【傀儡の森】人形の家アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
立川司郎
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
1人
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期間 |
04/09〜04/13
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●本文
オカルトサイト、傀儡の森にストックされている様々なオカルト情報。
管理人フルヤが最初にオカルトに興味を持つ事になった、ゴーストスポットがある。
「‥‥DVDで‥‥ですか?」
フルヤが聞き返すと、電話の向こうから男の声が返ってきた。
『うん。そっちの情報を検証していく怪談風のものを出したいと思って。‥‥駄目かな。発売されたらそのサイトも注目される事になるし、フルヤさん次第なんだけど』
「あ、それは構いませんよ。大丈夫、これでも私はしっかりしてるんですから」
ふふ、と笑ってフルヤが答える。
「私は何も出来ませんけど、それでもいいんですか?」
『はい、フルヤさんは素人だからこっちでさせてもらうし、何もしなくていいですよ』
そうして‥‥【傀儡の森】は始動した。
フルヤが最初に興味を持った、あるゴーストスポット。
それは山間部にある、一件の廃屋だ。
元々は誰かが避暑地として使っていたらしく、立派な作りである。古くは明治時代に建てられた洋風建築で、近年までそのまま使われていたという。
市街地中心部まで車で三十分。電気も水道も通っているが、誰も住んでいない現在は使用出来る状態にない。
人形の家、と周囲の人々は言う。
この建物が建てられた当時、ここは裕福な貿易商人が使っていた。
その一人娘がたいそう人形好きで、日本製海外製、様々な人形を集めていたという。
しかしある時、商人は倒産。一家は離散した。風の噂で、一家は取引相手に襲われて死んだという。一家はわずかな金品まで盗られ、無惨な姿で発見される。
しかし娘が持っていた人形達は、手つかず‥‥。
それ以来、避暑地の屋敷は娘の霊が出るようになった。
腕には、彼女が手に入れた赤い着物の傀儡人形が抱かれているという。
それから数年。今度は別の軍人一家が避暑地を手に入れる。さらに数年後、別の家が‥‥。家は様々な人の手を渡り歩く。
しかし必ずその家の持ち主は不幸な目にあい‥‥
そして必ず、家に傀儡人形がやってくる。それは同じものであったり、全く別のものであったり。
今では十五年、誰もその家に住んでいない。
その家には、今でも傀儡人形が置かれているという。
設定
内容:このゴーストスポットに行ってもらいます。その他、過去の再現映像も作成してください。内容はお任せします。
舞台:タイトルは【傀儡の森】で、傀儡の森の情報を元にしています。検証の為に出演する方は、そのサイトの常連という設定で参加するもよし、全員芸能人としてそのまま出演するもよし。
傀儡の森の情報:だいたいOPに出た通りの事だけ判明しています。それ以外については、各自で調べてください。
幽霊:設定で「霊感がある」とか霊感がありそうな設定が書いてあれば、何かあるかもしれませんが、普通の人はそれなりに、設定で「霊感がない」とあれば、ほんとに全く何も無いまま終わるでしょう。
●リプレイ本文
[人形の森へ]
−フルヤさん、こんにちは。
この間のオフ会では、お世話になりました。
ええと‥‥実はあの“人形の家”についてなんですけど‥‥−
サヤというHNを使って、泉 彩佳(fa1890)は本物の、いやネット上の“傀儡の森”にアクセスした。
アヤが傀儡の森のオフ会に参加したのは、1ヶ月半ほど前の事だった。覚えてくれているだろうか。ちょっとドキドキしながら掲示板を覗いてフルヤのコメントを見つけると、くすっとアヤは笑った。
そしてその頃、一足先に屋敷を訪れた人影がある。御神村小夜(fa1291)に付いて、一通りロケの進行を聞いた蓮城久鷹(fa2037)は、ロケが行われる屋敷を確認するべく訪れていた。
中は思ったよりは痛んでおらず、掃除をすれば今でも人が住めるだろう。
本当に霊が出るならば、いかに蓮城とて夜中に来るのは遠慮したい所だ。ざあ、という木々のざわめきにふ、とふり返る。
ふり返るのを合図にしたかのように、風がぴたりと止んだ。
蓮城からの報告書を小夜から受け取ると、立浪祐介はまずすまんと謝った。
「あー‥‥僕の言い方が悪かったようだね。うん、これは傀儡の森は実際には関わらない作品なんだ。要するに、内容は紛れもなくまじめにゴーストスポットの検証作品だけど、出演者は場合によっては傀儡の森の参加者‥‥という設定の上で参加したら進行上、話が進むかと思ったんだ」
「そうですね、傀儡の森の検証であるなら、それでもいいかもしれませんが‥‥これもヤラセの一種ですね」
日向 美羽(fa1690)が言うと、立浪はぺこりと頭を下げた。
「まったくその通りで‥‥すまんな」
「いや、立浪さん。基本的には心霊スポットのレポートという形で、その上に再現VTRを付けて纏めた感じでいいんですよね」
山田悟志(fa1750)が問うと、立浪は頷いた。
「ああ、そういうこと。‥‥所で、問題の人形屋敷。誰か、その以前の土地について調べてみた? 江戸時代末期とか、明治初期とか」
実は、今回詳しくこの土地について調べた者が居ない。まぁ無いなら無いで、傀儡の森の情報だけを抜粋して番組にしたって、面白いものは作れるよね?
立浪はなんだか丸投げっぽく、そう言った。
「ふっ‥‥これは心霊番組なのだろう? だったら、面白い事が起こればいいのだ」
すう、と目を閉じて匂宮 霙(fa0523)が笑みを浮かべた。
和服を着て白髪の匂宮は、一見霊感がありそうに見える。匂宮の発言を聞いて、ふるふると手を振る山田。
「ちょ、ちょっと匂宮さん。ゆ、幽霊だなんて‥‥ましてや呪いとか‥‥」
そりゃあ撮影では、たまにそんな事もありますけどね。と乾いた笑い声で山田が言った。
一方で今回数少ない裏方のうちの一人、トシハキク(fa0629)は事前に神社にお参りへ行っていた。
「お参り?」
と怪訝そうに聞く匂宮。
「はい、撮影がうまくいくようにと」
「アヤもお守りを持って来たよ。ほら、これを付けていると霊が近づけないとか霊障が起こりにくくなるとか聞いたから」
アユの指には、白い石の指輪がはめられていた。実は今回の番組作成において、数珠を持ってきた者は多い。
「私は、護り石とかスカラベのブローチとか持ってきましたよ〜」
飾り気のない美羽の服の端には、金色のスカラベが輝いていた。
がっかりだ。ああ、がっかりだとも。匂宮は、眉を顰める。
「これは心霊検証番組だ。霊障が起こらずして、何の面白味がある」
「そういう匂宮さんだって、持ってるじゃない」
ぴっとアヤが、匂宮の腕にかけられた数珠を指さす。
「これは霊力を上げる為のものだ」
疑いの眼差しを、アヤが投げかける。
「でも、出るなら対話くらいは試みてみたいですね。せめて成仏してもらえるよう、働きかけてみたいものです」
「開かずの間とか、あるかもしれませんよ。‥‥庭に、学術的には存在しない花が咲いていたりとか」
小夜、そしてにこりと笑って橘 遠見(fa2744)が話す。
「どうやら、二人とは話しが合いそうだな」
ふふ、と匂宮は笑った。
果たして、そんな事は起こるのだろうか。
「起こらないに越した事はない。それに、出るだの出ないだの‥‥不謹慎だ」
ため息をつき、神代アゲハ(fa2475)が髪をくしゃりとかき上げた。
[検証:生者の消えた家]
・屋敷の前に居る。カメラが全員を映し出し、最後に写った小夜。
古い洋館の煉瓦壁は、蔦が這い片壁を覆っていた。前に立った一同の視線が、屋敷に集まる。
カメラが動き、左側から映していく。ライトを持った、眼鏡の女性美羽、ハンドルネームはパンプキン。その横に、同じく眼鏡を掛けた、ヒラサカこと神代。そして可愛らしい顔立ちのサヤことアヤ。遠見は、傀儡の森にアクセスした経験が無い。最後に、セリエ‥‥小夜。
小夜はすう、とカメラ目線を取った。
「もう映っているんですか、クマノリさん」
クマノリというのは、カメラを持っているジスのHNだ。同じように小夜、美羽、アヤ、神代は実際の傀儡の森にアクセスした経験があった。
そう、撮影とはいえ、プチオフと同じかもしれない。
神代は先に立って歩きながら、ちらりと後ろを振り返った。
「最後に人が住んでいたのは、15年前か‥‥。住人は失踪したまま、行方不明らしい」
神代が語り出す。懐中電灯を持った美羽は、前を照らしつつ神代の後ろを歩いていた。ドアを開くと、中から冷たい風が吹いてきた。
「どこか、窓が開いているんでしょうか」
美羽がライトを巡らせる。ドアから入ると、そこは広い玄関ホールになっていた。向かい側に階段、吹き抜けで上には天井の梁が見える。左右に一つずつドアがあり、左向こうには廊下が続いていた。
案外、中は綺麗に保たれている。ただ、長い間人がいないせいか、埃っぽくなっては居るが。
「床がもろくなっているかもしれませんから、注意してくださいね」
そう言うと、美羽は“出演しててもADと変わりませんねえ‥‥”と心中で思った。
カメラの後ろからは、山田が付いて歩いている。
「最初に亡くなった少女が出るというのは、右側にある居間らしい。まずはそこに行ってみよう‥‥いいな?」
神代はそう言うと、美羽の肩を掴んで促した。
ライトを反射して白く発光するドアノブを、遠見が掴む。ゆっくりと開け放つと、そっと中をのぞき込んだ。
「暖炉があります」
ひんやりとした風がふわりと頬を撫でた。そうっと一行が中に足を踏み入れる。
中に立つと、小夜が暖炉の上に視線をやった。どうやらこのメンバー、怖がる人間が居ないのか‥‥暖炉の上に人形があるのを発見しても、悲鳴の一つも上がらない。
アヤは、人形に手を伸ばした。金色の髪をした、西洋人形だ。
「凄く痛んでいますね。‥‥それにしても、こんな人形を置いたまま、ドアの鍵も掛けていないというのに‥‥誰も盗んでいったりしないんでしょうか」
小夜は首を傾げて、アヤの手の中にある人形を見つめる。
「盗んだが‥‥そこに有るのかもしれん」
ふ、と唇の端を釣らせて匂宮が言った。遠見が、匂宮を見つめる。
「‥‥たとえば?」
「捨てても捨てても、戻ってくるとかな」
盗まれても盗まれても、ここに戻ってくる人形か?
神代が聞いたが、匂宮は答えなかった。
居間はそれ以外に何もなく、血の染みとか壁の妙な塗り替えの後とか、そういった期待したものは無かった。
「それで、問題の傀儡人形とやらはどこにあるのだ」
そわそわした様子の匂宮は、まだアヤが持っている人形をちらりと見やる。
「それは傀儡人形ではないだろう」
「そうだね。でも、どうせならみんなと一緒の方がいいんじゃないかなぁ」
じいっと人形を正面から見つめながら、アヤが言った。
「‥‥きみも、私たちの所においでよ。人形の森に‥‥」
「匂宮さん、笑えないです」
低い声で囁いた匂宮に、にっこり笑ってアヤが言い返した。
「俺はホラー作家なんだ、参加したからにはそれを期待してどこが悪い」
「そう簡単に出てくれるなら、心霊番組は儲かるだろうな」
神代はきっぱりと言うと、先に居間からホールに出ていった。
と、バタン、と何かを叩く音を屋敷に響いた。窓か何かを締めたような音だ。
「古いから、立て付けが悪いのかもしれませんね。人形があるという部屋は、二階のようですが‥‥行きましょうか」
小夜は、神代に続いてホール中央に立った。匂宮、続いて美羽も歩き出す。
一番最後に出たのはアヤだった、音もなく‥‥ふいに振り返る。その方向に、釣られたようにジスがカメラを向けた。
「どうした?」
ホールの方から、神代が声を掛けた。
「ううん‥‥あ、この音だったのね」
とアヤが、暖炉の下に落ちたものを拾う。火掻き棒のようだ。
「音なんてしたのか」
ジスはした、と答える。神代も、部屋のすぐ外に居た匂宮も何も気づかなかった‥‥でもアヤにははっきり聞こえた。
‥‥どうして不動産屋は、ここを綺麗に片づけて戸締まりしないのかしらね。小夜が、アヤを待ちながら呟いた。
[メイキング:再現映像]
−明治二〇年。この屋敷に、若い夫婦と娘が住んでいた。
元々ここに井戸があった事から、昔は誰かが住んでいたものと思われる。人形好きな少女は、貿易商だった父親から買ってもらった西洋人形を、大切にしていた−
裏方に回ったのは、小夜。今回は山田が演出をしている。
服装から小物集めなどの小道具調達は山田が、撮影に関する全般はジスが行った。
娘役はアヤ、父親は黒髪の鬘を使って遠見が担当する。後ろ姿で映れば、西洋人に近い容姿の遠見も目立たないであろう。
小夜と服装のチェックをしたアヤは、暖炉の部屋に入ってきた。
‥‥あれ?
「どうかしたんですか?」
「ああ‥‥小夜さん、暖炉の上にあった傀儡人形、どこにやったか知りませんか?」
ジスが焦ったような口調で聞いた。確かに暖炉の上にやったはずなのに‥‥。
すう、とアヤが二階の方へと視線をやる。
「アヤ、取ってくる」
アヤは何も言わず、二階に駆け上がった。
小夜と山田、そしてジスが顔を見合わせた。
「何で二階にあるんでしょう」
「‥‥というか、何故アヤさんは二階にあると分かったんでしょう」
小夜とジスが誰にともなく問うた。
[検証−2階]
二階に上がると、どこかから風が吹いてきた。
「やっぱり、窓が開いてるみたいですね」
小夜がもう一つ懐中電灯を出すと、照らした。美羽は、左側の部屋を‥‥小夜は右側を見ている。
ふい、とカメラがアヤを映した。手の中には、しっかりと人形が‥‥。アヤはそのまま、小夜の横に立つ。
そこは廊下につづき、部屋が三つ並んでいる。
「奥の部屋から、風が吹いているみたいです」
「こっちが客間で、そこはお父さん達の寝室じゃないかな」
‥‥こわいです。何か、いろんな意味で。ジスは思わずぽつりと言った。
「ちょっと来てくれ、人形が山ほど置いてあるぞ」
後ろから神代が声をあげ、3人はふり返った。
はっ、と小夜が口を開ける。
‥‥いいや、気のせいだろう。アヤが赤いドレスを着ていた気がしたのだ。
[検証:人形の部屋]
父から貰った傀儡人形を、ベッドの上に腰掛けてじっと見ている少女。
「全部、名前があるのよ」
アヤが遠見に話す。
アヤの手の中の傀儡人形‥‥それは、日本人形だった。父がフランスのお友達から貰った人形。どういう理由でフランスのお友達が日本人形を持っていたのか、少女は知らない。
部屋に置かれた人形は、全部で五十体。壁際のクローゼットの上は、人形で一杯だ。
[そして再び検証]
窓をしっかりと閉めると、小夜はふり返った。
これで窓は全て閉めたはずだが、やはりどこかから風が漏れているようだ。
ライトを向けると、締めたはずの廊下の窓が開いていた。
「‥‥」
無言で皆、顔を見合わせる。
「‥‥こういう時、動物は敏感だというがな‥‥霊に」
獣人はどうなのだろうか。人間より敏感? 神代の言葉に、皆は周囲に耳を澄ました。
ちりん、と鈴の音が鳴る。
「あ‥‥人形が棚から落ちちゃったんだ」
駆けだしたアヤの腕を、小夜が掴んだ。
「アヤ、そろそろ出ましょう。あとは定置カメラをセットして終わりです。ここはまた明日、チェックしましょう」
「‥‥ここはあなたのお家じゃありません」
静かな中にも強い、遠見の声を聞いてアヤはようやく目を見開き、こくりと頷いた。
−
目を呆、と見開いたまま転がっている赤い服の少女。腕にはしっかりと人形が抱かれている。
カット、という山田の声を聞いてアヤは立ち上がった。胸元にはべったりと血糊がついている。
撮影が全て終わり、皆撤収作業を始めている。そうっと小夜がアヤの頬にタオルを付ける。頬についていた血糊がふき取られた。
「定置カメラに、不審な影が映っていた以外は何も無しか」
残念そうに匂宮が言いながら、機材を片づけていく。
なんだろう‥‥この喪失感。アヤは服を着替えもせずに、その様子を眺めていた。
「明日にも、俺達にファンから傀儡人形が送りつけられ‥‥たら、後日談として使えるのだがな」
何故か、匂宮の言葉を、誰も否定出来なかった。