【遺跡発見】博物院へアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
立川司郎
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
3.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
06/29〜07/03
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●本文
NWに関する新たな遺跡の情報が、WEA経由で流れてきたのはつい最近の事だった。
鳳凰経由で調査依頼を受けたPLOJECT:八卦の暗部隠密隊では、総隊長の来島兵庫と立浪祐介が、調査の打ち合わせをしていた。
匿名で送られたという暗号文による新たな遺跡に関しては、世界各地で調査が始まっている。
八卦は、古くは中国から渡ってきた集団だ。いまだ中国には彼らと縁が深い人々もあり、幸い彼らを通して遺跡に関する情報を集める事も出来そうな状態にあった。
「WEAから最優先で調査依頼が来てますからねえ、無視も出来んでしょう。‥‥それに、NWに関する遺跡となれば、放ってもおけませんし」
あわよくば、何かこっちに有利な情報も得られるかもしれない、と立浪は言葉を続けた。
「とりあえず、故宮博物院に連絡しておきました」
「故宮か‥‥それで、何か見つかりそうなのか?」
「古い八卦の資料捜索を依頼していたんですが、その中に遺跡に関する情報があるかもしれないんです。‥‥まあ、もし空振りに終わっても、もしかすると大陸に残した八卦の“遺産”は見つかるかもしれませんし。オーパーツにせよ、NWにせよ‥‥」
ただ、この動きは黒蜥にも知られている可能性がある。
立浪と来島が警戒するのは、甲斐が関わって来る事だった。
甲斐は、これまでの調査によりNWを自在に召還する事が確認されている。戦闘能力をとっても、シシリーに匹敵する。狙われたら、下手をすると全滅しかねない強敵だ。
それに、NWを操る甲斐が居るという事は、彼もNWを狙ってくる可能性があるという事‥‥。それが強力であればあるほど、狙う価値はあるだろう。
「とりあえず、資料を持ち逃げされるのだけは避けなければなりませんね」
立浪がそう言って頭を掻くと、来島は大きくため息をついて考え込んだ。
「それは、お前達で相談してくれ。‥‥さて、航空チケットを用意しなきゃならんな」
そうして、立浪は台湾の地を踏む事になった。
立浪は既に故宮博物館で、周という男と会う手はずを整えている。故宮博物院で働いている男で、今回の資料捜索に関しても協力を依頼している。
「資料を探す事は、周や僕でやるからいいんだ。‥‥どのみち、古い中国の書籍なんか読めないだろ? それよりも、博物院に甲斐がどんな手で介入して来るかわからんから、ガードはしっかり頼むよ」
故宮で見つかるのは、八卦に関するモノか、それとも謎の遺跡の情報か‥‥。
台湾行きのチケットが、手渡された。
設定
依頼:一番大事なのは、八卦の資料を無事持ち帰る事です。最悪、甲斐の手に渡る事だけは避けねばなりません。また、甲斐は強力なので、出来るだけ戦闘せずに終わればベストです。戦いながらひき付けておくのは難しいでしょう。
甲斐:NWを召還する事が出来る狼の獣人。黒蜥(ヘイシィ)と呼ばれる、闇組織に所属する男。
周さん:故宮博物院に勤める獣人。ちなみに博物院には人間も出入りするので、獣化は慎重に。
●リプレイ本文
足をぶらぶらさせながら椅子に掛けた少年を、銀髪の女性がじっと見下ろしていた。どこかに電話を掛けている少年は、一見すると兄や友達にでも電話をしているからのような親しい口ぶりだ。
滄海 故汰(fa2423)が電話をしている相手を知ってイルゼ・クヴァンツ(fa2910)は、じっと故汰の話に聞き入っていた。
「しーちゃん、この間悪い事したって聞いたの。帰ったらこた、しーちゃんにおしりぺんぺんするの。‥‥あ、電話切っちゃ駄目なの! こた、聞きたい事があるの」
ここから立浪と向かう故宮博物院‥‥そこに、甲斐が現れる可能性がある。甲斐の事をほとんど知らず防衛手段のとれない彼らは、今はシシリーに聞く位しか知る術がない。
『甲斐がNWを使うったって、それほど高い察知能力がある訳じゃねえ。むしろ捕まった後の事を考えな。まあ、死なない程度に頑張れ』
からからとシシリーと笑った。
むっとして、故汰は電話を見つめた。電話を切った故汰に、イルゼが話しかける。
「‥‥甲斐のような存在を、ダークサイドと言うと聞きました」
「しーちゃんも、甲斐みたいなダークサイドの事を詳しく知ってる訳じゃないって行ってたの。ただー‥‥甲斐は、NWを武器にする事も出来るって言ってたの。普通の武器より遙かに強力で、獣化してない場合は一撃で重傷を負う事もあるって」
故汰は眉を寄せて、言った。
今回話を聞く事になっている故宮博物院は、人が観光で訪れる場所である。むろん人間も多数博物院内を歩いており、完全獣化して待機する事が出来ない。
また、安易に博物院を閉鎖する事も出入りを禁止する事も出来ず、甲斐の襲撃に際していかに人間に被害を与えずに資料を防衛するか、いかに彼らが甲斐を引きつけつつ脱出するか、そのあたりが難しい問題となっていた。
当初車で行こうと思っていた時雨・奏(fa1423)は、立浪の『行くのは台湾なんで、車は勘弁』という一言で、愛車は置き去りという事になった。ちなみに台湾は国際免許の効力がなく、向こうで免許を取らねばならない。
「あすかちゃんの土産、何にしよか」
と故汰と話している時雨から緊張感は感じられないが、立浪の警護を担当する者として周囲への警戒は怠らない。
故宮博物院は台北市郊外にある、世界四大博物館の一つである。しかし敷地内の各所は改築中であり、現在西館は改装中で立ち入る事が出来ない。
立浪が周という男を訪ねていったのは、博物院の中にある図書文献ビルであった。四十才程の年齢だろうか、男が立浪と時雨達を招き入れてくれた。
「お久しぶりです」
立浪が中国語で挨拶をする。同じく中国語を理解出来る相沢 セナ(fa2478)が、続いて周に挨拶した。セナが周の所に同行したのは、彼へ警備員の服の借用に関する手配を頼みたかったからである。
資料を守る為、セナと御剣緋色(fa2025)は警備員に、倉坂セイ(fa0549)は清掃員に変装して敷地内を回る事にしていた。
「今回同行した者のうち、何人かは相対した事がある者が居ます‥‥甲斐・クラークに」
セナは、そう周に話した。セナも甲斐と会った事がある者のうちの一人である。同じように、故汰、夏姫・シュトラウス(fa0761)、各務 神無(fa3392)、時雨も会っている。
警備員の服装と清掃員の服装を借りたセナは、倉坂と緋色にそれぞれ渡した。
「甲斐は、銀色の髪をした西欧人だ。髪の色を変えている可能性もあるけど、図書文献ビルに近づく者は注意してくれ」
「人がいる‥‥っていうのが気になるな。夜中だったら鳴子とか設置出来たんだろうけど」
倉坂は、ちょっと残念そうに言った。まさか故宮博物院の中に勝手に鳴子を設置して回る訳にいかない。館内には普通の警備員も居り、逆に迷惑がかかるだろう。
「それじゃ、俺は清掃員のおっさん達に挨拶でもして来るよ」
倉坂がそう言うと、セナと緋色は一端散会した。
まず、倉坂は清掃員から図書文献ビル内の掃除を引き受けて、バケツを持って入り口あたりを彷徨いた。バケツの中には、トランシーバーが入っている。入り口の前には、イルゼも待機していた。
「襲撃するなら、こちらが資料を見つけた後‥‥向こうだって、一から資料を探して回る心算はないはずですから」
帽子とコートで身を隠し、イルゼが倉坂に言った。
緋色は二階部分の窓などから、外を望遠鏡で監視している。各務 神無(fa3392)は、故汰を連れて故宮内を歩いていた。銀髪の神無と故汰では姉弟と言えずとも、年の離れた兄弟か従兄弟のように手を取って歩いていた。
彼らが故宮内を回っている間、立浪は周とともに一室で資料を引き取っていた。
「‥‥やれやれ、これが残っていて良かった」
立浪は、五冊の書物を受け取って息をついた。ちらり、と立浪が時雨を振り返る。時雨は、カメラで資料を撮影しはじめる。夏姫も時雨と手分けをして、書物を撮影していた。
「これは、中国に残った八卦員が記録していた書物だ。暗部中国支部、といった所だな」
「当時八卦が西洋の組織と交流していた記録はありますが、それが今回の遺跡と関係があるかは‥‥ちょっと確認出来ません」
周はそう言ったが、それだけではなく気になる部分もいくつかあるという。
「八卦の記録の中には、中国大陸内の遺跡に関する記録もありました。どちらにせよ、NWの情報が欲しい黒蜥にとっては重要な記録に違いないでしょう」
「そうですね‥‥それでは周さん、これは持ち帰らせていただきます」
立浪は、書物を鞄に入れた。
カメラからメモりを塗り取った時雨が、ぽんとカメラを立浪に渡す。鞄は、時雨が受け取った。周は心配そうに2人を見ている。
「大丈夫ですか? 噂では、黒蜥の甲斐が来ているとか‥‥」
ちらり、と夏姫が立浪を見上げる。
「あの‥‥本物は、時雨さんが持って行くそうです。私たちは足止めをしますから‥‥その間に立浪さん達は、車か何かで脱出してください‥‥」
いざとなれば、資料は破棄してしまえばいい。夏姫と時雨はそう考えてカメラで撮っていたのである。
顔が割れている夏姫は、今回変装をしていた。変装‥‥という程でもないが、いつも前髪を下ろして帽子で顔を隠している夏姫が、前髪を上げて眼鏡を掛けている。普段気弱な夏姫としては、最大限努力した結果だ。
「気ぃつけや、もう甲斐は情報媒体を館内に忍ばせてるかもしれへん。わざわざわし等と一緒にここに来る事ないはずやから、あらかじめ下調べしとるかもしれんしな。‥‥まあ、甲斐はわざわざ目的のブツも持ってへん奴は追いかけんやろ、あんまり無理しなや」
時雨が言うと、こくりと夏姫は頷いた。
話し込む立浪の横で、夏姫が窓の外を見る。
そして、セナからトランシーバーで連絡が入った。甲斐、現ると。
セナと合流したイルゼは、彼の指す方向を見る。甲斐に迷いはなく、ゆっくり歩きながらこちらに向かってくる。
「館内での戦闘は危険だ、何とか外に引きつけなければ」
「‥‥私は時雨達と合流しても、それから偽物を持って散会します」
イルゼはそう言うと、建物の中に入っていった。ひやりと背筋に、冷たいものが走る。セナが甲斐を見据えると、倉坂が飛び出した。
「甲斐!」
声を上げる、倉坂。甲斐どころか、故宮内を歩く人達も倉坂に注目した。何とか彼の注目を引こうとする倉坂だが、清掃員の格好をした倉坂の行動は若干余計な人目も集めている。
その間、イルゼと夏姫は鞄を持ってビル1Fで神無と故汰に合流していた。
夏姫はかすかに見える甲斐の姿を捕らえつつ、早口で指示をした。
「立浪さん達は、一端裏から出て北側の車道まで出ます。周さんの車で、そのまま空港に向かう予定になっています。時雨さんは翼で空から離れた所に行き、途中で周さん達と合流するそうです」
「翼って、目立たないのか?」
神無が聞くと、夏姫がしばし無言となった。その可能性は無くもない。しかし、本物が奪われるのは何としても避けたい‥‥。
「幸い全くの市街地ではありませんから、林を抜ければ目立つ事もありませんから。私は足止めをします、急いで」
夏姫は甲斐の方へと視線を向けた。警備員の服を着た緋色が、夏姫を見つけて足を止める。
「緋色さん‥‥時間かせぎが‥‥目的ですから」
「分かってる、ちょっとの間引きつけておけばいいんだな」
すう、と甲斐がこちらを見た。前を夏姫と緋色、後方を故汰と倉坂。
鞄を持ったセナが、甲斐を振り返りつつ山の方へと向かっている。建物の中では、同じく鞄を持ったイルゼがこちらの様子を伺っていた。
ゆっくりと見上げた甲斐の視界に、黒い影が映った。
「甲斐‥‥」
時雨が、下から見上げている甲斐をはっきりと確認した。その手がこちらに向けられる。時雨は目を見張り、体を捻った。
甲斐がどこかから出現させた弓‥‥そこから放たれた矢が、時雨の脇腹をかすめたのである。
「ぐ‥‥何や、この矢は‥‥っ」
よろりと体勢を崩す、時雨。下では、倉坂が甲斐に声をあげていた。何とか林の方へと引きつけようとする倉坂だったが、甲斐は冷静に周囲を見ていた。
まずは、目の前に居るイルゼ。
甲斐の標的がこちらに向けられると、イルゼは神無に小声を発した。
「本気でいきますよ。突撃して、一気に抜けます」
「了解、フォローする」
俊脚で甲斐の前に飛び出した、イルゼと神無。同時に、夏姫と緋色が飛びかかる。
甲斐は弓を納めると、すうっと手の中に刀を現した。先ほどの弓と同じく、甲斐がどこかから現した刀‥‥。それは黒く鈍く光っていた。
まずは飛びかかった夏姫に、刀を突き立てる。その一撃は、確実に夏姫の体深くに食い込み、引き抜かれた傷口から血を吹き出した。軽く振ったはずの一撃‥‥それは、普通の刀とは思えない切れ味。
目を見開き、夏姫が膝をついた。
次の一撃が振り下ろされる前に、再び倉坂が声をあげる。
「本物はこっちだ、甲斐っ!」
意識を奪われた隙を見て、セナが足を止めた。
「緋色、医務室は一階にある‥‥夏姫を連れていけ!」
甲斐は姿勢を低くし、刀を持ったままイルゼの後を追っている。ちらりと神無が、後ろを振り返った。イルゼはともかくとして、神無は追いつかれそうだ。
「‥‥先に行け!」
神無はイルゼにそう言うと、足を止めて息をついた。
すう、と振り返った眼前にたたき付けられる刀。気付くと、地面に倒れていた。甲斐は神無が書物を持っていない事を確認し、声を発した。
「さて、死ぬのと吐くのは‥‥どっちがいいんだ?」
「‥‥そんな事を‥‥していていいのか‥‥」
神無が、かすかに声を出して言った。イルゼとセナはその間も逃走し、遠く離れてしまっている。
「甲斐‥‥あなたはもしかして‥‥黒魚村の‥‥っ」
「‥‥」
甲斐が、夏姫を振り返る。夏姫を守るように立った故汰が、続けて甲斐に言った。
「故汰はわかったの。219・33192」
「なるほど‥‥」
甲斐はくすりと笑うと、服をたくしあげた。
その脇腹には、はっきりと赤く33192と書かれていた。
ぱらぱらと、警備員が集まってくる足音が聞こえる。甲斐は夏姫と神無を見ると、刀を納めた。
空港のロビーで、脇腹を押さえたまま時雨が座っていた。
彼の元にたどり着いたのは、イルゼとセナ。あとは、緋色一人だった。
「大丈夫か、顔色青いぞ」
緋色が言うと、時雨はすかさず言い返した。
「大丈夫な訳あらへんわ、何やあの矢は‥‥ただの矢やあらへん」
「夏姫と神無が、一撃で倒された。完全獣化してなかったとはいえ、ただの武器とは思えない‥‥あの威力!」
緋色は、強い口調で言った。その心中は穏やかではない。
騒ぎの後、緋色が『撮影だった』と言い張ったが、周囲の観光客はだませても職員は騙せない。
「でも、夏姫と神無は手当してもらった。セナに医務室を教えてもらってたから、助かったよ」
「いや、それはいい。‥‥一般の人に被害が出なかっただけ良かった」
セナは静かに目を伏せ、言った。
彼らが足止めをしていなければ、セナも斬られていたであろう。そして時雨が空から逃走していなければ、彼も‥‥そして立浪達も危うかったかもしれない。
ダークサイドと呼ばれるもの‥‥甲斐。
「今回の件はともかく、遺跡に行くんやったら‥‥甲斐みたいな連中がまた邪魔するかもしれん。キツイ仕事やな」
時雨はそう言うと、大きくため息をついた。