百鬼夜行〜鬼の手アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
立川司郎
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
2.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/27〜05/02
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●本文
毎日毎日、たった一人で掃除して開店準備をしていたじいちゃんがあの世へ拉致られたのは、1ヶ月前の事だった。
「もう、閉めてもいいんじゃないの?」
と、母はそう言ったけども。私はなんか、納得いかなかった。
じいちゃんは、PLOJECT:八卦を退社して20年。ずっと一人で映画館を経営してたんだ。鳳凰も八卦も、いろんな映画を上演してきた。
何よりじいちゃんは、大学生やら自主制作映画やら、そういったアマチュア映画を見るのが好きだった。
「‥‥この映画館は、あたしが継ぐ」
きっぱりと、両親に向けてあたしは言った。
街の狭い裏路地沿いに、その映画館はある。大手映画会社の作る『あまり売れてない』映画を上演するのが、好きだった。
むろん、そんなものばかり上映していてはお金にならないし生活出来ない。
八卦を退職して父から映画館を譲り受けた男は、周辺に立つ大きな映画館に客を取られてもなお、そんな自主制作映画を上演し続けた。
小さな映画が、本心から好きなのだろう。
そうして1ヶ月前。主の訃報は、映画館の扉に張られた。
「じいちゃんの遺品の中で、いろんな人からもらった脚本やら、じいちゃんが八卦に居た頃関わった仕事の没原稿とか、あったんだ」
古びた書類を、西野レイはテーブルの上に出して見せた。
その一つが、『百鬼夜行』であった。
大正時代を舞台に、人ならぬモノ『鬼』と人との戦いを描くストーリーだ。
「なんか、B級っぽいって言われて却下されたんだって。でも、じいちゃんはB級映画が好きだから、捨てずに持ってたって言ってた」
祖父の血を継いだレイは、やはりそういった変わった映画が好きだった。
「なあ、これ使って映画が撮れないかな。‥‥あんまりお金はないんだけど、ウチを‥‥映画館“ウエストシネマ”を潰したくないんだ」
[百鬼夜行]
人ならぬもの、“鬼”の通る道がある。
それは、通常人の目には見えない‥‥しかし、見鬼と呼ばれる、鬼を見る力を持った者にはその鬼の道がはっきりと見えるという。
物語は、ある女学生が鬼の手を手に入れる事から始まる。干からびた、右手のような形状の干物‥‥。
それは月夜の晩の事、少女は見知らぬ青年と出会った。まるでずいぶんと昔から自分の事を知っていたかのような口ぶりで、青年はそれを‥‥鬼の手を渡した。
そしてその鬼の手を求め、鬼が彼女に迫る。鬼の手は何故、何の為に彼女の手元に渡ったのか。そして、それを求める鬼は‥‥。
[配役]
女学生:見鬼の力を秘めた少女。何らかの理由で、鬼の手を手に入れる。
青年:鬼を退治する事を生業とする退鬼師の青年。女学生の事を、何故か昔から知っているかのような口ぶりだが。
鬼:鬼の手を探している鬼。鬼は、千年の時を生きると言われる。
[映画設定]
舞台は大正でなくともかまいません。シナリオもアレンジ可。皆さんに任せるそうです。舞台は現代にした方が、手間がかからないと思います。
いわゆる退魔ものの呼称を、鬼に替えたと思うと分かりやすいでしょう。
細かい設定は全てお任せします。映画なので、設定は「やったが勝ち」です。少女と青年の設定は、デフォルトでは青年が鬼とのハーフで、少女は生まれ変わり。それ以外の設定や配役は、各自で話し合って決定してください。ただし、伏線を残してでも一旦映画内で展開を終わらせてください。鬼の手の設定は消化しきれなくとも、かまいません。
B級映画の方が、レイは喜ぶようです。むしろC級でもD級でも可。
●リプレイ本文
[幕開]
ほの暗く地上を照らす闇に、蒼い月が張り付いている。
その光は冷たく静かに、ビルの屋上へ影を落としていた。長く伸びた影にはえた、蝙蝠のような羽が音もなく、閉じられる。
吸い込まれるように、羽は黒いスーツの背中に吸い込まれた。
“彼(伊達正和(fa0463))”の視線は、真っ直ぐに眼下の交差点に向けられている。風に、ふわりとスーツの袖が揺れる。ポケットに突っ込まれた左手と逆‥‥右手は、肘から先が無かった。
何かの気配を感じたのか、ふと顔をあげて宙を見上げる。
「‥‥居たか‥‥陰陽師」
ふ、と男は唇の端を歪めると、高らかに笑った。
そして彼が見つめていた交差点を歩む人々の中、一人の少女が足を止めた。すれ違う人々が、スローモーションのように視界に滲む。
右手に抱えたバイオリンのケースが、女性の体に接触した。
「‥‥あ」
少女が声を上げると、女性(稲森・梢(fa1435))は軽く会釈をした。
「大丈夫、気にしないで」
灰色の髪をした女性が、サングラスを少しずらしてこちらを見る。涼しげな目が、優しく笑っていた。こちらも会釈をし、顔を前方に向ける。「‥‥サナ」
彼女の口が、そう発した‥‥。倉田佐奈(阿野次 のもじ(fa3092))がはっ、とふり返ると、そこにはもう彼女は居なかった。
「それじゃあ、姉御。監督はよろしく頼む」
と手を挙げると、蓮城久鷹(fa2037)はにやりと笑った。
本当に申し訳ないと思っているのかどうか、その笑いからはどうも“じゃあ、後は頼むから”という意図しか読めないわけだが。
中松百合子(fa2361)は腰に手をやると、蓮城を見つめた。
「ちょっと、蓮城君。別に監督をするのはいいんだけど、姉御っていうのは何よ、姉御ってのは!」
「いや、年上は目上、これは礼儀ですよ姉御」
「女性に年の話はするな、って教わらなかったかしら」
目を細めて中松が語気を強めると、蓮城はひらりと伊達達の方へと駆けてしまった。
今回彼は、他の出演者からの脚本纏めや予算組、八卦からの機材調達やスタジオ確保等、やる事は山ほどある。中松は本業はスタイリストであるが、監督が出来るだけの経験は積んでいた。
行ってしまった蓮城を見送ると、中松はシナリオ原案を見ながら各人の衣装について考えはじめた。
先ほど中松が、女学生はセーラー服がいいかしらと呟くと、相手役の風祭が“セーラー服にしよう”と激しくプッシュしていたので、やはりセーラー服がいいだろう。
「それじゃあ、風間くんはスラックスに、コートで‥‥」
中松は案を、脚本に書き込んでいった。
[一幕]
どこにでも居る普通の女の子倉田佐奈は、ある日出会った稲森という女性に誘われて、夜の神社で奇妙なミイラを手に入れてしまう。鋭い爪の生えた人の右手のような形のそれを、稲森は“鬼の手”と称する。
なんだかよくわかんねーよ、なんだよこれ! と投げだす所だけど、どこにでも居る普通の女の子の佐奈は稲森と出会った時に感じた、妙な白昼夢が気になってしょーがない。
自分に似た巫女服の女の子が、古風な服装のイケメン兄ちゃん・高遠(風祭 美城夜(fa3567))が黒王鬼っていう鬼と戦ってたりして、しかもそのイケメン兄ちゃんが死んじゃってたりして、そんないい所で終わった夢も、稲森に時々尻尾がはえてるように見えるのも、全部夢かもしれないなんて思っている所に、夢で見たイケメン兄ちゃんが現れて、しかもあの鬼も出てきてさあ大変!
そんなこんなで、佐奈は決意するのです。
「パパ、佐奈は戦いに向かわなければならないのです。佐奈は鬼と戦う宿命を背負っているのです!」
パパと呼ばれた男は、百畳もありそうなだだっ広い和室の一番上座にでん、と座っていた。左右には、人相の悪い黒服の男が(しかも小指がありません)座ってたり。
‥‥パパ?
鬼の手?
夢の中で、自問自答する。
サナは、夢の中‥‥青年が自分の体をしっかりと抱えて座り込んでいた。何が起こったのか、周囲の地面は抉られ、灯籠もざっくりと斬り倒されている。
彼女が身に纏う巫女装束は、土埃と血で赤黒く染まっていた。
‥‥何なの、何か大きな獣と戦ったような‥‥爪痕が。
地面にも、彼女たちの体にも‥‥高遠の体にも。
「高遠‥‥」
「サナ、死ぬな! ‥‥あれを護らなければならない‥‥君が必要なんだ」
地面に残された、一本の腕。
「君にしか出来ない‥‥あの手を、鬼の力を閉じこめた手を、護る事が出来るのは‥‥」
ふい、と霧が晴れた。気が付くと、佐奈は夜道に立っていた。
彼女の心を見透かしたように、稲森がこちらを見ている。
「‥‥何か見えた?」
くすりと稲森が笑う。
‥‥まただ。彼女の背後に、金色の尾が見えた気がした。長く伸びた影と‥‥そして、彼女の後ろと。
「おいで」
稲森が誘う。大丈夫、あなたの白昼夢も‥‥不思議な幻覚も、わかっているから。
くすくすと、彼女は笑って歩き出した。
‥‥空を見上げると、月が出ていた。青白い月が彼女を照らすと、そこに‥‥尾が見えた。
彼女はそこで、一人の青年と出会う。
高遠と名乗る青年は、白昼夢で見た青年と似ていた。
「お前か、巫女の生まれ変わり‥‥!」
鋭い声を、高遠の横に立つ女性が投げかける。激しい怒気を含めた、獣のような気配だった。身を白いスーツとサングラスで覆っているが、まるでその性質は炎のようだ。
「‥‥あなた‥‥」
佐奈の目に映る彼女・虎姫(ブリッツ・アスカ(fa2321))は、半獣のモノに映っていた。思わず後ずさりをした佐奈を、虎姫が鼻で笑う。
「人ごときに、高遠が護れるものか」
「フー、いいんだ。‥‥サナ、これだけ‥‥これは君にしか護れない。だから、これさえ持っていてくれれば」
君にまた会えて、よかった。
まるで夜闇に消えそうな、薄い声。高遠は佐奈をじっと見ていた。
彼が渡したもの、それはひからびた手だった。‥‥鬼の手。彼は、小さな声でそう呟いた。
まるで、知らないモノを見るような‥‥恐怖と猜疑心に満ちた目。
彼女を見送る高遠に、そっと虎姫が声を掛ける。
「‥‥あれは違う。お前が知っているサナじゃない」
虎姫は、静かな声でそう高遠に言う。それはわかっている、とこちらをふり返りもせずに高遠は淡々とした口調で答えた。
それでも高遠は、彼女が去った方向を見つめていた。
[二幕]
撮影開始まで、蓮城と中松は結構大変な思いをした。
まず蓮城は緋門神社で、あすかの家からモデルガンを山ほどかっぱらって来て、ついでに八卦の小道具を担当している氷室刀剣店で模造刀を借りる手配をした。
鬼の手は玩具を加工して作る事にし、そうこうしているうちに一番入れたかった桜のシーンは、4月下旬に開花する山桜を探し出して(当たり前だが、ソメイヨシノはもうとっくに散っている)夜間撮影を行って戻ってきた。どうやら、時間的にもここでの撮影は難しそうだ。
あとは鬼の手を加工しながら、脚本の様子を見るだけだ。
「予算は、爺さんの残した金から2百万出すって言ってたなら、何とか収まるだろう」
「十分だと思うわ。そもそも、それほど予算がかかりそうなものがないもの。機材は八卦からタダで借りてきちゃったんでしょう?」
中松が聞くと、蓮城が苦笑して頷いた。退職したじいさんの遺作となれば、八卦も金を取るとはいえまい。
そうして中松は、各人の衣装を調達して5人の俳優のスケジュール調節も行った。
殺陣に関しては蓮城が、血糊等は中松が行う。
これから行う、アスカ演じる虎姫の死亡シーンで、高遠と佐奈に付着させるのだ。
「虎姫や伊達君の鬼、血というイメージでもないんだけど‥‥」
「とはいえ、伊達もアスカも本気でやり合うんだろうからなあ。血くらい出るかもしれんぞ」
ぽりぽりと蓮城が頭を掻いた。
鬼の手を奪還する為、再び彼らの元に現れた黒王鬼‥‥。彼の攻撃に、高遠は追いつめられる。右腕を無くしているとはいえ、黒王鬼の力は高遠一人の手には余る。
そして‥‥高遠を狙い、後方から炎が舞い上がる。それは、稲森が立っていた方向から‥‥。
「高遠!」
彼を庇って炎を受け止めたのは、虎姫であった。立て続けに、黒王鬼の波光神息が虎姫を捕らえる。叩き付けられた拳に吹き飛ばされ、虎姫が壁に叩き付けられる。
男の右手に、しっかりと握られた右手‥‥鬼の手。
傷ついた虎姫の体は、再生不可能な程に痛んでいる。
「虎姫!」
高遠が虎姫を庇いつつ、きっと視線を黒王鬼に向ける。しかし、高遠は長い間自分を支えてくれた虎姫を放っておくことなど出来なかった。
虎姫の体を起こすと、高遠がその体に手をかざす。しかし虎姫は、その手を握って制止した。震える声で、それでも虎姫が笑顔で言う。
「‥‥高‥‥遠。お前には‥‥佐奈が居る‥‥。俺なんかが居なくても‥‥」
「虎姫!」
「これは頂いていくぞ。せいぜい、最後の逢瀬を楽しんでおけ」
高く高く笑い声を残し、黒王鬼がふわりと夜空に跳躍する。佐奈は黒王鬼を視線で追いつつ、ふと周囲を見まわした。
いつのまにか、稲森が居なくなっている。
「稲森さん!」
声が虚しく、静寂に木霊する。すう、と虎姫と高遠に目をやり、静かに近づく。
「あとは‥‥頼む、佐奈。あたしの大事なひとを‥‥支えてやってくれよ」
「そんな‥‥。私は、高遠って人もあなたも鬼も、そんなの‥‥知らないわ」
するりと、高遠の腕をすり抜けて地に崩れる、虎姫の腕。
声もなく高遠は彼女の体を抱きしめる‥‥しかしさらさらと彼女の体は風に紛れ、ゆっくりと消えていった。
佐奈はただ、呆然と彼の様子を見つめるしかなかった。
「‥‥余計な事を」
左手に持った鬼の手を見つめながら、黒い影が呟いた。
後ろに立つ金色の妖狐が、すうっと笑みを浮かべる。
「手が戻ってきたのだから、そんな恐い顔をしないでちょうだい。お互いさまでしょう?」
稲森はそう言うと、闇の中に姿をかき消した。
月下に、さわさわと風が吹き込む。
じっと彼は、そこに立ちつくしていた。長い間自分を支えてくれた、鬼‥‥。
「虎姫、すまない」
高遠はそう呟くと、ふり返った。そこに立っていたのは、佐奈であった。ゆっくりと足下から視線をあげると、彼女はゴルフバッグを抱えていた。
「帰ったんじゃ‥‥なかったのか」
「出入りだ、高遠。しっかりしろ!」
きょとんとする高遠。彼女の言う事はよくわからないが、彼女がやる気になっている事は察する事が出来た。
危険な戦いだけども‥‥それでいいのか。高遠が問うと、彼女はバッグを開けた。
中から出てきたのは、非合法的に持ち込まれたと思われる銃器や刀。
「パパから借りて来たの。これで準備万端だ!」
「しかしサナ、これは遊びじゃない‥‥!」
「覚悟を決めた人間に、四の五の理屈はいらねえ!」
可愛らしい顔で、佐奈が怒号を上げる。黙っている高遠に、笑顔を向けた。
「鬼退治に参りましょう」
手を差し出した佐奈の笑顔は、あの時のまま‥‥。
そして彼らは最後の戦いに赴く。
[スタッフロール]
<CAST>
倉田佐奈(サナ):阿野次 のもじ
陰陽師・高遠:風祭 美城夜
黒王鬼:伊達正和
妖狐・稲森:稲森・梢
虎姫:ブリッツ・アスカ
<OP曲>
阿野次 のもじ
<美術・編集・撮影>
蓮城久鷹
<衣装・監督>
中松百合子