フレーバーカフェ南北アメリカ

種類 ショート
担当 想夢公司
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/29〜12/03

●本文

 その日、エリアス少年は困っていました。
「‥‥どーしよう‥‥変な人が来たら怖いよぅ‥‥」
 ぐすぐすと半べその状態でエリアスは台本を抱えています。

 さて、エリアス・フォールドは最近チューイングガムやココアなどのCMで人気が出始めた、金髪碧眼の8歳になる少年です。
 そのエリアスが困っているのには理由がありました。
 エリアスはこれからホームコメディの子役としてデビューすることになったのですが、脚本で一話だけ出てくる年若い母親役の女性がギャラの問題から直前で降りてしまったのです。

「前のお母さん役の人、ようやく慣れたのになぁ‥‥凄く怖かったし、良く叩いてきたから、また来た人もあんなのだったらどうしよう‥‥」
 ぐすぐすと鼻を啜るとティッシュを一枚取って鼻をかみ、ハンカチで涙を拭うエリアス。
 と、そこへ顔を出したのはマネージャーの青年。
「エリアス、どうやら例の役はこれから募集をかけて決めるってさ。それと‥‥」
 そう言ってエリアスが座るソファーに歩み寄ると脚本を受け取って屈み込み目線を合わせるマネージャーは、役の一覧のあるページを開いていくつか指さして口を開きます。
「さて、毎回やってくるカフェのお客様なんだけど、なんだか監督が最近いろいろと面白い物が見られるから、撮影に入る前に新人達を募集して、その人達にその回のコンセプトを元に話を作ってく事になったとか‥‥」
「で、でも、それで凄い出来になっちゃったらどうなるの?」
「あー‥‥オーエン監督が責任取るんじゃない? だ、大丈夫、きっとうまくいくよ」
「‥‥‥ほんと?」
「‥‥‥‥‥‥たぶん」
 マネージャーの言葉に、エリアスはじんわりと目に涙を浮かべるのでした。

●今回の参加者

 fa1047 芹沢 紋(45歳・♂・獅子)
 fa1107 小比類巻レイジ(25歳・♂・蝙蝠)
 fa1155 深月沙奈(18歳・♀・狸)
 fa1571 SAKUYA(18歳・♀・兎)
 fa1701 華夜(18歳・♀・猫)
 fa2162 ライラ・フォード(22歳・♀・一角獣)
 fa2270 ユージン(17歳・♂・一角獣)
 fa2378 佳奈歌・ソーヴィニオン(17歳・♀・猫)

●リプレイ本文

●オープニング
 緩やかな音楽の中、小比類巻レイジ(fa1107)はカウンターでカップを拭いています。
 顔を上げるゼロの下に『レナード』と表示、そこへ駆け込んでくる深月沙奈(fa1155)に『サナ』。
 奥からトレイに茶葉の入った缶を乗せて佳奈歌・ソーヴィニオン(fa2378)扮する『フィリア』が入ってくると、エリアスがそれまで座っていたボックス席から立ってドアの『CLOSE』を『OPEN』にひっくり返し。
 コーヒーカップとティーカップの絵に挟まれた『flavor cafe』が表示され。
 ドアが開くとカウンターでは芹沢 紋(fa1047)がサナと談笑し、マスター相手に溜息混じりに言葉を交わしているのはユージン(fa2270)。
下に『モン』『ウォルター』と映し出されます。
 画面を転じればSAKUYA(fa1571)演じる『SAKUYA』が笑いながらスケッチブックと店内を見比べ。
 窓辺で外を眺めていた華夜(fa1701)へエリアスが紅茶を運ぶと、微笑を浮かべ横に『桜井翠』。
 扉が開き入ってくるライラ・フォード(fa2162)に気が付いたエリアスが顔を輝かせ駆け寄り『アデラ・バートン』と表示されると、ドアが閉じてCafe全体が表示され白く文字。
『離婚、そしてはじめまして!』

●今まで、そして今
 吐く息もすっかり白くなり、黙って道を行くライラとエリアス。
 すっかり葉の落ちた並木道、立ち止まり母を見上げるエリアスに、寂しげな微笑を浮かべて屈み込むとマフラーを直して、ぎゅっと抱き合う母子。
「さ、エリアス、行きましょ?」
「うん、ママ‥‥」
 やがて現れる、常連が作成したコーヒーカップとティーカップの絵に挟まれた『SweetRest』の看板が掲げられた喫茶店。
 ドアを開くとからんからんとベルの音が鳴り、カウンターで珈琲豆を碾いていたゼロが顔を上げると入って来た2人に目を伏せます。
「レナード、今度の‥‥」
 そこへ奥から出てきたカナカが2人の様子に気が付いてエリアスへと歩み寄るとしゃがんで手を差し出します。
「お父さんとお母さんはお話があるみたいだから、こちらでクッキーでも食べましょ?」
「う、うん‥‥」
 母親を見上げ、彼女が頷くのを見てカナカについてボックス席へと向かうのを見送ると、ライラはカウンターへと歩み寄り口を開きます。
「お久しぶり、レナード‥‥」
「久し振りだ‥‥元気だったか?」
 話す2人に音楽とセピア色の映像が重なり、ぼやけた画面、喫茶店内で若い頃の2人を演じるゼロとカナカ、それにスカウトマン扮するユージン。
「夢だった女優になれるのよ!?」
「アデラ、仕事を持つことは応援する。しかし‥‥」
「きっとアデラは成功する、私が保証するよ」
 スカウトマンの言葉に溜息混じりに首を小さく振るレナード。
「エリアスには母親が必要だ。そして、私にも‥‥」
「わかって、レナード‥‥夢が叶うの‥‥」
 徐々に色が戻り現代、ゼロは小さく息をつくとライラへ紅茶に小瓶のミルクと砂糖ポット添えて出し言います。
「君は変わった‥‥綺麗になった」
「有り難う‥‥」
 落ちる沈黙。
「このお店も、相変わらず?」
「あぁ、何も変わっていない。そろそろ賑やかになってくる。なにか作ろう」
「エリアス、一緒にご飯にしましょう?」
 言ってボックス席へと移るライラと目が合い戸惑いを浮かべるカナカ。
 そこへ、賑やかにベルが鳴るとお客が足を踏み入れるのでした。

●常連さん達
「ハイ、おじさん」
「おお、エリアス、久し振りだね。アデラも、私の目に狂いはなかったね」
 挨拶をするエリアスに笑って声をかけるとライラへも頷いてみせる紋さん。
「お兄さんは?」
「そこでばったりあってね」
 目的地は同じだからと笑う紋さん、ユージンはエリアスに手を差し出します。
「ウォルター、ダンサーだよ」
「僕はエリアス」
 握手する2人に、おしぼりとお冷やを持ってカウンターから出てきたサナが笑いホットケーキと蜂蜜の小瓶を置くと、アデラの前にハムエッグのホットサンドにサラダを置いて、きらきらした目でアデラを見つつ離れていきます。
「モンさん、ユージン、いつものでいい?」
「僕はあと何か軽く口にできるものを」
 カウンターにつくユージンに、紋さんはアンティークなジュークボックスへと歩み寄りコインを入れ、エリアスが不思議な顔をして近づきました。
「おじさん、これ‥‥」
「ジュークボックス‥‥コインを入れてボタンを押すと音楽を流してくれるんだよ」
 押してごらんと抱え上げる紋さん。
 流れ出すジャズ、鼻歌交じりに紋さんにカップを持ってくると、サナは映画現場の裏話を聞きたがり、ユージンはモカを淹れてサンドイッチ用意するゼロにオーデションに落ちたよと話し始め、それを眺めホットケーキを頬張るエリアス。
 カヤは訪れると一同に頷くだけで窓辺の席へ足を向けて腰を下ろします。
「お邪魔〜っと‥‥おや? 君が噂のマスターの子供?」
 元気良くドアが開け放たれて入ってくると、サクはエリアスに気が付いて首を傾げて。
 空いているボックス席へと腰を下ろし、注文を取りに来る間も無くスケッチブックを取り出して鉛筆を取り出しました。
「へぇ、可愛い。こっち向いて〜」
 サクの言葉にびっくりしたように目を瞬かせるエリアスに、笑いながらカナカが歩み寄りナプキンで口の端を拭ってやると、ライラの視線に困惑した表情を浮かべるのでした。

●現在との対峙
「エリアス、ちょっとおいで」
 ゼロに呼ばれカウンター奥の部屋に入っていくエリアスを見送り、カナカとライラは複雑な表情で見詰め合っていました。
 奥の部屋、ゼロはエリアスの様子を伺いながら口を開きます。
「エリアス、あのお姉さんを‥‥フィリアを、どう、思う?」
「どうって‥‥まだ良くわかんない‥‥優しそうだって言うのは、分かる、けど‥‥」
 父の様子に不思議そうな表情で答えるエリアスに、ゼロはゆっくり息を付いてから再び口を開きました。
「フィリアを新しい家族として迎え入れたい。エリアス‥‥お前は反対か?」
「パパ、再婚するの?」
 見る見る目に涙を溜めて言うエリアス。
「‥‥あぁ、パパはそのつもりだ」
「だって‥‥ママと分かれたばっかりなのに? ママのこと、嫌いになっちゃったの?」
 言葉に詰まるゼロ。
 エリアスの涙を拭い、緩やかに息を付いて再び言葉を捜しながら、良く考えた結果だ、エリアスがどうしても嫌ならば、と言うゼロに、エリアスは俯きます。
 喫茶店内ではJAZZをバックに、俯いたカナカとライラ、その様子を見守る常連とサナの姿があります。
「‥‥・エリアスは、私には似ても似つかないいい子よ」
「え‥‥?」
 ライラの言葉に驚いたように見返すカナカ。
「貴方達を見れば分かるわ。‥‥エリアスのこと、大事にしてあげて」
「でも、それでは‥‥」
 カナカの言葉に微笑して立ち上がるライラ。
「後悔はしてないわ。私。私の道は、あの時、決めたの」
 言って、奥から鼻を啜りながら出てくるエリアスとゼロを見て、エリアスに近づくとぎゅっと抱きしめるライラ。
「エリアス、何かあったら携帯にね。次の面会日に、必ず来るから‥‥」
「うん‥‥きっとだよ、ママ‥‥」
 ドアへと向かうと一度だけ振り向いてから出て行くライラ。
 しゃくりあげ隅っこの席に着くエリアスに顔を見合わせる一同。
「エリアス君‥‥?」
 それまでずっと窓辺の席に座っていたカヤがエリアスの正面へと腰を下ろすと、寂しげな微笑を浮かべて口を開きました。
「私の両親も、離婚したの」
 目に一杯の涙を溜めながらカナカを見上げるエリアス。
「新しい母親が来たわ。いい人よ。でも、私は、意地になって逃げた‥‥仲良くしてなんかやるものかって」
 ユージンも歩み寄ってエリアスの隣へと腰を下ろすと手を伸ばしてくしゃりと撫で。
「家に居たくなかったら逃げたの。留学じゃない‥‥勉強しに来たんじゃないの。私は逃げたのよ」
 でも帰るわ、とエリアスに笑いかけるカヤ。
「わずか8歳の男の子が、こんなに頑張っている。だから私も‥‥」
 立ち上がるとエリアスをぎゅっと抱きしめるカヤ。
「頑張ってね‥‥」
「ありがとう‥‥元気、出たよ」
 そう言うと紙幣を注文表と重ねて立ち上がると帰っていくカヤ。
「君は愛されていると思う。僕は描きたいモノを見出せたから」
 サクが笑みを浮かべてエリアスに言うと、サクとユージンが笑いながら口を開きます。
「はじめまして、エリアス‥‥『SweetRest』へようこそ!」

●エンディング
「どこがコメディなのか、だって?」
 成り行きさと笑いながら言うジェイク・オーエン監督が映り、JAZZに載せサナに引っ張られるように街中を行くエリアス、そして2人についてのんびり荷物持ちの紋さんの姿。
「さ、どうぞ」
「わ、美味しそうなクッキー」
「サンドイッチは? 僕のはピーナツバターなんだ」
 カナカとユージンに挟まれミニお茶会を始めるエリアス。
「若すぎるか‥‥?」
「母親も若いからいいんじゃないかしら?」
 台本を読み合わせているゼロとライラにメイク中のカヤはカメラに気が付いて微笑を浮かべ。
 そしてスケッチブックに絵筆を走らせるサク。
 スケッチブックに画面が寄ると、そこには『SweetRest』が描かれ、隅っこに『See You Next』と書かれ、画面は暗転するのでした。