行きはよいよい‥‥アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 立川司郎
芸能 フリー
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 3.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/30〜05/04

●本文

 携帯電話の向こうから聞こえる声は、やや震えていた。
 受話器をしっかり握ったまま、彼女は煙草を口にくわえる。
「落ち着きな、焦ってもどうにもならないだろ」
『だっ‥‥結城さん、2人も殺られちまってたんだぞ? ‥‥奴はまだこの辺に居るはずだ!』
「分かってる‥‥誰か人をよこしてやるよ」
『もういい、本物か偽物か、俺にゃ判断つかねーよ!』
 そう、相手が怒鳴りつけてきた。

 お前が、八卦の結城さんがよこしてきた実行隊か?
 そう聞きながら、ライトを照らす。暗闇の中にぼう、と照らし出された人影は、赤い髪をしていた。
「ああ‥‥」
 表情の変化に乏しいその青年は、二十歳そこそこだった。目がライトに反射して、鈍く光っている。
「‥‥」
 野犬の姿をしたNWを倒す為、確かに八卦から増援が来る予定になっている。彼は無言で、立っていた。
 男はほっと息をついた。
「まだ餓鬼じゃねえか。ほら、こっちにこい」
 仲間がこの先の廃屋で、待っている。そう言いながら、携帯電話で、結城に連絡を入れた。
「ああ、結城さん? 今着きましたよ‥‥赤い髪の餓鬼が。‥‥え、そんな奴知らない?」
 後ろから‥‥メキメキと何かが殻を破るような音が聞こえ‥‥世界は永遠に暗転した。

 うう‥‥あ‥‥っ。
 入るなり、青年は唸るような声を発した。
『おい、どうした返事をしろ!』
 手に持った携帯電話で、仲間が怒鳴っている。
「な‥‥っ」
 何だ、こいつ。息をのみ、その男を見つめる。ヒトの姿を真似ている‥‥。
 からりと携帯電話がおちる。
「赤い髪の‥‥っ」
 そして、闇が下りる‥‥。

 結城貴子は問題の山地の地図を、前に差し出した。
「この山にある、登山道の途中に山小屋がある。野犬の姿をしたNWを狩り出す為、二週間前に二人送り出した‥‥。だが、すばしこくてな。もう一人追加で行ってもらったんだ。そうしたら、増援の奴が着いた頃には二人とも死んでいた」
 一人は登山道の途中で。もう一人は山小屋の中で、ほとんど身を残さず食らわれていたという。
「最後の連絡で、赤い髪という言葉を発していたという。だが、『本物の増援』は同時刻に山小屋の奴に連絡を入れてる‥‥そう、二体居る可能性がある」
 ソファにもたれると、結城は煙草を灰皿でもみ消した。
「行きはよいよい、帰りは怖い‥‥赤ずきんちゃんって、とおりゃんせの歌に似てないか? 赤ずきんちゃん、あちらの古い童話じゃ喰われたままなんだそうだよ。怖い話だねえ」
 結城は静かに目を閉じ、言った。

設定:
結城貴子:「PLOJECT:八卦暗部実行隊」の、実行隊長。NW事件諸々の力仕事を担当している。
シナリオ:赤ずきんちゃんっぽい何かです。でもまっとうなNW依頼なので、まっとうに狼さんを倒してください。赤ずきんちゃんを元にしてある事に、何らNWは関係ありませんし、NWはそこまで賢くありませんし、伏線もありません。
状況:以下の情報のみ仕入れています。登山道で出迎えた者と山小屋に居た者が元から居た実行隊で、追加の者が来た時には2人は死亡していました。登山道に居た男が電話で話していたのは結城で、山小屋に居た者が電話で話していたのは『本物の、追加で来た男』です。時刻は、双方ほぼ同時刻。追加で来た男は、今も山小屋で誰か助けに来てくれるのを待っています。
NW:野犬の姿をしているかもしれない、赤い髪をしているかもしれない、二体居るかもしれない、確実に二人殺されている。

●今回の参加者

 fa1827 トーマス・バックス(19歳・♂・狼)
 fa1890 泉 彩佳(15歳・♀・竜)
 fa2196 リーゼロッテ・ルーヴェ(16歳・♀・猫)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa3392 各務 神無(18歳・♀・狼)
 fa3425 ベオウルフ(25歳・♂・狼)
 fa3489 森木 久美(18歳・♀・熊)

●リプレイ本文

 暗雲垂れ込める山道に、影八つ落ちる。
「狼が狼狩り‥‥面白くもない冗談ですね」
 口にくわえた煙草の灰を携帯用の灰皿に落とすと、各務 神無(fa3392)はぱたんと蓋を閉じて片手をポケットに押し込んだ。
 現在電話でリーゼロッテ・ルーヴェ(fa2196)が八卦と確認を取っているが、やはり先行している追加メンバーとの連絡は取れていないようだった。念のためロッテは、暗号か何か決め事がないか聞いているが、それも無いようである。
「この間の件といい、八卦も大変だなぁ。人手不足なら、募集すればいいのに」
 俺は嫌だけど。佐渡川ススム(fa3134)はけろりとした様子で、そう付け加えた。
 電話を切ったロッテは、首を振ってため息をついた。
「どうする? 一応八人で山小屋に行ってみようか」
「NWは獣化出来ないんだから、やっぱり皆で獣化するのが一番の証拠だと思う」
「そうだねアヤ。どのみち山小屋が活動拠点になるんだ、皆でいってみよう」
 ロッテがそう言い、八人は山小屋を目指す事とした。

 山道からやや離れた山中に、小さな山小屋があった。山道管理をする者や、やむなく山中で一夜を過ごす事になった登山者などが使用する目的で、設置されてある。
 よもや山小屋を造った者も、獣人がNWから隠れる為に使用しているとは、思うまい。
 聴覚に優れたトーマス・バックス(fa1827)やロッテが周囲を警戒する中、イルゼ・クヴァンツ(fa2910)が山小屋のドアを叩いた。
「八卦から派遣されて来た者です。ここを開けてください」
「八卦から? またNWじゃないのか!」
 男はドアを開ける気配がない。後ろで高性能双眼鏡を手にしたロッテが、背を向けたまま声をあげた。
「あなたは、八卦暗部実行隊の刈谷さんですね。結城さんから聞いています」
「じゃあ、なんて結城さんが来ないんだ」
「忙しいんじゃないかな」
 ぽつりと佐渡川が呟く。神無は、ため息をついて目を伏せた。
「そんなに出たくないなら、一生そこで怯えて暮らすといい」
「仕方ない、アヤが言うように獣化してみせるとしましょう。皆さん、いいですか?」
 イルゼがふり返る。全員、異論は無い。
「私たちは獣人です。‥‥これだけ言っても分からないなら、見てください」
 と、うっすら窓が開いたのを確認して、イルゼは神経を集中した。イルゼだけでなく、全員が獣化状態を取る。
 狼の姿のイルゼは、赤い目を窓に向ける。
「どうです、獣の姿を取るNWだと言い張りますか」
 彼女の言葉に、ようやく扉が開けられた。
 長い間まともに食事を取っていないのか、彼の顔色は生気を失っている。ほっと息をつき、イルゼとロッテが顔を見合わせた。

 安心してもいられない。
 各員、トランシーバーの通信状態を確認すると、三班に分けた。
 隊長の優れない刈谷を連れて行けない為、NWを発見するまでは四人がここに残る事になる。残り四名を二班に分け、NW捜索。発見次第、彼らが駆けつけるという手順だ。
 まず視力による観察力の優れたの良い泉 彩佳(fa1890)と脚力の優れたベオウルフ(fa3425)、監視と追跡能力に長けた佐渡川と追跡に優れた神無というペアで、周囲に散る。
 残るトーマス、ロッテ、イルゼ、そしてやや脚力に自信がない森木 久美(fa3489)がここに残る事とした。
 こと、森木は完全獣化してもトーマスの足に追いつかない。
「仕方ないわ、急を要する場合はトーマスに行ってもらって、あなたは刈谷を護る事を優先して」
 冷たくそう言うイルゼをフォローするように、トーマスが頷いた。
「気にシナイ、森木。ミナ、得意なコト、得意じゃないコト、ある」
「ありがとう、トーマスさん。私、その分頑張るから」
 とはいえ、各人森木よりも戦闘に自信のあるメンバーばかり。緊張の中、イルゼ達は淡々と準備を進めていた。
 山道は佐渡川が八卦に相談し、“撮影中”という立看板を設置してある。山道を通る人間に近寄らせない為だ。ロッテは拳銃の使用を考えていたのだが、この山中でうっかり味方を撃ってしまったら大変な事になる。木々に遮られて視界の悪い山地での使用は、諦めた。
「アヤ寂しいです、ぇろさんと離れるのは」
 さらりとはっきり大きくすっぱり言い切ったアヤに、佐渡川がそんなあ、と声を上げた。
「俺も残念だ、今日はミニスカートのアヤちゃんが拝めないで。あまつさえ、同じ班になりないなんて。せめて、お別れの抱擁を!」
「うそです☆」
 にっこり笑ってアヤが、佐渡川の抱擁を横に避けた。
 ‥‥‥‥エロ?
 神無が彼をじーっと見つめた。

 アヤと組んでNW探索に向かったベオウルフは、女性の多い今回のメンバーの中でも特に華奢なイメージのある彼女の実力を、ちょっと計りかねていた。
 何せ190cm近くあるベオと彼女は、まるで絵に描いたように身長差があったから。
 登山用の服と靴で参加し、仲間とのトランシーバーによる通信も確認を怠らないベオは、さっそくアヤとともに山に入った。
「アヤ、ちょっと気になったんですけど」
 くるりとふり返り、アヤが声を掛けた。
「なんだ」
「電話での話からすると、山道では後ろから、山小屋は正面から襲われたみたいだよね。でも、NWって実体化するのにちょっと時間がかかるって言うでしょ?」
 つまり、話を聞く限り後者は一部だけの変容である可能性があるとアヤは言いたいようだ。
 なるほど、確かにそうかもしれない。ベオは感心した。
 観察力だけでなく、彼女はこれだけ山道を歩いていても息も切らさない。人は見た目によらないというが、まったく驚かされる。
「お前、見た目は華奢だけど‥‥息が全く乱れていないな」
「プロレスラーだもん」
 ついそう聞いた言葉に笑って答えたアヤの言葉に、ベオは眉を顰めた。本当かと疑いたくなるが、どうやら本当らしい。逆にベオの方が引っ張られる位だ。
「じゃ、NWの発見は任せる。半獣化までなら時間もかからないだろうから、俺は奴の足止めに先行する」
「はい。‥‥そう言ってる間に、やってきたみたいだね」
 アヤが差した方向を、ベオは確認した。半獣化し、俊足を生かしてその方角に駆ける。アヤを置いてけぼりにしないよう、彼女にも注意しながら接近する。
 ‥‥まあ、心配ほど弱くないようだがな。ベオはふとそう笑い、目標を確認した。
 赤い髪の男‥‥こちらを見ると、かすかに左手を変異させた。
 しかし変異しきる前に、組み付いた。
「‥‥連絡は頼む!」
 叫んだベオにアヤは了承の声を発した。

 連絡をトランシーバーで受けた森木は、ロッテにすぐに知らせた。
「イルゼ、ロッテ。ワタシ足にも耳にも自信アル。どうする、ワタシが行く?」
 まだもう一体残っており、ここにも来るかもしれない。トーマスが聞くと、ロッテが顔をあげた。もいもう一体現れた場合、相手を眠らせる事の出来るロッテであれば時間稼ぎが出来るかもしれない。
「分かった。ロッテ、ワタシ先に行くヨ!」
 トーマスはロッテに声を掛け、半獣化しつつ疾駆した。ロッテもすぐさまその後を追い、イルゼは取り乱す事なく、中の刈谷に状況を説明している。
「神無達ももう一体を探しているはずですから、私たちはここに居ましょう。あなたもその方がいいでしょう、ここにNWが来ないともかぎらないもの」
「はい。‥‥なんかすみません、慣れない事ばかりで‥‥」
「何故謝るの」
 イルゼはそう言うと、森に視線を向けた。
 彼女なりに、森木にアドバイスしているのかもしれない。

 立ち止まってイルゼからの報告を受けていた神無は、トランシーバーを切って佐渡川をふり返った。
「一体、見つけたようです。もしかすると、もう一体は山小屋近辺に居るかもしれない。探しながら引き返した方がいいかもしれないが‥‥どうする?」
「ああ‥‥君の言う通りだと思う。カンナ‥‥だっけ?」
 つい名前が出てこずに狼狽した佐渡川に、神無は無言で視線を向けた。
「ご、ごめん!」
「せめて組む相手の名前くらい覚えてください。‥‥それじゃあ」
 ややうつむき加減で、神無が言葉を続ける。
「そのかわり名前で呼ばせてもらおうかなススム」
 彼女の言葉に、はっと佐渡川が驚いた。
「も、もしかするとフラグが立った?!」
「塵ほども立ってないから」
 すう、と神無は山小屋の方に足を向けた。
 佐渡川が声を出すと同時に、神無のトランシーバーが反応する。
 林の合間に見える山小屋の遙か左側、何かの影が見えた。瞬間弾かれたように駆けだした佐渡川に続き、神無は森木に連絡を取った。
『こっちからも見えました! すぐに向かいますから‥‥単独で無理はしないでくださいとの事です』
「そう‥‥でもススムはやる気のようだね。悪いが、私も賛成だ」
 神無達の連絡を待っていたイルゼより速く、佐渡川がNWを捕捉していた。接近している間に赤い髪のヒト型だったものが、鱗にに覆われ尾が生えていく。
 振りかざした尾に弾かれた佐渡川は、樹木に張り付いてターンした。左手のブラストナックルに力を込める。
 爆音をあげるナックルは、NWと佐渡川を巻き込んで炸裂した。
 すう、と音もなく駆けつけたイルゼが、NWの腕を掴んでちらりと佐渡川を見る。
「森木の到着を待て」
「そっちこそ、無理すんなよ」
 ふ、とその言葉にイルゼが嘲笑に似た笑みを浮かべる。
 抜き放った刀をNWに突きつけるが、器用にその刀を受け止め、後ろに飛び退く。だがそこにはすでに森木が到着していた。
 行き着くまもなく、森木が後ろからNWを羽交い締めにする。
「くっ‥‥重い‥‥」
 ここでバックドロップに持ち込みたい所だが、体格差でうまく決まらない。おまけに、羽交い締めにしてもあまり効いている様子がない。
 隙をついてイルゼが刀を鱗の間に差し込んだ。
「これでどうだ‥‥!」
 森木は正面から組み付くと、頭部を抱え込んで足払いをかけ、引きずり倒すように木の根に叩き付けた。

 森木達同様、固い鱗と体格で有効な攻撃手段もなくベオは苦戦していた。通常の蹴り技などでは、相手にほとんど傷をつけられない。
「ベオ、コアを探すンダヨ!」
 トーマスの声に、ベオがちらりとふり返る。駆けつけたトーマスとロッテは、双方協力してコアの位置を確認に回った。むろん、森木達とて無理せずコアを探せばもっと決着は速かったわけだが。
 ガントレットを装着したトーマスのラッシュも、鱗に阻まれていた。
 だが彼の目的はダメージだけでなく、ロッテがコアを発見する時間を稼ぐ事にもあった。トーマスの意図を把握したベオが、NWの腕を掴む。彼に協力する形でアヤが足払いをかけ、引きずり倒した。
 服を引きはがした背中の真ん中に、赤いコアが映った。
 銃を出したロッテが、コアに押しつける。林間での使用は駄目だと言われているが‥‥。
「零距離での使用なら、OKらしいからね‥‥」
 立て続けに、発砲音が木霊した。

 二体のNWを倒し終えて戻って山小屋に来ると、刈谷が待っていた。
「刈谷サン、大丈夫?」
 トーマスが聞くと、刈谷ははは、と乾いた笑いを浮かべた。
「ああ‥‥すまない、助けられたね。でも‥‥みんな結構機敏で的確な動きが出来るんだね。寄せ集めでここに来てくれたんだろうに、たいしたもんだよ」
「いえ‥‥だって私なんて何も出来なかったし‥‥コアを狙うって事も考えつかなかったもん」
 と顔をちょっと赤くして、森木が俯いた。
「それを言うなら、俺もそうだ。森木、お前と俺はかわりはしない」
 ベオが森木の肩に手をやり、言った。
 しかし、彼女達にとってもいい経験になったはずだ。
「今回は勉強になりました。‥‥またどこかで会ったら、よろしくお願いします」
 改めて森木は、ぺこりと頭を下げた。