海と哲哉の試練アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 立川司郎
芸能 2Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/04〜06/06

●本文

 羽崎海と田部哲哉は、ジュリアーズ事務所の候補生の一人である。哲哉はつい数ヶ月前に入ったばかりだし、海はそれより少し先輩だがデビューはしていない。
 やる気が無い哲哉といつでも俺様道な海を見てきたマネージャーが、ジュリプロの事務所で今後の仕事の提案を、受けていた。
 黙ってつけられたモニターに映っていたのは、レッスンの時の二人。
 ダンスレッスンでは派手な動きの海が目立っており、時折仲間に注意してやったり面倒を見ている。しかし海に指示されるのが嫌なのか、哲哉は
「うるさい‥‥自分の事は自分でやれ」
 とぴしゃりと言う。
「俺はちゃんと出来てる」
「“とりあえず”出来てるだけじゃないか」
「注意してやってんだから、ヒトの言うこと聞けよ」
 自分が一番聞かないくせに、と哲哉がつぶやいた。
 一方ボイトレでは、哲哉の方が上手い。海は声の通りはよく綺麗なのだが、ダンスに比べて上手いかというと‥‥。
「教えてやろうか、海」
 と嫌みを言った哲哉に、海がむっとして言い返す。
「おまえに言われるまでもねーよ、バーカ」
 まるで子供のケンカだ。
 ため息をついて、マネージャーが首をふった。
「だめね、あの二人。組ませるかって話はあるみたいだけど、僕はちょっと賛成しかねるね。せめて五人くらいで組んだら安定するかもしれないけど‥‥リーダーシップにあふれる海だって、それ位の人数で使う方がいいでしょうしねえ」
「いや、あえて二人の方がよくないか」
 海はいつも人の上に立ちたがる傾向にあるが、その分見えない所で気を遣っているんじゃないかと言うのだ。組ませたはいいが、後で険悪になるユニットはたくさんある。
 そこで事務所は、二人を路上ライブに追い出す事にした。
「二人で協力して、3日間がんばってね」
 海に渡されたのは、ショルダー・キーボード。哲哉はスタンドマイク。
「な、なんで海と一緒なんですか」
「よし、俺に任せろ」
「な、なんでそんな意味無く自信満々なんだよ、おまえは! そもそも、俺ら歌も先輩のものしか無いし‥‥」
 哲哉は歩き去る海を、呆然と見送った。

 ‥‥とは言ったものの、どうも不安が残る。マネージャーは、きっと鋭い視線を空に向け、拳を握った。
「試練よ‥‥これは試練なのよ! お願い、彼らを3日間見守ってあげて! 時には助け、時には試練を与えて‥‥彼らの成長を見届けて!」
 マネージャー(注:男)は、そう頼んだ。

設定
羽崎海:ジュリプロ候補生の一人。いつも意味無く自信満々で、元気がいい高校一年生。ピアノが弾ける(ブルグミュラーくらいまで)‥‥大丈夫か?
田部哲哉:ジュリプロ候補生。口数少なく、クールな性格。中学2年。
・共に、持ち歌は無い。

●今回の参加者

 fa0142 氷咲 華唯(15歳・♂・猫)
 fa0244 愛瀬りな(21歳・♀・猫)
 fa0964 Laura(18歳・♀・小鳥)
 fa1126 MIDOH(21歳・♀・小鳥)
 fa1406 麻倉 千尋(15歳・♀・狸)
 fa2661 ユリウス・ハート(14歳・♂・猫)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)
 fa2997 咲夜(15歳・♀・竜)

●リプレイ本文

 ぽんと路上に放り出された、海と哲哉。行き交う人々の視線が、哲哉は痛い。こんな所でライブなんかした事がなく、歌の経験のほとんどはジュリプロのレッスン場であったから。
「お前、何なら弾ける訳?」
 哲哉が聞くと、海はちょっと悩んで答えた。海にしては、自信なさげである。
「ふわふわCM以来、ジュリプロのレッスンも受けるようにしたけど‥‥SWABのとか、あとはCMの3曲は弾けるぞ」
「そのうち一曲は校歌用じゃないか‥‥二曲目は女性ボーカルだし」
 そもそも、曲選びの時点で意見がまとまらない二人だった。

 二人が、女性ボーカル用に挿入したふわふわ特別CMの曲を合わせている間、やや離れた橋のたもとに楽器を持った女性二人と少年が一人、現れた。
 腰まで伸びた黒髪と澄んだ瞳、そしてもう一人は短く刈ったブロンドヘアの女性。連れている少年は銀色の髪に青い瞳、青いスカジャンとジーパンという格好。
 黒髪の子が、ブロンドヘアの女性にショルダーキーボードを渡し、かわりにマイクを貸している。
 少年はふとこちらに気づくと、駆け寄ってきた。
 無言の哲哉に、少年が手を差し出す。
「俺、ユリウス。君たちも路上ライブするの?」
「おう、よろしくなっ!」
 海が元気よく手を握り返した。こいつは、いつも元気。でも哲哉は、やや不安そうにユリウス達を見ていた。
 挨拶を済ませると、ユリウス・ハート(fa2661)はショルダーキーボードの調子を見ているMIDOH(fa1126)と、曲の確認をしているLaura(fa0964)の所へ戻ってきた。
 大人しそうなローラと、鋭い視線のマリア。こう見えても、マリアはローラの姉である。
 2人は、ユリウスの憧れであった。そういうとマリアは、頭をわしわしと撫で回して、
「お前なら、いい役者になれるよ」
 と言ってくれる。
「さて、ジュリプロの曲も許可を取ってきたし‥‥曲順はユリウス、ローラ、あたしの順番でいいかい?」
「ええ。‥‥この事が、海さんと哲哉さんの刺激になればいいですね」
 ローラはにこりと笑って言った。

『夏のまなざし』vo.ユリウス

街で見かけた いつもと違う君
白いブラウス 汗が煌めく

眩しい光の中 君の姿に僕はドキドキ
太陽のまなざし 夏の幻
暑さ故の勘違い?
眩しい光の中 いつもと違う君にドキドキ

太陽のまなざし 夏のまなざし
暑くなる胸は夏のせい?

月曜日学校で君と会ったらどんな顔をすれば良いのだろう?
眩しい光の中 君の姿に僕はドキドキ

太陽のまなざし 夏の幻
僕は君に‥‥恋している

 ユリウスは歌や声はまずまずといった所だが、ローラを歌詞の少女に見立てて踊るなど、パフォーマンスも十分だ。
 また、マリアやローラも全体的にうまく合わせて纏まっていた。

 しかし海と哲哉の方は、哲哉にまず合わせる余裕がない上に、緊張が見てとれる。
 それでも何人か人がいるのは、最近CMがよく流れていて顔が売れているせいもあるだろう。
 やや後ろの方で、その様子をイルゼ・クヴァンツ(fa2910)と咲夜(fa2997)が見ていた。イルゼの髪や顔立ちもやや日本人離れしているが、路上ライブをやっており人通りが多いこの路地では、さほど目立つものでもない。
 うん、と咲夜が頷いた。
「やっぱり、荒治療が必要だよね。自分たちの実力を思い知らせて、協力しあう事の大切さを知って欲しいもんね」
「異論はありません」
 短くイルゼが答えた。
 彼らの曲が一通り終わると、咲夜は聞こえるようにため息をついて、声をあげた。
「CMで人気が出てる子だっていう割に、とんだ期待はずれだよね」
 本当の事なので言い返せない哲哉に対し、さらに負けん気の強い海がむっとした。
「向こうのグループくらいの腕じゃなきゃ、とてもお客さんに見てもらえないよ」
「何だと? 今に見てろ、おめーに『すみません』って謝らせる位上手くなるからな」
 どこの使い古された捨て台詞だよ、と哲哉が呟く。
 さらに帽子を深くかぶったファンの一人が、じろりと見返した。
「始めたばかりなのに、そんなに言うことないじゃない」
「始めたばかりだろうと、路上でライブする以上は同じよ」
 言い返す、咲夜。
 イルゼはやや咲夜から離れて、客を装った。2人であおって、逆にやる気が無くなってもらっても困るからだ。ここは、客を装う方がいいだろう。
 いや、他人の振りをしているわけではない。
「それは楽しみね、二人合わせてようやく半人前なくせにプライドだけは一人前のお二人さん」
 咲夜はそう言い残すと、さっさとその場を後にした。こっそりイルゼが、後を追いかける。
「あの調子だと、すぐにユリウス達を超えるのはムリでしょうね」
「うん。何か作戦、あるの?」
 咲夜が聞き返すと、イルゼは首を振った。
「最初から壁を簡単に越えられる人など、ごく少数です。ただ、今回の事でお二人の中で自信となるものが得られればいい、と思いますが?」
 振り返ったイルゼの視線の先で、海と哲哉に話しかける麻倉 千尋(fa1406)の姿が映った。彼女はCMで競演した仲間で、今回の件の助言をしようと思っているらしい。
「さて、煽るだけというのも芸がありませんし。私は曲芸をしながらビラ配りをしようと思うのですが、来ますか?」
「えっ、イルゼさんって曲芸師なの?」
 いつもは無口だが、これでもたった一人、路上で出し物をした経験があるのである。
「よし、じゃああたしがお客を集めてビラ配りするよ」
 離れた通りに移ると、イルゼは借りてきたパイプ椅子などを使ったアクロバット的な出し物を披露しはじめた。
 咲夜はアクション演技には自信があるらしく、たまにイルゼの出し物も手伝ったりしている。
 ビラはあっという間に無くなり、イルゼは椅子を片付ける咲夜に『お疲れさま』と、ぽんと缶コーヒーを投げた。
「‥‥彼らは、ジュリプロというネームバリューがあるんです。それだけでも、私達よりも恵まれている」
 逆にそれが重荷になる事も、あるでしょうが。イルゼが呟いた。

 ジュリプロとCMにつられて来た客は、あまり曲は真剣に聴いてない。それは、痛いほど分かる。
 沈み込んでいる哲哉と、それでも曲の練習を続ける海に声を掛けたのは、千尋だった。
「やっほー☆」
 元気のいい声。千尋は、2人の様子を見て腰に手をやった。
「何だ何だ、元気がないなぁ。ちょっと見てたんだけど、もしかして自分の曲が無いの?」
「あー、ふわふわの二曲目とかやってたんだけどな。こいつ、声が高いからさ」
 まだ中学生の哲哉は、女性ボーカルが平気で歌える位に声が高い。
 よしよし、と千尋が頷く。
「それじゃ、曲を進呈しよう。今ネットで流してる曲と、作って来た新しい曲。ネットの方は元々男性ボーカル用だったんだ」
 ネットで流れている曲は、ふわふわ特別CDで千尋が考えた曲である。歌詞はふわふわとした調子だが、曲調はメリハリがきいている。
 本当はもう一曲作ってきていたが、歌詞は出来ても曲がなかなかうまく合わないらしい。そうして悩んでいるうちに路上ライブの日を迎え、そのまま持ってきてしまった。
 元気のいい歌詞だが、2人のイメージに合うかというと、千尋は首をかしげる。

『BOYS!』
反抗の証のピアスホール
気がついた途端に大声で笑う
バカにする? そうじゃない
かき上げた髪 張り付いたオニキス

学問には無意味なルール
怒られるのは場違いじゃない?
ニヤリ笑う 意味ありげなウィンク
手を上げて立ち上がる 共犯者気取る

放送室をジャックして
ロックンロールを響かせろ
俺とお前の音が絡めば
天下無敵 怖いものなし
明日も突っ走れ


 ユリウス・マリア・ローラの三人は、何曲かジュリプロの曲を演奏して引き続き、ローラがメインボーカルの曲に移った。
 路上ライブの経験は、ローラも豊富だ。先ほどの咲夜のように、野次られたり酔っぱらいに絡まれる事はよくある。
 澄んだローラの声は、ユリウスよりも通りがいい。
 大きめのハンチングとTシャツ、下はジーパンとブーツというラフな出で立ちでローラが路上に立った。
 夜空に静かに響く声と、吸い込まれるような漆黒の髪。

vo.ローラ
二人に降る雨は僕の心
こんな事を望んでいなかったのに
小さな勘違い
二人のプライドが僕等を引き離した
言葉はひび割れた硝子
僕等を傷付ける

望まない結末を
離れてしまった心

悲しみだけが
君への思いだけが深く募る


 海と哲哉の方にも、次第に人が集まりはじめた。イルゼ達がビラを配った事が、功を奏したようだ。
「頑張ってるか?」
 その声に哲哉が顔をあげると、氷咲 華唯(fa0142)と愛瀬りな(fa0244)が、立っていた。さすがに哲哉と海、そしてケイに愛瀬と揃うと、人目が‥‥。
 千尋はいち早くそれを察知し、周囲の客へ頭をさげた。
「あの‥‥あたし達、2人の応援にきたんです。サインや握手は、後でもいいでしょ?」
 実は愛瀬、ライブはずっと見ていたのである。
 事前に哲哉と海には、
「見に行きたかったんですけど、他の仕事がありまして‥‥」
 と断っていた愛瀬だったが、実はちゃんと見に来ていたのである。
 帽子とサングラスで顔を隠していた為、分からなかったかもしれない。いや、分かるか分からないか、それをはかる為でもあった。
「愛瀬の勝ちですね。でも、哲哉君達に余裕があったら、ちゃんとあたしの事を分かってくれたと思います。お二人とも、もう少し緊張を解いて‥‥ね」
 愛瀬は笑って言った。
「あのね、他の人の受け売りなんですけど‥‥ライブというのは、お客様を楽しませ、なおかつ、自分も楽しむものだと思います。あれだけ素敵なCMが作れたんですもの、2人ならやれるはずです! 応援してますから」
 とガッツポォズの愛瀬。
 ケイも、2人の演奏を見てそれを気にしていた。まず余裕が無い事と、2人の息が合ってない事。
 ケイにとって海と哲哉は、昔の自分達を見ているようだった。
 今は、お互いの欠点や出来ない所を補い合い認める事が出来るようになったが、そうでない時期もあった。ケイとて、アイドルが嫌だったからである。
「CMで顔が売れてるからって、ちゃんとしたものが出来なかったら客は離れる。2人でやるつもりなら、ちゃんとお互い協力しあっていかなきゃ駄目だ」
「‥‥そうだな」
 哲哉は、うつむいたまま答えた。
 千尋がぱっと手を伸ばし、ケイの袖を引く。
「今ふわふわの曲を教えてあげてる所なんだ、あのネットに流れてる奴ね。それと、特別CDの2曲目が‥‥」
「そうか。じゃ、少しだけ教えていくから」
 ケイは海の演奏の指導をはじめた。
 哲哉は、海の演奏を聴いて合わせはじめる。海が派手なパフォーマンスをすると、少しずつ哲哉も自信を取り戻して、緊張を解いていった。
 遠目からそれを、愛瀬と千尋が見守る。
「ケイ君とユイ君、今はとっても仲がいいですよね」
 愛瀬が、演奏の邪魔にならないよう小さな声でケイにささやく。
「‥‥今はね。ユイは無駄にお節介だから、俺はちょっと荒れてたんだ。でも、こんな風にきっかけがあったら、2人でやっていけると思う。2人とも、良い物持ってるよ」
 まだ自分も駆け出しだけどね、と付け加えるケイ。

 ケイや千尋達に指導され、海と哲哉は少しずつ演奏を合わせる事が出来るようになっていった。
 ユリウスやマリアは、ファンが集まる事で騒動が起きないかと心配していたが、それも思ったほどになく、千尋がうまく纏めてくれていた。何せ愛瀬は知名度が高いし、海達もジュリプロ候補生というバックがある。
 最終日、マリアはこんな曲を歌った。
 一人ではかなわない相手でも、協力しあえば乗り越えられるといった歌詞である。ギターを使い、静かな中にも強い口調で歌い上げる。

『明日に向かって』
僕が辛く悲しく膝を抱えて 悲しんでいる時に
君は何も言わなかったけど ずっと側にいてくれた

君が挫けそうになって 倒れそうになったら
僕が手を差しだし 支えてやるよ


一人では越えられなくても 立ち止まった時も
君と一緒なら きっと上手く行くはずさ
一人では勇気が足らなくて 怖じけ着いてしまう時も
君と一緒なら きっと上手く夢を叶えられるさ

独りでない 二人でいる事が 僕らの力だから
1+1は2じゃなくて もっと大きな力を僕らにくれる

※繰り返し

独りでない 二人でいる事が 僕らの力だから
大きな力と共に 僕らは一緒に明日に進んで行くんだーー


 ローラは、海と哲哉に手を差し出す。
 マリアとユリウスも呼び寄せ、ローラはお疲れ様と言った。
「最初はどうなるかと思っていましたけど‥‥最後はとても良かったです。良ければ、一緒に歌いませんか?」
 ローラに言われ、海と哲哉が顔を見合わせた。
「いいんじゃない? 俺もみんなで歌いたいな」
 ユリウスが答える。さっそくユリウスは、マイクを取り出している。
 それならと、千尋がCMの曲を出す。これは、千尋が考えてネット上で流れている方の曲だ。これなら海と哲哉は知っているし、ローラ達程ライブに慣れていれば合わせられる。
「‥‥歌うか?」
 哲哉が、ケイと愛瀬を見る。
「そうだな、最後だし」
 ケイもマイクを取り、マリアが海に伴奏を合わせる。

『H<S』
屋上まで飛んできたシャボン玉は
一体誰がどこで 飛ばしてるんだろう?
「とんがってちゃ痛いよ」と
鼻先で 弾けて消えた

肩肘張らずに のんびりと
柔らかくいきましょう
つんつん突っ張ってないで
丸くいきましょう