ミサキ〜八卦の影アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 立川司郎
芸能 1Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 3.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/19〜06/23

●本文

 煉獄‥‥映画制作会社PLOJECT:八卦という、表向きの看板の下に、ひっそりと存在する収容施設。
 そこに、三津屋臣は収容されていた。
 かつて三津屋臣は、“木崎昴”と名乗って、人間の女性フルヤとともに、ミサキと呼ばれるオカルトサイトを作り上げている。7つのアイテムを、7つのエピソードとともに紹介し、公開7日後に消えた。
「十銭白銅貨、西洋人形、刻印入りの指輪、黒い八卦鏡、陰刀。残る2つは、8号サイズの指輪と書類なんだ」
 三津屋臣は、暗部隠密隊総隊長である来島兵庫と二人‥‥監視カメラさえシャットアウトしてその内容を語った。
「僕がそもそも八卦から姿を消したのは、件案7号について調べたかったからだ。8号事件はその延長線上にあっただけ。‥‥父は十六年程前、一人の女の子を連れて帰った事がある。僕はそれが、黒魚村で起こった行方不明事件と関わりがあるんじゃないかと思った。調べるうちに、昴と出会った」
 父は、女の子を連れてまたどこかに消えた。しかし、少女が一体のフランス人形を残していった。人形と黒魚村‥‥そこから昴と臣は、件案七号の事件に行き着く。
 黒魚村の社に安置してあった鏡をある少年が破壊し、そのせいで山から妖怪が下りてきた。村人七人が、少年を妖怪に生け贄として捧げて山へ追い返す。
 その日より少年の呪いで鏡が黒く変化し、村人七人は怪死した‥‥。
 噂では、そう言われている。それが大正時代に起きた、件案七号と呼ばれる事件だった。
「あの七つの物は、いずれも八卦が件案七号関連の書類とともに厳重保管していたものだ。ああ、陰刀は別だけどね」
 そして黒魚村では二十年前、七人の子供が行方不明となった。
「この一連の事件は、八卦と関わりが深い村だという事もあって暗部が事件解決に赴いている。だが、不審な点も多い」
 自体は、八卦内部に及んでいるのではないか。そう気づいた‥‥そんな時に、蟇目大祭で昴と妹の香奈が死亡。
 臣は真相を知りたいという欲求と大切な人を失った悲しみ、それらをかき消そうとするかのように、黒蜥と連絡を取った。黒蜥の協力の下、臣は暗部の資料を奪って逃走した。
「以降は、君たちの知る通りだ。僕は黒蜥から離脱し、逃げ回った」
 臣は、誰も信用していなかった。
 あすかと、来島は信用出来る。それ以外は何も信じない。
「ここにも、いつ追っ手が来るやもしれない‥‥でも僕は知りたい。七人の子供がどこに行ったのか、八卦は何をしていたのか‥‥」
 臣は、静かに視線を落とした。

設定
調査依頼:黒魚村を中心とする、件案七号と呼ばれる事件の調査。
黒魚村:現在は統廃合等で無くなっている村。件案七号に関わる噂が、流れている。
七つのアイテム:現在は、緋門あすかが監理しています。
緋門あすか:緋門神社の巫女さん(獣人の事情を知る人間)。
来島:何故かは分からないが、煉獄に収容されていた四十歳前のおっさん。
暗部:八卦の下暗躍する組織。かつては鳳凰映像の下五指に入ると言われていたが、蟇目大祭等の不手際によりお咎めを受け、規模縮小されている。
黒蜥:ヘイシィ。ランズ・シシリーは“リザード”と呼んでいる。謎の組織だが、ひとつはっきりしているのは、一般の獣人達とは対立する姿勢を取っている事。

●今回の参加者

 fa0190 ベルシード(15歳・♀・狐)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa0911 鷹見 仁(17歳・♂・鷹)
 fa1374 八咫 玖朗(16歳・♂・鴉)
 fa1385 リネット・ハウンド(25歳・♀・狼)
 fa1423 時雨・奏(20歳・♂・竜)
 fa1890 泉 彩佳(15歳・♀・竜)
 fa2196 リーゼロッテ・ルーヴェ(16歳・♀・猫)

●リプレイ本文

 話に聞いたシシリーは、銀色の髪をした長身の男だった。髪は肩に付くあたりで刈ってあり、目付きは鋭い。
 ベルシード(fa0190) は彼をじいっと見ながら、周囲をぐるぐると回った。細身だが、筋肉はしっかり付いている。
 やがて、ふーん、と一言言うと、シシリーの手を取って握った。
「僕はベルシードって言うんだ。キミがシシリーだね、よろしく」
 握手を求めても応じないだろうと考えていたベルシードだったが、“マンガに出る暗殺者じゃあるまいし”と案外シシリーは気にしてない様子。逆に時雨・奏(fa1423)が、一言つっこんできた。
「油断したらあかんで、そいつは子供でも大人でも関係あらへんのや」
 こくりとベルシードが頷く。
 ベルシードがシシリーに会いに来たのは、黒蜥や甲斐について聞く為‥‥という名目であった。
 もっとも、その真意は彼に会ってみたかったという事と、久しぶりにあすかに会おうと思った所にあるのだが。
「リザードや甲斐の事は、多分他の人達が三津屋さんに聞いてると思うんだ。でも、シシリーさんしか知らない事もあるでしょ?」
「お前達が聞きたいのは、何故甲斐がNWを使うのかって所だろう。方法は俺も知らんが、甲斐に教えたのはウェイだったな。奴は俺より適格者なんだとさ。‥‥まあ、他人の見つけた方法で強くなるより、俺が自分で見つけた方法で強くなるほうが面白い。ウェイってのは、黒蜥のリーダーだ」
 ふ、とシシリーが笑った。
 ちらりと緯線を動かすと、時雨は電話していた。どうやら彼は、ここに住んでいるらしい。
 時雨が電話をしているのは、八卦暗部の立浪だった。件案7号や8号事件という、キーワード。この数字が、時雨は気になっている。
 立浪が言うには、それは八卦で付けている調査報告書の通し番号であるという。
『8号事件の方は通称で、事件の中に8号サイズの指輪が出てくる事から付けられた。まあ、数字は気にしなくともいいんじゃないか? ‥‥多分な』
 立浪はそう言うと、電話を切った。
 時雨やシシリーと別れると、ベルシードはリネット・ハウンド(fa1385)と合流した。リネットは御伽峠に近い図書館で黒魚村についての調べ物をしており、ベルシードもまた彼女を手伝って調べ物をする為に来た。
 ここまでは、リネットのバイクに便乗だ。時雨といいリネットといい、素早い移動手段を持つ大人は羨ましい。
 ここでまでベルシードが探したのは、20年前の黒魚村での行方不明事件についての資料である。リネットも手伝い、ベルシードは古い新聞の記事をプリントアウトした。
 リネットはそれとは別に、紙を手渡す。
「これは、時雨に頼まれていたものです。古い村の地図を探していたと聞いたから‥‥さ、それじゃあ黒魚村まで送りましょう。みんな待っているわ」
「あれ‥‥リネットさんは?」
 ベルシードが聞き返すと、リネットはすうっと見返した。
「私はもう少しここで、居残り勉強。大丈夫、何かあったら連絡し合いましょう」
 くすりと笑うと、リネットはバイクの鍵を掴んだ。

 ベルシードを送り届けると、リネットは再び図書館に戻ってきた。
 ここに置かれている本は、人間が目にするものだ。堂々と暗部の名前などが載っているとは思っていなかったが、伝承の中には時々そのヒントが隠されているものだ。
 黒魚村は江戸時代以前からあった村で、移住してきた者が集まって出来た村だという。それから推察するに、八卦の関係者がここに村を作ったのがそれ位の時期であると思われる。
 黒魚村‥‥“黒と魚を意味する地”だから黒魚村と名付けられたとされていた。
 その古い郷土史や昔話の本に、リネットは噂にある件案7号事件の元と思われる伝承を見つける事が出来た。
 お社に古くから封じられていた妖怪を、一人の少年が封印の鏡を失った事により解き放ってしまう。村人達は少年を犠牲にして妖怪を惹き付け、その間に妖怪を封じる事に成功する。鏡は見つかったが、しかし少年の非業の思いからか黒く変質し、村人7人が呪い殺されたという。
 それが本当の話なのかどうか、今では確かめる術がない。気になるのは、その後の話だ。
 少年の呪いは、旅の僧侶が封じて鎮めたとあった。
「‥‥これは、もしかすると八卦暗部‥‥」

 三津屋・臣。ミサキのサイトを立ち上げた本人だ。
 彼は現在煉獄内に囚われて‥‥いや、身を隠している。ベス(fa0877)と八咫 玖朗(fa1374)、泉 彩佳(fa1890)が臣に面会に来ると、背後にあるドアの前に来島が立った。
 玖朗が不安そうに、来島を振り返る。どうやら単なる物見ではなく、臣が余計な事を言わないように見張っているようだ。その空気を察したのか、臣は彼の顔色をうかがいながら口を開いた。
「色々と聞きたい事があるようだね」
「最初に聞きたいのは、やっぱり黒蜥についてです。黒蜥ってどんな組織で、どうして一般の獣人と敵対するんですか?」
「‥‥黒蜥は、別に獣人全てを倒そうと思っている訳じゃない。相容れないから敵対関係にあるだけだ。彼らはNWを統べる事で、人間と獣人のバランスを替えようとしている」
 臣が知るかぎり、黒蜥の頂点に立つのはウェイと呼ばれる男だ。甲斐と同じくNWを召還する術を持っているという。黒蜥は暗殺や大麻密輸など、非合法な方法で裏社会に存在する組織だ。芸能界という方法を取らない彼らが選んだ、生きる為の方法。
「甲斐さんはNWを呼び出していました。もしかして、懸案7号事件ってNWを使役する方法を研究する人達の起こした事件で、リザードという組織が関係しているんじゃないですか‥‥?」
 ベスの質問に、臣が来島を見上げる。すると、来島が代わって口を開いた。
「件案7号自体は、違うだろうな」
「それじゃ、甲斐さんやウェイさんはいつ頃からNWを使っているんですか?」
 ベスにかわって、玖朗が臣に聞いた。
 臣が知る所、甲斐はウェイが引き抜き、いつの間にか使うようになった男だ。臣もどういう理屈で召還しているのか、知らないという。
 八卦にNWを封じる術はあるのか、と聞いたアヤに対して来島は、あると聞いているとだけ答えた。どことなく“あの蟇目大祭の社の奥にNWが封じられているのではないか”という疑問が皆の中にあるのは、来島も分かっているようだ。
 それについて、来島は答えなかった。

 臣や来島から、断片的に聞き出した情報。
 アヤ達は臣から、そしてリーゼロッテ・ルーヴェ(fa2196)は煉獄から出てきた来島に直接聞いた。場所は、いつもの会議室だ。
 ロッテが聞きたかったのは、まず八卦とはいつ頃出てきて日本に渡ってきたのか。これに関しては長い上にあまり関係して来ないので端折る事にするが、今の形になったのは江戸期だ。映画制作会社となったのは、もっと近年になってからとなる。
 来島が言うには、八卦の内部分裂は日本に渡った頃には始まっていたという。来島もはっきりとは把握していないが、件案7号の頃には黒蜥があったのは確かだった。
 黒蜥のトップであるウェイは、来島も恐れる程の獣人だ。しかしその情報はほとんど入って来る事がなく、来島も見た事がない。とにかく甲斐にしろウェイにしろ、単独行動の多い奴で、正体も居所も掴めないのだという。
「みんな、NWを使役する事は‥‥その、実験をしていたのではないかと思っているみたいです」
 椅子に腰掛けたロッテは、じっと膝を見下ろしながら言った。ロッテの質問に、来島は答えない。彼女は、話を続ける。
「以前、蟇目大祭の事を調べた時‥‥御領社長は三津屋さんや木崎さんの事を気に掛けていたという証言がありましたよね。社長って、どんな人なんです?」
 答えに困る質問をするなあ、と来島が呟いた。

 かつて黒魚村があった所は、今はただの山間野となっていた。わずかにまばらに家があるが、村という状態にはない。
「わしの車4人乗りやから、頑張っても5人しか入らへんで」
 と言った時雨の愛車シビークRに乗り込んだのは、アヤ、ベス、鷹見 仁(fa0911)と時雨で4人だった。幸いベルシードはリネットのバイクで現地集合となり、玖朗もバイクを持ってきていた。
 北海技研のタイプRは、見た目だけじゃない。反論すれば3倍になって言い返す、こだわりがある‥‥らしい。
「何やったら、お前も乗せてったのに」
 時雨が言うと、玖朗は丁重に断った。玖朗は空を飛ぶという手も考えたが、あのあすかがモデルガンを持っている姿が脳裏に焼き付いて、恐怖が取れない。もはやトラウマである。
 出発前、ベスはあすかから助言を貰っていた。
「八卦暗部から来たんです、と言えば分かると思いますよ。獣人だったら暗部を知っていて、人間だったら暗部を知らないはずですから」
「そうですね。それじゃああすかさん、行ってきます!」
 にっこり笑って、ベスは手を振った。
そうしてどんな凄い走りをしてくれるのかと楽しみにしているベスをナビに乗せ、車は発進した。
「っっっぴゃー☆ れっどぞーんとっつにゅー☆」
「あかん、新車でいきなりレッドゾーンまで回すようなあほな事、しとうないわ」
 時雨の一言で、車は安全運転をキープしたのだった。

 件案7号事件のきっかけは、一人の人間の少年がNWがらみの事件で殺された事から始まるという。それをきっかけにNW事件が多発するようになり、近隣では少年の祟りではないかと噂されるようになった。
 玖朗が三津屋から聞いた所、これらの事件に八卦暗部が関わっていた。
「暗部が事件の解決の為に赴き、そのNWを彼が大切にしていたフランス人形に封じ込めたと言います。しかし、実際には暗部は出動していなかった」
 暗部はNWを封じ込める術など使っていないし、現場に赴いても居ない。暗部にとって、あまり公表したくない事件なのである。臣が知ったのは、そこまでだった。
 それから長い時が経過し、昭和61年‥‥同じ村で、7人の少年少女が行方不明となった。
 これは、その現場となった学校。
 今は使われない校門前にベルシードとアヤ、その後ろにベスが立つ。近隣に一人で済む老人が、三人を中へと招いてくれた。
 アヤとベルシードは、あらかじめフルヤの持っていたフランス人形の写真を持ってきていた。それを老人に見せると、彼は深く頷いた。
「それは、最初に死んだ人間の子が持っていたもんでな。わしらは暗部が何をしたのか知らんが、結局それは八卦の暗部が持って行った。それからようやく忘れておった所で、子供が消えて‥‥今じゃ、ここには幾人かの獣人しかおらん」
 アヤ達はここで小学校に来るまでにも、あの事件を知っていそうな年代の人たちに聞き込みをしようとした。今では近隣に住んでいる者も多くはないが、事件が真新しい事もあって記憶に残っている者も多い。
 老人が帰ると、三人は小学校の中の一室に立った。
「ここで子供がこっくりさんをしていた、っておじいさんは言ってたよね。たぶん、三津屋さんが持っていた白銅貨は、その時の遺留品だったんだね」
 ベスが言うと、アヤが頷いた。彼女が聞いた所によると、それらは全て獣人。不思議な符号である。
「何か意味があると思う‥‥。黒い鏡、妖怪、生け贄、呪い‥‥NWとか?」
 くるりとアヤが2人を振り返る。報告書によると、ミサキの依頼で学校に時雨や玖朗が赴いた事件で、降霊術で“七人必要”であるような事を告げていた。
 同じ頃、玖朗も時雨と鷹見を誘って、山腹にある小さな社へと来ていた。黒い八卦鏡が納められていたとされる社は、村があった場所の山腹にある。
 その社は、今はすっかり草むらに覆われていた。
「俺も‥‥気になっていたんです。7人の村人の死亡、7つのミサキの品、七人の少年少女。この村には7という数字が関わりすぎている」
「その行方不明の子が、三津屋の父親が連れていた子供かもしれない‥‥って言うんだろう? だったら三津屋の父親は何をしていたんだ‥‥八卦に関わる事なのか」
 鷹見が言うと、時雨が山の麓を見下ろしながら答えた。
「何にしても、御伽話っぽく誤魔化してる所からすると‥‥八卦やWEFにとって表沙汰にしとうない事があるっちゅう事や」
「何か、への対価とか」
 ぽつりと玖朗が言う。すると、時雨がにいっと笑った。
「行方不明の子供も‥‥案外、NWかオーパーツの成体実験かもな」
 時雨の言葉に、鷹見はぼんやりと考え込んだ。
 アヤも同じような事を言っていた。そう、獣人が七人の行方不明になった事件‥‥八卦はどう関わっているのだろうか。
 もしかすると、関わっているから表沙汰にならないのだろうか‥‥。
 そもそも、それでは八卦は何を目的としているのだ。表は映画制作会社、裏は対犯罪獣人、対NW組織。本当にそれだけなのか?
 鷹見は、来島に電話でそう聞いた。
『それだけさ』
 さらりと来島が答えた。目的はNWを倒し、獣人の秩序を守る事‥‥それだけ。
 しかし、その影に見える黒蜥達の影は‥‥。

「時々、びっくりする程当ててくる奴が居るなあ」
 電話を切った来島の第一声に、193937がふと笑った。
 彼の言葉は、誰の事を言っていたのか‥‥シシリーは知っているようだ。
「俺に言ってんのか? 言っただろ。俺は黒魚村とは関係ない、ってな」
 来島が掴んだシシリーのタンクトップの中‥‥彼の背中には小さく193937と朱字で刻印されていた。