W−1GP’05秋アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 想夢公司
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/31〜11/04

●本文

 その日、TOMITVで行われる『W−1GP’05秋』のイベント企画で、数名の募集がかけられたのですが、それには1つ条件が付いていました。

『W−1GP’05秋〜その裏側〜』
 そう銘打たれた企画書を前に、苛立った様子で1人の女性が何やら揉めています。
「そりゃ、そう言う番組企画も分かるわよ? でもね、今回はギリギリの人数で遣っているわけ‥‥分かるわよね?」
 ちらりと冷たい視線を投げかけるその女性を前に、その企画を持ってきた男はへらへらと笑って頭を振ります。
「分かってないのは貴女でしょうねぇ? ぎりぎりだろーとなんだろーと、この企画は許可を既に頂いてるんですよ、貴女がどう言おうとねぇ?」
 ねちねちとした視線をその女性へと投げかける男に、ぴしゃりとその企画書を男の顔をはたくように叩き付けて、女性は腕を組んでじろりと睨め付けます。
「だったら、その分取材スタッフが邪魔になる分だけ、新たにスタッフを入れさせて貰うわ。その代わり、今回の試合、邪魔をしてくれたらただじゃおかないから」
 そう言って、ヒールを響かせて現場へと戻る女性に、男は舌打ちをしながら忌々しそうに言葉を吐き捨てます。
「けっ、気位の高い女は厄介だねぇ‥‥」
 微かに聞こえるその言葉とだらしなく靴の裾を踏んづけてズルズルと去っていく足音が消えるまで待ってから、女性は携帯を取り出してスタッフ増員の手配を始めるのでした。

●今回の参加者

 fa0003 翠漣(22歳・♀・猫)
 fa0133 凪代繭那(21歳・♀・鴉)
 fa0310 終無(20歳・♂・蛇)
 fa0330 大道寺イザベラ(15歳・♀・兎)
 fa0406 トール・エル(13歳・♂・リス)
 fa0683 美川キリコ(22歳・♀・狼)
 fa1423 時雨・奏(20歳・♂・竜)
 fa1690 日向 美羽(24歳・♀・牛)

●リプレイ本文

●テーマを演出
 イベントが始まる前の光景。
 それは戦場でした。
「音楽は肝心やな‥‥選手達のテンションに直結するさかい」
 そう言って部屋へと入ってくると時雨・奏(fa1423)はノートPCをセットして腰を下ろしかけて何やらきょろきょろと部屋を見回しつつ、PCの電源を入れ、テーブルに積まれた資料の一つに手を伸ばします。
「せやけどプロセスはともかく、キックボクシングの演出やと‥‥」
 そう言いかけてやはり落ち着かない様子で部屋を見回すと、立ち上がり画面へと近付いてきて暫くその辺りを調べているよう。
「‥‥でも隠しカメラしかけてそうやな‥‥一応探しておこ。普段の机の位置ずらして、電気も落とすか」
 そう言いながら何やらランプに気が付いたらしく、手が伸びてきてぷつりと画面が途切れます。
 音楽と共にオープニングテーマが流れて『W−1GP’05秋〜その裏側〜』と表示され。
「買いだしに行ってきます」
 画面変わって翠漣(fa0003)が何やらメモを手に飛び出していきます。
「皆さん、このポットに紅茶が入っていますので飲んでくださいね」
 左腕に一杯資料を抱えて泡を食いながらもそのポットを置いたことを声かけて、日向美羽(fa1690)が慌てたように担当の女性へと小走りで歩み寄ります。
「こちらの方はどこへ持っていけば‥‥」
「あらお疲れ様。それは右側の通路を行った先にある控え室に置いてきて貰えるかしら?」
 ぱきぱきと指示が出されるのに慌てて走っていくみは。
「わたたくしが目立たない様に演出するなんて、かなり難しいことですわね」
「W−1GP秋大会、張り切って行くよ、皆ッ!」
 トール・エル(fa0406)が高笑いをしている横では美川キリコ(fa0683)がバタバタしているスタッフに発破をかけています。
「紳士対野獣。個人的には野獣に一票ですね。野獣が『本物』ならの話ですが」
「いやいやどうして、どちらが勝つかは分かりませんよ」
 終無(fa0310)がそう呟くと、先程から選手資料を読み耽っていた解説者のアクセル小林が顔を上げて終無に声をかけます。
「あーあー、放送席、聞こえますかぁ?」
「これ、前座試合が終わり次第ここの配置へ移動‥‥と、重い物だけど運ぶときは気を付けて」
 マイクを片手にそう言って音響室へと目を向けて先程からしきりに話しかける大道寺イザベラ(fa0330)に、凪代繭那(fa0133)はキングベア陣営の近くにある場所へと指を滑らせてセット担当の人間と打ち合わせそして居ます。
「ですので、演出として‥‥ええ、ここでこう」
「OK」
 みはがグレッグ“キングベア”レックスへ通訳を通して演出の一部の説明をすると、にやっと笑ってみはに親指を立ててみせるグレッグは、カメラに気が付くと近付いていってがっと画面を食いつきそうな勢いで顔を寄せると、慌てて逃げ出すカメラに笑い声を上げるのでした。

●企画の男と現場の女
「今更そんな変更は出来ません!」
 ぴしゃりと切るように言う女性ににやにやと嫌な笑いを浮かべてその男はぺらぺらと何やら本部指示のような物をちらつかせています。
「ん〜、指示を確認しなかったのはあんたのミスだろぉよ?」
 さも嬉しそうな様子で言う男に女は嫌悪感を露わに睨み付け。
「このW−1の企画は本部と常に連係を取ってやって来たことを、あなたが口を出して出させた指示を、懐に入れたまま隠していたのですから、それに関して私はミスを認めるつもりはありません」
「証拠、無いでしょ? 確かに、目障りなお前を二度と出て来られなくするために色々と高じた内の一つではあるけどさぁ?」
「話になりません」
 背を向けて男を残して立ち去る女と、唾を吐いて女へと悪態を付く男の姿が映っていたかと思うと映像に乱れが入り、すぐに繭那が奏とキングベアの入場曲の打ち合わせし、その側で何やら派手なドレス姿で煌めく青いカフスや白の光沢有る刺繍入りのシャツなどを抱えて通り過ぎ、画面の下の方にテロップが流れます。
『編集作業の不手際でドキュメンタリ内容と関係のないものが流れてしまいました。お詫びいたします』
 何にせよ男性のこすっからい悪事はしっかりと全国区に放映されたようです。
「さて、皆さん」
 そこへ女性が作業の中へと現れ口を開くのに一同注目。
「‥‥現在前座の試合が順調に消化されていって居ます。そろそろメインイベント本番。大変でしょうが後一踏ん張りお願いします」
 女性の言葉に気合いを入れる声があちこちで起こり、作業のペースは更に早まるのでした。

●メインイベント
「さぁ! テンション上げていこう!」
 繭那が声をかけるとキングベア陣営の一同が頷きます。
『お待ちかねのメインイベントッ!』
 ミカのアナウンスが場内へと響き渡り繭那がだんとドラムを入れ、会場中が一瞬しーんと静まり返ります。
『今宵、野獣の爪牙が全てを砕く』
『プロレス界からやってきた巨大なる猛き森の王』
 終無が口を開くとミカも言葉を放ちます。
『荒ぶる獣王を、もはや止めるすべなし。異界より、現われしこの暴君にW−1は蹂躙されるのか?』
『数多の格闘家を屠ったその豪腕が若き鷲の翼をへし折るか!?』
『グレッグ・キングベア・レーックスッ!』
 ミカと終無の声が重なり重低音のドラムがずしんずしんと腹に響く音を発する中、その見事な巨体をしょって現れたのはキングベア。
「グゥオォォオォォォォッ!!」
 その咆哮が響き渡り、リングへと歩み寄るとわらわら群がる人間を腕の一降りでなぎ倒しリングへ上がるとぐるりと回って一同へと指し自身の名を呼ばせています。
 と、突如クラシカルな音楽がキングベアの音楽に割って入り、反対側の入場口にカッとライトが集中。
『『Destruction』の若き鷲! その空舞うが如き華麗なる技の数々は全ての者を魅了する!』
『甘いマスクに隠された、その知略と技は野獣をも制すのか』
 今度はミカが先に、終無が後にと流れるアナウンスが会場内を静まりかえらせます。
『今宵、貴女に勝利を捧げます』
『今宵の勝利で手にする称号は『熊殺し』か!?』
『クライス・リィースッ!』
 間が読み上げられると共に軽やかに淡い黄色のドレスに身を包んだトールをエスコートして現れたのは中世の騎士か貴族かを思わせる涼やかな青い衣装を身に纏ったクライス。
 階段を軽やか降りリングへと、向かう途中にくるりとドレスの裾をなびかせて回るトールへと手を貸しリングへとたどり着きます。
『果たして生き残るのはどちらか、紳士vs猛獣!!』
 盛り上がりに盛り上がる会場内、試合が開始され互いに重い一撃を繰り出し、交わし耐え抜いて最終ラウンドへ。
 キングベアが大技で掴みにかかるのと対照的に、時折ハイキックで会場を沸かせるクライスは、その実メインで打ち込んでいるのは左足へのローキックで、徐々にキングベアの足が腫れ上がっていきます。
『ファイナルラウンッ! ファイッ!』
 ゴングが鳴ると猛然と突進するキングベアにその突進を両腕でカバーすると重い一撃を既に腫れ上がったその右足へと打ち込み、ようようキングベアの足が体重と相まって悲鳴を上げて膝をつき。
 テンカウントが終わり手を差し出すクライスに、それを受けて立ち上がるキングベア。
『勝者・クライス・リィーースッ!』
 大熱狂の会場、キングベアにセコンドが集まってすぐに会場を後にし治療へと向かうのを見送るクライスにど派手なエナメルスーツのイザベラが小走りに近付いて声をかけます。
「放送席、放送席!! 今日はイザベラが世紀の一戦に勝利されましたクライスさんにお話聞きたいと思いまーっす!!」
 観客席へと手を振りながら笑顔で言うと、クライスへと向き直ってにこり笑いかけるイザベラ。
「まずはおめでとうございます!」
 そう言ってがっと抱きつくイザベラに会場は色々な意味で大騒ぎです。
「すっごい試合でした。まさに激闘でしたねえ。アタシもなんかこう、見てて熱くなっちゃいましたよぉ」
「ありがとうございます。今回はグレッグがまだW−1に慣れていなかったのが勝因だったように思えます」
「それにしても、鮮やかな勝利でした♪ 日本のファンに何かコメントをお願いします!」
「本日は来てくれて本当にありがとう! この地で戦えたこと、そしてこの応援を糧にまたこのリングへ戻ってきます!」
「また、このカードでの対戦は?」
「是非、また彼と戦いたいと思っています。その機会がくるのを楽しみにしています」
「有難うございます、クライス・リースへのヒーローインタビュー、以上イザベラがお送りしました!」

●祭りの後
「今回も楽しいコメントありがとう」
 打ち上げの席、キングベアも治療を終えて顔を出し、クライスもスタッフルームへとやって来て、顔見知りだったらしいミカへと話しかけています。
「それにしても、今回企画を持ってきた奴は誰だったんだい?」
「あの男がこういう現場に近い場所には顔を出さないわ。我々でイベントの成功を祝いましょう?」
 肩の荷が下りたのか晴れやかな顔で言う女性。
「では、かんぱーい!!」
 それそれが色々と言葉を交わしている様が映し出され、暗転。
 スタッフロールが流れ、やがて番組は余韻を残して終了するのでした。