傀儡の森〜死体を喰う猫アジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
立川司郎
|
芸能 |
フリー
|
獣人 |
2Lv以上
|
難度 |
やや難
|
報酬 |
2.5万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
02/23〜02/27
|
●本文
傀儡の森。
ミサキという謎のオカルトサイトが噂になりはじめてから、注目されたサイトである。いつの世でも怪談話は、ひとの興味をそそる種。そういう怪談話を集めたのが、傀儡の森であった。
【ちょっとオフ会しませんか?】2006/02/13 20:48 まぁや
ちょっと面白い話を聞いたんですけど、行ってみませんか?
こんな書き込みがあったのは、そう。13日の事だった。
まぁやは大学生だが、学校の友人やインターネットからオカルト情報を仕入れては掲示板に書き込みをしている。
[ここから1時間くらいの山にある廃屋なんだけど、ちょっと変わった猫が居るんだって]
大きさは普通の猫と変わらない。雄のトラ猫で首輪がついており、どこかで飼われていた猫だと思われる。
昼間は廃屋の奥で寝ているが、夜になると這いだして来て住宅地までやってくる。何をするでもなくうろうろとしているらしいが、ひとつ変わった習性をもっていた。
[なんでも‥‥猫の死体をね、食べるって]
あまり見かける事はないだろうが、まぁそういう事もあるかもしれない。
だがその猫は、猫の死体どころか鴉だろうが何だろうが喰ってしまうという。
噂では、尾が二又に分かれているとか、何かの怨霊がついているとか。
まぁやは更に書き込みを続ける。
[その廃屋、元々動物病院だったんだけど‥‥院長先生が怪死したって噂があってね、5年ほど前に閉鎖してそれっきり。院長先生が夜中に霊となって徘徊している、っていう話もよく聞くよ]
[オフ会はかまいませんが、危険な事がないようにまぁやさんがしっかり管理してくださいね]
管理人に釘を刺されながら、まぁやはオフ会の日時を提示した。
それにしても‥‥死体を喰う猫。
「という訳でですね」
パソコンのモニター画面から視線をはずし、緋門あすかは黒髪を背中に押しやった。
「彼女を放置する訳にもいきませんし、行ってみてください。死体を喰うようになったきっかけがNWだったりすると、彼女達の身に危険が及びます」
‥‥。
あすかはちらりとこちらを見た。
「‥‥いつもいつも、何故私がNW退治を依頼するのか疑問に思っている‥‥といった顔ですね。NWという存在を人間から隠してひっそり始末するのも、あなた達獣人の役目。‥‥ほら、行った行った!」
げしっ、とあすかは尻を蹴飛ばして言った。
・「傀儡の森」は、オカルトサイトです。都市伝説を紹介したり、検証したりしている所です。管理人はフルヤという女性。
・まぁや:傀儡の森の常連で、20才の大学生。一般人で、むろん獣人などは知りません。
・緋門あすか:獣人に協力している、神社の巫女さん。ミリタリーオタクの人間。
・獣人化:何も知らない人間の目の前で「獣化」をするのはよくありませんし、体が変質するのを見られては言い訳も出来ません。「獣化した状態」で現れるのは問題ないかと思いますが、用心するに越した事はありません。
・銃刀法を守れとは言いませんが、フォローは各自で。
・HNを考えておかないと、こちらで勝手に付けますのであしからず。
●リプレイ本文
[これはオフ会です]
傀儡の森。ゴーストスポットや都市伝説の紹介や検証を行うサイトである。管理人のフルヤの元、活発な交流が行われている。
常連であるまぁやは、まだ二十才の大学生だ。オフ会に参加するのは女性が多く、前回管理人のフルヤが行ったオフ会でも女性がやはり目立っていた。
彼女よりやや年上の女性、飛鳥 夕夜(fa1179)もそのオフ会には参加していた。
当時と同じく、今度もナイトウォーカーの存在が怪しまれている。
NWだけではない。獣人など知らない一般人に紛れて、彼女達を守らねばならない。だからといって、守ってさえいればいいというものではない。
この依頼に参加してほとんどの獣人達は、彼女達とは初対面なのである。
「アスカさん、お久しぶりです」
まぁやが、嬉しそうに飛鳥へ駆け寄ってきた。
彼女の笑顔は、ややぎこちない。飛鳥‥‥いや他のメンバーも同じ事を考えていたから、飛鳥とて彼女の考えている事は察していた。
そこに、すかさずまぁやの前に割って入った者が居る。
「Buenos noches! まぁやちゃん、ハジメマシテ。僕ちゃん、ハヤト。スペイン語、分かる?」
ハヤト(fa2919)はまぁやの手を取ると、自己紹介をまくしたてた。
「日本はいいね、こんな時間に歩いていても強盗に会わないなんて。僕の国はペルーなんだけど」
あげく、電話番号まで聞くハヤト。まぁやは視線を泳がせた。
「しまった、伏兵が‥‥」
ぽつりと呟くと、少女がすうっと前に出た。まぁやの前に立ち、にっこりと笑顔を浮かべる。
「まぁやさん、こんにちは。サヤこと泉 彩佳(fa1890)です!」
「彩佳ちゃんにまぁやちゃん。ねー、きみは何て名前なの?」
所かまわずナンパをするハヤト、皆動揺が広がっている。彼自身も言っていたように、夜見知らぬ者同士が寄り集まっているのである。強盗が出ないというハヤト自身が軟派を繰り返していて、彼女達が不安に感じないはずがない。
加えて‥‥もう一人。なんと、黒いライダースーツとヘルメットを着用したまま参加した人が‥‥。
ダン・クルーガー(fa1089)である。
あまりしゃべる事もなく、ダンは少しアイシールドを上げただけで短く挨拶をした。
恐らく、銀行の前をうろうろしていると警察を呼ばれる格好だ。あまりの異様さに、皆は寄り集まって遠巻きに見ている。
「ハヤトさん、あんまりしつこいと警察呼びますよ〜」
やや強めの口調で、泉が言った。
「やだなぁ、ぴりぴりしちゃって」
「あのー‥‥」
ぽつりとまぁやが口を開いた。この中で一番面識があり、頼れるのは飛鳥。まぁやはちょっと心細そうに彼女の側に立つと、ちらりと見上げた。
それから毅然とした表情で、皆を見回す。
「私はフルヤさんから、しっかり管理するように頼まれています。‥‥ここは出会いサイトでもありませんし、参加さえすれば皆さんに不快な思いをさせてもいい訳ではありません。‥‥申し訳ありませんが、ハヤトさんと黒狼さん、お帰りください」
「そうだね、それがいいと思う」
笑顔のままで泉が言う。
飛鳥はちらりとダン、ハヤトと視線を合わせ、少し顎を動かして山の方へと指示をした。やむなく、二人は帰っていく。
ふう、と一息ついたまぁやに、傍らで彼女の腕を掴んでいた眼鏡の女性が話しかけた。
「パンプキン‥‥日向 美羽(fa1690)です。まぁやさん、紹介が遅れましたけど‥‥彼がGeneこと鷹見 仁(fa0911)。それで、彼はヒラサカこと神代アゲハ(fa2475)さんです。みんな知り合いなんで‥‥よろしくお願いします」
鷹見は、何か大きな荷物を持っているようだ。
にかっと笑うと、鷹見は荷物を肩に背負い上げた。
「これは秘密兵器。後でお楽しみ、な!」
鷹見が先頭に立って歩き出すと、皆表情を緩めて続いた。
一番最後に、トランシーバーを手にした彩佳が歩き出す。
ふわり、と風に赤いリボンが揺れる。
「アジさん、ごめんね。そっちに二人行ったから、よろしく」
『ん‥‥二人?』
怪訝そうな声で、アジ・テネブラ(fa0160)が聞き返した。
『でも‥‥大丈夫かな。ただでさえみんな不安になっているのに、NWが出てややこしい事にならなければいいけど』
「ああ、それは大丈夫だと思う。‥‥飛鳥さん、何だか知らないけど“保険をかけておいた”そうだから」
飛鳥の保険が何かは分からないが、彼女の様子だと信用しても良さそうだ。
ああ。アジは左手をあげた。暗闇の向こうに、二人程人影が見えた。
二人とも、来ました。きつく言っておくから、そっちはよろしくね。アジは彩佳に言うと、トランシーバーを納めた。
[そして廃屋へ]
淡々とした口調で、美羽が喋る。
「元々、動物病院だと聞いたので、調べてみたんです」
皆息を飲んで、話に聞き入っていた。いつの間にか鷹見が居ない事にも、みんな気づいていない。
「鷹見はどこに行った」
小声で神代が飛鳥に聞く。そういえば、鷹見が居ないようだ。飛鳥は携帯電話をちらりと見て、着信がないのを確認した。
「遠くにはいかないだろう。‥‥もしかすると、もう“先”に行ったのかもしれない」
「何も言わずにか?」
神代が眉をひそめる。
美羽は、戦闘を歩きながら話を続けた。左手にはまぁやが張り付いて話を聞き、右手には興味津々といった様子で泉が歩いている。
「当時、近くに住んでいたお爺さんが猫を沢山飼っていたそうなんです。とてもかわいがっていたそうなんですが、手術に失敗して‥‥うっかり手術器具を体内に残したまま縫っちゃったそうなんですね」
猫は、しばらくして死亡した。
ところが‥‥その後おじいさんは猫が死んだ事がショックだったのか、次々に猫を惨殺‥‥院長に送りつけたそうです。
「数日後。院長は‥‥獣に喰われたような無惨な姿で、発見されました。体に、猫の体毛がびっしり‥‥」
がさり。
叢が揺れた。
「キャー!」
美羽が派手に声をあげる。
現れた影も、驚いて声をあげる。神代のライトに照らされたのは、鷹見だった。
「お‥‥驚くじゃないか!」
「こっちこそ、驚かせるな! ‥‥お前どこに行っていたんだ」
神代が聞く。というか、それは何だ。
神代は鷹見の背中を指した。鷹見の背中には白い羽が生えている‥‥ように見える。まぁやは、じいっと羽を見ていた。本物にしか見えない‥‥。誰かが呟いた。
そりゃあそうだろう、本物だから。
「これ? ‥‥これは秘密兵器! 猫まっしぐらって感じだろ」
ははは、と鷹見が笑った。
猫の霊を呼び出すなら、鳥の格好が一番だと言うわけだ。
「鷹見は一応、映画監督だからな」
「本当ですか? じゃ、それも撮影とかで使うの?」
飛鳥の言葉を聞いて、皆が集まってきた。
立ったままじいっと見ている神代に気づき、鷹見が腰に手をあてる。
「どうした、神代。お前も何かやりたかったのか?」
「‥‥お前は間違っている」
は? 鷹見が聞き返すと、神代は被っていたフードを下ろした。神代の頭部から、猫耳が現れる。
「猫を喰う化け猫をおびき出すなら、こうだ」
「えー、俺せっかく重い荷物抱えてきたのに‥‥やられた」
がっくりと肩を落とした鷹見の肩を、まぁまぁ鷹見さん落ち込まないで、と彩佳は楽しそうに叩いた。
「これなら猫も来てくれるよ、鷹見さん!」
「そうです、二人とも似合ってます。特に、神代さん可笑しいです〜」
まぁやは、真面目な顔でネコミミをつけている神代を見て笑った。
そういう子には、こうだ。鷹見は鞄からシークレット犬耳を取り出すと、まぁやの頭に付けた。
「んー‥‥でも、犬だと猫‥‥逃げるんじゃないですか?」
のんびりとした口調で小首をかしげ、美羽が言った。
[猫の呪い‥‥?]
山の中腹まで進むと、道は急に開けた。
ライトに照らされたそこは、広いグラウンドが続く。すぐ向こう側には、白い建物がぼうっと月明かりに照らされて建っていた。
窓ガラスは割れ、扉は半分崩れて落ちている。地面はアスファルトで覆われていたが、あちこちに草が生えてひび割れていた。
しいん、と静まりかえる。
恐る恐る、美羽が足を踏み出した。
「ほんとに何か出そうだね」
ひし、と女の子が神代の手にしがみつく。彩佳はちらりと神代を見ると、同じようにひし、としがみついてみた。
神代と鷹見はいいが、何故か飛鳥にも‥‥。
注:飛鳥は女の子です。
白い鷹見の羽と神代の耳は緊迫した空気にそぐわず、どこか滑稽だ。
にゃあ。
キャー。美羽が声をあげると、皆もびくりと震えた。
「なんだ、猫だよまぁやさん」
泉がそろりと歩み寄る。猫、おいで。彩佳がそろそろと近づく。
神代はそっと手をふりほどくと、彩佳の後ろに続いた。
猫がじっと彩佳の方を見つめる。しっぽをゆっくりと振っていた。猫の方へと、まぁやがライトを向ける。
ゆっくりとしっぽが‥‥ゆらり、ゆらりと。二つ‥‥。三つ‥‥?
「ししし‥‥しっぽ、さっき一個じゃなかったかな?」
美羽がまぁやにしがみついて、聞いた。
「に、二個だったような‥‥」
‥‥四つ?
「キャー!」
美羽は悲鳴を上げて、まぁやの手を握った。悲鳴を上げながら駆け出す美羽に、まぁやが引きずられるように続く。
集団心理とは、パニックに陥った時に最初に行動した者に続いてしまうわけで。
そして、美羽の悲鳴と態度がそれを増長したわけで。むろん、彼女はそれを最初から想定していた。
いつの間にかライトはどこかに落としてしまい、夜闇の中を息を切らせて車道まで降り付いたのは、あれから十五分後のことだった。
ふり返ったまぁやが、表情を強ばらせる。
そこには、飛鳥も神代も、そして彩佳と鷹見すらも居なかったからだ。
「どうしよう、追いかけなきゃ」
「だ、大丈夫です。えっと‥‥携帯電話‥‥」
美羽は鞄を漁りはじめた。
チカッ、と美羽の目を何かが射す。皆の視線が、道路の向こうに向けられた。
ゆっくりと、ライトが近づいて来る。やがて車内から、誰かが降り立った。
廃屋に追い込んで!
アジが声を上げると、四本の尾を持った猫が飛び上がった。空中で一回転しつつ、体をくねらせる。それは見る見るうちに巨大化し、人ほどの大きさとなった。
「アジちゃん、僕は彼女達が気になるから言ってみるよ」
「駄目。あなた追い返されたの忘れないで!」
アジはハヤトに叫ぶ。
予定通り、彩佳が猫の前に飛び出した。
「こっちだよ、猫ちゃん!」
半獣化した彩佳が、猫を誘導しながらじりじりと動く。神代は彼女と猫の後ろを、距離を取って歩く。逃げないように鷹見とアジ、合流したダンとハヤトが囲む。
「この奥は、ロビーになっているの。ロビーから診察室に続く通路は狭いから、あの猫だと逃げられない。私はそこを塞ぐから、ここはお願い」
アジは低い声で言うと、窓から廃屋に入った。
ロビーに飛び込んだ彩佳に続き、猫が地を蹴った。転がり込んだ彩佳は猫を捕らえる事が出来ず、接近を許してしまった。
彼女のマークをしていた神代が、駆け出す。
ロビーの奥へ続く道はアジに封鎖され、猫は壁を蹴って再び彩佳に飛びかかった。
「鷹見!」
唯一猫の動きを目で追えた飛鳥が、指さす。
放たれた雷が、空を切り裂いた。彩佳に爪を振りかざした猫の背中を、真っ直ぐ貫く。目映い閃光で猫が一瞬怯む。
すかさず、アジが突っ込んでいた。
姿勢を低くした猫の前にアジが立ちはだかり、仕込み傘をぱっと開いた。組み付いた神代が、猫に爪で斬り付ける。
「鷹見、ここは頼む。あたしは保険が下りたようだから、戻るよ」
「保険?」
飛鳥は軽く手をあげ、闇に消えた。
神代が食い止める隙に、ダンが猫の懐に飛び込んで足を払う。アジの傘は、的確に腹部のコアを貫いた。
飛鳥が山を下りると、皆の視線が一声に自分に向けられた。とても不安そうな表情で、こちらを見返している。
彼女達の側には、立浪が立っていた。
「飛鳥さん、山で‥‥」
「ああ、知っている。PLOJECT:八卦が撮影してたんだろう?」
美羽に、飛鳥が答えた。
そう。飛鳥は最初から、立浪に相談していたのである。もしもの場合、撮影があるという事にしておけないか、と。
一般人への言い訳になると考えていた。それ以外の事態にも、立浪ならばうまく立ち回ってくれる。
「言ったら皆が白けると思って、黙っていたんだ。ごめんね。みんなはまだ、上で怒られてるけど、大丈夫」
「ほら、ロケバスで送るから乗りなさい。一度に乗れないから、飛鳥さんは残ってね」
立浪はそう言うと、美羽も促してロケバスへと乗せる。彼女は最後まで、何も知らない一般人としてまぁや達に付き添い、そのまま帰宅していった。
立浪は一息つくと、煙草をポケットから出した。
丁度山から下りてきたアジや神代が、立浪の姿を見つけて歩み寄る。
「まず‥‥みんなよく頑張ったね」
立浪は本来、この依頼に関係しない所だ。だが立浪は、その事は咎めていなかった。
「お互いのフォローも行き届いていた。でも、傀儡の森はミサキの件もあって、今閉鎖的になられると困るサイトなんだ。頼むから、オフ会は上手く立ち回ってくれよ?」
と、立浪はチクリとそう言った。