ミサキ〜裏アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
立川司郎
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芸能 |
フリー
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
3.1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/01〜12/05
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●本文
〜ページを表示することができません
今、そのアドレスを叩いても、そこには何も残されていない。跡形もなく‥‥全て、消し取られていた。
たった一週間だけ存在した、とあるホームページ。
1日目、2日目、3日目‥‥7日間、淡々とした文章と一枚の写真だけを羅列し続けていた。
7つのもの、7つの物語を。
そして、7日後。全てを消し去り、闇に消えた。
そのHPの名前は‥‥“ミサキ”。
‥‥と、彼から聞いたのは、こんな話だった。
今抱えている脚本の仕事が煮詰まっているんだ、と話しながら彼は頭を掻いた。掛けていたメガネを外して、テーブルに置く。目はそれほど悪く無いようだが、最近目が疲れやすいらしい。
痩せた血色の無い腕を見るに、とても健康とは言い難いようだ。
すう、と彼が一枚の紙を差し出す。
そこには、貨幣が映っていた。
「これは10銭の白銅貨だ」
まじまじと写真を見ていると、彼は煙草を手に取って火をつけた。
「僕が聞いた所によるとね、その写真はミサキのサイトにあったものらしい。‥‥たまたまハードの中に、写真だけ残っていた‥‥という話を人づてに聞いてね。ホントかどうかわからない話なんだけど」
その十銭に伝わる話は、数十年前に遡る。同じ学校を卒業した青年が、故郷に集まってこっくりさんをした。そのうちの一人が、翌日死亡。
彼らは学生時代にも、同じように仲間を亡くしていた。
木から柿の木を取ろうとして、落ちたらしい。
「それ以来、学校のその少年の霊が出るという噂が流れて、彼らは久しぶりに集まった学校で孝霊術をしようとしたんだと。ところが、その同窓会の翌日、また死んだ」
一息ついた後、彼はじっと皆を見つめた。
「おかしい所があるだろ?」
誰にも分からなかったのか、黙っている。すると彼は、ふ、と笑った。
「こっくりさんっていうのはね、明治時代に入ってきたんだけど‥‥その頃のこっくりさんっていうのは、テーブルターニングっていう方法だったんだ。3本の木で組んだテーブルに手を置いてする降霊術だ。今のように十円玉や自動筆記でする形式は、ヴィジャ盤っていう方法なんだよ」
その時点で、彼はこの噂の信憑性を疑っていた。
ところが、事件は起きた。彼は今度は半月ほど前の新聞を取りだした。
<深夜、××高校で少女が怪死>
という見出しがついている。
「この十銭がね、この高校にあるらしい。この子が死ぬ7日前にも、同様に死んでいる。そこで、だ。‥‥行ってくれないかな、この学校に」
はい?
と聞き返すと、彼は苦笑を浮かべた。
「だって‥‥僕、それを書きたいんだもの。だからちょっと、調べてきてくれないかな。頼むよ。‥‥出来れば、そのお金‥‥持ち帰って!」
両手を合わせ、彼は祈るように目を閉じた。
●リプレイ本文
閉じたノートパソコンの上にうつぶせて寝ている彼に毛布をそっと掛けると、御神村小夜(fa1291)はプリンターの排出口に出たまま放置してあった紙を取った。
鞄と上着を手に取り、ドアの所に行ってふり返る。
「それじゃあ、写真は頂いていきます。‥‥それから、ご飯はちゃんと食べないと、体に良くないですよ」
聞いているのか、それとも寝付いているのか。それじゃあ、と彼女は最後に声をかけ、ドアを閉じた。
ぎゅ、と捕まえられて、小さな茶色の瞳が上に向けられる。
三十才前後だろうか。トレーナーを着た女性と、スーツ姿の年輩の男がこっちを見ている。
「どこから来たの?」
詰問する彼女に、はっきりとした口調で答える。
「狐太郎と言います。お弁当‥‥お兄ちゃんに持って来たの」
「お兄ちゃん? 何年何組の誰かしら」
そこまで考えていなかった。先生に嘘をついても、すぐにバレてしまうに決まっている。狐太郎はさすがにこれには狼狽した。高校の学校内で子供が徘徊していると、すぐに教師達の目にとまってしまう。
「三年‥‥二組。日宮」
日宮狐太郎(fa0684)は、出来るだけ平静を装って答えた。
しかしやはり教師は首をかしげた。
「そんな生徒、居なかった気がするけど」
狐太郎は金色の髪をしている。そんな髪の生徒がいたかどうか、と教師は考え込んだ。
「僕、学校間違えちゃったのかな‥‥」
どこの学校、と聞かれないように、狐太郎はぺこりと頭をさげた。
「お弁当は持って帰って、お母さんにもう一回聞きます。ごめんなさい」
たた、と狐太郎は走った。後ろから先生が声を張り上げていたが、気にせず走る。
学校というのは、閉鎖された空間である。
学校内でも不審者による事件が起こる昨今、見知らぬ者に対する学校側の警戒は強い。狐太郎のような子供ならまだしも、同年代ともなればそうではない。
彼らは立派に、大人と同じ体格だから。
見知らぬ制服を着た少年と少女は、彼らの中で目立った存在だった。もしこの時点で彼ら富士川・千春(fa0847)と八咫・玖朗(fa1374)が、この後起きるナイトウォーカーの事件の事を知っていたなら‥‥このように目立つ格好で姿を現さなかったかもしれない。
不運にも彼らは狐太郎を捜していた教師と遭遇し、そして捕まえられた。
「‥‥昨日今日、この辺をマスコミとか色々聞き回っているようなんだけど‥‥あなた達、どこから来たの」
「転校? どこの学校の何年何組、名前はなんだね」
畳みかけるように聞かれた。転校生です、と言ったからといって、それなら自由に校内を歩いてもいいわよ、とはいかない。
二人は顔を見合わせ‥‥結局千春の事務所に連絡がいった。幸い事務所の方で事情を察し、うまく取り繕ってくれたが、これで千春の身元が知られてしまう形になった。
「そうだね、身元はかくしておいた方がよかったね」
玖朗が申し訳なさそうに千春に言った。
「いいのよ、そんなの気にしないで。私たち、別に悪い事しに来たんじゃないもの。ただあのコインが欲しいだけでしょう?」
死亡事件とは無関係なんだから、平気。千春はあっけらかんとしてそう答えた。こくりと玖朗が頷く。
「とりあえず、情報収集は続けよう。学校から帰る人に聞き込みしてみたらどうかな‥‥ミサキの事とか、学校のこと」
千春に続き、玖朗は校門へと歩き出した。校門の向こうに見える、小柄な影。まだ中学生くらいだろうか。生徒に何か話しをきいて、メモを取っている。
「何してるのかな」
千春と玖朗を見返すと、彼女の方へと近づいた。
彼女達や狐太郎が学校の潜入を計っている間、一人潜入に成功していたのが勇姫凛(fa1473)だった。もうとっくに学校のは卒業している年代だが、幼い顔立ちの彼は高校生に十分見える。
しかし、有名ではないといってもアイドルだ。
ここで正体がバレるのは、あまり楽しくない状況だ。制服を調達しようと思ったが手に入らなかった凛は、高校の制服をクロゼットから探し出す事も出来ず、私服で学校を訪れた。
出来るだけ目立たないように、周囲を警戒しながら校舎を歩く。彼の目的は図書館で学校新聞などで情報を得る事だ。
目立つ容姿でもなく、高校生として違和感もない凛は私服姿で紛れていてもあまり違和感はない。
放課後、図書室は勉強中の三年生や、本を選ぶ学生が数人。しん、と静まりかえっていた。
凛はゆっくり歩く。どうやら教師はいないようだ。
すうっと棚の奥に向かうと、校内の情報が得られそうなものがないか、目を走らせた。
学校新聞には、何も書いてないか‥‥。凛はテーブルにファイルを詰みながら、ため息をついた。ふ、と顔をあげる。宗教・民俗学の本を置いたあたりに、少女が立っている。
棚の本に、手を差し出していた。
すう、と立つと凛は彼女の前にある本に手をやった。少女が凛をふり返る。
「‥‥ごめんね、読むんだった?」
「どうぞ」
「‥‥あのさ、変な事聞いていい?」
十銭白銅貨の話‥‥ミサキ。知ってる?
彼女の目が、少し熱を帯びた。
ここにも、随分と好奇のまなざしは向けられたようだ。
特に芝居は得意ではない星野宇海(fa0379)も、三十分ばかり粘ってようやく部屋に入れてもらった。
アパートの一室は、あちこち長い間片づけられた様子はなく、ちらりと覗いた子供部屋もそのまま‥‥。
星野は、疲れた表情の母親に案内され、質素な仏壇に手をあわせた。元気だった頃の写真と、お菓子が置かれている。
「本当に亡くなったんですの? 妹さん」
嘘泣きも演技も出来ず、ただ説得し続けた星野に疑惑を持っているのかもしれない。
「新聞とか雑誌とか‥‥もうお話しする事はないですから」
「そんなんじゃありません! 本当に‥‥信じてもらえないかもしれませんが」
少なくとも、故人を悼む気持ちは‥‥本当だ。
星野は、相手の様子を伺いながら、最近の身の回りの話をしはじめた。
あの後。いろんな人が来たという。彼女の死や、その前に死んだ少女とのつながり。母親は何も知らなかった。星野は、低い声で相づちをうつと、ぺこりと頭をさげた。
「すみません。お邪魔してしまって‥‥」
立ち上がった星野がさりげなく落とした写真を、母親が拾い上げた。星野は苦笑をしつつ、写真を受け取る。
「古銭を集めているものですから。妹が死んでから、寂しくて‥‥つい何かに熱中していたくて」
「わかります」
すう、と母親が頷く。その様子では、この家にはなさそうだ。あっても、あの少女の部屋の中に、記憶とともに閉じこめられたままかもしれないが‥‥。
学校に行っていた狐太郎と凛、玖朗に千春。
そして、亡くなった少女や、高校の生徒達に聞き込みをしていた星野と小夜。待ち合わせていた喫茶店の前に行くと、先に時雨・奏(fa1423)が来ていた。
あの高校の制服を着た少女と明るい口調で話していた彼は、携帯電話をお互い付き合わせて何か確認した後、手を振ってわかれた。
ひらひらと手を振って去っていく、女子高生達。
黙って一部始終を見守っていた彼らの所に時雨がやって来たのは、15分後だった。
腕を組んで眉を寄せ、小夜が一声をかける。
「待っていたんですよ?」
ちょっと怒ったような口調だが、小夜が言ってもあまり恐くない。
歩き出した彼女に続きながら、狐太郎が時雨を見上げる。ぽんと狐太郎の頭に手をやった凛が、にっこり笑った。
「狐太郎はあんな大人になっちゃ、駄目だよ」
「一般的な大人やないか」
さらりと時雨が言い返す。その時すう、と凛の視線が時雨の向こう側に向けられた。それとなく逸らした凛。しかし、星野も同じ方向を見ていた。
通りを過ぎて、ファミリーレストランに入ると、時雨が先の件を持ち出した。
「何やの、二人とも」
「さっき通り過ぎた店に居た人達、仲間だったよ」
「そうね」
凛に続き、星野も頷いた。
偶然居合わせた、獣人達‥‥。思いかえせば、玖朗と千春が出会った少女も少し様子が違っていた。
「誰か動いているのかもしれませんね。この事件でマスコミも動いたようですし、やはり異質な事件ですから」
「死亡事件について聞き回っとるのは、わしも分かった。せやけど、奴らはこっくりさんの話はしらんようやな。まぁ、関わらんとええ」
時雨はサングラスの奥の目を閉じ、小夜に答えた。
この事件の裏に、必ず誰か生き残った者が居るはず。小夜はコインの写真を出して店ながら、話を続けた。
「こっくりさんというのは、一人で出来ないものですよね。仮にこの白銅貨を使ってこっくりさんをしたとすれば‥‥誰か生存者がいるはずです。死んだのは一人ですから」
星野が聞いた所によると、彼女達が死ぬ前の晩、夜に学校に居た事は分かっている。しかしその死に方は異様だったという。遺体らしいものはなく、残っていたのは制服と肉塊。
「ナイトウォーカーに間違いないな。‥‥でもな、せやからと言うて今ナイトウォーカーがヒトに取り憑いとると考えるのは速い思うんや。何か別のもんに憑いとるかもしれん。‥‥まぁ、わし等には関係ないけどなぁ」
今回の仕事は、白銅貨を回収する事。ソファの背にもたれながら、時雨は苦笑した。
もしかすると、“他の仲間”が何とかするのかもしれないが。
それにしても長いな。ぽつりと凛が、肘をついたまま正面を見て言った。さきほどから、玖朗はペンデュラムでダウジングをしていた‥‥。
「それって、本当に白銅貨持ってるヒト、分かるの?」
玖朗の答えは返ってこなかった。
六人。この場に集まった者の数だ。
一人目は凛が図書室であった少女、あずさ。彼女は黒板を背にするように座っている。
二人目はセミロングの背の高い少女。あずさの右側に座っている。
三人目は、あずさ達の同級生らしい。口数少なく、黙ってあずさの二つ右となりに座っていた。
彼女の右側には、見知らぬ子供が。そして少年の横は千春が座っていた。にこりと笑って、千春よ、と名乗る。千春の横には凛が座っていた。彼はきょろきょろと教室内を見まわしている。
あずさはすうっとテーブルに一枚の紙を出した。
こっくりさんでよく使う、ひらがなや数字が書かれたものだ。もう一つ。彼女は古い貨幣を出した。今では使われていない10銭のコインだった。
「じゃあ‥‥始めるわ」
あずさが指をコインに付けると、皆もそれに倣った。
うまくこっくりさんに参加出来た千春と凛は、今頃教室で降霊術の真似事をしているのだろう。小夜は、校内を歩いていた人影を発見すると、近づいた。
「‥‥すみません、私の子供がここに来たようなんですが‥‥」
子供が迷い込んだ? 素っ頓狂な声をあげ、警備員はまじまじと小夜を見た。
し・ち・に・ん・じ・ゃ・な・い。
七人じゃない。
ここに居るのは七人でなければならない。七人で行ったから。七人が居たから。
動くコインは、ある文字を差す。
しちにんにする。と。
誰かが悲鳴をあげた。あずさの友人だ。ぐらりと体を揺らして立ち上がったあずさは、めきめきと音をたてて体を変えていった。
彼女も、そして同級生もただ恐怖と驚愕で後ずさりと悲鳴を続けるだけだ。椅子を蹴って、千春と凛が立ち上がる。
「あ、あずさお姉ちゃん‥‥!」
少年は彼女に近寄ろうと、ふらふらと歩く。あずさの姿は、すっかり変化していた。もはやヒトですらなく、巨大な蜘蛛のような異質なものに。
「故汰!」
柔らかな声の女性が、ドアを開ける。続けて顔を覗かせた青年が、手まねきをした。
「こっちに来い! あんたの相手は、そっちじゃないはずだ」
ふ、と千春と凛が青年を見返す。続けて視線を、彼らが入ってきたのとは反対側のドアへ向けた。
勢いよくドアが開かれ、玖朗が駆け込んだ。
「ここは危険だ、はやく出て!」
玖朗は少女達を外に促しつつ、彼女達とあずさの間に立ちはだかった。すい、と凛が外に飛び出し、千春も彼を気にしながら廊下に出る。
「あの人、お姉ちゃんと話していた人なの!」
少年が叫ぶ。
廊下の向こう側の闇に立つ影が、にやりと笑った。凛からコインを受け取った、時雨だった。もう一組の獣人達は、自分達とは違い化け物退治が目的だったようだ。
「悪いな、わし等コレさえ貰えればええねん」
指にコインを挟んで見せると、時雨は背を向けた。すい、と凛もその後に続く。玖朗は彼らの様子を心配そうにふり返ると、女子生徒の背を押した。
校舎の外に出た玖朗は、もう一度窓の方を見上げる。
一瞬、羽が目に映った。やはり、あそこで戦っているようだ。時雨は、動揺して震えている少女の肩に手をやった。
「大丈夫か?」
「‥‥な、なんなのあれ‥‥あずさが‥‥」
ふう、と息をついて時雨が肩をすくめる。
「何なのて聞かれても、ワケわからんもん捕まえて何かなんて説明できへんわ」
彼女達は、時雨と‥‥そして玖朗達を見た。
「何なの、あなた達何か関係あるの?」
「‥‥わしら、こっくりさんやっとるて話聞いて取材に来たんや。七日ごとの決まった日にこっくりさんしたら、幽霊が出るて噂‥‥肝試しにしちゃ、恐ろしい話やな。ミサキのサイトの事やろ」
こくりと少女は頷いた。
「あずさが聞いてきて‥‥。あのコインでこっくりさんするんだって。七日ごとに、七人以下でしたら誰も死なないって‥‥聞いたのに」
しかし、その場に居たのは十数人。
白銅貨を見つめる七つの視線は、その先に何か違う‥‥モノの予感を感じていた。
ミサキの呪われしもの‥‥。