ミサキ〜忍び寄るモノアジア・オセアニア
種類 |
シリーズ
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担当 |
立川司郎
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芸能 |
フリー
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
8.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
02/25〜03/01
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●本文
〜ページを表示することができません
今、そのアドレスを叩いても、そこには何も残されていない。跡形もなく‥‥全て、消し取られていた。
たった一週間だけ存在した、とあるホームページ。
1日目、2日目、3日目‥‥7日間、淡々とした文章と一枚の写真だけを羅列し続けていた。
7つのもの、7つの物語を。
そして、7日後。全てを消し去り、闇に消えた。
そのHPの名前は‥‥“ミサキ”。
「木崎昴‥‥ですか」
あすかは、報告書を読みながら呟いた。掘りごたつに足をつっこんで煙草をふかしている立浪祐介は、あすかの反応を伺うように、ちらりと視線をやった。
「シシリーには聞いてみましたか?」
「いや‥‥ていうか、あの件については逮捕後何度も取り調べしたからねえ。聞いても、死んだんじゃねえか、って答えるだけだろう」
そう‥‥死んだ人間なのよ、この木崎昴という人は‥‥。立浪はじっとあすかの手元を見ながら考えた。
考えれば考えるほど背筋が寒くなり、ぶるりと体を震わせた。
「木崎が生きていれば、34才‥‥か。30前後だというフルヤの言葉に沿ってはいるな。とはいえ、僕はちょっと行きたくないな。そのフルヤって子と面識があったら困るし」
「面倒な事になりそうですからね、会ったら。‥‥やはり、八卦と無関係の人に行ってもらうのが一番かもしれません」
あすかは報告書をこたつの上に置くと、息を吐いた。
「フルヤさんからは、木崎昴を名乗る人物について詳しく聞いた方がよさそうですね。‥‥あら、立浪さん?」
立浪の携帯電話が鳴る。
ごそごそとポケットから携帯電話を取り出すと、ぼんやりとした声で返した。
「はい、立浪ですがぁ‥‥」
何かを真剣な表情で話す立浪。やがて電話を切ると、すう、と苦笑した。
「八卦・暗部からですか?」
「ああ‥‥例の傀儡の森、気になる事が起こっているようだよ」
その子は、よくフルヤになついていた。
傀儡の森は、オカルト情報の公開をメインとしたサイトである。都市伝説やその検証、オフ会でゴーストスポットを訪れるなどの活動を行っていた。
管理人フルヤは、20代後半の女性だ。
彼女が別れた彼氏からもらったという人形が、ミサキという謎のサイトで紹介されていたものらしいと判明したのは、つい最近の事だった。
まぁや 件名:どうですか? フルヤさん
こんにちは、フルヤさん。
あれからどうですか? まだ彼女、来ているんですか?
もし酷いようだったら、警察に言った方がいいんじゃないですか。
だってほら、怖いじゃないですか。
何だったら、私たちで泊まりにいきますよ!
フルヤはメールを閉じると、部屋のドアを見つめた。
誰かが歩く足音が聞こえる。いったりきたり‥‥ドアの向こう。
それは明け方からよる遅くまで続く。
相手は分かっていた。HN:ナナキという少女だった。
「フルヤさん、差し入れです。頑張ってくださいね」
「こんにちは。えっと、風邪ひいてるってきいたからご飯作ってきました」
そんな些細な事から始まり、やがて連日入り浸るようになった。正直、迷惑だ。
前回のオフ会の時はたまたま彼女が実家に戻っていたらしく、その隙にオフ会に行った。
断ると、ドアの向こうで延々と泣き続ける。そして逆ギレ、あげくまた泣き出して謝る。以下繰り返しだ。
「ナナキさん‥‥夜遅くまで外をうろうろしていると、犯罪に巻き込まれるかもしれませんよ。ご両親はどう仰っているんですか」
フルヤがドア越しに聞くと、ナナキは明るい声で答えた。
「私はしっかりしているから、そんな事には巻き込まれっこないって信じてくれています」
そういう問題じゃない気がするが‥‥。
開けてくださいよ、フルヤさん。
なんだか‥‥いらいらする。あれは‥‥そうか、本を貰ってからだ。
早く‥‥探さなきゃ。‥‥でも何を? どうして?
わ・か・ら・な・い‥‥。
依頼:フルヤから、木崎昴という人物について聞き出す&ナナキからフルヤを守る。
フルヤ:傀儡の森というサイトの管理人。ストーカー化した、ナナキという常連に怯えているらしい。木崎昴という、別れた恋人から貰った古いフランス人形を大事にしている。
ナナキ:元々傀儡の森の常連だったという19才の女の子。最近異常な行動をとりはじめた。
●リプレイ本文
[傀儡の森]
ミサキ。
曰く付きアイテムの写真と逸話を1日1つずつ公開し、7日後に全てを消し去ったオカルトサイトだ。
そのうちの一つは、現在緋門あすかという神社の巫女が所有している。人間である彼女が何故PLOJECT:八卦と親しくするのか、その繋がりについても不明である。
彼女が所有するのが、十銭白銅貨だった。そしてフルヤが所有するのはフランス人形。
その他、前回の調査では日本刀と指輪が確認されていた。
富士川・千春(fa0847) は、過去の掲示板の履歴を見ていくうち、ここ最近の仲間の動きについても知る事が出来た。まず、時雨・奏(fa1423)が以前のオフ会で、白銅貨の写真を公開している事。
まぁやという常連が、ミサキのものと思われる写真を三つ所持しており、それを天羽司(fa2618)に渡した事。
もう一つ、千春にはサイト掲示板の過去ログを見る目的があった。ナナキという人物像と、彼女の感染経路である。
ナナキ:ネットで知り合った友達から、面白い本を貰ったんです。今度、フルヤさんにもお見せしますね。あ、今週の日曜日は丁度空いてるから、行きます!
これは1ヶ月前の書き込みである。
彼女が自分本位なのは、以前からのようだ。更に遡っても、それはあまり変化がなかった。ただ、この本に関する書き込みあたりからそれに拍車がかかっているように感じられる。
ナナキと直接会って、確認する。
この為に動いたのが、相沢 セナ(fa2478)だ。彼は今まで傀儡の森に関わった事が無く、ナナキに接触するには最適だ。
アネス:以前から拝見させて頂いておりました。ミサキに関する情報が集まっているようですので、居てもたってもいられずご挨拶させて頂きます。
ナナキさんがお持ちの本も、ミサキに関係するものなのですか? 是非、拝見させて頂きたいです。
これをフォローしたのが、Aこと天羽である。天羽は先の事件の時よりオカルト自体について知識を深め、オフ会に望んでいた。Aや御神村小夜(fa1291)などの以前のオフ会メンバーは、有る程度信頼されている。
A:アネスさんは、以前別のサイトでお見かけしましたよね。その時は、群馬のトンネルに関する検証についてお話されていませんでした? 僕も久しぶりにお会いしたいなあ。
アネス:いえ、皆さんもお忙しいでしょうし、無理にとは申しません。
セナは、控えめにそう書いた。会うのは千春である為、最近ヨーロッパから戻ってきた女で、と書いておいた。ヨーロッパに居たのはセナ、性別が女というのは千春の事だ。むろん、セナは実際には男だが。
ナナキ:今週の日曜でしたららのですよ!
アネス:じゃあ日曜日、お会いしましょう。
その後アネスはナナキに、セリエと燐はフルヤにそれぞれメールをし、会う約束を取り付けた。
[死したるもの]
映画製作会社PLOJECT:八卦本社。今回小夜が訪れたのは、八卦本社に居るはずの立浪に面会する為であった。
まだ年若く見える彼女に付き添って来たのは、リーゼロッテ・ルーヴェ(fa2196)、そして天羽である。
獣人達ばかりの本社内は、さすがに容姿や髪の色も様々。その中から小夜は、立浪を捜し出す。ひょろりとした長身の男が、デスクで煙草を吸っている。立浪に応接室に案内された小夜は、用件を切り出した。
「フルヤさんに会いに行くのですが、写真か何か残っていればお借り出来ないかと思って」
「そうだと思って、用意しておいた」
立浪は一枚の写真を出すと、その人物について話し始めた。
「死亡扱いになっているから、写真が10年前のものしか無くてね」
「この人物について、詳しい人柄はお話頂けないのですか」
天羽が聞いた。立浪は、しばらく黙っていたが、口を開いた。
「‥‥十年前まで、蟇目大祭というイベントをやっていた。これから一年間に売り出す役者を選ぶ為、武術演技共に優れた人物を選抜する、八卦の一大イベントだ。木崎昴は、その時死亡した三人のうちの一人だ」
シシリーは三人を殺害した容疑者とされ、逃走後も数え切れない程罪を犯した。
そのころ、時雨は又々あすかの家にやって来ていた。あすかの家でネットを接続する為である。
「ほらー、中東みやげのスノゥベアーあげるから」
嬉しそうに、時雨が熊のぬいぐるみを差し出す。
中東土産ですか。あすかは白い熊のぬいぐるみを受け取ると、ぼんやりとした表情で見つめた。むろん、このぬいぐるみは中東みやげではない。
そこで取り出したる、こるとぱいそん、とかいう‥‥。
「痛っ、いたたた‥‥!」
「ずいぶん良くできた中東土産ですねえ」
「ごめんなさい、中東土産とちゃいます」
あすかはモデルガンを仕舞うと、話を続けた(良いこのみんなはモデルガンを、生き物に向けて発射しないように)。彼女が木崎について時雨に話したのは、大体立浪が語った事と同じ内容だ。
まだ、彼女は何か隠しているようだったが、あすか自身もその真相について決め兼ねているような様子だった。
「‥‥木崎にとって、十年前の蟇目大祭はさほど重要事項ではないはずなのですが‥‥」
沈黙すると、あすかは深い思考の海に落ちていった。
[ナナキという少女]
六人が集合して十数分。少し遅れて、黒髪の女性が合流した。大人びた質素な出で立ちに、腰まで伸びた黒髪を肩から流している。
「真白、ここだよ!」
人一倍元気を振りまきながら、燐 ブラックフェンリル(fa1163)が手を振る。小鳥遊真白(fa1170)は小走りでこちらに近づくと、燐の様子にあっけにとられつつ深呼吸をして息を整えた。
「すまん、結局実家まで行ってきたものだから遅れてしまった」
ナナキについて調査しようとしていた真白は、セナや千春、フルヤからナナキの住所を聞き出していた。ナナキの両親が何をしていたのか、そして彼女が変異したのは何故なのか‥‥。
もしやNWが関わっているのかもしれない、そう考えたのは、今までの怪談オフやミサキの依頼ではNWが多く関与していた事も理由にあった。
「彼女は3人姉妹のうち、末の妹だ。上の姉は見かけなかったから、実家に住んでいないのかもしれない。もう一人兄が居るが、こちらは実家に居た。両親も健在だな」
ナナキという少女も、一応の所実家には戻っているようだ。しかし、暇があればフルヤのアパートの近辺を彷徨いている。
「本を貰った、と書いていた時期を境にして、ストーカー行為が悪化したみたいだったわ。NWに感染しているんだったら‥‥何とかしなきゃ」
千春は、少し表情を沈めた。もし感染しているのであれば、どこか戦いやすい場所におびき出さなくては。
天羽がしばし考え込み、頷いた。
「では、僕が場所を見繕って来ましょう」
「フルヤをホテルに移動させるんやったら、ホテルの近辺でええんちゃうの?」
時雨の案に、小夜が返答を濁らせた。
移動するかどうかは、フルヤの意志に任せたい。
「一応、その方向で話しては見るわ。天羽さんは、ホテル周辺に居てもらえますか?」
「はい、構いませんよ。それでは僕は一足先に」
すう、と天羽は雑踏の中に歩いていった。
小夜と燐はフルヤの元へ、千春はナナキと接触する為、待ち合わせの喫茶店に。彼女を尾行する真白とロッテは、千春から暫く離れて歩き出す。時雨はコインの話をする為、千春に同行した。
セナは千春とナナキの様子を伺う為、彼女の後ろから喫茶店に入るつもりで居る。
そして喫茶店に、一人の少女が現れた。
ホテル周辺を一人うろうろと歩き回る天羽は、しばらく離れた所に小さな公園があるのを見つけた。
それほど広くはないが、人通りが少なく民家から離れている。ホテルと3階建てのビルに挟まれ、しばらくベンチに座って待っていたが、誰も来る様子はなかった。
“どうですか、そちらの様子は”
天羽がメールを送ると、ロッテから返事が返った。
“天羽さん、頑張ってる?? 二人とも、ナナキさんと話しているよ”
“ナナキがフルヤに接触しないように、気を付けてくださいね。ナナキも人間だそうですから”
あんたは来ないのか、とロッテはメールを読んで呟いただろう。天羽はここで、皆が戦う間人払いをするつもりだった。
「やれやれ‥‥ソロは寂しいですねえ」
本心からそう思っていたのかどうか。天羽はベンチに腰掛けたまま、目を閉じた。
メイクはうっすらとだけ。服装は、フリルとレースの付いた白いワンピースを身につけている。ナナキはそわそわとした様子で、千春と時雨を見た。
千春はにっこり笑うと、自分の名前を名乗った。傀儡の森の事、そして時雨からミサキの話が出る。しかし、ナナキはどこか落ち着かない。
「あの‥‥この間言ってた本の話。教えてもらえる?」
黙って、ナナキが本を差し出した。千春は慎重にその本の装丁や中身を調べてみたが、これといって変わったところはない。戦前に発行された、宗教儀式と流派についての本。あまり、聞いた事が無い宗派の名前だった。
最後のページをめくった時雨が、声をあげる。
“発行:八卦会”とある。
さりげなく席を立った時雨は、あすかに電話を掛けて確認した。
『恐らく、戦前にウチが発行した本の一つです。戦争で焼失したものの一つかもしれませんから、持ち帰って頂けると‥‥』
ふり返った時雨の目に、千春とナナキが居なかった。電話を切って、急いで出口に向かう。出た所で、セナが待っていた。
「ナナキが、千春さんを連れ出しました。ロッテと真白が追っているから、僕達も追跡しましょう」
やや後ろで二人の様子を見ていたセナにも、明かな異常。ナナキは時雨が居なくなると、くすりと笑った。
「何か‥‥よく分からない。でもあなた‥‥『何』なの?」
何って? 千春が表情を強ばらせる。
「多分‥‥私が探していたモノ‥‥私が欲しかったモノ」
ワタシノ、エモノ。
[木崎昴‥‥?]
明るい口調で、燐はフルヤにホテルへの移動を促した。彼女を不安にさせたくない、という気持ちはもちろん、フルヤとの再会を喜ぶ気持ちもある。
「ほら、さっき時雨さんも言ってたじゃない。そのホテルは、寝ると未来が見える絨毯やそうやー。気分転換に、ホテルでレヴューしてきたら? って。‥‥なんでベッドじゃなくて絨毯なのか、わかんないけどさ」
にやり。最後に低い声で呟いた燐に、小夜がびくりと震えた。
「り、燐さん?」
「なーんでもないよ。ほら、一日くらいゆっくりしようよ。僕達、前回のオフの恩返しがしたいんだ!」
オフは楽しかった事、フルヤと話した事、燐は身振り手振りをつけて話した。
くす、と燐の様子を見てフルヤが笑う。
「わかりました。‥‥燐さん、それじゃあ今日は寝かせませんよ〜」
「な、何の話?」
怪談話で。フルヤが言うと、燐は不安そうな顔をした。
息を切らせながら、真白が走る。電話で天羽から、公園の場所は聞いている。千春もそれを確認しているはずだ。一応向かう先がその公園の方向にある事を、真白は方向感覚で察していた。
半獣化に備えて大きめの服を着ていたロッテは、人の目が無い事を確認して少しだけ自身を元の姿に戻した。
「真白、私は先に行くよ! セナと合流してっ」
「くそ‥‥っ。千春!」
声を上げる。千春がふり返ると、ナナキが動きを止めた。ゆっくりとふり返る。
その体が、異質なものへと変化していった。
「天羽、ここは頼む!」
真白は叫ぶと、NWを公園に追い込む為に駈け寄った。
「よっしゃ、居合いじゃ〜! QあWせDRFTGYふ‥‥(以下、聞き取り不能)」
「‥‥セナ、公園に追い込むぞ」
時雨は刀を抜きながら、何かよく分からない事になっているようだ。真白は、時雨の言葉には応答せず、セナに声をかけた。
背に黒い翼を生やし、セナが手をかざす。
「闇弾を撃ちますから、ロッテ、追撃してください」
ロッテは瞬時に間を詰め、千春の横をすり抜けて相手に組み付く。そのまま、巨大な獣の姿に変化していくナナキを公園に押し込んだ。
ドアをノックする音に、燐が甲高い声を上げた。
「だ、誰??」
「ロッテだけど‥‥?」
小夜にドアを開けて貰ったロッテは、不思議そうに燐を見つめた。彼女は青ざめた表情で、見上げている。
くすくすとフルヤが笑っていた。どうやら、今まで怪談話を聞かされていたらしい。
「彼女、私の友達なんです」
小夜に紹介され、ロッテはぺこりと頭をさげた。ロッテ、燐、ともに髪の色は銀色である。フルヤは流行っているのかな、位に思ってくれているようだ。
鞄から一枚の写真を取りだし、ロッテは真剣な様子で話しだした。
「実は、私‥‥人を捜しているんです。小夜さんから聞きました、あなたの彼氏‥‥木崎昴という名前だったって」
「昴を?」
「はい。とある映画会社の人から、頼まれたんです。十年前に行方不明になった社員を捜しているって」
ロッテが差し出した写真には、3人の青年が映っていた。2人は男、1人は女。
フルヤはその写真を見ると、いとおしそうに目を細めた。
「ああ‥‥そうです。昴、すごく若い」
懐かしそうに、指さすフルヤ。静かに指が触れたのは‥‥右端の青年、三津屋・臣であった。
小夜は、立浪の言葉を思い出していた。
−この左の男が木崎昴。そしてその横に居る女の子が、三津屋・香奈。右側の男は三津屋・臣(みつや・しん)、香奈の兄で木崎の親友だな。
木崎と香奈は、十年前の蟇目大祭で死亡していて、三津屋は行方不明‥‥−
驚いた表情のロッテと小夜を、フルヤが見上げる。
「どうかしました? これ、昴ですよね?」
「えっと‥‥」
ロッテは、困ったように小夜を見た。