ふわふわ〜特別CD編アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 立川司郎
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/03〜05/07

●本文

−甘くせつない学園生活の思い出‥‥ふわふわ、発売中−

 アイドル扮する学生達が、ほんの十五秒三十秒の間にドラマを繰り広げる。
 彼ら自身が案を出し、作り出した『作り物』‥‥いや、ある意味では本物の学生生活。
 低予算にもかかわらず、新人アイドルを起用したチョコレート『ふわふわ』のCMは、十代の若者から主婦層にまで幅広く人気を獲得した。
 それは一ヶ月前のこと‥‥とある会社のOLと幹部のオジサマ達の『学ランが見たい』『セーラー服のおなごが‥‥』という妄想から生まれたCMだった。
 これに気をよくした会社側は、次なる手を考えた。
 会議室の長テーブルに、ちょこんと置かれたピンクの箱。中には白くて丸いチョコレートが入っている。
 会議が終わった会議室を片付けるべく、例によって若いOL二人がしゃべり始めた。
「見た? このCM」
「見ましたよ、先輩。なかなか見る時間がなくて、全部は見てないんだけど‥‥」
 後輩と思しき女性が、ホワイトボードを拭きながら年上の女性に言った。
 新人アイドルを発掘するのが好きな彼女は、先月もジュリプロの候補生について話していた。よもやこの会話が盗聴されており、管理室にいる部長達に筒抜けだとは本人達も気づいていない。
「最近、コーヒーとかドリンク系、よく食玩とかついてるよね」
 先輩が言うと、ああ〜と後輩が声をあげる。
「CDがついてるのもありましたよ。ほら“ふわふわ”でも底に一枚くらいCD入りますよ」
「特別CD付き! ‥‥とかやってくれないかなぁ、うちの会社も」
「いいですねえ。CMも新しいのが見たいなぁ」
 ‥‥そしてまたしても中年男の叫び声があがる。
「これだ!」
「部長、次はCDですよ。三種類くらいなら予算内です、抽選で各千名にプレゼント」
 そんなこんなで、再びふわふわ学園が始動する。

 チョコレート“ふわふわ”のCMの為に、アイドル求む。
 〜‥‥春なので、“心機一転”をテーマにお願いします〜

設定
テーマ:心機一転。
CMと出演者:例によって十五秒と三十秒の、学生生活を舞台にしたCMを作ってください。今回は各一本ずつに絞ってください。アイドルをメインにしたCMなので、出来るだけアイドルの方を募集します。
設定:出るかぎりは基本的に学生で、男子は学ラン、女子はセーラー服。配役の年が多少が違っても、小中高一環学園という事で。大人は先生その他、年格好に応じた役を考えて下さい。舞台は近くの中学校で一日借り切って撮影します。
特別CD:全部で三曲作ってください。そのうちの一曲は全員で歌うと、バランスがいいと思います。
配役:前回出た場合同じ設定でもいいですし、違う学生を演じるのもかまいません。
NPC:羽崎海、田部哲哉(ジュリプロ候補生)
田部哲哉:四月で中学二年。無口でクール。
羽崎海:四月で高校一年。元気がいい、俺様道な性格。

『ふわふわ』:白くて丸いチョコレート。口当たりは柔らかく、ふんわりした食感。甘さとカロリー控えめ。ピンク色の手のひらサイズの箱に入っている。撮影現場には、大量に運ばれてきます。

●今回の参加者

 fa0074 大海 結(14歳・♂・兎)
 fa0142 氷咲 華唯(15歳・♂・猫)
 fa0244 愛瀬りな(21歳・♀・猫)
 fa0585 畑下 雀(14歳・♀・小鳥)
 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa1406 麻倉 千尋(15歳・♀・狸)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa3092 阿野次 のもじ(15歳・♀・猫)

●リプレイ本文

[現場はいつも元気です]
 一ヶ月ぶりに撮影場所の中学校に戻ってきた、少年少女‥‥さっそくダッシュで教室の教壇を目指すひとが、約2名居る。
 阿野次 のもじ(fa3092)は、同時にダッシュした羽崎海をはっと驚いた表情で見ると、速度を速めた。タッチの差で先に付いた海を押し退けて、のもじが手をかざした。
「はじめましてもお久しぶりも、よろしく! 阿野次のもじです!」
「コラー! 最初に挨拶すんのは俺!」
「さあ、今回もばーんと頑張っていきましょう!」
 どうやら、無視する構えらしい。
 やれやれと目を伏せて首を振る氷咲 華唯(fa0142)の横で、引き続き教師役で登場する愛瀬りな(fa0244)が笑った。
 一ヶ月前に比べて、皆一回り成長している。りなは最近よくテレビに顔を出している為すっかり名前が売れているし、相方のユイこと大海 結(fa0074)と参加している氷咲(ケイ)とてそうだ。
 久しぶりに二人で仕事が出来る事を素直に喜んでいるユイと違い、はっきりそう言わないが、やはりケイとて共に仕事が出来る事を嬉しく思っている。
 そして同じく2回目となる富士川・千春(fa0847)に麻倉 千尋(fa1406)、羽崎同様にジュリプロの田部哲哉。
「あの‥‥畑下雀です‥‥よろしくお願いします」
 後ろで、短めのセーラー服を恥ずかしそうにしている畑下 雀(fa0585)が、スカートを木にしながらぺこりと頭を下げた。
 雀同様初参加なのは、ブリッツ・アスカ(fa2321)。
「前回はケイがお世話になりました。‥‥ぷらちな☆キャンディのユイです」
 ぺこりとユイが頭を下げると、ちょっと恥ずかしそうにケイがそっぽを向いた。ユイは、さっそく現場に積まれたふわふわのパッケージを気にしている。
「ユイさん、チョコレート好きなの? あたしも大好きなんだ。この間持って帰ったの、もう無くなっちゃった」
 あ、一人で食べたんじゃないよ! とあたふたと千尋が付け加えた。
「そうだよね、撮影でチョコが食べられるなんて幸せだよね」
 ユイは嬉しそうに笑顔で言った。前回ケイが持ち帰ったチョコレートも、ユイに食べられてしまっている。
「あたしはナレーションもやるんだ。‥‥ほんとは、何かに使えるかと思って一曲作ってきちゃったんだけど‥‥出番、無いかな」
 作詞と作曲と一人でこなしたという千尋の曲は、CMのイメージにも合ったやわらかくポップなイメージの曲だった。このままお蔵入りするには、もったいない出来だ。
「いい曲ですね‥‥このまま使わずに終わるのは、もったいないです‥‥」
 現場に流される千尋の曲をうっとりと聞きながら、雀が言った。ぽつりと哲哉が、口を開く。
「“ふわふわ”のサイトで流してもらえばいいんじゃないか」
「いいんですか?」
 千尋がプロデューサーをふり返って聞いた。そして千尋の曲がサイトで流れる事となったのは、これからしばらく後のお話‥‥。
 さて、今回はCDを作る為、あまり暢気にしている時間は無い。
 ケイは台本を一通り読むと、CDの作曲を続けた。脚本は愛瀬や千春達全員で話し合って決めている。
 今回15秒版がユイを主人公とした吹奏楽部編、30秒版はアスカを主人公とした教育実習生編だ。全員、特別CDで演奏する楽器の練習もあり、本来ケイから楽器の使い方を聞こうとしていたユイはケイの忙しさに言い出せず、アスカもスネアドラムをおぼつかない手で演奏していた。
 ‥‥と、この映像が密かにCMに挿入されていた訳ですが。

[吹奏楽部に転入生:15秒]
 廊下に佇む、一つの影。ぽつんと廊下に立ったまま教室の中を覗く彼の制服は、中で楽しそうに音合わせをしている彼らとは違う、グレーのブレザーだった。
 詰め襟の制服を着た彼らは、それぞれ楽器を手にして練習に励んでいる。
 制服の違いが、彼らと自分の間に溝を作っているようで‥‥。視線を逸らしたユイ、一瞬誰かと目が合った。
 歩き出した足をもう一度止め、そちらを向く。
 トランペットを持って、一人の女子生徒に教えを受けていた少年・哲哉がユイを見つめていた。
「‥‥何か用?」
 抑揚のない声にとまどうユイが声を返すのをためらっていると、彼にトランペットを教えていた千春がユイを見つけてこちらに向かった。
「見学? 休憩中だから、おいで」
 優しい声で、千春が話しかけてきた。
 丁度教室では、みんな楽器を置いて休憩に入っている。鞄からピンク色の箱を出した雀が、ユイに気を取られて視線を向けた。
「あ‥‥!」
 机の端につまずいた雀の手から、箱が飛んでいく。
 派手にすっ転んだ雀は、打ち合わせをしている様子の千尋とケイを巻き込んで倒れ込んだ。
 そして箱は、弧を描いて哲哉の手の中に。
「ご、ごめんなさい‥‥!」
 顔を真っ赤にして、雀はケイと千尋に頭を下げた。眼鏡をかけ直し、ため息をつく千尋、ケイは無言で机を直している。
 きょとんとしたままのユイに、すうっと哲哉が箱を差し出した。
 それは甘い、チョコレートの箱‥‥。
「ようこそ。新しい一歩、ふわっと踏み出しましょう♪」
 千春がそっと、ユイの肩に手をやった。
 トロンボーンの練習をするユイの姿が、教室に移るのは‥‥ほんのわずか後の話。

 −優しい甘さで あなたを後押し−

 うーん、と千尋が顎に手をやって考え込む。
 ここのナレーション、「優しい甘さで後押しします」の方が良かっただろうか。ギリギリまで悩んでいて、結局前の方を使った訳だが、やはり悩んでしまう。
 ナレーション一つだが、受ける印象は違ってくる。
 転入生編の後ろでうち合わせをしていた千尋とケイは、そのまま撮影に映っていた。むろん、途中で楽器の練習もしていた。
「短期間じゃ、聞かせられるものが出来ないよ‥‥どうする?」
 千尋がちょっと自信なさげに、言った。
「それを言うなら、俺も‥‥楽器とか得意じゃないし」
 と、苦笑まじりにアスカも答えた。皆得意楽器ではないのは、承知だ。
「みんな、今回のCDで大切なのは上手いかどうかじゃないと思うの。だから獣化なしで、頑張ってみようよ」
「そうだ、千春の言う通りだ。何だよ冴えない面して‥‥自信がないからいいものが出来ないんだろ」
 千春の一言で、みんなの緊張が解けたようだ。その後の海の一言は、海らしくて笑ってしまうのですが‥‥それはそれでよし。
 一枚目のCDは、全員で楽器演奏をするものに決めた。
 ケイが考えたのは、ミディアムテンポで元気の良い、それでいて優しい曲だ。皆の上達を考えて、ややテンポは遅めにしてある。
 部活の応援歌としたこの曲は、千春がフルート、愛瀬は木琴、ケイがトランペット。そしてユイはトロンボーン、雀はクラリネット、千尋はパーカッション、アスカがスネアドラム。哲哉は撮影と同じく、トランペットだ。のもじは‥‥?
 考えていなかったらしいのもじは、海をちらりと見た。
「俺? ‥‥ちっちゃい頃ピアノをちょっとやってたし、ピアノがいいな」
「じゃあ、連弾する」
 のもじは、海に教えて貰いながら連弾をする事になった。
 ケイは、ここで演奏が間に合わなかったとしても曲は曲として作るつもりだったし、万が一の場合は千尋が作った曲もある。
「最終日に間に合わなかったら、頼む」
 ケイは千尋にそう頼むと、3本目の校歌用の曲に取りかかった。歌詞が無いが、後から合唱用にも使えるように覚えやすいメロディで作っていく。
 音は誰にでも歌えるように、高すぎず低すぎずに。

[学園に教育実習生!:30秒]
 懐かしい教壇に立ち、元気良くアスカは挨拶した。
 ここに戻って来るのは、卒業式以来だろうか。黒と赤のトレーニングウェアを着たアスカは、どことなく元気のない様子で歩いていた。
 窓から外を眺めるアスカの表情は、冴えない。
 懐かしそうにそれらを見つめていたアスカは、屋上に上がって校庭を見つめた。昼休憩中でもサッカーの練習をする、生徒達の姿がそこにある。
 教師として求められる期待と、自分の力‥‥不安。
 アスカは、ごろんと転がって空を眺めた。

 教師としても不安は、そのままアスカの演技の不安でもある。何度もリテイクしながら、アスカは何度か納得のいく演技をしようとした。
 自分はこのCMに参加するのは始めてであるし、演技自体に自信があるわけではない。
 そんなアスカの緊張が、現れていた。

「海、そっちに行ったよー!」
 甲高い少女の声に、ふとアスカが体を起こした。
 目の前に転がってきたバレーボールを追いかけ、一人の少年がこちらに駈け寄ってくる。
「あ、何やってんだ、先生。こんな所に居たのかよ!」
 海が、笑いながらアスカに声をかけた。海の後ろで、愛瀬先生が手を振っていた。
「アスカ先生、一緒にしませんか?」
 じっとボールを見つめ、アスカが手に取った。
 ふ、と笑みが浮かぶ。
「よーし、行くぞ!」
 ボールを愛瀬に打ち返すと、アスカは彼女達の元へと駈け寄った。
 元気のいい海や、アスカを後押ししてくれる愛瀬先生。
 一汗かいたアスカに、愛瀬が白いチョコレートを口にそっと押し込んだ。甘い味が口に広がる。よく見ると、愛瀬の手にも海やのもじ達の手にも、チョコレートの箱がある。
「気負わないで、ふわっとしましょ」
 にっこり笑って、愛瀬が言った。

 ケイが教育実習生編のイメージで作った曲は、明るいポップス系の曲だった。
 スタジオに全員揃い、ふわふわのイメージに合わせて可愛らしく女性のボーカルをメインにして音を取った。
 中でもやはり、千春と雀が目立つ。
 双方歌となると真剣で、感情が籠もっている。男性ボーカルの中では、ジュリプロでレッスンをしている海と哲哉の声が、やはり張りがあった。
 アスカの声は、女性にしてはやや低めだ。

−振り向かない ためらわない
 黄色いライオンから貰った勇気
 思い出してあなたにアタック(ふわふわ☆ドキドキグッドラック)
 季節の訪れを告げる雨粒に せっかくのロマンスが頬から溢れてしまうから
 (ふわふわ☆ドキドキKISSKISS)
 心配なんかいらない一人じゃない(一人じゃない)
 手を繋いだまま飛び立つ白いふわふわ達と 一緒に明日へ踏み出そう(ふわふわ☆ドキドキレッツGOトライ!!)−

 のもじが協力して作った歌詞は、元気がいい。
「まず、自分のイメージで歌ってくれていいよ」
 とケイは言ったものの、雀は千春と話してケイのイメージを優先する事とした。二人が柔らかい声で歌うと、のもじの歌詞もキュートな曲に変わる。

 最後に、全員での楽器演奏‥‥。
 撮影以上にアスカは緊張しているし、愛瀬は撮影場所である中学校の教師に教えを請うていた。
「音を外さないようにしなきゃ」
「‥‥あの、デボ子も緊張して‥‥また撮影の時みたいに、何か壊してしまわなければいいんですが‥‥」
 ぎゅっとクラリネットを抱えたまま、雀がおろおろと歩き回った。
 彼女達の様子を見て、愛瀬が話を聞いていた教師が笑って答えた。
「間違えてもいいんですよ、固くなって演奏するよりいいです」
「‥‥」
 無言でアスカと雀に、哲哉がふわふわの箱を差し出した。
 ふふ、と愛瀬が笑う。
「そうでした。‥‥気負わないで、ふわっとしましょ‥‥アスカ先生☆」
 愛瀬がウインクすると、アスカが笑い返した。
 そっと雀が口に、チョコレートを運ぶ。
 口の中に解ける、甘く優しい味‥‥。

 ちょっと緊張気味の演奏は、チョコレートが解けるように次第に緊張が解け、終わった。