スペアキー南北アメリカ
種類 |
ショート
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担当 |
想夢公司
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
06/14〜06/18
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●本文
「じぇーいくぅ、撮りたいのがあるんだけどー」
「却下」
ジェイク・オーエン監督は、猫撫で声で言う幼馴染で同業者、ジャイル・マイル監督の提案を瞬時に却下しています。
ここはジェイクの自室、ジェイクはなにやら机に目一杯本や図鑑、分厚い写真集を前に悪戦苦闘していたらしく、押しかけてきたジャイルに声を下げろとばかりに手振りを入れます。
「あ、いや、監督押し付けるんじゃなく、特殊効果とか、PC利用の方を手伝って欲しいわけよ、僕は」
「何を撮る気だ」
「うん、お昼のロードショーとか言うジャパンの番組を見てたら、ちょっとホラー取りたくなって‥‥」
「待て、何でお昼のロードショーでホラーが撮りたくなる」
「だって、再放送でホラーやってたから」
「‥‥そういえば、日本では結構映画などの規制が緩いんだったな‥‥」
少し遠い目をして言うジェイク、どうやら日本に来日したときに子供がダミアンやらジェイソンやらを見たことがあると聞いてショックを受けたとか受けていないとか。
「で、どういうのを撮るつもりなんだ?」
「うん、何か一つだけ、どうしても開けたいものが開けられるって言うスペアキーを、町の人達に渡して囁く親切そうな人間によって、疑心暗鬼に陥っていく住人、というやつ」
「うわー‥‥元になったのはあれか‥‥あれは結構えぐいぞ、一応あれから露骨に内容変えてあるけど‥‥」
顔を顰めるジェイクに二マッと笑うジャイル。
「しかし、お前良くあの映画最後まで見たなぁ、俗悪映画というよりは、懐かしい感じのホラー映画だし‥‥怖がりの癖に」
「うん、途中からやばいと思ってあらすじだけ調べたー」
「‥‥そうか‥‥」
溜息をつくジェイクに、ジャイルは手で殴り書いた様子の企画書を見せます。
『スペアキー 〜戦慄の町〜』
架空の小さな町に、ある日突然出来た小さな鍵屋。
代金を求められるでもなくそっとスペアキーを渡してくれる店主。
受け取った鍵は一度だけ使えるどんな扉にも合う鍵とかで、親しい人の金庫に合わせれば自然とダイヤルを回して開けてしまい、貸金庫に合わせても、暗証番号も無く開いてしまう。
けれどその鍵を使った代償は、それぞれ思いがけないところから、自分の開けた鍵の影響は予期もしない人間へ。
鍵の力に取り付かれたものはもう一度あの鍵を、と使われていない鍵を持つ者へ。
そして、疑心暗鬼に陥っていく町の人々。
そして、惨劇が引き起こされる。
「うわー‥‥ベタだなぁ‥‥」
読んで一言のジェイク、言われた言葉に無疎むくれるジャイルに肩を竦めると軽く首を傾げます。
「で、これは深夜帯俗悪?」
「うん、でも、スップラッターは駄目と。美学に反する」
「オーケー、とりあえず、募集は出しておくよ」
苦笑混じりに言うジェイクは、PCへと向き直ると参加者募集の書き込みを始めるのでした。
●リプレイ本文
●鍵、あります
微かに聞こえる啜り泣き、遠く近い声。
「君なら、何の鍵を開ける?」
長閑な町、車を走らせる保安官・片倉 神無(fa3678)が映れば、その下に『ダグラス=ウィリアムズ』と表示、助手席で真新しいデジカメ光り慌てて足下のマットへと放りだす武田信希(fa3571)。
「おいおい、気をつけろよ、ノーバ」
照れたように笑い拾うノブ、『ノーバ=ウィリアムズ』と表示されると、ふとデジカメの画面を見て怪訝そうに首を傾げるノブ。
「パパ、こんな鍵屋あったっけ?」
「おわっ、運転中に突然画面を目の前に出すなっ」
急ブレーキ後車を道に寄せると覗き込む画面。
薄暗い画面に寂れた小さな鍵屋が映り、その上に浮かび上がる白い文字。
『スペアキー 〜戦慄の町〜』
画面鍵屋の全景、日が翳った街中をとてとてと眼鏡にその加味をお下げした伊集院・まりあ(fa2711)の姿があ現れると、首を傾げるまのあに『シルビア』と表示されゆっくりと鍵屋の戸を明けて中へと入ります。
「ここのお店のかぎ、ほんとうになんでもあけられるの?」
可愛らしく首を傾げるたびお下げが跳ね、薄暗い店内の奥のカウンターに居た男性が頷き銀色に輝く鍵を見せます。
「あたしね、かぎは持っているの、おばあ様にもらったこばこのかぎ。でも、うまくあけられなくて」
「大丈夫、この鍵ならきっと開けられるよ」
まのあがペンダントにしている細工の細かい年代物の鍵を見せると、店主は大人とも子供ともつかない不思議な声で言い、差し出された鍵を嬉しそうに受け取ると出て行くまのあ、入れ違いにグリード(fa0757)が姿を現します。
「表の看板にある、何でも開けられる鍵ってのは本当にあるんだろうな」
低く唸る声、ぶじおかの後ろには若い男が付き従い、気味悪そうに薄暗い店内を見回しています。
「兄貴、そんなんで本当に‥‥」
「黙っていろ。どうなんだ?」
店主は先ほどのまのあと同じ銀色の鍵を取り出して差し出します。
「刻みも何もねぇ‥‥本当なんだろうな」
「一人に一本だけ‥‥何でも開けられる、本当に開きたいものが開けられる鍵」
ぶじおかと若い男にそれぞれ鍵を渡し口を開く店主。
「何の鍵を開けるの?」
問いかけの声は幼いジョゼ・ジャクリーン(fa3768)、ジョゼの声で話す店主に気味悪そうに見る若い男、ぶじおかはにやりと笑うと店を後にします。
彼らが通る後ろに『あらゆる鍵を開けることができる鍵、あります』とあり、若い男は運転席へと向かい後ろに乗り込むぶじおか。
「本当にそれ役に立つんすか?」
「実際に見なけりゃ、俺だって信じねぇだろうな」
ぶじおかの言葉にバックミラーを見る男の目が細められ、暗転。
●蝕まれる町
「よぉ、ダグラス」
『ロバート・リー・オルソン』と表示された小野田有馬(fa1242)が警備会社の制服の上着を肩にかけ声をかけると、肩を竦め見る神さん。
「お前、いい加減に止めておけよ? 証拠は無いがお前に入り込まれたって訴えがあっちこっちと‥‥元保安官が嘆かわしい」
保安官事務所前、神さんは煙草を銜えて溜息をつけば駆け寄る保安官助手の耳打ちに眉を寄せて車のドアに手をかけます。
「牢にボスがぶち込まれてるっていうのに元気な奴らだ。武器庫に立て篭もりだと? じゃあな、ロブ」
「6番街なら途中まで乗せていってくれ、誰かが家の車庫に忍び込んでタイヤを片っ端から穴開けちまいやがった」
「‥‥良いだろう」
助手席に乗り込む社長に運転席に座る神さん、無線からはひっきりなしに不法侵入に貸金庫が破られたなど、保安官事務所の内部がすっかりパニック状態になっているものが聞こえてきて舌打ちをする神さん。
「お前も、あんな馬鹿なことを‥‥ストーカーで家宅侵入、壁一面のいたずら書きに花束の置き土産」
苦虫を噛み潰したような顔の神さん、車が止まり降りるときににやりと笑って銀色の鍵を見せる社長。
「ダグラス、女を感じるのにこんな楽な事はないぜ」
「!? お前っ‥‥」
慌てて車を降りるもすでに社長の姿はなく、無線で呼ばれるのに車へと戻り神さんは眉を寄せて車を走り出させるのでした。
「わぁ、すごいすご〜い☆」
「鍵を寄せるだけでなんか、カチカチ動いてたよな」
可愛らしいお人形のいっぱい飾られたお部屋、ノブが目を瞬かせるのにまのあが嬉しそうに小箱を眺めています。
「っと、ちょっとトイレ借りるな」
「うん、じゃあノーバ君もどるまであたしまってるね」
立ち上がるノブににこにこ笑いながら言うまのあ、そわそわと年代物の美しい小箱を撫でていると、そこに入ってきたのはチェリー・ブロッサム(fa3081)でした。
「相変わらず無用心よね、この家。この時間はお手伝いさんも買い物に出てしまって貴女一人‥‥」
目を細めて言うチェリーに『リンジー』と表示されると、きょとんとしているまのあへと歩み寄ります。
「お嬢さんその小箱を私に下さらない?」
「だ、だめ、おばあ様があたしにくれたんだもん」
チェリーの様子に怯えた様にじりじりと逃げるまのあ、つかつかと近づいて無理やり奪おうとするチェリー。
派手なガラスの音とどさりと落ちる音に、階段へと足を向けていたノブは庭へと駆け出します。
「シルビィ‥‥」
ガラスの破片と庭へと横たわるまのあが一瞬映り、二階窓に画面が上がれば、つまらなそうに小箱と中に入っていた紙片を庭へと捨てるチェリー。
はらはらと舞い散る紙片が足元へと落ち、拾い上げれば優しそうな老婆が赤ん坊を抱いている写真、そしてシルビアへ宛てられた美しい文字が書き記された手紙です。
「やっぱり、死んでる‥‥大変だ‥‥パパに知らせないと!」
転がるように走り去るノブの後姿、画面端にはまのあの服がちらちらなびいて映り、暗転。
画面停められた車の中、にやにやと笑みを浮かべ目の前に並べられた複数の女性の写真、そのどれもこれもが際どい盗撮された物のよう。
数本の使われた後の黒ずんだ鍵と、まだ使われていない銀色の鍵。
ふと社長が目を上げれば側にあった小型モニタに映し出される女性、にと口の端を持ち上げて車から降りる社長。
「やっ、やめてーっ!!」
「うるせぇ、大人しくしろ!」
掴みかかられ倒れ込む女性、振り切ってしまった様子の社長にどんと派手な音を立てて開けられるドア、そこに立つ若者が怒声とも付かない声を上げ女性の名前を呼び、社長に向けられたそれはショットガン。
画面建物と空が映り、銃声が響き渡るのでした。
●何を開ける?
「しつこいわね、開けて見せたでしょ、私の鍵は」
「鍵はともかく、お前が盗んだのは分かっているんだ、監視カメラに映っているし、お前が売った宝石は盗品で‥‥」
チェリーと言い争うように声を荒上げる保安官助手。
「とにかく、御主人に連絡させて貰う。保安官事務所まで‥‥」
「では礼状は? それと弁護士。それでなければ訴えますわよ」
フンと鼻を鳴らして助手を振り切ると若い男が待つ車に乗り込み。
「鍵を受け取った奴が出たぜ」
「じゃあ、早いところ鍵を使う前に頂きましょ」
身体を寄せ唆すように、チェリーがにやりと笑い画面は切り替わります。
「あ、兄貴、ほ、ほんの冗談だっ‥‥」
「‥‥感謝しろよ。本来は問答無用で殺してる所だ」
「そ、その、牢を開ける前に、鍵が本当に使えるかを確認しようと!」
男の言葉に冷笑を浮かべるぶじおか、若い男が必死に頭を下げるとぶじおかは再び口を開きます。
「‥‥が、俺もこう見えて慈悲深い。今回は新人りって事で‥‥」
「あ、兄貴、ありが‥‥」
ホッと顔を上げた男、銃声と共にどさりと倒れる姿が。
「一言かけてやったぜ?」
外から神さんの声で投降を呼びかけるのにぶじおかが窓へと寄れば見える神さんの姿、邪魔くさいと言いながら入り口に立ち、銃を構えるぶじおか。
「‥‥死ね」
言葉と共に乾いた破裂音。
「今度は銃の暴発‥‥この町は一体どうなって居るんだ!?」
神さんが声を荒上げたとき神さんの携帯が鳴り響き、慌てて神さんが出れば画面切り替わり、ノブ。
「パパ、どうなってるんだよ、あっちでもこっちでも人殺しに強盗ばっか!」
『ノーバ!? お前外にいるのか!?』
「僕見たのを思い出したんだ、あそこにいた子供、透き通っててきっとあの子幽霊なんだよ!」
『こっちは今他の事件でそれ所じゃない! 大人しく家で待っ‥‥もしもし!』
携帯を切ると目の前にある鍵屋へと足を進めるノブ。
そうっと開く戸から覗き込めば相変わらずカウンターに立つ店主、ぼんやりと見えるジョゼの姿。
「やっぱり‥‥」
『君は、鍵を使わないの?』
言われて戸惑ったように見るノブ。
「その‥‥そう言うお前はどうなんだよ」
聞き返せば、ぴくん、小さく震えるジョゼに言葉を失うノブ。
『‥‥鍵を。ここから出るための鍵を』
店主の姿はいつの間にか消え、徐々に透き通り姿が薄くなるジョゼがぼろぼろと涙を零すのに手を伸ばすノブ、触れるか触れないかで姿が掻き消えるジョゼ。
『出して、ここから出して、その鍵で』
「ここって、何処だよ‥‥」
呟き店内を見回せばざあっと店内に吹き抜ける風、カウンターの方から吹いた風に奥へと歩いていけば、地下へと降りていく階段と、突き当たりにある鉄の扉。
ノブは銀色に煌めく鍵を取り出して、そうっと鉄の扉の鍵穴へと寄せれば、錆の浮いた鍵穴へすっと入っていき、カチリ、小さく鍵穴が音を立てゆっくりと開けられていくドア、軋んだ金属の擦れる音。
暗闇の中、ぱちりとぼんやり明かりがつく地下室、白い息を吐き歩くノブが数歩歩いて立ち止まると、そこには折り重なるようにして横たわる人の姿。
「判ってあげられなくてご免な‥‥」
店主に庇われるようにして目を瞑るジョゼと、その傍らにあるさびた銀色の鍵。
ジョゼやまのあの笑い声が微かに入れば、それに被るように聞こえてくるサイレンの音に暗転、スタッフロールへと切り替わるのでした。