ミサキ〜表アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 立川司郎
芸能 フリー
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/01〜12/05

●本文

 〜ページを表示することができません
 今、そのアドレスを叩いても、そこには何も残されていない。跡形もなく‥‥全て、消し取られていた。
 たった一週間だけ存在した、とあるホームページ。
 1日目、2日目、3日目‥‥7日間、淡々とした文章と一枚の写真だけを羅列し続けていた。
 7つのもの、7つの物語を。
 そして、7日後。全てを消し去り、闇に消えた。
 そのHPの名前は‥‥“ミサキ”。

 境内に置いた石の上にちょん、と座ったまま、巫女装束の少女はぼんやりとした表情で語った。
 彼女がぼんやりとしているのはいつもの事だが、口にするのはいつも無理な話や殺伐とした依頼だ。
 ‥‥猿? 猿って何の事でしたっけ。
「‥‥えとですね。だからそのサイトの話ですよ」
 サイトに紹介されていた7つの品物は、皆それぞれ曰く付きであったという。7つの品の話を、一日1つずつ紹介し続けていた。
 いずれも奇怪で、薄ら寒い話ばかり‥‥人が怪死しただの、殺されただのという話である。
 それだけなら、多くの怪談サイトの中に埋もれるだけだ。
「それが‥‥その後、その品だといわれるモノが出回りはじめてですね。‥‥ついこの間です」
 と、巫女は新聞を差し出した。
 それは、半月ほど前の新聞だった。
<深夜、××高校で少女が怪死>
 と見出しがついている。
「どうも噂によると、この高校に‥‥そのミサキのサイトで紹介されていたモノが‥‥あるらしいんです」
 ‥‥幽霊が憑いているとか?
「何言ってんですか。私が呼び出すって事は、ナイトウォーカーに決まってるでしょう。私はその品が本物かどうかなんて、興味ないんです。もしかすると、そういう噂を利用してナイトウォーカーでも取り憑いていているんじゃないか、と」
 じゃあ、品は回収しなくともいいんですか?
「要らないし。あなた達がするのは、曰く付きのモノを回収する事じゃなくて、ナイトウォーカーを退治する事です。その子が死んだのは一八日前で、調べてみると更に七日前にも同じような事件が同じ高校でありました」
 もう分かるでしょ?
 少女はじい、と見上げて言った。
「七日ごとに、事件が起こっているんです。‥‥ハイ、行ってらっしゃい」
 ひらひらと少女は手をふり、それからはっ、と声をあげた。
 そうそう、私の名前は巫女さんでも、可愛い巫女さんでも、萌えの巫女さんでもないです。
 ‥‥誰も言ってない?

●今回の参加者

 fa0523 匂宮 霙(21歳・♀・蛇)
 fa0672 エリーセ・アシュレアル(23歳・♀・竜)
 fa1170 小鳥遊真白(20歳・♀・鴉)
 fa1359 星野・巽(23歳・♂・竜)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2161 棗逢歌(21歳・♂・猫)
 fa2397 御影 刹那(20歳・♀・竜)
 fa2423 滄海 故汰(7歳・♂・狼)

●リプレイ本文

 7日ごとに怪死する学生と、曰く付きの品。
 ミサキという単語と“7”で思い出すのは、七人ミサキだな。出がけにそんな事を呟いていた匂宮・霙(fa0523)の言葉を思い出す。
 それぞれ散会してこの事件の調査をする事になり、星野・巽(fa1359)は彼らと別れて学校に来ていた。死亡事件が起きているという学校である。
 とりあえず制服を着てここに入り、怪しまれれば転入予定と言って誤魔化そうと思っていた巽だったが、そもそも学生ではないから制服など持っていない上、元々27才の巽ではどう無理をしても学生と言い張るのは難しい。
 学生を狙った事件が多発している昨今、特に年が離れている巽は怪しむなという方が無理なわけで。
「あなた、どこの人?」
「転入予定? うちには定時制はないけれど、身分証明になるものを」
「マスコミか何かじゃないの? それとも‥‥」
 あげく警察を呼ばれそうな勢いで、巽は逃げるようにその場を後にした。
 巽に期待していた御影刹那(fa2397)は、制服が手に入らなくてがっかりした様子。巽がいかにして女子高生の制服を手に入れると思っていたのか不明だが、巽と御影は校内に入る事も出来ず、離れた所で霙達の帰りを待つ事にした。
「‥‥制服着ても駄目‥‥だと思います?」
 残念そうに聞く巽に、御影は彼の姿を上から下まで見て、うんと頷いた。
「うん、社会人って感じだね」
「御影さんなら大丈夫かもしれませんよ」
「ちゃんとメイクしてもらったら何とかなったかもしれないけど、私もせいぜい大学生だね」
 あはは、と御影が笑って答えた。
 そして同じ頃、霙も情報収集に限界を感じていた。そもそも色素の薄い霙は聞き込みをしていると目立ちやすく、それ故覚えられやすい。実はこの時点で一番慎重にならなければならないのが、その霙と銀色の髪をした長身の御影、そして東洋人の中でどうしても浮いてしまう、エリーセ・アシュレアル(fa0672)だった。
「‥‥何、他にも誰か声掛けられたの?」
 女子高生に並んで歩きながら、棗逢歌(fa2161)は彼女達に友達のように話しかけた。生徒達が、マスコミ等に口を閉ざしているのは学校からの指示であるらしいが、それでも何人かに声をかけると気軽に付いてくる少女も居る。
 彼女たちが話す中には、御影か霙と思われる人物の話もあったし、それ以外の者も話題に出てきた。本当に調べているマスコミが居るのか、それとも‥‥。
「ねえ、どんな事聞くの、その人達」
「こっくりさんの話とか、ホームページの話だって聞いたよ。‥‥どんな人かはよくわかんないよ」
 大きなストロベリーパフェにスプーンを差しながら、少女達が答えた。こっくりさんの話、というのは初耳だ。

「こっくりさん?」
 少年は、きょとんとした様子で彼女を見上げた。髪の長い、物静かな少女だ。セミロングヘアの背の高い女の子と一緒に、こっちを見下ろしている。
「そうよ。知らないの? ‥‥死んだ子はこっくりさんをしてて死んだって聞いたわ。あなた、その話を聞いて来たんじゃないの?」
「どこから来たの、ボク一人?」
 二人がかがみ込んで聞いた。ちょっと照れたような表情で、にこりと笑う。
「こたって言うの。あのね、こたはこの学校の事件を調べてるの!」
「そっかあ、エライねボクは。探偵団かなにか?」
 青年に対して警戒する少女達も、自分たちより圧倒的に年下の滄海故汰(fa2423)に対しては、全く警戒心がないようだ。
 物静かなあずさという名の少女は、髪をかきあげながら言った。故汰の持つ古い眼鏡で見た人に似ている。
「わたしたち‥‥今晩、こっくりさんをするのよ」
「こたも行っていい?」
「‥‥お母さんがいいって言ったら、いいわよ」
「うん。こた、お母さんに聞いてくるね!」
 駆けだした故汰の先に、中学生くらいの少女の姿が見える。誰か見知らぬ制服の男女二人と話していたが、二人は故汰達を見てすぐに会話を切り上げ、去っていった。
「おねえちゃん?」
 後ろから聞こえたあずさの声。故汰はふり返って頷くと、彼女の手をとった。

 きい、とドアを開けて店内に入る少女と少年。月見里・神楽(fa2122)は、故汰の手を引きながら店内を見まわすと、軽く手をあげて振った棗に気づいてすい、と通路を抜けた。
 向かい合った棗と小鳥遊真白(fa1170)。横に更に巽と御影、そしてエリーセ。
 窓の向こう側を、数人の男女が通り過ぎていく。ふい、と窓を見たエリーセが小さく声をあげる。
 彼らはちらりとこちらを向いたが、視線を合わせる事もなく通り過ぎていった。
 きょろりと見まわし、神楽が故汰を促して端に座る。エリーセは、何かに気づいた様子の霙と顔を見合わせた。
「さっきすれ違った人達‥‥仲間です。この間偶然ご一緒しました」
 エリーセが驚いたように言うと、霙もテーブルに肘をつき、彼らの去った方角を見た。
「そうですね、私も見覚えのある方がいました」
「あのね、他にもあの学校に神楽達みたいな人が来てるみたいよ」
 思い出し、神楽が口を開いて言った。あ、と故汰が声をあげる。
「さっき話してた人?」
「うん。‥‥あんまり話はしなかったんだけど‥‥違う制服着てたから話しかけたら、そんな感じだったよ。向こうも気づいたかもしれないけど」
 へえ、と棗はコーヒーをスプーンで混ぜながら笑った。
「彼らもこの学校について調べてるようだね。総勢十六人、獣人が学校に群がってるんじゃあ、そりゃ怪しまれるだろうね」
 と笑うと、巽が不服そうな顔をした。
「まあ、彼らが何の目的だろうと‥‥僕達の目的は一つだ。仲間が犠牲になっているなら、なおさら暢気に構えていられない」
「仲間が? 確信があるのか、棗」
 御影が聞くと、棗は首を振った。
「確かな証拠がある訳じゃない。でも憑依されていた人物が死亡したんだとすれば、実体化したという事‥‥獣人が被害に会ったと推測するに難くはない。本体が無事であるとすれば、獣人もただでは済んでないだろうね」
「今は多分、故汰が会ったお姉ちゃんに憑依してると思う。おねえちゃん、今晩こっくりさんを学校でやる、って言ってたよ」
 故汰は、昼間あった話をした。
 あのあずさという少女‥‥。そして、こっくりさんの話。噂が本当ならば、何かが起こる‥‥に違いない。
「それで‥‥お母さんはだれ?」
「それに何の関係が?」
 すかさず棗に言い返す、真白。
「だって、お母さんの許可が要るなら、誰が故汰のお母さんかな、って」
 そう言われてじい、と見まわす故汰。
 性別不明の霙か、それともおっとりしたエリーセか、間髪入れず突っ込みはいる真白か、どこか男性的な御影か‥‥。むろん、14才の神楽はお母さんではない。
「‥‥うーん‥‥」
 選べないようだ。

 六人。この場に集まった者の数だ。
 一人目はあずさ。彼女は黒板を背にするように座っている。
 二人目は彼女と一緒に故汰に声をかけてきた少女。あずさの右側に座っている。
 三人目は、あずさ達の同級生らしい。口数少なく、黙ってあずさの二つ右となりに座っていた。
 彼女の右側には、故汰が。そして故汰の横は髪を結い上げた少女が居た。にこりと笑って、千春よ、と名乗る。千春の横には小柄な少年が座っていた。彼はきょろきょろと教室内を見まわしている。
 あずさはすうっとテーブルに一枚の紙を出した。
 こっくりさんでよく使う、ひらがなや数字が書かれたものだ。もう一つ。彼女は古い貨幣を出した。今では使われていない10銭のコインだった。
「じゃあ‥‥始めるわ」
 あずさが指をコインに付けると、皆もそれに倣った。

 先ほどから、神楽は窓の外を見ていた。窓の外だけではない。廊下もチェックしている。
 廊下で獣化したまま待機していた巽と御影は、彼女達一般の生徒が居る事を注意され、獣化を解いている。
 真白は故汰やエリーセの合図を待ちながら、神楽の視線を追った。
「何がある?」
 顔をあげ、神楽が真白を見上げる。
「さっき向こうの校舎を、誰かが歩いていたの。多分警備員さんだと思うんだけど‥‥女の人だったよ」
「そうか‥‥昼に言っていた、獣人かもしれない。注意しておこう」
「それだけじゃなくて‥‥廊下の向こう側にも居るようなの」
 真白は表情を変え、廊下へ足を向けた。
 廊下は静まりかえっている。
「どうかしたんですか」
 巽が言った‥‥そして悲鳴。

 し・ち・に・ん・じ・ゃ・な・い。
 七人じゃない。
 ここに居るのは七人でなければならない。七人で行ったから。七人が居たから。
 動くコインは、ある文字を差す。
 しちにんにする。と。
 誰かが悲鳴をあげた。あずさの友人だ。ぐらりと体を揺らして立ち上がったあずさは、めきめきと音をたてて体を変えていった。
 彼女も、そして同級生もただ恐怖と驚愕で後ずさりと悲鳴を続けるだけだ。椅子を蹴って、千春と少年が立ち上がる。
「あ、あずさお姉ちゃん‥‥!」
 故汰は彼女に近寄ろうと、ふらふらと歩く。あずさの姿は、すっかり変化していた。もはやヒトですらなく、巨大な蜘蛛のような異質なものに。
「故汰!」
 柔らかな声の主が、ドアを開ける。続けて顔を覗かせた棗が、手まねきをした。
「こっちに来い! あんたの相手は、そっちじゃないはずだ」
 ふ、と千春と少年が棗を見返す。続けて視線を、棗達が入ってきたのとは反対側のドアへ向けた。
 勢いよくドアが開かれ、制服姿の少年が駆け込む。
「ここは危険だ、はやく出て!」
 少年は、少女達を外に促しつつ、彼女達とあずさの間に立ちはだかった。すい、と少年が外に飛び出し、千春も彼を気にしながら廊下に出る。
「こんな所で、“仲間”に遭遇するとはね」
 駆けつけた霙が、逃げる少年達へ冷笑を向ける。獣人‥‥それも恐らく、自分達と“同じ”。
「あの人、お姉ちゃんと話していた人なの!」
 故汰が叫ぶ。
 廊下の向こう側の闇に立つ影が、にやりと笑った。
「悪いな、わし等コレさえ貰えればええねん」
 指にコインを挟んで見せると、影は背を向けた。追おうとする御影の腕を、巽が掴む。
「今は、こっちが先です」
 獣化した巽の前には、蜘蛛があった。
 狭い教室内を、羽を広げて飛空する真白、蜘蛛は巽と御影、霙が取り囲んでいる。
 獣化した巽のはき出す波動に、ナイトウォーカーが一瞬怯んだ。エリーセの仕込み刀と御影の木刀が、同時に突き出される。
 ゆるい曲線を描くようにして、エリーセは片手を伸ばす。鋭い切っ先は、巽の攻撃でひるんだ蜘蛛の右目のあたりを貫いた。激しく足を動かして暴れる蜘蛛が、御影をはね飛ばす。
 床にたたき付けられた御影に、蜘蛛が牙をむけてのしかかろうとしていた。
「表側には無い気がする‥‥えっと裏かな」
 エリーセの後ろから蜘蛛を見ながら、神楽が首をかしげる。真白は黒板消しを掴むと、蜘蛛に投げつけた。蜘蛛の対象が、御影から真白に向けられる。
「そっちじゃないだろ?」
 霙が、横から蜘蛛の足へ手を回し、御影から引き離そうと抱え込む。ぎし、と蜘蛛の体がきしむ。あまり見目がいいモノではないだろう。霙はやれやれと呟き、眉を寄せた。
 ゆっくりと御影から離れ、今度は真白の方へ向けて素早い動きで這う。
 ちらりと見た窓の外を、先ほどの彼らが校舎外へ出ていくのが見える。そして、ゆっくりこちらに移動する、ライトの光。
「警備員がもう少ししたら来るぞ、手早く片づけよう」
「分かりました。‥‥それじゃあ私も、全力でゆかせて頂きます」
 仕込み刀をすうっと地に向けると、エリーセは体に力を込めた。彼女の金色の髪の合間から、角が生える。
「表にないなら、裏か。‥‥それじゃあ」
 棗はふ、と姿を消すと、蜘蛛の足下に移動した。瞬間懐に入り込んだ棗が、思い切り蜘蛛を抱え上げる。バランスを失った蜘蛛は、簡単にひっくり返った。
「あった、足の間!」
 神楽の差す紅点に、エリーセの刀を差し込まれた。

 彼女達は‥‥学生達は無事に家にたどりついただろうか。
 校舎をふり返りながら、エリーセが呟いた。戦闘を歩いていた真白が、くるりとふり返る。
「‥‥さて、ヤツも倒したし‥‥皆で美味しいご飯でも食べに行こうか!」
「それも悪くないが‥‥皆こんな汚れた格好をしているが、いいのか?」
 霙が、自分や巽、エリーセ達の服を差す。ナイトウォーカーと格闘していた彼女たちの服は、肉片やら体液やらで汚れてしまっている。
「今日の所は、帰る方がいいかもしれませんね。誰に見られたかもしれませんし‥‥それにあの学生さん達には、少なくとも私や棗さんは見られてますから」
「獣化した所を見られた訳じゃないから大丈夫だろう。‥‥それより、連中の言ってたコインってのは何だったのかねえ」
 棗が、ポケットに手を入れて空をみあげた。
 ミサキ。七人である事に意味があるというなら‥‥。
 もしかすると、七つの品全てにナイトウォーカーが潜んでいるというのか?
 霙はそう言うと、顔を上げて巽と目をあわせた。
「いや‥‥それは遠慮したいな」
 ふるふると首をふると、霙は肩をすくませた。