殺人ゲーム〜鏡合わせアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
立川司郎
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
08/18〜08/22
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●本文
一風かわった自主制作映画、殺人ゲーム。
Aと名乗る監督が、山の中の洋館を舞台にして俳優を集め、自由に演技させる‥‥映画はそれを監視カメラを使って撮影し、編集上映する。
その演出やシナリオが好評を博し、最近ではちらほらと都内の映画館でも上映されている。
決まり事はひとつ、決定した設定に基づき、館で一晩配役を演じて過ごしてもらう。それだけだった。
Aはいつも、電話や手紙、メールを使って指示をする。
「今回は少し趣向を変えよう」
Aが提示したのは、このような設定だった。
舞台は、この世ではないどこかに存在する館。あの世からもこの世からも離れた、幻。一同は気がつくと、この館に立っていた。
「それは二組のパーティー。一組は現代から。もう一組は、それより遙かに過去からやって来る」
過去から来た者と、現代の者。性別も容姿も性格も違えど、それは鏡合わせ‥‥ひとつの魂、生まれ変わりしモノ。繋がりがあるモノ。
「過去で出来なかったこと、奪われたもの、なくしたもの、手に入れたもの‥‥過去で変えたかったもの、無くしてしまいたいもの、捨てたかったもの‥‥2つのパーティーが会合した時、事件が起きる」
それは兄弟か、親友か、恋人か。片思い、復讐、執着。
そして殺人ゲームが開幕する。
ルール
注:ルールの穴を付くのはOKです。意表を突くのもOKです。ただしPLとしてのマナーは、最低限守りましょう。
キャラクター設定:各人、館に到着するまでの設定を考えておいてください。その後の一晩の行動は自由です。固定設定は、下記を参照にしてください。
設定
最初に挨拶した者:相談板で最初に挨拶の書き込みをした人は、館の主という設定がつきます。年齢不詳、何の為に館に居るのかも謎。殺人ゲームを楽しむ為、イベントを組み立ててください。殺人鬼となるPCを“他のPCに内緒で(けもメールなどを使って)”指定してください。ただし主は、直接殺人に荷担してはなりません。
殺人鬼:何らかの理由で、館内の人物の殺害を企てています。誰を殺害するかは、誰にも話さないように。参加者が規定人数に達した後、“自分の協力者”として一名を、“他のPCに内緒で”指定してください。
殺人鬼の協力者:何らかの理由で、殺人鬼に協力しています。殺人鬼が誰かを話してはなりませんが、それ以外の行動は自由です。
使用人:館の主の使用人。主から、殺人者が誰かを聞いておき、裏で彼の妨害にまわってもらいます。
パーティーA:現代(?)から来たメンバー。転生体がパーティーBに居る必要はない。
パーティーB:過去のメンバー。転生体がパーティーAに居る必要はない。その時代にあった格好で現れるように。
期間:夕方から、翌日九時まで。参加者が殺人鬼を見つける必要はなく、翌日九時に終了となります。それまでに殺人鬼が殺人を執行出来なかったとしても、その時点で終わります。
館内
・横に長い建物。1F2Fともにほぼ同じ作り。
1F:真ん中がロビーと階段、奥は食堂で、部屋の右奥に暖炉があります。左側はキッチンと倉庫、裏口となっています。右側は廊下を挟んで下が主催者の部屋、上は館の使用人の誰か一人の部屋となります。
マップ:簡単に下記のような作りです。
−−−−−−−−−−−−
−××××食堂××××−
−−−−−扉扉−−−−−
−××−上××上−××−
−××−××××−−−−
−××−××××−××−
−−−−−扉−−−−−−
2F:横一直線に廊下が走っており、真ん中は1Fからの吹き抜けで階段がある。左右に上下二つずつ部屋が、全部で八つ部屋がある。
内容:与えられた設定を演じつつ、一晩過ごしてもらいます。Aの目的は、割り振られた役割の各人を撮影する事にあります。食事は誰かが作ってください。その他必要な物は、館内にそろえてあります。
●リプレイ本文
ゆっくりと顔を上げる女性。体を支えている手を見下ろすと、手のひらは草むらに隠れていた。
ここは‥‥どこなのだろうか?
女性は、ゆっくりと顔を上げる。そこには、古びた洋館が建っていた。
そして、扉が軋む音をたてて開かれる。まだ若い少年が、そこに立っていた。漆黒の髪に赤い瞳、そして透き通った無機質な表情。
−始まりの刻 全ては名の下に
開きし扉の向こう 見ゆるものは‥‥−
ロビーに据えられたソファに腰掛けた見知らぬ青年が、すうとこちらを見つめた。
「ようこそ、東堂峰子(とうどうみねこ)[宝野鈴生(fa3579)]さん」
東堂は表情を少し、変化させた。
普段あまり気に入らない上司だが、今回ばかりは何かに頼るようにして側について立った。キャンプに来たと思ったら、いつのまにかこんな洋館にたどり着いていたのだから無理もない。水本 隆久[水沢 鷹弘(fa3831)]は、上司である土田 剛[雪野 孝(fa3196)]を見返しながら口を開いた。
「‥‥課長、何か変だと思いませんか? 私達、テレビ撮影か何かに巻き込まれちゃったんですかね」
水本の視線は、ロビーの端に立っている男と少年に向けられていた。男は刀らしきものを一本かついでおり、作務衣のような服を着ていた。
そしてもう一人の少年は詰め襟で、肩から大きな鞄を斜めに抱えていた。帽子と外套が、どこか古めかしい印象を与えている。
さらに少し異様なのは、和装の女性だ。訪問着ではなく、恐らく寝間着と思われる。髪は後ろで結い上げているが、どう見ても現代からはかけ離れた格好だ。
ただ一つ安心なのは、側できょろきょろと周囲を見回している小学生ほどの少女の服装は、普通のシャツとズボンだった事か。彼は水本達が話しているのを聞き入ると、声をかけた。
「あの、ここはどこアル? 俺、日本に旅行に行くはずアル。飛行機の時間‥‥間に合わないアルよ」
月竜[星辰(fa3578)]と名乗った少女は、腕をさして聞いた。どうやら腕につけていた時計が、無くなっているらしい。そう言われて水本と土田が自分の腕を見ると、どちらも時計が無くなっていた。
はっと気付いて水本がポケットの携帯電話を取り出すと、電源が消えたまま‥‥。
「ここ、電話はないアルか? ‥‥媽媽に電話しないと、心配するアル」
「ここには電話はございません。‥‥心配ございません、明日になれば無事戻れると保証いたします」
出迎えた青年が、頭をさげて言った。
「私はカルム・アンクロール[氷咲 華唯(fa0142)]と申します。皆様のお世話をさせて頂きますので、一晩よろしくお願いいたします」
「明日と言われましても‥‥私、明日になったら旦那様のお食事の準備や、御支度のお世話があるんです。そもそも、どうしてここに連れてこられたのか‥‥」
着物姿の東堂が、物言わず立っている青年に言った。片眼鏡と白い手袋、そして黒髪に黒のロングコート。かれは、椅子から立ち上がって微笑を浮かべた。
「まずは東堂様、土田様、水本様、月竜様、土守豪剣[犬神 一子(fa4044)]様、服部裕太[日下部 亮(fa4229)]様。六名、当館にて一晩ゆっくりとお休みください。‥‥ご心配には至りません、カルムの申すとおり明日にはそれぞれの“時”へと戻れる事でしょう。‥‥これはあなた方のファトゥム“宿命”にて‥‥」
彼はフィーニス[相沢 セナ(fa2478)]と名乗った。
ひとまず寝間着姿の東堂がカルムに案内され、エプロンドレスを借りている間、主人のフィーニスは姿を消した。困ったような顔で見回す服部には、そろりと月竜が近づいて話しかける。
水本は皆を一通り見回すと、歩き出した土田について足を踏み出した。土田の視線は、土守に向けられている。いや‥‥土守の刀というべきか。
「課長、刀に興味があるんですか?」
意外そうに水本は聞いた。土田はああ、と短く答える。土守は、刀から手を離さずに土田を見上げた。土守は、じろりと土田や水本の服装を見つめる。
土田が刀を趣味にしているとは、水本も初耳だ。元々水本は上司とはいえ土田と相性がいいとは言えない。部長の機嫌は伺いながら、部下の自分たちにきつく当たる態度はあまり気分がいいとは言えないからである。
土守は土田が刀を見せてくれるように頼んだが、刀を手放そうとしなかった。
「これは、抜き手を待つ身でな、おいそれと他人に渡す訳にいかんのだ」
その刀は、土守が打った刀‥‥土守は、依頼人の元へと向かう途中であった。それを聞いても、やはり土田は残念そうに刀を見つめている。
何だか意味深な様子で、土田が土守を見ていた。
月竜にとっての服部も、服部にとっての月竜も、お互いちょっと奇妙な格好。この中では月竜はもっとも年齢が低く、服部にとって一番気を許せそうな相手であった。
「‥‥俺、配達の途中だったんだ」
服部はそういうと、箱を月竜へと差し出してみせた。たぶん、鞄から出したんだと思う。配達の為に。服部はそういいながら、ちょっと首をかしげた。
これは自分が持っていた‥‥しかし、配達物の中にこんなものがあったとは記憶していない。そもそも自分は橋向こうの軍人のお屋敷に、手紙を届ける途中だったのである。
「そっか、東堂さんも軍人さんのお屋敷で働いていたって聞いたアルよ。日本には軍隊は無いって聞いたけど‥‥嘘だったアル?」
「そんな事はないよ。東堂さん、ご主人様は立派な軍人で‥‥ええと、ああ、海軍司令部の偉い人だってさっき話してたよ」
‥‥海軍司令部ってあっただろうか、とふと服部は首をかしげる。しかし東堂の話していたお屋敷はどう考えても、服部が向かおうとしていた軍人のお屋敷のように思えるし、2人の地理も一致している。少なくとも、土田や月竜達よりは違和感がなかった。
「宛先は誰?」
月竜が聞くと、服部は首を振った。箱には宛先が書かれていない。しかし誰かに渡すもの‥‥それが誰なのか、服部には思い当たらなかった。
渡さなきゃ、それだけが心にある‥‥。
「‥‥では、そのようにいたしましょう」
カルムがすう、と頭を下げる。フィーニスはくすりと笑った。カルムの手には、何かが握られている。
「気付いているでしょうか」
カルムが聞くと、フィーニスはすうと目を細めた。
「後悔でしょうか、魂の‥‥それともそういう運命の魂か‥‥いずれにせよ、もし彼がそういう運命だというのであれば、また遠い先にここにたどり着くでしょう」
楽しむように、フィーニスがいった。カルムは何の表情もなく、はいと答えた。
フィーニスの申し出とカルムから伝えられたのは、土田と東堂に、同じ食材を用いてそれぞれ得意な料理を作ってくれるようにとの事であった。それぞれの風土に沿ったものを、作ってほしいという。
先に作ったのは、東堂と手伝いに来た土守であった。東堂はキッチンの使い方を全くわからず、土田に竈の場所を聞いていた。むろん、ここには竈がない。
簡単に土田がレンジの使い方を説明すると、東堂は不思議そうにじいっとそれを見つめていた。
「お屋敷にも、このような竈はございません‥‥不思議なものがあるのですね」
東堂と土守は顔を見合わせ、首をかしげた。ともあれ、東堂の指示で料理を作り始める。
その次に料理を作ったのは、土田であった。何故か土田は、他の誰も寄せ付けずに一人でキッチンへと入った。
月竜などが手伝いを申し出たが、邪魔だからと一蹴。いつもならこき使われるのに、と水本はちょっと不審に思いながら、食堂へと戻っていった。
東堂が作ったのは、デザートのプリンである。プリンとはいえ、東堂が知るのは“カスタード・プディング”と呼ばれるもの。現在の日本のプリンの原型である。
「最近お得意のお店で作り方を教えていただいたので、作って見ました。お口にあえばよろしいのですが」
東堂はそういって一歩下がり、一礼した。テーブルについたのは彼女とカルムを除いた6名であった。カルムはともかく、東堂には屋敷の主とともに食事をする事が出来ないらしく、月竜や服部達が一緒に食べないかと誘っても首を振って断った。
土田の料理は、ビーフシチューであった。
「皆さんのお口に合うように、ね」
土田がふと笑っていった。
今、一体時刻はどれくらいだろうか。
まだキッチンでは、東堂が片付けをしている気配が感じられた。
「‥‥本当に効くんだろうな」
土田が低い声で聞くと、カルムは目を伏せがちに答えた。
「1シート飲んでも死ぬ事なんてありませんから、いくらでもお試しになったらよろしいと思いますが」
そう言い残すと、カルムは背を向けた。
土田が手の平を開くと、銀色に光るケースには一錠も残ってはいなかった。
体がだるい。東堂は拭いていたテーブルに手をつくと、壁を見た。ここには時計は無いようだ‥‥。
何時頃だろうか、と考えつつ東堂は布巾を持ったままキッチンへと戻っていく。
身辺には気をつけられよ、といっていた土守の言葉が思い返される。我が身は刀があるが、おぬしは女の身だ。土守はそう言って案じてくれた。
ふと顔をあげると、いつのまにかカルムが立っていた。
「‥‥東堂様、お部屋までお供いたしましょうか」
東堂は頷いて、歩き出した。
階段で、水本にすれ違う。どうやら水本は、今目を覚ましたばかりのようだ。少し眠そうにしているが、意識ははっきりしているようだった。
「誰か、俺の部屋のドアを叩いていったかな?」
水本がカルムに聞く。
「ええ、既にお休みだったかと思いまして確認の為に」
「いや‥‥ちょうど外を歩きたかったんだ。ありがとう」
そう言うと、水本は階下へと向かった。
ゆったりとした睡魔が、屋敷を包む‥‥。
服部と話していた月竜の体が、少し揺らいだ。はっとして顔をあげる。
服部の手の中には、封の解かれた箱がある。結局服部は、この屋敷の中に箱の配送先を見つける事が出来なかったのである。
開けてみれば、何か分かるかもしれないという月竜とともに、服部が中を開けた。
中から出てきたのは、鈍く光る香炉。龍と思われる装飾で取っ手が付けられており、深緑色で艶がある。
「うちにあるものと、似てるアルよ」
「‥‥そうなの? もしかして、月竜のうちのものだったりするかな」
「それは分からないアル。でも、うちは昔からあって、家族や親戚が集まる大切なパーティーで使ったり、客をもてなすのに使ったと聞くアルよ」
本当は、服部も気付いている。月竜は本来、自分とは遠い場所に住んでいるであろう事を‥‥。その事を口に出そうとした時、どこかで誰かが廊下を走っていく音が聞こえた。
気がつくと土守は、床を這っていた。侵入された事に、気付かなかったのはうかつだった。手元にあるはずの刀が、ない。
見上げるとそこには土田がじいっ、と見下ろしていた。
「お前‥‥」
土田が抜きはなった刀には、血が伝っていた。
ここがどこか、何の為に来たのか、分からない。しかし土守にもわかっている。
「お前は‥‥」
「十錠をありったけ入れたつもりだったが、やはり六人分に取り分ければ効果も薄まったか‥‥目覚めなければ良かったものを」
そうすれば、見なくてすむ。“自分”が血に濡れる様を。
「お前には感謝している、この刀を‥‥ようやく手に出来たんだからな」
土田は部屋を出て行く。土守はぎゅっと拳を握りしめた。外で女性の悲鳴が、聞こえる。恐らく東堂であろう。
土田が入れた睡眠薬入りの料理は、東堂も口にしているはずだ。しかし水本はカルムに起こされ、東堂は結局眠る事なく起き出してきた。
部屋の外に出ようとして、月竜は服部を振り返った。出て行こうとする服部の腕を、月竜がぎゅっと握って制止する。
彼女はふるふると首を振ると、服部を部屋へと引き戻した。
彼女を一人残しておけない‥‥服部は不安そうに扉を見つめ、そっと鍵をかけた。
ぽたぽたと、血が滴る。深い傷をおった腕を押さえた水本は、目を見張る。
刀を構えた土田と自分の間に立ちふさがったのは、土守だったのである。廊下で逃げ回る東堂を庇って負傷した水本だったが、さらに彼らを救ったのは土守であった。
土守は土田の事は、見ていない。
ただ、刀だけを睨んでいた。
暗闇の中、気配がうごめく。もみ合う土田と土守の気配を、水本も東堂も止める事が出来なかった。
「‥‥これは‥‥俺の半身なんでな」
土守の声が聞こえる。どうやら土守が刀を取り返したらしく、きらりと月の光に反射して刀身が光った。
半身‥‥それは土守の刀の事だったのか、それとも‥‥。
そして意識が暗転する。
腕の痛みに気付いて体を起こすと、水本はいつのまにか森の中に倒れていた。館も何も、そこにはない。
ただ、水本の腕には乾いた傷が残されていた。
薄暗い朝靄の中の草むらに、点々と残された赤黒いシミ‥‥それは森の奥へと続いていた。
「‥‥課‥‥長?」
水本の声に、答えるものはない。
しんと静まりかえった屋敷の中、黒髪の青年が握った時計は時を刻み続ける。
「‥‥申し訳ありません」
カルムが口を開くと、フィーニスはふと笑った。
「何をですか? あの男が“自分”を手に掛けるのを防げなかった事ですか、それとも本能を満足させてやる事が出来なかった事ですか」
私は、そんな事は気にしていませんよ。
フィーニスはそう答えると、椅子から立ち上がった。
「あの男の宿命‥‥それをほんの少し手助けしてやるだけです。その結果がどう転ぼうとも‥‥」
主の言葉に、カルムは黙って頷いた。