アイドルフェスティバルアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
立川司郎
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
03/21〜03/25
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●本文
室内から、おーっという歓声が響くと、廊下を歩いていたADはちらりと目をやった。扉には“NAMIDA”と書かれた紙が貼られている。
気の弱そうな青年は、肩を丸めるようにして二人の様子をうかがっていた。
右側に座った少女は、なつかしそうにパンフレットを見ている。純白の髪は、流れるように腰まで落ちる。顔立ちは整っており大人しそうだが、見えそうな位に短いスカートから伸びた足は、乱暴に組まれている。
かたや左側に腰掛けているのは、きりりとした目つきの少女‥‥いや、少年か?
体つきはほっそりとしており、膝までの赤いタイツの上からランダムカットのスカートをはいている。その顔立ちも中性的で、女性の姿が似合っていて違和感がない。膝をそろえて椅子に腰掛ける様は、目の前の少女より女性らしい。
ハイパープロジェクトで数少ない、少年、である蒼(あおい)である。蒼と桜は双子の姉弟。14才でデビューして以来、二人で頑張ってきた。
「そういえば2年前だなぁ、二人でアイドルフェスティバルに出たのは」
「そうだね」
蒼がこくりとうなずく。なつかしそうに桜が、当時のパンフレットをテーブルに投げた。ぱさり、とテーブルにパンフレットが落ちる。
「そんなあたし達が、進行役か‥‥今年はどんな子が出るんだろうね。‥‥ね、何か聞いてない?」
桜がマネージャーを振り返る。ぷるぷるとマネージャーは首を横に振った。
「なんだぁ、そういう事こそ先に情報仕入れてなきゃさぁ」
「今から募集するんじゃないかな。‥‥それより桜、足見えてるよ」
正面に座っている蒼は、眉を寄せてそう言う。
桜は平気そうにからからと笑った。
<アイドルフェスティバル・参加者募集>
参加資格:グループ、ソロ問わず。新人アイドルのみ。
進行役:NAMIDA
場所:野外ライブ会場
注意事項:基本的に参加者のみの募集となります。グループを組んでいるけども参加者が1人だった場合、グループとしての説明は入れますけど他のメンバーの描写は一切ありません。
記入事項:グループ名(芸名)、曲名(当日用)、プロフィール。衣装等。
注意事項2:なお、参加頂いた場合、職業欄が「アイドル」または「新人アイドル」に変更される場合があります。
●リプレイ本文
[小さな海賊王]
スポットライトが花開くと、会場から声が挙がった。
一人は赤と白のコントラストのドレス。もう一人の少年は、青と白のドレスを。
元気良く舞台に飛び出した桜の後ろを、小走りで少年が付いてゆく。
その様子は中性的、まるで女性のように柔らかで優雅だ。
「お待たせー! そんじゃ、いっちょ始めっか!」
桜が声をあげると、蒼は桜に続いて口を開いた。
「この度、アイドルフェスの進行役となった“NAMIDA”です。大役ですが、どうぞよろしく‥‥」
「いいじゃんいいじゃん、そういう面倒な挨拶はさぁ。今日のメインはあたし達じゃないんだから。‥‥早く始めてほしいよなっ?」
相変わらずの桜の強引さに、蒼は黙る。
桜に同意を求められ、会場から歓声があがった。
「さて、トップバッターは誰かなぁ?」
喋ろうとした蒼の口を押さえ、桜が手招きする。
バックダンサーとともに現れたのは、白い海賊服を身につけた麻倉 千尋(fa1406)だった。
インラインスケートを履き、腰に下げた青龍刀のような剣を軽く振って会場の中央に飛び込む。
桜と蒼が一端舞台から引くと、テンポのいい音楽が流れた。
シャンパンのボトル叩き割れば
祝福の女神は僕らに宿る
いざ進み出せ マストに帆を広げて
風はそう 未来へ向かっているのだ
舵取りが苦手なら
時には人に任せようか
全て自分だけで出来るつもりでも
振り返ればほら 皆が手を差し伸べてるよ
歌いながら舞台狭しと駆け回るちひろは、声はまだまだ研ぎ澄まされていないが、リズム感がよくダンスも上手い。
体力無いようだが、軽めにあつらえてもらった剣を振りながら、一曲歌い終わるまで踊り続けた。
さすがに多少息が切れた様子のちひろを、桜と蒼が出迎える。
「浅倉ちひろさんで、『figure−head』でした」
「お疲れっ。さすがトップバッターを希望しただけあるね、ノリがよくていいじゃないか」
桜が軽く肩を叩くと、ちひろが笑った。
「ライブは久しぶりだし、すごいお客さんだからびっくりしたけど‥‥がんばりました!」
「うん。みんな、これからもちひろちゃんをヨロシクね」
頑張って、と会場のあちこちから声が上がった。
[王子様と騎士]
浅倉に続いて舞台に上がったのは、二人の少年、大海 結(fa0074)ことユイとケイ、氷咲 華唯(fa0142)であった。
ユイは白い、レースのついた衣装。白いふわふわの髪の奥の蒼く澄んだ目で、会場を見回す。一方ケイの方は黒いゴシック調の衣装で、腰にナイフをベルトで下げている。ユイとは対照的に、漆黒の髪と赤い目。
「こんにちはー! ぷらちな☆キャンディのユイです」
「ケイです」
明るい声で、ユイが会場に向けて挨拶する。ケイは静かな口調で、短く挨拶をする。それを見た桜が、へぇ〜、と呟いて笑った。
「なるほど、あたし達で言う所の明るい担当がユイで、突っ込みと見せかけてボケてるの担当がケイ、と」
「ボケてないし突っ込んでもない」
ケイがすかさずそう言い返す。
蒼が、冷静に言葉を続ける。
「デビュー曲“ソラ翔る想イ”からお二人はついに、1stアルバム『DROPS』をリリースされたそうですね。作曲もご自分達でされたとか?」
「はい。俺は音楽ももちろん興味がありますけど、もっといろんな事もやっていきたいと思っていますので、アルバムもその為のスキルアップの一環だと考えています」
ケイちゃん、ガンバレー! そんな声が会場から上がる。
だがしかし、ユイと桜は満足していなかった。
「どうしたのケイちゃん、なんか地味〜な感じになっちゃったよ。せっかくだから、ぱーっと楽しもうよ」
ちょっ、これじゃ、真面目な音楽番組じゃん! と桜が叫ぶ。
「さあ、それじゃあ歌ってもらおうかな。ぷらちな☆キャンディで“Eccentric Party”でーす!」
トップバッターにあそこまでされたら、頑張るしかないよね!
と小声でユイがケイに言う。
アップテンポの曲が流れ、ヘッドセットマイクを付けたユイは軽快に動きだした。
ユイは元気よく舞台全体を使うようにして、派手に見せる。
一方ケイは音感こそ自信があるが、ユイほどダンスに自信は無い。音楽とユイの動きに合わせながら、出来るだけ動き少な目に踊り、ユイとのコントラストをつける。
衣装と声と、お互いはっきり違うからこそ、ケイにはユイの真似は出来ない。
しかしユイの動きにケイも引き込まれるようにして、結局最後には乗せられて駆け回る羽目になったのだった。
[蒼と葵]
初めまして!
と明るく手を挙げたのは、森村・葵(fa0280)だ。
「蒼と葵か〜」
「はい、アオイはアオイでも、三つ葉葵のあおい、です」
えっと‥‥みつばあおいって、何だっけ。桜や会場から、そんな声が‥‥。
「がーん、三つ葉葵が分からないと‥‥!」
ショックの葵。掴みは一体、どこへやら。
「まあまあ元気出せ、名前はちゃーんと覚えたぞ」
「それで、今日の衣装は、どういうコンセプトですか?」
突然話を戻そうとした蒼を、桜と葵がふり返る。
「今日歌う歌に合わせてみました。‥‥衣装代もバカにならないのです‥‥」
森村は、黒いネコミミ、ネコグローブを付けていた。服装はフリルのついたゴシック風のドレス。ちなみにあおいは、猫獣人ではない。
「‥‥アイドルって辛いな」
ぽむぽむ、と肩を叩き、ほろりと涙が。
「ちょっと桜、アイドルは辛くないです」
「そうですよ、これから一流芸能人の世界へ、まっしぐらです! もうそこの植え込みから、一流の世界が‥‥」
きらきらーん。
会場がどっと沸く。
森村葵『黒猫クロちゃんの冒険』
くっろーねこ くっろーちゃん
海でも山でも森でも町でもいつでもお昼寝
寝てばかりじゃ 始まらなーい
さあ 冒険の旅に出発だ
子供向けの明るい、分かりやすい歌だが、格好とも相まって、会場一同はノリよく葵に声を送ったのだった。
[Vent de ressort]
葵から一転。
落ち着いた曲調の音楽が流れ始めた。若葉色の薄いコートをはおり、白いワイシャツとブラウンのズボンを履いている。
いつか 僕も君と
この風の中 二人で舞いたい
En brise douce 優しく揺れ動く瞳
En brise douce 高く舞い上がる心
どこまでも どこまでも
君と二人 風に乗り 青空へ‥‥
ゆったりとした動きで、しっとりと歌っていく。
最後に静かに頭を下げた。
「上村 望(fa0474)さんで、『En brise douce』。どうもありがとうござました」
蒼と桜に迎えられる。
望は少し日本人離れした、彫りの深い顔立ちをしている。桜がそれについて聞くと、望はちょっと笑って答えた。
「母が、日仏のハーフなんです」
容姿も大人っぽいが、望は歌も落ち着いた曲。蒼が、ちょっと望の方を見て口を開いた。
「でも望さん、これまでちょっとスローテンポの落ち着いた曲を歌っていらっしゃいましたよね」
「ええ、今回の曲も穏やかな曲です。他の方達が元気がいいので、緊張しました」
これまで登場した三組とも、若いターゲット層の曲ばかり。
「でも、沢山の人に聞いてもらいたいと思って、ここに来させていただきました」
望が再度、一礼すると大きな拍手と歓声があがった。
[小悪魔の休日]
いつもは黒い小悪魔的な衣装を好む西園寺 紫(fa2102)も、今日はイメージを払拭するように薄いピンクのワンピース姿で現れた。
衣装の襟元にはファーが付いており、白い肩を出して右肩には桜のマークのペイントを付けている。
声にはちょっと自信はあるが、紫は踊りもそれほど上手い訳ではない。
だが、よく半獣化して小悪魔の衣装で人前に出る紫、それだけのイメージが付いたまま人気が出るのは望ましくない。
紫は自分を落ち着かせて、ステージに立った。たくさんの人の視線‥‥。
「今日は、春をイメージして衣装を選んでみました。‥‥どうかな?」
と紫は会場をちらりと見る。会場からは、口々にカワイイ! という返事が返った。
とまどうように、少し赤らむ紫。
「皆の為にオリジナル曲を用意して歌うから、応援宜しくね!」
明るい口調で会場に向けて言うと、紫にスポットが当たった。
「寂しがり屋の眠り姫」
夕暮れの通学路。 二つの長い影。
二人で手を繋ぎ 歩く親友と彼。
夕日が頬を 赤く染めて
見詰め合う二人と 後で寂しく歩くわたし。
“べ、別に羨ましくないんだからね!
わ、わたしだって彼氏ぐらい!
と心で叫んでみる”
曲の合間のセリフ‥‥
いつもと違う、小悪魔の休日の紫。
[雀は一生懸命!]
今回の参加メンバーの中では、畑下 雀(fa0585)は唯一半獣化して舞台に上がっていた。
小鳥の獣人である雀は、背中の羽をどうしても隠す事が出来ない。
茶色い羽を魅せる衣装は白いワンピース、スカートの裾はふわりと広がり、膝上で短めだ。むろん素足で、白い肌が際だって見える。
「ねえさん、触っても良い‥‥?」
なんか嬉しそうな桜は、はち切れそうな雀の胸に目を奪われていた。やれやれと首を振る、蒼。
「セクハラだから、桜‥‥」
雀は真っ赤な顔で、俯いてしまった。
「あの‥‥こ、これは母が用意してくれたもので‥‥私の意図では‥‥」
「緊張しなくても大丈夫ですよ、桜の言う事は気にしないで」
微笑を浮かべて、蒼が言う。こくりと雀は頷いた。
「今回歌わせて頂くのは‥‥ソロデビュー曲の『告白』という曲です。2月にCDデビューしたばかりなので‥‥あの、よろしくお願いします」
雀の歌声が流れる。
半獣化しなくても雀の歌はそこそこ上手いのだが、集中力が高まっている雀の歌声はなお美しく響き渡る。
初めて出逢った桜の季節から
ずっとあなただけを見つめてた
いつもいつも あなただけを追い続けてた
お願い 胸に秘めたこの想いを受け取ってください……
雀の歌声に、会場がひときわ大きく歓声が挙がった。
[臨時結成隊、始動します]
雀の歌声を舞台の幕で聞いていた、最終組。“BLOSSOM”の愛瀬りな(fa0244)、富士川・千春(fa0847)、悠奈(fa2726)の3名である。
本来、りなはPureSora、千春は元々ソロ歌手として、悠奈もBLUE−Mというグループに所属している。
しかし今回それぞれのグループでの参加都合がつかなかった為、急遽三人で臨時のグループを組む事にしたのである。
「ええ、あんな凄いのの後に歌うの?」
緊張して雀の歌を聴くりなの横で、悠奈は何やら、かぼちゃかぼちゃ、と妙な言葉を呟いている。
「大丈夫よ、だって一人じゃないもの!」
千春が叫ぶ。そして彼女たちにスポットが当たった。
舞台に上がった三人は、それぞれ白いうちかけを羽織っていた。
勢いよく、舞台に飛び出す。メインは千春、そして両端にりなと悠奈が立つ。
三人の声が、しっとりとした出だしで流れ始める。
−薄紅色の 粉雪が 花道を か・ざ・る!−
曲調がかわり、三人がうちかけを脱ぎ捨てる。
流れは、アップテンポな曲調にかわった。
黒い日本女性らしい髪と可愛らしい顔立ちの千春は、淡いピンク色をしたロングの、レースキャミワンピ。肩のストラップには、リボンが付き、下はデニム。ブーツは白を基調とした、春色のものだ。
マイクの周囲は、小さな花束の飾りで覆われていて、髪には桜のコサージュが付いている。
大人っぽい色気が漂うりなは、桜のコサージュで髪を飾り、桜色のミニワンピ。ブーツは濃いピンク色のもので、ワンピースの肩はチューブトップ。首に白いリボンを付けていた。
そしてショートカットの悠奈は、裾が花弁のように分かれた、濃い桜色のチュニック丈ブラウス。襟と袖口と裾には、フリルがあしらっており、ショートジャケットを羽織っている。
足下はオフホワイトのカプリパンツと、ピンクのレースアップパンプス。
やはり、髪には桜の花のコサージュが付けられていた。
−さぁ行こう!(Now I will go!) 新しい世界に
さぁ飛ぼう!(Now I will fly!!) 私たちなら大丈夫!
メインボーカルの千春の声を支えるように、悠奈とりなの声が追う。
“夢と” りなのつややかな声が、
“希望と” 悠奈の凛とした声で、
“笑顔で” そして最後に響き渡る千春の声。
三人の手は、会場にまっすぐ差し出される。
−all right
花吹雪の中 駆け出そう!−
元気よく三人が空中にジャンプすると、盛り上がった会場の人達も立ってジャンプしてくれているのが、三人に見えた。
千春が投げた、マイクの花束。ゆっくりと空中で弧を描くと、会場の一人の手がしっかりと掴んだ。
「BLOSSOMの、『春色チーク』でした」
「今日はみんな、ありがとね!」
桜の声も蒼の声も、もう会場の歓声に包まれて聞こえない。
そして今年も、アイドルフェスティバルが幕を閉じた。