傀儡の森〜立浪の依頼アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 立川司郎
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 1人
期間 03/28〜04/01

●本文

 先月の怪談オフから1ヶ月。
 オカルトサイト・傀儡の森の常連であるまぁやの元に、一通のメールが届いた。それは、PLOJECT:八卦の脚本家である立浪からのものであった。
 メールアドレスを聞いておいたまぁやがオフの後、『迷惑をおかけしました』と送った所、次のような返事が返ってきた。

『とても元気がよくて、オカルトに関する知識も豊富であるようだから、ぜひ何かの形で協力して頂ければと思う』

 立浪は現在、『爪痕』というホラー映画を制作中である。その映画のHP上で公開する、ショートストーリーを作ってみないか?
 そう持ちかけたのだ。むろん、まぁやに映画制作の知識は無い。

まぁや:どどど‥‥どうしましょう(オロオロ)。HPで公開って、どんなの作ればいいのやら‥‥皆さん協力してください。ヘルプ!
管理人フルヤ:落ち着いて、まぁやさん。最近来てくださる方の中にも、何人か放送業界の方がいたようですし、呼んでみてはいかが? ともかく詳しい話をしてくれないかしら。

 管理人のフルヤに言われ、まぁやはようやく落ち着いて詳細を語り始めた。
 立浪に頼まれたのはHP上で公開する、30分ほどのショートストーリーだ。他にも幾つか別の大学サークルなどに頼んであり、10分ごと週1回、全3回で公開予定だという。
 条件は、映画『爪痕』に関わる内容である事。詳細なストーリーはまだ未公開映画の為語れないが、或る程度こちら側に渡された資料がある。それを使った、サイドストーリーという訳だ。

−鬼の爪痕と呼ばれる、深い傷を持つ岩がある村。刻まれた三つの彫りはまさに鬼の爪痕のようであり、月夜の晩は咆哮が山に木霊するという‥‥。鬼について調査する研究家の青年は、鬼の爪痕を調査すべく村にやってきた−

 HP上に公開されているストーリーは、このようなものだ。
 立浪からの資料には、爪痕についてこのように書かれていた。
『まず、映画上で鬼というものの描写はありません。鬼そのものが出てくる事はないので、サイドストーリーでもそのように扱ってください。
爪痕の岩は、村人が後生大事にしています。岩をむやみに調べる事は嫌っており、近づくと追い立てられるでしょう。
未公開部分:映画本編にかかわるのであまり公開出来ませんが‥‥爪痕の岩は、江戸時代から村にかかわる古い“罪”の象徴です。村人はそのため、岩に近づかれるのを恐れています』

まぁや:爪痕本編の謎は解明しちゃ駄目だろうけど、爪痕の岩にかかわるお話がしたいな。舞台は大正時代とか‥‥爪痕の岩を守ろうとする青年のラブロマンス、なんてどうかな。意見求む! ‥‥あ、ホラー映画だった(汗)

設定
サイドストーリー:映画“爪痕”のサイドストーリーを作成してください。10分×3回の30分です。公式HP上で公開されるものです。
爪痕:おおむね、上の通りです。疑問があれば、立浪に聞いてください。ただし爪痕の岩に関わる謎は‥‥映画を見てね、という事で。
撮影に関して:HP上で公開するに耐える画像である事。態と古い映画調の画像にするのもかまいませんが、出来るだけ見やすくしてください。また、機材は各自で用意してください。
まぁや:あまり演技は上手くないです。

●今回の参加者

 fa0371 小桧山・秋怜(17歳・♀・小鳥)
 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa0868 槇島色(17歳・♀・猫)
 fa0911 鷹見 仁(17歳・♂・鷹)
 fa1276 玖條 響(18歳・♂・竜)
 fa2021 巻 長治(30歳・♂・トカゲ)
 fa2806 淡紅絆(17歳・♀・狐)
 fa3126 早切 氷(25歳・♂・虎)

●リプレイ本文

【序章】
 『爪痕』撮影スタッフが引き上げて数時間。
 頃合いを見計らった鷹見 仁(fa0911)の連絡を受け、まぁやは現場にやって来た。
 彼女の到着時間を遅らせたのは、立浪が『撮影スタッフが撤収するのを待ってほしい』と言ったからである。そのかわり、立浪を含めた撮影スタッフ達が都心部での撮影に入る一週間、爪痕の撮影に使用している村で撮影してもいいと言ってくれた。
 寒村といえど人は住んでいる。しかし立浪が連絡しておいてくれたのか、村人達は嫌な顔などしない。
「私、何だかなにもわからなくて‥‥何をすればいいでしょう? エキストラくらいなら大丈夫ですっ」
 とまぁやは、ぐっと拳を握った。
 ぽり、と頭を掻いて鷹見に視線をやる早切 氷(fa3126)。役者は全員、撮影の為に黒髪とカラーコンタクトを着用したが、どうやらまぁやは何人か会った事があるメンバーが居るようだ。
「お久しぶりです、鷹見さん、絆さん」
「やあ、久しぶり。‥‥で」
 鷹見はまぁやに、エキストラと撮影補助をやって欲しいと伝えた。まぁやも自信が無かったし、今から台本を読んでアドリブまじりに撮影を強行するとは、ちょっと頼み辛い。
「さて、それじゃあ話を進めようか。大体皆で決めてきたんだけど‥‥まぁやさん、過去を舞台にしたいって言ってたから」
 台本を受け取ると、まぁやは目を輝かせながらそれに目を通した。
「わあ、なんか本格的ですね」
「まぁやさんも、こうして欲しいと思った事は、どんどん言ってね。これがサイドストーリーだからといって、本編の単なる付属物である必要は無いものね」
 小桧山・秋怜(fa0371)は、微笑まじりにまぁやに言った。秋怜はいつも通り銀色の髪のままだが、エキストラが必要となればかつらを使えば何とかなるだろう。
 台本のあらましは、槇島色(fa0868)の原案を元にして玖條 響(fa1276)が作成して来ていた。槇島はグラビアアイドルだが、今回はナレーションを担当するから、主に秋怜とともにスタジオに籠もっている事が多くなるだろう。
「衣装は弟に頼んでおきました。スケジュールが取れないものですから、あいつも作る時間がなくて‥‥今あるものの中から探して持ってきただけなんですが」
 衣装係が居ない今回、撮影を担当する巻 長治(fa2021)の弟スモーキー巻(fa3211)が衣装を用意してくれた。
 時間に限りがある為、初日に話し合った結果を長治が伝えて、それを元にして選んでもらったものである。
「それと、撮影はカットをあまりせずに‥‥時間がありませんし、どんどん撮って、いいものを後から編集して使いましょうか?」
「そうだね。台本も未完成である事だし、一話からピッチを上げて撮っていこう。‥‥で、最初は明るめに入りたいんだけど」
 鷹見は、槇島と秋怜、そして撮影の長治の4人で話しはじめた。

【一話:鬼の声】
 冒頭。玖條演じる、舘石 亨(たていし とおる)が画面に映る。
 顔立ちの整った、まだ若い青年だ。あぜ道を歩く舘石の視界に、農作業をする人々が映る。彼らの日に焼けた肌と対照的に、肌白い舘石。
 ナレーション、挿入。声は、槇島が担当している。

−昭和33年、山深い農村に、一人の青年教師が赴任する。
 数奇な運命を辿る事も知らずに−

「こんにちは」
 笑みを浮かべ、会釈をする舘石。村人は、怪訝そうな表情でこちらを見ていた。
 車輪の音に反応して、舘石がふり返った。あぜ道を自転車で、後ろから誰かがやってくる。どうやら郵便局員(早切 氷)のようだ。
「やあ、あんたが舘石さんか?」
「はい、しばらくお世話になります」
 深く頭を下げると、男は手を振る。
「いやいや、子供達はあんたが来てくれて助かってんだから、頭なんて下げんでくれ」
 男は、田圃にしゃがみ込んでいる村人達に声をかけ、自転車で去っていく。
 場面が切り替わり、学校の教室に舘石が立っている。
「先生がお休みの間、きみたちを担当する事になった舘石です。短い間だけど、みんなよろしく」
 田舎である為か、生徒数は多くはない。一年から三年まで合わせて二十人足らずといった所だろうか。
 こちらを見て、後ろの少女(湯ノ花 ゆくる(fa0640))と話すウェイブヘアの少女(淡紅絆(fa2806))榛名 蓮が映る。
 フラッシュバックのように、夜の映像と‥‥何かが叫ぶような、音。
 舘石は眠れず布団から起きあがり、障子を開けた。
「咆哮? センセったら、此処は山の中だよ。獣の声の一つや二つあって、当たり前じゃないの。先生、意外と恐がりなんだね」
 くすくすと笑いながら、榛名は笑った。舘石は首をかしげて、苦笑いをする。
 生徒達の誰も、その話を信じようとしない。
 夜闇の月に、雲が陰る。叢をかき分けて歩く舘石は、立ち止まって正面を見据えた。
「何だ、これは‥‥」
 巨大な石の表面には、大きな三ッの傷跡が。
 まるで、獣のような傷。

−偶然見つけてしまった【鬼の爪痕】の岩
 この日を境に彼の平穏な日々は脆くも崩れ去る−

 長治の撮影機材運搬の手伝いに、レフ持ちとか、カット、って言えたのが嬉しかったとかなんとか、まぁやは初日の撮影だけでへとへとになっていた。
「面白そうだなぁと思って引き受けちゃいましたけど、ほんとはとても大変なんですね」
 ようやく椅子に座ると、まぁやはそう言ってため息をついた。
「‥‥えっと、疲れた時は‥‥甘いもの‥‥です」
 ちょん、とゆくるがテーブルに、山盛りメロンパンを置いた。
 みんな、呆然とそれを見つめている。続けて、玖條が紅茶を差し入れた。
「心配しなくとも、メロンパン以外のものも用意してあるそうですから」
「‥‥メロンパン‥‥美味しいですよ」
 でも嫌いな人も居るかもしれない、と念のためにゆくるはサンドイッチも用意していた。
 それじゃあ遠慮無く、とまぁやもメロンパンに手を伸ばした。
「それにしても‥‥巻さんは、これ全部自分で持ってきたんですか? こういう機材って自分持ちなのかな」
「いえ、自分持ちではありませんよ」
 まぁやの質問に、巻が答える。
「私も本業は脚本家ですが、いつか自分で撮ってみたいものがありましてね」
 撮ってみたいという気持ちは、鷹見にも分かる。業界に関わっていれば、一つ二つはそんな思いがあるものだ。
「まぁやさん、一緒に頑張ろうね。僕達が協力するから、きっと良いものができるよ」
 心強い、秋怜の一言。一見大人しい高校生といった容姿だが、立派に大人だ。
「そうですよね、大変ですけどみなさんが居るし楽しいですよ」
「あの」
 ちょっと上目使いに、ゆくるがまぁやに話しかける。
「まぁやさんは‥‥その、妖怪とか、狼男とか、そういうもの‥‥どう思いますか?」
 一同が、思わずびくっと肩をすくめる。さらにゆくるが続ける。
「もし‥‥人間社会に、そういう人達が暮らしていて、ゆくるもそうだとしたら‥‥友達になってみたい、って思いますか?」
 なんだか一言付け加える度に、大変な情報が漏れている気がするが。
「はは、そんな夢みたいな話聞いてどうすんだ」
 軽い口調で、早切が言う。テーブルの下で、長治が思い切りゆくるの足を蹴っていた。
「あたっ‥‥い、痛いです‥‥」
 長治の目が‥‥恐い。
 そんな彼らの緊張した空気に対して、まぁやはのんびりとした表情でうーん、と考え込んだ。
「そうですね‥‥でも普通は、恐いとは思うんじゃないかなぁ」
 しん、と静まりかえる、一同。
「あ」
 一言声を上げたのは、絆だった。
 じいっとメロンパンを見下ろす。メロンパンの中身は、苺ジャムだった。

【二話:黄昏時の影】
 二話のストーリーは、岩を発見した舘石が、それを生徒達に話す所から始まる。急に態度がかわり、遠巻きにこちらを見る生徒達。
「先生、この村に居たいなら‥‥それには触れない方がいいよ」
 と、少し引きつったように笑いを浮かべた、榛名。
 しかし舘石は、気になって仕方ない。挨拶を返してくれていた村人達も、恐い顔でこちらを見ている。
 そして‥‥黄昏時。
 落ちていく日に、舘石の影が長く伸びる。
 何故村人は、この岩の話を避けるのか。この岩に何があるのか。
 ゆっくりと背を向けて、村へと引き返していく舘石の視線が、地面に向けられる。
 ぱらり、と砂が落ちる。
 はっとして上を見上げた舘石の目に映ったのは、大きな岩だった。
−次々に降りかかる【災い】‥‥あの日から全て変わった‥‥
 そう、【鬼の爪痕】を見つけてから−

 2話を撮影終えて、秋怜と槇島はスタジオに戻っていた。
 まぁやが撮影現場に居るので、半獣化した槇島も、
『コスプレです』
 と言い訳しなくともよいのが、幸い。
「そういえば岩の話は、村人の口から詳しく聞くシーンが無いから、2話に挿入した方がいいかしら。舘石と郵便局員が話しているシーンとか、舘石が色々調べているっぽい所があったでしょう?」
「序盤ですね、二話の」
 モニターに早送りで画像を流しながら、秋怜がチェックする。
「このあたりですか」
「そう。ここにいれようか、鬼が付けた爪痕だって話。‥‥じゃ、最初から行くわよ」
 槇島はヘッドホンを付けると、マイクに向かった。
 一方秋怜は、槇島の録音に付き合いながら、作曲も行っている。
 鷹見に『序盤は明るく』と言われているので、一話はアップテンポなものから始める。徐々に沈んだ曲調にして、視聴者を引き込むようにする。
 二話は謎が中心となる話の為、シンプルなリズムで。三話は緊張感のあるものから、静かな曲調に持っていく予定だ。
 共通して使える曲は、ある程度最初に作っておいて、使い回すつもりだ。
 その他、効果音も現場から頼まれている。二話ラストの岩が崩れてくるシーン、農作業の人達の音、教室内でのシーンなど‥‥。
 むろん、こういったどこの仕事でも使える音は、秋怜はストックしてある。
「さて‥‥あとは三話を待つだけですね」
 録音を終えた槇島を、秋怜が迎える。
「わたくしの仕事はこれで終わりだけど‥‥秋怜さんはどうするの?」
「今からだと、みんなとすれ違いになるかな?」
 もうじき、現場で撮影していたまぁや達も戻ってくる頃だ。秋怜は、槇島を見上げる。
「それじゃ、戻って来るまでの間に一通り見てチェックしておこうか?」
「そうね、何か問題になるシーンがあったら書き留めておいた方がいいわね」
 そしてモニターに流れ始める、爪痕。

【三話:鬼の爪痕】
 音撮りの為に戻った槇島と秋怜を除いた7名は、三話の撮影に入った。
「三話だが、やはり夕刻から引き続く方向で撮りましょう。光源もある程度確保出来ましたし、ラストシーンは夜間ですから、待たずにそのまま撮る事が出来ますから」
 長治はそう鷹見に言うと、タイムテーブルを確認した。
 このシーンでは、村人が何人か必要になる。足りなければ、ここの住人に頼むという手もあるが、あまり遅い時間帯ではそうもいかない。

 三話は、事故後から始まる。岩の直撃を避けた舘石だったが、足に怪我を負ってしまう。
 足をかばいながら、村に引き返していく舘石。既に日は落ち、空は薄暗く闇が覆いかけている。
 村まで戻ってきた舘石の目に映ったのは、ライトを手に舘石を待ち受ける村人達の姿だった。
「‥‥先生、岩に近づいちゃならねえと言ったのに」
 郵便配達の男が、静かな口調で言う。
 後ろから、眉を寄せて悲しそうな目をした少女が、友の服をしっかりと掴んでいた。彼女は何も言わず、友と目を合わせる。
「あれは事故で‥‥」
「センセ‥‥こんな事でセンセが居なくなるなんて、寂しいよ」
 ぽつりと少女が言う。
 どこかから、獣のような咆哮が響く。

−村人達の忠告により、彼は渋々村を出る事になった。
 しかし、【鬼の爪痕】に対する興味は募るばかりだった−

 荷物を片づけている、舘石。ふと視線を、足の包帯に向ける。
 それから、ゆっくりと窓をふり返った。開け放たれた障子の向こうに、月が輝いている。
 野道を抜け、歩いていく舘石。その目前に、あの岩が現れる。
 静かに、見上げる舘石。岩にくっきりとついた、あの爪痕。
「これは‥‥」
 手を伸ばし、舘石は爪痕に触れた。
 ゆっくりと近づく、視点。ゆらりゆらりと、揺れながら‥‥。
 視点は岩に向けられ、鈍い音が響く。
 うめき声とともに、岩に血しぶきが飛んだ。

【エピローグ】
 出来上がった映像を一通り、立浪も含めた十名は鑑賞した。
 短い期間で作り上げたものだが、思いの外皆のチームワークもうまく、出来は良い。ストーリーもまとまっているし、演出や音楽も合っている。
 上映が終わると、皆、顔を見合わせて笑っていた。
 何より、秋怜が立浪にお願いしたスタッフロール。ここにまぁやの名前があった事で、彼女もことのほか喜んでいた。
 だが、喜んでばかりもいられない。
「こういうのは、もうこれっきりにしてくれよ」
 早切が、立浪に小さな声で言って苦笑した。
 こういうの、とはまぁやの事である。彼女が業界に興味を持ったら、嫌な思いをする事になるからだ。
 さすがに立浪も、それは回避したいようで。
 それでもゆくるは、人間であるまぁやに頼む事で、獣人に慣れてもらおうとしているのではないか、と思っていた。まぁやを、人間の協力者として獣人に関わってもらう為に。
 立浪の知っている、緋門あすかがそうであるように。
「もう、そういうのはあすかだけで十分だ」
 立浪は、そう答えた。

[スタッフ]
出演:
湯ノ花ゆくる
玖條響
淡紅絆
早切氷

ナレーション:
槇島色

編集:巻長治
音楽:小桧山秋怜 of DreamGarden
衣装:スモーキー巻
監督:鷹見仁