巫女さんからの依頼アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 立川司郎
芸能 フリー
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/21〜11/25

●本文

 周囲を森に囲まれた、閑静なたたずまいの神社に、乾いた発射音が響く。
 足音を忍ばせて中を覗くと、そこには綺麗に掃除された石畳が見える。更に向こうへ視線をやると、まとめられた枯れ葉とちりとり。そして、竹箒が転がっていた。
 まだ、乾いた発射音が続く。
 異様だ。
 神社と発射音は不釣り合いだ。
 どう考えてもこれは‥‥。
 ひょいと彼女がふり返った。ふわりと髪がゆれる。ゆったりと結わえた三つ編みは、胸の前に垂らしていたが、ふり返った彼女の背中にするりと垂れた。
「‥‥どうかしましたか?」
 いや、どうかしたも何も。
「ナイトウォーカー退治ですか? えと‥‥そうですね、丁度いいや」
 丁度いいって何がデショウ?
 彼女は右手にモデルガンを持ったまま、小走りにこちらに来た。が、彼女の後方で物音がするや否や、外人部隊の兵隊かと思うような素早い身動きでふり返ると、モデルガンを発射した。
 もはや立ちつくすしかない。
 彼女の視線の先には、小さな影があった。それも二匹‥‥。
 影が消えると、彼女はようやく息をつくと、モデルガンを垂らした。
「見ての通りでして」
 何が?
「最近猿が住み着いたんですけども‥‥ここ、獣人がよく出入りするもんですから、ナイトウォーカーに目を付けられたらしくて‥‥猿が元々ナイトウォーカーに憑かれていたのか、住み着いた猿を利用したのか分かりませんけども」
 彼女が言うには、要するに猿退治をして欲しいという事らしい。
「どっちかがナイトウォーカーなのか、両方そうなのか‥‥私には判別つきませんけども、いっそ両方始末し‥‥いえいえ、お帰り願ってください、永遠に」
 ここ、神社じゃないですか?
 神社ってそういう汚れ事は禁止なのでは‥‥。
「まあそうです。境内でなければやっちゃってかまいませんけど、境内で血を流されると大変困ります」
 持っていたモデルガンと自分を見比べ、彼女はにこりと笑った。
「それじゃ、あとは頼みますね。‥‥終わったらお茶くらいはお出ししますから」
 頭を深く下げると、彼女は再び境内の掃除に戻った。
 ‥‥猿退治?

●今回の参加者

 fa0190 ベルシード(15歳・♀・狐)
 fa0683 美川キリコ(22歳・♀・狼)
 fa0918 霞 燐(25歳・♀・竜)
 fa0924 谷津・薫(9歳・♂・猫)
 fa1291 御神村小夜(17歳・♀・一角獣)
 fa1374 八咫 玖朗(16歳・♂・鴉)
 fa1473 勇姫 凛(17歳・♂・リス)
 fa2057 風間由姫(15歳・♀・兎)

●リプレイ本文

 口を閉ざし、ポケットに手を突っ込んだままじいっと林の方を見つめる。サングラスの奥の目が、何かを捕らえているようだった。耳はそちらを向いたまま、ぴくりと動く。
「‥‥多分林の向こうの端あたりに居る」
「行って誘っておこうか?」
 ベルシード(fa0190)は、美川キリコ(fa0683) に聞いた。うん、と曖昧に答えて彼女はベルシードの方を見返す。
「あいつが行くようだし、あたし等はいいんじゃないの。行くと、巻き添えくうよ」
 くい、と顎をしゃくったキリコの視線の先に、ローラーブレードを履いた少年の姿があった。手に何かスプレーのようなものを持っているようだが‥‥。
 彼の持っているものを気にしながら、ベルシードは首をかしげた。
「ローラーブレードで林の中って大丈夫なの?」
「オフロード用があるらしいよ。まあ、自己管理するだろ」
 さらりとキリコは言うと、拝殿の方へと向かった。
「それにしてもどうするんだ、それ」
 とキリコ。すい、とキリコ達の前に滑り込んだ勇姫凛(fa1473)は、スプレーを見下ろす。
「これ? 印を付けたら、夜でも見つけやすいかと思って」
「霞と薫は山に離しに行く、って言ってたよ。あんまり酷いこと、してやんないようにな」
「大丈夫だよ」
 慣れた足運びで凛は境内を駆け抜けていく。神社の裏手から歩いてきた巫女装束の少女二人の横をかすめ、林に飛び込むとそのまま姿を消した。
 きょとんとした様子で、彼女はキリコの元に歩いてくる。一人はあすか、一人は風間由姫(fa2057)だった。由姫は袴を手でつまみ上げ、ちょっとおどおどした様子を見せた。
「どうかな? 身長もあんまりかわらないし、サイズはぴったりなんだけど」
「そうだね」
 じいっとキリコとベルシードが見る。
「本物より本物らしい」
 同時に二人とも、ステレオ状態で言った。
 不愉快そうに、あすかが眉を寄せる。
「巫女は巫女ですよ、本物も何もありません。それと由姫さん、刀はお貸し出来ませんよ」
「やっぱりですか?」
 刀を振り回す気だったのか、とちょっと安心した様子でベルシードが、ちらりと由姫を見た。
「林中で振り回すと木々も傷つけますし、刃も痛みますし、お仲間も怪我をする可能性があります。もっと広い場所で仲間と散会した状態で使うというなら、お貸しいたしますが‥‥切られた側は痛い、じゃ済みませんしねぇ」
「うん、そうだね。まあ素手でもいいじゃない、由姫」
 はは、と笑いながらベルシードが言うと、由姫はにこりと笑った。
 大丈夫、木刀を持ってきてるから。
 霞燐(fa0918)も木刀を持ってきていると言うが‥‥。巫女さん、木刀標準仕様?

 巫女さんの格好をした由姫と、ベルシード達が周囲を散策している間。
 谷津・薫(fa0924)と八咫玖朗(fa1374)は、林中に罠を設置していた。ただ、罠に使用出来る程の投網が用意出来なかった為、あすかが祭事に使うロープを貸してくれた。
 薫とともに、玖朗が林の中にロープを張り巡らせていく。
「境内にも‥‥張っておいた方がよくないかな」
「なんで?」
 薫が手を止めて、玖朗に聞く。玖朗よりもまだ4つも年下の薫は、このメンバーの中では当然最年少だ。
 それでも、いくら子供だろうとナイトウォーカーとの戦いでは容赦などは無い。
「夜といっても人が来るかもしれないから、改装中とか書いて掲示しておいた方がいい」
「そうだね。じゃ、後でそうしておこう」
 こくりと頷いた薫の様子を見ながら、玖朗は『巫女さん暴走中』と書いておかなければ、と思ったのだった。

 日が暮れていく神社を一回りし、御神村小夜(fa1291)が林の方へと戻って来ると、あすかが薫の腰に何をつけていた。
 あすかが持っているのは、懐中電灯のようである。薫はライトを点灯させると、嬉しそうに声をあげた。
「ほんとだ、結構明るいね」
「はい、ミリタリーアイテムですから」
 あすかはにっこりと笑いながら答えた。
 薫が学校で手作りしたライトより、はるかに明るい。満足そうにあすかが、その様子を頷きながら見ている。
 だが、どこか素直に喜べないのはキリコやベルシード達。
「‥‥変な事を聞くようだけどさ、それはどこで買ったの」
 ちょっと引きつった笑顔で、ベルシードが聞く。
「これですか? さあ‥‥どこかで、USAFのジャケットと一緒に買ったような‥‥」
 なるほど、とベルシードは思った。普通の巫女さん、いや普通の女子はUSAFのジャケットやミリタリーアイテムを買ったりしない。
「夜の間はそれで照らすといいですね。‥‥それにしてもあすかさん、この神社は観光客や参拝者って来ないのですか?」
 そんな事にはかまわず、小夜が手帳片手にあすかに質問した。昼間の間でも、周囲の住民がたまにやって来る程度であった。
 神社自体が観光客を誘ってないのは、あきらかだ。小夜は、そっちに興味があるようだ。
「普段は人はあんまり来ませんよ。時々撮影に使ったりはして行かれますけどね」
「ねえ、ナイトウォーカーが来る経緯、少し聞いてもいいですか?」
 あすかは、彼女自身も言うように普通の人間だ。しかし獣人の彼らに仕事を紹介したり、話したりしている。
 あすかはしばらく考え込んだ後、ぽつりと口にした。
「まぁ‥‥やむなく」
「やむなく‥‥ですか。何かこの神社に隠されたものがあるとか」
 つ、と小首をかしげるようにして、小夜が質問を繰り返す。
 返答に困っているのか、それともただ答えたくないだけなのか、黙り込んでいるあすかを見て霞みが口を挟んだ。
「その辺にしておけ、小夜。この神社やあすかがいかに理解者であろうが、人目があるところで獣化するのは不用心すぎる。いつ人が来るやもしれんのだ、皆心しておいて欲しい」
 霞が厳しい口調で言うと、薫が肩をすくめた。
「霞さん、あんまりみんなをそんなに怒らないで。きっと大丈夫よ」
 優しい口調で言う小夜に、霞がため息をつく。
 という事ですよ、とぽやんとした口調で言うと、ぱん、と手を叩いた。
「それじゃあ、そろそろ始めます?」

 風が葉を揺らす音。
 どこかで走っている車の、タイヤの音‥‥エンジン音。
 じっと耳を澄まして、聞き分ける。
 静かに林の中を歩くキリコの前方を、足下に気を付けながら凛が駆ける。
 罠を設置してあるエリアには、霞、玖朗、由姫が待機している。小夜は少し離れた所で、彼らを見守っていた。
 何処だ?
 感覚を研ぎますし、キリコが見まわす。ぴくりと耳が動いた。
「居たぞ!」
 駆け出すキリコの後ろに、凛が続く。
 薫が持ったライトが、ちらちらと何かを反射させている。光は2つ、動きながら逃げるように遠ざかっていた。
「こっちだ、餌が欲しいんだろう」
 キリコが叫ぶ。半獣化した凛は、その機動力を生かして猿に接近する。
「一体は任せる」
 凛はベルシードと薫に叫ぶと、キリコとともに一体を追った。
 薫も、ベルシードとともに分かれた一体を追跡する。木を蹴り、猿が樹上に駆け上がる。
「こら、逃げるなっ!」
 完全に獣化した薫は、続いて樹上に飛んだ。
 眉を寄せ、ベルシードが声をあげる。
「ちょっとっ、一人で行くなっての!!」
 木が揺れ、猿が降りてくる。猿はベルシードの頭を蹴ると、反対側に着地した。ふわりと薫が降り、猿に飛びつく。
 ベルシードは薫の動きを目で追いながら、何とか猿の前方に回り込もうと走った。
「薫っ!」
 霞の声‥‥。
 ベルシードがそう思った時、薫が何かに派手につまずいた。ロープに足を引っ張られた薫が、地面と派手に衝突する。
「うう‥‥」
 もそりと薫が顔を上げると、凍り付くような殺気を秘めた霞が、そこに木刀を持って立っていた。
 ‥‥死ぬ?
 霞は無言で薫を飛び越え、ベルシードの方へと向かっていった。
 続けて、由姫が薫の上を飛び越え‥‥ようとした、その薫にけつまずいて、木刀ごと薫に叩き付けられた。
「‥‥大丈夫ですか?」
 そうっ、と小夜が二人をのぞき込む。
「大丈夫‥‥じゃないかも」
「いたた‥‥重いよう、由姫姉ちゃん」
「重くないっ!」
 がばっと立ち上がり、由姫が叫んだ。
 一方、薫が逃した猿は、獣化した玖朗が上空から狙っていた。狭い林の中の事、しかも夜間とあり、上手く標的を捕らえきれない。
 凛とキリコとは言うと、うまく間を取りながら追い込む事が出来ていた。キリコの方へと凛が追いたて、横をかすめて逃げようとする猿をキリコの手が捕らえた。
 がっちり掴んだまま、キリコが抱え込む。
「よし、捕まえたよ!」
「‥‥そっちは‥‥」
 ふり返った凛の目に、形を変える猿の姿が映った。猿に襲いかかった玖朗は、体勢を立て直す事が出来ずに、振り上げられた手を叩き込まれた。
 木に衝突し、玖朗の体がずる、と崩れおちる。
 再び、猿の手が玖朗に向けて振り上げられた。
「‥‥こっちだっ!」
 木刀を構え、霞が両手を突き出す。まっすぐに木刀が猿の横合いに食い込み、身を削った。すぐに木刀を引き戻し、上空に舞い上がる玖朗を庇うように移動する霞。
「ナイトウォーカーの実体には、コアがあるはずだ。コアを探せ!」
「分かってます‥‥けどっ」
 霞の言葉を聞きながら、玖朗は上からナイトウォーカーを掴んだ。かぎ爪を肩に食い込ませ、羽ばたかせる。
 吠え声をあげながら、猿が玖朗へと手を伸ばす。
「‥‥玖朗さん、退いてください」
 かぎ爪を離した玖朗が上空へと舞うと、風斬る由姫の木刀と炎を掴んだベルシードの拳がソレを引き裂いた。

 激しく鳴き立てる猿の声は、近所迷惑なくらいに響いていた。
「‥‥どうするんですか、その猿」
 ちょっと悲しそうな目で、玖朗は霞に聞いた。
 じろ、と霞が玖朗を見ると彼はびくっと肩をすくめた。まるで蛇に睨まれたカエルだ。
「あの、だから‥‥その都会はおっかないから‥‥田舎に帰った方が、猿の為にもいいと思って‥‥」
「こいつは私がバイクで、山に連れて行く」
 愛車のエンジンを駆け、霞はメットを取った。
「それじゃあ、僕も行く! ‥‥いいよね、霞姉ちゃん」
「‥‥」
 更に冷たい視線で、霞が薫を見下ろした。
 眉を寄せ、薫がじいっと見上げる。
「えー、駄目?」
「‥‥いいだろう」
 ふい、と視線を逸らして霞がバイクに乗った。

 月を見上げながら、お団子に手を出すキリコ。みんなお風呂も借りてさっぱりした所で、神社の境内に集まった。
 くす、と笑いながら小夜がその様子を見つめる。
 キリコはさっきから、食べてばっかりだ。
「美味しいですか?」
「もしかすると、保存食かなんかが出るんじゃないかと思ったが‥‥まあ、マシなものが出るじゃないか」
 キリコが言うと、ベルサーチもこくりと頷いた。
「あの調子だと、固形物とか自衛隊の缶詰とかが出てきておかしくないもんねぇ」
「そんなものは出しませんよう‥‥もったいないし」
 ‥‥あるのはあるんだな。
 ぽつりと呟いた凛を、あすかが見つめる。
「どうですか、一応お手製ですよ。あんと、みたらしと‥‥」
 こくりと凛はうなずき、お団子を口に運んだ。
 ふ、と小夜が周囲を見まわす。
 そういえば、玖朗さんは‥‥?

 ぽつん、と一人玖朗は二人を見送る。彼女達に任せておけば、きっと猿は山に戻れるだろう。
 静かに瞬く星を、玖朗が見上げる。
 境内の方からは、ベルシードやキリコ達の笑い声が聞こえる。
「‥‥ばあちゃん‥‥都会の巫女さんはおっかないっす‥‥」
 そして、玖朗に殺気を放ってバイクで去った巫女と、日本刀を振るう巫女さんと、モデルガンを乱射する巫女さん像が玖朗の記憶に、植え付けられたのであった。

(担当:立川司郎)