【傀儡の森】鳴く小鳥アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
立川司郎
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/07〜05/11
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●本文
小鳥は、そこで歌い続ける。
新たな“契約者”が来るまで、ここで歌うのが約束だから。
その歌い声は、酒を口にした者だけが耳に出来るという。それは古い古い昔の契約者の、その名残。小鳥はその宿場で、歌っていた。
行き交う人々を癒す為、小鳥は宿で歌い続ける。
しかしかつては栄えた宿場も、時が移り変わるにつれて廃れていく。
そうして、宿場からも人の気配が消えていく。
そんな宿場跡のお話。今は、キャンプ場になってしまった宿場跡‥‥。
オカルトサイト・傀儡の森のデータベース上にある“美しく鳴く小鳥”と題する情報がある。管理人のフルヤは、その情報をあまり調べようとはしなかった。
どこか不思議で、悲しくも美しい話だったから。
「聞かない方がいいお話、ってあるじゃないですか? 真実を知らない方が、美しいお話。‥‥そういうたぐいのもののような気がして」
そういうサイトの管理人だからなのか、フルヤは何か感じるものがあるのかもしれない。
しかし、もし調べようという人がいるなら、切ない話の裏側に隠されたままになった、悲しく暗い話を晒すのもいいかもしれない。
フルヤはそう語って、データを手渡した。
「さて、今回もこのゴーストスポットを調べてもらう訳だけども」
立浪祐介は、会議室のホワイトボードに地図を貼り付けた。
ある山道沿いにある、キャンプ場が今回の目的地である。立浪の仕事は、このゴーストスポットを検証し、場合によっては再現VTRを作成してDVD媒体で発売する事である。
前回の“人形の森”に引き続き、第2弾としてリリースされる。まあ、需要は一部オカルトマニアにしか、無いわけだが。ちなみに前回の人形の森は、再現VTRのメイキングも挿入されていた。
「過度の演出や、心霊現象のヤラセがなければ細かい部分は任せるよ。何か分からない事があったら、連絡してくれ。あ、問題のキャンプ場のコテージは押さえておいたから」
ひらひらと立浪は手を振り、笑った。
そのキャンプ場のうち、一番端にあるコテージに宿泊し、酒を飲んだ者だけが歌声を耳に出来るという。そもそも酒は、神懸かりの神事において使用される事は多けれど、この場合は神事ではないし、ここに神殿があったという話も全く聞かない。
「宿場だったからだと思います。酒を飲む場で歌っていた者が、何らか関係しているのでしょうね」
と、フルヤは言う。
霊はしばしその姿を変え、周辺には“1年間、素晴らしい歌声を手にするかわりに、1年終えると命を落としてしまう”という噂があった。
そう、1年の間超越的な美声を得た者は、死後その場にとどまって死してなお歌うと言われているのだ。‥‥次の契約者が来るまで。
本当か嘘か、今もそのコテージに行くと歌声が聞こえるという。
今その森で聞こえるのは‥‥六年前死んだ、一人のアマチュア歌手。
そして、あなた達がその森に足を踏み入れる。
DVD:前回参照(4/9〜4/13)。ゴーストスポットを検証する、一時間ほどのドキュメンタリー番組を作成してもらいます。検証に際しては、各自傀儡の森の常連という<設定>や脚本を用意するのはかまいませんが、問題の霊障に関しての演出はしないようにお願いします。
傀儡の森:フルヤという女性の監理する、オカルトサイト。このサイトに紹介されたゴーストスポットの検証をするのが、目的。DVD化に関する話し合いは既に、フルヤと行っています。まだ、キャンプ場側とも話し合いはしてあります(名前を堂々と出さなければ、ですが)。
歌う霊:おおよそ、OPの通り。それ以外、詳しい事は判明していません。フルヤは、根本的に、古い時代に何かあったのかもしれないと言っています。問題のコテージは、は期間中押さえてあります。
霊感:設定で「霊感がある」とか霊感がありそうな設定が書いてあれば、何かあるかもしれませんが、普通の人はそれなりに、設定で「霊感がない」とあれば、ほんとに全く何も無いまま終わるでしょう。
●リプレイ本文
そういえば前回は、あんな事があったな‥‥。
と、前回の撮影を思いかえしながら、トシハキク(fa0629)はオーパーツを鞄に押し込んだ。こと“心霊”とつく番組‥‥何が起こるか分かったもんじゃない。
「‥‥念には念を入れて、持ってきたんだ。みんな、何かあっても気をしっかりと持って‥‥」
とジスが言うと、ちょっと大柄な青年森ヶ岡 樹(fa3225)もまた、同じように鞄を開けてみせた。彼の鞄にも、お守りの類が入っている。
「家にあるだけ、集めてきました。えっと‥‥太宰府天満宮と‥‥近所の神社で貰ったお守りと‥‥」
いや。どうやら彼の鞄には、お菓子の方が沢山入っているようだ。
それを見つけて、槇島色(fa0868)が引っ張り出した。
「へえ、お守りねえ。確かに効きそうね」
「いや‥‥まあ、これは僕のお守りみたいなもんで」
と明るい調子で、樹は笑った。
彼らの会話に、漆黒の髪の女性がふと息を漏らして影を落とす。
「‥‥お守り‥‥霊に効果があればいいのですが」
DESPAIRER(fa2657)、と名乗った後彼女のぽつりと発した一言に、しいんと静まりかえる。
「はは‥‥ま、まあ。とりあえず一端調査をしてから、また夜に集合しようか」
ジスが言うと、手をぱんと会わせて御神村小夜(fa1291)が笑顔を浮かべた。
「そうですね。私は現場の下調べもしたいと思いますから、みなさんお先にどうぞ」
「ああ‥‥そうね。わたくしは何か手伝う事があるかしら」
調査の事は考えていなかったのか、槇島がちょっと首を捻って苦笑する。
「それじゃあ、お手伝いして頂きましょうか」
小夜と槇島はひとまずキャンプ場に残り、各人は街に出ていった。
コテージは、キャンプ場の一番端に位置していた。
木々が遮る向こう側に、細い道が山奥に続いている。これは、以前使われていた道であろうか。
小夜がじっとそちらを見ていると、槇島は彼女の視線を追った。
「‥‥何か見えるとか?」
「いえ、私は何も見えませんよ」
くるりとふり返り、小夜は笑って首を振った。
なんとなく槇島はホッとして、笑顔を取り戻す。
「ジスさん達も戻って来る頃でしょうし、そろそろコテージに戻りましょうか。準備もありますし」
槇島と小夜が戻ると、再現VTRの為に樹が機材の準備をしていた。ジスの指示を受けながら、カメラを出していた。
「神楽さんには作曲を続けてもらうとして、ローラさんとディーさん、再現VTRの打ち合わせをしませんか?」
小夜は皆に声をかけると、湯ノ花 ゆくる(fa0640)の肩に手をやった。彼女は持参したパソコンに、小夜やジス、ディーが調べた事を打ち込んでいる。
それを参考にして、小夜が再現VTRの内容と撮影進行を話し始めた。
月見里 神楽(fa2122)は最年少ながら、テーブルの上で今回の撮影で歌う曲を考えている。どうやら歌詞はすぐに決まったようだが、曲の調整に時間がかかっているようだ。
「神楽はアコースティックギターを演奏するね。あ、他の人の楽器によってはフルートとかキーボードでもいいよ」
「神楽さんは多才なんですね」
さらりと肩から流れる黒髪をかきあげながら、Laura(fa0964)が神楽の手元をのぞき込んだ。ローラよりずっと年下なのに、神楽は作詞作曲から楽器まで、何でも一人でこなしている。
「そんな事は無いよ〜、神楽は楽器はそこそこ得意だけど、歌はまだまだだもん。だから歌は、ローラさんにお願いするね」
「はい、お願いされました」
笑顔でローラが答えた。幽霊役は、ディーがやる事になっている。
ジスの調べによると、丁度二つ前に出ていたと思われる幽霊は女性だ。うん、適役だ‥‥とは、みんな思っていても口にしなかったり。
カメラを設置させてもらい、ジスはインタビューを始めた。ジスが、民俗学研究家へインタビューをさせてもらった映像だ。彼は七十才を越える老人だが、書斎から本を引っ張り出しながら細かく話をしてくれた。
「キャンプ場の霊が噂になったのは、いつ頃の話なんでしょうか」
「そうだね‥‥もうずいぶん昔から地元ではそういう話があったよ。キャンプ場の前は民家がちらほらあって‥‥もう大正時代にはここが宿場として機能しなくなっていた、と聞くからね。恐らく、江戸時代からだろう」
彼が調べた所宿場が栄えた頃は、宿で働く者が小唄を披露したり宿泊客の酒の相手をする事があったそうだ。
しかし、風俗が乱れがちなこういった宿での事。しばしば、体を売る事もあったという。
夜に流れる小唄は、寝入った客の寝屋で‥‥。それは子守歌のように。
「詳しい事は分からんが‥‥宿場女が斬られる事があったらしいね。ちょいと唄の上手い女が居てね。評判を聞いてお侍さんが来て、女を引き取るという話になったんだそうな。しかし、酒の席での話だ。女も期待はしていなかった。所が、お侍が二度三度と来るようになってね」
夢は、突然に潰える。
女が病にかかっていたのだ。病にかかった女は、引き取らない。そうしてお侍は、心移りをした。
丁度同じ宿に彼女の妹が居たんだが、これもまた器量の良い娘で唄が上手かったそうな。彼女は、泣く泣く夢を妹に託した。
私の声をあげましょう、だからあの人の元に行ってちょうだい。誰にも負けない歌声をあげるから‥‥だから、あの人にもいい夢を見させてあげて。
‥‥そして一年経ったら、あの人を殺して。
私を捨てたあの人に、復讐をするの。
一年後、床で冷たくなって死んでいるお侍が発見された。側には、懐刀を持って死んでいる妹の姿があったそうな。‥‥姉? むろん、とっくに死んださ。病でな。
無かった事として、その話は封じられる。ひっそりと文献に残された文章から、その話が覗けるだけで。
樹とともに酒と食事の準備をするゆくるは、ふと神楽達の会話に耳をたてた。
レコーディング中、何か声が入っているかも。そんな風に神楽が言った時だった。
「声‥‥ですか?」
「あるかもしれませんね‥‥そんな事も」
ゆくるに、ローラが答えた。
彼女が子供の頃に住んでいた村のシャーマンも、言っていた。“死者は、自分の存在をアピールしようと五月蠅い”と。
ローラがその話をすると、ゆくるが少し首をかしげた。
「そういえば‥‥ゆくるも小さい頃‥‥あった気がします。誰も居ない廊下で、気配のようなものを感じたり‥‥金縛りとか‥‥」
「‥‥まさかぁ‥‥あははっ」
きょろきょろと周囲を見まわした後、神楽が短く笑った。耳のいい神楽だったら、何か気づくかもしれない。しかし、気づかない方がかえって幸せかもしれない。
「元は、恨みからきた歌声‥‥そういう執念が継がれているのかもしれませんね」
死の覚悟をしてまでも、手に入れようとする声‥‥ですから。
ディーが低い声で言うと、みんな急にそわそわしはじめた。ゆくるはUターンをして、カレーを取りに戻っていく。神楽は、曲の調整の為にギターに向かった。
ディーと、ローラの視線が合う。
「でも‥‥。私だったら、満足出来ません。そんな一年間だけの命なんて」
「そうでしょうね」
別条件なら、OKするかもしれませんが。そう小さく言うと、くすりとローラは笑った。
−静かな月夜に 誘おう
夢の彼方の 物語
翼生やした 歌い手の
天昇る調べ 響き行く
耳澄ませ 聞き惚れよ
導く声を追い求め
独り進んだ森の中
耳澄ませ 聞き惚れよ
微笑む顔は枝の上
決して戻れぬ楽園へ‥‥−
ローラの歌声が、響く。美しく鳴く小鳥‥‥その言葉通りに、小鳥の獣人であるローラは美しい歌声を奏でる。
それを更に高めるのは、神楽が弾くギターの音色‥‥そして、樹のサックスだった。
ここに居た少女は、売れない路上ミュージシャンだった。歌も声も曲もそこそこ。素晴らしいと絶賛する程ではないが、並の人よりは上手い。
売り込みに行っても、あまりいい顔はされなかったそうだ。いつものように淡々とした口調で、ディーが語った。
ローラは、売れない少女を演じる為、彼女と同じようにジーンズとTシャツ姿で歌った。
コテージに、歌声が響く。
ふとローラが歌を止める。どこかから、歌が聞こえていた。どうやら外からのようだ。そういえば、ディーの姿がない。ジスは、とりあえずカメラは回しながらローラの後を追った。
冷たい風に混じり、歌が聞こえる。
「誰?」
歌がぴたりと止んだ。木の間‥‥人の影がある。
一年という期間‥‥歌声をくれるモノがあるという。ローラが声をあげた。
「あたしに、声をちょうだい! ‥‥一年。わかっているわ、命と引き替えに‥‥」
「‥‥本当に?」
気配もなく近づくと、耳元でディーが囁くように言った。
蒼い月の影が、彼女の頬に影を作る。さらりと髪が風に揺れ、ローラの髪と混じって流れた。
どこに行ったのだろう‥‥。小夜が顔をあげて、聞いた。彼女はずっと、参加者の様子を注意して見ていた。
ローラとディーが撮影している間、周囲の暗闇を気にしながら樹はずっと何かを口にしていたし、ジスは撮影に専念していたし、神楽は演奏。
気が付くと、ゆくるが居なかった。
「樹さん、ちょっと探しに行ってもらえますか?」
「ええ、ぼ‥‥僕一人がですか?」
びくりと樹が肩体を震わせ、小夜に問い返した。
「ええと‥‥僕はローラさんの撮影の伴奏をしなければなりませんし、ジスさんの撮影の手伝いも‥‥」
そう、結局誰も一人で探しに行くのは気が引けるのだ。
すると神楽が、耳をすまして言った。
「森の方‥‥じゃないでしょうか?」
神楽の耳に聞こえる彼女の足音は、森の方に向かっていた。足音を追って森へと歩き出した神楽の後に、小夜が続く。
どこかから、歌声が聞こえる気がする。
そう思って神楽が意識を集中すると、正面にようやくゆくるの姿が見えた。ゆっくりと彼女がふり返る。彼女に駈け寄り、小夜が声を掛けようと‥‥。
「‥‥ゆくるさ‥‥」
ぐい、と手を誰かが引いた。驚いてふり返り、神楽と小夜が思わず声をあげた。
「神楽、ゆくる。‥‥なぁにしてんの、こんな所れ‥‥」
ろれつの回らない様子で、槇島がしっかりと神楽の手を掴んでいた。酒を飲んでいた‥‥と思ったのが、つい十分ほど前だったはずだが。
「大丈夫‥‥ですか‥‥?」
ゆくるが、彼女に声を掛ける。どうしたものか、すっかり彼女は酔ってしまっていた。小夜は肩をすくめて首を振る。
「樹さんは食べてばっかりだし、ディーさんは‥‥何か変な様子だし、槇島さんはブランデー入りのワインで酔っちゃうし。槇島さん、寝ていた方がいいんじゃないですか?」
心配そうに、小夜が顔をのぞき込んだ。
槇島は機嫌がよさそうに、笑顔を浮かべる。
「大丈夫よ‥‥。ねえ神楽ちゃん、小夜さん。聞いてくれる?」
と上目遣いで、槇島が言った。
「ほんとうは、わたくし‥‥再現VTRで、歌ってみたかったの‥‥。れも、わたくし、こんな容姿れしょ? 再現Vの女の子を演じるには、似合わないもの」
金色の髪と蒼い目の槇島は、それ故に再現で歌うのは諦めていた。
ふらり、と槇島が森の方に歩き出す。
夜の森に、高々と声をあげた。本当に気持ちよさそうに、槇島が歌う。それは先ほどローラが歌っていた‥‥。
「‥‥其はいと貴き調べ‥‥」
ふ、と小夜達がふり返る。ディーの声が確かに聞こえた気がするが‥‥そこには誰も居なかった。
やがて、槇島の歌声は美しく響き‥‥いつの間にか、音が外れはじめた。
神楽の顔色がかわる。
「どうしたの」
小夜が聞くと、神楽はううん、と首を振った。槇島の歌っている旋律、それは神楽が途中で没にしたものに似ていたから。
彼女が考えていたものより、ずっと美しい旋律だった。
「‥‥六年前‥‥死んだ彼女‥‥どんな思いで歌っていたんでしょう‥‥」
ゆくるがぽつりとそう口にした。
小夜が、すうっと槇島を見る。
きっと、とてもいい気持ち‥‥本当に嬉しそうに歌う槇島を見て、そう思った。