W−1速報’05.10アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 想夢公司
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 0.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/23〜10/27

●本文

 その日、W−1関係者にのみ配られる筈のその資料がその机に複数枚置かれたとき、満身創痍の細身の男はさっと顔色を青どころか真っ白にして半ば意識を失いかけていました。
 資料を持ってきたのは20半ばの女性で、薄い青色がレンズに入った眼鏡に肩程までの髪は大雑把に纏めて上に結い上げて、いかにも身のこなしが軽そうです。
「‥‥‥‥な、何かな、これは‥‥」
「何って勿論、取材先の資料よ」
「何か、複数人分用意されているけど‥‥」
「あぁ、ほら、あなたいつも行くと、途中で資料がずたずたになる上に、目的の選手まで辿り着けないでしょ? だから、親切心から予備を沢山用意してあげたのよ?」
 そうにっこりと笑う女性に、男性の顔に戦慄が走ります。
 その表情は物語っています、このままでは俺は確実に、死ねる、と。
「でね、今回は何と、期待の新人選手で『Destruction』所属のクライスのインタビューを漕ぎ着けたのよ! ファンも沢山、ちょっと甘いマスクで新人の中では売り出し中の彼よ〜」
 そう言って資料の一部を手にとってぺらぺらと捲る女性の目を盗んで、男性はこっそりと足音を忍ばせて出口へと向かいます。
「それでね、やっぱりここには日の目を見ないその他大勢な新人さん達も居て‥‥」
 顔を上げた彼女は、ちょうど扉を開けて出て行き様に振り返った男性と目が合い、ぱちくり目を瞬かせて。
「‥‥‥あ‥‥ああああっ!? 逃げるなんて信じらんない!!」
 一目散に逃げていく男に呆然とした女性、何やら困ったようにカメラマンへと目を向けます。
「‥‥‥‥どーしよ?」

 因みに、W−1とはウォーリアーワン、つまり新進気鋭の格闘団体で、TOMITVのエンタテイメント。
 『Destruction』とはW−1に参加するチームの1つで、王道力業を得意とする華やかな技を使うのが特徴の、総合格闘技に他から転向した人間を集めているクラブで、クライス・リースはキックボクシング出身の選手です。
 20代前半のまだ若いながらも幼い頃からキックボクシングを続け、学業もきちんと修めた紳士的な人らしいので人気なのですが、この取材、問題は彼ではなく、脚光を浴びない他の新人選手達のようで‥‥。

 暫く考えた女性は、溜息混じりに肩を竦めます。
「こーりゃ、また代わりにレポートする人間、適当に頼まないとなぁ‥‥」
 そう呟くと、改めて関係者資料へと目を落とすのでした。

●今回の参加者

 fa0332 神崎 将馬(19歳・♂・狼)
 fa0388 有珠・円(34歳・♂・牛)
 fa0683 美川キリコ(22歳・♀・狼)
 fa0694 古川 桜(22歳・♀・ハムスター)
 fa1119 コンドル・魔樹(23歳・♀・鷹)
 fa1179 飛鳥 夕夜(24歳・♀・虎)
 fa1264 広瀬月美(19歳・♀・牛)
 fa1713 玄穣(14歳・♀・豚)

●リプレイ本文

●潜入
「くくく、W−1の仕事だってさ。楽しみだねェ」
 にやりと笑いながら言うのは美川キリコ(fa0683)。
「新人取材。ん〜、いいんじゃない? でも注目選手ばっかり取材してたら、そいつが倒されたときにどうなるかは‥‥見当ついてるのかな」
 W−1関連書籍から顔を上げていう有珠・円(fa0388)はちらりと目を向けると、視線の先ではあわあわと人の手を借りながら淡い色合いの服の上から掃除婦さんの服を頭から被っている古川 桜(fa0694)の姿が。
 番組開始5分後、クライス・リースへのインタビューへ向けて最終打ち合わせが行われ、誰を到達させるのかと言う確認を行った後、各自戦闘態勢へと移行しつつあります。
「今までインタビューを乗っ取るためにあらゆる手を尽してた奴は今回も要注意だね」
 特に何度も前任者の男性から繰り返し忠告を思い出し、飛鳥 夕夜(fa1179)はぺらりと関係者資料を読み返し、改めて趣旨を確認します。
「インタビューなんてうらやましいっす。私も写りたいっすけど我慢っすよ」
「写っていると思うのだけどな‥‥」
 ちょっと残念そうに言う広瀬月美(fa1264)に、機材を運び込んでから戻ってきたコンドル・魔樹(fa1119)がぼそっと呟きます。
 その通り。
 ゴールデンでないだけで、立派に電波に乗ってテレビの前へとお届けされているこの番組にしっかりと皆写っています。
「格闘家としての知名度を上げたいっていうのもわかりますが、他の人への取材を横取りしようって魂胆は絶対間違ってます!」
 まだ若い玄穣(fa1713)がぐっと力強く頷いて言う言葉と共に、潜入は開始されたのでした。
 当然車で乗り付けていた一行、取材車から降りてこっそりと進入――『Destruction』の受付は正面からしか入れませんが――それぞれに別れて目指す地点へと動き出すのでした。

●突撃インタビュー
 正面突破組は早くも神崎 将馬(fa0332)が数人の新人選手に掴まっていました。
「くっ‥‥詰めが甘かったか‥‥?」
 何のことはない、『Destruction』内部ではインタビューが来るという日付は知られいているため狙っている人間はあちこち張って居たのです。
 そこへ囮部隊は目立って引きつけようとなるので、面白いように釣れる、と言う仕組み。
「あんな優男なんざ相手しても面白かねぇだろォよっ!?」
「とと、待った待った、別口にドキュメンタリの為のインタビュー許可をとって居るんだよ」
 そう言ってカメラを向けてぱちり、とシャッターを切る有珠に少しでも自分をアピールしようと群がる男達。一瞬映像では隅っこに写った掃除婦さんとその護衛の一行が奥へと進むのを見送り、すぐに無名選手へと目が向かいます。
「おう、そう来なきゃな。あんな青二才、俺様が叩き伏せてギッタギタにして‥‥」
「はっ! 注目されないにはされないなりの理由があるんだよ。自分がどれだけ取材を受けるに相応しいか見せてみなよ、ヒヨコちゃん達」
「んだとっ!? 上等じゃねぇかっ!!」
 調子に乗って言い募ろうとする選手の1人ですが、どうにもちょっと見苦しい。
 にやりと笑いながらも軽蔑の色が目に浮かぶミカに激昂する巨漢。
 そしてこの一言から火が付いたように、数名の新人達が殺気立ち‥‥。
 そして、どこからともなく響くゴング、上がる怒声に開始される大乱闘。
 キリコに殴りかかろうとしてがっつりコンドルに迎え撃たれそこで一戦勃発。
「いまだ日の目を見ぬ未来の英雄達の写真、ばっちり撮らせてもらうよ?」
 撮影を始める有珠ですが、やがてちょっと期待はずれにがっかりします。
 ここに集まるぐらいですから弱いわけではないのですが、華がない上に根拠のない自信と目立ちたい認められたいちやほやされたい、この一念で動いているだけという様子も。
「しろーとさんや女の人に手荒な真似しちゃ、格闘家としての株を落とすんじゃないかねえ、おにーさん達。しかも報道関係者相手にさ」
「知った事かよっ!」
 夕夜の言葉にも激昂する選手。
 名の売れてない新人で顔を売りたいとなるなら、こういうのは多いのかも知れません。
 そもそも、実力でのし上がろうという人がここでこうしてレポーターを拉致して撮られようなんて事をするよりは黙々と練習に励んでいるわけで‥‥。
 かくして、他の新人選手から次のスターを、と言う目論見はどうやら最悪な形で破れてしまったのかも知れないのでした。

●本隊とクライス
 別働隊の騒ぎが聞こえてくるなか、派手に動き回った方に人が集まるか避けるかのどちらかの『Destruction』建物内。
「だ、大丈夫でしょうか?」
 おろおろとした様子で桜は声のする方へと目を向けますと、ちょうどそちらからタオルを肩にかけたジャージ姿の男性が通りかかり、おや、とばかりに一行を見ます。
「は、はうぅ‥‥」
 びくびくとそちらの男性を見る桜を守るようにミノリと月美が立ちはだかるのに気が付くと、苦笑する若い男性。
「君達かな、クライスのインタビューに来た人達は」
 そう言って近付く男性に警戒を強めた様子で見るミノリですが、男性はクライスと同時期に『Destruction』に移って来たらしく、親しい友人付き合いをしているカイルという選手です。
「大丈夫ですよ、映りたいという人達は大体あちらに集中している。今のうちに行きなさい、ここから真っ直ぐ行って右に曲がるとあるから」
 そう言って去っていく男性を居送ると、何となく顔を見合わせると、一行は教えられたクラウスの詰める小型な板張りの練習場へとたどり着きます。
「‥‥あぁ、初めまして、取材の方ですか?」
 コーチが休憩用の椅子を運んできて、その部屋の隅っこで掃除婦の上着を脱いで、下に着ていたインタビュー用の薄桃の可愛らしいスーツルックに笑いながら相手を待ち、茶を用意するようにマネージャーに伝えるクライスに、緊張気味の桜は用意された見にテーブルに躓いたりとしてはおろおろと済みませんを繰り返し、漸くインタビューへ。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥」
 と、インタビュー内容が思い浮かばずに慌ててポ資料を取り出して基本的なインタビュー用の設問をしどろもどろに聞く桜。
「あまり慌てなくて良いですよ。はい、深呼吸」
「あ、ありがとうございます!」
 紳士的に対応するクライスに、ちまちまおろおろとする桜のインタビューは、見ていてなんだかほのぼのしてきますが‥‥。
「日本のファンの前に立つことが出来る僕はきっと幸せ者で‥‥」
 どこからか時折聞こえてくる声がする方向と二分割画面で表示されますと、新人集団のその声は段々と近付いてきます。
 ばん、と押し入る新人集団。
 どうやら戦利品を持ちながら、見方によっては扇動しているような様子のキリコが部屋へと入ってくると、クライスの表情が紳士的なものから、参ったなぁとか言いながら微苦笑を込めると、クライスは立ち上がって彼等を迎えるのでした。

●W−1GPへ!
 何やら見てみれば、押し入った新人達の戦利品に引き摺られたり持ち上げられて見射越状態に拉致されていた面々。
 真っ正面からやり合いつつも、僅かに勝てずに掴まったり、相手にあわせた作戦を立てようがなかったり、何より多勢に無勢だったりする中で、叱り飛ばしてやってきたキリコはある意味とても強いのかも知れません。
「さて、いらっしゃい、皆さん」
 そう言って迎えるクラウスですが、流石にその暴挙を見たので桜と乱入者の間にはいるようにして止めています。
 咄嗟に月美とミノリも桜を庇いに入っているのは流石かも知れません。
「失礼、ウォーミングアップをしてから来たもので」
 そう言って遅れたことを詫びるキリコににこりと笑って構いませんよと受けるクライス。
「インタビューも終盤のようね」
「あ、は、はい!」
 話を振られてわたわたとしながら桜は頷くと続けます。
「あと、ちょうど締めの部分で‥‥」
「分かったわ」
 桜の言葉にそう言うと、にっこり笑ってクライスにマイクを向けるキリコ。
「Mr.リース、W−1に参加する他の選手へのコメントをどーぞ」
「‥‥W−1リングの上で正々堂々と戦いましょう。キングベア、首を洗って待っていなさい」
 正面から撮されるクライスがにやりと不適に笑い、キリコは短く礼を言うとくるりとぎゃんぎゃん騒いでいる新人軍団へと振り返り。
「‥‥との事だが、どうだい皆?」
『おおおおぉっ!!!』
 どっと沸く、ある意味飢えた獣たちの雄叫びを背景に、キリコが画面へと向かって微笑。
「以上、ぶっちぎりに熱い盛り上がりを見せる現場からお送りしましたー」
 エンディングが流れる中、びくびくと半べその桜に殆どインタビューが流れなかったクライスが宥めてみたり、そのクライスに不意打ちを試みようとしている夕夜等が写った後、画面はW−1GPのCMへと切り替わるのでした。