テストをしませんか?アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 立川司郎
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 普通
報酬 0.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/20〜04/22

●本文

 決して暇をもてあましているのではないが。
 PLOJECT:八卦の映画監督、結城貴子はここ最近の裏方を見ていて思う事があった。
「‥‥たまには競い合う事があっても、いいじゃないか」
 と。
「何を競い合うんですか? 作るのが仕事なのに、それ以外に何をせよと」
 と誰かが笑った。すかさず、テーブルの下から蹴りが入る。言った男は、ぱたりとテーブルに突っ伏した。
「別に何でも良いんだけどさぁ。ほら、こう‥‥個性みたいなものを、ちょっと見てみたいなと。他人の技術を見たら、自分も勉強になるじゃないか。アイドルフェスじゃなくて、裏方フェス、みたいな」
「裏方フェチ?」
 笑えねー冗談は嫌いだ。
 結城に更に蹴りを入れた。だんだん、聞いている人数が減っていくような気がする。
「何かテーマを決めて、それに沿った撮影をやってもらうんだ。な、面白いだろ」
「面白いかどうかは、我々が決められる事じゃないし‥‥それにみんな、忙しいから来てくれるかどうか」
 がたん、と結城は椅子を蹴って立ち上がった。
「せっかく(あたしの)スケジュールが3日空いた事だし、やろうぜ!」
 その頃にはもう、結城の話を聞いている者は居らず、みんな悶絶していた訳ですが。
 そんなこんなで、募集が掛けられたのだった。

[内容]
 お題に沿って、撮影をしてもらいます。基本的にチームは組まず、一人ずつやってもらいます。また、配役を指定したい場合はサポートで入ってもらってもいいですが、サポート参加の過度の描写は期待しないでください。
 終了後、各自編集して最後にみんなで鑑賞して、感想を言い合って終わります。音楽は今回あってもなくてもかまいませんが、募集するのはカメラと演出+配役だけです。配役は男女変わってもかまいません。
[お題と募集者]
カメラ:「喧嘩した友達と仲直りしたくて、夜、家を飛び出して友人宅に向かうシーン」のカメラワークを考えてください。配役は、指定がなければ結城がやってくれます。
演出:「女の子が一人、立っている」シーンで、悲しみを表す演出。場所は公園で、設定や配役の服装や持ち物等、全体のバランスを考えてください。テーマさえ守れば、あとはお任せ。
配役:モデルになる女の子も二人位までなら募集します。カメラさんや演出家の方に協力してあげてください。その際、どんな演技に気をつけるか考えてください。
結城:当日は、ジーパンとTシャツ姿で来ます。髪は茶色のショートカット。
[注意]
点数を付けるものではありません。あくまでも、各自のスキルアップの為に行うものです。何かご褒美が出たり、いい仕事を回してもらえたりは期待しないで下さい。

●今回の参加者

 fa0085 一二三四(20歳・♀・小鳥)
 fa0388 有珠・円(34歳・♂・牛)
 fa0629 トシハキク(18歳・♂・熊)
 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa1013 都路帆乃香(24歳・♀・亀)
 fa2315 森屋和仁(33歳・♂・トカゲ)
 fa2672 白蓮(17歳・♀・兎)
 fa2838 紗良緯(23歳・♂・鷹)

●リプレイ本文

 のんびりとした仕草で、ゆるりと結城貴子は手をあげて挨拶した。
 彼女はいつも、こんな調子だ。そんな彼女の招きに応じたのは、全部で八名である。うち、白蓮(fa2672)はモデル業も勤める女優だ。
 華奢で白い髪の彼女は、見た目も繊細だが言動もややおっとり目だ。
「よろしくお願いします」
 ぺこりと白蓮は頭を下げ、皆に挨拶をする。今回彼女は、有珠・円(fa0388)、都路帆乃香(fa1013)、紗良緯(fa2838)に協力する事になっている。
 そしてもう一人。なんだか大量のメロンパンを撮影場に持ち込んだ、湯ノ花 ゆくる(fa0640)である。
「おやつ‥‥合間に‥‥食べてください。あ‥‥あの、もし嫌いだったら‥‥サンドイッチもあります‥‥から」
 灰色のセミロングヘアの彼女は、たどたどしく話しかける。初対面の者にちょっと警戒しているのかもしれない。
「ああ、気が利くね。あんたメロンパン好きなんだ。あたしも好きさ」
 結城はゆくるにそう言うと、さっそく手を伸ばした。そう言われ、ゆくるも少し顔を赤らめて、こくりと小さく頷いた。

 今回一二三四(fa0085)は、モデルとして結城貴子を選んだ。
 撮影技術はまだ駆け出しで、学ぶところがたくさんある。
 結城はモデルとして、ゆくるや白蓮に劣るが(もっとも、彼女は監督だから致し方ないが)、自分の思う映像を思い浮かべた二三四は、一番年輩で大人びた結城を選択したのであった。
 大きな撮影器具を一人で運ぶと、二三四は結城の部屋を借りて撮影を始めた。結城の部屋は質素だ。必要最低限のものしか置いてないが、散らかってもない。
 部屋の端にあったラジカセを手に取ると、くるりと二三四はふり返った。
「結城さん、これ中にどんなCDが入ってますか?」
「ロックかな」
「出来れば、悲しげな曲‥‥バラードでもいいんですけども、ありますか?」
 シーンは、結城がベッドにうつぶせで寝ころんでいる所から始まる。テーブルの端にビール缶があるが、それも画面の端に映っている。
 部屋に置かれたラジカセから、若い男性の声が流れてくる。曲が終わり、一瞬の静寂ののちに部屋へ明るい音楽が流れ出した。
 結城はきっ、と顔を上げる。二三四はカメラの画面端にラジカセを捕らえつつ、結城の表情を逃さずアップで映した。
 カメラ視点が切り替わり、手前から部屋を全体から、結城の全身を映すように引いた。そのまま部屋を出ていく、結城を追いかけるカメラ。
(慌てた様子って、どうすれば撮れるだろう‥‥)
 二三四はひとまず、一通り撮った。カメラは、締まるドアをかすめるようにして流れる。
 ドアのアップの後、結城は靴を引っかけながら出てきた。
 道の手前に配置したカメラは、結城の動きに合わせて引きながら映す。やがてカメラを追い越し、結城の背中が闇に消えていく。
「慌てた様子と‥‥走っていく所の感情表現が、ちょっと難しいですね」
 撮った画像を確認しながら、二三四が結城に言った。
 うん、いいかな‥‥と彼女は頷くと笑顔を浮かべた。

 有珠も、実は本職はスチールや写真ばかりだ。動画が専門ではない有珠は、何事も挑戦だと楽しみにしていた。
「ねえ、これってどっちもやっていいんだよね?」
 つまり、演出とカメラと。むろん、悪い訳などない。そうと聞くと、有珠は結城の部屋に立った。二三四がどういう撮影をしたのか分からないが、部屋に置かれたビール缶などはあまり触らないでおきたい。
 結城の部屋は、仕事をする為の机というものがない。有珠はキッチンのテーブルを借りると、結城を配置した。
 シーン1は、何か書いている結城を映す。しかしうまくいかないのか、ペンをテーブルに叩き付けるようにして立ち上がる結城。
 ここまではカメラは、ずっと結城を後ろから捕らえている。結局斜め後ろに配置し、表情が映らないように何度か結城と打ち合わせをした。
 シーン2は、玄関から勢いよく出てくる結城、ドアは開けっ放しで駆け抜ける。有珠はこれを、カメラ固定のまま駆ける結城を撮影した。
 有珠の設定上の結城は、家族とともに住んでいるという設定だ。その為、このシーンはアパートの扉ではちょっと物足りない。結局近くにある結城の知り合いの家の玄関を、借りて撮影した。
 走る結城のシーンは更に続く。足下からゆっくりと上に向けて振る。そして後ろ姿の結城が角を曲がり、カメラは奥にある団地を映す。
 結城は元気がいい為、カメラで追うのが大変だ。
 スチールとは違うなぁ、と有珠が呟いた。

 裏方仕事は何でもそつなくこなすトシハキク(fa0629)は、今回カメラ側で参加を早々に名乗り出ていた。
 しかし、はたと気づけばモデルを指定していないのは自分だけであった。打ち合わせの時も、たしかモデルを誰にするか皆が話し合っていた気がするが、ジスは何かそれについて言った覚えがない。
「どうする、あたしにするか‥‥それとも、ゆくるの手が空いてるからあの子に頼むかい?」
 結城に言われて、ジスはゆくるを見つめた。八卦の社内、ゆくるはメロンパンを手にしている。あ、と声をあげると彼女は黙り込んだ。どうやら、密かに仕込んでいたジャム入りメロンパンを、自分が知らずうちに選んでしまっていたようだ。
 撮影は、ゆくるが家の階段を駆け下りて来る所から始まる。カメラは玄関で構え、そこで降りてきたゆくるとすれ違う。撮影は先ほど有珠が撮影する時に借りた、結城の知り合いの家を使わせてもらう事にする。
 丁度玄関から階段がはっきり見える為、合わせるのも楽だ。スピード感を出す為、最初はピントをゆくるのやや後ろに当て、一気にピントを合わせて顔をアップに撮る。
 玄関ですれ違ったゆくるは、カメラが背中を捕らえる。ゆっくりとゆくるに合ったピントがぼやけて、姿が背景にとけ込む。
 怖じ気づいたように足を止めてはまた走り出す、といった感じでとジスに言われているゆくるは何度かこのシーンを繰り返し撮影した。ゆくるが足を止める場所が、何となくジスがこれと思ったポイントと合わなかったのだ。
 また、階段での必死な表情もまた演技力が未熟なゆくるには、難しかったようだ。
「結局、配役が表現したい『感情』とカメラが表現したい『感情』が、ぴったり合うかって所なんだよね」
 ふふ、と笑って結城が言った。

 森屋和仁(fa2315)の撮影は、夜間行われた。彼が撮るのは、街灯の下‥‥それだけだ。
 モデルとしては、ゆくるを指名している。彼女は、自分の技術が未熟である事を、気にしているようだった。
「あの‥‥ゆくるは、演技はまだまだなので‥‥自分の事と照らし合わせて‥‥感じるままに演じようと‥‥思います。上手く出来るか‥‥分かりませんけど」
 実際、彼女は森屋にこう言った。森屋は、彼女を緊張させないように撮影に際した自分の思いや、自分が将来映画監督になりたいと思っている事などを話しながら、リラックスさせた。
「ゆくるさん、夜だからちょっと寒いと思うが、春から夏物の薄着でお願い出来るか?」
「はい‥‥大丈夫です」
 ゆくるは森屋と相談して、キャミソールに春物のカーディガンを羽織った。まだ吹き付ける風は冷たく、待っているだけでも鳥肌がたってくる。
 街灯からやや離れた所から、撮影が開始された。明るい所に向けて、ゆっくりとゆくるが歩く。友達と喧嘩して、仲直りの為に悩みながら歩いているシーン、とそう聞いている。
 早足ではなくゆっくりと‥‥。カメラは正面から捕らえている。
 やがて街灯の手前で、そっとゆくるが自分の体を寒そうに抱きしめて立ち止まる。俯いたまま、ゆくるはじっと地面を見つめる。
 やがて、ゆくるが。顔をきっと上げて歩き出した。カメラは心中の戸惑いや微かな迷いを表現するように、斜め上、正面を下からと切り替えながら映していく。
 あとで光量も調整するが、最初のシーンから次第に明るくしていく。彼女の心情を現す為である。
 ゆくるは時々立ち止まりつつ、家の門の前にたどり着いた。
 彼女の横顔を、カメラが見つめる。
 そして正面に移ったカメラに向け彼女は歩き出し、ドアホンに手を伸ばした。

 さて、と有珠が白蓮と向き合う。
 白蓮は、若いが演技は長けている。獣化せずとも安定した芝居をする事が出来る役者だった。
「ほんとはスチールで撮りたいくらいなんだけどね」
 と、有珠がは白蓮を見ながら言い、笑う。
 カメラの方を優先した為、有珠は白蓮にほとんど指導らしいものはしてやる事が出来なかった。
 女の子が一人立っているシーン。
 有珠は雨を振らせる為に機材を用意し、カメラをセットして一人で脚立に上がった。
 白蓮は、濡れながらしっかり演技をする。
 夜の公園に、白蓮が一人たたずむ。雨が彼女を覆い尽くすように降り続け、セーラー服を濡らして、白い髪が頬に張り付いた。
 ぼんやりと、彼女は両手を上げる。雨は彼女の手を伝い、したたり落ちる。じっとそれを見つめた後、白蓮は静かに空を<カメラ>を見上げた。
 視線は、カメラのずっと遠くを捕らえている。
 『少女』を現すセーラー服に対し、白蓮の表情は辛さと悔しさを滲ませている。大人と子供の狭間を、表情と服装で彼女は使い分けた。

 都路の前に白蓮と組んで撮影したのは、サラであった。サラは都路よりも1つ若い、青年だ。彼の目は右が青く澄んでいて、左はやや緑を帯びている。
 それまで、ストーリーを設定しようと思っていたが、ここに来て考えを変えた。
 舞台は桜が少し咲いているというのが理想だが、実際この時期は桜はほとんど散ってしまっている。撮影に選んだ公園の桜は、少なくとも幻想的な雰囲気を期待したようにはいかなかった。
 そこは後で何とかするしかない。
 白蓮が基本的に都路達から要請された服装は、春らしさ。その中でも都路はデート、サラは『大人と子供の中間』というテーマが渡されていた。
 皆それぞれ、作品に使う衣装は変えた。
「髪は縛らずにそのまま流して、手にロケットペンダントを持っていてほしい」
 とサラは彼女にペンダントを渡した。
 まず、小物やちょっとした動きから表現する事。サラが目指したのは、ここだ。
 夜から夕方に映る時間帯の公園、街灯の下に白蓮がぽつんと佇む。時計塔の下に、背をもたれるようにして白蓮が立っている。
 視線は地面に向けられ、うつむき加減である。胸に、しっかりとロケットペンダントを握っていた。
 カメラに写る彼女の目は、悲しげに曇っている。眉を寄せ、しかししっかりと地面を視線が捕らえたまま離さない。手の中の

夕方から夜へと移る公園の外灯の下でぽつんと佇む女の子。
顔は俯き加減。銀のロケットペンダントを胸あたりで握っている。
今にも泣きそうな表情だが、瞳には何らかの意思の強さが滲み出ている。
静かで音は無い。時たま風が吹き、女の子の髪を揺らす。
(もしカメラアングル指定が可能なら、だんだん引いて全体を写す感じに)
ぎゅっと、ロケットを一際強く握りしめた時、強い風が吹く。
散る夜桜の花びらの中で、やはり女の子は一人佇んでいる。彼女の軽く柔らかな髪が風にそよぎ、肩を撫でた。
 カメラ次第に引いていき、彼女はそれに合わせてすう、と視線をペンダントに落とした。
 やがてそれを胸の中にしっかりと抱えると、白蓮はきっ、と空を見上げた。
 風や桜など、自然は動かす事が出来ない。それにサラは手こずったが、終わった後もやはり『もっといい演出があったのでは』と、他の者の作品を見ながらサラが呟いていた。

 普段テレビドラマによく出演する都路帆乃香(fa1013)も、劇団を率いる身。
「今回は、女優としてではなく、演出家として参加させて頂きました」
 よろしくお願いします、と柔らかな物腰で都路が白蓮に挨拶した。白蓮もふわりと笑って答える。
 都路のチョイスは、春を装う色合いのスカートに、キャミソールとカーディガンのアンサンブル。手には小さなポーチを持たせた。
「彼氏と久しぶりにデートの約束をした女の子が、すっぽかされてしまう設定です。時間を経過させて、カメラはほぼ固定したままとなります」
「はい。何かまた撮影上指示がありましたら、言ってください」
 白蓮は固定カメラの前に立つと、都路と話合いながら少しずつ撮影を進めていった。
 公園にたたずむ白蓮の後ろには、時計が映っている。
 誰かを待っている様子の白蓮の表情は、少しはにかんだように‥‥そわそわしている。時計をふり返りつつ、ふいと小首をかしげた。
 時間を経過させ、白蓮が不安そうな表情でうろうろと歩き回る。
 椅子に掛けて待つ白蓮、通りに出て確認する様子の白蓮。
 やがて日は暮れ、携帯電話を取りだした。こちら側に背中を見せたまま、白蓮は誰かと話しをしている。
 手振り素振りから、白蓮の感情が怒りと悲しみに暮れているのが感じ取れた。
 そしてふり返った白蓮は、ポーチから紙切れを取りだす。それを細かく千切りつつパッと撒くと伏し目がちに眉を寄せ、その紙切れを振り切るように歩き出した。
 早足で、白蓮の姿が影を地面に引きつつ画面の端に消えていく。
 時間上、都路の撮影は一番最後となった。半日がかりの撮影だからだ。
 この手法はありがちなものだが、白蓮と都路の意志疎通がうまくいったのか、できあがりは結城に好評だった。
「服装に拘ったのも、さすが女らしくていいね。感情の変化と背景の変化が合ってて、いいと思うよ」
「いえ、皆さんの作品もとても参考になりました」
 都路はカメラや演出の他の作品も、真剣な眼差しで見入っていた。