殺人ゲーム〜貴族の館アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 立川司郎
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/13〜06/15

●本文

 小さな映画館でひっそりと上映されながらも、好評を博した映画「殺人ゲーム」。
 監督は顔を見せずただAとだけ名乗り、監視カメラを使って撮影されている。
 内容は至って簡単だ。
 Aは、携帯電話を使って依頼してきた。
「よくある、ちょっとしたゲームをする。君たちは一晩宿泊し、ルールに沿って役柄を演じてくれればいい」
 場所は、一軒の洋館だ。
 昭和初期に建築された、二階建ての白い洋館だ。何度か改築されたあとはあるが、古い雰囲気が残っている。室内や館の各所には監視カメラが設置されており、館内部の状況はAに届けられる。
 Aはそれを編集し、映画として上映するつもりなのだ。
「必要なのは、殺人鬼、主催者、協力者だ。‥‥では、今回の舞台を説明しよう」
 Aが今回用意した設定は、貴族の館。
 主催者は貴族であり、館内部に集うのは騎士、招待客、使用人等だ。
「時代背景や場所はどこでもいいが、設定は架空の国にすればいいだろう。配役に日本人が多いのに貴族と騎士を配置すると、違和感があるからな。そのあたりは、キミ達で決めてくれていい。その他、こちらで提示する役柄は次の通りだ」
 まず、キミ達のうち最初に挨拶(相談板)をした者は、内緒で一人を“殺人鬼”に指名する。殺人鬼として指名された者は、その夜誰か一人を殺害に向かう。2番目に挨拶した者は主催者=貴族となる。
 成功するか否か、そして誰を殺害するのか、誰が殺人鬼なのかは‥‥結果が出るまで謎。
 では、パーティーを始めようか。
 架空の国の貴族の館。貴族は、自分に反感を持っている者が居るとの情報を得て、パーティーを開いた。そして集う、騎士と招待客。
 そこで起こる惨劇とは‥‥。
 Aは招待状を手渡した。

ルール
前回と、弱冠ルール変更があります。
キャラクター設定:各人、館に到着するまでの設定を考えておいてください。その後の一晩の行動は自由です。固定設定は、下記を参照にしてください。
設定
最初に挨拶した者:相談板で最初に挨拶の書き込みをした人は、殺人鬼となるPCを“他のPCに内緒で(けもメールなどを使って)”指定してください。殺人鬼の知り合いという固定設定が付きます。
殺人鬼:何らかの理由で、パーティー参加者の殺害を企てています。誰を殺害するかは、誰にも話さないように。参加者が規定人数に達した後、“自分の協力者”として一名を、“他のPCに内緒で”指定してください。。
殺人鬼の協力者:何らかの理由で、殺人鬼に協力しています。殺人鬼が誰かを話してはなりませんが、それ以外の行動は自由です。
主催者1名:2番目に挨拶をした者は、パーティー主催の貴族となります。主旨は何でもかまいません。
騎士2名以上:貴族に使える騎士。貴族もしくは同僚騎士に対して、何らか極端な感情を設定してください。武装可。
招待客1〜2名:パーティーに招待された客。剣と銃による武装は禁止。
使用人:1〜2人:館に使える使用人。料理担当、執事等。
その他:貴族の身内という設定でもかまいません。全体の割合は上記のものを守り、逸脱しないようにしてください(バランスが悪くなるので)。

期間:夕方から、翌日九時まで。参加者が殺人鬼を見つける必要はなく、翌日九時に終了となります。それまでに殺人鬼が殺人を執行出来なかったとしても、その時点で終わります。

館内
・横に長い建物。1F2Fともにほぼ同じ作り。
1F:真ん中がロビーと階段、奥は食堂で、部屋の右奥に暖炉があります。左側はキッチンと倉庫、裏口となっています。右側は廊下を挟んで下が主催者の部屋、上は館の使用人の誰か一人の部屋となります。
マップ:簡単に下記のような作りです。
−−−−−−−−−−−−
−××××食堂××××−
−−−−−扉扉−−−−−
−××−上××上−××−
−××−××××−−−−
−××−××××−××−
−−−−−扉−−−−−−

2F:横一直線に廊下が走っており、真ん中は1Fからの吹き抜けで階段がある。左右に上下二つずつ部屋が、全部で八つ部屋がある。

内容:館に招待された(または招待した)という、与えられた設定を演じつつ、一晩過ごしてもらいます。Aの目的は、割り振られた役割の各人を撮影する事にあります。食事は誰かが作ってください。その他必要な物は、館内にそろえてあります。

●今回の参加者

 fa0142 氷咲 華唯(15歳・♂・猫)
 fa1077 桐沢カナ(18歳・♀・狐)
 fa1401 ポム・ザ・クラウン(23歳・♀・狸)
 fa1771 由比美紀(20歳・♀・蝙蝠)
 fa1814 アイリーン(18歳・♀・ハムスター)
 fa2121 壬 タクト(24歳・♂・兎)
 fa2553 アレクサンドラ・ノーツ(22歳・♀・狼)
 fa3736 深森風音(22歳・♀・一角獣)

●リプレイ本文

 ひとつの古びた洋館で繰り広げられる、物語。
 集うは8人の演者‥‥。その中にたった一つ、殺人のカードが渡された。

 ここの所、主はずっと鬱ぎがちだった。それは、同僚である騎士イヴェット・ジュオー[桐沢カナ(fa1077)]が持ち込んだ、ある噂にあった。
「アイリーン様、あまりお気落ちなさらず‥‥せっかくお出で頂くマクレーン様やベイル様も、あなたの笑顔が見られなければがっかりなさいますよ」
 アイリーン[アイリーン(fa1814)]は、彼女が最も信頼する騎士カザネ・フォレスト[深森風音(fa3736)]が久しぶりに館に戻って来た事で、やや表情を和らげた。
 カザネがそう言うと、アイリーンは少しだけ笑ってみせた。
「そうね‥‥皆にも心配をかけます。貴方も今宵は宴の客人として楽しんでください」
 アイリーンを心配し、深夜は幼なじみのアイヴィー・ベイル[壬 タクト(fa2121)]と、親戚筋にあたるヴァレリー・マクレーン[アレクサンドラ・ノーツ(fa2553)]がやって来る。
 いつも優しいアイヴィーと、陽気なヴァレリーはとても安心出来る人だった。彼女にとって、兄や姉のような存在だ。
「ヴィジラン様、ジュオー様がお戻りになられました」
 ドアをノックして、侍女が声をかける。開けられたドアの向こうに立っていたのは、サティ[由比美紀(fa1771)]だった。
「そうか。さてそれでは久しぶりに、グラースに小言の一つも言いに行くとしようか」
 カザネはふ、と笑うと部屋を出て行った。
 彼女を見送り、サティがアイリーンに一礼する。
「パーティーの準備は滞りなく行っております。何かありましたら、お呼びだてください」
 淡々とした口調で言うと、サティが部屋を退出した。
 そっとカーテンを開け、外に視線を向ける。
 騎士を伝って届けられた、不穏な噂。アイリーンに、反感を持っている者がいるというのだ。疑いたくはないが、もしかするとこの中にもいるかもしれない。
 そう考え、アイリーンは首を振って考えを否定した。

 ドアを開けるなり、ヴァレリーはしっかりとアイリーンに抱きついた。
「心配したわ、アイリーン‥‥あなたがこんなにも辛そうにしているなら、もっと早くに会いに来るんだったのに」
 柔らかいブラウンの髪が、アイリーンの頬に触れる。ヴァレリーの優しい声と、優しい匂い。
「ごめんなさい、心配させてしまって。本日は私のために時間を作ってくださって、ありがとうございます」
「ええ、本当に。だから、今度からはちゃんと相談して」
 ちょっと怒ったように、ヴァレリーは眉をしかめて見せた。そして、くるりとアイヴィーを振り返る。
「今日はアイヴィーが、あなたに素敵な贈り物を持ってきたそうよ」
「まずはこれを、可愛いアイリーンに。もう一つは‥‥後のお楽しみ」
 すう、とアイヴィーが、後ろ手に持っていた淡いピンクの薔薇の花束を差し出した。
 親しい人々との一時の談笑に、アイリーンも笑顔を取り戻していた‥‥が。
 イヴェットは、気になっていた。“アイリーンに反感を持っている者がいるらしい”と聞いたのは、アイヴィーからだ。彼と自分は、アイリーンが幼い頃からのつきあいだ。
 グラース・ヴィジラン[氷咲 華唯(fa0142)]、イヴェット、そしてカザネの3名は、パーティーの間もこうして警戒を怠らず監視の目を光らせていた。
「グラース、私は厨房で毒味をしているから、お前はアイリーン様の側に付いていなさい」
 カザネはそう言うと、厨房へと入っていった。イヴェットはイヴェットで、久しぶりに会うアイヴィーやヴァレリーとの話に興じている。
 自分だけ取り残されたような、焦燥感に襲われる。カザネが戻って来ただけで、アイリーンは安心した様子を見せていた。ここには自分だって居るというのに‥‥。
 アイヴィーは、二つめの贈り物の事を話していた。どうやら、異国製の美しい織物を手に入れたらしい。彼は貿易商だから、異国の話をたくさんアイリーンにしてくれる。それを彼女も、楽しみにしているようだった。
 そして食事の用意が調い、ダイニングの扉をサティとエファ・ブラウン[ポム・ザ・クラウン(fa1401)]が開け放った。
 エファが用意した今日のメニューは、次の通りだ。
 まずは食前酒に、海の幸のバルサミコ酢ゼリー・人参ムース添え。そして浅蜊のクリームスープ・カルディナル風と、鱸のポワレ・季節のフライドベジタブル添え。
 メインは鴨胸肉のシャルロット仕立て・ビガラードソース添え。
 あとはチーズと、ピーチメルバ。
 食後は、コーヒーか紅茶を。エファは、特製のハーブティーも用意していた。
「いつも美味しい料理をご苦労様、エファ」
 ヴァレリーがほめると、エファはちょっと照れたように笑った。

 ヴァレリーとアイヴィーに会った事で、アイリーンは少し元気を取り戻したようだ。
 エファは彼らが部屋に戻ると、ダイニングと厨房をサティと片付けた。
「お疲れ様。サティ、朝食の仕込みを多めにしなければならないから、明日は早めに起きなきゃね。‥‥それで‥‥何か変わった事、あった?」
 アイリーンがふさぎ込んでいる、その原因たる話は何か話題に上っていたのかどうか。しかしサティは、口数少なく否定した。
「何も問題はありませんでした」
 まだ屋敷に仕えるようになって日が浅いとはいえ、彼女がうち解けようとする様子は、見られない。エファは彼女に部屋に戻るように言うと、キッチンの清掃作業に戻った。
 サティはああ言ったが、やはり今夜は屋敷をよく見回りしておいた方がいいだろう。

 テーブルに向かい、真剣な表情で何かを書いているサティの姿を、誰かがじっと見ていた。背後の視線に気づき、ちらりと振り返る。
「サティ‥‥」
 サティは、再びテーブルに視線を戻す。
 今さら何を言っても無駄だ。アイヴィーは目を伏せ、悲しみをこらえるように拳を握りしめた。

「カザネ様!」
 名を呼ばれてカザネが振り返ると、階段を駆け下りるイヴェットがそこに居た。
「イヴェット、もう部屋に戻っていいよ」
「そういう訳にいきません。‥‥カザネ様も、何か不安を感じておいでなのではないですか?」
 主に仇成すものが、近くに潜んでいるのではないか‥‥。イヴェットの問いかけに、カザネは視線をじっと返す。
「それらは、貴族の間ではよくある噂だ。だが、アイリーン様がご安心なさるならば、夜間に何度か見回りをしておこうと思っているけどね」
「私は、外を見回りします。エファも屋敷内を見回りすると言っておりましたから、何か異変があればすぐ気付く事が出来るでしょう。グラースも呼びましょうか?」
「いや、三人とも深夜番をする事はないよ」
 カザネはそう言って、見回りに戻っていった。カザネは、グラースに甘すぎる‥‥。イヴェットは彼女の事は尊敬しているが、グラースに対して甘い事だけは気になって仕方ない。
 その頃、アイリーンと少し話をしたグラースは、自室に戻る為に部屋を出た。
 アイリーンは、どうやら少し気が落ち着いてきたようだ。アイリーンの部屋を気にしつつ、グラースは歩き出した。その表情は、どこか気落ちした様子。
 二階の部屋に戻ろうとした所、ちょうど上からアイヴィーが降りてきた。アイヴィーはグラースを見つけると、手招きをして呼び寄せた。
「今、手があいているか?」
「‥‥ええ」
 特に何も申しつけられていませんから、とグラースが言うと、アイヴィーは苦笑した。
「カザネとイヴェットは、心配の種が尽きない様子。‥‥グラース、君も言いたいことがあるなら、はっきり言っておかなきゃ。君はもう立派な騎士なんだから」
「はい、お気遣いありがとうございます」
 色々考えを巡らせるイヴェットや、警戒を怠らないカザネ。それに対して、グラースはアイリーンの側に居る事しか出来ない。
 そう呟くグラースに、アイヴィーが話しを切り出した。
「アイリーンに送る織物の事で、ちょっと話があるんだけど‥‥いいかな?」
「‥‥はい」
 グラースは、アイリーンの部屋の方を気にしながら、上がっていった。

 それを目撃していた者が居る。厨房の片付けを終えて見回りをしようと部屋を出てきた、エファである。
 エファは、たまたま話し相手を求めて屋敷を歩いていたヴァレリーにその事を話した。
「お嬢様の事でしたら、やはりカザネ様かイヴェット様にお伺いした方がよろしいかと思いますが」
 グラースを信用していない訳ではないが、やはりカザネとイヴェットの方に頼りがちだ。
「じゃ、あたしが行くわ。だって、贈り物にどんな仕掛けをしているのか、気になるじゃない」
 ヴァレリーはひらひらと手を振ると、駆けていった。
 ‥‥いいのだろうか。エファが悩んでいると、後ろから声がかかった。

 サティは、枕元のテーブルに水差しを置くと、窓べに座って外を眺めているアイリーンへと視線をやった。先ほど、イヴェットが窓の外を通りがかったのが見えた。
 時間がない‥‥。サティは、意を決してアイリーンへと迫った。静かに、歩み寄る。振り返ったアイリーンの首もとに、手をやった。
「お嬢様、塵が‥‥」
 そう言いつつ、サティは手を伸ばす。気付いて立ち上がろうとした時には、サティの手が彼女の首にかかっていた。
 早くしなければ、イヴェットが戻ってきてしまう。
「‥‥あ‥‥っ」
 苦しそうに、サティの手を掴む。
「お嬢様!」
 振り返ったサティののど元に、カザネのレイピアが添えられていた。後ろにいたヴァレリーが、アイリーンに駆け寄る。
「ああ、アイリーン! しっかりして‥‥すぐに医者を呼ぶわ、エファ!」
 ぐったりしたアイリーンを、ヴァレリーはしっかり抱えた。

 ヴァレリーは一端、グラース達を追って行った。しかし、部屋の中の様子を伺っているうちにカザネに見つかってしまった。
 カザネにエファから聞いた話をしたヴァレリーは、念のためにとカザネとともにアイリーンの部屋に行ったのである。エファもまた見回りを終えてアイリーンの所に報告に向かおうとしており、館の周辺を見回りしていたイヴェットも含め、アイリーンの部屋には皆気を向けていた。
 立ちつくすアイヴィーの視線の先には、血を流して倒れているサティの姿があった。がくりと膝をつき、アイヴィーがサティを抱え上げる。
 すう、ドアからグラースが入って来た。
 ちらりとこちらを見たカザネに、グラースが口を開く。
「アイリーン様は、命に別状はないそうです。今は、イヴェット様が付いています」
 こくりとカザネが頷く。
 それにしても、とグラースがため息をついた。
「主が無事であった事は幸いとしよう。だが、サティは何故ナイフで主を刺さなかったのでしょう」
「これね」
 ヴァレリーが差し出したのは、サティの遺書だった。
 事故というかもしれない。しかし、その気持ちを抑えられなかった。あの一年前の日、妹が馬車との衝突事故で亡くなってから‥‥。
 手紙には、そうかかれていた。
「サティの妹は、一年前アイリーンの馬車に接触して‥‥その後傷の具合を悪くして亡くなった」
 ぽつりとアイヴィーが語り出した。
 彼はそれを知り、サティを止めようとイヴェットにそれとなく話をしたりした。しかし、結局サティを止める事が出来なかった。
「‥‥愚かな事だとは、わかっていた。‥‥それでも‥‥それでも僕は、彼女の傷を癒したかったんだ‥‥少しでも」
 愛するサティは、可愛いアイリーンを殺そうとして‥‥結局失敗し、自分の喉をナイフで突いてしまった。
 彼女が何故、ナイフでアイリーンを刺さなかったのか。
 それは、サティの心の中だけに‥‥。