死の口吻アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
立川司郎
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芸能 |
フリー
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
11/04〜11/08
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●本文
あたしは、力を貰っただけなの。
彼女は私に、こっそり教えてくれた。
いつもと違う自分、いつもと違う開放感に満たされる。やり方は簡単、“その人”にキスするの。そうすると‥‥あたしの所に来てくれる。
あたしの中に、狐が来てくれる。なんで狐かって? わかんないわ。でもみんながそう言ってるじゃない?
狐憑きって。
‥‥でもそれって、誰かに喋ると死ぬって噂があるけど‥‥。
私がそう彼女に聞くと、彼女はケタケタと笑った。
何言ってるの、ホントにそんな事信じてんの? バッカねえ、そんな訳ないでしょ。
‥‥その3日後、彼女は姿を消した。部屋にわずかな肉片だけ残して。警察は、獣に襲われたんじゃないかと言っているけど‥‥。
私は知ってる。
あの子は喋ってしまったから、狐に殺されたんだと。
焼香の煙がほおを撫でる中、私はわずかに残った彼女の肉体に、キスをした。
狐憑き‥‥という言葉を聞いた事がありますよね。
神社の境内を掃除していた、巫女の少女が口を開いた。少しぼんやりとした表情に、小さく細い体。つややかな黒髪は、腰まで垂れている。
箒を持ったまま、彼女は顔を上げてじい、と見上げてきた。
狐に憑かれると、その人格は狐に支配されると言われます。その噂がね‥‥流れているんです。
狐は、人から人に渡り歩いているという。狐憑き口吻をすると、狐はこちらに移ってくる。しかし、もし狐に憑かれていると誰かに話してしまったら、話した者は3日程で死ぬ。
「まあ‥‥狐憑きなんて言い方をするより‥‥ナイトウォーカーだと言う方が早いかもしれませんが‥‥」
巫女の少女は掃除を続けながら、話も続ける。
どうやら噂の範囲からして、ここからそう遠くは無い繁華街を活動範囲にしているようですから‥‥。
行ってみませんか?
狐に、会えるかもしれませんよ。
●リプレイ本文
最近では、それほど驚く程の事でもない。
そう、ネットカフェにブロンドヘアの女子高生と灰色の髪の少女が入ってきたとしても、変わった子とまでは思わないだろう。
事実店員も、さほど驚いた様子でもなかった。彼女たちにすこし遅れて入ってきた少女は、彼女達よりも少しだけ年上の様子。黒髪で、落ち着いた雰囲気だ。
少し、アンバランスな組み合わせだが。
あれで高校では何も言われないのだろうか、位は疑問に思ったであろうが。ブロンドヘアの少女は店員や本棚を行き交っている客の目が気になるのか、周囲を不安げに見まわしながら、灰色の髪の少女の腕をしっかりと両手で掴んで握りしめていた。
「あの‥‥すごく目立ってた気がするんですけど。私、やっぱり何か格好とかおかしかったですか? それとも、私の事が普通の人達に‥‥」
「ううん、そんな事ないよ。‥‥ま、容姿は目立ってたようだけどね」
灰色の髪の少女は、パソコンの前に陣取ると、もう一人の少女に笑いかけた。ふい、と金髪の少女も少しだけ微笑して肩の力を抜く。
黒髪の少女、富士川・千春(fa0847) はパソコンをじっと見つめていた。
「じゃあ、まず被害者について調べてもらえる?」
「オッケー千春。じゃ、夏姫。僕達は調べ物するから、玖朗君達と連絡、よろしくね」
「はい」
元気のいい夜凪・空音(fa0258)の声に、夏姫・シュトラウス(fa0761)は細い声で答えた。
駅前は、常に情報が出入りする重要なスポットだ。
特に今回の依頼のような、高校生を中心とした層を行き交うモノを相手にするならば、ここは絶好の地点といえる。
赤いロングヘアを手で押さえながら、きょろきょろと見まわす少女。
小宮あき(fa1696)もまた、空音や夏姫と同じく16才だ。それと同時に、ナイトウォーカーとの戦闘は初体験である。
そういう存在に脅かされているという事くらいは、あきも知っている。
「えっと、女の子に憑依しているんだから‥‥女の子に聞いてみるのが一番よね」
あきは、駅のホームへの入り口前の壁で話をしている二人組の少女に目を向けた。一人は明るい茶色のロングヘアで、もう一人は黒のショートカットだ。
平日の昼間なのに私服姿、おそらく学校は勝手に休んだのだろう。ととっ、とあきは彼女たちに近づくと、声をかけた。
「こんにちは〜! ねえねえ、ちょっといい?」
「え? ナニ、あんた?」
訝しげに、ロングヘアの少女があきを見ている。あきは負け時と、笑いながら返す。
「あの、この辺に路上ライブやってる人が居るって聞いたんだけど‥‥知らない?」
「路上?」
「さあ‥‥そのうち、来るんじゃないの?」
この辺、時々居るよ。週末だけど、と黒髪の子が言った。あきは残念そうに、首を捻る。すると少女が、すう、とあきの顔に手を出した。
一瞬肩をすくめる。すると少女は笑ってあきの髪にするりと手を入れて触ってきた。
「可愛いよね、あんた。いいなぁ」
「そっかな、クラスに一人は居るよ、これ位なら」
女子高生は容赦が無い。
「いいじゃん‥‥ほら、さ」
少女がくい、と顔を動かすと、駅の向こう側から誰かがこちらに向けて歩いてきた。背の高い、銀髪の青年だ。プラチナヘアの長身の男は、さすがに相当目立つ。少なくとも隠密性はゼロだ。
あきはLUCIFEL(fa0475)の格好に驚きながら、彼には気づかない振りをした。
ルシフからの連絡が携帯電話に掛かってきたのは、丁度孫・華空(fa1712)が夏姫からの電話に出ている時だった。
夏姫と空音が先ほどから調べているのは、ナイトウォーカーとの戦闘場所だった。彼らは姿形もそうであるが、とくに実体後のナイトウォーカーの始末を一般人に見られる訳にいかない。
公園や廃屋になっていそうな場所を、彼女達はネットを使って探していたのである。
八咫玖朗(fa1374)と華空の組み合わせは、どう見ても恋人という風ではなく、金髪の華空の弟が玖朗であるようにも見えない。
「どうした、玖朗」
華空は電話を切ると、珍しく慌てている玖朗をふり返る。
「それが‥‥ルシフェルさんから電話だったんだけど‥‥なんか、ナンパしてるから駅前に来いって」
相手が三人だから、もう一人連れてこいと言っている。今すぐ来い、と。
どうしよう、と玖朗が携帯電話を差し出した。華空は玖朗の電話を受け取って耳に当てるが、既に切れていて、何も聞こえてこない。
「行けば?」
行けば、といわれても‥‥。玖朗はそういう事は得意ではない。むしろ、愛想があまりいい方ではなかった。
「じ、じゃあ孫さんもいきませんか」
「何言ってんの、なんでナンパすんのに女がついていくんだ。さっさと行った行った」
玖朗を押しやると、華空は電話を見つめた。それから、玖朗が消えたのとは反対側の路地を見る。
来る前にあの依頼主の巫女に会ったという夏姫が言うには、回収は任されてくれるようだ。それがなければ、こちらが回収しなければならない所であったが。
回収を彼女がしてくれるのなら、自分達がするのは‥‥長引かないように、見つからないように片づける事だ。
一人だけ携帯電話を持っていない畑ヶ谷惇子(fa0437)は、町の中を公衆電話求めて彷徨っていた。駅前にあるのは分かっているのだが、さて繁華街に出てみれば、今や公衆電話を置いてある所など見かけやしない。
それでもたまにたばこ屋の脇に置いてあったりするが、緊急の際の連絡にはちょっと困る。そして、相手からの連絡も取れない。
どこにおびき出すのかは聞いておいたが、はなから単独行動をしている惇子は、その頃ルシフが繁華街で路上ライブをしようとしていたのには気づいていなかった。
ナイトウォーカーをおびき出す為、彼女が取った作戦は、とにかく目立つ事。派手な色合いのスーツに、濃いめの化粧。
「あたし美人だから、関係ないやつをおびき寄せるかもね」
なんて、公衆電話で夏姫に話したら、夏姫は“そ、そうですね”と困ったように答えていた。彼女が思っているほど彼女の容姿に魅力があるのかどうかはさておき、繁華街で派手な格好をしていたら、クラブのお姉さんに見られる可能性大だ。
一人で大丈夫でしょうか。
夏姫は、心配になって空を見上げた。
空音はギターケースを開けて、自分のCDを並べ始めている。はっと気づいて、夏姫は彼女を手伝いはじめた。
日の暮れた時刻、駅前の混雑は収まりつつあった。
「あの‥‥私も何か、手伝った方が」
「ううん、いいよ。夏姫は‥‥」
ふ、と空音が顔を上げた。銀髪の男が、じっとこっちを見ている。側にいた女子高生は、CDを並べる手を止めたままこっちを見上げる、空音と視線を合わせた。
「何〜、ねえカラオケでもいかない?」
女子高生が、ルシフに聞く。彼はかまわず、のぞき込むようにして顔を近づけた。
「ここで歌うのか?」
「そうだけど?」
「じゃ、俺も一緒に歌っていっていいかな」
ルシフが混ざり、二人は駅前に歌声を響かせた。
まだまだ磨かれるべき所がたくさんあるが、二人はとても楽しそうだった。通り過ぎていく人達が多い中、二人の声量に惹かれて一人二人と集まってくる。
やがて千春も再合流。
それを見守る人の中、離れた道路脇に木刀を持った華空。あきは近くで、彼女たちに合わせてコールしている。
彼らの歌に聴き入っている人のやや後ろに、玖朗が居た。
どれが、だれが、なにがナイトウォーカーなのか、区別がつかない玖朗はちらり、と後ろに待機する華空をふり返る。
今この中からナイトウォーカーを探す事は、今の自分たちでは無理だ。
気が付くと、ルシフ達は歌を止めていた。スポーツドリンクで喉を潤し、ルシフが玖朗の腕を掴む。
手を離そうと玖朗が体を引くが、彼は無理に前に連れて行った。
「せっかく呼んだんだ、黙って後ろの方に行くなよ」
「‥‥そうは言っても‥‥元々ルシフェルさんが来いっていうから」
しかも一人はあきだからいいようなものの、もう二人は本当に見ず知らずの女子高生だ。
女子高生は、空音や千春達とファッションブランドの話題で盛り上がっている。ちょっと話しかけ辛そうに、夏姫は彼女達の話に耳を傾けていた。
「ところで‥‥ねぇ、最近変な事件が起きているって‥‥知ってる?」
あきが、彼女たちにちょっと低い声で聞いた。
「変な事件?」
「そう。なんかさ‥‥狐が憑いてくれたら、違う自分になれるって」
何それ? と眉を寄せてルシフが苦笑する。あきは、真剣な表情でルシフを睨む。
「嘘じゃないんだから、友達が‥‥友達がね、行方不明になっちゃって。そんな話をこの間、してたもんから」
「知ってるよ〜」
黒髪の少女が、くすっと笑った。
彼女は視線を駅前広場に向ける。
差した指先の方向には、噴水の脇に座っている少女の姿があった。染めたと思われる明るい金髪で、ミニスカートをはいている。誰かにメールを打っているのか、携帯電話から目を離そうとしない。
そういえば、さっきからずっとあそこに居る‥‥気がする。
ルシフが玖朗を見返すと、玖朗も頷いた。
「友達の同級生なんだけどね、すっごい真面目な子だったんだよ。でも一週間ほど前にあの子の学校の子が死んでね。それからこの辺うろうろするようになったの。あれでしょ、みんなそう話してるよ」
夏姫と千春は、彼女をじっと見つめた。すう、と視線があがる。今度は向こうが、こちらをじつと見返してきた。
す、と空音が立ち上がる。
「あっと、僕もう帰らなきゃ!」
「うん」
夏姫はこくりとうなずき、彼女とともに片づけはじめた。
「じゃ、私もそろそろ帰ります」
「おい、送ってやれ」
つん、と類府が玖朗を肘でつく。
「え? お、俺?」
「当たり前だろ。女の子を一人で帰らせる気か」
予定通りなのに違いないが‥‥玖朗は少しとまどいぎみに、千春の前に進み出た。
千春と玖朗、夏姫と空音、ルシフとあきがそれぞれ別々に、散っていく。
その様子を離れた所で確認した華空は、夏姫と空音の後ろを離れて尾行しはじめた。携帯電話は離さず持っている。
ちらりと千春の方を見ると‥‥二人の後ろを、あの少女が歩いていた。
暗闇の中、切れかけた電灯が点滅している。
ぽつりぽつりと点いた電灯も、公園の一部をぼんやりと照らすのみ。繁華街の公園は、今の時間はひっそりと静まりかえっていた。
ベンチに座って、千春と玖朗が何か話している。千春が一方的に喋っている、が正しいかもしれない。玖朗はしどろもどろだった。
公園の端の影に立ち、華空は脇を見る。
惇子のバイクは、タイヤにチョークがついている。
‥‥バイクって駐車禁止取られるんだ(キップ切られます)。心中で華空が呟く。
影が、彼らに近づく。華空は携帯電話を手に取った。
突然ぐにゃりと、体が歪んだ。
CGなどで見るのとは違う、生々しい変質。
千春も、そして玖朗も呆然と立っていた。今目の前に居た少女が体を変質させ、黒く堅い羽を持った節足動物に変わっていく。
蜘蛛とゴキブリを合わせたような、大きな体躯。
華空の声が響く。
「何してんだ、攻撃しろ!」
「‥‥っ」
玖朗と千春が獣化する。しかし彼らが手を下すより速く、銀色の毛並みを露わにしたルシフが飛びかかっていた。
ナイトウォーカーが身を転じ、ルシフに牙をむける。身を横にして、ルシフが避ける。立て続けに、ナイトウォーカーに華空の蹴りが羽を割く。
接近した夏姫は、ナイトウォーカーの細い足を掴むと、ぐいと手元に引いた。メキメキという音が響き、夏姫が更に反対側の腕を掴む。
と、突然牙をむいて夏姫にのしかかった。
「‥‥千春!」
ひょいひょい、と空音が手をこまねく。
彼らに任せておけばナイトウォーカーは倒してくれるだろう。千春がふり返ると、彼らの腕を逃れたナイトウォーカーの前にあきが立ちふさがっていた。
腰に手をやった千春が、きょろきょろと見まわす。
静かに歩いてくると、惇子は自分のバイクと、ナイトウォーカーの残骸を見た。
「‥‥終わっちゃったの?」
「うん、だって‥‥惇子さん、路上ライブに来ないし、携帯も持って無いんだもの‥‥」
あはは、と笑いながら千春が俯いた。
「あれはどうするの?」
ヒトとも虫とも何ともつかない、残骸が転がっている。
あきと空音、玖朗たちは周囲を見張り、一般人を警戒していた。ナイトウォーカーの側に座り込み、夏姫が手を合わせている。
「あれは巫女さんが回収するそうよ」
「回収されないと困るものね」
ただ、少女が永遠の眠りについた‥‥それだけは取り返しがつかない。ナイトウォーカーとの戦いの上で、これは避けられない死だ。
「‥‥こんな終わらせ方しか出来なくて、ごめんなさい‥‥」
「‥‥その割に夏姫、けっこう張り切ってたな」
ぽつ、と後ろで言ったルシフをふり返ると、夏姫は恥ずかしそうに顔を赤くした。
「そ、それは‥‥それはその‥‥」
ぎゅっと身を縮ませ、夏姫はうずくまった。