蟇目大祭準備〜陰刀アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
立川司郎
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芸能 |
フリー
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
易しい
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報酬 |
2.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/24〜04/28
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●本文
蟇目大祭準備〜陰刀
−易に太極あり、これ兩儀を生じ、両儀は四象を生じ、四象は八卦を生ず。八卦は吉凶を定め、吉凶は大業を生ず
『周易 繋辞上伝』より−
「蟇目に使うのは、陰刀(インタオ)でなければ意味はありません。早急に、刀を三津屋から回収しなければ‥‥」
「だが、陰刀を奪った所で何の役にもたたないだろうに」
来島さん。
緋門あすかは、きちんと正座して来島を見据えた。
「10年前の蟇目大祭‥‥思えばあの時から、陰刀の行方が分からなくなりました。儀式に使った陰刀を奪ったと思われるのは、三名です」
「‥‥あの場に居たのは‥‥たしかシシリーと三津屋香奈、木崎昴、加賀芳晴。そして御領社長」
そこまで言って、来島はちらりとあすかを見た。
あすかは、至極冷静な表情をしている。‥‥そう見えるだけなのか? 来島は、言葉を続けた。
「あとは護衛の暗部隠密隊三名、そして‥‥緋門要(ひもん・かなめ)」
あすかは来島の言葉を聞くと、口を開いた。
「そのうち、三津屋香奈と木崎、加賀は死亡しています。シシリーが言うには、陰刀を奪ったのは彼らではないそうです。恐らく、彼の証言に嘘ではないでしょう」
「とすれば、暗部か要」
「‥‥陰刀を盗ったのは兄ちゃんじゃない‥‥と思います」
「だが、八卦の裏切り者だ。‥‥すまんな、止めようこんな事を言うのは。死んじまった奴の事は、悪く言いたくねえ」
「そうですね」
少し視線を落として、あすかが言った。
「ともかく、今の今まで隠していたのですから、暗部三名に手がかりがあると思います。誰が盗ったにせよ、必ず彼らの中に手引きした者が居るはずです」
そう言うと、あすかは視線を逸らした。
その視線の先には、黒い額に納められた青年の写真があった。
設定
[依頼]三名の暗部隠密隊員について調べ、彼らから陰刀について聞き出す事。今回陰刀が見つからずとも、手がかりが得られればよし。
[隠密隊員]
桂:猫好きの八卦実行隊員。現在、煉獄に収容されている。(「僕のルイ」参照:3/13〜)
芳井:現在、氷室刀剣店の手伝いをしている二人の八卦社員のうちの一人。年齢三十代の暗部隠密隊員。
立浪祐介:言わずもがな。
[十年前の動向]
十年前の蟇目祭で予選を突破したのは、ランズ=シシリー、三津屋・香奈、木崎昴である。予選を最終で突破したシシリーが、御伽峠のお社に到着したのは、トップの木崎昴が到着した二十分後であった。シシリー、三津屋ともに一度目の演技(演者は加賀)を見る事は出来なかった。そして幕が終わる頃、立会人が戻ってくると三津屋と木崎、前勝者である加賀芳晴は死亡していた。
当日の行動
芳井:誰かが上って来る足音を聞きつけ、そちらに向かった。向かう事は桂に言い残している。結局誰もいなかった為、引き返す。道中で立浪と合流。
桂:桂は芳井から、誰かが上って来るという報告を受ける。この間、シシリーはまだ来ていない。香奈が来た為、桂は彼女に事情を説明。会場では加賀が一度目演技の終盤を舞っていた。その後桂は、御領に呼び出される。御領とともに少し離れた所で、演者やシシリー達を見ている。
立浪祐介:立浪は黙々と周囲警戒にあたっていた。主に御領と要の側に居た。そのうち、芳井が居なくなった事に要が気づく。御領は、会場警備について一言言っておきたい、と離れて桂の所に。立浪は要とともに居る。その後、戻って来ない芳井の事が気になり、要が向かうように言う。
シシリー:詳しくは話すつもりが無いようだ。三人が殺害される間、シシリーは『便所』と言い残して会場から離れていた。
●リプレイ本文
[第一の証言]
十年前。御伽峠で行われた、蟇目大祭において一本の刀が紛失した。
それとともに、人が三人‥‥命を落とす。
「奴らはやる気になったのさ。シシリーだって、言い訳しなかったじゃないか」
来島が、ゆっくりと煙を吐いた。
こんにちは、と泉 彩佳(fa1890)が元気良く声をかけると、立浪祐介はのんびりとした調子で顔をあげた。
八卦で仕事をしている立浪の元に、アヤをはじめとしてトシハキク(fa0629)とリーゼロッテ・ルーヴェ(fa2196)が揃って顔を出した。ジスもロッテも、あまり景気の良さそうな顔ではない。
「ああ、どうしたんだい、今日はお揃いで」
「はい。ちょっと聞かせて欲しい事がありまして」
とジスが答えると、ロッテ、そしてアヤ達は黙って立浪を見上げた。場所を会議室に変えると、ジスが話し始めた。
「実は、十年前の蟇目大祭の様子を聞かせて欲しいんです」
ジスにそう問われて、立浪はふ、と苦笑した。有る程度想像していたのかもしれない。
彼は、実に事細かく質問をした。ジス自身、全て答えられるとは思ってなかったであろう。その質問に対する、立浪の反応が見たかったのかもしれない。
まず、芳井が戻らない事に気づいて、立浪が向かったその時の話を問いかけた。
「御領社長のお話では、社長が桂さんに会いに行っていますよね。ですから、それなりに時間が経過した後ではないでしょうか」
十年前、立浪はまだ23歳であった。八蟇大祭で護衛に当たっていたメンバー中最年長は芳井であった。立浪は要とともに御領の護衛についている。
「御領社長と要は、木崎達の様子を気にしていた。木崎と三津屋臣は、古い事件について調べていてな‥‥当日は何か密談をしていた様子だったから、よけいに心配していた。会場でも、香奈と木崎が何か話していた。それが何かは分からなかったが」
「では、御領社長が言いたかった事っていうのは‥‥」
アヤが聞く。
「当日何か起こるかもしれないと警戒していたから、そのことだろう」
立浪も、十年前の事はうろ覚えであった。
それにしても、八卦が鳳凰傘下であるのは偶然だろうか。アヤが小さな声で、考え事を呟いた。はっと顔を上げ、苦笑した。
[第二の証言]
当時八卦隠密隊であった桂は、傷つけられた愛猫の復讐をしようとして、八卦の依頼を受けた者達に捕まって煉獄に収容された。現在は実行隊の瀬戸口の配下として、活動している(むろん、収容中なので休職しているが)。
桂の元に行ったのは、御神村小夜(fa1291)と橘 遠見(fa2744)。うち、小夜はここに来るのが初めてである。
「話には聞いていましたけど‥‥こんな事はよくあるんですか?」
すなわち、自分‥‥桂が怒って暴走した事なのか、それとも煉獄にひとが収容される事なのか?
桂が聞くと、小夜は頬に手をやって焦って笑みを浮かべた。
「いえ‥‥聞いた限りだと、お優しい方に思えましたから。何だか意外です」
「すぐに出てこられますよね、ちょっとした騒動を起こしただけですし」
フォローするように、遠見がにっこりと笑って言う。桂ははは、と乾いた笑いを浮かべて頭を掻いた。
‥‥一応、反省しているようだ。
とても桂が犯人とは思えない。小夜と遠見の目には、彼が犯人には見えなかった。
ふと小夜の足下に、遠見が視線をやる。白い猫がするりと抜けて桂の元にやってきた。
しゃがみ込んで手を差し出すと、桂の側に座ったままにゃあ、と鳴いた。
「まだここに居るんですか?」
「そりゃあ、ルイが居ない生活なんて考えられないよ」
きっぱりと、桂が遠見に言う。
さて、本題に戻る。桂は当日、香奈に事情を説明して御領とも話をしている。
「香奈は、木崎と何だか真面目な顔で話しをしていたよ。社長が僕の所に来た頃、シシリーが到着して‥‥そうしたら木崎が、シシリーを呼んだ。でもあいつ“関係ない”みたいな感じで答えて、しらん顔してた。社長、木崎達の様子をすごく気にしてたよ。シシリーも含めて、彼らの様子を見ていて欲しいって」
その後、シシリーが小用と言って姿を消した為、桂は御領と共に舞台裏手に回った。幕内に引っ込んだ加賀に、シシリーが戻って来るまで2度目の演舞を待ってもらう為である。
しかし、裏手に加賀は居らず、舞台に上がると加賀が死亡していた。すぐに表に回る。そこでも、木崎と香奈が死亡。
木崎には弱冠抵抗したと見られる切り傷があったが、三名とも刀傷であった。
「ただし、当日は僕も含めて暗部はみんな武器を持っていたんだ。だから、誰が犯人か見当がつかない。一部の暗部は、シシリーが犯人じゃないと言ってたけど、それはシシリーが武器を持っていなかったからなんだ。芳井さん? 彼は俺たちの班長だった。今は氷室さん所の手伝いしてるけど‥‥当時はバリバリ仕事してたからね」
[第三の証言、+]
芳井滋。38才。10年前までは、八卦隠密隊として来島の元で働いていた。
当時自分とさほど変わらぬ年の来島が、上層部の信頼を得て隠密隊長に就任した事に、反対も賛成もしなかった‥‥中立派の一人である。むろん、反対した者も多かった。
氷室刀剣店に行くと、彼は店の机で事務処理をしていた。隣の部屋は作業所になっており、氷室亜矢の祖父が刀の手入れをしていた。
扉をぱたんと閉めると、芳井は皆を小さな応接椅子にすすめた。
芳井を訪れたのは、飛鳥 夕夜(fa1179)と各務 神無(fa3392)。神無は道中で飛鳥から、今回の話を聞いておいた。
「そういえば‥‥話とは関係ないんですけど、一尺三寸の中脇差しってありませんか? 無名でもいいんですが」
「そういうのは、居合刀を使うといい。うちで扱うのは美術品ばかりだから、安くても六十万前後だ。居合い刀の安い奴なら、ほら‥‥最近は通販ででも五万くらいである」
そのかわり、耐久力は保証しないが、と付け加えた。
閑話休題。ここには、刀を買いに来たのではない。
「すみません、最後に一つ。折れた剣の話を知っていますか?」
「テュルフィングと陰刀は関係ないですよ」
いつの間に帰ってきたのか、亜矢が部屋の入り口に立っていた。どうやら、話し声がする為開けてみたようだ。すぐに苦笑して、ぱたんと締める。
関係ないようです。飛鳥がため息をつくと、神無は今度こそ口を閉ざした。
「十年前の蟇目大祭‥‥当時もずいぶん、暗部から絞られたもんです。陰刀は無くなるわ、人死には出るわ‥‥鳳凰からもキツイお叱りを受けましたから」
ぽつぽつと、芳井が語り出す。
「おおよそは、お聞きになった通りです。私も当時の事は、もうよく覚えてないですが」
「誰かが上がってくる音を聞いた、と言っていましたね。それは確かな物音でしたか」
飛鳥が聞くと、芳井は考え込んだ。
その時は、確かにそう思って行ったんだが‥‥。とそう言うと、芳井は言葉を詰まらせた。
シシリーに会いに行った、ただ一人。滄海 故汰(fa2423)は、あすかの居ない間、シシリーの居場所を聞いて彼を八卦で呼びだしてもらい、あすかの家で待ち合わせをした。
さわさわと風が、木々を揺らしている。
神社の鳥居を抜けて、シシリーが戻ってきた。
「こたね、しーちゃんにお話を聞きに来たの」
「その話は、煉獄に入った時暗部に嫌ってほど聞かれたぜ」
だが、話さなかったけどな。そう薄笑いを浮かべて、シシリーが言った。
「とりあえずね、その時暗部の兄ちゃん達の話とか聞きたいの」
他の暗部のメンバーが気づかなかった事を、シシリーは覚えているかもしれない。
シシリーは鳥居に背を預けて、煙草を吸い始めた。
「陰刀か‥‥奴らととやり合うのも、面白いかもしれんな。‥‥いや、何でもないさ、餓鬼にはまだ早い。‥‥俺が着いたのは、三番目だった。丁度加賀が演舞を終えて、舞台から降りた所だ。御領と暗部の奴が敷地の反対側に立ってて話をしていた。すると、木崎が俺に気づいて呼んだ。だけど俺は“あんたらがどうなろうと、俺には関係ないね”と答えて無視してた。陰刀は、舞台に居る間は見てないね」
「じゃあ、しーちゃんは殺される事が分かってたの?」
「大体予想はしてた。‥‥奴らが何かやるだろうってのは、な」
にやりとシシリーが笑った。
「俺が居なくなった事か? あのタイミングで俺が居なくなれば、どうなるか分かってる。俺は、全部分かっていて居なくなった」
ううん、と故汰が頭を抱えて唸る。とりあえず、あすかに借りた地図をコピーして、そこにペンで書き込んでゆく。日本語の上手いシシリーも、日本語を書くのは上手くないようなので、手伝ってはくれなかった。仕方なく故太は、一人で証言を書き留める。
「‥‥よくわかんないの。しーちゃん、要って人はどんな人だったの? みんな、裏切り者だって言ってたの」
来島は、裏切り者だと言っている。それがどういう意味なのか、
来島は故汰には答えなかった。
「裏切り者は裏切り者さ。‥‥八卦は、中国からこっちに来た時からずっと、内部分裂をしてんのさ。要は、その一人って訳だ」
何でそれを知ってるの、と故太が眉を寄せてシシリーに問いかける。
「俺が殺したからさ。要は、八卦に寄りすぎた‥‥アイツは八卦からも俺たちからも、要らないモノ扱いされたのさ」
俺たち。それは黒く、そして冷たく‥‥。
シシリーは笑っているだけで、答えない。
[そして刀の行方]
「緋門要‥‥っていうのは六年前にシシリーに殺された、八卦暗部の人間だ。あすかの両親は小さい頃から、あの神社の社務所で働いていてなあ。んー‥‥言っていいものか‥‥まあいい」
煙草をくわえ、来島がロッテの問いにぽつりぽつりと話し出した。
「あすかは本当は、夏目あすかって名前だ。‥‥あすかの両親はNWに憑かれて、要や俺達が始末して‥‥その後、要の養子に入ったんだ」
後から思えば、要がその時あすかをフォローしなかったのは‥‥あすかを利用しようと思っていたからなのかもしれない。それでも、訳が分からず両親に泣いてすがる幼いあすかに、誰も声を掛けてやる事が出来なかったのである。
要はあすかの手を、血の色にも似たNWの体液で濡れた手でぎゅっと握り、微かな声をかけた。
あすか、ごめんね。‥‥と。
シシリーや暗部三人の証言を元にして、アヤが八人で当時の出来事を再現してみる事となった。
「誰が持っていったにせよ、聞き込みした情報に矛盾や穴があれば、見えてくると思うんです」
アヤの言葉に、異を唱える者は居なかった。さっそく全員で証言を持ち合わせ、役割を振った。
立浪をジス、芳井は飛鳥、桂は神無。そして御領をロッテ、要をアヤ。参加者のうち木崎は遠見、三津屋香奈は小夜、最後にシシリーは故太に。
「殺した事をさておき、話を聞いた限り、この時間帯に誰も陰刀を確認していない。つまり、この時点で既に持ち去られていたかもしれない」
飛鳥が、再現を終えて話した。
自ら芳井を演じてみて、感じていた。彼は一人で活動している時間が一番多く、また“誰かが上ってくる音を聞いた”という事すら、口実であったと考えられる。
「『葉を隠さば森へ。森が無くば造れ』って言いますしね」
神無が、頷きつつ言った。氷室刀剣店に居る事も、刀を隠す為だと考えられる。
「仮にも暗部に所属する人が、聞き間違いなんてあるでしょうか。それに都合良く、その時間帯に居なかったというのは、シシリーさんだけでなく芳井さんにも当てはまります。‥‥アヤさん達は、陰刀について何かお聞きになりませんでしたか?」
アヤとロッテは、ちらりとお互いを見る。
それから、ロッテが口を開いた。
「陰刀が儀式に使われていたというから、演舞にも使われていたのか聞いたんだ。来島さんは、その時陰刀は奥にある扉の前に設置した祭壇前に置いていたそうだ。つまり、誰も見ていなかった」
来島は、まさかあんな刀を取っていく奴が居るとは、思わなかった‥‥と答えた。その上、会場には隠密班が三人も配置されていた。
一方アヤは、別の事が気になっていた。確か陰刀は、中国から八卦が持ち込んだオーパーツを打ち直したものだと言っていた。華美を追求した新刀から、需要に合わせて打ち直したのが新々刀。何故、祭儀用の刀を実戦的に打ち直す必要があったのか。
「ともかく‥‥あたしは、芳井を放置しておくのが心配だ。もし奴が犯人だとすると、今回の聞き込みで何か動きを見せるかもしれない」
「刀を持ち出される‥‥という事?」
アヤが聞くと、飛鳥が視線を落とし、考え込んだ。
芳井が持ち出したとすれば、間違いなく‥‥神無が言うように、刀は氷室刀剣店にあるだろう。
「殺害された時に盗んだのであれば、一番ノーマークだった要さんが犯人だと考えられますね。その後、彼の動きは確認されていませんから」
小夜が言った。
今回再現してみて、一番動きが読めなかったのが芳井と要の二名だった。
「要が三人を殺害したとすると、刀は最初から持っていたから問題ない。盗んだのは芳井‥‥とすると、芳井は刀を二本持っていた事になるけど」
「どこかにかくしておいて、取りに戻ったとも考えられます」
ロッテに神無が答える。つまり、桂と話していた間は陰刀を叢にでもかくしておいた。そして桂と別れたあと、陰刀を取りに戻って下山し、陰刀を隠す。
はたして、飛鳥の不安は的中するのか‥‥刀の行方を確認する為、いずれ氷室刀剣店に行かねばなるまい。