死送りの刀アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
立川司郎
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
5.5万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/05〜12/07
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●本文
ほっそりとした目付きの少女は、人が入ってきた事も構わずにじいっと刀を見つめていた。
その手つきを見るに、扱い慣れた者であろう。
打ち粉をかけ、丁寧に刀身を拭っていく。研ぎ澄まされた刀のような、緊張感が漂う。
少女は刀を納めると、それを差し出した。
すう、と顔を上げる。
「ご挨拶が遅れました。氷室亜矢と申します」
彼女が差し出したのは、一枚の名刺だった。
「主に、撮影などに使う模造刀を卸しております。むろん本物も扱っておりますが、撮影にはあまりお使いではありませんね」
ふ、と薄く笑うと亜矢は正面からこちらを見すえた。
「話というのは他でもありません。‥‥この刀の事です」
鞘付き、しめて八万七千円なり。
合金といえど、出来には満足しております。
亜矢は、遠い昔を語るように話し出した。
そもそもこの刀は、とある大学の学生が作成しようとした映画に使われるはずのものであった。
「ところが、完成間近に主演の青年が亡くなってしまいまして‥‥それで、計画が消えてしまったのです」
あの映画は、主演の青年なくしては出来ない。皆そう言って、私の元に刀を返してきました。
ですが‥‥ね。そんな刀を、また撮影で使うというのも、あんまり気味がよく無いでしょう?
くすりと少女は笑った。
「ですが‥‥きっとその方も、また撮影で使われる事を望んでいると思うんです。そこで、お願いです」
と、亜矢は刀を改めて差しだした。
この刀を使って、ショートムービーを作ってみませんか、と。
これは、その方への手向け。ですから、また刀を使う事が、あの方をあの世に送ってさしあげる方法なんだと思うのです。
条件:模造刀(合金・日本刀)を使う事、舞台はどこでもいい(どうしても場所がなければ、別依頼の巫女さん、緋門あすかが神社を貸します)。時間は三〇分以内。器具等は、PC持ちですが、ある程度は有ると見込みます。
参加者:PCだけです。それ以外の人員は、どうかすれば亜矢とあすかを引っ張り出せるだけしか居ません。
●リプレイ本文
もったいないねえ‥‥。
しきりにそう呟きながら、布で刀を磨いている男が一人。肩から力を抜いてやる気のなさそうな視線で、後ろから十八才くらいの少年が見ている。
「おい、おっさん」
鹿堂威(fa0768)が一声あげると、おっさん‥‥と呼ばれた男は振り向いた。オッサンと呼ばれるのは無理もない年齢なので、あえて否定はしない。鹿堂の父だと言ってもいい年齢である黒澤鉄平(fa0833)は、刀を持ったまま振り向いた。
鹿堂ごしに見える神社の境内では、黒澤や他の役者達と話し合ってシナリオを書いていた彩都(fa1312)が、打ち合わせをしていた。
「嬉しそうに刀なんて磨いてんなよ、裏方はあんたしか居ないんだからな?」
「ああ、分かってるさ」
しぶしぶ黒澤は刀を鞘に納めて立ち上がると、神社の拝殿から境内に降りた。くわえ煙草にサンダル履きの黒澤は、刀に模造刀、片手をポケットに突っ込んだまま彩都の手元をのぞき込んだ。
今回はシナリオのあらましは皆で話し合って決めてある。刀に宿った青年の魂を送る話にしようと言い出したのは彩都で、それに沿って肉付けをした。三十分という時間の中、話はこの神社を舞台にして進む。
神社を訪れる大学の民俗学サークルメンバーを、神主が出迎える所から始まる。神主嵐山から彼らは、この神社に残された伝承を聞く。
伝承に出る青年壬生を彩都。その妹紗江を、小塚さえ(fa1715)が。恋人鈴は愛瀬りな(fa0244)が演じる。敵役の門倉は小田切レオン(fa1102)だ。
一方現代に舞台を移し、神主嵐山は風見・雅人(fa0363)。サークルの生徒相瀬鈴は愛瀬。嶺雅(fa1514)が三浦・玲という青年を。その妹三浦紗江をさえが担当する。レオンはそのまま小田切玲音という名で、過去のストーリーとシンクロする形での演技が続く。
呪われた刀として神社に納められた刀‥‥かつてその刀を持っていた男、壬生義嵩は将来を誓い合った仲の“鈴”という女が居た。
鈴は、壬生の妹である紗江も羨む程仲がよく、紗江もまた鈴を姉のように慕っていた。
「紗江も、いつか兄様と鈴様のような恋をするのです」
ころころとよく笑い、紗江は二人を見上げる。壬生はそんな紗江を困ったように笑いながらも、優しい瞳で見つめていた。
しかし、運命は流転する。
鈴の宅に駆け込む、紗江。鈴は何事かと驚きつつ、彼女の肩にそっと手をやる。
「そんなに慌てて‥‥何かあったのですか?」
落ち着かせるように、ゆっくりとした口調で返す鈴=愛瀬。紗江は、やや弱々しくぎゅっと鈴の袖を握って引いた。
「兄様が‥‥兄様がこんなものを」
紗江が差し出したのは、果たし状だった。
ひと気のない深夜の神社に、林の枝音が響く。壬生の前に立つのは、若い男だった。うつむき加減で、低い声を放つ。
「鈴はずっと‥‥幼い頃から見続けてきた。鈴を守れるのは、私だけだ」
鈴に対する強い思いを、門倉心ノ介は刀に込めて振り下ろす。激しく剣を叩き付ける門倉の勢いに、壬生は怯んでいた。
闇夜に輝く、刀身。
一瞬、鈴は足を止め‥‥弾かれたように駆けだした。
「兄様‥‥鈴様‥‥」
鈴を手に掛けた門倉。そして乱心した門倉の刀に斬られ、紗江が壬生の手の中に崩れ落ちる。壬生=彩都は手を振るわせながら、二人の体を抱き寄せた。
「‥‥あの男を‥‥あの男は七代先まで祟って‥‥」
壬生は門倉を恨みつつ、刀身を握りしめて腹を割いた。
「そうして、恋人も‥‥そして妹も亡くした男は自害したそうです」
淡々と、静かな口調で嵐山は語った。
今までの内容を、黒澤はモニターでチェックしていた。拝殿に腰掛けた黒澤は、集中力を上げる為に半獣化していたが、万が一人が来た時に隠す為、手袋や服で隠していた。
何ともいえない表情で、黒澤が見ている。何度か繰り返し見てみるが、それで内容が変わるわけではない。
いつのまに来たのか、後ろからのぞき込んでいた緋門あすかと目が合う、黒澤。そして鹿堂は、やあ、とあすかに声をかけて挨拶し、またモニターに視線を戻した。
「うーん‥‥」
あすかも呻く。
「‥‥お遊戯会よりマシって程度ですかねえ」
「そんなはっきり言うなよ」
苦笑して鹿堂が言った。
「元々小田切や嶺雅は、俳優じゃないんだからさぁ」
「まぁ、小塚は舞台俳優だがな」
ぽつりと彩都が呟く。フォローするように、慌てて頭を掻いて続ける。
「いや、声質はいいよ小塚は。舞台向きだと思う。それにまだ若いし。‥‥そもそもどこかに公開する作品じゃないから」
‥‥ないからいい、とは風見や彩都は、ましてや鹿堂だって思って無いのだが。そういう言い訳もあるという事で。
「どっちにしろ、このままじゃ一番バランスの取れてる風見が栄えすぎるのは確かだなあ‥‥彩都や愛瀬もそこそこ上手いし」
「発声に関しちゃ、後でフォロー出来るしな」。
黒澤に続いて、鹿堂が言った。
「まぁ、しっかり頼むわ」
黒澤にバンと、背中を叩かれた彩都は、困惑の表情で小田切達をふり返った。
演技指導は引き受けたが‥‥さて、どうしよう?
そして撮影は、現代パートに入る。
吸い込まれるように見つめる、玲。彼は刀を見つめたまま、微動だにしない。
「お兄ちゃん‥‥?」
後ろから声を掛ける紗江。彩都の指導で、細い声で後ろからそっと玲音の肩に手をかけてのぞき込む。視線を正面に上げた玲、風間演じる嵐山はここでじり、と膝を前に進めて体を起こす。
亡くした妹、自分を庇った鈴への思い。
理不尽な頃され方をした二人、彼女達を守れなかった後悔の念。そして門倉への憎しみの言葉を、玲が呟く。
私から全てを奪っていった‥‥あの男が、妹も鈴も‥‥。
刀に宿った壬生の思いが、玲に伝わる。妹によく似た紗江という少女、そして鈴。あの男から、今度こそ妹と恋人をまもらねばならない。
振りかざされる刀に、紗江と鈴は逃げまどう。
「なんなんだよ、玲! 自分の妹を殺す気か」
玲音が叫ぶ。
刀は鈴を庇った玲音の肩を、かすめた。じわりと浮き上がる血。追いつめられた玲音は、祭壇にあった刀を手に取る。
玲の一閃をかわし、玲音が彼の刀と打ち合った。
ここからは、二人に任せてある。最後は嶺雅演じる玲が刀を突きつけて終わる事になっていた。
真剣を使ってこんな派手な戦いをやったら、刃こぼれしてしまうだろう。組み合いは模造刀だから出来る演技だ。
しかし、今回使っている模造刀は重さもあり、竹光ではない。
こういう実戦に関しては、小田切が一枚上手だった。最後には玲が勝たなければならないはずなのだが、派手なアクションをしようとしていた小田切がどうしても押して見える。
恐らく、放って置いたら勝ってしまうだろう。
さすがにそれは困る。
「そうだね‥‥いっそ、カメラは嶺雅くんをメインにしたらどうかな。両方入れたら、小田切くんが目立っちゃうから」
思いっきり、削ったように見えるかもしれないけど。
(現状)映らない風見が、モニターを見つめながら言った。このシーンで除外者の風間や彩都では、フォローしようがないからだ。
シーンは、クライマックスに入る。
玲音の刀が額をかすめ、血を流す玲にたまらず紗江が声をかける。
「お兄ちゃん‥‥じゃないの?」
眉を寄せ、玲を心配そうに見ていた。
額に手をやり、紗江の名を呟く玲=壬生。
「わたしは‥‥違う。わたしの名前は三浦紗江だよ、壬生紗江じゃない‥‥」
玲と紗江の様子を伺いながら、そっと愛瀬=鈴が紗江の肩を抱いた。視線を紗江から、玲へと向ける。若干玲より右側、壬生が居る予定の位置を向いている。
「もう‥‥戦いなんて止めてください」
静かで、かつ強い口調で、鈴が言う。
重なる、現代の鈴の言葉と過去の鈴の姿。肩を落とした壬生の手から刀を取ろうと、玲音が手を伸ばした‥‥その額に刀が突きつけられた。
兄を呼ぶ声、そして‥‥壬生を呼ぶ声。
鈴の声を聞いて、手を止める玲。抱きついた紗江をゆっくり見下ろす。目の前に、毅然とした様子で立つ鈴があった。
「わたしは‥‥きっとあなたの妹に生まれて、幸せだったと思うよ。だって、またお兄ちゃんの妹として生まれる事が出来たんだもの。わたしは今も昔も、幸せだよ」
刀を取り落とす玲を、優しく笑ってそっと手を鈴が取る。
「あなたと共に過ごせた事、幸せでした‥‥」
鈴の声に、壬生の幻が頷いた。
全てのシーンを取り終え、黒澤は編集に取りかかった。
効果音を作成する為、鹿堂はスタジオに籠もっている。
「なあ、鹿堂。挿入歌って、どんなのがいい?」
嶺雅と一緒に挿入歌を作成する小田切が、キーボードから視線を離さない鹿堂に聞いた。しかし、聞いているのか聞いてないのか、鹿堂は曖昧な返事しか返さない。
ヘッドホンをしているのだから、聞こえてないかもしれないが。
むっとした様子で小田切は、ヘッドホンを取り上げる。
「だからさぁ、どんなのがいいかって聞いてるだろ!」
ゆっくりふり返り、鹿堂は二人を見上げた。
「どうでもいいよ、任せるから。この作品のイメージに合ってたら、それでいいんじゃない」
任せられるらしい。
まずダブルボーカルで、というのは決まっていた。二人ともボーカルだから、それは構わない。
「やっぱり余韻の残るような、しんみりした歌がいいんじゃない?」
「いいよそれで」
と言いつつ、ちょっぴり意地悪心が芽生えた嶺雅。
撮影時の殺陣の仕返しをするかのように、嶺雅は声楽で鍛えた声を披露して小田切を圧倒したのであった。
預かっていた刀を、一同を代表して黒澤が差し出す。
その横で、きちん正座して背筋を伸ばした愛瀬が先に口を開いた。
「映画も仕上がりました。ごらんになってください」
しっとりした笑みで、愛瀬が手を差し出す。彼女の合図をうけて、風見と黒澤がスクリーンの準備をする。
「本当は、亡くなった方が撮りたかった映画を作りたいと離していたのですが‥‥どのような映画であったのか分かりませんでしたし、このような形になってしまいました」
と少し愛瀬が頭をさげる。
刀を受け取った氷室亜矢は、こくりと頷いた。
「いいのです。皆様、ほんとうにご苦労さまでした‥‥それでは、映画、拝見させて頂きましょう」
真剣な眼差しで、氷室はスクリーンと向き合う。
するとすう、とさえが体を前に倒し、氷室の顔をのぞき込んだ。
「あの‥‥」
すい、と氷室がさえの方を向くと、さえが首をかしげた。
「映画の中でも言ってたんですけど‥‥この刀に宿った方を鎮めるのって、これでよかったんですか?」
「もともと、何か差し障りがあったわけではありませんから‥‥これでいいのですよ。これがケジメです」
氷室とさえの視線の先で、スクリーンに映像が映し出された。
あの刀が、しっかりと映っていた。