ジュリプロプロデュースアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 立川司郎
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 4.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/03〜09/08

●本文

 若い少年をメインにしたアイドルユニットを多く抱えるジュリアーズ事務所は、デビューを夢見た候補生達が幾人もレッスンを続けている。
 羽崎海と、田部哲哉も候補生の一人であった。
 とにかく元気があり、一人で強引にでもぐいぐい引っ張る海と、無口で社交性は低いが熱中すると集中力を発揮するタイプの哲哉。
 高校一年生と中学二年の二人の間は2つ差があり、一見するとバラバラになってしまいそうな二人。マネージャは事務所との話し合いの結果、二人を路上ライブに放り出した。協力者の甲斐もあって、二人は何とかライブをこなし、二人でのレッスンや仕事も少しずつ増えつつある‥‥。
 そんな時、再びマネージャーは事務所の会議室に呼び出された。
「‥‥プロデューサーを募集する‥‥?」
 思わず、声をあげたマネージャー。
「この間からやってるウチの“boys show time”って番組あるだうろ」
「候補生ばっかり出てるバラエティ枠のね」
「あの中で2人のプロデュースを流してみようかな、と思ってる。まあ、とりあえずその為に人集めをよろしく頼むよ」
 6日ほどかけて撮ったものを2週分に編集し、流す予定だ。
 2人に関しては、ユニット名もCD発売の予定も写真集も何も予定が決まっていない。一から決めなければならない。
 以前の路上ライブでは、海がショルダーキーボードを使い、哲哉がメインボーカルとして歌っていた。現場にはCMで共演した仲間が集まり、曲を提供してくれたりしている。
 海は声は澄んでいて綺麗だが歌はダンス程得意ではなく、哲哉はダンスでは海に劣るものの歌は海より上手い。
 その上、2人はまだ問題が少し残っていた。
 マネージャーは、それを口にした。
「海がピアノのレッスンを続けているのはいいんだけど、作曲の基礎とかからっきしでしょ? 任せろ任せろばっかりで、結局人に頼る事が無いもんだから。哲哉は哲哉で、まだ自信が無いのね‥‥。もっとカメラ目線が出来ないもんかな、色気が足りないっていうか。あの子は、あの3倍くらいナルシストでちょうどいいわね」
 山積みのプロデュース計画が、開始する。

設定
羽崎海:ジュリプロ候補生の一人。いつも意味無く自信満々で、元気がいい高校一年生。ピアノが弾ける(とりあえず弾き語りが出来る程度)
田部哲哉:ジュリプロ候補生。口数少なく、クールな性格。中学2年。

企画:今回は企画立案段階。今後の具体案や、ユニット名決定までこぎ着けてかまいません。それと、手があいていたら、あの2人の問題点克服も何とかしてやってくれるとありがたいです。

●今回の参加者

 fa0074 大海 結(14歳・♂・兎)
 fa0954 白河・瑞穂(17歳・♀・一角獣)
 fa1402 三田 舞夜(32歳・♂・狼)
 fa1796 セーヴァ・アレクセイ(20歳・♂・小鳥)
 fa2084 Kanade(25歳・♂・竜)
 fa2177 縞八重子(27歳・♀・アライグマ)
 fa3060 ラム・クレイグ(20歳・♀・蝙蝠)
 fa3211 スモーキー巻(24歳・♂・亀)

●リプレイ本文

 ジュリプロ事務所の一室‥‥。多種多様なメンバー8名が、ある映像をじっと見つめていた。先日行われた、海と哲哉の路上ライブのものである。
 2人にもっとも近い立場にあるといえる、 ぷらちな☆キャンディの大海 結(fa0074)、そしてかねてよりプロデューサーに興味を持っていたギタリストのKanade(fa2084)と、彼と同じユーヴェリアのラム・クレイグ(fa3060) 。白河・瑞穂(fa0954)は演出家で縞八重子(fa2177)はプロデューサー、三田 舞夜(fa1402)は音楽演出家で、スモーキー巻(fa3211)は音楽プロデューサーだ。ただ一人異色なのは、セーヴァ・アレクセイ(fa1796)がチェリストである事くらいだろうか。
 最年長の三田をはじめ、カナデも巻も今回の仕事において一つ企画を考えていた。
「ただレッスンするんじゃなくて、最終日にライブでもしないか?」
 カナデの案に、同様の事を考えていた巻も三田も同意した。
 彼らにデビューする覚悟を持たせたい。というのが、カナデの意見である。
「明確な目標があれば、指向性を持ってそれに向かったレッスンが望める。ライブはいいアイデアだな」
 三田が言うと、巻は少しだけ表情を曇らせた。
「ライブは確かにいいけど、まだ作曲等の面では海は不安があるから、今の段階では全部任せる訳にいかないね‥‥誰か挟むといいんだけど」
「じゃあ、俺が海君に作曲指導をしよう。‥‥クラシック人間だけど、基本は教えられると思うよ」
 にこりと笑ってセーヴァが言った。相手がアイドルだという事は承知しているが、クラシック人間だからこそ何か違った成長を促せるかもしれない。セーヴァはひとまず、海のレッスンを担当する事に決まった。
 巻が言っている『曲』に関しては、ラムとカナデが何か考えている様子だった。むろん巻もそれなりに思う所があるが、彼が見た所2人は既にイメージが纏まっている様子。
 巻と視線が合うと、ラムが口を開いた。
「一つ気になっている事があるんだけども、いいかしら?」
 ちらりと顔を上げる、巻と三田。どうぞ、と三田が促すとラムは言葉を続けた。
「ライブや曲も大切なんですけど、全体のイメージを決めておきませんか? 彼らにしろ曲にしろ、イメージがバラバラでは私達も方向性が決まりませんから」
「俺は、コーディネイトを綺麗目の服に、ちょっとワルっぽいでいこうかと思っていたんだが、どうだ?」
 三田が、曲担当のラムとカナデに聞くと、うーんと唸ってカナデが空を見上げた。
「俺とラムは、明るいイメージを捕らえていたんだ。たぶん、海のイメージが先に来ちゃうからだろうね。三田さんは、哲哉の方と釣り合うように考えているのか?」
「どうかな、ユニットが2人だっていう事もあるんだけど‥‥ま、それは白河と縞も考えおいてもらえる?」
 三田の要請を受けて、白河がこくりと頷いた。

 イメージを決めておかないか。ラムの言っていた言葉を思い出し、ユイは2人のレッスンに参加していた。今回ダンスレッスンを主に行っているのは、哲哉の方である。海は、セーヴァが付いてピアノや作曲について教えていた。
 哲哉と海の2人は、ユイにとってちょっとした後輩のようなものである。チョコレートのCMで共演した事、ユイもケイと組んでアイドルをしている事。ユイにとって2人は、昔の自分達を見ているような気がしてならない。
「ねえ、哲哉君達は‥‥何かやってみたい事とかないの? 目標とか」
 哲哉が黙って考え込む様子を見せると、ユイは続けた。
「僕の所はね、大抵僕がばーっと企画を出したらケイちゃんがつっこみを入れてくるんだ。大抵却下されちゃうんだけどね」
 とにこにこ笑ってユイが言った。
「‥‥役者‥‥かな。でも海は‥‥やっぱりアイドルが好き‥‥らしい。アイドルって‥‥いいものか?」
 哲哉からはっきり何かの意見を聞くのは、ユイでも初めてかもしれない。何だか共演などを通じて少しでも距離が縮まっていたような気がして、ユイは嬉しくなった。
 哲哉がアイドルを嫌っていた事は、知っている。今でもわだかまりがあるかもしれない。
「アイドルは嫌い? ‥‥僕も‥‥特にケイちゃんはね、全然アイドルらしい事が出来なくて、カメラ目線で笑ったりとか出来なかったんだよ。でも意識してアピールしなきゃ、見ている人だって覚えてくれない。やっぱりこれは、練習していかなきゃ」
 ユイが海に同じ質問をした所、海からは『俺は俺が大好きだぁぁぁぁぁ!』という答えが返ってきた。この半分でも哲哉が見習う事が出来ればいいのだが‥‥。
 ユイとのレッスンを撮影していた白河と縞は、別室でそのチェックをしていた。海のレッスン、哲哉のレッスン、そして2人のレッスン。
 縞が聞いていた通り、海は声は澄んでいて綺麗だが歌はダンス程得意ではなく、哲哉はダンスでは海に劣るものの歌は海より上手い。海の自信がどこから来るのかというと、ユイが聞いたように『海は自分が好き』という事に尽きる。
 自分は格好いいと思っている。凄いと思っている。何でもやれば出来ると思っている。
「海さんの舞台、私も手伝っていたのですけれど、彼は舞台でもカメラの前でもよく栄えます。彼は少し手伝ってあげれば、きっと成長するでしょう」
 白河が言うと、縞はうん、と答えた。
「でもお互い駄目な所といい所とあるんだから、お互いダンスも歌もそこそこ同レベルになるようにしていかないと駄目だわね。こうして時々、一緒にレッスンして確認しなきゃ」
 そうする事で、お互いで『上手くなった』と確認しあって励みにしなければ。
「大丈夫、2人とも若いんだからすぐに成長するわ」
 腰に手をやって、縞がはっきりとした声で言った。
 ジュリプロ候補生から離れてユイと単独レッスンをするようになった哲哉を、白河は縞も誘って弁当を作って様子見に来た。縞の言う成長の度合いを見る為でもあるが、白河のちょっとした興味でもあった。
 唐揚げや肉巻き、おむすび‥‥
「若い人向けのおかずを作ってみました。どうぞ、ユイさんも」
「まあ、白河君‥‥あなたもまだ海君と変わらない年だというのに‥‥若いだなんて」
 ふるふると縞が、嫌そうに首を振った。それは、あたしに対する挑戦ね。
 縞の言葉に、白河がちょっと焦ったように答えた。
「いえ、私はこういう性格ですから‥‥その、そういう意味では」
 笑ってるユイの横で、哲哉も優しい表情をしていた。白河が最初に見た時より、哲哉は随分成長している。それを、これからも楽しみにしているのだ。
 彼らが、どこまで成長するのか‥‥。
「いいわね‥‥仲間同士が励まし合って成長するのは、いいものよ」
 白河の心を見透かしたかのように、縞がそう言った。

 一方海は、セーヴァに作曲に関して基礎知識を受けていた。
 セーヴァはチェリストだが、ピアノもそこそこ弾ける。少なくとも素人に毛が生えた程度の海とは、比べものにならない程度には出来るのである。
 先日の打ち合わせの時は、クラシックを趣味とするラムと熱心にクラシック談義に花を咲かせていた。
「本当は俺よりもカナデさんの方が、合ってるのかもしれないけど‥‥しばらくよろしくね」
 セーヴァは挨拶を交わすと、楽譜もなしに色々弾いてみせた。彼が選んだのは、海でも知っているであろう曲だ。
 話に聞いた所、海はブルグミュラー程度にはピアノを習っているという。いくつかは知っていても、おかしくない。
「最近アニメとかドラマでも、クラシックを用いている事が多いよね。クラシックっていっても、そんなに堅苦しいものじゃないんだよ」
 ? という表情で、海が見ている。
「退屈と思うか不協和音と思うか‥‥聞く人の心の中の垣根の問題であって、本当の音楽の区別はジャンルじゃなくて、好きか嫌いか、聞きたいか聞きたくないかだけだ」
 残念ながら、クラシックは聴きたくない人が少なからずいる。それはセーヴァも認めざるをえない。セーヴァは、そこで初めて楽譜を出した。それはラムとカナデに会った時にカナデから「ラムちゃんのボイトレ曲、ピアノ練習用に楽譜にしておいたから」とぽんと渡されたものである。
 セーヴァの弾いた、ラムの練習曲‥‥もとはボーカル付きの曲なのだが、少し違って聞こえた。
「なんか、クラシックみたいだな」
 海が言うと、セーヴァが頷いた。
「クラシックだって編集次第で、全く違うジャンルの曲に変わる。ロックだって、こうして弾けばクラシックになる‥‥だから、そういう事」
「へー、そういうのって面白いな!」
 海はきらきらとした目で、答えた。

 ふ、とラムは顔を上げてくすりと笑った。
「なんだ、あの曲をセーヴァさんに渡したのね」
「駄目だった?」
 カナデが聞くと、ラムは視線をテーブルに落として髪をかきあげた。
「別に、いいですよ。それで、様子はどうでした?」
 ラムが、反対側に座っている巻に聞いた。
 海と哲哉のレッスンの合間に、巻は彼らに作詞の適正チェックをした。作曲は海がするとして、せめて作詞は哲哉がやってくれるとバランスがいいと思っている。両方を一人が負担するのは、けっこう大変だからだ。
 巻はあらかじめアイドルが歌うような曲を作曲し、それを『歌詞をつけてほしい』と二人に手渡した。恐らく、哲哉の方が上手いだろう‥‥と予想していた。
 何で、とカナデが聞くと巻は言いにくそうに笑った。
「海君は文系の成績は苦手そうだったし‥‥たぶん、そういう方向は向いてないんだろうと思ってたんだ。海君が両方負担するのも、避けたかったしね。‥‥それで、曲はどう?」
 言われて、ラムとカナデがそれぞれ曲を聴かせた。
「海君は声が綺麗だから、コーラス部分頑張ってみて‥‥哲哉君は伸びやかに歌えるようにしてみようと思ったの」
 柔らかく明るいイメージのラムの曲に対して、カナデはもう少しはっきりと明るい曲だ。
「これがデビュー曲になる訳じゃないから、両方ライブで歌ってもいいと思うよ。デビューシングルとして話題性を出せるのは1回だけだから、今の時点で結果を出すのは危険だ。三田さんが“無料ライブにして様子を見よう”と言っているから、もう少し引っ張った方がいいと思うな」
 カナデはそれを聞いて、ちらりと巻を見た。巻も三田も、デビュー後の人気の事まできちんと考えている。プロデューサーを目指しているカナデにとっても、今回の仕事は勉強になる事が多かった。
 立ち上がり、巻が2人の曲がはいったディスクを手に取る。
 巻は次に、三田の所へと向かった。三田は鏡の前で、哲哉に着せ替えをしている。後ろで白河と縞が撮影しながらチェックしており、巻はやや後ろに立ってディスクを掲げた。
「2人の曲は明るいイメージだから、三田君のイメージは却下ね」
 あっさりと縞に言われ、三田は眉を寄せた。哲哉はというと、無理に着せられた猫のように黙って立っている。
「仕方ない、それじゃこっちにするか‥‥」
 今度は、シャープなラインの服‥‥もう少し明るい色遣いのものである。三田は肩に手をばんと置くと、声をあげた。
「大丈夫、お前は俺の次に格好いいぞ」
「‥‥哲哉さんは素敵だと思いますよ、自信を持ってください」
「一番格好いいと思うわ」
 困ったような顔で白河が言うと、続けて縞が笑顔で言った。
 ‥‥うん、やはり哲哉はまだ前途多難‥‥。

 カナデが作った、“Sunshine”、そしてラムの作った“Fly”。セーヴァのレッスンを受けた海はちゃんと真剣な表情で聞き入っていた。曲や歌詞は、信念や意志だけで簡単に作れるようなものではない事は、ちゃんと察している。
 哲哉はふいと顔をあげた。
「‥‥ユニット名‥‥」
「カナデとラムとユイが考えてくれたんだがな‥‥、最終的にお前達に任せる事にした。どれがいい?」
 三田が聞くと、海と哲哉が顔を見合わせた。
 BLAST。
 爆発して弾けようっていう意味を込めて、ユイから送られた名‥‥。