煉獄番外編〜僕のルイアジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
立川司郎
|
芸能 |
フリー
|
獣人 |
3Lv以上
|
難度 |
普通
|
報酬 |
7.9万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
03/13〜03/17
|
●本文
巨大ゴキブリナイトウォーカー事件が一息ついた、煉獄。
煉獄は、PLOJECT:八卦本社地下に存在する、私的獣人隔離施設である。現在は、八卦暗部実行隊の瀬戸口茜指揮のもと、管理されている。
ひとり、実行隊のメンバーが消えた。
まあ、名も無き獣人、とか黒子、とか登場人物A、とかそんな感じで名前も告げずに、依頼報告書に消えていったうちの一人で‥‥。
「こら、話を聞いてるか?」
瀬戸口は声を荒げた。
彼が消えたのは、4日前の事である。
「たいした事じゃない、まあそれほど問題視するものでもない」
瀬戸口は、ため息をついて目を伏せた。
すう、と一枚の写真を差し出す。そこには、一人の青年が写っていた。二十代後半だろうか‥‥人の良さそうな顔立ちだ。
両手で、白いペルシャ猫を抱えていた。
「桂という男だ。煉獄担当だったんだが‥‥逃走したまま、行方が掴めない」
桂は、それはそれは愛猫を大切にしていた。猫の獣人でもある彼は、その猫‥‥ルイを友のように、妹のように大切にしていた。
悲しい時は、語りかけた。つれなくされたら、枕をぬらした。
猫大好き、猫命である。
「それが‥‥一週間ばかり前、近所のガキどもに矢を射られてな」
木を削って作った、手製の矢である。ボウガンでなかった為か、威力が低くダメージも少なかった。ルイはおかげで、命を取り留めた。
「最近近くで、中学生くらいの子供が悪戯しているという話は聞いていたんだが‥‥自分の猫を傷つけられた桂は、怒って飛び出した。彼らを見つけて、仕返しするつもりなんだ」
恐らく、猫に悪戯したのは人間だ。万が一人間の前で獣化したりすれば、一大事だ。傷つけたりすれば、むろん八卦に責任が及ぶ。
顎に手をやり、瀬戸口が視線を動かす。
「まあ、一週間ばかり煉獄に突っ込んで反省させるさ。無事に済めばな」
ちなみにルイは、現在煉獄内をうろうろしている‥‥らしい。
設定
桂:八卦暗部実行隊煉獄班。人が良く、苦労性。猫大好き、愛猫ルイは命より大事。現在行方不明。
ルイ:白いメスのペルシャ猫。傷は大分癒えたようだ。決して恋人ではない。
ガキども:中学生という事だけ判明している。矢は、木を削ったものであったらしい。
●リプレイ本文
■煉獄番外編〜僕のルイ
[気高い、あの猫]
すい、と気配もなく足下を白い影が通り過ぎる。抱き上げたい衝動に駆られながら、シヴェル・マクスウェル(fa0898)は廊下を進んだ。地下の薄暗い闇にとけ込む浅黒い肌を露出させる服装で、シヴェルが牢の前に立つ。
「お前が来島だね?」
三十代後半だろうか。来島は案外、健康そうな顔立ちをしている。
彼は、PLOJECT:八卦暗部で幹部だったのではないか、そう言ったのは田中 雪舟(fa1257)だった。田中はシヴェルとともに煉獄を訪れ、つい先ほどシヴェルの足下をすり抜けたルイを追いかけているはずだ。
それをシヴェルが口にすると、来島は答えずに笑った。否定しないという事は、当たっていると考えてもよかろう。
「別に、お前の素性を調べに来たんじゃないんだ。桂って男について聞きたくてね‥‥知ってるだろ、猫を飼ってる暗部の男さ」
「暗部の全部を把握してる訳じゃないからなぁ‥‥実行隊に居る瀬戸口の部下だろう? ここに居る奴だな」
「知ってるじゃないか、ここを担当しているんだからね」
シヴェルが突っ込むと、来島は肩をすくめた。
「俺は今、暗部の人間じゃないよ」
「まあ、そう言いなさんな。桂が居そうな所に心当たりがあれば、教えて欲しいだけさ」
「居そうな所なあ‥‥ネットカフェにでも居るんじゃないのか?」
ぼんやりとした口調で、来島が答えた。
傷口がかゆいのか、ルイは身を捻ってかしかしと包帯を掻いた。白いペルシャ猫に皿を差し出す男は、ちょっと場にも猫ともそぐわない渋い顔つきをしている。
「どうでしょう、私のパテは?」
雪舟は、ルイの顔色をうかがった。猫獣人である雪舟は、ルイとは意志疎通が出来る。
すい、と鼻を近づけるとルイは口をつけた。気に入ってくれたようだ。
微笑を浮かべて、雪舟がその様子を見つめる。瀬戸口からは『安易に地図は出せない』と煉獄内の地図はかり出せなかったが、ルイとは無事に接触出来た。
触られると嫌がったが、近づく事はあまり拒否感が無いようだ。
“彼女”は気位が高いんですね。雪舟はルイが食べ終わるのを待つと、話しかけた。
「桂さんは、あなたの敵討ちに行ってしまいました。犯人や桂さん探しに、協力してもらえませんか?」
勝手に居なくなったんだもの、あたしは敵討ちをして欲しいなんて言ってないわ。
ルイはしれっとそう言った。
「でも、このままだと桂さんは投獄されてしまいます。それは嫌じゃありませんか?」
じい、とルイが雪舟を見上げる。
「食事の礼‥‥と言う訳ではありませんけども、一緒に来て協力して頂けると幸いです」
雪舟が手を差し出すと、ルイはにゃあ、と鳴いた。
そっとルイ抱き上げ、雪舟は携帯電話を取りだした。丁度来島と話が終わったシヴェルが歩いてくる。
「ペルシャ猫がやけに似合ってるじゃないか、雪舟」
「それはどうも。‥‥ルイが、被害に会った場所に案内してくれるそうです。私たちも行ってみましょう」
ぬくぬくと収まっているルイに、シヴェルの視線が向けられる。そっと手を出してみると、ルイはぷいとそっぽを向いた。
男の方がいいってか。冷たいね。シヴェルは苦笑した。
[捜索開始]
相馬啓史(fa1101)、リュアン・ナイトエッジ(fa1308)、由里・東吾(fa2484)の3人は犯人と思われる中学生の特定に当たっていた。
「猫に矢を居るて‥‥酷い事する中坊も居るもんだな」
「憂さ晴らしでこんな事をする奴は、許せないっす。しかし、NWじゃないといいけどね‥‥。とにかく中学生を捜してみるっすよ」
最悪の事態は考えておくべきだ。リュアンは、相馬と由里にまず近くの中学校から当たってはどうかと持ちかけた。
しかし中学校で聞き回る訳にもいかない。
「このヘンの住民とか、公民館とかで悪ふざけの過ぎるグループなん、居らんか聞き込みしてみるか?」
瀬戸口も知っていたのであれば、周辺住民の間でも噂になっているかもしれない。
とりあえず、八卦周辺の公民館に行ってみる事にした。
「あ‥‥っと、このヘンで動物に矢を射たりする事件がありませんでしたか?」
馴染まない標準語にしどろもどろになりながら、相馬が訪ねた。公民館では丁度自治会の老人達が話し合いをした後のようで、何人か周辺地区の住民が残っていた。
「あんた達、何か被害でも会ったのか?」
「いや‥‥今日日物騒なんでね‥‥」
と言いかけた相馬にかわり、すかさず由里が口を開いた。
「実は知り合いの猫が被害を受けまして、警察に届け出る事に視野に入れて調査をしている所なんです」
と、由里はルイの診断書を差し出した。
おお、いつの間に、と相馬が驚く。準備よく由里は診断書を見せながら説明をする。
「幸い怪我は浅かったのですが、放置しておく訳にもいきませんので」
「実際に届けるかどうかは、その子達に会ってから考慮するっすよ」
リュアンがそうフォローすると、自治会の老人達も深く頷いた。
ここ最近、公園近辺で同じような事件が多発しているらしく、住民も不安を感じていたらしい。彼らは中学生が弓を持っている所を目撃しており、何度か注意は促していた。
リュアンが携帯で雪舟に連絡を取ると、向こうも公園に向かっている事が分かった。シヴェルが来島に聞いた所、やはり公園に戻っているのではないかと答えていた。
そして、桂を探すもう一班‥‥。
煉獄でルイと接触する雪舟にシヴェル、そして中学生を捜す相馬とリュアン、由里の三名。彼らと別れて桂本人を捜す方向に回ったのは、アジ・テネブラ(fa0160)と滄海 故汰(fa2423)、橘 遠見(fa2744)である。
彼らは、煉獄事件で以前も顔を合わせて居る。故汰と遠見は親子、アジは遠見の妹といった年頃だ。とはいえ、アジも故汰も案外しっかりしている。
「犯人は現場に戻る、と言うから‥‥桂さんも戻ってきているかもしれない」
‥‥というのは刑事ドラマの見すぎ? アジが少し首をかしげる。
遠見はにっこり笑って、アジに答える。
「いえ、そんな事はありませんよ。どうやら、シヴェルさんの聞き込み通り桂さんは近くのネットカフェに居たようですから‥‥もしかすると、公園に張り込んでいるのかもしれませんね」
自宅に居ないのであれば、桂はどこかに宿泊しているはずだ。遠見はそう読んで、ビジネスホテルを聞き込みして回っていた。その最中にシヴェルから来島の話を聞き、ネットカフェに行ったら当たりが出た。
「みなさん公園に向かっているようですし、私たちも公園に行ってみましょう。桂さんが居るかもしれません‥‥アジさんは桂さんの容姿について、聞いてくださったんですよね」
こくりとアジが頷く。
「顔が分からなければ、探しようがないもの」
「それじゃあ、桂兄ちゃんを探しに行くの! ‥‥こたと遠見兄ちゃんとアジ姉ちゃんで、仕返しを止めるの」
とてて、と故汰が駆け出した。
[桂と悪ガキ]
月が煌々と照りつける。
どこかから、騒がしい声が聞こえてきた。足音を消し、それに近づく気配がひとつ‥‥。
さくさくと歩くその足音は、何かに気づいてびくりと体を硬直させた。
「あの‥‥桂さんですね?」
凛とした女性の声に、影がふり返る。さわ、と風に銀色の風が揺れ、アジは髪をかき上げながら影の方に視線を向けた。
やはり間違いない。ふ、と表情を和らげる。
「よかった‥‥間に合ったようですね」
「あんた誰だ」
怪訝そうに、桂が聞き返す。既に半獣化していた。
「瀬戸口さんから頼まれて、あなたを探しに来たんですよ」
遠見がすう、と姿を現して言った。
「‥‥瀬戸口班長に? 俺は‥‥っ」
「分かっています、あなたが大切な猫の為にここに来た事は」
遠見に続き、故汰が桂の前に飛び出した。ばし、と桂の体を叩く故汰。
「桂兄ちゃんは悪い子なの! ルイちゃん、寂しがってるの‥‥桂兄ちゃんが煉獄に入ったら、ルイちゃん寂しいの」
「ひとまず、帰って頂けませんか? 後は私たちが‥‥」
アジの声を遮断し、桂が声をあげた。
「だけどあいつら、ルイを傷つけた。ルイだけじゃない、遊び半分に矢を射るなんて!」
「分かっていますよ、あなたの気持ちは。だから警察に任せましょう、それで十分な制裁です‥‥違いますか?」
やんわりとした口調で、遠見が言った。
怒りに燃える桂の体から、獣の気配が消える。それは桂の意志と反し‥‥。桂が驚いて、自分の体を見る。
「そうか‥‥近くに‥‥!」
「瀬戸口のおば‥‥姉ちゃんに聞いたの。桂兄ちゃんは猫獣人だから、雪舟のおじちゃんが居たら獣化出来ないって」
故汰はそう言うと、後ろをふり返った。
闇の中に立つ男が、手の中に居た白い影を放つ。すう、と影は桂に駈け寄る。桂はそっと腕の中にルイを抱き上げた。
「よかったの、ルイちゃんの大事なもの‥‥戻ってきたの」
ほっと故汰が息をついた。
ふ、と銀色の月を見上げる。今も煉獄に居る‥‥シーちゃんの大切なものって、何だろう。ふとそう思った。
そのころ、由里達公園内のすぐ近くで、弓を持つ少年達を発見していた。
暗がりの中で、猫缶を電灯の下に置く少年の後ろで、弓を持って猫が集まるのを待っている。
「ちょ、悪ふざけの過ぎる餓鬼どもちゃね」
強い口調で、相馬が声をあげた。駆け出す少年の前に、リュアンが立ちふさがる。腕を腰にやって、睨み付けた。
「何でこんな事をするっすか‥‥そんなもので射られて、飼い主や猫がどう思うか、考えてみるっす」
「しらねーよ、そんなの」
ふ、と少年が笑う。リュアンはむっとして、眉を寄せた。しかし怒りを抑え、言葉を続ける。その時の怒りに身を任せても、何の解決にもならないからだ。
「この間、白い猫を傷つけたっすね。飼い主さんに謝るっすよ」
「それとも、これを警察に届けられる方がいいか?」
すう、と由里がデジカメをかざしてみせた。弓を持って猫を狙っているシーンは、しっかり映っているはずだ。ルイの診断書も取ってあり、公民館で聞いた情報も記録してある。
いつでも提出する用意は、してあった。
「お望みなら、これを自治会の人達に渡す事も検討しようか。君たちの学校は、どんな対応をしてくれるかな」
「荒事ンするのは、望みじゃなか。‥‥飼い主に殴られるよりよかろうもん」
由里のデジカメが気になるのか、少年達は大人しくなった。
弓を投げすて、少しだけ頭をさげる。
彼らが反省しているかどうかは、はなはだ疑問だ。リュアンは、どうにも納得がいかないようだが仕方ない。
「これは、自治会に提出しよう。その方が、彼らの為だろうからな」
「それで反省してくれるとええちゃけどね」
「‥‥するかなぁ」
リュアンが首を捻った。
結局桂は、煉獄で一週間の謹慎処分を受けたらしい。
少年達はその後、自治会から抗議を受けて、被害を受けた動物の飼い主に謝罪して回ったという。
「‥‥これは?」
冷たい煉獄の牢獄に届けられた、弁当。
桂が瀬戸口を見上げると、そっと目を閉じて苦笑した。
「‥‥差し入れだ」
雪舟からの手作り弁当。桂より先に、ルイが口をつけた。