煉獄事件〜カニバリズムアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 立川司郎
芸能 1Lv以上
獣人 3Lv以上
難度 やや難
報酬 9.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/10〜07/14

●本文

 煉獄‥‥それは、PLOJECT:八卦が擁する私設監獄だ。表向き処理出来ない獣人達を、保護収容するべく地下に作られた牢獄。

 暗部隠密隊総隊長である来島兵庫は、その日煉獄に収容された中嶋伸也の獄を訪れていた。ここに収容されて数ヶ月。
 NW一体を含む人間三名を惨殺した中嶋は、その心を暗い闇に閉ざしたまま牢の中で過ごしていた。彼の世話をしているのは、主に伊吹くるみという少女だった。
 くるみは、中嶋の殺された妹に酷似している。彼女もまた、心を閉ざしたままの哀しく冷たい獣人の一人‥‥。
 人間を虐殺し、人間を憎み続ける中嶋が煉獄を出るのは遠い先の話であるはず‥‥だった。
 無言で来島は、中嶋の首に手を伸ばす。
 彼の首に付けられたのは黒い首輪だった。
「俺の趣味じゃないが、まあ許せ」
 来島はそう言うと、今度は中嶋の鎖を解いた。怪訝な表情で、中嶋が来島を見返す。
「‥‥どういう訳だ。発信器でも付いているのか」
「そういう事。外すと爆弾がドカン‥‥なんて事はありゃしないが、逃げたら今度は本当の『獣』を使って狩り立てに出すからな、気をつけろよ」
 それと、伊吹くるみはこっちで預かる。
 来島はそう言って、笑みを浮かべた。
「さて、お前に頼みたい事が一つある。煉獄実行班は人間が足りなくてなあ、猫の手も借りたいわけだ。そこで、一つ事件を追ってもらう」
 来島が伝えたのは、半年前に起こったある事件だった。

 これは来島は伝えなかったが、この件をそもそも来島に教えたのはシシリーである。
「黒蜥の連中が抱える有料掲示板の一つに、カニバリズムパーティーという所があってな。まあ、黒蜥がやってる掲示板なんだから、どこもまともな内容の訳が無え。言葉通り、肉を食う嗜好の奴らの掲示板さ」
 彼らは半年に一回、パーティーを開く。
 持っていくものはただ一つ‥‥人肉。むろん、殺人など犯すような真似はしない。指一本、希に腕や足を切って来る者が居る。
 それが本人のものか、他人のものかは問わない。表沙汰にさえしなければ、相手の事情を問う事はない。
「‥‥気持ち悪いな」
 来島が言うと、シシリーが笑った。
「人肉は豚肉に似ているって言うが、実際は旨いもんじゃねえよ、牛肉喰う方がよっぽど旨い」
 ‥‥行った事があるんだな、とぽつりと来島が呟いた。
「半年前に開かれたパーティーでな、一人の女が欠席した。一度表明した以上、参加は絶対だ。そこで掲示板を監理していた黒蜥の下っ端、クラーケンって奴が追った」
 クラーケンとは、彼を識別する為の通称だ。狼獣人で、狂気的人肉嗜好。
 彼はパーティーを欠席した少女を、執拗に追い詰めているという。
 来島が中嶋に命じたのは、その少女を保護してクラーケンを撃退する事だった。
 少女は人間で、獣人や黒蜥という闇の組織は知らない。シシリーが知る限りでは、その少女は柿崎という名前であるらしい。
「クラーケンは馬鹿だから、カニバリズムパーティーの掲示板で柿崎の情報を公開している。とある高校に通う女子生徒で、兄貴が一年前に死んでいるって事まで突き止めている。兄貴を喰うつもりだったのかも、な」
 ふ、とシシリーは笑った。
 ‥‥あまり笑えない話だったが。
 何故少女は兄を食べようと思ったのか、
 何故止めたのか。
 そして‥‥その少女の行動は、中嶋に何をもたらすというのか?


設定
少女:柿崎という名前である事、出身高校は判明しております。人間です。
クラーケン:シシリーが言うには、「馬鹿」らしい。
中嶋:妹を人間に殺された、虎獣人。人間を憎んでおり、殺人鬼への道に足を踏み出しかけている。
掲示板:アドレスは判明していますが、足跡を残さないように気をつけてください。また、黒蜥が監理するレンタル掲示板ですから、書き込みも十分慎重に。
黒蜥:詳細不明。シシリーが所属していた、闇の獣人組織であるらしい。
関連シナリオ:「煉獄事件」

●今回の参加者

 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa1179 飛鳥 夕夜(24歳・♀・虎)
 fa1890 泉 彩佳(15歳・♀・竜)
 fa2196 リーゼロッテ・ルーヴェ(16歳・♀・猫)
 fa2431 高白百合(17歳・♀・鷹)
 fa2614 鶸・檜皮(36歳・♂・鷹)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)
 fa3392 各務 神無(18歳・♀・狼)

●リプレイ本文

■煉獄事件〜カニバリズム
 一人残された。残された者はそれを振り返る事も出来ず、ただ煉獄に鎖で縛られる。
 それが、今の中嶋の現実。黙って墓の前に立っている中嶋のやや後ろで、夏姫・シュトラウス(fa0761)が彼を見守る。
「‥‥しかし、何で中嶋は“人間の支配”なんてすっ飛んだ望みにすり替わっちゃった訳かねえ」
 遠目から彼女達の様子を伺いながら、飛鳥 夕夜(fa1179)が呟いた。風下に立って煙草に火をつけた各務 神無(fa3392)が、ふと笑う。
「あれは、八つ当たりをしたいだけの子供だ」
「確かに、色々な部分で若い人ですね」
「高校生にしか見えない、高白に言われるとはな」
 飛鳥が高白百合(fa2431)にそう言い返すと、高白はにっこりと笑った。
「わざわざ“殺人鬼”なんて呼ばれるような人は、規格外の身体能力と、それを使いこなすだけの知性と、それから一般的価値観に頼らず己を確立できるだけの精神力を持っているんだと思います」
 どれが欠けても、殺人鬼ではなく単なる害虫と呼ばれるでしょうから。高白はさらりと言ったようで、その実けっこうキツイ一言だ。高白自身は、そのいずれも持ち合わせていない、という事だ。
「どのみち、シシリーのような男は復讐とか人間とかどうでもいい奴だからな。黒蜥の狙いとなると‥‥まあ計りかねるが」
 各務が言うと、三人ともふと顔をあげた。
 黒蜥の目的は、一体何なのだろうか。

 夏姫は、中嶋を連れ出す時に来島と話した会話を思い返していた。
 八卦を出る前、夏姫は泉 彩佳(fa1890)とともに暗部の来島兵庫に会っていた。
「来島さん‥‥まず聞かせてください‥‥あの、く、くるみちゃんはどうするんですか?」
 伊吹くるみは、本来長期的に煉獄で収容しておく程の犯罪者ではないはずである。しかし中嶋の面倒を見るという名目で、煉獄内に住んでいた。
「伊吹くるみは、中嶋の側に居たがっている。帰る所がないからだと」
 それについては、たとえ伊吹くるみが本人であろうとなかろうと、本当だろう‥‥と来島は言った。リザードの一員だったとしても、伊吹くるみがそこを居場所として認識しているのか‥‥疑問に思う。
 それは、来島が伊吹くるみと中嶋の将来に可能性がある事を信じたいからでもあった。
 こくりと夏姫は頷く。
「分かりました‥‥あの、飛鳥さんは、事件解決まで私達が付いて居た方がいいんじゃないか、って言ってました。‥‥前回の事も、ありますし、それにシ、シシリーさんと会う事もあるかもしれませんし」
「うん、それにクラーケンさんと接触した時も不安だよね」
 アヤが眉を寄せる。
 今の中嶋は、リザードであるクラーケンや柿崎の言葉にも惑わされる可能性がある。むろん、これから外部でシシリーと会う可能性もある。アヤや夏姫が心配するのは、そんな時の中嶋の対応だった。
 前回のタイマンで、種族による能力差が明確になったが、しかし飛鳥や夏姫であれば、一人でも押さえ込む事が出来るだろう。
「とはいっても、わざわざ今中嶋さんにこんな依頼を出したのは、何故なんですか? 八卦の人材不足は、今に始まった事じゃないでしょうに」
「‥‥柿崎って女の子は、中嶋に似た所がある‥‥ってカンかな。結局人間も獣人も、中身は一緒だ‥‥中嶋には、それに気付いて欲しいんだがねえ」
 アヤの問いに、来島がそう応えた。

 “カニバリズムパーティー”は、黒蜥が裏で糸を引く掲示板の一つである。シシリーからそのアドレスを聞いたリーゼロッテ・ルーヴェ(fa2196)と飛鳥、鶸・檜皮(fa2614)は足がつかないようにインターネットカフェでそのアドレスにアクセスしていた。
 馬鹿というからには、事件の進展等も掲示板に残している可能性があるだろう、というのが飛鳥の考えだ。
 掲示板には、クラーケンが残した足跡がいくつかあった。飛鳥の言う通り、彼はその後の経過を書いている。まるで、狩人のように。最初は“兄が死んで”という柿崎の一言からはじまった。
 黒蜥でアクセス記録から、追っていったのだろう。
 カニバリズム‥‥食人。
「今度は、その柿崎って少女を捕って食うつもりなのかもしれんな」
 鶸が言った。
「草食獣の肉は美味しい肉だが、肉食獣の肉は臭くて食えない、だから人間の肉も旨いはずがないと聞いたな」
 そういえば、とロッテは各務が話していた言葉を思い返した。
−緊急事態を除けば、それは嗜好と信仰に大別される。別に、人肉嗜食は人類史上に於いて珍しい事じゃない。日本にでも『骨噛み』と言う風習の名残がある−
 各務は、食人について言っていた。
「どっちにしろ、あんまり気持ちいい話じゃないけどね。‥‥で、クラーケンなんだけど」
 ロッテは背を伸ばして、後ろに立っている鶸を見上げた。
「シシリーが最後に見たのは、2年前なんだって。どこから見ても日本人だけど、よく髪の色を金とか赤に染めてて、シルバーのアクセサリーとかじゃらじゃら付けてるって言ってた。左腕に特徴的なタコの入れ墨があるけど、あれは飾りだから、って」
「飾りっていうのは何だ、飾りじゃないのもあるのか?」
 怪訝そうに鶸が聞くと、ロッテは首をかしげた。シシリーが言う言葉だけに、何か引っかかるものがある。
 ともかくロッテは飛鳥に代わると、掲示板に書き込みをはじめた。当たり障りのない、カニバリズムパーティーに興味を持ったというような話である。
 その際ロッテがHNとして使ったのは、シシリーが使っていた193937という数字。
 もしクラーケンが見ていれば、反応があるだろう。一抹の不安も残るが、書き込んでしまったものは取り返しがつかない。
 その後、ロッテと飛鳥でニュース記事を検索し、柿崎の兄に関する情報を探した。これは、案外すぐに見つかった。地元のひったくり事件に巻き込まれ、死亡したという記事である。
 兄は、ひったくり犯を追いかけて、逆ギレした犯人に刺された。犯人は捕まったが、兄は戻って来なかった。
 一方ロッテが仕掛けた193937というHNは、しばらくしてから返答があった。
−ようこそ、八卦の犬−
 そう、書き残されていた。それがシシリーの事を指しているのか、自分達を当てているのかは分からなかった。
 彼女達と分かれた後も、鶸は掲示板をチェックしていた。
 鶸は、カニバリズムパーティーを小火騒ぎを起こす事で、一人で殲滅しようとしていたのである。しかしパーティーは、依頼期間中には行われておらず、作戦を聞いた来島もダメだしをした。
 小火を起こすなど論外だし、そもそも警察ざたになって鶸の事がバレると八卦も迷惑がかかる。また、鶸の事が黒蜥に知られると彼の命が無い。
 今回はクラーケンを阻止するのが目的であって、カニバリズムパーティーの阻止が目的ではないのだ。

 鶸が来島に呼び出されている間、残った女性陣はやれやれとため息をつきながら、八卦社の外で待っていた。
「クラーケンが本当に馬鹿なら、黒蜥もいつまでもそんな厄介者を抱えてないんじゃないでしょうか。馬鹿が性情に向けられたものだとすれば、行動にはそれなりに考えもあるはずです」
 イルゼ・クヴァンツ(fa2910)がそう言うが、高白は異を唱えた。
「でも、シシリーからすれば大抵の犯罪者は馬鹿に見えるかもしれませんよ」
「いや、本当に馬鹿で、のこのこ現れる可能性も無くはないぞ」
 と飛鳥。
 要するにイルゼとしては、クラーケンの行動に疑問があるのだ。半年前にパーティーを欠席して、既に高校まで判明している。普通に狙うだけであれば、いくらでも機会はあったのではないか?
「それなのに今だに無事だというのは、一応目撃などされないように気を遣っているのか、追い詰める為の小細工でもしているのか、どちらかではないかと考えるのです」
 単にストーカー行為をして恐怖するのを楽しんでいるだけ、であればまだいいのだが。
 そうしてクラーケン論議について、女性陣で話す事小一時間。結局鶸抜きで、柿崎の保護に向かう事となった。
「高校生くらいの年齢だったら、他校生の振りをして柿崎の事を聞き出せるかもしれない。とにかく皆で、柿崎の事について聞き込みをしよう。高校生というには、あたしはとうがたってるからねえ」
 飛鳥に言われ、それならばとアヤが挙手した。
「アヤは柿崎さんの保護に回るよ。他には‥‥」
 見回すと、無表情でイルゼがすうっと手をあげた。ちなみにイルゼは、飛鳥とほぼ同年齢である。飛鳥ははは、と笑って頬を掻いた。
 いったん、アヤとイルゼが柿崎の高校に向かう。
 そして鶸と入れ違いで高白は、来島と話をしていた。
 彼女が頼もうとしていたのは、住民票と戸籍謄本の写しを手に入れてもらえないかという話だった。
 だが、来島はあまりいい顔をしない。
「今本部に人がいないから頼んだから、出来るだけ情報は自分で探してきてくれないか」
 結局暗部を動かしたら、手間は同じだというのだ。しかし来島はぶちぶち言いながらも、結局高白に在校生名簿だけは手に入れてくれた。
「ありがとうございます、来島さん。感謝いたします」
 高白は、丁寧に頭を下げて礼を言った。

 いいですか、アヤ。私と同じ狼獣人であるクラーケンは、牙を完全獣化状態でなければ使えません。つまり、半獣化状態であれば戦闘で牙は使えないのです。
 その話をイルゼに聞いて確認していたアヤは、柿崎家の付近に待機してクラーケンを待ちかまえていた。彼がくれば、完全獣化を防ぐ‥‥その為に。
 柿崎という少女は、決して今まで兄思いだとか兄を特別慕っていた訳ではなかったようだ。ただ、どこにでも居る普通の兄妹。
 しかし、兄はふいに居なくなった。どこかの誰かに、殺されて‥‥。そこに、ぽっかり穴が空き、今まで普通だと思っていた事当たり前だと思っていた事が、あふれ出した。
 バランスの崩れた、心‥‥兄の居なくなった空間。そして絶望。それを埋める為、兄の思いでに浸った。そうして少女は、部屋から出てこなくなったという。
 怒りという方向に向けられたら、どんなに楽だっただろうか。
 少女はそう語ったという。憎んでも、兄は戻ってこないから。少女は言った。正しい事の為に命をかけた兄さんは、すごい。
「恐らく、カニバリズムパーティーに参加したのも、そういう感情から来ているのでしょう。その本心は、学校の級友達からは聞けませんでした」
 イルゼは、学校で聞けた話を一通り語った。不当な方法で失われた、家族という存在。ちらりと中嶋を見ると、彼は黙っていた。家族を食べる事は、恐らく彼にも出来るまい。
 柿崎はヒトだが、彼女の気持ちは中嶋に分かる。それを口にしたくないのかもれしれない。
「でも、直前でキャンセルしたという事は、やはり食人という行為を否定したのだ‥‥と考えてもいいかもしれませんね」
 イルゼが続けて言うと、はじめて中嶋が口を開いた。
「‥‥じゃあ、何故兄を食おうと考えた。‥‥俺もそうすれば、柿崎が何を考えたのか‥‥分かるかもしれないな」
 静かに中嶋がイルゼを見返す。各務が2人を交互に見て、口を挟んだ。
「妹は、お前にそんな事をや復讐を望む女だったのか?」
「知った口をきくな!」
 中嶋が各務を睨み付ける。アヤが困ったように飛鳥を見ると、飛鳥がため息をついた。
「問題をすり替えるな。子供じみた理屈を言うお前は、ただ空回りしてるだけに見える。お前が何でそんな考えに至ったのか、あたしにはさっぱりわからない」
「‥‥力は所詮力、ただ人を傷付けるだけなのかもしれません‥‥でも」
 夏姫がそう言った時。
 月が照らす空、どこかで何かがピンと耳をたてた。聞き耳をたてている。
 そしてにい、と笑った。八卦の犬‥‥、そう呟いて。
 疾駆する影に気付いたのは、飛鳥だった。
「来たぞ!」
 飛鳥の声に反応して、アヤが意識を集中する。ロッテ、そしてイルゼと各務も彼を視界に捕らえる。
 ロッテは相手が阻止する事も見越して、あらかじめ隠れて完全獣化していた。しかしこの完全獣化を阻止する能力は、たとえ完全獣化をしていたとしても、逆回しのように元に戻されてしまう。よって、ロッテも、その例外では無いという訳だ。
 ロッテは銃を構えるが、クラーケンはにやりと笑って駆けた。
「撃ってみな、当たるもんならな」
 獣人能力を使わずとも、疾走する相手に命中させるのは困難だ。その上、ここは住宅街。むろん、ロッテもこんな住宅街の中で、こんな獣化した状態で発砲する事など出来なかった。
 それを見越してか、クラーケンが飛び込んできた。同じく俊敏脚足でクラーケンを迎え撃つ、イルゼと各務。
「彼を倒せないのであれば、甲斐も倒せないのは道理」
 各務はクラーケンの懐に飛び込むと、囁いた。各務がかざした剣をかろうじてクラー剣がかわし、各務の動きに合わせるようにしてイルゼが身を低くして、足を狙った。
 各務につっこみ、クラーケンとともに地面に転がる。鋭いツメが、各務の肩を裂いた。素早く後ろから、夏姫が抱え込んだ。
 そのまま引きつけ、夏姫がクラーケンを地面に転がす。がっちりと夏姫に捕まれたままのクラーケンは、嫌な音をたてて間接を外された。
 そっとアヤが、クラーケンの体に手を伸ばす。彼の体には、たしかにシシリーの言うような入れ墨がある。
 しかし、ざっと見た感じでは数字のようなものは無かった。
「ミサキの指輪の暗号‥‥彼には無いんだね」
 暗号と、黒蜥の地位と‥‥。ウェイが何を選抜基準にしているのか、アヤは気を失ったクラーケンを見下ろしながら考え込んだ。