ミサキ〜あの人の人形アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
立川司郎
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/31〜02/04
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●本文
さんさんと照りつける日の下にあって、彼はその冬の日光に負けそうな程青白い顔をしていた。髪
は長い間梳かしつけた様子もなく、食べるものも食べているのかどうか怪しい。
すうっと差し出された書類の束に、少女は視線を落とした。
手に持った箒を脇に抱え、両手でその書類を受け取る。
「‥‥何ですか?」
「先のミサキに関してのまとめです」
「こんなものを、私に渡してどうしろと?」
ぼんやりとした表情で、緋門あすかは彼を見上げた。
ネット上に7日だけ公開されたサイト、“ミサキ”。この中に出てくる十銭白銅貨をめぐった依頼を、あすかと彼が出したのはしばらく前の事であった。
脚本家である彼は映画のネタとして、あすかはナイトウォーカーの始末依頼として。
「それとも何ですか、これ何か“ウチ”に関連する依頼だったとでも?」
「いや、これは俺がネタにしたいだけ。企画部の仕事」
むっとしてあすかが彼を見上げる。しかし、ぱらぱらと開きながら流すように視線を向けた。
「何かまだ情報がないかと思って、オカルトサイトを色々見てみたんだ」
あすかが書類を見ている間、彼は一方的にしゃべり始めた。
「そうするとね、とあるオカルト関係のサイトでそれらしいの見つけたんだ。管理人の女の子がねえ、人形の話をしてたんだ」
別れた彼から貰った人形。古いフランス人形を、彼女は今でも大切に持っていた。
かつてその人形は、とある欧州の貴族が持っていたらしい。
「その子の書き込みからすると、彼も相当オカルト好きで‥‥人形は彼が持っていたものなんだそうだ。サイトを作ったのも、彼がオカルトサイトをやっていたからなんだって。それでね、その掲示板の中で“ミサキにあった人形じゃないか”と誰かが言い出した」
「なるほど、だとするとミサキの管理人がそのカレシじゃないかと言うわけですね」
「その通り。‥‥それで、そのサイトに出入りして、何とかオフ会に出てみたいんだけど‥‥また依頼出してくれないかな」
何故、あすかが‥‥。あすかがそう聞き返すと、彼は情けなさそうなふにゃりとした笑いを浮かべた。
「企画部、ちょっと今月経費が下りそうになくて‥‥悪いけどあすか、そっちで経費出してくれないかなあ」
「‥‥貸し、1個‥‥ですね。立浪さん」
にやり。あすかが笑った。
<捜索先>
サイト名:傀儡の森
管理人:フルヤ
内容:都市伝説や、古い怪談話などを集めて公開している。また、各地のゴーストスポットへ、オフ会と言って夜中に行ったりしているらしい。
依頼:管理人が持っていると思われる人形を渡したのはミサキと関連している人物なのか、ミサキと関連しているならその詳細を聞き出す事。ミサキの話が聞けるなら、他にも聞いて欲しいらしい。
●リプレイ本文
[傀儡の森]
簡単に仕切った狭い空間は、半分がソファー、残る半分にテーブルやパソコンが設置されていた。壁の向こうはしんと静まりかえっており、時折人が歩く音や、キータッチの音が聞こえる。
そうっとソファーに掛けると、彼女の動作をじっと見つめた。一見して男性に見える飛鳥 夕夜(fa1179)は、横に座るとマウスを手元にもってきた。
「あたしもリーゼロッテもパソコン持ってないんだ。ちょっと調べ物する位だったら便利だろ、ネットカフェ」
淡紅絆(fa2806)は、パソコンにあまり慣れていない。もちろんPC自体を所持していないし、今回も調査をする上でPCを持って無いのだったら、と飛鳥とリーゼロッテに言われてネットカフェにやってきた。
「さて、傀儡の森‥‥と」
傀儡の森。
ゴーストスポットの写真、その地の調査レポート、掲示板等が並ぶ。
A:検証レポート、拝見させていただきました。もう例の学校に行ってきたんですか。僕も行きたかったなあ。もう少し早くこのサイトの事を知っていたら、参加出来たんですけど。
事前の打ち合わせからすると、これは天羽司(fa2618)と思われる。
セリエ:初めまして。セリエと申します。例の学校とは先月事件があった学校の事ですか?
これが御神村小夜(fa1291)。続けて、八咫 玖朗(fa1374)や時雨・奏(fa1423)が入ってくる。
まぁや:わー、なんだか人が増えたね。ミサキの話の影響かな。人が増えるのは嬉しいんだけど‥‥。
セリエ(小夜):ごめんなさい。ミサキに興味があったものですから。
A:ああ、ミサキのHP探してると、このサイトに行き着くんですよ。僕もそうでしたから。この間管理人さんが人形の話をされていたからだと思いますけど。
セリエ:こっくりさんをしたら人が死ぬ、という話を友達から聞きました。近くの高校で実際に人が死んだって‥‥。ミサキに紹介されていたお金を使って、こっくりさんをするそうですね。
霧雨:それ、自分持ってるのかもしれん。その高校の友達の友達から貰った白銅貨なんだけど。
にわかに活気立ってきた。むろん、霧雨こと時雨が言っているのは、先月の事件で回収された白銅貨の事である。
「コイン持ってるて言うたら、人形も交換条件で持ってきてくれるかもしれんやん? そしたら、他にも参加者増えるかもしれんし、色々情報聞き出せるやろ」
コイン貸して、と時雨が手を差し出す。
ひとんち占拠してPC使っておいて、更にコインまで使うか。あすかはしぶしぶ、仕舞って置いた白銅貨を出した。
「いいですかぁ? 無くしたら痛い目に合わせますからね」
時雨がデジカメで写真を撮って公開すると、それを見て“まぁや”というHNが反応した。
まぁや:それ、本物っぽいですよ。十銭白銅貨って発行された期間が長くないですし。
管理人フルヤ:じゃあ、久しぶりにオフ会しますか? 場所はどこか希望があるでしょうか。
ネコ(リーゼロッテ・ルーヴェ(fa2196)):例の学校はどう? こっくりさんやった学校。
それは‥‥と時雨がふり返った。あすかは首を横に振っている。
「あんな事があって、NWが実体化した残骸‥‥死体も出ているんです。警備も厳重になっているし、あなたは目撃されています。行かないが吉です」
霧雨:学校、入れてくれないと思うよ。警備が厳重になったし、大体深夜に学校に忍び込むのは、ちょっとどうかな‥‥。
アスカ:じゃ、ちょっと車使う事になるけど‥‥御伽峠って所はどうかな。古い鳥居だけが残されていて、巫女さんの霊が出るって噂の。
「それ、だれですか?」
「ああ、これは飛鳥だな」
あすかは飛鳥の書き込みを見て、ため息をついた。
「立浪さんに聞いたんですね、ゴーストスポット。‥‥あの人も仕方ない人だ」
ぽつりと呟くと、あすかは再び背を向けた。
そうして彼らは、御伽峠へと出発する‥‥。
[御伽峠へ]
管理人と参加者合わせて三台に十五名が乗り込み、大所帯で山道をゆく。
それは細い細い山道。
「ここは旅の一座が、泊まった神社の巫女を切って神具を奪って逃げた‥‥と言われているんですよね」
小柄な少女が、車中明るい口調で話した。年齢は二十才前後だろうか。彼女がどうやら、まぁやという女性らしい。
天羽の調べによると、最初に管理人の人形を“ミサキのものではないか”と言い出したのは、彼女だ。大学生の彼女はどうやらオカルト話に相当はまっているらしく、ミサキのサイトも実際に確認しているらしい。
ただその彼女も、画像の半分は消えてしまっており、三枚ほどしかデータに残されていないと言う。
まぁやは車から降りると、鞄を持って後ろの車に近づいていった。管理人を含めて参加者が降りてくる。
山道の脇に、林を縫うようにして細い道が続いていた。
飛鳥はすうっと後ろに下がると、携帯電話を取りだした。幸い、電波は通じている。ちらりと時雨を見ると、口を開いた。
「立浪さんに連絡しておくよ。‥‥あんたがコイン持ってる事、話しておかなきゃね」
「わし、信頼ないなぁ。肌身離さず持っとくから平気やて」
「ああ、立浪さん。そういう事なんだ‥‥ああ、あたしがガードするから、心配ないよ」
どうやら飛鳥は立浪に、コインを持っている時雨をガードする話をしているようだ。
わし、一応男なんやけど。時雨は眉を寄せてため息をついた。
[鳥居へ]
先頭を歩く女性の腕にしがみつき、ふわふわとポニーテールが揺れている。燐 ブラックフェンリル(fa1163)は身を縮めて彼女にぴったりとくっつき、歩いていた。
フルヤはさっきから、風が吹く度に悲鳴をあげる燐を嫌がりもせず、彼女を庇って歩いてくれている。
彼女とともに歩くのは、十七才の白髪少女絆、絆とやや似た風貌のリーゼロッテ。そして小夜。フルヤは二十代後半だろうか。落ち着いた雰囲気の女性で、片手に人形を抱いている。絆はものも言わずに、黙って後ろをついて歩いていた。
フルヤはちょっとだけ、絆の髪と目を見たが、何も言わずににこりと笑った。そして、そっと人形を差し出す。
「ちょっと抱いてみて」
無言で絆は人形を受け取る。
「うん、私よりもあなたみたいな若くて可愛い子が持ってる方が、似合ってるよね」
「そそそ‥‥そ、そうですね‥‥」
びくびくしながら、燐が頷く。本当にそう思っているのかどうか、視線はよそを向いている。燐は本当に幽霊が恐いらしい。リーゼロッテはそんな燐に、首をかしげた。
こんな面白そうな所に来たっていうのに、燐は何が恐いのかわからない。
絆は視線を人形に落とす。古いフランス人形の片目は、何故か眼帯で覆われていた。これは後から付けたもののようだ。眼帯だけが不自然に浮いている。
「これは‥‥何ですか?」
絆が聞くと、フルヤは手を延ばした。指が眼帯に触れると、それがずれて目が露わになる。そこにあったのは、青い瞳‥‥いや、それがあった痕跡。空洞。
乱暴に削られたのか、酷い跡がついていた。
「何故か、もらった時から無かったの。だから、私が眼帯を付けてあげたのよ」
可哀想だから、とフルヤが言った。
「でも‥‥これをくれた人ってどんな人?」
燐がフルヤを見上げる。燐も思っていたが、こんな曰く付きの人形をプレゼントする彼氏ってどんな人なのか、ちょっと興味がある。
フルヤは思いかえすように、目を細めた。
「私より少し年上の人で、彼がオカルトのおもしろさを教えてくれたの。居なくなる前、彼が大切にしてくれ‥‥って渡してくれたのが、その人形なのよ」
「どういう理由であれ、恋人からの貰い物は大切です。うん」
か細い声で、絆が言った。
「別れちゃった訳じゃないんですか?」
小夜は別れた彼氏、という話を聞いていたし、たしかに彼女もそういう口振りだったが、居なくなる‥‥という話し方には何かひっかかる。
「確かに付き合っていたんですけど、ある日を境にして突然居なくなったんです。アパートも引き払っていて、しばらくして私に別れようってメールが来ました。悲しかったけど‥‥何かそういう別れ方が昴らしくて‥‥。あ、彼は木崎昴って言う名前なんです」
写真も何もかも‥‥痕跡を残さず、彼は消えた。
ぽつんと山道に立つ鳥居の下に立って写真を撮っている女性に、天羽と玖朗は近づいた。彼女がまぁや、ミサキを知る人物だ。
「まぁやさん、私がAの天羽です」
「こんにちは‥‥あの、八咫です」
少し控えめな口調で、玖朗が挨拶をする。まぁやは元気のいい声で答えると、彼らの手を取った。
「よろしく。男の子が増えてうれしいな」
「傀儡の森はいいサイトですね。とっても気に入りました」
天羽はそれから、まぁやと怪談話をはじめた。玖朗にはあまりついていけない話だ。それにしても天羽は、この短期間によくこんなにオカルトを勉強したものだ。
「ミサキの写真を見せてもらえるって話でしたけど」
「うん、ちゃんと落としてもってきたよ。こっちがデータで、こっちは写真ね。本文は残ってないんだけど、また探しておくよ」
CDと写真を、まぁやが天羽に手渡した。
一枚目。天羽が視線を落としたのは、刀の写真だった。天羽の知識では、刀に関する細かい情報は分からない。これは後からあすかや立浪が解析するのだろう。
二枚目。これは十銭白銅貨の写真だった。先の事件で時雨達が回収したものに、間違いなさそうだ。
三枚目。指輪だった。内側に何か刻印されているようだが、読みとれない。
「凄いですね。嬉しいです、まぁやさんありがとう御座います」
天羽は顔色を明るくした。玖朗は居心地悪い思いで、じりじりと後退する。
ふり返ると、銀髪の少女が片手をあげていた。
「ちょっと作戦会議ね」
皆が鳥居に集中して怪談話に熱中する背後で、リーゼロッテは玖朗や飛鳥、時雨と顔をつきあわせた。
「フルヤさんから話を聞いたんだけど、木崎って人が居なくなったのは一年前らしいね。だとすると、ミサキの公開時期と若干ずれてるんだ」
「それに‥‥気になる話を聞いた。傀儡の森によく来ていた、ナナキという子が最近来ないって」
玖朗は参加者の話やサイト情報から、ここ最近姿を見せない者が居ないか調べていた。以前の白銅貨の事件では、ナイトウォーカーが姿を見せた。今回も現れる恐れがある。
「いざとなったら完全獣化してすぐに叩いて、盛り上げようと思ってイベントやってみました、なんて言ったら大丈夫だって。これだけメンバーが居ればさ」
リーゼロッテの言葉に、時雨が髪をかきあげながら眉を寄せた。
「んー‥‥獣化した後を見られんのと、獣化する所を見られんのはちゃうで。しかも今回は、退治目的やない。むしろ隠蔽せなあかんやろ。彼女らが避難するまで、獣化はなしや」
「あたしは準備してきたから、半獣化くらいならばれない。何かあったら時間かせぎするよ‥‥いいね、リーゼロッテ」
コートと帽子で体を覆い隠した飛鳥が、鋭い視線をリーゼロッテに向けた。時雨と飛鳥に囲まれ、リーゼロッテがため息をついて見上げた。
[それは誰?]
あすかの神社で天羽から写真とCDを受け取ると、立浪はそれを鞄に仕舞い込んだ。
燐はどこか疲れた様子だし、玖朗は飛鳥達の後ろに隠れるようにしている。どうやら玖朗は、あすかが恐いようだ。
「あの人形、とりたてて怪しい所は無かったから貰って来なかったけど、いいよね」
燐が言うと、こくりと立浪が頷いた。
「そんな大切なものを、ただでくれって言う訳にいきませんしねえ」
「人形‥‥片目がありませんでした」
ぽつ、と絆が言う。絆が抱いた人形、片目がなかった。何かで目を抉ったようなあと。
「すごく古いものだと思います」
「それともう一つ、気になる事があった」
天羽は玖朗をちらりとふり返った。天羽と玖朗がサイトのまぁやという人物に聞いた所、最近ナナキというHNの人物が姿を見せないという。以前から管理人によくなついていて、メール交換もしていたらしい。
「彼女は、時期的に管理人の恋人であった木崎昴と会った事がある可能性も‥‥」
「‥‥え? 今、なんと言いましたか」
立浪が突然声をあげた。
「木崎昴、と‥‥」
立浪の顔色がさあっと青ざめる。
「そんな馬鹿な‥‥。いや、そうそうある名前じゃない」
「今や事実を把握しているのは、立浪さんと煉獄の“奴”くらいですからねえ‥‥」
あすかが小声で呟いた。立浪は答えない。
彼女たちの話を聞こえたかわからないが。小夜がすう、と目を閉じた。
「七つの品が徐々に表に現れる‥‥白銅貨に人形。何か作為的なものを感じずには居られませんね」
ミサキ‥‥。
「どうやら、10年ぶりに祭をする必要がありそうです。鬼を放つ準備をしておきましょうか」
あすかはぽん、と立浪の肩を叩いた。