?」
「仕事だからだろうがっ!?」
「‥‥」
 なんともいえない生暖かい笑顔でいるクラレッタ嬢に、既にデスクでいじけている人間が。
「仕方ないじゃないかー。今ある意味仕事を選べる状態じゃないんだし、枠を用意してくれた人が『ファミリー物で子供とパパのコミュニケーション、これしかないね!』って言って、過去の物を漁ったら、別の意味でこれしかなかったんだから」
「‥‥そうですか‥‥」
「そっ‥‥そんな可哀相な人を見るような目で見るんじゃない! 一応これだって、あれやらこれやら、豪華俳優陣で作られる前提で発注受けたんだから、その制作会社が色々あって潰れたから消えたけど」
 生暖かい笑みで見ていたクラレッタ嬢が企画書を手に取り捲ると、小さく首を傾げます。
「ところで、これって一応、コメディなんですか?」
「発注はコメディだったな」
「ちなみに、この小さな男と言うのは‥‥」
「凡人というか、比較的、人としてちっちゃな感じ?」
「‥‥応募者、いるんでしょうかねぇ‥‥」
 苦笑しながらいうと、クラレッタは企画書をエルへと返すのでした。

●今回の参加者

 fa1136 竜之介(26歳・♂・一角獣)
 fa1242 小野田有馬(37歳・♂・猫)
 fa1257 田中 雪舟(40歳・♂・猫)
 fa3571 武田信希(8歳・♂・トカゲ)
 fa3838 ティファニー・川守(36歳・♀・蝙蝠)
 fa3839 Bros.D(43歳・♂・竜)

●リプレイ本文

●事の起こり
 極一般的な家が立ち並ぶ住宅街、家前の庭で遊ぶ子供たち、車を洗うパパ、自転車で通り過ぎるアベックに、窓からはママが花柄とフリルのエプロンを着けて子供たちの為にパイを焼いていて‥‥。
『どご―――んっ!!』
 突如響き渡る轟音に一瞬手を止めて一斉に顔を上げる人々。
「ジャ――ックッ!!」
 響き渡るティファニー・川守(fa3838)の声に慣れたように日常に戻る人々、画面に浮き上がる文字。
『小さな男の壮大なる計画』
 友達と別れ家へと駆け戻るのは武田信希(fa3571)。
 家に飛び込み階段の脇をすり抜け、奥の扉の前で仁王立ちになっているティフの横から覗き込めば、立ち込める煙とガラクタの山から這い出してくる田中 雪舟(fa1257)。
「もう限界っ! ジャクソンも私も貴方とこれ以上やっていけない!」
「ま、待っ‥‥」
 ノブの手を引いてばたんと扉を閉めるティフ、逆光の中閉まる直前の息子の心配そうな表情から暗転。
「おら、しゃきっとせんか!」
 Bros.D(fa3839)の言葉にはっと顔を上げれば、そこは雪舟の努める警備会社の前。
 雪舟の下に『ジャック・田中』、ディーの下には『ロドリゲス・バウアー』と表示されると雪舟は、申し訳なさそうに頭を下げ。
「お前ぐらい働き者ならまた新しい女房も見つかるだろうよ!」
 ばんばんと背中を叩くディーに促されるように建物内へと入ると、画面切り替わりバーのカウンター。
「女ってのはなんだかんだ言って『ボス』に惚れるもんなんだよ、なー」
 ビールの瓶を手に上機嫌の小野田有馬(fa1242)演じる『フランク・リー』に、しょぼくれビールの瓶を弄り見る雪舟。
「ボスに‥‥」
「おうよ、ころっといっちまうもんだぜー」
「ボスに惚れる、か‥‥」
「もう、世界征服なんかしちゃって見ろ、ぜーったい見る目変わるぜー?」
「見る目が変わる‥‥」
 瓶を凝視し言う雪舟に無責任に笑う社長、ぐっと瓶を開けると歩き出す雪舟に、コインをピンとバーテンへと投げ続く社長、連れ立って出れば足に風で飛んできた札がぺたりと張り付くのを手に取り。
「お、幸先いいじゃないか」
 2人はそのまま夜道に消えていき、画面はジャックの寝室、雪舟は突然カッと目を覚まし、落ち着かない様子で枕元のライトを点けそこに置かれた一ドル札を手に取ると溜息を吐き戻して明かりを消し、画面暗転。
 すぐに再び点くライト、お札に手を伸ばして触れるとランプを消しながら寝返りをうつ雪舟。
 画面家の外、窓の明かりが点いては消え、やがてその繰り返しのまま、辺りは明るくなっていくのでした。

●ロト
「だからーそれが兄さんの道なんだから僕は関与しないよー?」
 鏡の前で髪を梳かしシャツにパリッとしたネクタイを締めながら言うのは竜之介(fa1136)、下に『マイク』と表示。
 欧州貴族を思わせる豪奢な調度品、可愛らしいワンピースのおなかの大きな金髪女性が鏡の隅に映ると、電話機へ顔を向けて竜之介は言います。
「まぁ、別に世界征服でも何でも良いけど、僕には迷惑かけないでくれよ? 義姉さんにジャクソンの事で仲裁なんて、僕にできるわけもないし、兄さんを助ける義理もないしねー? じゃあ切るよ」
 返事も聞かずに電話を切り、女性の元へと行く竜之介。
「お兄様、どうかなさったの?」
「さぁね。義姉さんに口きいてくれってさ」
「お兄様、良い方ですのに‥‥なんだか可哀想」
 ほんわかした女性が言うのに肩を竦める竜之介は、女性を促すように部屋を出て行こうとします。
「ダーリン、もう兄さんのことは忘れよう」
 画面引いて窓から外へ豪奢な洋館の前景を映し出し。
「兄さんはロトでも当てない限りどうにもならないね」
 画面に被る様な竜之介の声が入ると、ジャックの家へ。
 肩を落とし受話器を見る雪舟、呼び鈴が鳴りのろのろと立ち上がって玄関へと向かうと、そこには社長が笑いながら立っています。
「よ、あれから調子はどうだ?」
「世界征服といっても、具体的に何をして良いのか‥‥」
「本気? とりあえずは悪の組織を立ち上げる下準備とか、かな」
 怪訝そうに見る雪舟、社長はまぁ任せろとばかりに笑うのでした。
 まずはと自動販売機の下を漁る雪舟に派手な赤のアロハにサングラスで通りに立ち見張りをしている社長、画面切り替わり、試供品と書いてあるダンボールを抱えてえっちらと逃げ出す雪舟に、荷台にダンボールが積み込まれると、うっかり雪舟を置き忘れて車を出してしまう社長。
 救済センターで怪しげな髭とサングラスで並び、唖然としたりクスクスと笑ったり目を逸らす職員から思わず逃げ出す雪舟‥‥。
「さ、ジャック、次は何をやる?」
「‥‥頼む、今日はこの辺で勘弁してくれ‥‥」
「オーケイ、じゃあ明日職場でな」
 手を振り帰っていく社長と別れ家に戻ると玄関は開いており、腕時計を見ていたノブが顔を上げると『ジャクソン』と書かれ。
「パパ、どこ行ってたのさ? 折角抜け出して来たのにもう帰らないとママに怒られちゃう」
「ジャクソン、パパは‥‥」
「パパ、あの部屋をどうにかする方が先だよ。部屋をぱぱっと整頓する機械つくれない? っと、バスに送れちゃう、じゃ、僕帰るね」
 立ち上がるノブ、慌てて呼び止めようとする雪舟は、振り返ると言って走り去るノブにがっくり項垂れます。
 地下室に下りれば壁一面不安定に積み上げられた廃家電の山から引っ張り出す、奇妙な筒が突き出た掃除機のスイッチを確認すれば、電源が入ってしまい怪しいモーター音が響き渡り、ぐらぐらゆれだす室内。
 甲高い音と舞い上がる埃、咳き込みながらガラクタの上に這い出た雪舟は、頭にひらひらと振ってくる紙切れに首を傾げると、手元へ画面寄り。
 そこには『ROTO』と書かれているのでした。

●パパの逆転
『あら、あなた‥‥ジャクソン居るわよね? 早く帰らせてね、今日は家庭教師が来るのよ‥‥』
 分割された画面、互いに受話器を握るティフと雪舟。
「いや、しかしたまには‥‥」
「ジャック、あなた裁判所からの書類は受け取っているはずよ? ジャクソンとも会わないようにとなっていたでしょう?」
「‥‥」
 受話器を置いてノブに帰るように伝えると、お金が入ったのにーと軽くむくれるノブ、場面切り替わり、バーで心配そうに社長は雪舟を見ます。
「ロトで大当たりしたってのに、許可が下りないんだって?」
「裁判所がロト等の当たりは高所得として認められないんだそうだ」
「そうか‥‥」
 しばらく無言で酒を飲む二人。
「ぱぱーっと、世界征服できる機械でもつくれりゃ良いのになぁ」
 言われてますます落ち込む様子の雪舟に慌てる社長。
「‥‥なんとかなるって、なぁ‥‥」
 社長はしょげる雪舟に酒を勧めると、小さく溜息をつくのでした。
「酷い匂いだ‥‥何かが腐ってる?」
 地下室をごそごそと漁り呟く雪舟、生ごみ処理機にごてごてと管や透明のポンプがガムテープで止められた物を見つけ、一部が腐敗し始めたに気がつく雪舟。
『肥料だけじゃなく燃料にでも変われば良いのに‥‥ねぇ、あなた?』
 ふと雪舟の前に赤ん坊を抱いたティフと雪舟が仲睦まじく話す姿が浮かび、いくつもの管を付けたごみ処理機、初めての日曜発明だと笑って言う雪舟、ティフもガムテープで固定されたその機械に驚いたり可笑しそうに笑ったり。
「パパ、発明は向いてないんだよ、いい加減諦めたら?」
 頬杖をつきピザの箱から大きな一切れを取り出してかぶりつくノブ、雪舟は肩をすくめて丈夫そうなアクリルの筒を熱して曲げたりしています。
「諦めろとお前は言うが、パパにだって夢は、あるんだぞ。凄い発明をして人から尊敬されるようになりたいとか‥‥」
 ちらりとノブを見る雪舟、地下室のガラクタは片隅に寄せられ、真新しい材料と工具を前に悪戦苦闘する雪舟。
「‥‥そんなだからママが呆れてでてっちゃったんだよ」
「‥‥あのエジソンだって、変人だったんだぞ」
「テスラの才能に気づいていびって追い出したんだっけ?」
「‥‥」
 にわか知識で息子に言い負かされて溜息をつく雪舟は、手元の手書き設計図を前に再び機械へと没頭するのでした。
『ジャックズリサイカー! どのご家庭でもひとつ! 今までの処理機では肥料になるのが関の山! そこへこのリサイカーを使えば‥‥』
 テレビの中ではマッチョなお兄さんとボンキュボンなお姉さんが管がいくつかついたごみ処理機を前ににこやかに宣伝中。
「裁判所から連絡が来たって?」
 警備会社のロッカーで雪舟と社長が話すと、TVCMに慌てた様子の雪舟。
「言ったろう!? 努力はいつか報われるもんだ!」
 ばんと戸を明けて入ってくるディーは警備服に着替える雪舟に怪訝な顔をしますが、今までどおり働くと言う雪舟に豪快に笑うと、背中をバンバン叩きまくるのでした。

●僕がついてなきゃ‥‥
「だって、ママがいない間に、パパったら10ポンドも太ったんだよ。これはピザの食べ過ぎだよ? HAHAHAHAHA」
「でもジャクソン、パパのおうちは‥‥」
「大丈夫、僕はママに似てしっかり者だよ?」
 そう言ってディーバックを背負うノブに諦め顔のティフ。
「そうそう、叔父さんちも離婚だっけ?」
「浮気がばれて、赤ちゃんが生まれたばっかりなのに追い出されたんですって」
「パパとマイク叔父さんが兄弟だって言うのが信じられないね。性格が正反対で。じゃ、電話もするし、ちゃんと帰ってくるからママも安心して」
 そう言って出かけて行くノブを見送りテレビをつけると、丁度ジャックズリサイカーのCM中。
「‥‥あんな時もあったわね‥‥」
 懐かしむように言うと、ティフは窓からバスに乗り込んでいくノブの背中を微笑を浮かべて見送り、画面は暗転、スタッフロールへと切り替わるのでした。