蟇目大祭準備委員会アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 立川司郎
芸能 2Lv以上
獣人 3Lv以上
難度 普通
報酬 9.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/18〜03/22

●本文

 蟇目大祭。PLOJECT:八卦がかつて年に一度開催していた、イベントである。八卦で製作する映画をはじめとして、一年間メインで売り出す役者を決定する為に行われていた選抜戦のようなものである。
 力・芸ともに優れた者を選ぶ為、格闘トーナメント等の審査を行っていた。
 八卦内のお遊びみたいなものが発展しただけ、というのは八卦の言葉だった。
 大祭で死者が三名出た‥‥それを切っ掛けに蟇目大祭は封印され続けてきた。
 そして10年。

 ‥‥何故今更。
 誰かが問うた。起立したまま、その言葉を受けて視線を巡らせる‥‥緋門あすか。
「あれから十年経ちます。八号事件から続く、鳳凰映像からのお咎めは、既に償っております。この件に関して、既に鳳凰と御領社長にも許可を得ました」
 八卦の社長である御領に、幹部会の視線が集中する。
「それに伴い、もう一つ」
 彼女の一言で、幹部会はざわめいた。

 暗い地下の廊下を、一人の女が歩く。巫女服を着て、左右の胸元から緩やかに結った三つ編みが揺れる。
 廊下の真ん中まで来ると、あすかはぴたりと足を止めた。
「お元気ですか、シシリー‥‥そして来島さん」
「お元気ですよ、と」
「ぼちぼち」
 シシリーと来島が答える。
 あすかは、まずシシリーの牢を、続けて来島の牢の扉を開ける。
 それから二人の牢の真ん中に立った。
「今夏、蟇目大祭を復活させる事になりました」
「蟇目大祭にゃ、前回優勝者が必要だろう。どうするんだ」
 来島が聞く。前回決勝時点の生き残りはシシリーしか居ない。
「まず、開催地である御伽峠とお社の掃除をしなくてはなりませんね。十年誰も立ち入っていませんから、参道の雑草を取って、お社や舞台を掃除しなきゃなりません」
「おい」
 シシリーが声を掛けると、あすかがシシリーの牢に入って、前に立った。彼の視線が真っ直ぐ向けられる。
「‥‥ランズ・シシリー、及び来島兵庫。双方、釈放です。シシリーは私の麾下に、来島さんは暗部隠密隊総隊長に復帰です」
「なにをさせる気だ? 俺を釈放して、言う事をきくとでも?」
 何の冗談だ、と聞きたい気持ちよりも‥‥何をさせるつもりなのか。シシリーの質問に、あすかはぼうっとした表情で答える。
「‥‥あなたはもう、ただ単に人を嬲り殺す事には飽いています。飽きるまで好きなように殺した。だから捕まってもいいと思ったのでしょう、老若男女、殺し、犯し、奪い、嬲る。あなたはもうそれに飽きている」
「それには違いないね」
 向こうの方で来島が言う。
 静かな表情。あすかは、口を開いた。
「‥‥ゴミ掃除をします、シシリー。来島さん。これは、‥‥の意志」
「そうか、お前はアイツの犬だったか。ことを公にしたくない訳だな」
 来島は目閉じて薄く笑う。
 シシリーは、楽しそうに口の端を歪めた。
「いいだろう、お前のゴミ掃除に付き合ってやるよ」
 毒を制するには毒。廊下の向こうにあすかが目を向ける。
「今頃は、早咲き桜が綺麗でしょう。お社の掃除が終わったら、白酒で一杯‥‥というも良いですね」

設定
仕事:基本的には、御伽峠からお社に続く参道整備や、お社の掃除。一日で終わらないと思うので、通う際の車や掃除用具等は支給します。
上の話:煉獄内の会話は、あすかの「‥‥の意志」という言葉の内容意外は、どうかすれば知る事が出来ます(煉獄はカメラがあるので)。あくまでも、見せてもらう事が出来れば、です。煉獄に黙って潜入するのも、カメラを黙って見るのも無理です。そこまでしなくとも、あすかに事情を聞けば、話せる範囲で答えてくれます。
同行者:シシリー。来島は任務に復帰したので来ません。シシリーは、何か用があって来るようです。
注意:色々と知りたい事があるかもしれませんが、掃除がメインですので掃除だけはちゃんとしてください。

●今回の参加者

 fa0629 トシハキク(18歳・♂・熊)
 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa1101 相馬啓史(18歳・♂・虎)
 fa1102 小田切レオン(20歳・♂・狼)
 fa1291 御神村小夜(17歳・♀・一角獣)
 fa1423 時雨・奏(20歳・♂・竜)
 fa2423 滄海 故汰(7歳・♂・狼)
 fa2584 遠坂 唯澄(18歳・♀・竜)

●リプレイ本文

 からり。緋門家の扉を開くと同時に、家中に響く声があがった。
「あすかちゃーん、本物の京土産の扇子やでー! 正真正め‥‥」
 京都で美人女将に選んでもらった扇子を振りつつ、時雨・奏(fa1423)は上がり込んだ。
 はた。
 玄関先で時雨と目を合わせたのは、獣のような視線の男だった。
 赤い髪と銀色の髪、対照的な容姿が二つ顔をつきあわせる。
「こいつは失礼、人殺しの間男と顔を合わせるたあ、お前も運がなかったね」
「明日まで時間がないというのに、余裕ですねシシリー」
 仁王立ちで、あすかが背中に声を掛ける。振り向く事なく、ふとシシリーは手を挙げて時雨の横を通り抜けた。
「あすかちゃん‥‥せっかく亜矢ちゃんに刀の事聞いてきたわしに、つれない仕打ちやな‥‥」
 うう、と声をあげて視線をそらす時雨。
 ひょいと、玄関口から相馬啓史(fa1101)が覗く。相馬はあすかと視線をあわせると、時雨の襟首を掴んだ。
「にーさん、トラックの運転は俺と時雨さんだけなん、急いでや」
「‥‥はっ、まさかそれはあすかちゃんの死亡フラグ‥‥明日になったらシシリーがあすかちゃんを‥‥」
 ずるずる引きずられていく、時雨。
「‥‥そうだったりして」
 にやり。あすかが笑った。

 社は、車道から山道を登っていったずっと先にあった。
 2台に分かれてトラックで上がってきた相馬と時雨は、一端参道の端に停車した。
「お二人が運転をしてくださって、たすかりました。私、ペーパードライバーなものですから」
 と、ほっと息をつく、御神村小夜(fa1291)。小夜の言いようからすると、運転は全く期待が出来そうにない。相馬と時雨もそれほど運転が上手い訳ではないが、小夜よりはマシかと思われる。
 小夜は以前、傀儡の森のオフ会でここを訪れている。参道の脇に、細い道が鳥居へと続いていた。
「ですけど‥‥その時は、鳥居しかありませんでしたが?」
 小夜があすかに聞くと、小夜に続いてあすかも山を見上げた。
「はい。鳥居から先に道があるんですけど、もう大分人の手が入ってないものですから‥‥本来鳥居の側にも社があったのですが、かなり昔に無くなってしまったんですねえ」
 ちら、とあすかが隣を見る。シシリーはふ、と鼻で笑って歩き始めた。彼は、何が入っているものか鞄を持っている。
 シシリーの動向は、各自気になるようだった。何のためにあすかが彼を連れてきたのか、何も話す様子はない。
「それじゃ、行きますか」
 相変わらずの巫女服のまま、あすかが歩き出した。

 参道から鳥居への道は、道が微かに残っている分だけまだ歩きやすい。一端鳥居まで上がりきると、あすかは皆をふり返った。
「ここから先は、険しい道ですから‥‥よく覚えて置いてくださいね」
「俺達は、そのお社からここまでの道をならして行こう。上で作業する人も、行き来に困るもんな」
 トシハキク(fa0629)‥‥ジスは、さっそく張り切って作業にかかった。道具は相馬がトラックに積んできている。参道整備はジスと相馬、小田切レオン(fa1102)。それから遠坂 唯澄(fa2584)の四名。お社は夏姫・シュトラウス(fa0761)と小夜、時雨が担当する。滄海 故汰(fa2423)はちょこちょこと、シシリーに付いて上がった。
「こういう地味な会場設営こそ、若手の下積みにもってこいなんだぞ」
 相馬とレオンに、ジスがそう声を掛ける。特に普段、華やかな脚光を浴びる事の多いレオンには‥‥。
「よっしゃ、奴の事が気になるんも、分からんでもなかちゃけど‥‥何はともあれ掃除が先ちゃろ!」
「地味なだけが取り柄の男が、ほざいてろ啓史!」
 双方、気合いを入れている。ジスはやれやれ、とため息まじりに首をふった。トラックから荷物を下ろしつつ、遠坂がぽつりと呟く。
「気合いを入れすぎて、バテなきゃいいがな」
 勢いづいている二人と違い、遠坂は参道に捨ててあるゴミなどを拾って分別していた。草むしりは彼らに任せておいてもよさそうだが、この調子だと道を綺麗に掃除するまで、気が周りそうもない。
「お前達、草むしりだけじゃなくて道もちゃんとならして歩けよ?」
「聞いてないな」
 ふう、と息をつき、遠坂が社の方を見る。
「それにしても‥‥小田切や夏姫。故汰まで、奴ら何をピリピリしてるんだ?」
 張りつめた空気を、遠坂も感じ取っていた。彼らの視線は皆、シシリーと呼ばれる銀髪の男に向けられている。
 ジスはさあ、と首をかしげた。
「俺も会場設営としか聞いてないから、よく知らないんだけど‥‥あのシシリーってのが原因の一つらしいな。煉獄に収容されていた殺人犯だとか」
「煉獄か‥‥噂には聞くが」
 事情を知らない分、ジスは気楽に構えて居る。むろん掃除を楽に考えている訳ではないが、会場整備以外の部分はあまり関係ない事だから。
 ジスがちらりと聞いた所によると、十年前この蟇目大祭で死者が出ているという。
 その大祭にシシリーも参加していたらしい。
「だが、故汰はシシリーを警戒していない。レオンや時雨と、どう認識が違うんだろうね」
「‥‥休憩した時にでも、聞いてみるか」
 箒を肩に立てかけ、ジスが遠坂を見た。

 今にも消えそうな山道を上がると、開けた所に出た。一面雑草で覆われているが、ここは刈り取られていた場所なのだろう。
 岩肌の斜面をくりぬいて奥に社が続き、赤黒い屋根が舞台を覆っている。長年風雨にさらされたせいか、舞台はすっかり痛んでいた。
「水道も電気もないんですね‥‥夜はどうしているんですか?」
 周囲を歩き回りながら、小夜が聞いた。近くに小川があり、井戸もあるから水は確保されるだろう。しかし電気が無いと、発電機が必要になる。
 そう、と時雨は舞台の奥をのぞき込む。あすかは彼の背中に、甲高い声をあげた。
「奥は入っては駄目です。‥‥扉が見えるでしょう?」
「何なん?」
 奥に向かって廊下が延び、突き当たりに両開きの扉が見えた。固く閉ざされた扉は、全てを拒むかのように鎮座する‥‥。
「開けてはいけません‥‥と最初に言っておきますからね」
 あすかをきょとん、と見つめる時雨。無言で小夜がふり返り、夏姫と目を合わせた。掃除の為に完全獣化していた夏姫が、その勇ましい体躯に似合わず、控えめな仕草で小夜を見返している。
「‥‥じゃあ、まずこの辺りの雑草を抜いて綺麗にしましょうか」
 小夜は、シシリーの後ろをついて歩いていた故汰にも、声をかけた。物珍しそうに、故汰は舞台の上を歩いている。
「駄目よ、お手伝いしなきゃ」
「大丈夫なの、故汰もお手伝いするの。しーちゃんもお手伝い」
 と、故汰はシシリーの服を掴んだ。
 俺は手伝いに来たんじゃねえ、とシシリーが答える。モップを手にして、時雨がため息をついて眉を寄せた。
「何の為に来たんや、掃除せんと‥‥」
「用事だ」
 きっぱり。今は答える気無しのようだ。
「じゃー、故汰。わしとモップ掛け競争しよか?」
「みんなで競争なのー!」
「よっしゃ、負けへんで」
 二人の様子に首をかしげ、小夜は眉を寄せる。
 男の子って、どうして掃除となると競争したがるのでしょう?
 小夜の問いに、夏姫も考え込む。あすかはくす、と笑った。
「‥‥掃除=競争。それは男の遺伝子に組み込まれた、指令なのです。掃除‥‥ならば競争しろと!」
 そうでしょうか。夏姫が小さな声で突っ込んだ。

 一日目。参道組は街道の草抜きを、社の方も草抜きや舞台の掃除をした。羽を使って時雨は、舞台の屋根からゴミを落としていく。
 あすかに言われ、周囲を見て回っていただけのシシリーも、掃除を手伝いはじめていた。
 いかに凶悪な殺人犯とて、草むしりをする様はただのにーちゃんである。
 総勢十人居れば、参道や社の雑草を取る作業もはかどる。
 そうして四日目。ようやくあらかた片づいた所で、小夜が弁当を出してきた。小夜が確認した所、この山は麓まで降りなければ民家もほとんど無い。
 時雨とともに、打ち上げの為の食事を調達して来たのである。
「このあたり、山の下まで降りなきゃお店も無いようだから」
 時雨とともに弁当を運ぶと、小夜は皆を集めた。
 ぱく、とおにぎりに口をつけ、夏姫が静かにあすかを見つめる。シシリーは舞台の方をじっと見つめている。故汰が呼んだが、来る気配はない。
 なんだかな、この空気は‥‥。遠坂が、時雨やレオンの様子を見ながら言う。夏姫は思いきって、口を開いた。
「あの‥‥聞いていいですか?」
「何でしょう?」
「十年前の蟇目大祭で亡くなった方‥‥三津屋香奈と木崎昴の二名は分かりましたけど、もう一人ってどなたなんですか?」
 蟇目大祭で死んだとされるのは、木崎昴という青年と、三津屋香奈。ミサキの管理人とされたのは、当初木崎昴と名乗る青年と思われていた。
 しかし、木崎昴というのは偽名であり、本当の名前は三津屋臣である‥‥とミサキの報告書にあった。
「三津屋香奈というのは、臣の妹です。昴、香奈、シシリーの三名が、当時の決勝進出者でした。‥‥最後の一人は、その前年度の優勝者。加賀芳晴という男です。まあ、要するに、生き残っていたのは警備していた暗部隠密隊の数人を含めた一部でした。もっとも、私はその頃八卦に居なかったので、伝え聞きですけども」
「どうしてその後、臣さんは居なくなったんですか?」
 小夜が続けてあすかに聞く。
「さあ、どうしてでしょう‥‥私には分かりませんね。妹と親友が死亡した事が関連してる、と思いますが」
「じゃあ、何で今頃んなって、蟇目大祭が復活する事んなったん?」
 すう、とあすかが相馬を見返す。にぃっとあすかが笑う。それを見たレオンが、嫌な顔をした。
「餌か? ‥‥何かをおびき寄せようってのか」
 冗談じゃない、とレオンが視線を背ける。
「心配しなくとも、今度の大祭で人死には出ないと思いますよ。多分、十年前でもう犯人達の用事は済んでるでしょうから」
 すっくとあすかは立ち上がると、腰に手をやった。
「さて、お話は終わりです。そろそろ作業に戻りますか。‥‥その前に、シシリー。用意はいいですか?」
 シシリーが、いつの間にか居なくなっていた。
 と、舞台奥の廊下から現れる。
 ちょっと彼らが目を離している隙に、シシリーは着替えて居た。蒼い袴と白い小袖姿。手には舞扇がある。
 髪は撫でつけて、身綺麗にしていた。
 何かをするとは思っていたが、このようなこぎれいな格好で現れるとは誰も思わなかった。呆然とする一同をすり抜けて、シシリーが舞台に立つ。
 いつの間にか、舞台の向こうに立浪がやってきていた。立浪の背後には、誰かが立っている。しかし誰かは、この位置からでは見えない。
「しーちゃん、何するの」
 故汰が声をかける。
「蟇目大祭の決勝てのはなぁ、昔からの決まり事で‥‥舞う事になってんだ。前回決勝者の舞を見て、演じる‥‥まあ、10年前の時ゃ決勝が途中でオシマイになったからな、今やろうって訳さ」
 その場で舞を見て行った演技の正確さ、美しさ、技術、それら全てを兼ね添えた者が勝者となる‥‥。そのイベントは八卦が旅芸人一座だった頃の、名残である。
「別に、同じ舞でなくとも‥‥演技でも出し物でもいいんだがね、あの舞から受けたイメージを表現出来りゃあ」
 尤も、今一度きりで俺の舞いを覚える事が出来るなら、本番でいい点がとれるかもしれんな。次も同じものを舞るぜ。
 シシリーはそう言うと、扇子を開いて歩を進めた。
 はらり、と桜が散る。花びらは扇子の風に吹かれ、ひらりひらりと揺られて落ちた。
「‥‥10年前一回見ただけの舞を、こうまで正確に踊るとはねえ‥‥あいつの頭ん中ってのは、どういう出来なんだか」
 立浪がふ、と苦笑した。
“よっしゃ、花見て一杯、月見て一杯!”
 既に酒を飲み始めている相馬が、杯を掲げた。
「いい加減にしておけよ、未成年も居るんだからな。そもそも相馬は、夜まで居座る気か」
 杯に手をやって、遠坂が制止する。
「まあまあ、遠坂さんも一杯どうですか」
「あすか、あなたは未成年に‥‥」
「甘酒ですよ」
 ジスが遠坂に言うと、遠坂はあすかの差し出す杯をしぶしぶ受け取った。
「しかし残念ですねえ、せっかくなら女性みなさん、巫女服で掃除というのも良かったんですが」
「巫女服だったら、お断りだ」
 きっぱりと遠坂が言い切った。

 シシリーの舞が終わる頃。いつの間にか、立浪の背後に居た影が消えていた。