蟇目大祭〜奪還アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 立川司郎
芸能 フリー
獣人 3Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/30〜06/03

●本文

 陰刀は遙か昔、八卦が中国から日本に来た時に保ってきたオーパーツを新々刀に打ち直したものである。蟇目大祭の儀式に使用されるが、その目的や使用方法は一般に明らかにされていない。
 10年前の蟇目大祭において行方不明となっていた陰刀だったが、先日の調査により行方の手がかりを掴んでいた。
 蟇目大祭で、陰刀を盗める位置に配置されていた者‥‥決勝進出を果たした参加者のシシリー、三津屋香奈、木崎昴の3名。そして、全大祭優勝者である、加賀芳晴。更に、暗部の立浪と桂、芳井の3名だ。
 そして、八卦の御領社長と彼を護衛していた緋門要。
 この中で、現在刀を奪ったと目されているのが芳井だ。
「芳井さんは、今も氷室刀剣店の手伝いをしています。刀を探すなら、今しかありません」
 緋門あすかは、一枚の見取り図を出した。
「これは、氷室刀剣店の見取り図です。‥‥いいですか、よく聞いてください。薄々気づいているかもしれませんが、現在八卦は内部分裂や、外部からのスパイが入り交じっています。芳井さんだけでなく、亜矢さんやお爺さまだって例外ではありません」
「言いたい事は、分からんでもない。要するに、亜矢や爺さんが刀を隠すかもしれない‥‥と考えているんだな。だから、穏便な方法はとれないと」
 来島が聞くと、あすかはゆっくりうなずいた。
「かといって、あまり強引な方法を取っても警察を呼ばれたりして面倒ですからねえ」
「速やかに店内を占拠し、各人を確保せよ‥‥だな」
「はい。‥‥後もう一つ、気になる事があるんです」
 あすかが気にする事‥‥それは、先のミサキの鎌倉調査において聞いた、甲斐・クラークという名前。
「‥‥恐らく、黒蜥。彼が関わる所には、必ずNWが出没する。芳井はマークしておかなければ‥‥甲斐は芳井の消去にかかるかもしれません」
 芳井の保護と、陰刀の奪還。
 氷室刀剣店に、静かに足音が忍び寄る。

<条件>
・陰刀を探す事、そして芳井を確保する事。あまり派手にやると警察を呼ばれるので、注意する事。素早く確保して説明すれば、それ以上の抵抗はしないと思われる。
・陰刀:黒光りする地肌。表(刃を上にして腰に差して外側)に八卦の銘があるらしい。
<NPC>
緋門あすか:緋門神社を一人で切り盛りする、獣人に理解ある人間の巫女さん。八卦の暗部とも繋がりがあり、現在八卦内部の様々な問題解決に尽力している。
来島兵庫:様々な獣人問題や、過激組織に対する裏組織“暗部”隠密隊総隊長。年は三十代後半だが、体つきは良い。何らかの理由で煉獄に収容されていたらしいが、あすかには信頼されている。
<氷室刀剣店>
1F:正面に玄関。入ると右手に、上へ続く階段。左手にトイレ。奥は一段高くなり、靴を脱いで上がる店内。ショーケースなどは端に少し置いてある程度で、商品のほとんどは店の奥側に置いてある鍵付きの箪笥に仕舞われている。更に奥に続く扉があり、事務所と作業場がある。
2F:自宅と倉庫。

MAP:1F上半分のみ。□はショーケース、箪笥。2Fの倉庫は階段上がってすぐ目の前。
−窓−−−窓窓−−−−−−−
|事務|作業場×|作業場2|
|×室|×××××××××窓
−−扉−−××−−−−−−−
|□□□□××××××××|
|□××××××××××□|
|□××××××××××□|
−−−−−−−−−−−−−−

●今回の参加者

 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa1179 飛鳥 夕夜(24歳・♀・虎)
 fa1423 時雨・奏(20歳・♂・竜)
 fa1890 泉 彩佳(15歳・♀・竜)
 fa2423 滄海 故汰(7歳・♂・狼)
 fa2478 相沢 セナ(21歳・♂・鴉)
 fa3392 各務 神無(18歳・♀・狼)
 fa3622 DarkUnicorn(16歳・♀・一角獣)

●リプレイ本文

 奥から、涼しい風が吹き抜けた。張りつめた空気の中、奥で誰かが刀の手入れをしている。もうかなりの高齢だろう。気むずかしそうな顔で、ちらりとこちらを見た。
「Entschuldigen Sie.Nett,Sie kennen zu lernen」
 きょろきょろと見回す。この男以外に、ここには居ないのだろうか。
「‥‥刀を見せていただきたいのですが」
 流暢な日本語で、相沢 セナ(fa2478)が挨拶をした。どうやらこの男が、氷室亜矢の祖父であるらしい。すうっともう一人、男が顔を覗かせる。こちらは四十歳前‥‥位だろうか。
「芳井、客だ」
 祖父はそう言うと、再び刀に向き直った。

 ぽりぽりと煎餅を食べながらテレビを見ている緋門あすかの横で、時雨・奏(fa1423)がすっとんきょうな声をあげた。のっそりと横を、銀髪の男が通り抜ける。
 シシリーはちらりと時雨を見ると、あすかの横に座った。時雨が殺意の込めた視線でシシリーを見た事は、さておき。
「どうしても、明日は駄目? 夜じゃあかんかな」
『ええと‥‥明後日の夜と仰っていたので、明日の夜京都に行って明後日帰ってこよう、と思っていたんです』
 ちなみに、今名古屋に‥‥と亜矢が電話の向こうで言った。
「亜矢は月の半分を出張しているから、その日に行くと言っちゃったら、それに合わせて日程詰めちゃいますよ」
 あすかが、ぽつりと言った。
「んー‥‥せやったら、新幹線口まで迎えに行くわ。そして次の日も送っていく‥‥それでも駄目なん?」
『うーん‥‥しょうがないですね』
 いきなり時間と日にちを変えると、相手も対応出来へんし‥‥ええ作戦やと思ったんやけどな。時雨が言うと、シシリーが鼻で笑った。
「そりゃ、暇な奴はいつも居るだろうがな」
「‥‥嫌みか? 誘拐犯にそないな事言われたかないわ」
 むっとして、時雨が言い返した。

 日が暮れ、氷室刀剣店の看板から明かりが消える。
 店の前に一台の車が停車し、助手席から亜矢が降りた。
「すみません、突然おじゃまして‥‥」
 後ろから、何度も謝りながら夏姫・シュトラウス(fa0761)が降りる。運転していたのは、時雨であった。ちなみに車は、借り物である。
 亜矢はトランクから大きなバッグを抱え出すと、店内へと入った。
 突然の来店にもかかわらず、亜矢は『今度はちゃんと、連絡してくださいね』と一言言って済ませてくれた。夏姫がおみやげとして持参したケーキや饅頭を出すと、祖父が無言で奥に向かい、お茶を入れてくれた。
 祖父、そして芳井は‥‥隣の部屋に居るようだ。
 夏姫は亜矢と話しつつ、合間を見て携帯電話のメールを打った。
「芳井が事務室、爺さんは正面の作業場に居るらしい。夏姫と時雨、亜矢は中央の店内で話してるらしいね」
 メールを見つつ、飛鳥 夕夜(fa1179)が話した。
 手順では、店外に泉 彩佳(fa1890)、滄海 故汰(fa2423)、DarkUnicorn(fa3622)‥‥ヒノトが待機し、外敵に備える事になっている。また、時雨とセナは店内で警戒し、飛鳥と各務 神無(fa3392)は芳井を訪問する振りを見せて店内に入り、各員の確保をする。
「警察沙汰になると困るし、電話線は切った方が良くないか? 店の近くあたりなら‥‥」
「外部線を切れば、後で弁償だのなんだのと面倒じゃぞ?」
 セナに、ヒノトが答えた。すぐに、飛鳥が中に居る夏姫に、電話の位置や確保をするようにメールする。携帯電話までは予測出来ないが、亜矢と面会した事のある夏姫も居る為に、亜矢とて即座に警察へ連絡するような事はあるまい。
「じゃあ神無、行こうか。手順はいいね?」
「ああ、了解している」
 神無は、飛鳥の後に続いて歩き出した。
 邪魔するぞ、と飛鳥が声を掛けて店内に入ると、ショーケースの中を見ていた夏姫と、亜矢と話し込んでいる時雨がこちらを向いた。
「芳井さんに、ちょっと話があるんだけど‥‥いいか?」
 飛鳥が聞くと、亜矢が中に向けて声をかけた。飛鳥と神無が上がり込み、すうっと夏姫が立ち上がった。
 飛鳥と神無が芳井の前に立ち、時雨と夏姫は祖父と亜矢を。
 半獣化した夏姫が、声をあげた。
「動かないでください!」
「‥‥こちらの言う通りにしてくれれば、そちらの身の安全は保証する」
 飛鳥が続いて言うと、芳井は青ざめた顔で2人を見上げた。祖父は黙って言う通りにしている。
「それで、どういうご用件ですか? ‥‥来島さんか‥‥あすかさんの命令ですね」
「そや。亜矢ちゃん、悪いけどみんな、奥の事務室に入ってくれへんかな。あ、携帯電話はもってへんか確認させてもらうで」
 時雨が2人を追い立てる。飛鳥が芳井の視線を追っている間、神無が話を続ける。
「芳井さん‥‥陰刀、あなたがかくしているんだろう? 妙な気を起こさず、速やかに答える事をすすめるよ」
 そう言うと、神無が奥に連れられた亜矢の方へと声をかけた。
「そう‥‥亜矢さん。この間は遠回しに言い過ぎてしまったけれど、私が言いたかったのは、イギリスの、とある本の言葉だったんだ」
「なるほど、それは私が至らずすみませんでした。要は、陰刀を隠すのであれば、刀が沢山おいてある刀剣店に‥‥という事ですね」
「ああ。ご理解頂き、感謝する」
 亜矢と話している間、飛鳥は店内を捜索していた。隠したものを探すには、隠した相手の視線を追うのが基本だ。飛鳥は、芳井の動向から刀が事務室にあるのではないかと考えていた。
 事務室はどうやら、芳井しかほぼ立ち入らないらしい。
「もし‥‥亜矢さんがシロなら‥‥あの、亜矢さんもおじいさんも知らない場所‥‥という事になりませんか」
「ああ、あたしもそう考えていた」
 夏姫に、飛鳥が答えた。

 一方店外に居るアヤは、黒蜥の襲撃を警戒して店外の四方に立っていた。
 アヤ、故汰、ヒノト、そして入り口からやや奥の店内にセナが立っている。
「ええと‥‥陰刀は打刀というものだよね。この写真にある陰刀、刃を上にして腰に差して外側に銘がくるよ」
 アヤが声を掛けると、セナが答えた。
「そうなのか?」
「うん。アヤも調べたよ。新々刀は幕末に作られた、実践的に作られた武器で‥‥新刀は、太平の時代にお侍さんのすてーたすとして刀装具の装飾の華美を追求したものなんだって」
 だから、撮影用の刀としてならば、新刀の方がいいのではないか‥‥アヤはそう思っていたが、実際氷室刀剣店は小道具を扱いながらも、普段は刀剣店として営業している。撮影用として提供するのは最近作られた刀で、美術品としての価値が高いものは撮影には使わないのだ。
 結局銘を確認するのが、一番早い。刀の扱いに慣れない夏姫に代わり、飛鳥が刀を確認していった。
 刀を探すのは、彼女たちに任せていいだろう。アヤは、少し心配そうに周囲へ視線を向けた。
 アヤも時雨も、ついこの間‥‥三津屋臣と会った時、会っている。あの、甲斐という男に。彼女達はその様子をビデオにおさめようとしたが、とにかく落ち着いて撮れる状態ではなかった為、ぶれてよく確認出来なかった。
 故汰も、甲斐を警戒するアヤにならってアンバーグラスで周囲を見回している。甲斐の話は、故汰も聞いていた。
「気をつけてね‥‥もし甲斐が来るなら‥‥」
「アヤ姉ちゃ、音がするの‥‥バイクの音」
 故汰が声を上げた。アヤは、すうっと建物の影に身を隠す。
「気をつけて、甲斐はNWを召還するから!」
 バイクが店の前で旋回し、乗っていた男がこちらを向いた。アヤが甲斐、と声を上げる。ヒノトはバイクをちらりと見、乗せていた機関銃を取りに行く隙を伺う。
 むろん、こんな町中で機関銃など撃てば、それこそ警察に逮捕されてしまう。弾は抜いてあった。
 半獣化した故汰が、駆け出す。
「兄ちゃ姉ちゃの邪魔は、させないの〜!」
「ははっ、君と俺じゃ‥‥リーチが違いすぎる」
 制止しようとしたアヤの前に、鋭い蹴りを受けた故汰がふっ飛ぶ。アヤは故汰を受け止めると、正面を見据えた。
 銀色の髪をさらりとかき上げ、甲斐がすうっと手をあげる。すると甲斐の体から影が飛び出し、牙を持った蜘蛛のような形を作り出した。
 ヒノトが、息を飲む。
「な‥‥どこからNWなど召還するのじゃ、あやつは‥‥ッ!」
 日傘に仕込んだ剣を抜き、NWに向けるヒノト。体を起こした故汰を庇うようにして、NWに突きつけた。
 足と牙の隙を狙い、NWの動きを攪乱する。
 その間に故汰が起きあがり、ちらりとアヤを見上げた。
「姉ちゃ、完全獣化は駄目なの?」
「してもいいよ、俺は傍観させてもらうから」
 甲斐が懐から煙草を出すと、口にくわえて火を付けた。
「でも、俺がこれで弾切れだと思わない方がいいな。‥‥出来れば、あんまり女の子を痛めつけたくないから、手早く済ませようか」
 店内に歩いていく甲斐‥‥アヤは、知友心話を使って飛鳥に甲斐の接近を知らせる。むろん、ここまで騒動を起こされては中に居る神無達とて、察知していた。
「‥‥時雨さん、あれが甲斐か?」
 余裕の様子で歩いてくる甲斐を睨みつつ、神無が背後の時雨に声をかけた。
「あかん、甲斐は相手にすんのヤバいで! この間も御伽峠で痛い目に遭わされてん」
 時雨が叫ぶと、飛鳥が事務室の引き出しを引っ張り出した。こうなったら、長いものが入るスペースは全て引き出して確認するまでだ。
「陰刀と芳井の確保が最優先だ、脱出方法を確保しよう。ヒノトさんのバイクが‥‥時雨さんの借りた車がある」
 神無は中に居る時雨達に言うと、玄関先に出た。既にセナが、甲斐と対峙していた。すう、と手をかざして神無を止める。
 戦闘態勢は、とっていない。
「‥‥ここで戦うつもりはないが、刀も差し上げるつもりもないよ。ここで戦うと、君も不必要に目立つ事になる。人間に見られるのは、君だって嫌だろう」
 セナが言うと、甲斐は肩をすくめた。
 と、奥から夏姫が飛び出した。時雨が芳井の腕を掴み、駆け出す。彼を庇うように飛鳥が立つと、事務室の奥の棚から引っ張り出した刀を抜いた。
 きらりと黒光りする。あ、と亜矢が声をあげた。
「それです!」
「‥‥では、遠慮はいりませんね」
 夏姫が飛びかかる。セナの横をすり抜け、夏姫が飛びかかった。同時にセナが、手のひらから闇弾を放つ。
 窓から芳井を連れた飛鳥と時雨が飛び出し、店外を入り口へと向かう。
 入り口付近では、アヤがNWを阻止していた。NWの足を掴んで抱え込み、故汰が噛みついて足を引きちぎる。
 ヒノトはバイクから網を引き出すと、構えた。
「‥‥退けい、おぬしらッ!」
 故汰とアヤがよけると、網がまかれた。やや不格好ながら、網がNWの体にからみついた。故汰とアヤがNWを押さえ込むと、ヒノトは視線を巡らせた。どこかにコアがあるはずだ。
「‥‥足の間‥‥っ」
 アヤが声を上げると、ヒノトがそこに向けて日傘を突いた。
 よろりと一歩後ろに下がり、店内へと視線を向ける。
 視線が、合う。
 銀色の狼が、立っていた。完全獣化した夏姫が、ショーケースの足を破壊して血に塗れており、神無は狼‥‥甲斐に首を捕まれていた。
「神無姉ちゃ!」
 駆け寄ろうとした故汰に、神無を叩き付けるようにして投げる甲斐。夏姫を庇いながら、セナが立った。しかしセナの黒い羽も傷つき、左腕はざっくり抉られていた。
「既に刀もここに無い。‥‥それとも、まだ戦い足りないのか?」
 薄く笑いながら、セナが聞く。
「芳井‥‥そんなに命が惜しいかねえ。俺に狙われたら、助からないのは分かっているだろうに‥‥」
 ふ、と甲斐は笑うと、セナに背を向けた。

 時雨と飛鳥が引き返して来ると、残った亜矢達が店内を片付けていた。夏姫は何度も謝りながら片付けを手伝いたがっていたが、ヒノトから怪我の治癒を受けて体を休めている。
「セナ、お主もこっちに来るのじゃ」
 ヒノトが手招きをすると、セナは首を振って笑った。
「僕はいいから、神無さん達を手当してやってくれ。君の治癒も、何度も使えるものじゃないんだろう?」
「‥‥そうじゃが。ムリをするでないぞッ?」
 ヒノトは、神無の傷に手をかざした。
 すう、と故汰が心配そうに、アヤと時雨を見上げる。
「‥‥ねえ、兄ちゃ姉ちゃ」
「うん?」
 アヤが聞き返すと、故汰は眉を寄せた。
「しーちゃん、居なくなったりしなーよね? あの人の所‥‥戻ったりしなーよね?」
「んー‥‥シシリーは‥‥」
 時雨はシシリーの事はどうでもええ、と言いかけたが、故汰の潤んだまなざしを受けて、ちょっと怯んだ。
「まあ‥‥今朝はうちに居ったで。まあ、心配やったら連れて帰り」
「大丈夫だよ、故汰くん。だって、御伽峠でも一緒に戦ってくれたもの」
 アヤはそう言うと、そっと故汰の頭に手をやった。